過去の文章をある程度なおしたりしただけなので今の自分が書けないような表現の仕方になっていて面白かったので投稿です。
ガタンゴトン
夕日に照らされた高架下を歩く。
周りに人は見当たらない奇妙な夕暮れ。
後ろに伸びる影が私を飲み込むんじゃないかと錯覚してしまう。
この町には昔から住んでいるけれど、過疎化の影響をもろに受けたこの町は少しづつ少しづつ壊れていく様だった。
内側からぽっかりと人が抜けていく。
ガタンゴトン
高架下を抜けた。相変わらず人の影はない。
犬猫の尻尾さえ見付けられない。
茜色のこの町はまるで私だけをおいていった様に静かだった。
私だけをこの廃れゆく町に置いて。
心がざわつく。
向かう此の足は何処に向かっているのか、沢山の辻を通り過ぎて私はなお一人だった。
喧噪のない町の中、胸に去来するのは気怠げな虚しさ。
ガタンゴトン
周りを見渡せど、視界に移るのは茜に染まる町ばかり。
日が暮れるこの町の中、永遠の夕暮れと待ち惚け。
夜が来ない。
安息の夜が、全てを隠す闇がいつまでたってもやって来ない。
人も時間も私だけを置いていき、私だけがこの町に取り残されてしまった。
ガタンゴトン
夕暮れの高架下、何を探す訳でも無く、ポツリポツリと歩いて行く。
目の前に広がるのは真っ紅っ紅。
時が静止し、人が消え、目を焼かんばかりに明るく染め上げられた町。
ガタンゴトン
家が何処か思い出せない。
今が何時かも分からない。
分かるのはこの静かな町で唯一人私だけが此処にいる事。
ガタンゴトン
違和感はどこかにあった。何かを探るのなら答えは簡単なもの。誰もいないこの町で、影一つないこの町で電車だけが唯一つ動いていた。
電車は私の上を通り過ぎる様に走っていく。
夕日に照らされて反射した光のせいで中の様子は分からない。
分からないけれど、私は電車が何処から来て、何処へ行くのかが気になった。
電車が通り過ぎていく道を辿る。
何があるかわ分からないが、しかし何処かに奇妙な確信があった。
其れは漠然とした確信のまま、何も胸の中で実を結ぶ事は無かったけれど、不定形のまま、確信は確信であり続けた。
ガタンゴトン
駅のホームが見えてくる、無人の改札を通りホームに辿り着く。
そこには誰もいない。
でも、私を通り過ぎていったものと同じような車体は、扉を開けて静かに其処に止まっていた。
其れは前からずっと其処にあったかのような存在感でふてぶてしく居座っていた。
その風景が平素からの日常であり、無いことの方が違和感を感じる位の安定感である。
視線を改札に戻すと駅の名前が目に入った。
“死にたがりの自分”そう書かれた看板。
「死にたがりの自分……駅?」
目に入った文字をとりあえず反芻してみた。
駅の行き先を確認しようとホームの看板に目を移す。
次の駅の名前は塗り潰されている様で読むことが出来なかった。
前の駅名はそもそもがのっていない。
なんなのだこの駅は。
死にたがりの自分がこの電車に乗って何処に行くのだろう、もしかしたら次は“死んだ自分駅”であり戻ってこれないんじゃないか。
たくさんの事が頭をよぎる中、急かす様に電車が発車音を鳴らす。
もう一度、私はその車体を見る。
のっぺりとした外観。
何時も私を運ぶ電車と同じである。
当然乗客はいなくて、何の音もしなくなった駅の中で其れはとても不気味であった。
夕焼けの中、私は駅に一人。
訂正。
一人と一台。
私はどうもこの電車に何かの愛着がある様で、何か憎めない。
不気味と思う傍らで、何処かでこの電車に乗る事を望んでいる自分がいるのである。
私は恐る恐る足を踏み入れ、整然とした車内に一抹の不安を覚えながら座席に座ることにした。
その瞬間。
ガタンゴトン
吊革が揺れ、少しの重力を感じる。
さっきから聞きなれたその音が私を包む。
不思議なその街から電車は私を運んで行く。
窓から見える風景に変わりはない。
相も変わらず夕焼け小焼け。
夕日に照らされて走る電車、過ぎる街並みが私を見送り気付けば私は夢の中
「次は巌台~巌台~」
――――――――――――――――――
その声で私は起きた。
どうやら目的地についた様である。
帰宅ラッシュ、ある程度の人ごみの中、私は私の地元、巌台に辿り着いた。
雑踏に紛れながら私はホームに降り立つ。
高架下を歩きながら、あの音に耳を澄ます。
ガタンゴトン
今日の授業、あの居眠りは良くなかった。
体育館の裏で友人が飼い始めると阿呆なことを言いだしてなし崩しに居場所を獲得したあのブサ犬は寒さに凍えていないか。
私の弁当を嫌らしい笑みを浮かべながら奪っていく後輩をそろそろ誅するべきか。
色々な事を考えながらの帰り道。
今日は疲れたから寝てしまった様である。
まぁ、寝てしまうのはいつもの事であるのだけど。
死にたがりの自分は今此処にいて一つ先へ進んだ。
その先には唯変わらぬいつもと同じ現実が待っていて、家に帰り暖かいご飯を食べ、暖かいお風呂に入って明日を迎えるのだ。
なんとなく、駅の名前が塗りつぶされていた理由が分かった気がした。
一時の気の迷い、思考の断片、そこにしがみついた思いが悲鳴をあげて、何時の日か決壊することを拒んでいた。
助けを知らずにでも求めていて、でも、それは言葉にされないものだった。
そんな曖昧な思いの具現、夕日の立ち眩みが見せた、一時の気の迷い。
私は死にたがりの自分のまま、その自分を抱えて今を生きる。
「まぁ頑張りますか」
嘆息。
適当な気概で、力を抜いて。
私らしく、自堕落に。
呟きは風に消えこの茜色の空に消えていった。
そりゃあ駅の名前なんか分かんないよな、なんせ―
「明日に名前はつけられないもんね」
完全なオナニー小説ですがなにか感想なんぞありましたらおねがいします。
思春期の学生時代がなつかしいなぁ……