全てを捨てた小さな吸血鬼 作:Frieden
今から何百年、もしかしたら何千年前になるかもしれない、遥か昔の事。
世界の極東にある、小さな島国の山中。そこに、1人の妖怪によって「楽園」が作られた。
その楽園の名は、《幻想郷》。人外に残された、最後の楽園。
当時の世界は、急速に科学力が発達。「科学」という名の天敵により、人外は否定され、本来は消滅する運命を辿る。
しかし幻想郷の存在は、追い詰められた彼等を救う。例えそれが、どんな形であれ、どんな人外であれ。
幻想郷は、人間でさえ、人外でさえ、神でさえ、災害でさえ。
「全て」を、受け入れるのだから。
太陽が沈み、月明かりが照らす、夜。
幻想郷に存在する、「人里」と呼ばれる人間達が住まう地。
そのすぐそばにある森の中に、1人の人間の少女がいた。
その少女は花を探す為に、昼頃に1人、両親には秘密で人里から出た。
そして、結果的には一つの立派な花を見つけ、摘むことは出来た。
しかし、探している途中で自分の現在地を完全に見失い、迷子になってしまい、日が暮れてしまった。
「お父さーん!!お母さーん!!」
少女は泣きながら両親を呼び、森の中を進む。しかし、それは決してしてはいけない悪手。
しかし、少女はそれを知る由も無かった。
「夜」は、人外が支配する時を。
その時、少女の後ろにある草むらが、ガサガサと揺れる。
それを聞いた少女は振り返る。両親が探しに来てくれた、と思って。
しかし、それは違った。
「あ………」
それを見た少女は腰を抜かし、後ずさる。
そこにいたのは、人間では無い。
全長3mにもなるであろう、犬の形をした異形。いや、妖怪がそこにいたのだから。
鋭い牙を持った口からは多量の涎が分泌されて口から漏れ、妖しく光る目は正に獲物を見つけた狩人のそれ。
「い、嫌…」
少女は逃げようとするが、完全に腰が抜けて立ち上がれない為、地を這う様に逃げる。しかし、あまりにも遅い。
そして、目の前に背中を見せ、逃げようとする獲物を逃がすなど、する筈も無かった。
「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
妖怪は雄叫びを挙げ、少女に向かって走り出す。
そして少女を食らわんと、その口を拡げた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
目の前に迫る「死」に、悲鳴を挙げる少女。
そして、そのまま少女は呑み込まれ────
「させないよ」
「…え?」
少女は、一瞬何が起こったか分からなかった。
目の前に迫っていた妖怪が、比喩でもなんでもなく、突然視界から消えた。
次の瞬間、右から複数の幹がへし折れる音が響く。
「危ない危ない…あとちょっと遅れたら手遅れだった」
その時、左から声が聞こえた。
少女はゆっくりと振り返ると…
「大丈夫?怪我は無いかな」
そこには、金髪をサイドテールで纏め、白を基調とした半袖とミニスカートを纏い、背中から生えた一体の枝に七色の結晶をぶら下げた翼が特徴的な少女がいた。
それぞれの手には、現在の外界からしたら骨董品である、片手でも扱えるコンパクトサイズの
「え、えっと…大丈夫…」
「そっか。それじゃあ…っと、その前に」
右手の銃を腰に掛けてるホルスターにしまって、少女の身体を抱きしめて視界を制限させる。突然の事に人間の少女は驚くが、気にしない。
そしてその状態で右腕を伸ばし、自身が吹き飛ばした犬の妖怪に右手の平を向ける。
「
犬の妖怪が、再び駆け出そうとし。
「
その言葉と共に右手を握る。
その瞬間、犬の妖怪が身体が「爆ぜた」。そして、犬の妖怪だった物が周囲に飛び散る。
「…今から離すけど、少しの間目を閉じててね。絶対に開けちゃ駄目だよ」
「う、うん…」
金髪の少女が離れ、人間の少女を離し、お姫様抱っこをする。
そして、金髪の少女の足が地面を離れ、ゆっくりと上昇を始める。
「高いところは苦手?」
「へ、平気だよ」
「なら、目を開けて大丈夫だよ」
その言葉をきっかけに、人間の少女が目を開ける。
「わぁ…」
そこには、月明かりで照らされた、自然が広がっていた。
「人里に戻るまでだけど、楽しんでてね」
そう言って、ゆっくりと空を進み始める。
「ね、ねえ」
「?」
「えっと…貴女の名前って…」
「…そっか、まだ言ってなかったね」
「私の名前は《フィールン》。幻想郷にいる、唯の吸血鬼だよ」
そう言って、フィールンは八重歯が零れる笑みを見せた。
──これは、全てを捨て、新たな自分を作った吸血鬼の物語──
更新は気まぐれ&ネタを思いついたらなので悪しからず。