全てを捨てた小さな吸血鬼 作:Frieden
「…ん」
フィールンは、今現在の状態を確認する。
体勢は座っており、瞼は閉じていて、何かの上に頭と両腕を乗せている。
(あれ…いつの間に寝てた?)
そう自覚し、フィールンは瞼を開き、上半身を起こす。
「痛た…変な体勢で寝ちゃってたかな」
固まった筋肉を解しながら、散らばった机の整理を同時進行で進める。
整理を終え、次は服装を着替える。とは言っても、何枚か自分自身で縫って用意した同じデザインの服装しか無いが。
フィールンは服が入っているタンスを開け、中にハンガーで吊るしている服装を手に取ろうとして。
1番右にある、唯一紅色を基調とした一式の服が目に入った。
(…やっぱり、捨てられないなぁ…)
その服は、「今の」フィールンにとっては一切必要が無いのだが、愛着があった一着でもある為に捨てる事が出来ず、タンスの中に眠りっぱなしの状態だ。
少しボーッとしてしまったが、伸ばした右手で着ている服一着を取り出し、タンスを閉じた。
そして一応、窓のカーテンや玄関のドアがキッチリと閉まってる事を確認した後、フィールンは今着ている服を脱ぎ始める。
最初は少し手間取りながら着替えてたが、今では素早く着替える事が可能になり、二分もすれば新しい服装に変わっていた。…全く同じデザインではあるが。
窓を開け、今日の天候のチェック。どうやら昨日の夜と変わらず、雲ひとつ無い快晴らしい。日差しの様子からして、恐らく昼頃だろう。
「さーて、《朝ごはん》はどうしよっかな…そういえば、保存してる食料もそろそろ無くなる頃の筈だし、買い出しに…」
「その心配は要らないわよ、フィールンちゃん」
その時、フィールンの両肩に何者かの手が乗せられ、フィールンの肩がビクリと反応した。
「…他人を驚かすその性格は何とかならないの?紫」
「イヤよ♪それに、貴女の反応も何かと面白いんだし」
「はぁ…」
ため息を尽きながら振り返ると、《スキマ》と呼ばれる空間の穴から上半身を出した、黒色のフリルが付いたドレスを着ている女性がいた。浮かべる笑顔が何処か胡散臭さを感じさせるが。
女性の名は《八雲 紫》。唯一無二の絶対的な力を持つ妖怪。フィールンが住んでいる幻想郷の創始者でもあり、管理者でもある。
何故、幻想郷の創始者とフィールンが関係を持っているのか。それは少し過去を話す必要がある────
フィールンは元々幻想郷の生まれではなく、外界の生まれである。より正確に言うとヨーロッパと言われる地方にある、有力な吸血鬼一家の生まれだ。
その吸血鬼一家からフィールンは抜け出し、各地を休み無く転々と移動した。
そしてヨーロッパからフィールンは、幻想郷がある極東まで逃げるように…いや、実際に追っ手から逃げる為に来た。
そして日本に辿り着き、とある山中に差し掛かった時に、フィールンは巨大過ぎる結界を発見した。
普通ならば避けるか引き返すのだろうが、当時のフィールンは長い逃亡生活で自暴自棄な所もあった。
そして、あろう事か能力を使用して、その結界に穴を開けて進入するというとんでもない事をしたのだ。
当然、その行為は管理者である八雲紫が察知し、現場に直行。そこにいたフィールンを発見し、即戦闘に移行する事になった。
戦闘の詳細は省かせてもらうが、結果的に言うと引き分けに終わった。
紫の弾幕はフィールンの正確無比な魔力射撃と能力によって相殺され、フィールンの弾幕は多量の弾幕によって殆どが相殺され、残りはスキマによって避けられる。肉弾戦でもほぼ同等の能力だった為に決着が付かず、最終的には双方の魔力切れによって終わった。
その後、落ち着いて話してみれば誤解していた所があった事が判明。紫はその場で謝罪し、住居提供や一部の物資提供を現在でも行なっている。
最初こそはギスギスな感じはあったが、今では双方が友人として認識している。
その二人は今、フィールンの家にて食事を楽しみ、今は後片付けの最中だ、
とは言っても、紫は椅子に座ってフィールンが淹れた紅茶を飲み、フィールンは使用した食器を洗っている。(水がかからないよう、両手に手袋を着用)
「相変わらず貴女が作る料理と紅茶は美味しいわね」
「何十年も一人で作ってきたからね。嫌でも上手くなるよ。というより、紫」
「何?」
「食料や魔法書の提供は助かってるけど、私の料理を食べるのを目的に来るのやめて」
「別にいいじゃない。その為に余分に送ってるんだし」
「二人分作る私の身にでもなってみて」
ギロリとフィールンはゆったりとしている紫を睨む。両手は皿洗いをしながら。
「あら、怖い。お姉さんはこれでお邪魔させて貰うわ」
そう言って紫はコーヒーカップをスキマを使ってフィールンの横に置く。
それに気付いたフィールンが一瞬目を離し、再び目線を戻した時には既に紫の姿は無かった。
「全く…あのスキマ使いは」
そんな愚痴とは裏腹に、フィールンの口元は緩んでいた。
さて、次は何処で何をどうさせようか…