全てを捨てた小さな吸血鬼   作:Frieden

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第5話(1)

すっかり日も暮れ、大地を月明かりが照らす夜。

 

「うーん、美味しい♪また一段と料理の腕を上げたみたいだね」

 

「自炊してる内に自然にこうなったのよ。色々と工夫してるから」

 

「さっすが霊夢。これからも期待してるよ」

 

博麗神社に泊まる事にしたフィールンは今、霊夢も一緒に作った鍋料理を食べていた。鍋料理を置いているちゃぶ台には、日本酒も置かれている。

 

「はふっ…そういえば、参拝客の方はどうなの?」

 

「全然来てくれやしないわ。場所も場所だから…外来人が4人だけ」

 

「今月だけで?」

 

「ええ。もしかしたら結界を見る必要があるかもね」

 

そう言って、霊夢は盃に入った日本酒を飲み込む。

 

「今月の賽銭は2000円って所。で、半分は神仏に奉納する為に使うから、実質1000円」

 

「…前々から気になってるんだけど、此処の神社って奉納する必要あるの?」

 

「間違っても巫女(私)の前で言っちゃいけない事なんだけど」

 

「でもさ…博麗神社に祀られてる神を知らないって、どうかなって思うんだけど?」

 

「うっ…」

 

フィールンの指摘に、霊夢は言葉を詰まらせる。

 

「霊夢が知らなくても仕方ないわよ。元々記録が極僅かしか無いんだから」

 

「…疑問の返答ありがとう。だからといって私の翼を弄るのは許さないよ、紫」

 

「え〜、って危なっ!?」

 

いきなりフィールンの背後からスキマで現れ、フィールンの翼の結晶を弄ろうとしていた手に、フィールンが瞬時に抜き、振り返らないまま紫の手に照準を合わせた銃から銃声が響き、素早く引っ込める事で躱して畳に小さな穴が空く…とはならず、静かな銃声が響くだけで終わった。

 

「いくらなんでも酷くない?」

 

「このくらいは余裕で避けれるでしょ。それに、今のは空砲だし」

 

紫の文句を受け流し、銃をしまって再度食べ始めるフィールン。その言葉も、1度死闘を繰り広げたからこそ言える、言わば「信頼」に近いものがあった。

 

「…紫がここにいるのは聞かないでおくけど…貴女なら知ってるんじゃない?博麗の神の事」

 

「うーん…一応、っていうのが一番近いかしら」

 

「あの紫が、曖昧な回答をした…!?」

 

「…全知全能だったら私も苦労しないわよ」

 

紫の回答に箸を落としかける程の霊夢のリアクションを見て、紫は半ば呆れるような声色を出した。

 

「私も博麗の神に関しては何度かしか会った事も無いし、私から会いに行けないのよ」

 

「紫のスキマでも無理なの?」

 

「あの人は結構気まぐれな所もあるし、居場所も全く分からないわ。そして、私以上に幻想郷を知っている唯一の人物。あ、私も食べていいかしら」

 

「紫をして、そんな事を言わせるなんてね…はい、皿と箸」

 

「ありがと、フィールン。性格自体は温厚だから、いつも笑みを絶やさないわね」

 

「…さっきからあの人あの人って言ってるけど、名前は知らないの?」

 

「ふーっ、ふーっ…ええ。あの人は本当に必要以上に語ろうとしないから。私も、あの人の考えてる事は全く分からないわ」

 

紫の口から語られる人物像に、それぞれのイメージを固めていく霊夢とフィールン。

 

「きっと今頃、私達の様子でも見てるんじゃないかしら?先に言っておくけど、探しても無駄よ。あの人はこの幻想郷の《全て》を見てるから」

 

「全て…?」

 

「ええ。だから誰よりも幻想郷を知っていて、だからこそ幻想郷を壊そうとする者は、絶対に許さない。とは言っても、私達で対応出来る程度なら、あの人は傍観するけど」

 

「それで良いの…?」

 

「言ったでしょ?あの人の考えてる事は私も分からないって」

 

「ふーん…」

 

「話は変わるけど、フィールン──」

 

その後、三人はさまざまな話をしつつ鍋料理を完食。紫はスキマで帰り、霊夢とフィールンは後片付けをし、桶型の五右衛門風呂に入浴。

 

そして、居間に二人分の布団を敷き、そのまま就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜中、月が東の頂に輝いている時間。

 

博麗神社の居間に、霊夢と共に眠っていたフィールンは目を覚ます。

 

しかし、その起き方は普通では無かった。

 

 

 

フィールンは、和服の寝巻きの上から心臓のある位置…胸のやや左を抑えており、身体は震えている。そしてその表情は苦しげだ。

 

 

 

「ッ゛…ア゛ッ…!!」

(しまっ、た…この、タイミングで…!?)

 

すぐさまその症状を抑える為、フィールンは無理矢理身体を動かし、這うように移動する。

 

「グッ…!!」

 

動かす度に、心臓が尋常ではない痛みを伴う為に喘ぐが、何とか隣の部屋まで移動する。

 

(よし…ここ、で…!!)

 

その時。

 

 

〈ドクン…!!〉

 

 

「ガッ…!?」

 

 

〈ドクン…!!ドクン…!!〉

 

 

「グ、ア゛…ア゛ヴ…!!」

 

心臓の心音か、想像も出来ない程の激痛がフィールンの身体を貫く。その痛みに耐え切れずにその場に蹲る。

 

同時に、フィールンの身体に異変が起き始める。

 

 

フィールンが持つ異形の翼は徐々に大きくなり、ぶら下がっている結晶の数が12から18へ。爪と八重歯は鋭く、かつ長く。

 

そしてフィールンの紅い瞳は淡く輝き始め、意識が侵食され始める。

 

(マズ、イ…隣には、霊夢、が…!!)

 

徐々に己自身の意識が薄くなっている事を自覚し、フィールンは自らの精神力で抵抗する。しかし、それは侵食の速度を緩めるだけに過ぎず、このままでは完全に意識を失ってしまうのは明白だ。

 

「ヅゥ…!!」

 

フィールンはこの危機を脱する為、腕に渾身の魔力を注ぎ、魔法陣を全力で起動する。

 

「グッ…ガア゛…ア…ッ!!」

 

魔法陣の効果が現れるまでの間だけでも、フィールンの心臓は高い負荷による激痛が走り、削られていく意識が朦朧とし始めた。

 

フィールンにとっては数十分に感じたであろう数十秒。漸く魔法陣の効果がしっかりと現れ始めた。

 

「ッ…ハァッ…ハァッ…」

 

 

心臓の痛みは少しずつ消えて行き、朦朧としていた意識はハッキリとしていく。同時に、異形の翼にぶら下がっている結晶の数、異形の翼と爪、八重歯の長さが元へと戻って行き、フィールンの紅い瞳の発光が止んだ。

 

 

暫くして、症状は完全に消え、荒くなっていた呼吸も整い、壁に寄り掛かる。

 

「ハァ…フゥーッ…」

 

ドッと疲れが出てきたのか、フィールンは深い溜め息を吐いて、身体の力を抜いた。

 

「…何時までそうしているつもりなの?」

 

そして、フィールン以外に誰もいない筈の空間に、フィールンではない声が響いた。




次回はフィールンの過去に触れる予定。
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