流れ者たちがしでかす!   作:絹糸

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第1話:殺人鬼は修羅と出会う

 

 

「おおぅ。これまたファンタジーな光景だこと!」

 

 

 人気を追ってたどり着いた市場の手前。

 道行く乙女たちからの熱い眼差しと野郎どもの醜い嫉妬を軽く受け流しつつ、アイドル顔負けの甘やかなルックスにおちゃらけた笑みを浮かべ、綸子は天下の往来をスキップで抜けていく。

 初めて来る都会に大興奮してはしゃぎすぎた田舎者と勘違いされかねない行動だが、そこはファッション雑誌の街頭スナップに載ったこともあるオシャレで垢抜けた若者である綸子のこと。チャラいと思われることはあってもダサいと思われることは無いファッションセンスが良い方向に作用して、周囲の人間は綸子のことをただ常時テンションが高いだけ変わったイケメンとしか認識していないようだ。

 ある程度までなら奇行に走ってもドン引きされないのは美形の特権。生まれ持ったそれをフル活用することに綸子の躊躇いは無い。未だ少年らしさを感じさせる天真爛漫で溌剌とした爽やかな青年。そういう設定で行動したほうが、人の警戒心を解くのも容易い。

 

 

(なんかこう、RPGの世界観って感じー。町並みはヨーロッパ風? 露店を見るに通過は金貨・銀貨・銅貨。オレっち無一文だけど野宿は回避したいし、やっぱ人気のない場所で適当に誰か殺して金奪うっきゃないかな)

 

 

 快活を装ったスマイルの裏側で物騒な計画を組み立てる。人殺しが好きというわけではないが、嫌いというわけでもない。必要とあらば臆することなく何でもやってのけるのが綸子の性だ。覚悟だの決意だのは改めて必要としない。ハナから禁忌を捨て去っているからこその殺人鬼(キチガイ)だ。

 そうして十分ほど市場を散策した綸子は、丁度良い薄暗さと人気の無さを兼ね備えた路地裏を発見。しかし通行人からの視線がチラチラと刺さっている今の状況でいきなり路地裏なんて突入しては、翌日死体が見つかった時に自分が容疑者として疑われかねない。

 

 

(ってなわけで、ここは自分から入らず人に連れ込まれることにしよーっと)

 

 

 決めるが早いか、綸子は真向かいからやって来たいかつい男達にわざと肩をぶつけてみせる。よほど見る目のあるものでもない限り、故意にやったと気付かないだろう巧妙な力加減。こういう妙な小器用さも天性のものだ。

 

 

「うわ、っと。ごめんね旦那方。怪我ァないかい?」

 

 

 できるだけ人畜無害そうなヘラヘラ顔で、鼻ピアスにモヒカンというエキセントリックな容姿をした男へと謝罪。軽薄なのはもちろんわざとだ。

 後ろにいる男たちもリーゼントだったりスキンヘッドだったりでいかにもなチンピラ風情。短気で粗野という第一印象に反することなく、彼らは綸子の期待通りの反応をしてくれた。

 

 

「こらガキ。テメェどこに目ェつけてんだ。アァン?」

 

 

 額に青筋を浮かせた男は、綸子の服の襟首を掴んで片腕で持ち上げる。足元がぶらぶらと浮く感覚。袖なしの革ジャンから覗く立派な上腕二頭筋は飾りじゃないらしい。プロレスラーとして充分やっていけそうだ。

 綸子は人懐っこい笑みに不安の色を加え、汗腺のコントロールで冷や汗を一筋流してみせる。顔はアイドルに適しているが、演技のほうは俳優向きだ。しかし実態は殺人鬼である。宝の持ち腐れとはまさにこのこと。

 

 

「お、怒ってらっしゃいます? 決してわざとじゃないんですけど」

「んなこたァどうでもイイんだよ! ぶつかったんだから慰謝料よこせゴラァ!!」

「ご、ごめんなさい! お金ないです! ちょっと散歩のつもりで財布持たずに出てきちゃったんです!」

 

 

 半泣きになって必死で叫ぶ演技が板についている。本人も内心結構ノリノリだ。そしてこれだけやって情けなさよりも可愛さが際立つのもイケメンの特権。女性視点でそう見えるだけで、男からして見れば弱々しいくせにイケメンで余計にムカつくとしか感じないだろうが。

 綸子が金を持っていないと分かった男達は、金を巻き上げる作戦から憂さ晴らしにイケメンをリンチする作戦に切り替えたようだ。綸子の体を担ぎ上げたモヒカンがそのまま路地裏へと歩を進めれば、連れ合いのリーゼントとスキンヘッドも後をついてくる。

 

 

「ちょ、ほんと……マジで勘弁してください……」

 

 

 ヘタレ系イケメン青年の演技を続行。プルプルとモヒカンの肩の上で震えながら親に叱られた子供みたいな声で哀願する。ここでちょっとでも顔が崩れていれば男たちも多少は手加減してくれるだろうに、美形のままだから苛立ちのボルテージは余計に上がる一方。ブ男の僻みは恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

      ◇      ◇      ◇

 

 

 

 

 

 

「ひー、ふー、みー、よー……全部で金貨十枚と銀貨四枚か。これって宿屋に泊まれる金額なんかねぇ」

 

 

 絡んできた野郎三人の惨殺死体を連れ込まれた先の路地裏奥に放置して、財布から抜き取った硬貨の枚数を数える。少し離れた場所にある浮浪者の死体は、後々この現場が発見された時そいつと男たちが争って相打ちしたと見せかけるためのフェイク。つまり哀れな犠牲者の成れの果てだ。

 武器は影を使ったから問題ないし、仮にこのRPGじみた世界観で予想外に科学が発達していたとしても、綸子は彼らの体に触れていないから指紋を検出される心配もなし。あとは適当にショックを受けたフリして半泣きで表通りに飛び出し、「目の前で急に殺しあいが始まった」とでも言えば大抵の人間がそれを信じてくれるだろう。

 かじった程度の護身術なら行使できないこともないが、綸子の体は戦う人間のソレではない。たとえ目ざとい者がいたとしても、この惨状を見れば「こいつにこんな大それた殺し方をできるだけの腕はない」と納得して疑いも晴れる。

 

 

「ま、さすがに毎日こんなことしてちゃあバレるだろうし? そのうち適当に効率の良い稼ぎ方を見つけないとなぁー」

 

 

 指先で硬貨を弾いてキャッチしながら、罪悪感の欠片も孕まない言い草でくるりと踵を返す。肉を穿ったばかりの鋭い影の刃達は、未だ彼の足元でウネウネと蠢いていた。微かな血臭を放つそれらも、地面に潜って普通の影と同じ状態に戻ってしまえばもう異形のナニカだとは分からない。

 もっともそれは、一連の流れを見ていなければ、の話だ。

 

 

「ほぉ。面白いことできんじゃねェか、テメェ」

 

 

 ――若い男の声がした。

 不遜と傲慢と愉悦と稚気の入り混じった、低く酷薄な響きが建物の間にこだまする。

 

 綸子はぴたりと動きを止めた。浮かべた笑顔はそのままに、雰囲気だけを毒々しく怪奇なものへと切り替える。齢19にして総勢248人……異世界に飛んでからの実績も含めれば、252人の命を屠った殺人鬼のサイケデリックな気迫。

 刺すような殺気でもなければ押さえ込むような威圧でもない。純粋な暗殺者や武人とは異なる、身に纏う空気を総じて瘴気に変貌させるイかれた凄味。垂れ流しの精神異常(ルナティック)

 しまいこんだ影を己の靴先でたたき起こす仕草を一つ。少女漫画にモテキャラとして出てきそうな整った顔に馴れ馴れしい表情を貼り付けて、綸子は声の持ち主のほうへとその場で大袈裟にターンして振り返った。

 

 

「いやぁ、お兄さんには負けますよ! さっきまで空気の気配しかなかった場所にとつぜん現れるなんて、そんな面白いことオレっちにゃ出来ねーッスもん!」

 

 

 そう、確かに気配は感じなかった。少なくとも数秒前までは。

 気配を押し殺すのが上手いだとかそういうレベルではない。そもそも綸子は気配というものに人並み外れて敏感だ。“酸素の気配”や“窒素の気配”なんて曖昧極まりないものでも察知できるほどの感度がある。

 たとえ隠密の達人がいたとしても、彼は「空気の気配が人型に消失してるような場所は人がいるに決まっている」というブッ飛んだ察知スキルによるゴリ押しで隠れ身を見破るだろう。

 そんな綸子だからこそ、男が今しがたしでかした所業の凄まじさがよく理解できる。瞬間移動。男は間違いなく、どこか離れた場所からこの路地裏の奥へと一瞬で移動してみせたのだ。

 警戒せずにはいられない。今の綸子は、名前も知らない若い男を獲物や雑魚ではなく立ちふさがる強者として認識している。排除すべき難敵と定めている。ここがRPGのような世界観であるならば、男のテレポーテーションは魔法の一種かもしれない。影使いの綸子と魔法使い(?)の男なら、肩書きだけみれば男のほうに軍杯が上がる。

 笑みを絶やさぬままがめた目に剣呑な色をチラつかせる綸子に、男はクッと喉を鳴らして愉快そうに両手を上げた。

 

 

「オイオイ、そんな怖い顔すんなよ。なにも取って喰おうってワケじゃねェんだ。楽にしな」

「いやぁ、殺人鬼に馴れ馴れしく接するような人の言葉はさすがに信憑性薄いッス」

殺人鬼(テメェ)がそれを言うかよ」

 

 

 返答が気に入ったのか、浅黒い肌をした男はなんとも上機嫌にニヤつきだした。演技の殻を取り払った綸子の醸し出す狂気じみた雰囲気にまとわりつかれてダメージが無いならば、この男もきっと世間一般で『気違い』だの『悪党』だのと言われている部類に違いない。

 

 

(……どうやら、オレっちの犯行を誰かに告げ口するために出てきたわけでも無さそうだ)

 

 

 男の表情から敵意や怒気が読み取れないことを念入りに確認し、綸子はひとまず周囲に振りまいていた毒霧のようなオーラを収める。雰囲気に当てられて路地裏の隅っこでひっくり返っていたネズミたちが、慌ててチュウチュウと悲鳴をあげながら壁の穴へと引っ込んだ。

 

 

「……で? 敵対する意思が無いってんなら、お兄さんは何用があってオレっちに声をかけたのさ。念の為に言っとくとナンパはお断りだかんねー」

「ちげーよバカ。スカウトだ、スカウト」

「スカウトぉ?」

 

 

 どう考えたってまともな職についているようには見えない男の言葉をジト目で復唱して、綸子は眉根を寄せる。

 この露出度の高い衣装で鍛えた体を包み込んだ、いかにもアウトローっぽい怪しい雰囲気の謎の男からの、スカウト。

 

 

「……職種は?」

「特殊な組織のメンバーその1ってトコだな。詳しい説明は後からしてやるよ、とりあえずついて来い」

 

 

 言うが早いか、颯爽と表通りに向かって歩いていく謎の男。

 こちらが話を断る可能性などまるで考えていないその背中に、何故だかついて行かなければならないような気分になって、綸子は仕方なしに足を踏み出した。

 

 

「強引な奴だなぁ。オレっち人を振り回すほうが好きなのにー」

 

 

 吐き出された溜息は壁と地面に反響して消えていく。

 未だ互いの名さえも知らぬ、殺人鬼と修羅との出会いはここから始まった。

 

 

 





殺人鬼の現在地、西の王国。ただし本人は把握していない。
というかシュラくんって原作開始の何年前から旅してるんでしょうね?


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