朝、それはすべての始まりと言っても過言ではない
「お兄ちゃん!入学式だよ!早く起きなきゃ!」
彼、比企谷八幡の朝もその一つ
「小町、あと5分余裕がある」
「……主任」
妹……、役でオペレーターの小町(キャロル)は目を細め凍てつくような視線を主人公である
「んだよ、長期休暇みたいなもんだろー?こんな任務さぁ」
「これは再教育プログラムなのですよ主任」
「あー、あー、聞こえないなぁ」
そんなことをいいながらも比企谷八幡はモソモソとベッドから起き上がる
彼は「企業」の現場責任者、コードネームは「主任」
もちろん、小町とは血の繋がりなど1micronもない
「とにかく、さっさとしたくしてください」
そう言うと小町は部屋を出ていった
「…………」
そんな小町の後ろ姿を薄ら笑いを浮かべながら八幡は眺めていた。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
両親(勿論「企業」が用意した隠れ蓑)がいる手前猫を被っているが、流石な演技力だ
比企谷八幡は若干顔をひきつらせつつ自転車をこぎ始めた
総武高校は自宅から行ける距離であり無駄な費用を出さなくて済む
「企業」も金がない
ましてや再教育プログラムのために無駄金を使う余裕など無いのだ
「…………ん?」
自宅を出て20分後、チャリを鼻唄混じりにこぎ続けると運が悪かったのか、犬が八幡の前に飛び出してくる
普段の八幡なら普通に轢くと簡単に予想が出来るが
このときだけは違った
悪魔のような男にも本の少しだけ慈愛があった
八幡はブレーキをかけ、止まる
そして……
犬が歩道から飛び出した
「あぁ……?」
八幡はチャリから飛び降り犬に駆け寄る
そこに、黒いベンツがスピードを緩めず突っ込んでくる
「ヒハッ」
フロントガラスにはスモークがかかっており中の人間がわからない
八幡は突っ込んでくるベンツを一瞥し
不気味な顔で嘲笑った
瞬間的な衝撃と共に勢いよく吹っ飛ばされた
視界がぐるぐると高速回転し吐き気を催す
ドグシャアとアスファルトに叩きつけられたと同時に意識が飛んだ
「主任」
その一言でベッドに沈んでいた八幡はゆっくりと瞼をあける
周囲を見渡し情報を集める
ここはいわゆる病院というやつだ
規則正しく心電図が軽やかに音を刻んでいる
「キャロリン、状況教えてー」
つい、癖で昔のあだ名で呼んでしまう
「はい、総武高校に到着寸前で黒いベンツにより約5メートル吹き飛ばされました」
特に気にすることもなく小町はそう説明し、指示を仰ぐ
「あなたを跳ねたベンツを詳しく調べますか?」
それに対して八幡は首を横に振る
「キャロリーン、んなことしなくてもいい、どうせ「企業」と同じような権力者なんだろ」
現に、備え付けのテレビをチェックしてみるが高校生を跳ねた事故など新聞どころかニュースですらやっていない
つまりは、そういうことだろう
「そして、もうひとつお伝えしなければならないことがあります」
「んー?なにか問題でもあったのかなぁ?」
「入学式から4日経ってます」
「………………ほう」
八幡は、少々考え込む
人間関係が築けない→特定のグループに入れない→人徳を学べない→再教育の意味がない
「俺、再教育プログラム離脱してもいいんじゃねぇ?」
俺天才じゃねと軽く考えるが
「クライアントからは続行の指示が出ています」
小町と「企業」は抜かりがないようだ
「つくづく退屈しないな……」
八幡は笑いそうになる頬をひきつらせながら呟いたのだった