下らない授業が終わりこれから来るであろう至福の時間に思いを馳せている八幡。
「I'm thinkerとぅーとぅー」
思わず鼻歌が出てしまうのも仕方ない。
面白いことだらけの放課後。もちろん常人とは違う思考でとらえているのだが。
「やぁ、ごきげんよう」
「Day After day Things are rolling 」
羽虫のことなど気にしない。気にする気も起きない。
そんなことよりも、《雪ノ下》の存在だ。
ナインボール=セラフの言うことが本当なら、雪ノ下雪乃も同じように何か、企業やリンクス、ACに関わってる可能性がある。
それも、想像以上のなにかにだ。
「無視はやめてもらえるかい、主任」
相変わらず何を考えてるのかわからない顔をした変態が八幡の顔を見る。
「なんだよ」
「君に依頼だよ」
歪んだ笑みを浮かべ、戸塚は言った。
――――――――――――――――
「で、何故私たちまでここに連れてこられてるのかしら」
「まぁまぁ、落ち着いてゆきのん」
雪ノ下と由比ヶ浜は八幡を少しだけ睨みつつ、現状把握を進めていた。
それはいつも通りの放課後だった。
雪ノ下も由比ヶ浜も、八幡の到着を待っていた。
雪ノ下は八幡との意義ある会話を楽しみにしていたし、由比ヶ浜は由比ヶ浜で八幡と雪ノ下の楽しそうな雰囲気をその場で感じるのを楽しみにしていた。
そんな時だった。
部室の扉が開き、雪ノ下と由比ヶ浜は目を向ける。
しかし、そこにいたのは
「やあ、こんにちは」
小柄だが、どことなく八幡に似た目をするおかしな人間だった。
「こんにちは」
由比ヶ浜は少しビビりつつ、返事をする。
「奉仕部に依頼ですか?」
雪ノ下が眉に皺をよせながら聞く。
何となくだが………、この人間はどこかおかしい。
雪ノ下は直感でそう捉えた。
「もちろんだとも!君たちにちょっとした依頼をね」
楽しくて楽しくて仕方ないような笑みを浮かべ目の前の人物は告げる。
「ボクはテニス部に所属してるんだけどさ、最近活動中にアホな連中が絡んでくるんだ。君たちにはこのアホな連中を追っ払ってほしい」
「……………」
部活動中に妨害してくる?そんな奴等がこの学校にいたのか……?
雪ノ下は疑問に思いつつ、考えを深める。
「わかりました、その依頼受けましょう」
「ありがとう。そうそう比企谷は先に現場にいると思うから。後はよろしく」
そう言うと、彼は部室から出ていった。
そして、現場であるテニスコートに着いた。
そこで目にしたのは、
「アーッハハハハハハ!!!まだまだいくよーっ!!?」
一方的な蹂躙だった。
細かく説明すると、八幡がラケット片手にテニスボールを散弾のように相手に向かって打っていた。
相手はというと、膝はガクガクと震え立つことさえ儘ならない状態だった。
よく見ると、葉山と三浦だ。
「クソッ………」
「化け物かなにかじゃないのあいつ………」
息も途切れ途切れに悪態をついていた。
「葉ー山くん!ダメじゃないかぁ~しっかりと部下の管理しなくっちゃさぁ!」
八幡は愉悦に満ちた表情でサーブを続ける。
いつの間にか周囲を取り囲んでいた観衆はひきつった顔でこの惨状を見ていた。
「あ、ほほーいっと!」
八幡はそんな観衆目線の真っ只中、追撃の勢いをじわじわと増していく。
戸塚はそんな彼の姿を見て満面の笑みを浮かべる。
しかし、そんな中
「………比企谷君、僕たちの敗けだ」
葉山はそう言った。
「隼人………?」
三浦は葉山を凝視する。
「無理だ、あんな奴に勝てるわけがない」
葉山は悔しそうな雰囲気を醸し出しつつ、戦闘を放棄する。
その反応に八幡はつまらないものでも見たかのように笑みを消す。
「………所詮はその程度か」
場が凍った。
そう、その言葉の通りだった。
葉山はワナワナと震え、三浦は視線を逸らす。
周囲の観衆は沈黙し、奉仕部の面子も苦い顔をしたまま何も言わない。
「素晴らしい」
パチパチと拍手をしながら戸塚が出てくる。
「君に頼んだかいがあったよ」
八幡は舌打ちをし、睨みつける。
「おお、怖い怖い。ほらこれが報酬だよ」
怖がるような素振りを少しも見せずに何かのキーを八幡に投げ渡す。
八幡はそれを受けとると足早に場を去ろうとする。
しかし
彼女がそれを許さない。
「………………なんだよ」
奉仕部 部長 雪ノ下雪乃
「認めないわ、貴方のしたこの惨状を奉仕部の活動とは絶対に認めない」
彼女は勇敢に挑む。
「認めてたまるものですか………!!」
「誰かが救われれば代わりに誰かが救われない。ただそれだけだろう」
「………………奉仕部、部長として宣言します」
雪ノ下は八幡を睨みつける。
獣には、躾を施す。
簡単なことだ。
ただ、その獣が狂暴なのかどうかは別として。
「貴方をイレギュラーとしてその危険思考を排除します」
「やれるものならやってみろ」
その獣は笑みを浮かべていた。