ビーハイブの人間と話した後、八幡は帰ってこなかった。
どこかでフラフラとしているのだろう。
そう由比ヶ浜と雪ノ下は結論付けた。
ただ平穏が過ぎていく。
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「キャロリーン、システムに異常はなーい?」
八幡は自宅の地下にあるシュミレーターに乗り、小町に催促する。
久々の戦闘でもある、万全の状態で行いたい。
「主任、少しは落ち着いて下さい。………主任?」
小町は普段から頭のおかしい振りをしている八幡に対して様子がおかしいと気がついた。
「何かあったのですか?」
「なぁ、キャロリン。AI のレベルを最高値にあげてくれない?」
主任は、笑う。屈託のない表情で。
「やるんなら本気でやろうか、その方が面白いだろうし」
その言葉に対して小町はクスリと笑い。指示通りにレベルを上げる。
「主任、お気をつけて」
小町はそう言い、シュミレーションシステムを起動した。
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目の前に荒野がひろがる。
薄暗く、分厚い雲が空を覆い。汚染された大地。
何もかもが懐かしい。
八幡は、愛機≪ハングドマン≫の調子を確かめる。
このシュミレーターはACに直接繋がっており、機体の元々のスペックを丸々利用できる仕組みになっている。
≪システム戦闘モードに移行≫
背後から無機質な言葉が聞こえた。
「おいおい、チョイスがドS過ぎるよキャロリン」
振り向くと、そこには4脚の化け物がいた。
「乙女が相手とかかてるわけないでしょーに」
「最高レベルにしろとおっしゃったのは主任ですよ」
だからといって限度というものがあるだろう。
こっちはノーマル。相手は化け物。
勝ち目はない。
しかし、それでもむざむざ負けてやる必要は存在しない。
八幡はKARASAWAを構える。
《防衛ラインを構築。敵機排除開始》
無機質な声と共に視界から消え去る乙女。
「ヒュー、相変わらず早いねえ」
二段QBで滑空を始める乙女。
瞬間速度は4000㎞。
「さて、ぼちぼちやるかね」
2丁のKARASAWAを乱射に近い形で撃つ。
あえてミサイルを使わずKARASAWAを使うのには理由がある。
乙女に搭載されているフレアはほぼ百発百中の精度でミサイルを撃ち落とす。
最高にイカれてる性能だ。
だからあえてKARASAWAを撃つことで相手の進路を妨害しつつ背中に積んだマスブレードを使うタイミングを見計らう。
そうでもしなければこの化け物は止められない。
《戦闘技術の向上を確認。第二戦闘フェイズに移行します》
無機質な音声と共に化け物はさらに加速する。
「キャロリン乙女ってこんなに変態な動きしてたってけ?」
「財団が更新プログラムを提供してくれたので適用させました」
「余計なことするなと後で文句でも言っといて」
「わかりました」
乙女の動きについていくのがやっと。
そもそも性能差があるのが更に開いた。
(こりゃあかすり傷でもつけられたら御の字かな)
所々にばら蒔かれるライフルをよける。
それでも避けきれずに被弾することもある。
「つくづく化け物だね」
悪態と苦笑をつきながら応戦するが、それは防戦一方の戦いだった。
そして、とうとう、APが千台になった。
瞬間、周囲を撹乱するかのように移動していた乙女が一瞬で間合いを詰めてくる。
マスブレードを展開しようにも、いかんせん時間が足らない。
光が乙女を包み込み、そして爆発する。
―――――八幡は意思を失った。
遅くなり申し訳ない。
とでも言うと思ったかい?ヒャァハァ!