「あぁーやっぱ、ダメだねぇあの人はどうにも勝てねえ」
そんなことを呟きながら八幡は奉仕部に向けて歩を進める
正直、今すぐにでも自宅に帰って小町とイチャイチャ(罵詈雑言)を楽しみたい
しかし、今帰ったところで明日、ヴェンジェンス平塚にどやされるに決まってる。だから無駄な足掻きはせず、小町とのやり取りをグッと堪える
「んー、ここであってるのかなぁ?」
奉仕部の前で確認する、一応、ノックも忘れない
「もしもーし、ここは奉仕部ですかぁ?」
勿論、煽りつつだ
「……どうぞ」
(んー、反応はいまいち薄いか)
そんなことを感じつつ中に入る
「おっと……」
そこには目を見張るような美少女がいた
大和撫子という単語が一番似合うと直感でそう理解するほどのだ
「…………なにか?」
少し眉をひそめながら不機嫌そうに言う美少女
「いいや何でも、平塚先生に奉仕部に強制参加させられることになった比企谷八幡でーす、よろしく」
なるべくおどけて、面白そうに八幡は自己紹介を言うが相手の美少女はさらに眉に皺が寄る
「…………比企谷くん、その挨拶はないんじゃないのかしら」
開口一番そう言われる
「おやおやぁ?もしかして気にさわるようなことしちゃった?」
「…………自覚なしなの?」
「名前も名乗らねえ奴に真剣に取り合うとでも?」
…………沈黙
美少女は顎に手をやり小首をかしげる
いちいち様になるからなおムカつく
「名乗りの時にふざける人に名乗るほどの名前なんて持ってないから名乗らなかっただけよ」
「ほうほう、つまり名乗るほどの価値も持ち合わせてないわけだ、君はゴ ミ 虫 なのかなぁ?」
煽りには煽りで返す、毒には毒を
ハンムラビ法典が基本なやり取りである
「……ごほん、比企谷そこまでにしとけ」
「…………げっ」
そんなやり取りを仲裁するかのように平塚先生が部室に入ってくる
そんな平塚先生に対して美少女は眉をひそめる
「先生、ノックしてくださいと何度言えばわかるのですか?」
「すまんすまん許してくれ、雪ノ下」
(…………雪ノ下、それがこいつの名前か)
八幡は平塚先生と雪ノ下のやり取りをじっと聞く
「そうだ、そうだ、今日から奉仕部に入部することになったーー」
「ゴミ谷くんですよね」
「あららぁ?ちょっとひどくなーい?」
雪ノ下は舌打ちをして話を続ける
「私は反対です、こんな人間性の欠片もない動物が入部するなんて」
「…………そこまで言うか」
平塚先生は苦笑いしながら答える
八幡はヘラヘラと笑みを浮かべながら黙る
「ならばこうしよう、こいつを更正させろこれは依頼だ」
不敵な笑みを浮かべながら平塚先生が言う
「…………依頼ですか…………それなら仕方ありません」
雪ノ下はため息をつくと気合いを入れた表情で八幡を見る
「これからよろし……く……!?」
そのあとに続く言葉は出なかった
なぜなら、八幡は無表情で雪ノ下を見ていた
腐った濁ったなどさんざんに言われてきた瞳が光を移さないかのようにまるで、落胆したかのようにあるいは興味を失ったような瞳になっていたからだ
ヘラヘラとした、態度の八幡ではなく
戦場を渡り歩いてきた希望も絶望もないただ動く兵士の表情であった
そして、八幡は己が戦うであろう戦場を定める
「平塚先生、俺ここで奉仕します」
「ん?いいのか!?」
「ええ」
八幡は平塚先生に視線を向けることなく気だるげに言う
「ここなら…………」
小さく呟かれた言葉は誰にも聞こえず
大きな波紋を呼ぶこともわからず
奉仕部は狂犬を招き入れた