結果として、比企谷八幡は雪ノ下雪乃に強制参加を命じられ、反論も出来ぬまま、部室の端に椅子を持っていきそこで、視線を由比ヶ浜から外しつつ話を聞くことにした。
「私ね、お世話になった人にお菓子をプレゼントしたいの、でも作ったことなくて不安でどうしようか迷ってたときに彩ちゃんが奉仕部の話を出したから……」
由比ヶ浜は徐々にだが雪ノ下に、目的を話始めたのだが正直、八幡からすればどーでもいい話でしかない。
そもそもがお菓子など調理本を見れば作れる。戦場において調理などしてる暇などなかったが少なくとも夜営用の飯は作ることは八幡ですら本を見ないで作れる。
部隊の連中からはもっぱら評判であったのも忘れてはいけない。
小町は小町で趣味が料理みたいなものだし、八幡からすれば、由比ヶ浜がお菓子どころか料理さえ作れないということは想像もつかないことであった。
「わかったわ、協力しましょう」
雪ノ下は瞳に微かに炎を宿らせ承諾した。
由比ヶ浜はそんな雪ノ下に対して笑顔を浮かべる。
(……ほう、そんな顔が出来るのか)
八幡は、ちらりと雪ノ下と由比ヶ浜を見て内心呟いた。
教室で見かける由比ヶ浜はどこかオドオドした感じが見受けられていた。しかし、雪ノ下に対しては輝かんばかりの笑顔を見せている。
これから察するに、相手に対して遠慮して空気を読みすぎていると言うことと考えられる。
しかし八幡はそんな由比ヶ浜を見て内心表情を歪める。
馬鹿馬鹿しい。
この一言に尽きる。
遠慮などする必要はない、遠慮するような人間関係などいずれ壊れる。
限界まで水を入れた水風船のようなものだ。
「とにかく、ここではお菓子なんて作れないわ、家庭科室にいきましょう」
雪ノ下はそう提案すると荷物をまとめ始めた
「勿論比企谷くんも一緒によ」
八幡は眉にシワを寄せながらため息をついて雪ノ下と同じく荷物をまとめ始めた。
由比ヶ浜は少し震えながら八幡のことを見ていた。勿論八幡はそんなこと気付いている。わざわざ指摘するほどのことでもない。
そして、一同は家庭科室に向かった。
――家庭科室
「……ど、どうかな?」
由比ヶ浜は出来立てのクッキーらしきものを八幡と雪ノ下に差し出す
見てくれはギリギリクッキーとわかる、しかし味は保証できていない。
まるで依頼元がわからない高額報酬の任務を受けるのと同じくらいの博打物ということは一目でわかった。
八幡と雪ノ下はお互いに顔を見て雪ノ下からクッキーに手を伸ばす。
そして、口に含んだ。
「…………可もなく不可もなくかしら」
雪ノ下は苦笑いしながらそう言った。
このとき八幡は察した。
(雪ノ下がお世辞を言った……?どんな不味さなんだよ……!!)
「ひ、比企谷くんもどうぞ……」
「あ、あぁ」
由比ヶ浜に催促をされクッキーに手を伸ばす。
そして一口。
「………………レーション?」
「クッキーだからね!?」
一瞬素で答えてしまった。
それに対して由比ヶ浜は八幡を睨み付ける。
しかし、実際にそんな味がしたのは事実。
「と、とにかく、由比ヶ浜もう一度作ってみましょう?」
雪ノ下はオロオロしながら八幡と由比ヶ浜の間に割り込む。
そして、第2ラウンドが始まった。
結果から言おう。
まぁ、ゴミ虫の相手には丁度良かったんじゃない?(震え
「うーん……、何がいけないのかなぁ」
由比ヶ浜は可愛らしく首を傾げる。雪ノ下も同じく首を傾げる。
「レシピ通りに作っているのに……」
「「うーん……」」
おそらく、このままでは解決できずに終わってしまう。
この地獄までとは行かないが茨の上でブレイクダンスをしたような時間が無駄になる。
八幡はそう考えに至り、こう思いもした。
それだけは勘弁願いたい。
なら、ここは掻き回すだけ。
「ねぇねぇ、お嬢さん方ちょーっとよろしいかな?」
比企谷は道化のような表情で二人に話しかける。
雪ノ下は話し方にイラついたのか眉にシワが寄っている。
由比ヶ浜は怖がっている。
「どうかしたの比企谷くん?」
「思ったんだけどね、別に手作りじゃなくてもよくない?」
この一言で場が凍り付いた。
「……何を言っているの?」
「ひ、比企谷くん?」
「そもそもがね、手作りよりもちょっとした物でもよくない?その方がお互いに傷付かなくていいでしょー?」
「手作りに意味があるのだと思うのだけど」
雪ノ下は凍てつくような視線を八幡に向ける。
八幡はただ、それに対しておどけるだけ。
「確かにそーだけどさ、由比ヶ浜も自分が料理下手って理解してるよねー?」
「う、うん……」
「なら、無理して作る必要はないはずさ」
無理などして録な目にあっていない八幡からすると、無理をするなど大抵、ハイリスクノーリターンが定番だ。
だから、人生経験の先輩からのアドバイスを言う。
「無理をして作る必要なんざねーさ、気持ちを伝えりゃそれで十分だ」
「……そっか」
由比ヶ浜はどこかつっかえが取れたように、少し表情が和らいだように感じた。
その様子を見届け、八幡は雪ノ下に視線を向ける。
「比企谷くん、あなたまともなこと言えるのね」
雪ノ下は驚いたように口を手で覆っている。
「いくらなんでもひどいなぁ部長は」
八幡はそう返し、由比ヶ浜に再び視線を向ける。
由比ヶ浜は雪ノ下と八幡の様子を見て、微笑んでいた。
八幡は、その表情を見て内心でこの問題は終着したと確信したのであった。