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聖エルミン学園高校/とある教室
退屈な日常。繰り返される、当たり前の平穏。
誰もかれもが不平不満、あるいは息苦しさを抱えて生きる日々。
それが崩壊するカウントダウン。
そうとは知らず、そうとも気づかず。
『世にも奇妙な都市伝説』という胡散臭い本を読んでいた少年は、おもむろに、近くに居合わせた別の少年に声をかけた。
『なーなーブラウンー。これ、おもしろそうじゃね?』
――その時の事は、今でも鮮明に覚えている。
『未来が見えるかどうかまでは知らねぇけど、もう超常現象バリバリよ? 絶対やる価値があるって!!』
『おーし、賭けるか? 負けた方がジョイ通のピースダイナーで食い放題のおごりだ。いいな?』
『わ~い! じゃ、アヤセ、上杉にのる! だって面白そうだもん!!』
『私もBrownにBetしますわ。超常現象……うふふふふ♪』
ゴーグルをつけた綺麗なブラウンの髪の少年が、黄色のニットキャップを被った少年と賭けをした。
一緒になって、金髪のコギャル少女とポニーテールの帰国子女がそれに乗る。4人の口元には楽しそうな笑み。
『愚にもつかんな。俺は知らんぞ』
『あたしも右に同じ。……勝手にやりな』
1と書かれた青いスカーフを首に巻いた眼鏡の少年と、姉御肌気質なベリーショートの少女が呆れたようにため息をつく。
『おい、そこの双子! お前たちはどっちに賭けるんだ?』
彼らを横目に、黄色のニットキャップを被っていた少年は、真正面に佇む少年たちに問いかけた。
右耳に丸いピアスを付けた深い藍色の髪の少年――弟と、左耳に星のイヤリングを付けた淡い藍色の髪の少年――自分が顔を見合わせる。
『じゃあ、俺は正男に賭ける』
先に答えたのは弟の方だった。その言葉に、ニットキャップがにやりと笑う。
じゃあお前はどっちだ? と、ゴーグルが問いかける。
『正直どっちでもいいかなぁ』――あっけらかんとそう答えれば、ゴーグルの少年が一瞬引きつった笑みを浮かべた。
『ちょ! おっま、言い出しっぺがそれでいいのかよ!?』
『いいじゃん。何が起ころうが起きまいが、「皆でわいわいしましたー!」って事実は消えないんだから。数年後に振り返った時の肴にゃあもってこいだろ?』
『うっわ~、変な意味でじじくさい……』
『……これで俺と学園TOPを争う学力の持ち主だと言うのが、未だに信じられん』
コギャルが眉間に皺を寄せ、眼鏡が額を抑えて唸る。姉御は眼鏡の肩を叩き、彼を励ましていた。
しばし皆とわいわい話をした後で、ようやく本来の目的――「ペルソナさま遊び」へと移る。
『ペルソナさま、ペルソナさま、おいでください』
――声が、響く。
『ペルソナさま、ペルソナさま、おいでください』
――声が、響く。
『ペルソナさま、ペルソナさま』
――そして
『お、おい……後ろ……!』
『んだよ? ――!!?』
眼鏡の指摘に、ニットキャップが振り返る。そこには1人の少女が佇んでいた。先程までそこには誰もいなかったはずなのに。
ぼんやりとした輪郭、青白い肌。どこから見ても“人”じゃない。端的に表現する言葉があるなら――「幽霊」。
刹那、突如雷が教室中を迸り始める。姉御に直撃したのを皮切りに、ニットキャップ、眼鏡、弟が次々に雷に打たれていくではないか!
なんだどうしたどういうことだ!? ――あまりの状況に、どうすればいいかまったくわからない。
そうだ、弟。弟を助け起こさねば――自分がそう思って駆け寄ろうとした瞬間、大きな音と衝撃が体を襲った!
マヒしてしまったかのようにそのまま崩れ落ちる。
自分が倒れてしまったこと、自分も雷が直撃したことに気づいた瞬間、視界は一気にブラックアウト。
何も感じられなくなる刹那、黄金色に輝く蝶が羽ばたく幻を見た気がした。
――それが、ペルソナ使い・空本 至の“はじまり”。
【0-7.自分の力について考えるよう後輩にアドバイスするだけの簡単なお仕事】
2009.6/12 夜
厳戸台分寮/ラウンジ
分寮内に足を踏み入れたのは、本当に偶然だと言っていい。
ロードワークを終えてきた明彦と寮の前でばったり落ちあわなかったら、丁度彼が寮の玄関を開けていなければ、ラウンジ内で何かを読んでいた陽向がこちらに声をかけてこなければ、きっと至は寮の中へ入ろうなどとは思いもしなかっただろう。
至がいるというのを聞きつけたゆかり、順平と千影も顔を出す。そういえば先日、千影と順平はゲームの話で盛り上がっていたか。自慢げに話していた順平は知らないだろうが、千影は結構な腕前の隠れゲーマーだ。ちなみに陽向もゲームに強い。
理事長は流石に居ないようだった。正直、至にしてみれば「居ようが居まいが何も変わらない」に等しいのだが。理由は先日の霞みっぷりである。あれが顧問で大丈夫なのだろうか――失礼ながら、ひっそりと不安になったものだ。
「せっかくだし、お茶でも飲んでってよ」
「じゃ、その言葉に甘えさせてもらうわ。お邪魔しますー」
「よっこらせ」「うわ、オヤジくさいっすよ至さん」「当たり前だろ、俺は27のアラサーだ」「27!? 大学生の間違いじゃないんですか!?」――他愛のない会話にしばし花を咲かせる。
ふと、至は陽向に視線を向けた。彼女の手には、何かの書類。まだ読みかけだったらしく、ホチキスで留められた紙が何枚かめくられている。
「何読んでるんだ?」
「タルタロス内部で見つけた書類。人工島計画書文っていうんだけど」
「ふーん、人工島計画書文…………――人工島、計画書文……!?」
至は陽向の言葉を反復し、止まる。人工島計画書文――10年前にこの周辺で行われた実験内容が記された、重要な機密文書だ。
当時発生した“爆発事故”――ひいては、桐条の先代当主が起こした暴走に関するヒントが記されている可能性を持つ。
本来、これは半年前に、当時桐条グループで働いていた元・研究員から譲り受ける約束をしていたものだ。しかし彼は、約束の日の当日に謎の不審死を遂げてしまう。件の人工島計画書も、彼の不審死と共に姿を消してしまった。
それきり行方知れずになってしまった件の書類が、こんなところで姿を現すだなんて。1人戦慄する至の様子に、陽向が驚いたように目をぱちくりさせていた。「どうしたの? 見たいの?」――そう言って、おずおずと書類を突きだしてくる。
頼むと2つ返事で頷き、半ばひったくるようにして書類を受け取った。その勢いのまま、至はぱらぱらと書類を読み進める。研究していたものに関する表やグラフ、分析や考察がつらつらと並ぶ中、時折書き手の呟きのようにメモ書きされてあった。
しかし情報量が少なすぎるのだ。これでは断片的にしかわからない。機密事項が記された書類の割には、圧倒的に情報不足である。
おまけに、この書類が発見された場所も問題だ。何故、この書類が迷宮――タルタロス内部に落ちていたのだろう? 誰かがあの塔に隠したとでも言うのだろうか?
どうやら陽向も同じことを疑問に思っているらしい。「あそこはシャドウの巣窟だよ? 私たちの前に入った人でもいたのかな?」と、首をかしげながら紅茶を啜っている。
「……実は、桐条の探索部隊が何度か足を踏み入れていたんだ。もっとも、第一層の攻略すらままならなかったが」
「探索部隊? それって、僕らと同じペルソナ使いですか?」
言いにくそうに美鶴が切り出す。ゆかりや順平たちが驚きに目を丸くする中、陽向は「やっぱりか」と言いたそうに美鶴へ視線を向ける。
彼女の言葉を受けた千影は首をかしげた。“影時間を認識し、シャドウと戦えるのはペルソナ使いだけ”という前提に引っかかったからだろう。
「詳しい事はわからない。当時、私は父に同行していた。そこでシャドウに襲われて……私はこの
美鶴は静かに自分の手のひらを見つめる。微かに震えているように見えたのは、きっと至の見間違いではないだろう。美鶴ちゃん、と呼べば、彼女はどこか感傷的に苦笑した。
ゆかりが何か言いたそうに口を開くが、言葉が見つからないらしい。視線をしばし彷徨わせた後、どこか悔しさを含みつつ申し訳なさそうに肩を落とす。
そういえば、美鶴がペルソナに目覚めたのは8歳の頃だと航から聞いた。桐条側の研究者がおもわず零していた会話を聞き取り、覚えていたという。
最年少で覚醒したのが7歳の千影だったということもあったから覚えていたんだろう。彼は10年前、至に引き取られる以前からペルソナ能力を覚醒させている。もっとも、美鶴たちのように銃型の召喚機で頭を打ち抜くタイプではないが。
千影もまた、至や航・達哉や舞耶のように“フィレモンからペルソナ能力の発現を促された”タイプである。つまり、何らかの形で「ペルソナ様遊び」を経験、加担、目撃した人間であった。そして尚且つ、奴の質問に自分の名前を答えられた人間でもある。
実はフィレモンではなく“奴”から能力覚醒を促される、あるいは能力を与えられるというパターンもあるのだが、それについては割愛しよう。
「そういや、至さんや千影は召喚機なしでペルソナ呼べるんですよね? 何か、その、秘訣みたいなのあるんスか?」
「ああ、俺も気になるな」
何かを思い出したように、順平がぽんと手を叩いてこちらを見た。彼の眼はまるで、ヒーローに憧れる少年のように輝いている。興味津々と言った方がいい。
その言葉を聞いた明彦もつられたようだ。おおかた、これから遭遇するであろう強敵に対抗できるような力が欲しいのだろう。それで、至や千影の能力に興味を持ったに違いない。
そもそも、至と千影のペルソナ能力は陽向や順平、美鶴たちとはルーツが違う。それ故に、能力の毛色や召喚――降魔の仕方も違うのだ。ただ、ペルソナが心の海から生まれると言う点は共通している。
さて、まずは何から話すべきか。何を話しても脱線しそうだ。――しっかり整理して、わかりやすく伝えてやらねばならない。
ルーツや能力が違えど、彼らは自分の後輩。駆け出しのペルソナ使いなのだから。
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自ら目覚めるか、あるいは何者かによって目覚めを促され与えられるか。ただ、それだけの違い。
複数のペルソナを使い分けることが出来る――陽向はそれを「ワイルド能力」と言った。至や千影もそれに近いように見えるが、厳密に言えば少しだけ違うのだ。
フィレモンによって力を得た者は、同時に自分の性格や性質を表わすアルカナを得る。そして、その属性に対応・あるいは相性のいい属性のペルソナを3体まで降魔することができるのだ。それ以上を降魔させようとすれば、自身がそれに耐えられなくなり暴走が起きる。
暴走というワードに一瞬明彦が表情をこわばらせる。何か心当たりでもあるのかと問えば、彼はなんでもないと押し黙った。明らかに嘘をついていたが、それを問い詰めるのは良くない気がして流してやる。
「自分自身で目覚めたお前らが“新世代”だとするなら、俺や千影は“旧世代”って扱いになるな。……ま、覚醒条件が“危機に瀕した時”ってのは同じだけど」
至はうんうん頷き、自分で淹れたコーヒーを啜る。ブラックコーヒーのほろ苦い味が喉を流れ、染み渡っていく感覚。
高校時代、なんとなく大人ぶってみたくて、飲んでみて見事に撃沈した事があった。今ではすっかり慣れて、苦も無く飲むことが出来る。月日の流れは凄い。
順平はぽかんとした表情で、ほーほー頷くので手一杯だった。多分、至の説明などほとんど理解できていないだろう。それでもいい。漠然でもいいから“本質は同じ”であると伝わってくれれば充分なのだ。
明彦やゆかりも大体同じようなものだった。そもそもペルソナ能力が一体何なのか自体、よくわからないまま戦っていたという毛色が強いようだし。これを機に、自分の能力が何であるか、そして自分自身が抱える問題に向き合ってほしいと至は思う。
「ペルソナ能力に目覚めた人間は、否応にも“自分自身”と向き合わなきゃいけなくなる。目覚めた理由が何であれ、だ」――そう伝えれば、この場にいる全員が苦い表情を浮かべて視線を彷徨わせる。どこか不安そうに曇ってしまうものだから、至は苦笑した。
「何も、今すぐって訳じゃない。ただ、それが“いつか”だって話だよ。――それは明日かもしれないし、1カ月後かもしれないし、半年後かもしれないし、10年後かもしれない。そう無理に構える必要はないぜ? ……“その時”が訪れたら、どんなに時間がかかってもいい。まっすぐにありのままを受け入れて、どんな形でもいいから最後に乗り越えりゃいいんだ」
「でも……」
「だいじょーぶ! 頭の固い南条くんや、こんな問題だらけの俺でも乗り越えられたから!」
おどけた調子で笑えば、つられるように千影が笑った。彼も、幼くして“自分自身”と向き合い、乗り越えた人間の1人である。
援護射撃とばかりに「僕もその人間の1人です」と晴れやかな顔で言えば、周囲が驚いたように目を瞬かせた。
「確かに、自分自身と向き合うのはとても辛いし、苦しいことだらけです。……だけど、それと向き合ったおかげで、今の僕がいる。みんなとの出会いがある。
……嫌なことばかりじゃなかった。幸せだったことも、楽しかったことも、数えきれないくらいありました。それがどんなに些細なものでも、僕には充分だった」
「チカ……」
「――そう。まるで、“奇跡”みたいだった」
噛みしめるように視線を落とした千影の様子に、陽向は全てを察したように眉尻を下げる。
どこか悲しげに揺れる猩々緋。千影の薄紫苑はまっすぐにそれを見返し、細められた。至もそんな2人を見守るように視線を向ける。
思い返すのは戦いの日々。何気ない日常が壊れ、突如異常に放り込まれ。自分自身の弱さと向き合い、無慈悲な真実に打ちひしがれ。
全てが終わったその時に、自分の手に残されたものがあった。自分の手に託されたものがあった。振り向けば、たくさんの仲間たちが笑っていた。
結ばれた絆は決して解けることなく、どんなに遠く離れても繋がっている。それぞれがそれぞれの道に進み、二度と重なることがなかったとしても。
きっと覚えている。そして、その日々は決して色あせることはない。
制服に身を包んだ高校生が繰り広げた御影町での戦いも、どこかの自分が命を賭けて散った平行世界の出来事(間接的だが)も、いい年こいた社会人が噂を操り駆け回った珠閒瑠市での戦いも。
救えなかったものがあって、救う事の出来たものがあって、大切な人たちとの出会いや別れを経験して、彼らと結んだ絆があって、彼らに託したものや託されたものがあった。それら全てを思い返しながら、至はうんうん頷いた。
「……なんか、すげーなぁ」――ぽつりと順平が零す。どこか遠くを眺めるような視線を至に向けながら。
この力を手に入れた時、まるでヒーローにでもなったような気分だった――夢心地のように、彼は呟いた。けどそうじゃないんスね、と付け加える。
「そんな壮大なモンと、向き合えるかな……」
「自分自身との戦い……そう言い切るには、簡単な問題ではなかったんだな」
順平の言葉に続くように、明彦が自分の手のひらを見つめる。至には、それが何か遠き日々を顧みるかのような仕草に見えた。――取り返しの利かない何かを悔いるような。
「まぁ、俺も人の事言える立場じゃないし。答えを得たとしても、別の問題に直面する場合だってある。あるいは、再び同じことを問われることだってある。俺なんて、毎回毎回何かあるたびに問われ続けられるからなァ」
……ぶっちゃけ、『至の出した答えを覆させ、絶望させたい』という“奴”からの嫌がらせという色合いが強いのだが。
這い寄る混沌がニヤリと笑う姿を幻視して、頭が痛くなる。それがお前に与えられた“罪”にして“罰”だ――“奴”の言葉が耳を震わせた。
ついでに、『その絶望や問いを何度叩き返されても屈しない』という実験結果をフィレモンから期待されているという色もある。
普遍的無意識の権化に、文字通りおもちゃ認定されてしまったが故なのだろう。己のペルソナに永遠と円環を司る蛇――ウロボロスがいることも、それの暗示だったのかもしれない。
自分の尾を咥えたその姿は、全ての始まりと終わりにして終わりと始まりを意味する。巡る理が意味するのは、きっと至の運命そのもの。至が示しだした世界のアルカナ。
若きペルソナ使い達は沈黙したまま。自分が向き合うべき問題に、そして自分が至るであろう答えに想いを馳せているかのようだった。
その姿に、かつての自分を重ね合わせる。悩み、苦しみ、足掻き、必死になって出した答えを思い返す。
どんなに時間がかかっても、彼らはきっと答えにたどり着けるだろう――至は頷きながら、再びコーヒーに口を付ける。もうぬるくなっていた。
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同日 夜
至と千影の家/至の自室
「……それで、江古田の奴、ばっちり処分されたらしい。ざまーみろだよなぁ」
『……相変わらず厳しいな、至は』
「そうか? 俺から言わせてもらえば、向こうが酷すぎるんだよ」
受話器越しから漏れたのは、どこか疲れたような航の声だった。どうやら今日も徹夜だったらしい。
今から夜食を作るためにキッチンに行く途中だったという彼の話を聞いて、このタイミングで電話を入れてよかったと本気で思った。
あと一歩遅ければ、明日のニュースは『度重なる南条コンツェルンでの爆破事故』という第一報が流れかねない。
隠ぺいする南条グループの人々が可哀想である。特に圭が。
「ま、世間話はこれくらいにしてだ。……やっぱり、今回の一件は“クロ”だったよ」
至の言葉に、受話器越しから沈痛そうな航のため息が聞こえた。
『桐条グループ全体の意思か?』
「いや、先代の残した置き土産って色合いが強いな。……ご当主は美鶴ちゃんに全てを話してるわけじゃないから、何とも言えないけど」
『重要なのは、当主が“何をどこまで知っているか”だろう。全てを網羅していて隠しているのか、まだ掴み切れていないものがあるのか……』
「俺は後者に賭けるわ」
『こら、賭け事じゃないだろう』
咎めるような響き。けれど、楽しんでいるように聞こえるのは気のせいではない。
至のノリに安堵したのだろうか。真相は定かではない。
『……それで、どうするんだ? このまま巌戸台で調査を続けるつもりか?』
「――ああ、そのつもりだ。陽向や美鶴ちゃんたち、もとい放課後特別活動部の面々のバックアップに協力しながらな。勿論、協力の対価として、桐条側のデータ類を公開してもらえるように交渉するつもり。……もちろん、渋った時用の“保険”も用意してある」
『圭が聞いたら嫌そうな顔するだろうな。えげつない奴だと言いそうだ』
「なんとでも。美鶴ちゃんや陽向を巻き込んでるんだから、これくらいやったって文句ないと思うけどな。……ご当主の事は信じたいと思ってるよ。信じたいからやるんだろうが」
きっと、鏡に映った自分は凶悪な笑みを浮かべているに違いない。こうやって何人の人間を黙らせてきただろう。
伊達に「敵に回すと恐ろしい存在」と仲間達から言わしめた訳ではないのだ。「キミ、絶対探偵でもイケそうだよね」――半ば怯えた様子で零したタダシの言葉を思い返す。
むしろ探偵でも怖いとたまきは言っていた。ちなみにあの2人、結婚していい家庭を築いている。勿論探偵業も続行中だ。(表面上のだが)同業者としての付き合いも続いている。
ふふふ、と。どこぞの大魔王のような笑い声を零しながら、至は資料へ視線を向ける。
引っ越す以前から、そして引っ越してきた当日から今まで集めた桐条グループの情報。流石の武治も冷や汗モノばかり取り揃えた。
端的に言えばこれは「脅し」や「恐喝」の部類に入るのかもしれない。でも、そうでもしなければ語ってくれそうにない相手でもある。
「いざというときのために、圭にも根回ししといてくれるよう頼んどいてくれ」
『わかった』
「あ、あと」
『何だ?』
電話を切ろうとした航が訝しげな声を漏らす。それに構わず、至は言葉を続けた。
「夜食は台所用電化製品を使わないものにしとけ。これ以上爆破されたら、流石の南条くんも困るから」
『…………じゃあ、何を食えと言うんだ』
「………………バランス栄養食?」
『虚しすぎるだろ、それ』