1-1.ピンクのボッタクリ妖精をフルボッコにするだけの簡単なお仕事
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『使用料は3000円だけど、どうする? あ、カードは
ピンクの妖精がにこにこと笑いながら首をかしげる。派手なブルーグリーンの髪や、顔に施された派手なペイントが一際笑顔を際立たせていた。
奴を見返す面々は三者三様。しかし、面々は聖エルミン学園の制服を着ていることと、険しい表情をしていることは皆共通だった。
ある者は眉間に皺を寄せ、ある者は口元を引きつらせ、ある者は完全に表情が消えている。苛立たしげに歯ぎしりする者や、拳を掌に打ち付ける者もいた。
この妖精の要求金額、実は彼らの所持金の7割強なのだ。どこからどう見ても完全な『ボッタクリ』である。
回復アイテムでさえ、(まだ)500円前後で購入できるのに――等々、面々の怒りは尽きない。
――ゆらり。
満面の笑みを浮かべていた妖精は、何かの気配に気づいたように首をかしげた。何も理解していないので笑顔はそのままであったが。
もし、それが「危機感」からくるものだと気づいていたら、慌てて逃げ出していただろう。逃げ出すことが正しい選択肢であったのだ。しかし妖精はそれに気づかなかった。故に
次の瞬間、ピンクの妖精は凍り付く。目の前にいる少年少女が背負っている“何か”に。――多種多様のアルカナのペルソナが具現し、一斉に戦闘態勢を取る。少年少女も、様々な得物を構えていた。完全に
『え、ちょ、マジ!? やめて暴力反対!! ここは穏便に行こうよ! ねっ、ねっ!? え、あ、あの、ちょ、待っ――』
慌てた妖精の制止も虚しく、
『アッ――――!!?』
この場一帯に、大爆発が巻き起こった。
***
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ピンクの妖精は真っ青だった。
奴だ。奴らがいる。正しくは「あの時自分に攻撃を仕掛けてきた学生のうち2人」が、今自分の目の前にいる。
普段通りのノリで使用料をふっかけたのまではよかった。七姉妹高校の制服を着た少年少女と記者風の女性、春日丘高校の制服を着た少年が嫌そうに顔を歪めたところまでは。
4人は嫌そうな表情を浮かべただけで止まった。しかし、それで止まらず、ペルソナを降魔し得物を構えて微笑むのは――件の2人。
3年前、妖精を文字通り“フルボッコ”にした聖エルミン学園2-4の生徒たちのうち、姉御肌の女傑と左耳にだけ星のイヤリングをつけていた自由奔放な子ども。
女傑のペルソナであるカーリーが、自由奔放な子どものペルソナであるナルカミがこちらを睨みつけていた。殺気のこもった視線に晒され、妖精はガタガタ震えだす。
――そして、断罪の時は訪れた。
『――久しぶりだな、ボッタクリ妖精』
イヤリングの青年がにやりと笑った次の瞬間、この場周辺に大爆発が巻き起こった。
***
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記者風の女性と刑事が銃の安全装置を外す音を聞いた。赤い髪に白いメッシュを入れた女性は、おもむろにシャドーイングを始める。サングラスで目を隠した長髪の男性もコインを弄び始めた。
そんな彼らの中心にいたのは、左耳に星のイヤリングをつけた青年。得物を構えた面々の背中には、面々のペルソナが殺気を迸らせながら控えていた。完全に
(――あ、ボクオワタ)
妖精が自分の末路を悟った刹那、この場が凄まじい熱と光に包まれた。
***
2009.6/14 影時間
タルタロス/エントランス
「どうしてお前がここにいるとか、また出やがったかテメェとか、うちの後輩たちにもボッタクリを働いたのかとか。――言いたいことは山ほどある」
青い光が立ち上り、彼のペルソナ・ナルカミが降り立った。青年の、深緋色の瞳がぎらりと輝く。
「だが、それよりもまずは殴らせろ」
殴るという単語とは裏腹に、青年が取った行動は“銃のトリガーに手をかける”というものだった。殴るどころか殺しに掛かってきているレベルである。
数分前、帽子をかぶり顎にうっすら髭を生やした少年が「アンタどこに戦争しに行くんスか!?」と、青年に突っ込んでいたことを思い出した。何事かと顔を出さなければ、きっと逃げおおせたに違いない。死亡フラグなんて立たなかっただろうに。
己の愚行を悔やんでも、もう遅い。
ピンクの妖精は、諦めたように弱弱しい微笑みを浮かべる。口元が勝手に引きつった結果だ。笑いたかったわけではない。
しかし、青年にとってはそれも怒りを煽るモノでしかなかったのだろう。彼の口元には、歪んだ笑み。
彼のペルソナが力をため始める。どう、と風が巻き起こる。それに煽られて、左耳についていた星形のイヤリングがしゃらしゃらと揺れた。
「――歯ぁ喰いしばれ、
ピンクのボッタクリ妖精――トリッシュは、己の
【1-1.ピンクのボッタクリ妖精をフルボッコにするだけの簡単なお仕事】
ひとしきりボッタクリ妖精をのし、至の活躍(というか脅迫と恐喝)によって、どうにか時計による回復料一律定額(プラスで使用料金50%カット)を勝ち取った。
これで陽向たちの財布が困窮することはないだろう。いい仕事した、と、至はうんうん頷いた。外道を成敗したおかげか気分がいい。
――いい仕事をしたので、体調が“絶好調”になった!
不思議なアナウンスが脳裏を駆けた気がしたが、そんなことはどうでもいい。
今なら何発でもヒエロスグリュペインをぶっ放てそうだし、銃の命中率も普段より上がったような気もする。
ぐるぐる腕を回してストレッチ。……普段よりも体が軽いのだ。これなら若者たちの足手まといになることはないだろう。
「い、至さん怖ェ……。ってか、あの時計にあんな妖精が住み着いてたなんて……」
「私のルキアでさえも、あの妖精を知覚することができなかったのに……」
「しかも、あの様子からしてボッタクリの常習犯らしいな」
ぶすぶすと焼け焦げた床に視線を向けながら、順平・風花・明彦が呟く。気のせいか、風花がどことなく落ち込んでいるように見えた。
どうやらこのボッタクリ妖精、新しい商売(時計による回復)を始めるにあたってジャミング能力を習得したらしい。
姿を消しながら料金を徴収する――これなら、文字通り「自分に被害が来る」ことはないのだ。だって誰にも知覚できないから、トラブルに発展する心配がない。
不平不満があっても、それを訴えるべき店主がいないのだ。それ故、利用者が諦める以外にないのである。今まで、陽向たちはそうやって泣き寝入りをしていたようだ。
勿論、過剰徴収の分もしっかり(強引に)返金してもらった。これで放課後課外活動部もやりくりが幾分か楽になるだろう。
ボロ雑巾同然になったトリッシュは、うめきながらも時計の上に座る。ピクシーと同程度の身長であるため成せることだ。奴はこれ見よがしにため息をつく。
「……相変わらず、キミはどこへ戦争しに行くんだい。背中にライフルとマシンガンなんて背負っちゃって、腰にはハンドガンだよ? しかも二丁拳銃だ。どこの傭兵だよ?」
「バズーカ背負ってないだけありがたく思えこの守銭奴。本来だったら、テメーにロケランを100発撃ち込んでも物足りねぇんだ。それに、雪の女王事件ン時は背中にこのセットプラスアルファで、鏡をはめ込む額縁背負って塔のぼりしたからな。正直まだ余裕だよ」
「あー……保健室に置いてあった
トリッシュは懐かしむかのように遠くを見た。おそらく、11年前初めて至たちと顔を合わせたことを思い出したのだろう。
鏡の破片を手に入れるために挑む3つの塔。その塔には、アガスティアの木と呼ばれる“不思議な力を持つ木”が一切存在していない場所だった。悪魔や邪なるものを祓う力を持った霊木は外敵を一切寄せ付けない。
故に、安心して休息できる場所だった。肉体疲労は回復しないが、拠点にはもってこいである。これのおかげで、至たちは安心して異界化した御影町を探索することができていたのだ。
ひょんなことからその情報を入手した至は、保健室からこの植木を運んで行こうとしたのである。勿論、仲間達から大目玉を喰らい、しぶしぶ元の場所へ戻してきたが。
「ライフルとマシンガン、そして鏡をはめ込むための額縁のせいで凄いことになっているんだから、これ以上荷物を増やすな。見てて辛い」――それが、仲間たちの意見であった。
ちなみに、彼らがそう言った時、至は既にその3つを全て背負っていたのである。しかも1人でだ。もっとも、これは“事件を起こした張本人としての償い”のつもりだったのだが。
「実は、ついさっきまでこの時計も背負ってこうと思ってた」
「やめてくんない!? 確かにこれの原材料はアガスティアの木だけど!」
「お前を見た瞬間に『もういいや』って思ったから、持ってかねーよ。……美鶴ちゃんや陽向たちから、荷物を増やすなって言われてんだから」
至は大きく息を吐く。本来だったら背中にもう1つ、ロケットランチャーを背負っていく予定だった。
それを美鶴や陽向たちに言ったら即「やめて」と言われたので、しぶしぶライフルとマシンガンに切り替えたのである。
どうでもいい蛇足だが、武器を提供してくれるお巡りさん――黒沢巡査の目の前で「コンビニでバズーカが買えた時代は昔の話か」なんてうっかり言ったせいで、あわや取調室行きになりかけたのが昨日の話だ。
圭が色々とりなしてくれなければ、事態はとんでもない方向に転がっていただろう。また貸一つ作ってしまったな、と、至は心の中でひとりごちた。彼がこめかみを抑えてため息をつく姿が妙にリアルである。
学生時代――雪の女王事件やセベク・スキャンダルに巻き込まれた際――、彼のキャッシュカードを利用して武器の購入をしていた。事件解決と共にチャラにしてしまったが、その時に「圭から金を借りた」という事実は未だ消えない。それで脅されたことは星の数ほどある。仲間たちはみんなそうだった。
「そもそも『殴る』って言っといて銃のトリガーに手をかけるってなんだよ!? 確実にボクの事殺しにかかってるだろ!?」
「ナルカミのゴッドハンドは打撃属性ですー。だから殴るという表現は間違ってませーん」
「異議あり! そのあとキミ、思いっきりボクに発砲して来たろ!? 色々連射して来ただろ!!?」
「ナルカミの一撃以外は全部外れたので実質上『殴る』表現だけで充分でーす。……ま、狙って外したんだがな」
「この鬼畜! ド外道!!」
「人泣かせのボッタクリに言われたくねーよ。その言葉、そっくりそのままテトラカーンとマカラカーンで反射してやらァ!」
「至にいさーん、何してるのー? 行くよー?」
陽向の呼び声がかかるその瞬間まで、至とトリッシュのやり取りは続いていた。
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同日 影時間
タルタロス/奇顔の庭アルカ・後半
「オルフェウス!」
ガラスの割れるような音が響き、陽向のペルソナが姿を現す。幽玄の奏者――オルフェウスだ。彼女は竪琴をかき鳴らし、術を発動させる。
巻き上がった炎がキリングハンドの群れを焼き払った。アギの複数形呪文・マハラギである。
『弱点にヒット! わぁ、一気に敵を一掃しました!!』
風花が声を弾ませる。確かに、あんな勢いで敵を一掃する様を見ていれば気持ちがいいだろう。
至もうんうん頷きながら、愛用しているライフルの照準を合わせる。狙いは、低空飛行で飛び回るスマッシュレイヴンの群れたちだ。
ランプの中にある赤い炎がちろちろと点滅している。それを目印に、引き金を引いた。1発、2発、3発、4発――派手な発砲音が鳴り響き、弾丸は寸分の狂いもなく鳥たちを貫く。
ぴぃ、と、悲痛な金切り声が響き渡った。群れのうち何羽かがそのまま消滅し、何羽かが体勢を崩す。それを見過ごさず、至は手を挙げた。
ナルカミを呼び出し、合図する。着物を着た彼の周囲に冷気が漂いはじめた。
それは一気に吹き荒れ、あっという間に残りのスマッシュレイヴンたちを飲み込む。
「マハブフダイン!」
凄まじい吹雪は、鳥たちの後から飛び出してきた情欲の蛇ごと呑み込む。弱点を突かれたシャドウたちの金切声と、はじけ飛ぶ音が派手に響いた。
これで、面々の後ろ側は大丈夫だ。しんがり役として、きちんと役目を果たすことはできたと思う。
「真田先輩はあっちの敵を、桐条先輩はあそこにいる奴らをお願いします!」
「わかった。こっちも負けられないぞ! ――ポリデュークス、ジオ!」
「了解だ。――ペンテシレア、マハブフ!」
陽向や自分の活躍に触発された上級生たちも動く。陽向の指示に従い、攻撃に入った。召喚機の引き金が引かれ、明彦のポリデュークスと美鶴のペンテシレアが具現する。
迸る雷が鋼鉄のギガスを襲い、巻き起こった冷気が徒党を組んで湧いてきた嫉妬のクビトたちを一網打尽にした。見事な弱点攻撃だ。
互いの健闘を讃え合うように2人は顔を見合わせる。「ナイスです先輩!」――陽向も嬉しそうに笑いながら親指を立てた。
その様子に微笑ましさを覚え――しかし、ちょっとした油断が身を滅ぼすことに繋がるのだ。
至は反射的にショットガンを構え、撃つ。弾丸は、美鶴と明彦の丁度背後に当たる位置から突っ込んできたダークイーグルの羽に直撃した。
振り返った明彦に召喚されたポリデュークスが、間髪入れずジオをうち放つ。悲鳴を上げて崩れ落ちた黒鷲に、美鶴の見事なレイピア捌きと蹴りが炸裂。派手にはじけ飛んだ。
どうやら援護は間に合ったようだ。そして、向こうで別の敵たちを相手取っていた千影・順平・ゆかりも敵を撃破したようだった。
この階で徘徊していたシャドウどもは、あらかた退治できたらしい。静まり返った空間。今度こそ、仲間たちは一息つく。
至も警戒を解きつつ、けれど愛用の銃をいつでも構えられるようにしておくことは忘れない。
「にいさん、ナイス援護!」――陽向が満面の笑みを浮かべた。至もそれに答え、そのままハイタッチ。伊達に10年間、異形のものと戦ってきたわけではないのだ。
念のため、風花に索敵を依頼した。ほどなくして結果が返ってくる。目立った強敵や、要注意らしい死神タイプの姿もないらしい。
面々を見渡せば、まだまだ余裕のようだった。むしろ、本格的な探索はこれからだと言いたげに、瞳をぎらつかせている。
「よーし! この調子で、番人シャドウのいる階まで駆け上るぞー!」
「「「「「「『おー!』」」」」」」
陽向の宣言に、仲間たち全員が拳を突き上げる。至もそれに続いた。
影時間はまだまだ始まったばかりである。そして、この塔の攻略も。
この先にどんな運命が待っているのか、どんな謎が眠っているのか――まだ、誰も知らない。
***
2012.?/?? 昼
八十稲羽/寂びれた神社
「……ふーん。キミ、この神社を再興させたくて悩んでるんだ」
見るからに寂れた神社。それなりに手入れはされているようであったが、やはりボロボロなのは明らかである。
その陰で、1匹の狐が悲しそうにうなだれていた。首元には赤いチェック柄の前かけをつけている。彼女はとても元気が無さそうだ。
そんな狐の眼前で点滅するのは、淡い光。
「なら、お賽銭を効率よく増やすためにいい方法、教えてあげる。……もちろん、タダじゃないよ。ってか、タダでするはずないじゃんか。世の中は等価交換が基本だしね♪」
ピンクの服を着た妖精はにっこりと笑っている。対して、それを持ちかけられた狐が忌々しそうに眉を潜めた。しかし、狐にはどうすることもできないらしい。渋々、と言う様子で小さく鳴いた。
了承を意味する合図。こうなれば、言質は取ったも同然だ。妖精はふふふと笑って視線を上へ向ける。
神社の境内に生える木は、魔を寄せ付けぬ特別な木。その木に生い茂る葉には、どんな怪我や病も一瞬で癒す不思議な力が込められていた。
それだけではない。近々、この田舎町に大きな異変が起きようとしている――それを利用しない手は無い。「近々、いい金づるが来るからね」と、狐に耳打ちする。
ついでに利益の7割を「手間賃」として提供させる約束もした。これで、今回こそがっつりお金が入る。
今まで3回全部酷い目にあい、赤字で終わったのだ。今度こそ、今度こそ――気分がよくなって、妖精は三日月形の笑みを浮かべる。
「いつか祟ってやる。オーバーキルしてやる」とでも言いたげな呪詛のこもった狐の視線など歯牙にもかけず。
ピンクのボッタクリ妖精は、頭の中で呑気に札束を思い描いていたのであった。
――偶然事件に巻き込まれたためにこの町を訪れた“天敵”によって、オーバーキル並みにフルボッコにされるまで、あとXX日。