運命を切り拓くだけの簡単なお仕事   作:白鷺 葵

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IF-XX1.色んな意味で惨事に直面する新しい可能性のひとつ

2013 ?/?? ?

 ?????/?????

 

 

 

 シャドウワーカー。それは、ペルソナ使いによって構成された、“影”の組織である。

 

 主な仕事は“ペルソナが絡んだ事件の解決”であるが、場合によっては凶悪犯に対抗することもある秘密組織。

 それ故、任務中はもちろん、日常生活でも、決して目立ってはならないのだ。

 

 もう一度繰り返そう。

 

 シャドウワーカー。

 それは、ペルソナ使いによって構成された、“影”の組織である。

 

 主な仕事は“ペルソナが絡んだ事件の解決”であるが、場合によっては凶悪犯に対抗することもある秘密組織。

 それ故、任務中はもちろん、日常生活でも、決して目立ってはならないのだ。

 間違っても、“民間人の注目の的になる”なんてことはアウトである。完璧にアウトである。

 

 何度でも繰り返そう。

 

 シャドウワーカー。それは、ペルソナ使いによって構成された、“影”の組織である。

 文字通り“影”なので、任務中はもちろん、日常生活でも、決して目立ってはならない。間違っても、そんな事態になってはいけない。

 

 

 ――最後にもう一度だけ、確認しよう。

 

 シャドウワーカー。

 それは、ペルソナ使いによって構成された、“影”の組織である。

 

 主な仕事は“ペルソナが絡んだ事件の解決”であるが、場合によっては凶悪犯に対抗することもある秘密組織。

 それ故、任務中はもちろん、日常生活でも、決して目立ってはならないのだ。

 

 ……その上で、ひとつ質問だ。

 

 至る所に何か仕込まれていそうな危険な雰囲気を漂わせる黒いライダースーツに、艶やかな光沢を纏う白い毛皮のコート(特注品)に身を包んだ女性。

 一切隠し通そうとする努力が見当たらず、マシンガンやら関節やらの機械部分が完璧にフルオープン(むき出し)になっているロボット少女。

 上半身裸で赤いマントとボクサーパンツに身を包んだ、「どこからどう見ても不審者です本当にありがとうございました」的な格好をしている青年。

 

 誰もかれも目を引く格好である。むしろ、悪目立ちしすぎて「絶対に目を合わせてはいけない人たち」認定されるレベルである。

 でも、この中で圧倒的に目を引くのは誰だと問われたら、誰を名指しするであろうか。

 

 

「…………」

 

 

 彼らと真正面に向かい合う男性は、ただ茫然と面々を見返していた。

 

 3人の身なりに驚いた、というのもある。それぞれがそれぞれ、突出した格好をしていたからだ。

 男性の眉間に皺が寄る。眉と口元がひきつる。喉の奥から微かに変な声が漏れる。沈黙が続く。

 

 

「……1つ確認したい。それ、正装(仕事着)?」

 

「はい。そのつもりですが」

 

 

 男性の問いに、女性は何の迷いもなく頷いた。ややあって、「何か、おかしい所が?」と小首を傾げてみせる。

 しかし男性はその問いには答えず、ただ黙っている。眉間の皺がさらに深く刻まれた。何か言いたげに視線を3人の服装に向けて、息を吸って、吐いて。

 

 

「真面目に、正装(仕事着)なのか?」

 

「はい」

 

「はい、であります」

 

「はい」

 

 

 今度は女性だけでなく、少女と青年も真顔で返事を返した。彼らの目はどこまでも純粋である。そしてどこまでも本気である。男性がこめかみを抑えてしまうくらいに。勿論、この面々が理由を察せるはずがない。

 「どうしたんです?」「体調が悪いのでありますか?」「だとしたら、早めに休んだ方がいい。貴方はただでさえ多忙なんですし」――的を盛大に外したフォローのせいで、ますます頭痛が悪化しそうなのだろう。彼は眉間の皺をより一層深くし、首を振る。

 ちがう、ちがうんだ、そうじゃない――どこか憔悴したような、何かが喉につっかえたような、心地が悪そうな声。心なしか、男性の肩がわなわなと震えているように見えなくもない。しかし(というかやはりなのか)悲しいがな、件の3人は全く気付いていなかった。

 

 3人が顔を見合わせ、首を傾げあう。

 

 男性は、ついに言う気になったのだろう。大きく息を吸って、勢いよく顔を上げた。

 

 

「お前ら、どっからどう見てもそのカッコは完全にアウトだからな!! ――特に明彦、お前は服を着ろ! 今すぐだ!!」

 

 

 

 

 

 

【IF-XX1.色んな意味で惨事に直面する新しい可能性のひとつ】

 

 

 

 

 

 

 

2013+n(1≦n<6) ?/?? ?

 某所/とある店内

 

 

 

「…………」

 

 

 男性の話を聞いた青年は、「アイツならそうなると思った」とため息をついて視線を逸らした。男性も、彼のぼやきに同調するように肩を落とす。

 とある筋から関わった真夜中のテレビに“帰ってきた力の狂信者・剛腕のプロテインジャンキー”なんて紹介されていた時は度肝を抜かれたが、彼――真田 明彦と久々に顔を合わせて理解できた。そう呟いて、男性はこめかみを抑え大きく息を吐く。

 

 実際、明彦は仕事中に「おまわりさんこいつです」とあわや通報されかけたのである。リーダーである女性のおかげで事なきを得たが、どう考えても笑い話で済むレベルではない。

 もちろん怒られた。男性の友人である警察官たちからも、組織のトップからも。罰として、プロテインと肉禁止令が出されたという。それでベッコベコに凹んでしまったのだから、彼らしいといえば彼らしいものだ。

 「肉とプロテインさえあれば生きていけるような、バカな奴だから……」――明彦とは孤児院時代からの付き合いを持つ青年が、疲れ切ったようにまたため息を吐く。青年は思い出しているのだろう。明彦の爆走っぷりを。

 

 自分の実力を、ひいては限界を知りたい。……未だに、明彦の根本的な思考回路には一切の揺らぎが無いようだ。

 

 男性がかつて贈った言葉の意味を考えてはいるけれど、かつて、そして己を支え続けてきた力への執着は変わらない。そして終わらない。

 けれど、彼が力を追いかけるのは「守りたいものを守るため」だ。ただがむしゃらに追いかけていた頃とは違い、その横顔は晴れ晴れとしている。

 

 

「正直、甘く見てた。……仕事着なんだから、とーぜん仕事の時は着替えるわな」

 

「……いや、アンタはよくやった。充分、あの世間知らずの天然たちをフォローしたよ。俺だったら投げてる」

 

 

 青年は、男性の苦労を知っていた。実は男性、シャドウワーカー3人組の服装があまりにもアレだったので頑張った。自分の友人であるカリスマモデルと芸能人に連絡し、彼らが信頼するスタイリストを呼びつけたのである。

 色々ぎゃあぎゃあ大騒ぎした挙句、なんとか「普通の、けれど洗練された都会人」というイメージの洋服を見繕い、最初の時の凄まじい服装のイメージを払拭した。そして「一般人」の装いになった面々を送り出したのだ。……そこまではよかった。

 

 しかし、3人はあの服装に戻ったのだ。「仕事をするから」という、超単純な理由で。

 

 もちろん、仕事先であった八十稲羽(田舎町)のペルソナ使いは唖然茫然。

 男性が真夜中のテレビに関わったときに起きた、“田舎町にリムジンが乗り付けてくる”並みのショックだったことには相違ない。

 

 「もうやだ。南条くんと美鶴の逸般人(いっぱんじん)っぷり」――かつての級友にして上司・南条 圭と組織のトップである女傑・桐条 美鶴の名を呟きながら、男性はテーブルに突っ伏す。

 青年は何も言えなくて、ひっそりとアイスコーヒーを煽る。窓の外から見える景色は、熱波が蜃気楼のように揺らめいていた。うだるような暑さに辟易しながら、けれど人々はしっかりと足を進めている。自分が目指すべき場所に向かって、だ。

 

 真夏の暑さに晒されているわけではないのに、男性はひどく疲れた様子で窓の外の景色を見やる。冷房の涼しさを噛みしめるように、伸びきった体勢のままグラスを揺らした。

 氷とグラスがぶつかり合い、軽やかで涼しげな音を立てた。少しは涼しさに救われるのが普通なのだが、男性は未だにぐったりしているように見える。

 ここまで披露している姿を見せるなんて珍しいことだ。その事実に少しだけ笑みをこぼし――けれどそうとは察されぬよう、青年はアイスコーヒーを一気に飲み干した。

 

 ――刹那、この店内に似つかわしくない歌が流れ出す。サトミタダシのうただ。

 

 

「あ、電話だ」

 

 

 勿論、その凶悪な歌を着信にしている人間は、男性ただ1人である。彼は即座に姿勢を正して電話に出る。

 ……先程まで、しなびた植物みたいになっていたのが嘘のようだ。

 

 

「もしもし? あ、明彦? 丁度いいタイミングで電話して来たな。今、真次郎と一緒にお前の話題で盛り下がってたとこ。……はは、そんな怒るなって。事実だから」

 

 

 どうやら、件の明彦からの電話だったようだ。青年――荒垣 真次郎は思わず口元を緩める。幼馴染からの連絡が嬉しいのだろう。

 それを視界の端に捉えて、男性もひっそりと微笑む。昔に比べれば、真次郎はよく穏やかな表情を浮かべるようになった。

 

 

「で、何か用? ……うん、うん……は? マヨナカテレビ? アリーナ? …………“今も昔も現役な超大型ハリケーン・神話爆走”空本 至ぅ? ……なんだそれ、何かの広告かなんか? ……“今も昔も現役な超ド級の朴念仁・神話覚醒”藤堂 航? なんで航なんだよ? ――……え、なに? 真次郎や陽向たちもいる? なんでだよ、意味わかんねーな」

 

 

 「事件は解決したんじゃ――」男性――空本 至はそう言いかけ、何か思い出したように言葉を止めた。ぴくぴくと口元を引きつらせる。

 かすかに響いた共鳴反応に、至が弾かれたように窓を見た。黄金の蝶がひらひら飛んでいる。あれの正体を、至と真次郎は知っていた。普遍的無意識の片割れである。

 

 

「……オーケー明彦、情報ありがと。総仕上げは俺達に回されたみてーだから、頑張って来るわ」

 

 

 手短に連絡し、電話を切る。至は何かを確認するように真次郎を見返した。真次郎も、何の迷いもなく頷き返す。

 かつては至が申し訳なさそうな眼差しを真次郎に向けていたが、今ではそんなことはなくなっていた。きっと至は気づいていないに違いない。勿論、その事実に安堵している真次郎は、自分がそう思っていることを知らない。

 2人は携帯電話を片手に連絡する。至は弟の国光 千影に、真次郎は大切な相手・要 陽向に。数コールで繋がり、2人は手短に件の話を説明した。受話器越しの千影と陽向は躊躇うことなく頷き返してくれた。

 

 あとは至の双子の弟・藤堂 航だけである。

 

 至は携帯電話にかけてみたが、眉を顰めた。いつまでたっても航が出ないからだろう。

 気を取り直すように、今度は圭にかけてみる。圭は電話に出たらしい。至は半ば怒鳴るように航の名を出し――止まる。

 

 しばし無言。幾何かの間を置いた後、「某桃姫か!」と零し、電話を切る。至は慌てた様子で立ち上がり、伝票片手にずかずかと歩みを進めた。

 何事かと真次郎が問いかける。至は半ばイライラを吐き出すように、カウンターに伝票を叩きつけながら、告げた。

 

 

普遍的無意識ども(あいつら)、航をマヨナカテレビに突き落しやがった!!」

 

 

 

 空本 至とその関係者たちの戦いは、再び幕を開けることになるのだが――それはまた、別のお話。

 どこかの世界にありうるであろう、物語の可能性。

 

 機会があったら、語るとしよう。

 

 

 

 そしてそれは、ある可能性を切り拓き、未来へと繋がっていく――――。

 

 

 

 

$$$

 

 

 

 

 

2019 ?/?? 夕方

 綾凪市/某所

 

 

 

 

「お前さぁ、どう考えても不法侵入だからね。絶対『おまわりさんこっちです』って連絡されてもおかしくないからね。完璧にアウトだから」

 

「問題ないだろう。ちょっと台所を拝借するだけだ」

 

「いやいやいやいや。明彦、普通に考えなさい。自分が直面した時のことを考えてみなさい。“ある日家に帰ってきたら見知らぬ男性が晩御飯作ってました”ってなったら、お前は一体どうすんの? 普通の人は即座におまわりさん呼ぶからね。迷いも躊躇いもなくおまわりさん召喚するから……って、言ってる傍から冷蔵庫を物色するんじゃない!!」

 

「……ううむ、いまいち大規模な料理は作れそうにないな……。チャーハンで行くか」

 

「チャーハン!? またご飯ものかよ! お前、こっちに赴任する前に真次郎くんから『1人でも作れる簡単料理』の手ほどき受けたはずだろ!? なんでマスターしたレパートリーは全部ご飯がらみなんだよ!」

 

「シンジに『いろいろ面倒だから、手軽にできて腹いっぱいになるご飯料理を教えてくれ』って頼み込んだら教えてくれた」

 

「真次郎くんが投げた。完全に投げた。風ちゃんでも見捨てず気長に教えてたのに……って、手際いいなお前」

 

「一人暮らしをするようになってから、自炊してたんでな」

 

「ごめん。毎食プロテインだけで過ごしてるかと思ってた。“剛腕のプロテインジャンキー”よろしくな惨事になってるかと」

 

「貴方は俺を何だと思っているんだ!?」

 

「おい、ご飯飛ぶぞ気を付けろ! ――あれ? なんで俺お前の料理にアドバイスしてんの? 違うだろ! このままいったら非常にマズイって! 慎くん帰ってきたら絶対警察に電話するよ! 不法侵入で訴えられるよ! そんなことになったら文字通りの惨事になるってーの! 参事官が惨事引き起こしてどうすんだ!? なにこれ、ギャグにしても何にしても笑えない!!」

 

「文字通り“さんじ”ってか! ……って、幾月かアンタは!?」

 

「あの野郎と同格扱いしないでくれる!? すごく虫唾が走るから! てか、いい加減にしなさい。慎くん、お前のことは絶対不審者だと思うからね。もしも本当に通報しちゃって、『おまわりさんこっちです』から『こいつがおまわりさんです』的な事態になったら、お前一体どうするつもり――」

 

 

 

「もしもし警察ですか? 今ウチに不審者が……」

 

「慎くんごめん、ほんとうにごめん。こいつがおまわりさんなんだ」

 

「えっ」

 

「そして認めたくないけど、俺の後輩にあたる元・ペルソナ使いの警官で、惨事官なんだ」

 

「「えっ」」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――結局チャーハンだけかよ!?」

 

「ああ。有り合わせだが、けっこういけるぞ? むぐむぐ、もぐもぐ――たびぇなひのか、2人とも?」

 

「口に物を突っ込みながら話すんじゃありません! てか、食器も材料も全部このお宅のだから! 偉そうに言うんじゃないの!!」

 

「……至さん、この人……」

 

「ごめんね慎くん。後で、旧知の仲である人たちにきつーく叱ってもらうから。ついでに冷蔵庫の材料も補充しとくから。……えーと、美鶴と真次郎くんの電話番号は――」

 

「よりにもよってその2人か!? ――ッ!!? ごふっ、げふっ……」

 

「わー!? み、水ー!!」

 

「なんだこの惨事」

 

 

 

 

 ――……これもまた、別のお話。

 どこかの世界にありうるであろう、物語の可能性。

 

 機会があったら、語るとしよう。

 

 

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