運命を切り拓くだけの簡単なお仕事   作:白鷺 葵

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1-5.縁を辿って縁に行きつくだけの簡単なお仕事

2009.6/30 朝

 巌戸台分寮/ラウンジ

 

 

 

「……やっぱり、増えてきたな」

 

 

 ニュースと新聞に目を通した後、至は大きくため息をついた。昨日届いた麻希のメールにも、前者と同じ情報が載っている。特に後者であるメールには、患者の様態についての詳細が記されていた。

 彼女はある意味、巌戸台式影人間の最前線にいるのだ。影人間にされてしまった人間の症状や詳しい人数やらの情報はとても貴重である。あとは患者の事故現場と在住先か。シャドウの行動範囲や影響範囲の割り出しにも使えそうだ。

 

 ただ今統計作成中である。次の満月までには結果が出る予定だ。

 

 他の面々も朝食に箸を進めつつ、険しい顔でニュースや新聞に視線を向ける。この街での“影人間の増加”は、満月に現れる巨大シャドウが活発化してきた証拠だ。

 誰が何かを言わずともぴりぴりした空気が漂う。満月への戦いへ向けて、面々は色々と思う所があるらしい。さながら“負けられない試合”に挑まんとするスポーツ選手に

見えなくもない。明彦の考えは、ある意味で間違いではないのだ。

 ただしこの試合、負けたらリベンジもクソもない。良くて影人間の仲間入り、悪くて現実時間内で“事故死”処理である。まるで、セベク・スキャンダルで対峙した裏の会長・武多(たけだ)の仕事内容みたいだと至は思う。

 

 奴の仕事は「神取の障害になりうるモノの抹殺」であり、主に対象物や対象物関連のもみ消しがメインだった。

 そして至も、その“抹殺対象”にされた人間の1人である。

 

 

「でも、今回の行方不明事件は奇妙だよね。接点の有無や性別に関わらず、2人組が突然行方不明になるんでしょ?」

 

「あー。接点がない場合もあれば、恋人同士だったり上司と部下だったり……今度のシャドウは節操ないわねー」

 

「おかげで、周囲の人たちが色々とあらぬ噂で盛り上がってるみたい。夏紀ちゃんも言ってた」

 

 

 陽向、ゆかり、風花が話し込むすぐ横。何を思ったのか、順平がいやらしい笑みを浮かべて妄想に耽っていた。

 

 彼が何を考えているのか、至にはなんとなくわかる気がして苦笑する。まるで高校時代の秀彦や正男を見ているようだ。双子の弟は、未だにそんな浮ついた話は無いようだが。

 ……正直いい加減にしてほしいくらいなのだ。奴のおかげで、至は麻希&英理子の凶悪タッグに色々やられている。奴らの所業を思い返すだけで寒気がした。何故自分ばかり、弟の割を食う羽目になってしまうのだろうか。

 

 

「男女ペアだと恋人というレッテルが押しつけられたり、同性同士だと一部の人々が目をぎらつかせて語ってる場合が多いですよね。……だからといって、僕はその人たちがどうだとか、そういう非難めいたことを言うつもりはありませんが」

 

「? 何故、同性同士だと一部の人間がそうなるんだ?」

 

「あー……。先輩、知らない方が幸せだってこともありますよ」

 

 

 千影が気まずそうに視線を逸らし、明彦がきょとんと首をかしげる。彼はまだ子ども並みに純粋である証だ。天然ボケという気質の相乗効果でもありそうだが。

 そういえば、最近優香が「夏の陣」に参加するために頑張っているらしい。仕事を片付けつつ、自分の趣味である薄い本の作成に心血を注いでいるのだとか。何かに熱中できることはいいことである。

 売り出しだけではなく買い出しにも行くそうだ。会場は込み合うことが予測されるので大変なことにならなければいいが、と至は思う。毎回、「夏の陣」や「冬の陣」の映像が流れているのを見るたびに気が遠くなるのだ、笑えない。

 

 オンリーが7月7日にある、と言っていた優香の言葉をふと思い出す。そういえば満月も7月7日だった。

 あっちもこっちも決戦らしい。あまり嬉しくないダブルブッキングである。何とも微妙な気分だ。

 

 明彦の言葉を借りれば、「七夕デスマッチ」なのだそうだ。ボクシングのタイトルマッチっぽい気がしないでもない。まぁ、明彦はボクシング部だし。

 

 そうこうしているうちに、面々は朝食を食べ終えたようだ。がちゃがちゃと音を立てて、流し台へ食器を置いて行く。これを洗うのは寮母である至の仕事だ。

 「行ってきます!」「おう、いってらっしゃい」――面々の見送りを終えて、至は早速皿洗いに取り掛かった。

 

 

 

 

 

【1-5.縁を辿って縁に行きつくだけの簡単なお仕事】

 

 

 

 

 

 掃除と洗濯を終えて一息つく間もなく、至は次の仕事へ取り掛かる。まずは郵便物の確認だ、と、玄関に置いてあったポストを開けた。

 何名かのポストに、手紙が入っている。小包等の届け物はない。宛先と差出人を確認し――止まる。

 

 宛先は伊織 順平、差出人は橿原 淳。

 平行世界で、そしてJOKER事件で関わった、かつての少年の名前があった。

 

 ……最も、平行世界では家庭崩壊が起きており、彼の姓は母親の姓――黒須であったが。

 

 そういえば4年前、彼から「父親である明成と同じ教職に就き、晴れて中学校の生物化学教員になった」という話を聞いた。至もお祝いに駆け付けたから、覚えている。

 特に植物――花に関する知識が豊富で、授業中によく花関連の話をしていたという。女子にモテたい男子生徒や、花が好きな女子生徒からの人気が凄まじいらしい。

 本人の趣味と友人のリサが絡んで文学も嗜んでいるということから、国語科教員と話し込む場面も見受けられるという。

 

 ……そういえば、「父の教え子で、鳥海という先輩の国語担当教師と仲良くなった」という話を聞いた気がする。彼女はその後、有名なマンモス高校に転勤になったそうだ。

 確か、陽向の担任も鳥海という名前だったか。中学・高校の教員免許を両方とも取得している場合なら、中学校から高校へ異動するのは有り得ない可能性でもない。

 

 

(人のつながりって、意外な所に転がってるもんだなー……)

 

 

 封筒に書かれた淳の名前を見つめながら、至はひっそりとひとりごちる。中身を是非とも覗いてみたい衝動に駆られたが、どう考えてもアウトだろう。

 懐かしさからくる誘惑を振り払い、白い封筒を順平のポストに入れておいた。その調子で、誰宛に手紙が届いたのかを確認する。

 

 それら全てを終えて、至は買い物袋を片手に商店街へと足を進める。心なしか、足取りがいつもより軽い気がした。

 

 満月シャドウとの戦いにひと段落ついたら、久々に淳に連絡をとってみよう。家族と生徒たちの話で盛り上がりそうだ。

 寮母さんになったんだと知ったら、彼はどんな反応を示すのか。それはそれで楽しみである。

 

 

(……そういえば、淳が最初に持ってたペルソナって――)

 

 

 ああ、もしかしたら、だからかもしれない。

 

 平行世界の淳が目覚めたペルソナは、Wheel of Fortune(運命)のヘルメス。

 姿とアルカナは違えど、順平と同じ旅人の守護神だ。あまりよく知らないが、平行世界の至は「ラクカジャ神」と呼んでいたらしい。

 

 こちらの世界でも、彼はJOKER事件とは別件の事件に巻き込まれてペルソナ能力を発現している。

 勿論、こちらの彼のが最初に発現したペルソナもWheel of Fortune(運命)のヘルメスだ。

その事件のおかげで淳は平行世界の出来事を“知”り、平行世界の仲間たちと顔を合わせ、再び友としての絆を築き上げた。

 それは今でも育まれ、強く結びついている。丁度この事件の騒ぎが収まった頃だったのだ。淳から「中学校の先生になった」という連絡が届いたのは。

 

 同じペルソナを所持する教師()生徒(順平)。彼らには絆以外にも繋がっているものがあったのかもしれないな、と、至はそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

$$$

 

 

 

 

2009.7/1 夜

 巌戸台分寮/ラウンジ

 

 

 

「――お、黒須 純子だ!」

 

 

 ニュースからアニメへチャンネルを切り替えようとした順平が、思わずと言った様子で声を上げた。テレビ画面には、凛とした佇まいの女優が映っている。

 どうやら、近々舞台公演がこのあたりで行われるらしい。今ここで映し出されている純子は、舞台の主役に抜擢されたようだ。

 

 40代を過ぎたとはいえ、彼女の魅力や立ち振る舞い、そして演技への熱意や技術は衰えることを知らない。

 むしろ、年を重ねるごとに深みを増しているように思う。かつては新進気鋭のアイドルたちが持つ若さに嫉妬し、その果てにJOKER化してしまったなんて嘘みたいだ。

 平行世界ではもっと悲惨な末路を辿ったことも至は知っている。だから、彼女の成功はとても喜ばしいことだった。淳が嬉しそうにしている姿が目に浮かぶ。

 

 

「え? ……順平くん、知ってるの?」

 

「ああ。俺、彼女のファンなんだよなー」

 

「意外。アンタ、人妻熟女趣味でもあったの?」

 

「そんなヤマしいもんじゃないって! 中学時代の恩師繋がりでさー」

 

 

 じと目で見られ、順平は弁解するように――でも恩師の事を誇るように話し始める。

 

 間違いない、淳のことだ。

 

 あまり詳しく公にされているわけではないが、淳と純子は血の繋がった親子なのである。

 舞台公演や仕事の度に、母へ手渡す花束の花を選ぶ彼の姿を知人らは知っていた。至もその1人である。

 

 ゆかりと順平の話に、近くを通りかかった陽向と千影も加わった。この2人も、純子との面識や付き合いがある人間だ。

 それが功を奏したのか否かは知らないが、共通点にはなったらしい。順平が嬉しそうに表情を綻ばせ、純子や淳に関する話をし始める。

 順平は中学時代の恩師・淳から、花関連の知識をいつもご教授して頂いたという。ついでに、彼から「夢を追いかけることの大切さ」を語られたらしい。

 

 

「最初は『うるさい大人の説教だ』って流したけどさ。……最近になって、色々思うことが増えてきてなー」

 

 

 「まぁ、それ以前から文通は続けてるし、たくさんお世話になったんだけど」――どこか照れくさそうに順平は笑う。

 卒業を待たずに巌戸台へ転校したため、それきり淳には会っていないらしい。

 

 会話を盛り上げる面々を横目に、至はふと順平のポストに視線を向けた。彼のポストは空っぽになっている。

 おそらく、恩師である淳の手紙から“何か”を得たのだろう。昨日までの順平とは、文字通り何かが違うような気がした。

 変化の芽は着実に芽吹いている。それはそのまま、順平自身の成長に繋がっていくのだろう。

 

 花が好きだった少年は今、子どもたちという花を育てて咲かせる手伝いをする仕事に就いた。そして、彼が手塩にかけて育てる花の蕾は、近いうちに咲き誇るかもしれない。

 

 近々また手紙を書くつもりなんだ、と、順平が苦笑した。まるで悪戯がばれて困ったような子どもの表情で。

 いいねいいねと周囲が湧く。「花が好きなら、なにか押し花でもつけて送れば?」「名案!」――とても楽しそうだ。

 

 

(……そっか。淳も、立派に仕事やってるんだな……)

 

 

 なんだか感慨深くなって、至はひっそりと微笑んだ。

 

 携帯電話のメール履歴から橿原 淳の名前を探す。しばし時間がかかったが、なんとか見つけることが出来た。

 手短にメールを打ち、送信。これでよし、と、携帯電話を折りたたむ。

 

 少し離れた場所では、相変わらず面々が和やかに会話している。気づけば美鶴や明彦も加わっていた。いつの間にか手紙の書き方講座なるものが開かれている。

 「まずは便箋からだ」――と。どこから持って来たのだろう、美鶴がばさばさと便箋(しかも封筒とのセットもの)を何百種類も取り出してテーブルに並べていく。

 流石は桐条、スケールがでかかった。周囲の面々は唖然茫然である。この調子で行ったら、淳への手紙が出せるのはいつになることやら。

 

 あれはどうだ、これはどうだと便箋を進められ、あーうーあーうー煮え切らぬ返事で返す順平。

 その脇で便箋を物色するのは女子2年生組だった。この便箋だったらあの用途に使えるかも、と、楽しそうに談笑している。

 

 

「もう少し変わった柄の方がいいんじゃないか? これとか」

 

「ちょ、待ってくださいよ! 真面目にやってください真田先輩!」

 

「うわー……真田先輩、さすがにこれは酷くありませんか?」

 

「なっ……!?」

 

 

 変な柄の便箋を差し出した明彦へ、順平と千影の突込みが入る。センスに苦言を呈され、明彦はかなりショックを受けたようだ。青筋がいっぱい刻まれている。

 彼の口が戦慄くのを無視し、順平は真剣な面持ちで便箋選びへと戻った。恩師に失礼のない柄を、他の誰でもない自分自身の手で選ぶつもりらしい。

 

 長らく悩んだ後、彼はとてもシンプルな、けれど凛とした白い花柄が描かれた上品な便箋を選んだ。

 「それ、いいじゃん! 順平意外とセンスあるんじゃない?」――女性陣からも声が上がる。その言葉に、順平は「だろだろ?」と笑った。

 この時点で胸を張った彼だが、手紙の書き方講座はこれからが本番だ。美鶴の言葉に、彼は目を点にした後落胆するように肩を落とす。

 

 本当に、いつになったら淳への手紙を書き終えることが出来るのか。見ているこちらも不安になってきた。

 

 妥協を許さない美鶴の様子から、まだまだ時間がかかりそうなことは明らかだ。

 「俺にはセンスがないのか」と呪詛を唱える明彦を背にして、彼女の手紙の書き方講座が繰り広げられる。

 

 

「……でも、何を書こうかな。俺ッチ的には活動部のことを書きたいけど、流石にアウトっすよね……」

 

「いいや、大丈夫だと思うぞ? おそらく話は通じる」

 

 

 突如割って入った至に、面々が目を丸くする。

 至は懐からタロットカードを取り出し、面々に示した。描かれたカードは、Wheel of Fortune(運命)

 

 

「彼――橿原 淳は、俺の知り合いで、ペルソナ使いの1人だからな」

 

「え? 至さん、橿原先生を知ってたんスか!?」

 

 

 驚いた順平の声に、さらに追撃が入る。

 

 

「ええっ!? 順平って淳さんの教え子だったの!?」

 

「わー、初めて知りましたよー」

 

「えええ!? 陽向っちと千影も知り合い!? 世の中狭すぎじゃねーの!!?」

 

 

 わいわいがやがや。――巌戸台分寮の夜は、まだまだ明けそうにない。

 

 

 余談だが、「順平と淳のペルソナが同じ『ヘルメス』だった」ことを話したら、彼は嬉しそうにガッツポーズをとっていた。

 そして余談ついでに蛇足だが、後にそれを知った淳から「複雑だけどすごく嬉しい」というメールが返ってくることになる。

 

 

 

 

 

$$$

 

 

 

 

2009.7/3 影時間

 タルタロス/奇顔の庭アルカ・後半

 

 

 

 ごう、と、恐ろしい勢いで風が巻き起こる。その狙いは、風属性を苦手とする順平に向けられていた。彼は焦ったように声を上げる。防御しようにも間に合わない。

 それを察知し、至は彼の目の前に割り込むようにして立ちふさがった。即座にペルソナを交代してスザクを呼び出す。至のスザクは風を無効化できるのだ。

 吹き荒れるそれは決して至を傷つけない。打ち放たれたガルダインの威力を相殺するかのように、スザクは大きく羽ばたいた。破裂するような音が響き渡る。

 

 仕返しとばかりに至が腕を掲げれば、紅蓮の聖鳥は高く飛びあがって炎を放った。

 アギダインやマハラギダインなどとは比べ物にならないくらいの、紅蓮の焔――地獄の業火だ。

 

 順平がぽかんとした表情でそれを見つめる。自分のペルソナが覚えているアギ系スキルを復唱しつつ威力を思い出しているようだった。

 天と地以上の差が存在していることは明白である。

 

 

「っ……俺だって! ヘルメス!」

 

 

 負けず嫌いなお調子者は、自分にできることを成すために動く。

 

 引き金が引かれ、淡い光が舞う。順平のヘルメスが嘶くように声を上げた。刹那、ゆかりの足元から青い光が湧き上がる。――援護魔法・ラクカジャだ。

 物理攻撃で狙われ、且つ体力の低いゆかりの援護にはうってつけである。「ナイス順平!」――ゆかりの明るい声が響いた。

 

 それで調子に乗ったらしい。彼は「任せろ!」と言って、仲間たちに対して次々とラクカジャをかけていく。

 “物理攻撃を反射してくる上に、自分の魔法は雀の涙程度の威力しかない。でも、何かできることはあるはずだ”――と。

 この現状で、彼は必死になって“自分ができること”を模索している。いつぞやの至の発言や淳からの手紙が、彼に「変わろう」という意識を持たせているのかもしれない。

 

 ……まぁ、根底には「自分は特別な力を持っている」ことや、「自分を認めてもらいたい」という思いがあるのだろうけど。

 先のモノレールオーバーラン事件でもそんな所があった、とは、陽向からの話である。

 

 

(確かに、突っ走って行きそうな気性はあったけどな。マークとブラウンを足して2で割ったような性格だから)

 

 

 思い出したのは秀彦と正男。お調子者で向こう見ずな、猪突猛進で自己顕示欲が強めな一面を持つ2人である。

 その一面のおかげで現在の成功を勝ち取った、とも言えなくはないが。

 

 騎士が容赦なく打ち出す攻撃。けれど、ラクカジャのおかげでダメージは緩和されている。順平の援護のおかげだろう。

 

 

『真田先輩のかけていたタルンダと、リーダーがかけていたラクンダの効果が切れました!』

 

「先輩、お願いします! ――カハク、ラクンダ!」

 

「よし! ――ポリデュークス、タルンダ!」

 

 

 引き金が引かれ、ポリデュークスとチャイナ服に身を包んだ妖精――カハクが降り立つ。赤と紫の光が番人――不屈の騎士を包み込み、奴から力を奪い取った。

 

 間髪入れず、美鶴と千影が召喚機の引き金を引く。まずはペンテシレアが降り立ち、不屈の騎士へレイピアの切っ先を向けた。

 続いてペリが降り立ち、手を掲げる。2体の周囲に冷気が収束する。氷系の術・ブフーラだ。

 

 魔法攻撃が得意なペルソナ2体の攻撃に耐え切れず、騎士が膝をつく。それでも不屈の名を冠する番人は、ふらつきながらも立ち上がった。

 再び風が巻き起こる。先程は防御態勢が取れなかった順平だが、今度は防御が間に合ったらしい。他の面々も同じだった。

 このまま押し切る――陽向の視線の意味を理解した面々は頷いて駆け出す。至もまた、それに続いて援護体制を取る。これは保険だ。

 

 雷が、炎が、氷が、唸る。迎え撃つ騎士の周囲に、風が巻き起こる。

 

 

「「「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」」」

 

 

 陽向のアギラオ、美鶴のブフーラ、千影のジオンガが、同時に打ち出された! それらは不屈の騎士が打ち出したガルーラとぶつかり合う。

 拮抗していた4つの属性たち。徐々に、徐々に、陽向たちがうち放った3属性が、不屈の騎士のガルーラを押し返し始める。――そして、競り勝った。

 

 迸る雷が、冷気が、焔が、騎士に襲いかかる。それらをまともに喰らった番人は、断末魔の悲鳴を残して消えていった。

 

 ぴりぴりした空気がしばし漂ったが、もう何も出てこないと確証した面々が脱力する。至も保険としてためていた力を抜いた。代わりに、面々へ回復魔法をかけてやった。

 スザクが柔らかな声で鳴く。温かな光が、疲れ切った面々の傷を癒していった。今日はもう少しだけ先に進むつもりでいる。

 

 

「順平、ナイス援護!」

 

「おう! 当然!!」

 

 

 その言葉に、彼は誇らしげに胸を張った。今回は褒めてもいいよね、と、ゆかりが茶化すように笑う。

 「今回はってなんだよー、ゆかりッちったら酷いなー」――むくれるように順平が口をとがらせ、それが引き金になったのか、面々も笑い出した。

 いつにも増して和やかな空気が漂う。尊敬する恩師と同じペルソナを誇るように、順平はとんとんと胸を手で軽く叩いた。

 

 周囲を軽く探索し、アイテムと宝箱を回収。そしてその勢いのまま、面々は60階への階段を駆け上った。

 

 

 ――静かである。敵がほとんどいない。

 

 

 その調子でまた階段を見つけ、先へ進む。次の階も、その次の階も、その次の次の階も、敵は殆ど徘徊している様子はない。

 そして65階までたどり着いた時、一際目立つ大きな階段が鎮座していた。……最も、その大階段の前には、何か不思議な力によって閉じられた門があるだけだったが。

 

 

「今回は、ここで行き止まりみたいだね」

 

『そうみたいです……』

 

 

 陽向が確認するように門を睨めば、風花が息を吐くような調子で頷いたらしい。

 

 どうやら、この塔は“ある一定期間が経過すると先の階層が開かれていく”形式のようだ。この先へ行くためには、あともう少し待つ必要がある。なんてじれったいのだろう。

 至がため息をついた瞬間、何かが自分の頭に直撃した。ぺしん、という軽い音。「いって!」――自分でも間抜けな声が出てしまったと思う。

 足元に落ちたそれを拾い上げ――至は思わず息をのむ。人工島計画書文だ。慌ててざっと目を通そうとし――

 

 

「至にいさん、帰るよー?」

 

 

 陽向の声に断念した。

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