運命を切り拓くだけの簡単なお仕事   作:白鷺 葵

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2-5.機械乙女をパーティに迎えるだけの簡単なお仕事

2009.7/21 朝

 屋久島/ラボの道中

 

 

 

 

 今日はテコでも浜に出ないことにした。

 理由は簡単、あの女帝(まおう)2人が、本日も浜辺にいるからである。

 

 身内以外誰もいないのなら、襲われても多少(?)問題ないと思う。止めてくれるストッパーもいるし、ペルソナ能力を具現化させても何も言われないだろうし。

 しかし悲しいがな、今日は運悪く一般人が浜辺でうろうろしていた。昨日のような不運(こううん)が連続して起こるわけがないのである。そんな事態は稀だろう。

 勿論、あの地獄を間近で目撃してしまった圭たちは、二つ返事で至の「今日は海に行かない!」発言を聞いてくれた。むしろ「行くな」と止めてくれた。持つべきものはやはり友人と理解者である。

 

 この別荘が並大抵の娯楽施設など比にもならないくらい、豪華な場所だということは知っていた。

 すぐ傍に海があるにも関わらずプールバーがあったり、テニスコートや運動場があったり、カラオケ設備も完備されていたり。

 

 ……そこで時間を潰す、という選択肢がなかったわけではない。

 

 しかし、“桐条当主や南条当主、あるいは関係者から許可を得た”とか“関係者と知り合いだ”とかで、あの女帝(まおう)2人がが乗り込んでくる可能性も否定できない。

 桐条や南条の名前を出されてしまえば使用人も頷くしかないし、関係者に会いたいと強く要望されれば無碍に扱うこともできないのだ。絶対、敷地内の中に入ってくる。

 もしそうなってしまえば、昨日の再来である。至の穏やかな時間は木端微塵になることは明らかだ。ゆっくり休むことすらできやしなくなる。

 

 

『じゃあ、せっかくだからラボの方に行かないか? シャドウに関する話や研究成果の情報交換もしたいからな』

 

『成程。そこなら部外者は立ち入り禁止だろうから、行こうかな』

 

『えっ?』

 

『――いや、こっちの話だよ』

 

 

 そんな時に出てきた航の提案に、即2つ返事で頷く。至の言葉の意味を知らない幾月が首をかしげた。ああ、無知は何て罪深い(シアワセ)なのだろう。奴は麻希と英理子の破壊神っぷりを運良く(?)目撃しなくて済んだ人間であった。羨ましいったらありゃしない。何故自分はクジ運が悪いんだろう。

 それに、桐条の研究所と言ったら、南条並みのセキュリテイと秘匿性の高さを誇っていることは間違いなさそうだ。そうなれば、“麻希や英理子が航を追いかけ、自分たちの後をついて来た”という最悪の事態から逃げられるかもしれない。

 

 

(――そう考えた時期が、俺にもありました)

 

 

 至は心の中で呟き、大きく肩を落とした。幾月からの何とも言えない眼差しが痛い。同情するなら助けてくれ、マジで。

 

 鬱になりそうな気分のまま目線を動かす。そこには、何故か部外者である麻希と英理子が航を囲んで何かを話している姿が目に入った。おいマネージャー、奴らを止めてくれ――言いかけて、止めた。彼等も奴らの被害者である。これ以上何も言えそうになかった。女の執念は怖い。

 どうしてこんな時に限って、圭や武治は「仕事のため」に帰ってしまうんだろう。仕方がないことだとはわかっているけれど、やっぱり理不尽だし不運すぎるとしか言いようがない。自分は常々こういう運命の元に生まれついているとでも言うのだろうか。至にはTower()アルカナの適性はなかったはずなのに。今ならTower()のペルソナを好き勝手取り扱えそうな気がしないでもない。

 別件で出会ったTower()アルカナのペルソナ使い(not.城戸玲司)は、自分のペルソナがミジャクジ――“日本代表ご立派さま”だったことに絶望して、ペルソナ暴走を引き起こしていた。最近の連絡では、ペルソナが覚醒してマーラ――“世界のご立派さま”になったという連絡が届いたか。「周囲の面々からペルソナ能力を探知されるのが怖い」とも言っていた。哀しい話である。

 

 そんなことを考えていたら、いつの間にか航と幾月が先に行ってしまった。

 残されたのは、自分だけ。やばいと思い、慌てて研究室に入ろうとしたがもう遅い。

 

 

「至くん、ちょっと待ってくれないかなー?」

 

「ダメですよItaru。逃げようったって、私たちが許しませんわ」

 

 

 

 ――ガッ。

 

 表わすとしたら、そんな擬音が入るだろう。強い力で両腕を掴まれる。右は麻希、左は英理子。

 

 ぎぎぎ、と、至は首を動かす。相変わらず、麻希と英理子は笑っていた。昨日、海岸を焦土同然にした時と、寸分変わらぬ笑みが浮かんでいる。

 止めてくれ。ここでペルソナをぶっ放つのだけはやめてくれ――至は全力で訴える。気圧されて声が出なくなってしまった代わりに、眼差しで訴えた。しかし甘かった。奴らは話を聞いてくれなかった。

 ごう、と風が吹く。具現化したのは、2人が全力で作った「マリンカリンやメギドラオン、ヒエロスグリュペインを継承させた最強使用」のピクシーだ。航を口説き落とし、且つ、至を自分の味方に引き入れるための脅迫用に作られたペルソナの1体。

 

 確実に殺しにかかってる。もう、「周囲にどれだけの被害を出そうが気にしない」という眼差しになっている。

 きっと今日の夕刊や明日の朝刊は大騒ぎだろう。原因不明の爆発事故――うん、新聞の一面は表題は決まったも同然だ。

 

 

(――ああ、俺オワタ)

 

 

 メギドラオンとヒエロスグリュペインをうち放つためのエネルギーが収束する。それを感じ取ったせいか、びりびりと魔力が頬を打った。どんどん魔力は膨れ上がっていく。

 研究所の職員全員に謝罪の言葉を呟きながら、至は諦めて目を閉じた。せめてもの抵抗と言えば、自分が現在降魔しているナルカミの全攻撃耐性(半減)くらいか。

 しかしそれも所詮は雀の涙。2人のペルソナがうち放つ術技の威力は、ナルカミの耐性など気にもせず問答無用で大ダメージを与えてくる。貫通なんてスキル、この世界には存在しないはずなのに、だ。

 

 終わりを覚悟していた時――不意に、背後から感じたペルソナの共鳴反応に目を開けて振り返る。

 

 至が突然動き出したのか、あるいは彼女たちも共鳴反応に気づいたのか――それはわからない。わからないが、女2人も同じ方向に目線を向けた。

 次の瞬間、恐ろしい勢いで“何か”が飛び出して来る! 慌てて回避しようとしたが、間に合わない。

 

 

「うおっ!?」

 

「「きゃあ!」」

 

 

 突っ込んできた勢いそのまま、“それ”によって弾き飛ばされる。

 

 背中と頭に強い衝撃を感じたと思った瞬間、至の意識は完全にブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

【2-5.機械乙女をパーティに迎えるだけの簡単なお仕事】

 

 

 

 

 

 

同日 夜

 屋久島/桐条家別邸・応接室

 

 

 

 

「……で、俺や麻希とエリーを弾き飛ばしたのが、この子?」

 

「はい。先程は申し訳ありませんでした。私はアイギス、シャドウ掃討を目的に活動中です」

 

 

 金髪碧眼の機械乙女――アイギスは、淀みなく言葉を紡いで謝罪する。綺麗な90度のお辞儀だ。プログラムとはいえ、完成度は高い。

 心を持つ機械なんて、漫画や小説の中にしかないと思っていた。しかも、第一印象が人と相違ない程の外見だとは。素直に感嘆せざるを得ない。

 

 彼女が、つい数時間前に至たちを弾き飛ばした張本人。そして、ペルソナを心に宿したシャドウ殲滅兵器なのだ。あの時の共鳴現象は彼女のペルソナ・パラディオンのものらしい。

 アルカナタイプはChariot(戦車)。物理攻撃と味方のサポートに特化した術技構成となっている、物理系のエキスパート。順平や明彦と同じパワータイプである。

 他の面々に対する自己紹介は既に終わっていたらしい。順平が「こんなに可愛いのにロボなんて」と打ちひしがれている。勿論、誰1人としてフォローに回らない。そして至も回るつもりがない。

 

 アイギスは陽向にべったりとしている。これはこのままでいいのかと視線で問えば、陽向は困ったように首を振った。陽向ではどうしようもないようだ。

 

 

「なんでも、この子にとって、ひなが“大切”らしいです」

 

「……大切、ねぇ」

 

 

 千影がそう言って、アイギスを見た。困惑した眼差しが向けられても、彼女は無反応である。

 至はじっと眼差しを向けるが、アイギスは何も語らない。無機質な瞳がこちらを見返すだけだ。

 

 アイギス本人にも、陽向に執着する理由がわかっていないらしい。ただひたすら、陽向が大切なのだと訴えた。

 

 ううむ、と幾月は考え込む。眼差しは“技術者”としてのそれだ。

 普段からこういう仕事人としての眼差しを見せてくれていれば、頼りない理事長という評価も変わると思う。

 まぁ、技術者の大半は“自分の研究分野や仕事と関わらない分野は廃人並みに酷い”を地で行くことが多いのであるが。

 

 その筆頭を行くであろう弟(家事能力:-EX.調理器具に触っただけで大爆発するレベル)は、アイギスや書類と睨めっこを続けている。

 至には到底理解できない単語や数式をぶつぶつ呟きながら、何やら思考に集中しているようだった。

 

 入れ違いに、自分の見解をまとめた幾月が顔を上げる。

 

 

「今朝、突然再起動したばっかりだから、人物認識が完全じゃないのかもしれない。個人的には、寝ボケてるって可能性も……」

 

「それはないな。つい先程彼女を調べてみたが、そう言った不調はどこにも見られなった。だから有り得ない」

 

「航さんの言うとおりです。常識的に考えて、寝ボケるなんてないですって」

 

「…………うんそうだね。機械がそんなことしないよね」

 

 

 持論を一撃で切って捨てられ、追い打ちでゆかりの援護射撃。幾月はるーるー涙を零しながら崩れ落ちた。切って捨てた張本人である航には、当然一切の悪意もない。「藤堂くんにはロマンがない」とひっそり嘆いた幾月の言葉も、「可能性が0だと明らかになっているのはロマンではない」と一蹴した。

 奴にとって、“0%ではないと判断できない”、あるいは“100%無いと判断できたもの”はロマンとは言わない。可能性が“ある”、あるいは“あるかもわからない”からこそロマンなのだと、奴は考えているのだ。

 シュレーティンカーの猫。箱の中の猫は生きているか、あるいは死んでいるのか。開けてみるまで分からない。生死の可能性はフィフティフィフティだからだ。――……多分、それも航の考えるようなロマンに属するんだろう。

 

 このままいけば、航は幾月に対して「航の考えるロマンの定義」を語りつづけることになる。自分の好きな分野に対して、奴は決して妥協しないのだ。そういう意味では、奴と明彦は似たようなタイプだと言える。

 奴が語り出すと面倒なので、さっさとアイギスの件をまとめてもらった。「アイギスが陽向に執着する理由は、後々明かしていくことにする」という。要するに、簡潔に言えば“保留”である。

 

 ……もしも可能性があるとするなら、10年前の事件で“何かがあった”と考える方が妥当だろう。陽向に執着するようになるきっかけが。

 

 幾月やラボの人間から航が聞いた話では、10年前の事件当時はそんなプログラムなどされていなかったらしいし、その後もそんなプログラムを植え付けてはいないらしい。

 機械はプログラムされたことしかやらないのが普通である。心があったとしても、何か“きっかけ”がなければ行動するには至らない。何もないのに「陽向の傍にいなければならない」と言うのはおかしいのだ。

 

 

「でも、きっかけが何であろうと、アイギスが一緒にいてくれるのは嬉しいよ」

 

「ひな……」

 

「はい。全力で、陽向さんの傍にいるであります」

 

 

 陽向が楽しそうに微笑む。アイギスはそれを確認し、びしっと背を正した。これに敬礼のポーズが追加されれば、まんま軍人である。……座ってる状態ではやらないだろうが。

 あの様子からして、アイギスは陽向に害をなす存在ではなさそうだ。むしろ、陽向を守るために全力を尽くす所存でいるらしい。なら、多分問題ないか。現時点では、そういうことにしておこう。

 

 至は早々に決断を下し、大きく息を吐く。

 

 

「……それはそれでいいとして、だ。なんで麻希とエリーが、桐条の別荘でカラオケやってんだよ」

 

「麻希は宿泊していたホテルの水道管が破裂して、部屋が水浸しになったために泊まれなくなったらしい。英理子は悪質なストーカーが嫌がらせをしてきたようで、身を隠すという意味でこちらに来たらしいぞ」

 

(どこまでが本当なんだか)

 

 

 航が語っているのはもっともらしい理由だが、2人の執着ぶりからして嫌な予感しかしない。ソースは長年の経験である。伊達に、航攻略に必要だと言う理由で色々追い回されてきたわけではない。

 カラオケに興じるモデルとセラピストの様子を見ながら、幾月が肩を落としている。どうやら彼は、カラオケで歌いたかったようだ。もはや麻希と英理子の独壇場である。幾月などお呼びじゃない。

 他の面々も同じ気持ちのようだった。それとなくリモコン求めて手を伸ばす幾月からリモコンを死守している。絶対に渡すつもりはないようだった。それもそうか。一般人よりも芸能人が歌う方がいいに決まってる。

 

 むしろ、幾月に歌わせるくらいなら、麻希と英理子に渡した方がマシだと思うのだ。

 S.E.E.Sの面々が下した判断は間違っていない。

 

 すかっ、と、幾月の手が空を掴む。「あ」と、間の抜けた声が響いた気がする。

 

 勿論、面々は気にも留めない。英理子と麻希の熱唱に拍手を送るのに夢中になっているのだ。そういえば、あの2人の交渉にも「歌う」があったような気がする。

 恋愛面さえ除けば、麻希と英理子は仲のいい友人と言っていい。セベク・スキャンダル後はよく一緒にカラオケに行ったり、ファミレスで勉強会をやったりしていたから。

 懐かしい日々を思い出す。時は流れ、色々なものが変わってしまったけれど――変わらないものもあるのだ。至は静かに目を細める。

 

 

「せっかくですし、みんなも歌わない?」

 

「大人数でのChorusも、カラオケの醍醐味ですわ」

 

「いいですね! じゃあ、みんなで歌いましょう! ――ね、何歌うー?」

 

 

 麻希と英理子の勧めに、陽向が頷き振り返る。仲間たちに問えば、みんなこぞって「はいはいはいはーい!」と手を挙げて持ち歌を挙げていく。

 

 「パート分けとかやれる歌が盛り上がるよね」「じゃあ、俺はこの曲がいい」「私はこっちのほうがお勧めだなぁ」――云々。

 入力番号や歌の出だし等を見比べながら、S.E.E.Sの面々が議論を始める。当然、リモコンを幾月に渡そうとする者は誰一人もいない。むしろそれとなく死守してる。

 幾月が俯く。肩が震えている。もしかしたら泣いているのかもしれない。S.E.E.Sの面々は歌う曲を決めたらしい。リモコンを使って入力し、楽しそうにステージへ立つ。

 

 

「桐条先輩も一緒に歌いましょうよ!」

 

「い、いいのか? わ、私は……」

 

「せっかくの機会だ、みんなで歌おうぜ。年齢身分なんて関係ない、今日は無礼講だ!」

 

「ふむ」

 

 

 至の言葉に反応し、航が書類との睨めっこを止めた。いつの間にか、奴の手には書類の代わりにマイクが握られている。歌う気満々だ。

 悪魔と交渉するときもこんな風に歌っていたか。懐かしい。過去の思い出に浸っていた時、タイミングよくイントロが流れ始める。

 

 至はうんうん頷きつつ、さりげなく幾月からリモコンを遠ざけた。

 

 

 

 

 

$$$

 

 

 

 

 

 

2009.7/22 昼

 屋久島/浜辺

 

 

 

 

 どうせこうなるんだろうな、という予測はしていた。だから、別段驚く気も起きない。

 

 要するに、屋久島旅行初日のアレ・2日目の未遂だったアレと同じようなものである。昨日の“未遂”が一番幸運値が高かった場合の結果だったようだ。

 正直に言うと、アレを幸運と言うのは違う気もするのだが。アイギスの突撃で気を失っていたのは、果たして幸運と言えるのか甚だ疑問である。

 

 

「で、今度こそ白黒つけてくださいますわよね? Itaru?」

 

「そうだね。私と桐島さん、どっちにつくのかを」

 

 

 うふふふふふふふふふふふふふ。あははははははははははは。

 

 女帝(まおう)2人の笑い声が怖い。

 

 順平をダウンさせ、総攻撃を仕掛けていた陽向や千影らが止まる。

 美鶴は呆然とこちらを見つめていた。明彦も顔を真っ青にしている。

 

 初日の延長戦、と言った方が正しい光景。至の眼前には、やはりスクルドとウォフマナフ――もとい、麻希と英理子が仁王立ちしている。そしてこの場には、航はいない。彼はしばし浜辺をうろついた後、ラボへと行ってしまった。

 航はここに残ると言う。しばらくラボにいるらしい。麻希と英理子も滞在しようと思っているようだが、さすがにもう無理はできないようだった。勿論、スケジュール的な意味で。「これ以上は無理。本当に無理」と、マネージャーの泣き落としが入ったという。

 一応、彼女たちは良心的な性格である。ただ、結構肉食系な面が強く、己の望む結果を得るためなら多少(?)の無茶をやらかすだけで。その被害が、もろ至に集中砲火するだけであって。良心的でなければ、アイギスに吹っ飛ばされた至を治療してくれなかったであろう。

 

 ……彼女たちにとっては、“航の兄”の株を稼いだだけなのかもしれないが。

 だからといって、そう易々と協力してやるつもりもない。好きな相手くらい、自分の力で射止めるべきだ。

 

 

「何度言われようと、俺は自分の意見を変えるつもりはない。あいつの伴侶は、あいつ自身が決める問題なんだから」

 

 

 殺気が増大した。後光に這い寄る混沌が凶悪な笑みを浮かべている図が見えるのは、きっと気のせいではない。

 あの2名は奴を装備することはできないはずだ。奴に魅入られ、且つDevil《悪魔》の適性がなければ無理なはず。

 

 ああ、愛が成せる技なのか。だとしたら、とんでもなさすぎる――

 

 

「ちょ、麻希さんも英理子さんも止まってください!」

 

「やめてあげて! もうやめてあげてよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」

 

「強力なペルソナ反応を感知しました。――来ます!」

 

「至さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 仲間たちの悲鳴が木霊する。それを最後に、至の視界は真っ白に染め上げられた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

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 空が、世界が、何もかもが、緑色に染まった時間。

 

 無残な程に大破した乗用車から、少女はどうにか這い出した。そして、目の前で起きている光景に息を飲む。

 死神だ。死神が、何かと対峙している。銃撃音が響き、何かと死神がぶつかり合う。火花が飛び散っていた。

 

 両者はアスファルトに叩きつけられる。ボロボロで、満身創痍と言ってもいい。思い通りに動かぬ四肢に力を入れて、どうにか動こうと足掻いていた。

 ずるずると体を引きずって、死神と影が睨み合っていた。互いに限界を超えているにもかかわらず、互いの願いのために戦いを続けようとしている。

 少女は何もできなかった。ただ、その成り行きを見守ることしかできなかった。何かをするには、少女はあまりにも無力だったためだ。

 

 ――ふと、影と死神がこちらを見た。

 

 のたうつようにして、影がゆっくりと近づいてくる。死神はかすかに身じろぎするだけだ。

 少女は動けない。傷の痛みや迫りくる恐怖に、足がすくんでしまったのだ。

 

 眼前に影が迫った。呆然と見上げる少女を見下ろし、影は手を伸ばす。月明かりに影がぼんやりと照らし出された。

 はっきりと見えないが、人だ。だけれど、纏う雰囲気はどこまでも無機質で、無感情で、事務的だった。おおよそ人とは言い難い。

 人にして人ならざる“何か”がゆっくりと口を動かす。何を言っているのかは全く判別できない。問い返す間も余裕もなかった。

 

 次の瞬間、いきなり影が少女の視界を塞いだからである。ひ、と喉がひきつる音が響いた。

 ずる、と。得体の知れぬ何かが入ってくる感覚に見舞われる。嫌だ、嫌だ、やめて――その叫びは、声にならない。影に届くこともない。

 

 

「封印、完了しました――」

 

 

 がしゃん、と、何かが倒れる音。

 

 それを最後に、少女の意識も闇に落ちた。


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