運命を切り拓くだけの簡単なお仕事   作:白鷺 葵

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0-2.はじめての影時間を体感するだけの簡単なお仕事

2009.5/10 夕方

 巌戸台分寮付近

 

 

 

 ふと向けた視界の先に、見覚えのある少女の姿が横切った。

 

 艶やかな深緋色の髪をポニーテールに結び、目が覚めるような猩々緋の瞳を持つ少女。

 見間違えるはずがない。彼女こそ、今年の4月から巌戸台の月光館学園高等部へ編入したため、至たちから離れて寮生活を送っていた可愛い妹分――陽向だ。

 

 

「おーい、ひな!」

 

 

 至は反射的に陽向を呼び、左手を挙げる。道路を挟んだ向こう側にいた陽向はそれに気づいたようで、大きく手を振り返してくれた。

 彼女には「近々長期の仕事で巌戸台へ赴く」と連絡をしていたが、それが「今日」という事は言わなかった。ちょっとしたサプライズである。

 本来だったら、明日に千影が月光館学園に編入することでネタばらしをしようと考えていたのだ。まさか、仕掛ける前に破たんするとは。

 

 こんなに早いタイミング――しかも、巌戸台に足を踏み入れた翌日――で再会するだなんて思わなかった。

 

 ドッキリ企画はおじゃんになってしまったが、再会できたのは僥倖だ。彼女の不在が寂しかったのは事実である。

 信号機が青になる。それを見計らって、陽向は至たちのいる向こう側へと渡って来た。満面の笑みを浮かべ、ぱたぱたと駆け寄ってくる。

 

 「待ってよ陽向!」「どうしたんだよ? いきなり走り出して……てか、誰? その人、知り合いなの?」――陽向の後を、青い帽子をかぶった少年とピンクのセーターを着た少女が追いかけてきた。

 どうやら、友人たちと一緒に寮へ帰る途中らしい。月光館学園の制服や砕けた話口調からして陽向の同級生のようだ。つまり、千影の同級生でもある。それを察した千影が2人に会釈した。

 自分たちと陽向の関係、どうして自分たちが巌戸台へ来たかをざっと説明する。千影が明日から月光館学園に編入することを告げれば、2人は目を輝かせて食いついた。

 

 

「俺、順平! 伊織 順平っていうんだ。困ったことがあったら何でも相談に乗るぜ! 気軽にジュンペーって呼んでくれよ」

 

「アンタじゃ役に立たないでしょ? ……ああ、あたしはゆかり。岳羽 ゆかりっていうの。よろしくね」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 綺麗なお辞儀で斜め45度。我が義弟の特技である。

 

 あまりの美しさに、帽子の少年――順平とセーターの少女――ゆかりが呆気にとられる。そのまま、2人はおずおずとお辞儀し返した。

 流石に綺麗なとまでは言わないが、千影に触発されたらしい。「相変わらずチカは姿勢がいいね」と陽向は笑っている。

 

 明るく朗らかな陽向が太陽ならば、穏やかで物静かな千影は月だと至は思う。この2人は正反対の性格だが、仲はとてもよかった。

 方や遠い親戚、方や従姉の息子。血の繋がりは薄いが、至たちは“家族”である。友人たちからは「本物の家族以上だ」とまで言われたほどだ。

 理由は何であれ、近場に3人揃ったのだ。きっと明日から、楽しい毎日が始まる事だろう。

 

 

「所で、至さんって大学生なんスか?」

 

「え? そう見える? 俺、これでも27歳なんだけど」

 

「ウソ!? 全然若い!」

 

「そうなんだよねー。至兄さんの同級生も『お前無駄に若作りだな』ってため息つくくらいだし」

 

「双子の弟さんである航兄さんもこんな感じですよ?」

 

「うわー……そりゃすげーや。殆ど詐欺じゃないスか! アンチエイジング!?」

 

「ごめんな、特別なことは何もやってないんだわ」

 

「羨ましい。至さん、男性なのにー」

 

 

 わいわいがやがや。

 

 陽向の友人と千影のクラスメート候補と他愛のない談笑をしながら、家路につく。

 

 色々懸念はあるけれど。

 これから2人が過ごす日々が充実したものであってほしい――至は心の底からそう願うのであった。

 

 

 

 

 

【0-2.はじめての影時間を体感するだけの簡単なお仕事】

 

 

 

 

 

 

同日 夜

 至と千影の家/リビングルーム

 

 

 

 陽向と別れ、ようやく自分たちの新居へと帰宅する。圭のツテで得た小さな物件だ。しばらくはここが拠点となる。

 荷物類の片づけは既にあらかた終了していた。明日から普通に生活を営める状況だと言っても過言ではない。

 

 

「いやー、うまかったなァ。はがくれのラーメン! 噂以上だった」

 

「あそこは人気店ですから、混んでて食べれない事の方が多いらしいです。絶望的かと思っていたんですがねー」

 

 

 「一歩間違えれば羽生蛇蕎麦の味そのものですよー」なんて、千影が苦笑する。確かにあれはそういう代物だ。至も頷く。

 1976年の8月2日に、土砂災害で流された村。その村に伝わる郷土料理――それが件の羽生蛇蕎麦だ。

 文字通りの蛇足ではあるが、類似品兼郷土料理として羽生蛇ラーメンなるものも存在する。

 

 作り方の手順は大体一緒。茹でた麺に、甘辛く味付けされたスープを絡める所までは、ごく普通の中華風麺だ。

 ただし、最後の最後にとあるブツを投入する。朝食のパンに塗るもので、その中でも赤いものだ。オレンジでもブルーベリーでもない――イチゴジャム。

 

 初めてその料理を目の当たりにしたとき、「おばあちゃんは俺の事嫌いなのかな」と真剣に悩んだことがある。

 

 至の父方の祖母は羽生蛇村出身で、この郷土料理2品が1番の得意料理だった。今や天に召されてしまったものの、この料理の作り方は至に引き継がれている。

 味がうまかったからではない。完全に「嫌がらせ」や「罰ゲーム」に特化したメニューとして、である。

 ちなみに、食べてみた時の味は、両品とも“どうあがいても絶望”という言葉が似合う味だった。つまり、とんでもなくマズかった。これを食べてから1時間後の記憶が全てすっぽ抜けてしまうほどに。

 

 その記憶は未だに帰ってこない。食べるたびに記憶が飛ぶので、もう諦めてしまった。

 最近はもっぱら「記憶が飛んだ」仲間を作るのに勤しんでいる。勿論、仲間たちから怒られたが。

 

 

(文字通りの“阿鼻叫喚図”だったなぁ。抱き合わせで冬木の泰山麻婆も出したから)

 

 

 劇物との出会いは、両親が離婚する少し前の事だった。観光と親戚への挨拶を兼ねた冬木旅行。昼食時に立ち寄ったのは、とある中華料理屋だった。

 店内はほどほどに人がいて、自分たちは窓際の席に腰掛けたことを覚えている。ふと、自分たちの左隣へと視線を向けたこと――それが、あの外道麻婆を初めて拝んだ瞬間だった。

 件の麻婆豆腐を普通に食べる神父も凄かったが、興味本位に口を付けてぴくりとも動かなくなった人間も見た。どちらかといえば後者の方が衝撃的だったと至は思う。

 

 勿論、泰山麻婆も至の「嫌がらせ」や「罰ゲーム」に特化したメニューとして殿堂入りした。同時に、その3品は至の得意料理である。

 

 それら合わせて“どうあがいても絶望・3点セット”――現場に居合わせた舞耶にそう言わしめ、克哉とパオフゥを一撃で沈めた3品だ。

 ついでに人類実験に興じるバカ×2にも効果があり、顔面に叩きつけられたり口の中に入れられた暁には、しばしのた打ち回っていたか。

 

 その隙をついて「今だ、やっちまえー!」と総攻撃の合図を出したのは、きっと何も間違っていない。そうでもしなけりゃ勝てなかったし。

 

 他にも、色んな相手に対して食べさせていたなと思い至る。ついでに、奇抜なメニューはすべて「嫌がらせ」や「罰ゲーム」用料理として次々に習得していった。

 それらも今となっては同窓会や忘年会の主役となった。活躍頻度はけっこう高い。最近では脅しにも使えるようになった。本当に便利なものである。

 圭や英理子、麻希や秀彦らは何か言いたげな目をしてこちらを見ていたが、料理を作るたびにキッチンを爆破させる航よりはマシではないかと思いたい。この前も、泊まり込みの研究員用にあてがわれていた部屋のキッチンを吹き飛ばしたし。

 

 そんな事を考えつつ、至はテレビのスイッチを入れる。丁度、秀彦が司会を務めるトーク番組の真っ最中だった。

 ゲストはmuses、久慈川りせ等のアイドル達。その中には少々場違いだが、ヴィジュアル系バンドのボーカル・ミッシェルもいる。

 

 

「おーおー、ブラウンも頑張ってるなー」

 

 

 高校時代の仇名にして、秀彦の芸名を呟く。かつて彼の弱味そのものだったこの仇名、今では秀彦の愛称として親しまれている。本当の意味での「愛称」として、だ。

 当時、由来の事など全く知らなかった至は「ブラウンって仇名なのは、秀彦の髪の色がきれいなブラウンだから」だとばかり思っていた。ついでに彼にそれを言ったら、ちょっとだけ泣きそうな顔をされたのを覚えている。

 今はその由来も秀彦の葛藤も知っている。そして、そのトラウマを乗り越え、未来に向かって歩き出している事も。秀彦がブラウンという芸名でデビューしたことがそれの証明である。他の仲間達――正男やゆきの、玲司や優香たちだって同じだ。皆、それぞれの道を歩んでいる最中なのだから。

 

 他にも、この中で見知った面々はいる。しかし、それを言葉に出すことはしない。

 懐かしさの中に感じた一抹の寂しさを持て余すように、至はぼんやりとテレビを眺める。

 

 しばらくした後で時計を見れば、もうすぐ11時だ。明日から学校である千影に視線を向ければ、彼は既にパジャマに着替えた後だった。

 至が何を言うかなどお見通しだったようで、千影は「そろそろ僕は寝ます。おやすみなさい、にいさん」と挨拶して、あてがわれた部屋へと向かう。

 

 その背中を見送り、再びテレビへと視線を向けた。秀彦が番組の終了を告げ、スタッフや出演者一同の名前が書かれたテロップが流れていく。

 ムーディなBGMが響く。画面に大きく「来週もお楽しみに!」というテロップを最後に、トーク番組は終了した。ぱっと画面が切り替わり、次々にCMが流れていく。

 時価ネットたなか、ジュネス、サトミタダシ――耳に残るようなメロディを聞き流しながら、ただぼんやりと画面を眺める。そうこうしているあいだに、時刻はもうすぐ0時になりそうだ。秒針が動く。

 

 カチ、カチ、カチ、――ポーン。

 

 壁掛け時計が0時を告げたその瞬間、世界が一変した。

 

 

 

 

 

 

  ――影時間・開始――

 

 

 

 

 

 

 突然テレビが消えた。間髪入れずに部屋の蛍光灯も消える。

 ……いや、テレビや蛍光灯だけでなく、ありとあらゆる電子機器が一斉に沈黙したのだ。何の前兆も無しに。

 

 

(――停電、か?)

 

 

 近場に置いたラジオに手を伸ばすも、ラジオも無言のまま。うんともすんとも言わなかった。

 最近購入したばかりの最新機なのにと思いつつ、至は大きくため息をつく。引っ越し早々、こんな面倒事に巻き込まれるなんて。

 

 トラブルに首を突っ込んでしまったり、直接的だろうが間接的だろうが厄介ごとの片棒を担いでしまったりする――それが、自他ともに認める空本至の難点だ。

 今回の一件が厄介ごとで面倒事でもあることは認めていたものの、踏み入れてすぐに直面することになるだなんて思わなかった。しかも、こんな形で。

 ここまで大きな停電騒ぎなら、地方新聞やら他県のワイドショーやらで取り上げられてもおかしくないレベルだろう。

 

 明日の一面はこれで決まったな、などと思いつつ窓を見る。

 不気味な光が、カーテンの隙間からこぼれていた。……何やら妙に明るい気がする。

 

 立ち上がってカーテンを開ければ、外の光景がはっきりと見えた。

 

 どこか緑を帯びた黒雲の向こうに、大きな月が浮かんでいる。満月から少しだけ欠けているが、肉眼で見るにはあまりにも大きい。

 ぽっかりと浮かんだ月は不気味な光を湛えていた。この明るさならば電灯は不要だろう。しかし、月明かりにしては妙に明るすぎやしないか。

 ふと周囲に視線を向ければ、街の至る所に沢山の“何か”が佇んでいる。大きさにばらつきはあるものの、棺のようなオブジェであるのは間違いない。

 

 

「……なんだコレ……!?」

 

 

 あまりの光景に、至はごくりと生唾をのむ。

 

 異界化した御影町や噂によってとんでもない事になった珠閒瑠市の様子や出来事もアレだったが、この光景もそれに匹敵するくらいのインパクトがあった。

 初見の動揺を場数での経験でどうにか抑え込み、冷静に考える。――おそらく“コレ”が、陽向の言っていた“影時間”なのだろう。

 「ペルソナ使いは影時間への適性がある」というのは陽向のメールから知っていたが、自分にもその適正があるかどうかの自信は一切なかった。

 

 知覚できぬ25時を通常と変わらず自由に動ける人間。どうやら、至もその人間の1人として認められたらしい。

 正直あまり嬉しくないのだが、それは至の追いかける“謎”への手がかり。至が知りたいと望む、真実に触れるための最低条件なのだ。

 

 

『真実への扉は開かれた。さあ、進むがいい。そして、人の可能性を示せ』

 

『絶望への扉は開かれた。……さあ、私を楽しませてくれ』

 

 

 不意に響いた2つの声に、至は後ろを振り返る。そこには誰もいなかった。

 

 ものすごく吐き気を催すような、速攻で殴りたくなるような2人の声だった。至が嫌う、あのバカども2人の声だった。空耳ではなく、はっきりと聞き取る。

 微かに感じた気配に前を向く。相変わらず広がる不気味な光景の中を、一羽の蝶が飛んでいた。黄金色に輝く蝶は悠然と羽ばたき、月の向こうへと消えていく。

 

 

「至にいさん!」

 

 

 階段を駆け下りてきたのは、少し前に部屋へと戻っていた千影だった。どうやら彼も適性者として認められたらしい。

 この異変が“危ないもの”と感じ取ったためだろう。寝間着であることを除いては、竹刀装備の臨戦態勢だった。千影は前の学校で剣道部に入っていたから。

 外を見る。棺のオブジェとは別物の、黒く蠢く“何か”が徘徊していた。しかし、奴らは家や建物の中に入ってくる様子はない。なら、動かないでいるのが得策か。

 

 息をひそめて周囲を確認するが、その“何か”はこちらに入ってくることはないようだ。しかし、用心するに越したことはないだろう。

 護身用に使っているライフル銃と小型拳銃を持ち、じっと隠れる。至は、千影と顔を見合わせた後すぐに窓へ視線を戻すのを繰り返した。

 

 そんなピリピリした空気の中にいて、どれくらいの時間が過ぎただろう。

 

 

 

 

 

 

  ――影時間・終了――

 

 

 

 

 

 不意に、沈黙していた電化製品が動き出した。蛍光灯の明かりが、消していなかったテレビが、沈黙していたラジオが、次々と点灯し音を出す。

 時計の時刻は0時のまま。電気製品の復旧とともに、秒針が動き出す。テレビの時刻は0時を過ぎたままだ。先程の影時間など存在しなかったかのようだ。

 

 否、実際には『存在していない』。だから、どのテレビでも取り上げられることはないのだ。

 

 棺のようなオブジェも、普通ではありえない大きさになっていた月も、徘徊していた黒い“何か”も、影時間の終了と一緒に消え失せる。

 至と千影は顔を見合わせ、大きくため息をついて警戒態勢を解いた。今回は、もう襲われることはないだろう。

 酷く緩慢な動作でテレビとラジオを消し、立ち上がる。明日から始まる新生活に備え、そろそろ体を休ませなくては。

 

 

「……寝るか」

 

「……そうですね」

 

 

 安堵したからか、どっと疲労が押し寄せる。首をもたげ始めた睡魔に従い、2人は寝室へと足を進めたのであった。

 

 

 

 

 

$$$

 

 

 

 

2009.5/11 朝

 至と千影の家/ダイニング

 

 

 

 

 本日から新生活が始まる。目覚めは、正直言って悪くないと思う。

 

 昨日の気疲れさえなければ、きっと最高の目覚めだった。至は心の中でひとりごちながら、手早くスクランブルエッグを完成させた。

 その隣では、千影がサラダとフルーツヨーグルトを作っている。もうすぐ完成しそうだ。この分なら、同時に出来上がるだろう。

 

 至がスクランブルエッグを盛り付け終えたのと、千影が盛り付けを終えたのは同時だった。今朝の料理は洋風だ。

 カリカリに焼いたトーストとベーコン、インスタントで作ったポタージュ、ふんわりしたスクランブルエッグ、瑞々しい野菜のサラダ、缶詰にされた白桃を切って入れたフルーツヨーグルト。

 2人は顔を見合わせ、互いの仕事を讃えるかのようにハイタッチする。そして、至は自分用のコーヒーと千影用の紅茶を淹れた。出来上がった紅茶を手渡す。

 

 

「「いただきます」」

 

 

 他愛のない会話をしつつ、朝食を食べ進める。テレビのニュース番組にチャンネルを合わせれば、最近この周辺で起こっている謎の病気が紹介されていた。

 無気力症。ある日を境にして、突如人が無気力になってしまうという病気らしい。専門家はストレス性のものだと言っているようだが、その割には患者が多いという。

 

 

(重病人の場合は、立って歩く事や会話も困難になるのか。……ストレス性でここまでなるモンかねェ?)

 

 

 そういえば、セラピストとして独立した麻希も「最近の患者さんがおかしい」と言っていた気がする。

 彼女が手を焼いている患者の特徴は、先程テレビで紹介された無気力症と一致するのだ。何やらキナ臭くなってきたぞ。

 今度、その患者の容体や状況を詳しく聞いてみるべきか。珠閒瑠で起こった事件で発生した“影人間”や“JOKER化”に近いものを感じる。

 

 刑事になった達哉も、「行方不明になった人間が無気力症になった状態で発見される」ことに悩まされているらしい。この情報は克哉経由で聞いた。

 今のところは巌戸台を中心にしているようだが、達哉の管轄先にもぽつぽつ現れたそうだ。爆発的に増えたら面倒な事態になるだろう。

 

 情報をまとめ次第、圭や航たちに報告しておこう。

 

 そう結論付け、至はトーストにマーガリンとマーマレードを塗る。千影はピーナッツクリームを塗ったトーストに齧りついていた。

 テレビを流し見つつ、2人は朝食を食べ終えた。「行ってきます!」――威勢よく挨拶をして、家を出ていく彼の背中を見送る。

 

 

「――さて、俺も頑張ろうか」

 

 

 何を頑張ればいいかなど、皆目見当もつかない。けど、自分のすべきことは巌戸台(ここ)にある。

 至は漠然と、そう感じていた。何の確証もないが、そう確信していた。

 

 

(……航の奴、朝食作ろうとしてキッチンを吹き飛ばしてなきゃいいけど)

 

 

 至がそんな事を考えていた丁度その頃、南条コンツェルンの研究室――正確に言えば、研究室のすぐ隣にある宿直用の部屋に備え付けられていたキッチン――が爆発・炎上している真っ最中であった。

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