運命を切り拓くだけの簡単なお仕事   作:白鷺 葵

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0-5.満月の巨大シャドウと初戦闘するだけの簡単なお仕事

2009.6/8 夜

 巌戸台分寮付近

 

 

 

 真次郎と別れた至は帰路についていた。もちろん、頭の中では情報を整理しながらである。

 

 先日、真次郎は陽向たちと会ったらしい。彼女たちも、月光館学園の女子生徒が相次いで校門前に倒れていた事件を調査していたようだ。

 彼は山岸さん――山岸風花が1週間近く行方不明になっていたこと、同じクラスで料理同好会メンバーである千景も行方不明になっていたことを話したという。

 その際、千景の話題に顔色を変えた陽向のことを覚えていたようだ。だから(うっかり)「……まさか、あいつの……?」と零したらしい。

 

 おそらく、ここでたむろしていた女子学生は風花をいじめていたメンバーだったのだろう。噂によると、彼女たちは次々と校門前で倒れる事件の被害者になったそうだ。

 2-Eの女子生徒の写真すべてを提示し、首実検を依頼。真次郎は「これ、犯罪じゃねーか……?」等々、ぶつくさ何かを言っていたが、最終的には律儀に協力してくれた。

 

 

『江古田が箝口令ついでに隠ぺい工作やってたから、ちょっくら奴のPCにハッキングしただけだよ。もちろん、その道のプロにも協力依頼したから抜かりないし』

 

『やっぱり犯罪じゃねーか!』

 

 

 ……等々、途中で色々脱線したせいで時間がかかった次第である。随分時間をかけてしまった。しかし、真次郎の協力が無ければ手遅れになってしまっていたかもしれない。彼には感謝してもしきれなかった。

 お礼になるかはわからなかったが、はがくれの特性ラーメン無料券と少々の謝礼金、至の名刺を渡しておいた。……断じて、それしか持ち合わせがなかったからではない。真次郎は珍妙なものを見るような視線を向けていた。

 「俺は大したことなんてやってねぇよ」と渋る彼に、半ば押し付けるようにして手渡したのだ。あとは急いでモノレールに飛び乗り、現在に至る。時計を見ればもうすぐ午前0時。誰も知らない25時が始まる。

 

 5、4、3、2、1、――0。

 

 

 

 

  ――影時間・開始――

 

 

 

 

 時計が0時を指した瞬間、世界が一変した。この街に来てから体感できるようになった感覚。

 空を覆うのは緑を帯びた黒い雲。ぽっかりと浮かぶ月は完全に丸く満ちていた。

 

 

「今日は満月、か」

 

 

 影時間は何度も体感していたが、月が満ちていけばいく程不気味な感じがする。

 

 満月である今日は、その不気味さが際立っているような気がした。至は月を睨みつける。周囲には棺桶を模したオブジェが佇んでいた。動く様子はない。

 25時を知覚し動ける人間は自分たちのようなペルソナ使いだけ。この時間を知覚できても、ペルソナ能力が備わっていなければ即座に精神をお陀仏にされる。無気力症の患者がいい例だろう。

 過去、至と共に駆け回ったペルソナ使い達にもいろいろ聞きまわってみた。どうやらみな、影時間を体感できるようになったらしい。同じペルソナ使いでも影時間の適性が出るまでの潜在期間に若干の違いがあるようだ。

 

 一番最初に影時間適性を得たのは至だった。その報告を受けた航と圭が相次いで適性を得、それに続いて無気力症についての情報を提供してくれた麻希や周防兄弟が目覚めていったらしい。

 最近はパオフゥとうららのマンサーチャーコンビ、玲司や舞耶らにも影時間適性が発覚したようだ。もちろん彼らは歴戦を渡り歩いてきた“戦士”である。シャドウに精神を喰われて影人間化することはなかった。

 

 蛇足だが、ジョーカー事件の“影人間”と巌戸台の影人間は、全く毛色が違うものである。

 

 前者は無気力になる上に、徐々に人から存在を忘れられてしまうのだ。存在自体が“なかった”ことにされると言った方がいい。薄れていく存在を知覚できるのはペルソナ使いとしての適性を持つ者だけになり、けれど最終的にはペルソナ使いですら感知できなくなってしまう。

 生きる目標や気力を失った者が絶望した場合も“影人間”になってしまう。おまけに絶望に苛まれることも引き金になるからタチが悪い。それが「夢を叶えたが故の絶望」であってもだ。

 そう考えると、後者は若干救われているのかもしれない。存在が消えてしまうことがない――この1点だけを考えれば。……もっとも、精神崩壊したあと、自我が戻らぬまま生き続けるのが救われているかどうかは別にして、である。

 

 

(……本当に、何が起ころうとしているんだろうな)

 

 

 至は空に浮かぶ月を睨みつける。満月は不気味な輝きを放つのみで、何も語らない。

 しかし、どうしてだろう。至には、月が自分を嘲笑っているように見えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

【0-5.満月の巨大シャドウと初戦闘するだけの簡単なお仕事】

 

 

 

 

 

 

(――あれ?)

 

 

 至はふと異変に気付いた。

 1人の女子生徒がふらふらと寮を出ていく。金髪に染められた髪に浅黒い肌。

 

 慌ててポケットの中にある写真と照らし合わせる。その中で大きく丸がついた写真の顔と、彼女の顔が一致した。

 

 森山 夏紀。山岸 風花のいじめを行っていたグループの人間であり、辰巳ポートアイランドの裏路地にたむろしていた生徒の1人である。

 一応、ペルソナの共鳴現象が無いか確認してみたが、夏紀は完全な一般人だった。ならば、影時間の適性はないはず。

 しかし、現に彼女は影時間内に普通に動き回っているではないか。これはどういうことだ――至は首をかしげる。

 

 

「風花、風花。……ごめんね……今、行くから……」

 

 

 夏紀は虚ろな瞳に涙をいっぱい浮かべていた。おぼつかない足取りで歩みを進めていく。自分がいじめた少女・風花に対する懺悔の言葉を繰り返しながら。

 彼女はどこへ行くつもりだろう。こんな――下手したらシャドウに精神を喰われかねない、危険な時間帯に。そもそも、この少女は影時間に気づいているのだろうか。

 

 追いかけて声をかけてみようか否か。至が考え込んだ丁度その時、夏紀の数歩前の地面が黒く染まった。ドロドロした影が蠢く。あ、と声を上げる間もなく、夏紀は黒い影に呑み込まれるようにして消えてしまった。

 それと入れ替わりに、別な人物が姿を現す。七姉妹学園の制服を着た男子生徒。品行方正という印象には程遠いが、完全な不良とも言えない程度の着崩し具合。茶髪だが、あれは完全な地毛だろう。その少年の姿には見覚えがあった。

 ただし、そこにいる人物は至の知っている“彼”ではない。その証拠に、少年の双瞼は不気味に輝く黄金だ。口元には全てを嘲笑うかのような歪んだ笑みを浮かべている。奴が誰――正しくは何――か、至は知っていた。ああ、思い出すだけで忌々しい。

 

 奴は色々な姿に化けることが出来るが、特に“彼”の姿や“ある男”の姿を気に入っているようだった。

 

 どちらに――ぶっちゃけ誰に――化けられるにしろ、至にとっては腹立たしいことこの上ない。

 歯噛みするこちらとは対照的に、奴はへらりとした笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

 

 

「久しいな、空本 至」

 

「……そーかい。俺は二度と会いたくなかったよ」

 

「おやおや、つれないなァ。私はこんなにもお前に会いたかったというのに」

 

 

 奴の声色は睦言を囁く恋人のように甘ったるい。見上げられ、顎に伸ばされた手を至は振り払う。ついでに「きめぇ」と一刀両断するのも忘れない。

 護身用に持ち歩いていたハンドガンの安全装置を外せば、奴は不満げに口を尖らせた。だから気持ち悪いんだよ、と至は吐き捨てる。

 「で、わざわざそっちから来たってことは、今回の黒幕もお前ってことでいいんだな?」――問えば、奴は喉の底からくつりと笑い声をあげた。

 

 

「半分正解で半分ハズレだな。もっとも、私は“発端”になった出来事に干渉しただけにすぎない。引き金を引いたのは他ならぬ“ニンゲン”だよ」

 

「引き金を引かせるような真似をしたのがお前だって分かれば充分だ。テメーはロクなことしないからな」

 

「ほう? ここで私を倒そうというつもりか? ……残念だが、私を倒したところで何も終わらぬよ。運命は私の手を離れた。私は、拙く愚かな人間が紡いでいく運命を嘲笑うだけだ。――もう、既に始まっているのだからな!」

 

 

 奴が高らかに笑った刹那、突如吹き上がった突風。闇が湧き上がり、奴はその中へと消えてしまった。

 

 ――畜生、取り逃がした!

 至が悔しさに舌打ちするのと同時に響いたのは、奴の声だった。

 

 『あの女生徒を追わなくていいのか? このままだと、取り返しのつかないことになるぞ』――ああそうだ。夏紀を追わなければ。

 彼女はおそらく、風花の行方に心当たりがあるのだ。闇に呑み込まれて消えてしまったが、一体どこへ向かうつもりだったのか。奴が危害を加えた訳ではなさそうだ。

 奴が出したあの闇は、彼女を『彼女が行きたいと願う場所』に導いたに過ぎない。転送装置と同じようなものだ。

 

 しかし、夏紀は一体どこへ向かおうとしていたのだろう。それがわからないのだから動きようがない。

 あの野郎余計なことしてくれやがって――至がそう愚痴を零そうとするか否や、再び奴の声が響く。

 

 

『そうだな、ヒントくらいはあげようか。お前が動かないと楽しくないからな。

 ――ヒントは“タルタロス”。かつてお前が駆けた迷宮と同じ名を冠する塔を探してみればいい。この街で、月に1番近い建造物だからな。……ああ、昼間は学生が多い場所として存在している。むしろ、ほぼ学生しかいないと言った方がいいかな?』

 

 

 『――あ、いけね。ほぼ答え言っちゃった』――どこぞのイシュキックと似たような声色で奴は言った。しかしボイスはバリトンのまま。奴は人を不快にさせる天才である。

 そりゃどーも、と乾いた返事を返せば、『……べ、別に、お前のためじゃないんだからねッ。私自身が楽しむためなんだから!』なんて言い出した。だから気持ち悪い。

 最近、奴はうーにゃーうーにゃー変な呪文を唱えて踊りだしたとフィレモンが言っていたか。確実に、何かに毒されているらしい。一体どこへ向かおうとしているのだろう。

 

 変な方向に転がりそうになる自分の思考を叱咤し、至は即座に頭を切り替える。

 

 行くべき場所は決まった。目的地はタルタロス――もとい、昼間でいう月光館学園。

 普段はモノレールで行き来しているが、この時間帯だと電気機器は使えない。車もバイクもダメである。

 

 

「――スザク!」

 

 

 右手を挙げて、共に戦場を駆け抜けてきたペルソナを降魔する。青い光が立ち上り、紅蓮に輝く美しい聖鳥――スザクが姿を現した。

 至が何を言わんとしているかを察したスザクは高らかに嘶く。その様子に頷き、至はスザクの背に飛び乗った。

 

 

 

 

 

$$$

 

 

 

 

 

同日 影時間

 タルタロス/エントランス

 

 

 

「くっ……」

 

 

 体中を襲う痛みに、美鶴は歯噛みする。隣では、ゆかりが弱弱しくうめきながらも立ち上がろうとしているところだった。

 自分たちの眼前に佇むのは、2体の巨大シャドウ。どこか王侯貴族の雰囲気を漂わせるそれらのアルカナは女帝と皇帝だ。しかも、かなりの強さを持っている。

 

 

「なんで……どうして攻撃が効かないのよ……!?」

 

 

 ゆかりが歯噛みしながらエンペラーを睨む。先程から術や物理攻撃を試しているものの、奴らに通じる様子は全くない。

 美鶴がアナライズで2体の情報を引き出そうにも、ペンテシレアの能力では完全に把握することは不可能だった。把握する前に何かをされてしまう。

 文字通りの万事休す。しかし、ここで諦めるわけにはいかないのだ。まだ、自分の贖罪は、何ひとつすら終わっていないのだから。

 

 相変わらず通信状態は悪い。陽向や明彦たちがどこにいるのか、全くわからないのだ。

 

 ペンテシレアによる分析、およびサポート能力にも限界が来たということだろう。事態は悪化の一途をたどっている。

 せめて陽向たちに連絡を取ることが出来れば、救援を求めることが出来るのに。

 

 

『……、……えるか? ……山岸……保護……』

 

 

 ――と、そこへ雑音交じりの通信が入った。ほとんど聞き取れないが、明彦の声。

 

 

「明彦! 敵襲だ、今すぐこっちに――!?」

 

 

 美鶴が言い終える直前、エンプレスが杖の切っ先をこちらへ向けた。迸るのは炎。ペンテシレアが唯一苦手とする属性だ。

 しかもあれはアギではない。アギより一段上位に位置する、アギラオ。あれを喰らってしまえばひとたまりもないだろう。

 

 「先輩!」――ゆかりの悲痛な叫び声がやけに遠い。

 

 アギよりもひと回り大きな炎の弾丸が、美鶴めがけて打ち放たれる。通信が繋がったことで一瞬気を抜いていたためか、反応が遅れた。

 氷魔法で威力を相殺しようにも、ペンテシレアのブフでは到底及ばない。今の自分にできることは、防御態勢を取ることのみ。

 襲い来る衝撃を覚悟し、美鶴はきつく目を閉じ――

 

 

「――危ない!」

『――美鶴ちゃん』

 

 

 視界が瞼に覆われるその寸前、いつぞや聞いた懐かしい人の声を聴いた気がした。

 

 

 ――――――

 ――――

 ――

 

 

(――?)

 

 

 いつまでたっても訪れぬ衝撃に、美鶴は思わず瞼を開ける。自分を庇うように立っていたのは、黒いジャンパーを着た男性であった。

 炎のせいで逆光状態のため、その姿をうまく把握できない。しかし、その光を反射して輝いた星形のイヤリングに、その男性が“誰”であるか思い至る。

 

 ――何故、彼がこんな所にいるのだろう。

 

 彼が“誰”であるかに思い至った刹那、美鶴の脳裏を真っ先に駆けたのがその疑問であった。

 この場に彼がいるだなんて有り得ない。何故なら彼は(基本フリーランスであるが)南条側の人間だ。南条は分家筋である桐条とあまり絡んでこない。

 自分たちの関係は分家であると同時に、対等な立場にある。それに、今回の件は南条側に対しても機密事項になっているはずだ。

 

 故に、彼が動くことはほぼない。――彼個人(・・・)が、桐条側に不信感を抱かない限りは。

 あるいは、彼個人が桐条側に不信感を抱き、その報告を聞いた南条がバックアップに入ったということも考えられる。

 

 

「……このくらいの熱さだったら、まだまだ余裕だな」

 

 

 「なぁ、スザク」――強い風が吹き荒れ、青い光が舞い上がる。召喚されたのは、紅蓮に輝く美しい聖鳥。

 召喚機を必要としない召喚。それを目の当たりにした美鶴は思わず息をのむ。ゆかりも同じようで、唖然と彼の背中を見つめていた。

 

 

(そんな……。あの人も、ペルソナ使いだったなんて……)

 

 

 しかも、かなりの場数を踏んでいる。歴戦の経験者だ。

 

 ペンテシレアのアナライズ能力が即座にそれを叩きだし、美鶴に突きつけてくる。その事実が、何よりも重かった。

 ただ呆然とその背中を見つめることしかできない。時間にしてはほんの一瞬だろうが、自分にとっては数時間も経過したような気分に陥る。

 

 「美鶴!」「桐条先輩!」――まず先に響いたのは明彦と順平。「「至にいさん!」」――次に響いたのは、陽向と行方不明だった生徒・千影の声だった。

 

 男性――至の存在と、召喚機なしでペルソナを行使する姿に驚いた順平が声を上げる。

 至は順平に一言二言何かを言っていたが、衝撃が大きすぎてぼんやりしていた美鶴には聞き取れない。

 と、エンプレスが武器を構えて攻撃を繰り出してきた。順平と話をしている至の背中に、その一撃が迫る。

 

 はっとした美鶴が声を上げる直前、

 

 

「ウロボロス!」

 

 

 至のペルソナが変化する。次に呼び出したのは、自分の尾を口にくわえ、背中に翼をはやした蛇――ウロボロス。

 一際高く咆哮したそれは、躊躇うことなくエンペラーに向けて虹色に輝く吐息を放った。まともに喰らったエンペラーが吹き飛ばされる。

 入れ替わるようにしてエンプレスが杖を突きつけるが、奴の術は完成することはなかった。

 

 

「――ペルソナっ!」

 

 

 竹刀を構えた千影の足元からも青い光が舞い上がる。現れたのは、鎧に身を包んだ白銀の騎士王――アーサー。

 そのまま飛び出した彼の一撃がエンプレスの杖を弾き飛ばし、続けて放たれたアーサーの一撃が見事にエンプレスに叩き込まれる。

 

 

「そぉら、もういっちょ! 全弾くれてやらァ!!」

 

 

 よろめいた所へ、ウロボロスと至が追い打ちをかけた。ウロボロスは容赦なくエンプレスを串刺しの刑に処す。大きな的となったそれに向けて、至がライフルで狙い撃った。

 1発、2発、3発、4発、5発――間髪入れず連続でトリガーが引かれる。しかも全弾命中だ。その攻撃に、エンプレスが疲れたようによろめく。

 先程まで攻撃が効かなかったのが嘘のようだ。ダウンしていたエンペラーも、ふらつきながら体を起こす。

 

 今ならいけるかもしれない。そう思った刹那、2体のシャドウは自分の得物を掲げる。

 

 世界がぐにゃりと曲がるような感覚。それが過ぎ去ったと思えば、2体の纏う雰囲気が違った。

 ペンテシレアが把握できなかった“何か”だ。「……雰囲気が、変わった?」――至もそれを察知したらしい。訝しげに眉をひそめる。

 

 

「気を付けろ! このシャドウ、攻撃が通じなくなるぞ!!」

 

 

 先程までの戦闘から得た情報を仲間たちに伝えれば、仲間たちは困惑した様子で2体と対峙する。

 ……それもそうか、頼みの綱であるアナライズも効果がないのだ。バックアップなしでの戦闘となる。かなりきつい戦いになるはずだ。

 

 美鶴がそんな事を考えていた時だった。思わぬ乱入者が、ふらふらと扉を開けてエントランス内へと入ってくる。――分寮で保護していたはずの森山 夏紀。

 何故彼女がこんな所へ――そう問いかける間もなく、2体のシャドウが視線を向けた。奴らの目が、まるで獲物を見つけたかのように細められる。

 異形の存在に気付いた夏紀が怯えた声を上げてへたりこむ。完全に腰が抜けてしまったらしい。あ、あ、と声を漏らして後ずさるが、もう遅い。

 

 杖が、剣が、夏紀を捉える。

 

 瞬間、ガラスが割れるような音が鳴り響き、青い光が炸裂した。召喚機を使った、ペルソナの召喚によるもの。

 弾かれたようにして音の出どころを向けば、行方不明だった生徒・山岸 風花。彼女は目を潰された聖人の胎内にいた。ガラスのようなものに覆われた中に。

 

 

『……見える。あのバケモノの弱点が、全部わかる……!』

 

「なんだって!? ……彼女の分析能力は、美鶴以上だってのか……?」

 

 

 風花の言葉に明彦が驚いたように息を飲んだ。

 

 ならば、と、美鶴は風花に協力を要請する。彼女を巻き込むのかとゆかりが声を上げたが、間髪入れず風花が頷いたため押し黙った。

 至と千影に視線を向けたが、確認するまでもなかったようだ。2人は当たり前のように陽向の隣に並んで、武器を構えている。

 再び至と千影の足元が青く光り、スザクと3つの赤い光を湛え、白・赤・緑を基調にした服に身を包んだ者――ペリが姿を現す。温かな光が、仲間たち全員の傷を癒した。

 

 エンペラーとエンプレスはくるりとこちらを振り返る。呆然とする夏紀より、立ち向かわんとする自分たちに狙いを変えたようだ。

 美鶴もレイピアを構え、彼らと共に並んだ。長いブランクがあるが、それを言っていては始まらないだろう。

 

 

「――みんな、行くよッ!」

 

「「「「「「応っ!!」」」」」」

 

 

 全員が戦えることを確認した陽向が号令をかける。

 仲間たちは返事をし、敵を打つために駆け出した。

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