どうしてこうなった?   作:とんぱ

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プロローグ
第一話


 

 どうしてこうなった?

 

 

 

 

 俺の目の前には果てしなく広がる草原、遠くを見れば日本では見られないような雄大な山脈が連なっている。まるで何がファイナルか分からないファンタジーゲームに出てくるような大自然が目の前には拡がっていた。

 お、落ち着け。まずは素数を数えるんだ。1・3・5・7……あれ? 素数って1からだったっけ? ……まぁそんなことはどうでもいい。まずは落ち着くんだ。目を閉じて大きく深呼吸。

 すぅぅーー、はぁぁーー……うん、目を開けてもやっぱり大自然だった。

 

 う、うろたえるんじゃない。男子高校生はうろたえない! そう、まずは現状の確認だ。

 ……俺の名前は北島(きたじま) (しょう)。東京都内の高校に通う普通の高校生だ。OK、意識はハッキリしているようだ。さて次だ。どうしてこんな場所にいるんだ? 順序立てて思い出してみるか。

 何時も通りに朝起きて、母ちゃんの作った朝飯食って、適当に髪を整えて、出来るだけぎりぎりに家を出て学校への通学路を歩いていた、はずだ。そしたら何の前触れもなく目の前が大草原だ。トンネルも抜けてないし光る鏡も通ってねえ。俺の通っている学校はいつからファンタジーとクロスしたんだ? クロスするならすると生徒には通達しろよ。これじゃ遅刻しちまうだろうが……などと現実逃避した思考をしながら俺は立ち尽くしていた。

 

 

 ……どうしてこうなった?

 

 

 

 

 この異世界? に来てから約半年ほど経った。そう異世界だ。おれはこの世界が俺のいた世界ではないと判断した。

 あの後、なんとか平静を取り戻した俺は、取り敢えず人を見つけようと歩き出した。周囲を見渡すと遠くに煙が立っているのが見えた。もしかしたらそこに人が居るかと思い、煙を目指して歩いた。幸いにして辺りは急な山岳ではなく揺るやかな野原だったが、都会っ子にはかなりきつい道のりだった。2~3時間くらい歩いたらようやく町と思わしき場所にたどり着いた。マジ疲れた。こんなに歩き続けたのは人生で初めてだよ……。

 遠くからも見えた煙は多分石炭か何かを燃やしている煙みたいだな。何かめっちゃ黒いし煙たいし、何となくテレビで見た炭鉱のある町、みたいな感じの町だ。自分で思っててなんだがそのまんまだな。んで、俺がここを異世界だと思った理由なんだが、明らかに周りの人間は日本人とは思えない外人チックな奴らばかりなのに会話は全部日本語に聞こえている上に、店と思わしき建物に書かれている文字は明らかに日本語ではなかったからだ。

 

 なんだこれ? 違和感ばりばりなんですけど。

 取り敢えず周りの人に話を聞いて情報収集しなきゃいけないな。人見知りが多少ある俺だが、この状況ではそんなことも言ってられない。なんせ自身の生死が懸かっているからな。人見知りだなんだと言ってられない。日本語が通じるのが幸いだ。……どうして日本語が通じるんだ? あれか? ご都合主義ってやつかな。どうせご都合主義ならチート能力でも付いてくれよ。

 聞いた所によるとこの町はゴルシェというらしい。主に炭鉱を生業にしているそうだ。ちなみに、日本? なにそれおいしいの? だった。他にもアメリカや中国、ヨーロッパ方面の国の名前を聞いてみたが全部駄目だった。ここはアイジエン大陸だって? 知らんわそんな大陸。やっぱり異世界だワロス。

 

 

 ――どうしてこうなった――

 

 

 とにかく、この世界で生きていくにしても先立つものたる金がない。金がなければ飯も食えない宿にも泊まれない。俺が持ってる金は3652円。なけなしの全財産だが、やっぱりこの世界では使えなかった……。くそ、何だよジェニーって! 円でもいいだろ日本語で会話してんだからよ! これだからファンタジーは……。

 愚痴っても仕方ない。一文無しには変わりない。とにかく働いて金を稼がなくては! ……でも肉体労働はいやだなぁ。

 色々聞いてみて、住み込みで働ける職場を見つけることが出来た。鉱山掘って石炭運ぶ仕事だ。めっちゃ肉体労働ですねありがとうございます。まあ、仕方ない。文字も読めない身分証明も出来ない不審者を雇ってくれるんだ。毎日3食出るみたいだし、文句は言えないか……。

 

 そんなこんなで半年経っていた。いやびっくりだね。自分で自分を褒めてやりたいよ。よくこんな環境で半年も耐えられたもんだ。

 初めの頃はマジ役立たずの足手まといだった。初日が終わっただけで体はぼろぼろ。まともに飯も食えなかったくらいだ。次の日は物凄い筋肉痛でまともに動くことも出来ず、親方に怒鳴られまくった。なんとかクビにされることはなかった。ここをクビにされたらもう行くとこがないと親方に泣きながらすがりついたら何とか許してくれた。

 ……給料はしっかり減らされてたけどな!

 

 

 

 2、3ヶ月もしたらこの仕事にも慣れてきた。というかなんか大分力がついた気がする。確かに肉体労働してるし、無駄な過食は出来ないから身体は鍛えられているだろうけど、筋肉ってこんなに簡単に付いたか?

 少なくとも元の世界じゃ無理だな。これが異世界補正という奴だろうか。もしかしたらその内夢の俺Tueeeeeee! が出来るかもしれん。

 ま、鉱山仲間ではひ弱な方だけど。

 

 

 

 あれからさらに1年ほど月日が流れた。ちなみにこの世界も元の世界と同じく1年365日、12ヶ月で1年である。

 しかし、前にも思ったがよくこんな環境で1年以上耐えられたもんだ。何せネットもないテレビもない漫画もないのだ。多少はオタクの自覚があった身としてはなかなか辛いもんだ。まあ人間は慣れる生き物だ。住めば都とは昔の人は上手く言ったもんだよほんとに。よく分からなかった文字も読めるようになったしな。文字が理解出来ても何か文章とか全部平仮名で構成されてる感じだから読みにくいけど。

 

 力も大分付いたけどある一定からは伸び悩んでいる。限界がきたというより負荷が足りない感じだな。全身に重りをするとかしながら仕事したらもっと力が付くかもしれない。しないけどな疲れるし。もうこの仕事をやってく分には十分だ。魔王退治とかするなら別だけど、この世界魔王とかいないし。魔獣はいるみたいだけどな、さすが異世界。

 仕事仲間とも仲良くなってきたし、後輩も出来た。今じゃ仲間と一緒に仕事終わりに軽い賭けをしながら酒でも飲むのが人生の楽しみになってきている。……ん? 未成年? いいんだよ、この町じゃ15のガキも酒飲んでるしな。世界が違えば法も違う。郷に入れば郷に従えってな。自己弁護終了。

 

 そんな感じで仲間と賭けをしながら酒を飲んでると、物騒な話が聞こえてきた。何でもこの都市の市長が暗殺者に殺されたらしい。おいおい暗殺者いるのか。でも元の世界にも探せばいるかもしれないからな、ファンタジー世界じゃいて当然か。魔獣もいるぐらいだしなぁ。

 なんでもその暗殺者はあの伝説のゾルディック一家では? との噂らしい。なるほど、伝説の暗殺一家ゾルディックか、厨二クセェなハハハ。

 

 

 ……ゾルディック?? ……マジで?

 

 

 ……どうやらこの世界はHUNTER×HUNTERの世界みたいだ。もしくは限りなく似たような世界か。あの後色々調べてみたらハンターだのハンター協会だのとそれらしい用語が出てくる出てくる。よくよく考えればこの世界の金の単位ジェニーはHUNTER×HUNTERのと一緒だし、世界共通の文字もハンター文字と呼ばれている。

 力が急速に付いたのも納得だ。さすが空気にプロテインが含まれていると言われているだけの事はある。ほぼ確定でHUNTER×HUNTERの世界だな。

 どうして気づかなかったんだ1年半も? アホか俺は。……いや、生きてくのに必死だったんだよ。だから仕方なかったんだ、そんなうっかりもあるさ。

 

 さて、HUNTER×HUNTERの世界と知ってしまった俺はどうするべきだろう。正直この世界はやばい。死亡フラグ乱立の世界だ。

 いや普通に生きてく分には大丈夫かもしれないが、少なくとも原作に関わると死亡率は跳ね上がる。なにせ人気キャラでさえクビと胴がお別れしてしまう作品だ。関わると碌な事にはならない。じゃあ関わらなければいいかと言うとそうでもない。関わることによって得られるメリットも存在する。

 

 まずは原作に関わった場合のメリット・デメリットをまとめてみるか。

 

・メリット

①元の世界に戻ることが出来るかもしれない。

 そう、ここがHUNTER×HUNTERの世界ならグリードアイランドがあるはずだ。あれに出てくるカードを使えば元の世界に戻れる可能性がある。で、そのカードを入手するには原作主人公たちと行動を共にした方がいいだろう。俺個人であれをクリアー出来るなんて自惚れはない。ゴンたちのおこぼれをもらうのが一番だ。帰るならビスケが貰う予定のクリア報酬カードを譲ってもらわなきゃならないけど。

  

②原作の色々な場面を自分の眼でリアルに見ることが出来る。

 正直俺はHUNTER×HUNTERが好きだ。特に念がかなり気に入っている。自分だけの能力を作ることが出来て、能力によっては格上を倒すことも出来るし、才能が絶対の世界ではないのがいい(才能あるに越したことはないが)。念の設定は後付設定かもしれないが矛盾や無理矢理感は少ないしな。ナ○トやブ○ーチも見習ってほしいくらいだ。とにかく、気に入っている作品を自身で体験出来るというのはかなり魅力的だ。

 

③好きなキャラに会える。

 ②と被ってるかもしれないけど、好きなキャラに会えるな。特に女性キャラだ。一度でいいからマチ・シズク・ビスケ・ポンズ・ネオンといった綺麗で可愛い女性と会ってみたい。この世界は漫画と違って二次元じゃなく三次元だ。もちろん俺の周りに漫画みたいな顔の人間はどこにもいない。俺たちの世界と同じような人間しかいない。言うなれば実写版HUNTER×HUNTERだな。

 つまり原作キャラも三次元になっているはずだ。絶対美人に決まっている! 上手くやったら原作キャラと……もっとも、危なくて手が出せないがな! マチやシズクに手を出したらその時点でお陀仏だ。少なくともヒソカクラスの戦闘力を手に入れないと如何しようもない。ビスケは……見るだけでいいや。可愛いけど、その、元が、な。ネオンも駄目だ。あれに手を出す=マフィアと抗争だ。リスクが高すぎだよ。可能性があるのはポンズくらいだな。マチが一番好きなのに……。

 

・デメリット

①死ぬ危険性大。

 マジ死亡フラグ満載。原作で死亡フラグがないのはゾルディック家訪問編と天空闘技場編ぐらいじゃなかろうか。それ以外は死神とお近づきになる率が高すぎる。特にキメラアント編なんてどうしようもない。王様どうやったら倒せるんだ? あいつ絶対出てくる作品間違ってるよ。多分B級妖怪以上の実力はあるね。弱虫ラ○ィッツぐらいなら倒せるんじゃね? だれか魔族化した霊界探偵呼んできてくれ。あれならかつる。

 

②……ない

 死ぬ以外のデメリットはないな、うん。

 

 

 

 原作に関わったら死ぬ確率が高いけどメリットがおいしい。特に帰還の可能性があるのが良い。この世界に慣れたとはいえ、やっぱり故郷は恋しい。食事も日本食なんてないし毎日毎日肉体労働するのもなぁ……。

 やべぇ、帰れるかもと思ったらめっちゃ帰りたくなってきた。米食いたいネットしたいゲームしたい漫画読みたい友達と馬鹿話したい……家族に、会いたい……。

 

 

 ……よし、原作に介入しよう! 確かに死ぬかもしれないけど、俺には他の奴らにはない武器、原作知識がある。この知識を上手く利用すればいくつかの死亡フラグも乗り越えれる可能性が高まる。

 今の時期がいつかは分からないが、原作前だとしたら身体を鍛えて念を習得すれば少なくともハンター試験は何とかなるだろう。その後は……まあ状況に合わせて上手くやろう、うん。かなり楽観的かもしれないがなんとかなりそうな気がする。キメラアントなんて遭遇しなけりゃいいんだ。グリードアイランド編が終わればこの世界とはおさらばだしな。

 それにもしかしたらポンズあたりなら念を教えるとかなんとかで仲良くなってあわよくば、とか出来るかもしれないし!!

 

 まさか童貞を漫画のキャラで捨てる日が来るとはな(上手くいくことしか考えていない)。

 

 よし決めた! 原作に介入して俺は、童貞を、捨てる!!!(目的が変わってることに気付いていない)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に思っていた時期が、俺にもありました。

 

 ただいまの年代、1872年2月7日、原作開始まであと約127年……。

 原作? 何それおいしいの? 

 ………………………………………………………………終わった。

 

 

 




主人公が読んでいる原作は単行本29巻までです。

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