どうしてこうなった?   作:とんぱ
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幕間話

「懸り稽古ののちに乱取りを行います。皆気を引き締めるように! はじめ!」

 

 ふむ。道場本部の千人近い門弟の内、指導員に当たる者は20数名。それも師範代以上となると僅か4名……足りませんね人手が。

 リュウショウ先生から道場主を任されて早十余年、支部も増え、門弟も多く増加しましたが、それに対する指導員が足りなさすぎる。至急、支部より人を催促した方がよさそうですが、果たして都合の良い人材がいるかどうか……。

 数があれども、質がともなわなければ――いや、これは贅沢な悩みでしょうか。

 

 私が指導のみに本腰を入れられれば多少はマシになるかもしれませんが、この人数では焼け石に水。そもそも私自身の鍛錬を疎かにするわけにもいきませんし。鍛錬のみに時間を費やせられれば良いのですが、そういうわけにもいかない。

 ふう。道場主の座を引き継いでくれる程の者がいれば良いのですが、それは最低条件として心身共に私以上の腕前でなければいけません。

 というか許しません。私よりも弱き者が私の後継、つまりリュウショウ先生の後を継ぐなど断じてあり得ません。

 ああ、1日が48時間あればもっと鍛錬を積めるというのに……時間が足りませんね。

 

「リィーナ先生! 事務より先生にお電話が入ったとの連絡が。ただ今お待ちいただいておりますので、至急とのことです!」

「……至急とは穏やかではありませんね。先方のお名前は?」

「そ、それが、ハンター協会のネテロ会長からだと……」

「――! 分かりました。すぐに向かいます。ご苦労様でした、あなたは鍛錬に戻って結構です」

「は、はい!」

 

 あのジジ……ネテロ会長から至急の要件とは。一体何用だというのでしょうか?

 

 

 

「――もしもし。お電話代わりました、リィーナでございます」

『おお! リィーナ嬢ちゃんか。忙しいところをすまんの。わしじゃ、ネテロじゃ!』

 

「忙しいと思っているなら電話など寄こさないでください」

『相変わらず辛辣じゃのう。実は聞きたい事が2つ程あっての。それで電話させてもらったんじゃよ』

 

「聞きたいこと? 一体なんですか、クソジジ……ネテロ会長」

『いや、今クソジジイって言おうとしたじゃろ!? ひどくね?』

 

「気のせいですよネテ……クソジジイ会長」

『今の言い直す必要なかったじゃろ! どうして言い直したんじゃ!?』

 

「失礼噛みました」

『ワザとじゃろうが! そんな噛み方があるか!』

 

「話が進んでいませんよ。無駄話をする為に電話をしたのなら切りますよ」

『ええい! もうええわい!』

 

 からかうのもこれ位にしておきましょう。本当に時間が無駄になります。

 

「それで、聞きたいこととは?」

『ふむ、その前に盗聴されてもやっかいじゃ、特殊回線に切り替えてもらってもよいかの?』

 

 特殊回線? 確か先生の部屋にあるネテロ会長との直通の回線でしたね。それを使用するとなると、よほど重要な内容なのですね。

 

「分かりました。少しお待ちください」

 

 一体どのような件でしょう。特殊回線を必要とする程の重要な話……もしや、《黒の書》についてでは……?

 

 《黒の書》。先生が考案された様々な念能力や念の修行法が書き記された書物。タイトルは何度も読み返されたうえ、経年劣化により擦れて読めなかったため、表紙の色にちなんで《黒の書》と呼称されている。

 先生の遺品を整理していたら出てきたものだ。中に書かれていた文字も大分薄れており、また、破損している箇所もあった為、いくつかは解読出来ないものもあった。

 《黒の書》には常人では想像も出来ないほどの念能力が数多に記されていた。念能力者にとっては垂涎のお宝でしょう。

 ゆえに――奪われてしまった。解読のために研究所に出したのですが、それ以来行方がしれなくなってしまった。ハンター協会に依頼して捜索しているのですが、いまだに吉報はありません……。

 しかし、ネテロ会長からの直通の電話。それも特殊回線による。もしや――

 はやる気持ちを抑えきれず、つい足早になってしまう。

 

 

 

「お待たせいたしました。これで大丈夫ですね」

『うむ。これが使われるのも久しぶりじゃのう。まさか盗聴されることもあるまい』

「それで、聞きたいこととは?」

『……1つ目に聞きたい事はの、浸透掌についてなのじゃが』

 

 《黒の書》の件ではないのですか……いえ、2つ目の件がそうかもしれません。気を落とすのは早いですね。

 

「浸透掌がどうかしましたか? ああ、その身で味わいたいと仰られるのですか。分かりました。先生に比べたら未熟な一撃ですが、全力で打ち込ませて頂きます」

『殺す気か!? あんなものもう二度と喰らいたくはないわ!!』

「二度も何も……あなたは一度も受けていませんよ。全力の浸透掌を。もし先生が全力で浸透掌を放っていたならば、今頃あなたは墓の中です。あれは風間流でももっとも殺傷力の高い技の1つですからね」

 

 まあネテロ会長なら体内オーラをうまく操作して防ぐことも出来るかもしれませんが。

 

『……殺傷力が高い。それゆえに、使い手は厳選されねばならぬ。そうじゃな?』

「? ええ、その通りです。先ほど言った通り、浸透掌はあまりにも殺傷力が高い技ですから、風間流でも秘中の秘となっています。先生から教わったのも私だけです。他の者はその存在すら知りません」

 

『……お主が誰か弟子に教えたとかはないのかの?』

「誰にも教えていませんよ。浸透掌を伝授するともなれば、それは私の後継者とも言うべき者のみです。残念ながら今のところそれほどの者は現れていません」

 

『ではジャポンにある風間流の源流の方はどうじゃ? そちらに使い手がいるのではないのか?』

「それもあり得ませんね。浸透掌は正確にはリュウショウ先生のオリジナルの技です。何度も言いますが、現在の使い手は私のみです……先程から回りくどいですね。一体何を言いたいのですか?」

 

 ……まさか、ネテロ会長の伝えたい事とは――いや、そんなはずはない。浸透掌を使える者は私以外はいないはず!

 

『実はの。先日、浸透掌の使い手と闘った』

「馬鹿な!! そんなことがあるはずが……!! 本当に浸透掌なのですか!? 何か別の技と勘違いされたとか……」

『ワシが見間違うわけなかろう。リュウショウから何発喰らったと思っておる』

 

 確かに……ネテロ会長の実力ならば見間違えるとは思えませんが……!

 

『それだけなら偶然同じ技を開発したとも考えられるがのう』

「それだけではない、と?」

 

『……柳葉揺らしを使いワシの死角を取り、さらにワシに柔を仕掛けおった。紛れもなく風間流の柔を、な。油断をつかれ、見事に宙を舞ったわい』

 

「あ、ありえません……柳葉揺らしまでも。しかも油断していたとはいえ、腐っても心源流拳法師範のあなたに柔を?」

『さりげに毒吐くのう……』

 

「その者は一体どこの誰ですか!? 風間流の使い手と思わしき者となぜ闘ったのですか!?」

『正確には闘った訳ではないのじゃ。ハンター試験の合間に受験生とちょっとしたゲームをしてのう……』

 

 ハンター試験中にゲームなどと、ネテロ会長らしいですね。

 

「では……その者は受験生なのですか?」

『うむ。名前はアイシャ。ピッチピチの黒髪きょぬー美少女じゃ!』

 

「死んだ方がいいのではないですかクソジジイ」

『とうとう取り繕うことすらなくなった!?』

 

「すいません。つい本音が出てしまいました。死んで謝ってください」

『何でワシが!? ゴホン! ま、まあそれは置いといてじゃ。とにかくそのアイシャという少女が――』

 

「――風間流の秘中の奥義を使用した、と……ちょっと待ってください、少女、と言いましたね?」

『……試験申込書に書かれておる本人の年齢は、13歳、だそうじゃ』

 

「じゅ、13歳? その様な若さであなたを投げるほどの合気と浸透掌を? それこそあり得ません! あってたまるものですか!! それでは、それでは先生の積み重ねてきた百数十年はその少女の十数年と同等だという事ではないですか!」

 

 そんな事、認めるわけには――

 

『落ち着かんかリィーナ! ……お主が納得出来んのもよく分かる。実際に体験したワシとて筆舌にし難い気持ちじゃ。じゃが、現実にアイシャ嬢ちゃんの技の冴え、静かに燃ゆる闘気のそれはまさにリュウショウに匹敵しておった』

 

「……」

 

 ネテロ会長が言うのならば、そうなのだろう……この人は先生の唯一の好敵手にして友なのだから……。

 

『……聞きたいことは2つと言ったのを覚えておるか?』

「ああ、そう言えばそうでしたね。先程の一件が余りにも衝撃的でしたので、すっかり頭から抜けていました。しかしまだ先程の話をもっと詳しく聞きたいのですが」

 

『《黒の書》についてなのじゃが』

「――! 見つかったのですか!?」

『いや、そうではない。捜索はしておるが、今だ発見されておらぬ……』

「くっ! あなた方は何をしているのですか! プロハンターの名が泣きますよ!」

 

『済まんの。2年前にブラックマーケットに流れたとの噂を入手したきり、情報が入ってこんのじゃ。すぐさまハンターを派遣したが、すでに別口に流れて元を辿れなかったんじゃよ』

「その報告は聞いています。派遣されたハンターがあの似非副会長の息がかかった協専のハンターだということもね……あの男が副会長という立場になってなければぶちのめしていますよ」

 

『……いや、本当に済まん。途中でいつの間にか協専のハンターに任務が入れ替わっていたのじゃよ。ワシのミスじゃ』

「もういいです。それよりも一刻も早くあれを取り戻してください。あれは先生が遺した大切な遺品なのですから……本来なら私自ら探しに行きたいのですが、その様な時間もありませんし、物探しは専門ではありませんから……」

 

『うむ分かっておる……話がそれたのう。リィーナ嬢ちゃんは《黒の書》の内容についてどれだけ覚えておる?』

「解読出来た内容は一言一句違えずに覚えていますよ。一番弟子として当然の嗜みです」

『そ、そうか。それは良かった。ワシも読ませてもらったが、さすがに内容の全てを覚えている訳ではなかったからのう』

 

「それで、それがどうかしましたか?」

『ほらあれじゃ。確かあの中に有ったじゃろ? その、生まれ変わりの念能力という設定の念が』

「ああ、【輪廻転生】の事ですね。《黒の書》にはこのように書かれていましたよ」

 

 

【輪廻転生】

・特質系能力

 死んだ後に新たな命に生まれ変わる能力。使用者の知識・経験・オーラ量を引き継ぐことが出来る。

 

〈制約〉 

・死ななければ発動しない。

・死因は何でもいいが、自殺では発動しない。また他者にわざと害されて死ぬことも自殺と捉える。

 

 

「これが解読出来た限りの【輪廻転生】の設定です。残念ながら誓約部分は破れていたため詳細は不明ですし、他にも欠けている部分もあり正確ではないでしょう。これが本当に可能ならば、誓約をどれだけ重くすればいいのやら……いくら特質系能力とはいえ、さすがに実現不可能でしょう」

 

『……ワシがなぜ今回の話を持ち出したかというとな、アイシャ嬢ちゃんにリュウショウの影を見たからなんじゃ』

「まさか、本気で言ってるのですか……そのアイシャと言う少女が、先生の生まれ変わりだと……!」

『その可能性は少なからずあると思うておる……』

「馬鹿な! 生まれ変わり、それも知識と能力を保ったままの転生など、さすがの先生と言えど……そもそも先生は操作系です。特質系の能力を覚える事は出来ないはず」

『後天的に特質系に変わったのやもしれぬ』

「だからと言って――」

『お主、リュウショウの念能力、発がどの様なモノか知っておるか?』

 

 ――! その言葉に息をのむ。そう、知らない。私は先生の念能力がどの様なモノか知らないのだ。

 

「……いえ、幾度となく聞いたのですが、ついぞ教えていただけませんでした」

『そうじゃろう。あ奴はワシとの戦闘時において、一度たりとも発を使った事はなかったからの。本人に確認しても戦闘用の発はないと言いおった』

 

「戦闘用の発はない……つまり、戦闘用以外の発を持っていた可能性が高い、そうあなたも思っているのですね」

『その通りじゃ。あ奴ほど強くなることにひた向きな男が、戦闘用の発を作らないなど考えにくい。じゃが、作らなかったのではなく、作れなかったのだとしたら?』

 

「――! 戦闘用の念を作る程の容量がなかった……?」

『そうじゃ。つまり、それほど容量を喰う念を作っていたということじゃ』

 

「そしてそれこそが【輪廻転生】だと……!」

『極めつけにアイシャ嬢ちゃんの年齢じゃな。リュウショウが死んでもうすぐ14年。そして嬢ちゃんは現在13歳。死んで転生したとなればちょうどキリのいい年齢じゃの……ここまで条件がそろっていては否定する方が難しくなってしまうわい』

 

「……まさか、本当にリュウショウ先生の生まれ変わりなのですか?」

『まだ分からん。しかし、じゃ』

「?」

『【百式観音】を防ぐほどの者がリュウショウ以外にそうそういるとは思えん。ましてや13歳という若さで、な』

 

 ――は? 何を言ってるんですかこのじじいは?

 

「【百式観音】を、防ぐ?」

『……あれ? い、言ってなかったかの?』

 

「初耳ですよ!? 何を考えてるんですか貴方は! 13歳の少女に【百式観音】を使う馬鹿がどこにいるんですか!! 殺す気ですか?」

『い、いや、じゃって、あやつワシが回避出来ぬ時に浸透掌を使ってきたんじゃもん……そ、それに殆ど無傷じゃったから大丈夫じゃよ』

 

「無傷だったら良いという問題では――! ……無傷?」

『う、うむ。まあ、細かな傷はあったし、体の内部までは分かりかねるが、喰らった後にぴんぴんして走っていきおったわ……』

「た、確かに【百式観音】を防いだともなれば、リュウショウ先生以外考えにくいですね」

 

 先生が、生まれ変わった? ――だとすれば何故――

 

「――何故、先生は私たちに何も仰ってくれないのですか?」

『……まだ本当にリュウショウが転生したと決まったわけではない。仮に本当に転生していたとしても、リュウショウの意識や記憶がない可能性もある。なにせ会話した限りでは本当にただの少女じゃったからな。あ奴にあの様な演技が出来るとは思えんよ』

 

「……分かりました。ならば直接会って見極めます。現在のハンター試験会場はどこですか」

『いやいや、直接乗り込む気か。さすがに今すぐには無理じゃよ。試験も未だ三次試験に入ったばかり。ここで対面すればアイシャ嬢ちゃんのハンター試験が台無しになるやもしれぬしの。とりあえず最終試験の前ならば、多少の時間が取れる。それまで待ってほしいのう』

 

「くっ、分かりました。ではその時が来たら必ず私に連絡を入れてください。もしぬかっていたらタダじゃおきませんよ?」

『分かった分かった。そう凄むでない。そちらの移動時間も考慮して連絡をするわい』

 

「いっその事、そのアイシャさんを今すぐハンター試験合格にすればよろしいですのに。あなたの権力なら出来るでしょう? 実力も十二分の様ですし」

『さ、さすがにその様な例外を認めるわけにはいかんのぅ!』

 

「何を動揺しているのですか?」

『い、いや、何でもない。では話の区切りもついたところで回線を切るぞい。またの~』

 

 ブツッ――

 

 一方的に電話を切るとは何と失礼な。

 しかし、今回の話、本当にリュウショウ先生が生まれ変わっていたのだとすれば……。

 姿形は違えど、先生に再び会える? また、先生に稽古を積んでもらえる!?

 

 ああ、なんと素晴らしい事でしょう! そうだ! この道場を先生に継いでもらいましょう! 元々先生の道場です。何の問題もありません。そうして私は再び先生のご指導を賜る……はふぅ……。

 い、いや、焦ってはいけません。アイシャという少女が先生の生まれ変わりではない可能性も大いにあります。

 ですがその場合も私の後継者にして道場を継いでもらうというのはどうでしょうか?

 話を聞く限りかなりの実力者。しかも風間流の使い手。素性が分かりませんが、それに問題がないのならばとても名案です。

 

 もし素性や精神性に問題があればトンパさんのように矯正してしまえばいいだけのこと……。いや、あれの矯正は失敗だったかもしれませんが。

 あとは年齢がネックになるかもしれませんが、それはまさに時間の問題。そして私は自らの鍛錬に時間を費やす……。

 ああ! 早く、早くアイシャさんと会いたい! これほどの高揚は何年ぶりでしょうか? ふふふ、しばらく眠れない夜が続きそうですね。




 主人公の黒歴史、世界をめぐる……。
 黒の書(笑)は見られたら危ない箇所が破損しているご都合設定。







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