どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第十六話

 ここがネテロ会長が仰った場所。今期ハンター試験の最終試験会場ですか。普段は審査委員会が経営するホテルのようですが、今は最終試験の為に貸切になっているようですね。

 

「現在当ホテルは貸切の為通常の営業は行っておりません。真に申し訳ありませんが、お引き取りを……」

「私はリィーナ=ロックベルト。ネテロ会長より私が来訪した時の通達が来ているはずですが……伝わっておりませんか?」

 

 身分証明証、ハンターライセンスを渡し、確認を促す。もしあのじじいが伝え忘れていたならどうしてくれようか。浸透掌か? それとも竜巻落とし? いやそれとも――

 

「大変失礼いたしました。ネテロ会長より話は仰せつかっております。まだ会長は到着していませんので、到着までこちらへ――」

「リィーナ!」

 

 ホテルマンが案内をしようとした矢先の事、聞き覚えのある声がしたので思考を中断し振り向く。

 

「ビスケ。一体どうしてこちらに?」

 

 そう。何故ここにビスケがいるのでしょう?

 

「それはこっちのセリフだわさ! なんであんたがこんな所にいるわさ! あんた約束を忘れてたの!?」

 

 約束……? ……ああ!!

 

「そう言えば、3日前はエステの予定の日でしたね」

「……呆れた。ほんとに忘れてたのねあんた。……あのねぇ、あたしだって暇じゃないのよ。それなのにこうして毎月最低1回はあんたの所に出向いてあげてんのに、約束の日に行ったら留守ときた。しかも長期不在の予定を入れて」

 

 これは……少々怒っていますね。それも致し方ありません。約束を違えたのは私なのですから……色々と思うところがあったとはいえ、約束を破ってしまうのはいただけません……。

 

「申し訳ありませんビスケ。今回は私の落ち度です……この埋め合わせは必ずしますので、今は許してもらえませんか?」

「……はあ。仕方ないわさ。普段こんなミスをするアンタじゃないモノね。ま、埋め合わせは今度してもらうわ。ちょうど欲しいモノがあったのよね~」

「すみませんねビスケ。……ちなみに予算は1000万ほどにしてくださいね」

「……もう一声。ちょっとした情報屋を雇ってようやく移動先が分かったんだから。それの分も含めてほしいわさ」

「はあ、2000万までですよ?」

「よっしゃ!」

 

 全く、この子ときたら……2000万くらい軽く持ってるでしょうに。

 

「それで?」

「はい?」

「なんで約束すっぽかしてこんな所に来たの? ここ審査委員会が経営してるホテルでしょ? これからハンター試験会場に使われるみたいだけど」

 

 ……まだ根に持ってるみたいですね、約束を忘れていたのを。

 

「……」

「……?」

 

 ……そうですね。ビスケも今回の件。リュウショウ先生の件は他人事とは言えないでしょう。彼女もネテロ会長を通じて先生と深く関わりのある人でしたから。

 それに……あの時、リュウショウ先生が亡くなって意気消沈としていた私にずっと寄り添ってくれたビスケになら……話をしてもいいでしょう。

 

「その説明をするのに立ち話もなんですね。話は部屋についてからにしましょうか」

「それもそうね。と言う訳でそこのあんた。早く部屋まで案内してちょうだい」

「は、いえ、その、こちらの方は?」

「私の連れです。通しても問題はありません。彼女もプロハンターですし」

「いえ、しかし、ネテロ会長からの話ではロックベルト様のみとの……」

「会長には私から伝えておきますので問題ありません。案内をお願いいたしますね」

「は、はい! 畏まりました!」

 

 顔を赤くして私達を先導するホテルマン。はて、一体どうしたのやら?

 

「……あんた、あんな年下弄るなんて趣味悪いわね~」

「弄るとは人聞きの悪い事を。私は誠心誠意お願いするために微笑んだだけですよ? 70を越えるお婆ちゃんに微笑まれて顔を赤くする方がどうかと思いますが?」

「いや、今のアンタを見てお婆ちゃんて言える奴いないから」

「そういうビスケは初対面の人だというのに猫を被っていませんね」

「ぐ、あれはアンタがいないから苛立って……」

「なるほど、寂しかったと。それならそうと仰ってくれればよろしかったですのに」

「誰が寂しいって言ったわさーー!!」

 

 ふふ、やはりこの子は弄ると可愛いですね。やりすぎると怒ってしまいますから気を付けなければいけませんが。

 

「ちょっとー! 聞いてんのリィーナ!」

 

 

 

 

“ボーーーー!!”

 

 船からの汽笛、そして試験終了の合図。やっと終わりか。つまんなかったし、期間長すぎ。待ってる間が暇でしょうがなかったよ。さて、ゴンの奴はどうなったかな?

 

「キルア!」

「ゴン! 合格したのか」

「うん! 皆のおかげで何とか」

「お、アイシャにクラピカに……リオレオ! 皆も合格できたのかよ」

「レオリオだ!」

 

 あれ、そうだっけ? まあいいや。どうやら皆で手を組んでいたわけだ。

 ちぇ、何だよ。俺だけ仲間はずれかよ。いや別にいいけどさ。

 

「キルアも合格出来て何よりですね」

「まあね。楽勝だったよ。アイシャも三人狩るのめんどかっただろ? 運がないなぁ。オレなんて適当に狩った奴が標的だったぜ」

 

 普通一番最初にくじ引いて自分の番号を取るか? 確率4%だぜ。

 

「う、うるさいですね! 確率的にないわけではありません。そういう時もあるんです!」

「運が悪い奴の常套句みたいだな」

「う、うぐぐ!」

 

 ははは、ぐうの音も出ないとはこの事だな。

 

「はは、実はなキルア。もっと面白い話があるぜ」

 

 レオリオが意地悪そうな顔でこっちに近づいてくる。何だ一体?

 

「まさか……レオリオさん!?」

 

 アイシャのこの動揺。どうやらよほど話されたくない事みたいだな。

 ……面白そうだ!

 

「へえ、どんなんだよ?」

 

 オレはこの話の楽しさを予感しながらレオリオに話をするよう促す。

 ああ、やっぱり殺しなんかやってる時よりゴンと……こいつらと一緒にいる方が断然楽しいな……。

 

 

 

 

 

 

 私の目の前で笑いながら地面を転げまわっているキルアがいる……。ゴンとクラピカさんは申し訳なさそうにしながらも苦笑している。レオリオさんはキルア程じゃないけど私とゴンの勝負を楽しそうに笑いながら話している。

 

 ……レオリオさんの裏切り者~。

 

「レオリオさん。どうして話しちゃうんですか……」

「わりぃわりぃ。ついぽろっと口から出ちまったんだよ」

「は、腹いてぇ! じ、自信満々に勝負を挑んでおいてあっさり負けるなんて!? ご、ゴンはゴンで釣り勝負って何だよ!? アイシャ釣竿持ってないじゃん!」

 

 ぐおぉ~! 聞けば聞くほど恥ずかしい! 今の私の顔は赤に染まっているだろう。

 

「いや、勝負方法は何でもいいってアイシャが言うからさ」

「た、確かに“何でも”だな。こりゃ文句は言えねえわ」

「ですから、文句など言っていませんよ……」

「しかもその後たった一人の受験生に四人がかり。同情するねそいつに」

 

 だって、皆さん協力するって言ってくれてるのに、断るなんて悪いじゃないですか……でもなんでだろう。あの人にはすごく申し訳ないこと(4人がかり)をしたのに、何故か良い事をした様な気がする?

 

「あ~、笑った笑った。こんなに笑ったの初めてかもしんねぇ」

「それはようございましたね」

「怒んなって。ほら、飛行船が迎えに来たみたいだし、早く乗ろうぜ」

 

 くぅ。キルアの笑い顔がそこはかとなく腹立たしい……。

 

 

 

 私達を乗せた飛行船は最終試験会場へと向かっている。

 この後すぐに試験が始まるんだろうか? 正直寝たい。この1週間碌に寝ていない。

 

「アイシャはさ」

「はい? どうしましたゴン?」

 

 何か聞きたいことでもあるのだろうか? 答えられることなら答えるけど。

 

「どうしてハンター試験を受けたの?」

「ああ、オレも気になるね」

 

 何故ハンター試験を受けた、か。……まあゴン達なら正直に言っても問題はないか。

 

「受けた理由ですか。大層な理由はありませんよ。身分証明するものが欲しかっただけです」

「身分証明?」

 

 よく分かっていない顔のゴン。他の皆は怪訝な顔をしている。どうして身分証明が必要か知りたいのだろう。

 

「私、流星街の出身なんですよ」

「!」

 

 驚く3人。……ゴンはやっぱり分かっていないようだ。流星街を知らないのかな?

 

「流星街とはですね……」

 

――少女説明中――

 

「という訳なんですよ」

「そうか。だから身分証明が必要なんだね」

 

 ……私の身の上話をある程度聞いてこの反応。なんとも不思議な子だ。普通なら同情するか、申し訳なさそうな反応をするところなのに。

 ……でも嫌な感じはない。その人そのものを受け入れてくれる、そんな包容力を感じる。

 

「……アイシャだけ話すのもあれだな。オレ達の志望動機も話そうぜ」

「そうだな~。つっても大した理由なんてないぜ。ただの暇つぶしだしな~」

「オレは親父みたいなハンターになりたいんだ。親父がどんなハンターか詳しく分からないけど」

「オレは金だよ。ハンターになれば見た事もねえ大金が手に入るしな」

「わざわざ悪ぶって言う必要もあるまい。素直に医者になるための金が欲しいと言えばよいのだ」

「るっせ!」

 

 キルアは何となくそんな感じがしたなぁ。

 ゴン、お父さんを知らないのに、その人みたいなハンターを目指してるって……。

 レオリオさんは……想像以上に優しい人だった。この人は一緒にいて何か落ち着けるな。

 クラピカさんは――

 

「私は……幻影旅団。奴らを捕まえるためにハンターに志望した」

 

 ――! 復讐、か。幻影旅団の名を口にした瞬間、とても重く暗いオーラに変化していた……。

 

 幻影旅団。賞金首の中でもA級首といって上位に位置する者達。熟練ハンターですら手を出すのを躊躇うほどのレベルだ。

 流星街を出て何度か耳にした事がある。物語に置いても強い関わりを持っていたはず。恐らく全員が念の使い手。それもかなりの腕前のはず。ハンターが未だ捕えていないというのはそういう事だ。

 今のクラピカさんでは手も足も出ない。少なくとも念を習得しない限りは。習得したとしても勝ち目は少ないだろう。よほどの才能差がない限り、念は修行に費やした年月が物を言う。私がいい例だろう。

 

「復讐をとやかく言うつもりはありませんが、幻影旅団は……」

「分かっている。だが死は怖くない。今の私で無理ならば、可能なくらいに強くなればいいだけの事だ」

 

 ……そこまで言われてしまえば強く止める事は出来ない。他人がいくら復讐は虚しいだとか言っても、クラピカさんの心に届くとは思えない。私は誰かに復讐したいと思ったことはないのだから……。

 

 復讐される側ではあるだろうけど、ね。父が、私が生きている事を知ったらどうするのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 ふむ。どうやら最終試験会場のホテルに着いたようじゃの。恐らくリィーナ嬢ちゃんも到着しとるじゃろ。あまり待たせて文句を言われるのも嫌じゃし、さっさと行くとするか。

 

 ホテルマンに言付けておった部屋に着いた。中にはリィーナ嬢ちゃんがおるのじゃろう。気配が……2つ?

 はて? 何故2つの気配が? 1つはリィーナ嬢ちゃんじゃろうが、もう1つは……?

 

 何故だか嫌な予感がするのう……入りたくないわい。しかしこれ以上時間を置いてはリィーナ嬢ちゃんに何を言われるか。

 

 仕方ない。意を決して入るとするか。

 

「待たせたのリィーナ嬢ちゃ――」

「くそじじぃーー!! あんたどうしてあたしにも話さなかったわさーー!?」

「ぬお? び、ビスケか! 一体なんの事じゃ!?」

 

 もう1人はビスケじゃったか! 嫌な予感的中じゃの……リィーナとビスケが揃ったら口では一切勝てぬ……。

 

「何もへったくれもないわさ! リュウショウ先生の件よ! そんな大事、どうしてあたしに連絡しなかったのよー!?」

「そ、その件か。しかしの、話すも何も未だ確証のない事じゃ。事が事ゆえにあまり吹聴するわけにも――」

 

「あたしだって関係者でしょうが! 何年じじぃやリュウショウ先生と関わってきたと思っているわさ!」

「私の方から既に聞き及んでいる事は話し終えています。確かにあまり多人数に話すのは憚られますが、ビスケになら問題ないでしょう」

 

「う、む。……すまんのビスケ。ワシも少し考える事があって気が回らんかったようじゃ」

「……まあ、話が本当ならじじぃがそのアイシャって娘に気が取られてもしょうがないわね。リュウショウ先生が転生したともなれば、ね」

 

「前々から思っとったのじゃが……何故ワシはじじぃでリュウショウが先生なのじゃ? リィーナ嬢ちゃんはともかく、ビスケ、お前ワシの弟子だよね?」

「尊敬出来るかどうかの違いじゃない?」

 

「ネテロ会長ですからね。仕方ない事でしょう」

「……ワシ、泣いていい?」

 

 オノレリュウショウ。

 

「泣くなうっとうしい。ま、あんまり苛めてほんとに泣かれてもめんどくさいからこれ位で止めとくわさ」

「ビスケの優しさに全私が感動中です」

 

 ……本当に涙が出そうじゃ……。

 

 しかし、仲良いのうこやつら。リュウショウが生きておった時は良いライバル関係ではあったが、結構いがみ合っていたもんじゃがのう。こうして見ると今は仲の良い姉妹にしか見えんわい。

 全く。二人とも年齢詐称にも程が――

 

『今なにか言った?』

「イエナニモ」

 

 ワシの心を読むでないわ!

 

「それよりも今後の予定なのじゃが!」

「話を逸らそうとしてませんか?」

 

「何の事じゃ? とにかく今後の予定じゃが、今から受験生の面談を行うつもりじゃ」

「面談、ですか」

 

「うむ。最終試験の組み合わせを決める為に最後の確認をと思っての。……アイシャ嬢ちゃんはその面談の最後に回す予定じゃ」

「その面談、もちろん私達も――」

 

「分かっておる。参加してよい。ただし、参加するのはアイシャ嬢ちゃんの時だけじゃぞ」

「もちろんです。それ以外に興味はありません」

 

「本当は飛行船の中で面接をする予定じゃったが……そんな事をすれば怒るじゃろ?」

「良い判断です。命拾いしましたね」

 

 ……良かった。考え直して。

 

「ではそろそろ始めるとするか。アイシャ嬢ちゃんの番が来たら合図するのでお主らは奥の部屋で待機しとってくれ」

 

 これで後はアイシャ嬢ちゃんを待つばかり。……ふふ、年甲斐もなく興奮してきおったわ。もし本当にアイシャ嬢ちゃんがリュウショウの転生した姿であるというのならば……言い逃れ出来ると思うなよリュウショウ!!

 

 

 

 

 

 

“受験生の皆様。お休みのところ申し訳ございません。これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方はホテル15階の会議室までおこし下さい”

 

 ホテルの一室で休んでいるところに突然の放送。ネテロの面談、だと。何の面談だろう? 最終試験は3日後だと言ってたから、ゆっくり休めると思ったのに……。

 ま、そんなに時間かからないだろう。終わった後に眠ればいいか。

 

“受験番号44番の方。44番の方おこし下さい”

 

 44、ヒソカか。

 ……あいつネテロ相手に攻撃仕掛けないよな?

 やりそうだなぁ。ネテロなら攻撃されても大丈夫だと思うけど。あいつの心配なんてするだけ無駄だしね。早く私の番来ないかな~。

 

 

 

“受験番号401番の方。401番の方おこし下さい”

 

 ……最後って何さ。嫌がらせか? 何かわざと私を最後にした様な気がする。罠か!!

 

 ……いやいや、罠ってなんだ。疲れてるな私。たまたま私が最後になっただけ。それだけの事だ。さっさと面談終わらせてゆっくり休もう。

 

 会議室の前まで来たけど……明らかに室内に3人の気配。

 はて? 何故3人もの気配が? 1人はネテロだろうけど、残りの2人はだれだろう?

 何故だか嫌な予感がする……入りたくないなぁ。でもここで入らないでハンター試験不合格となったらもっと嫌だし。

 

 仕方ない。意を決して入るとしますか。

 

「失礼します。受験番号401番です」

 

 中を見渡すと、部屋にいたのは……ビスケットさん!? 何でここに? もう1人は……いや、まさか、でも確かに……り、リィーナ! な、何で!? ここにいるのはまあいい。そんな事よりも……。

 

 なんで若いの!? あなた確かもう71歳だよね!? どう見ても20代なんですけど!! 私が道場の後継を頼んだ時よりも明らかに若返っている……どゆこと?

 

 いきなりの展開に私の脳がついていけない。試験の疲れと睡眠不足による眠気も強い。だからだろう。ネテロの次の言葉に普通に答えてしまったのは。

 

「うむ、よく来たのリュウショウ。まぁとりあえず座るといい」

「あ、はい」

 

 ……ん? 今何か違和感が……?

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 4人分の静寂が部屋を包む……。

 今、ネテロは、なんて、言った?

 

「りゅ、リュウショウ?」

「せ、先生?」

「ほ、本当に?」

 

 ……はは、ばれてーら。

 

「今のなし、てのは駄目?」

 

 駄目だろうなぁ。どうして分かったんだろう? やっぱり浸透掌とか柳葉揺らし使ったからかな? でもそれだけで私がリュウショウだと思うか? 転生なんて普通考えないと思うけど。

 

 まあ、ここまで来て誤魔化すこともない、か。

 

「リュウショウ、なのか?」

「せ、先生? ほ、本当に先生なのですか?」

「ええ。……久しぶりですねネテロ。研鑽を怠ってない様で何よりです。リィーナも元気そうで何よりです。……ところで、あなたなんで若返ってるんですか?」

 

 いや、ほんとそこ気になるわ~。

 

「そんなのどうでもいいわさ! 本当にリュウショウ先生なのあなた!?」

 

 かなり気になる事なんだけどな。

 まあ転生に比べたらどうでもいいことではあるか。

 

「ここまで来て下らない嘘は吐きませんよ。確かに私は前世でリュウショウ=カザマを名乗っていました」

「では、やはり【輪廻転生】を使用して転生されたのですね?」

 

 あれ? なんでリィーナが【輪廻転生】を知ってるの? 読み方であるツヨクテニューゲームは知らないみたいだけど。

 

「それはそうですが……どうして【輪廻転生】を知っているのですか?」

 

 疑問は聞くに限る。凄まじく嫌な予感がするけど……。

 

「やはりそうじゃったか……ワシの勘も大したものじゃな」

「ええ。その点は褒めて差し上げますよネテロ会長。先生、お忘れですか? 先生の遺した黒の書に【輪廻転生】の事が書かれていましたので、そこから先生が転生したのではないかと思い至りました」

 

 ……黒の、書?

 え、なにそれ? 初耳なんですけど?

 いや待て。【輪廻転生/ツヨクテニューゲーム】が載っている本と言えば……。

 

「ま、まさかその本、黒い表紙の古書では……?」

「はい。その通りです。先生が書き記した様々な念が書かれた本です」

 

 ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!

 わ・す・れ・て・た!!!

 

 私の厨二の塊! 前世の負の遺産! 

 〈ブラックヒストリー〉!!

 

 使用しなくなってからずっと部屋の奥にしまっていたからすっかり忘れていた! なんで前世の私はアレを処分しなかったんだ!? この2人が知っているって事はアレを読んだということ!

 

 ああ、恥ずかしい! 穴があったら入りたいとはこのことだ!

 

「リィーナ! ブラ……黒の書は今どこに!?」

「は、はい! ……そ、それが……」

 

 なに? どうしてそこで言いよどむ?

 

「リュウショウ先生。リィーナを責めないで下さい。……実は黒の書は盗まれてしまい、行方知れずなんだわさ」

 

 リィーナの代わりにビスケットさんが答えてくれる。なんか以前より仲良くないこの2人? いやそれよりも、だ。

 ……盗まれた? 行方が分からない?

 

「なん……だと……?」

 

 あ、あれが別の見知らぬ人の手に渡っている……だと? 一言一句全てにおいて読み込まれているかもしれない……だと?

 身体の力が抜け、がくりと膝をつく。虚脱感が私を襲う……。

 

 

 

 ……………………………………………………死にたい。

 

 

 

 

 

 

 ああ! 先生が落ち込まれている! 私が不甲斐無いばかりに先生の大切な書物を奪われてしまったから!! くっ! 一番弟子として情けない!

 

 でも本当に先生が転生されていたなんて! 今日はなんと良き日なのでしょう!

 

 はっ! 駄目ですよリィーナ! 先生が私の不手際で意気消沈されているというのに、私が喜んでいては不敬にも程があるというもの!

 

 ……ですが、転生して女の子になっているリュウショウ先生が落ち込んでいる姿は何ともかわい……。いけませんいけません! 大恩ある師に対して何たる考えを!

 

 冷静に、冷静になるのですリィーナ。落ち着いて深呼吸を。

 ひっひっふー、ひっひっふー。

 

「いや、なにラマーズ法してるのよアンタ」

「はっ! いえ、少し動揺していたようです」

 

 お、思った以上に動揺しているようですね……。と、とにかくまずは謝罪をせねば!

 

「先生。申し訳ありません。先生の大切な私物を勝手に取り出したばかりか、奪われてしまうなんてお詫びの言葉もございません……どうかこの愚かな弟子に罰をお与えください!」

「リィーナ。……あれは前世の私、つまりは死んだリュウショウの物。そしてあなたにはリュウショウの後継を頼みました。あの道場にある物は全てあなたに譲ったのです。だからあなたがそこまで気に病む事はありませんよ」

 

 せ、先生! なんと寛大な……!

 

「ああ、先生のお優しい心に感銘いたしました! ですが奪われてしまった事には変わりありません! 必ずや愚かな盗人に誅罰を与え黒の書を取り戻し、汚名をそそいでみせます!」

「そ、そうですか……頑張ってくださいね……いやほんとに」

「はい!」

 

 先生からの激励のお言葉! 何としても黒の書を取り戻さねば!!

 

「ところでリュウショウよ。聞きたい事があるのじゃが」

 

 む? ネテロめ。せっかくの先生との幸福の一時を邪魔するとは。

 ……まあいいですか。先生に聞きたい事は私も山ほどあります。恐らくネテロ会長が聞きたい事も私とさして変わりないはず。ここは寛大な心で許してあげましょう。

 

 

 

 

 

 

「聞きたい事、ですか。まあ、何を聞きたいかは分かりますが」

「うむ。お主今まで何をしておったのじゃ? 何故転生をした? 何故転生した事を話さんかったのじゃ?」

 

 やっぱりそんな質問が来るよね。ネテロ以外にもリィーナもビスケットさんも興味津々の顔をしている。話さない訳にはいかないだろう。

 

 何をしていたか。まあこれは大体話しても問題ない。

 転生した事を話さなかった理由。これは普通信じてもらえると思わなかったから。

 転生した理由? 童貞のまま死にたくなかったからです!

 

 ……言えるか!

 

「まあ、掻い摘んで説明します。転生した事を言えなかったのはやはり信じてもらえるとは思わなかったからです」

「そんな! 先生の言う事を疑うなど!」

「落ち着くわさリィーナ。実際前情報がない状況でいきなりリュウショウ先生の生まれ変わりですと言われても信じないのは当然だわさ」

「それは! ……そうかもしれませんね」

 

 ふむ。暴走気味のリィーナを上手くコントロールしている。見た目はビスケットさんが妹なのにお姉さんみたいだ。

 

「今までは……流星街にいました。正確には3年ほど前にそこを出奔しましたが」

「流星街じゃと? 何故その様な場所に?」

 

 驚いているな3人とも。あのリュウショウが流星街で暮らしていたともなれば仕方ないか。

 

「生まれて直ぐにそこに捨てられまして。それからある程度成長するまでそこで暮らしていました」

 

 母さんの事は……話さなくていいだろう。あまり話したい事でもない……。

 

「それからは天空闘技場に行きしばらく資金集めを、その後は世界各地を転々としました。今回ハンター試験を受けたのは身分証明が欲しかったからですね」

「なるほどのう……」

 

 納得したように頷き、続きを促すネテロ。どうして転生したか早く聞かせろって事か。

 

「転生した理由ですが……」

 

 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。

 

「……も、もちろん武を極めるために決まっています!」

 

 ……嘘ついた方が幸せな事も、ある。

 

「や、やはりそうでしたか!」

「ま、そんなとこじゃと思っとったわ」

「リュウショウ先生だしね~」

 

 こ、心が痛い! 特にリィーナの感激に溺れた瞳が突き刺さる様だ! もうやめて! 私のライフはゼロよ!

 

「あ、あと聞きたいことが1つあったの」

 

 え、まだあるの?

 

「何ですか一体?」

「それじゃよそれ。その口調じゃ。以前と全然違うではないか」

 

 おう。そこを突かれたか。まあ、これも多少ぼかして言うか。

 

「女性として生まれ変わってはや十余年です。育ててくれた母にも女の子らしくしなさいと躾けられましたからね。郷に入れば郷に従え、ですよ」

 

 特に嘘ではない。躾けられたのは本当だし。

 

「あと、私の事はリュウショウではなくアイシャと呼んでください。もうリュウショウはいないのですから……」

「リュウショウ……いや、分かったわいアイシャ」

「先生! 例え姿形が変われど、先生は先生です!」

「あんたもほとほとリュウショウマニアだねぇ。ま、そういう事なら了解だわさアイシャ」

 

 うむうむ。皆納得してくれたようで何より。リィーナは……もう諦めた。

 

「じゃあ、アイシャがリュウショウの転生体だと納得したところで、後はやる事は一つだな」

 

 ニヤ、と好戦的な笑顔を浮かべるネテロ。おい、まさか……。

 

「武を極めんとするのならば、オレを倒してからだろう? お前の手紙の通りに研鑽は怠っていねぇ。勝ち逃げされたままで大人しくするなんざ武人じゃねえからな!」

 

 うわ~お。戦闘モードに移行しやがった。

 いやいやちょっと待て。確かに雌雄を決するのは吝かではない。だがしかし――!

 

「落ち着いてくださいネテロ。確かにあなたとの闘いは心躍りますが、今は無理です」

「何でだよ?」

 

 そう不満そうな顔するなよ。私だってお前と戦いたいさ。

 

「今の私は本調子とは程遠い状態です。オーラ量は残り3割を切っていますし、この1週間睡眠も取れていないんですよ」

「え、今期のハンター試験ってそんなに難しかったの? リュウシ……じゃなくってアイシャがそこまで消耗するなんて」

「どういう事ですかくそ……ネテロ会長。事と次第によっては……」

「い、いや、そんなはずはない! 確かにハンター試験の難易度はその年々によって多少の上下はあるが、アイシャが苦労するほどではないはず! 現に4次試験では悠々と受験生を狩っておった……はっ!」

 

 おい、こいつ今なんて言った?

 

「ネテロ。何故あなたが私の4次試験の内容を知っているのですか?」

「い、いや。あの時にはリュウショウじゃと当たりを付けておったから、そう予想しただけじゃよ?」

「……そうか、道理で絶の達人なわけだ。……あの監視者はお前だなネテロ」

「監視者? 何の話ですか先生?」

 

 私の一言に動揺したな。オーラの動きがわずかだが揺らいだぞ!

 

「そ、それはその……うむ、実はアイシャがリュウショウかどうかの確認が出来ぬものかと、4次試験の間こっそり監視しとったんじゃよ」

「やはりネテロだったか。全く、おかげで碌に寝れやしませんでしたよ」

「それについては済まんかったの! いや、さすがはリュウショウ! ワシの気配に気づくとは大したもんじゃ! そう思わんかリィーナ?」

「ええ全くです。さすがは先生。ネテロ会長の浅慮な行動などいとも容易く見抜いてしまうとは」

「そうじゃろうそうじゃろう!」

 

 ん? なんかネテロの奴話を誤魔化そうとしてないか?

 

「いえ、さすがはネテロ。正直水浴びしている最中に視線を感じなかったら気付かな――」

 

 ネテロが神速で扉に向かってダッシュ! いきなりどうした!?

 だがさすがはネテロの弟子か。ネテロの行動を読んだか、もともとネテロより扉から近かった事もあり、ネテロが扉に着く前にビスケットさんが立ち塞がる! そこをリィーナがすかさず後ろから逆関節を決めながら投げる! これは雷迅か! この後逆さになった後頭部を蹴――!

 

 おいおい……リィーナとビスケットさんで顔面と後頭部を挟み込むように蹴ったぞ……なんだこのツープラトン技は? 明らかに雷迅より威力あるわ~。しっかり足にオーラ籠めてるし。名前を付けるなら、風間流合気柔術奥義:雷迅・双龍とかこんな感じか?

 うわ。私の厨二はまだ死んでいなかったのか? でもネテロは死んだかもしれない。

 

「このエロジジイが! アンタの弟子だなんて恥ずかしくて声にも出せないわさ! 一回死んで来い!」

「何が監視ですかクソジジイ! 先生が手を下すまでもありません! そのまま三途の川を渡ってきなさい!」

「う、ぐぐ、わ、ワザととちゃうんじゃ……た、たまたま……」

「まだ言うかこの! この!」

 

 ああ、ネテロが一瞬でボロ雑巾の様に!

 もうやめて! ネテロのライフは0よ!

 

 

「ひ、ひどい目におうた」

「自業自得です。先生の慈悲に感謝しなさい」

「全くだわさ」

「まあまあ落ち着いて二人とも。私は別に気にしてないから」

 

 裸見られたくらいで死にはしないし。

 積極的に見せたい訳じゃないけど、不可抗力なら仕方ないさ。

 

「と、とにかくすまんかった。まさかそこまで疲弊するとは思わなんだ」

「まあ、睡眠不足はそうなんですが、オーラ不足はネテロのせいではありませんよ」

「ひょ? ではどういう事じゃ?」

 

 ……これを説明するには私の念、【ボス属性】について話さなければいけない、か。

 あまり自身の念能力は他人に話すべきではないけど、この3人ならいいか。

 

「実は私の念能力が原因となっているんです」

「!」

 

 おお? 3人とも驚いている。

 そういえば私は前世でも自分の念能力、発を一切教えていなかったな。そりゃ【原作知識/オリシュノトクテン】とか【絶対遵守/ギアス】に、ましてや【輪廻転生/ツヨクテニューゲーム】なんて言えるわけがねぇ。

 

「当然ですが他言無用ですよ? ……私の念に“自身にかかる特殊な念を防ぐ”というモノがあるのです」

「なんじゃそりゃ!?」

「念を、防ぐ?」

「反則じゃないそれって?」

 

 反則って。確かに強いけど、欠点もあるから完全無欠ってわけじゃない。完全無欠の念なんて作る事は出来ないだろう。

 

「そうでもありません。特殊、と言っている様に、物理的な念は防げません。あくまで私の身体に作用する特殊な念を防ぐだけです」

「ふむ。つまり、具現化したモノによる攻撃は通常通り効果はあるが、それに付与された能力、例えば攻撃した対象を麻痺させるといった効果は無効化されると?」

「まさしくその通りです」

 

 さすがネテロ。理解が早いね。

 

「うわ、操作・具現化・特質あたりが聞いたら切れそうな能力だわさ……」

「素晴らしい能力です! さすがは先生!」

「まあ、欠点もあります。無効化する念は自身では選べませんし、オーラの消耗も激しいです。常時発動なので強い能力を無効化し続けるとオーラが枯渇する可能性もあります」

 

 実は今もオーラは徐々に減っているんだよね。

 

「む? ではオヌシのオーラが消耗しとるのは……」

「はい。この能力が発動しているからです」

「では先生は何らかの念能力を受け続けていると?」

「その通りです……誰が能力者かは分かりませんが、ハンター試験が始まってからずっと能力を受け続けています。恐らく受験生か試験官の誰かだと思うのですが……ネテロ、心当たりはありません?」

 

 試験官だったらネテロが知っている可能性はあるんだけど。

 

「……そう言えば、1人心当たりがある」

 

 え! マジで!

 

「誰なんですかそれは? 場合によってはその者を矯正しますよ?」

 

 怖い……リィーナの笑顔が怖いよ……。

 

「うむ。ハンター試験の試験官をやりたいと直接頼み込んだ奴でな。本来なら審査委員会がプロハンターに頼み、了承してくれた者が無償で試験官になるのじゃが、そ奴は試験官になる為に試験専用の念能力まで作りおってな。あまりに面白くてつい今期の試験官に選んでしもうたんじゃ」

 

「いやアホですかその人は? 試験専用の念って普通作りますか?」

「ば、馬鹿がいるわさ……」

「というか原因の一旦はやはりあなたにあるのですね会長」

「お、落ち着け! まだ話は終わっとらん! そ、それでじゃが、その念能力が、試験中に発動し続ける念なのじゃよ。試験会場全てを範囲としてな。その効果が範囲内の監視・鑑賞、だったはずじゃ」

 

 なるほど、それが原因か。恐らく監視カメラの様な能力。私ももちろん範囲内にいたので映像に残るはずだが、【ボス属性】で無効化していた、と。

 そんな効果なら僅かなオーラで無効化出来るわけだ。

 

「とことん分からないわさ? 試験を鑑賞して何が楽しいわけ?」

「それは本人に聞いとくれ。ワシはそ奴の試験官にかける情熱が面白かっただけだからの」

 

 ネテロなら面白がるよなぁ。

 私の関係者なら殴ってでもそんな念を作るのを止めるよ。

 

「それで、その者の名前は?」

 

 ん? ……リ、リィーナのオーラがどす黒くなってる!?

 何だ? 何がそこまでリィーナの怒りに触れたんだ!?

 

「と、トンパという名じゃが、一体どうしたのじゃ?」

「ふふ、やはりそうでしたか……」

 

 おお!? オーラがさらに黒く!?

 暗黒面に堕ちちゃってないかこれ!?

 

「ではネテロ会長。そのトンパとやらをここに呼んでくれますか?」

「わ、分かった」

 

 逃げてぇ! トンパさん超逃げてぇぇぇ!!

 

 

 

 

 

 

 ホテルの一室でゆっくり休みながら【箱庭の絶対者】を鑑賞している時にネテロ会長から連絡が来た。至急15階の会議室まで来い、だと?

 

 全く。オレの至福の一時を邪魔するなよな。

 あと3日もすりゃ今年の試験も終わる。そうすれば【箱庭の絶対者】も来年の試験まで使えねぇ。少しでも多くの受験生が絶望に堕ちる顔を眺めていたかったのによ。

 

 まあ仕方ない。相手は協会のトップ。オレはただの一般プロハンターだ。立場が違いすぎるから断る事も出来ねぇ。

 それにオレの印象を悪くすると来年の試験で試験官が出来なくなるかもしれないからな。逆を言えばここで印象を良くする事で来年以降も試験官が出来る様に計らってもらえるかもしれない。

 早く行くとするか。

 

 

 

 会議室の前まで来たが……ネテロ会長以外に誰かいるのか? 話し声がする。どうにも複数人の気配がするぜ。一体誰がいるんだ?

 何故だかとてつもなく嫌な予感がする……入りたくねぇ。だがここで入らない訳にはいかない。会長をこれ以上待たしては印象を悪くするだろう。

 

 仕方ない。意を決して入るしかねぇ!

 

「失礼しま――」

「お久しぶりですねトンパさん。壮健そうで何よりです」

 

――終わった。オレの試験官ライフ――

 

 

 

 

 その後トンパの姿を見たものは誰もいなかった。








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