どうしてこうなった?   作:とんぱ
<< 前の話 次の話 >>

19 / 86
第十七話

 あの後。そう、リィーナによるトンパさんに対する質問(と言う名の拷問)により、トンパさんは自身の念能力【箱庭の絶対者】について洗い浚い話し、その能力を解除する事を余儀なくされた。
 ……少し同情するが、オーラ消耗の原因が取り除かれたので正直私的には大助かりだ。これで一晩ぐっすり眠ったら体調も回復するだろう。

 ……ちなみにトンパさんは心神喪失した後、完全に意識を手放して気絶している。今はリィーナの手によって鋼鉄入りのワイヤーで縛られ床に転がされているところだ……妙に手馴れていたのは気のせいだと信じたい。
 この後は道場本部に連行されて徹底的に扱かれるのだろう。……生きろ。

「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません先生」
「いえ、まあ、その、気にしてませんよ?」
「……さすがに同情するわねそいつに」
「ある意味男の生き様を見た気分じゃ」

 確かに。一度リィーナに矯正されていて、まだ新人潰しとやらに楽しみを見出すなんて筋金入りとしか思えない。ネテロの言うとおり、ある意味では尊敬できるわ。

「先生。先生はこのハンター試験が終わったら如何なさるのですか?」

 ん? いきなりの質問だな。でも確かに気になるのは当然か。

「先生には是非とも道場を――!」
「あ、それは駄目ですよ?」
「な、何故ですか!? あれは先生の……」

 リィーナ。私に風間流合気道場の総責任者にもう一度なってほしいのだろうが……。

「風間流はあなたに託しました。今後あの道場を引き継いでほしいのなら貴方がそれに相応しい人物を見つけ、育てなければならない」
「で、ですが」
「それも道場を率いる者の務めです。……貴方になら出来ると信じているからこそ後継を頼んだのですよ?」
「! 分かりました。このリィーナ、必ずや先生のご期待に応えてみせます!」

 ……私の言葉は全肯定なのは変わらんなぁ。この子、私が死ねと言ったら喜んで死にそうで心配だよ……。

「しばらくは世界を廻りたいと思います。リュウショウの時では出来なかった事もしたいですしね」

 主に童貞卒業だがな! その為にも早くグリードアイランドを手に入れなきゃ。

「おいおい。その前にやらなきゃいけない事があるだろ?」

 不敵に笑うネテロ。ああ、分かってるさ。

「ええ、忘れていませんよ。あなたは勝ち逃げ、とかほざきましたが……全体的に負け越してるのはこっちなんだ。勝負に拘っているのがお前だけと思うなよ?」
「そうこなくちゃな! ……3日後だ。3日後に決着を着けようぜ」

 3日後? だがその日は最終試験の日じゃ?

「最終試験はどうするのですか?」
「信用の置けるハンターとビーンズに任せる。試験概要は出来ているからな。後は組み合わせやルールの細かい通達をすればいいだけだ」
「いや、私の試験は? まさか試験後に決闘をするわけではないのでしょう?」
「安心しろ。お前は合格にしといてやる。実力は十二分だしな。……ああ、負けてライセンス貰うのが嫌なら試験の後でもいいぜ?」
「……いいでしょう。その挑発に乗ってあげます。勝って気持ちよくハンターライセンスを頂くとしますよ」

 そんな挑発に乗るのは馬鹿かもしれないが相手がネテロなら話は別だ。こいつから逃げたと思われるのは屈辱だ。

「へ、後悔するなよ? 精々この3日間で本調子に戻しておくんだな」
「ネテロこそ万全の態勢で来るように。武術家が闘いにおいて態勢を万全に整える事は本来ありえない……だが」

 そう、武術家は常在戦場。不意打ちや体調が悪い時に敗れたからと言って言い訳にはならない。試合とは違う、負けた方が未熟なのだ。だが――

『最高の状態のお前を倒せないと意味がないからな!』

 2人の闘志で部屋が軋む。
 ああ、楽しい。心躍るとはこの事か! ゴン達との楽しい会話とは違う。このピリピリとした緊張感を含むやり取り。こいつでしか味わえない至高の一時。
 やっぱりお前は最高だよネテロ!







 全く、嬉しそうな顔しちゃって。こんなじじいを見るのは何年ぶりかしら?

 そうね。リュウショウ先生が死んで以来、こんな風に笑う事はなかったわねぇ。そりゃいたずらしたり、人をからかって楽しそうに笑うクソジジイを見たことは何度もあるけど、こんな風に本当に心の底から楽しそうに笑うことはなかったわさ。リュウショウ先生の手紙を読んでからは修行を欠かさなかったみたいだけど、それを放てる相手はいなかったものね。
 そりゃ十余年ぶりに自身の武を思う存分に揮えるのだから嬉しくてしょうがないのは当然だわさ。

 ……もしかして転生を見越してリュウショウ先生はネテロのじじいに手紙を書いたのかもしれないわね。転生後、己が最強のライバルとまた闘うために。だとしたら、リュウショウ先生には感謝しなきゃね。

 それにしてもリィーナと来たら……。
 せっかく還って来たリュウショウ先生が獲られたとでも思っているのか、嫉妬たらたらの顔しちゃって。ああもう、本当にリュウショウ先生の事になると駄目ねぇ。普段は凛としてクールなくせに。

 先生が死んだ時もどれだけ落ち込んでいた事か。あまりの落ち込み具合に思わず叱咤してしまったわさ。それからは何だかんだでしばらく一緒にいたわねぇ。
 あんなにムカつく奴だと思っていたのに。いつの間にか一緒にショッピングにいったり、食事をしたり、ただいがみ合って闘うだけじゃなく、ジジイとリュウショウ先生みたいに研鑽を交える仲になったのよね。

 ま、悪い気はしないからいいけど。あーあ。また頬を膨らませて。あんた70越えのお婆ちゃんだって事忘れてない?
 ほんと、世話が焼けるわさ。

 さて、3日後にジジイとアイシャの決闘ね。くふふ、楽しみねぇ。ジジイとリュウショウ先生の決闘は何度見ても勉強になったわさ。その上今回はリュウショウ先生はアイシャとして転生している。聞けばアイシャは身体能力ではリュウショウ先生の時よりも圧倒的に上とのこと。
 つまりリュウショウ先生の欠点を補っているということになる。今度の決闘、今までの比じゃないかもしれないわね!

 期待を込めてアイシャを見る。…………うん、女の子ねぇ。あのリュウショウ先生が、こんな美人さんになるなんてね。……人生面白いわね!
 それにしても……駄目ね。なにあの服装? 色気の欠片もないじゃない。郷に入っては郷に従えって言ってる割に全然女の子らしくしてないわね。まあリュウショウ先生が自分から女性らしい服装を着るとは思えないけどね。
 そうね。どうせアイシャも今日1日は修行ではなく休養に費やすでしょう。オーラも回復しなきゃいけないしね。だったら少し買い物にでも誘いましょうか。色々と着せ替えしたら面白そうだしね、くふふ。








 私はネテロとの闘いに備えて休息し英気を養っている……はずだった。

 今、私は前世含めた145年の中で最大の危機に陥っている……!
 このままでは私は尊厳を踏みにじられ、精神をズタズタに切り裂かれ、身も心も地に堕とされてしまうだろう。
 誰か……! 誰か助けてくれ! 誰でもいい! この際ヒソカでもいい! この危機を救ってくれるなら私は悪魔にだって魂を売るぞ!!



「こっちの方がいいんじゃない?」
「それは少し派手すぎます。こちらの方が先生にはお似合いです」

「それは逆に大人し過ぎだわさ。こっちの方が可愛いって」
「先生はまだ13歳、子供なのですよ? こちらの方が良いに決まっています」

「何言ってるのよ。アイシャの見た目で考えてごらんなさいな。それにリュウショウ先生の頃も含めると子供なんて言えるわけないでしょ?」
「……それもそうですね。ではこちらはどうですか?」

「うん。いいじゃない。色は赤よりも白っぽい方が髪の色に合ってるんじゃない?」
「ふむ。……いっその事両方買いましょう。もちろんビスケが選んだ服も。そちらも先生にとても良く似合うでしょう」
「でしょでしょ!」

 タスケテ!



 私は現在最終試験会場から数㎞離れた場所にある総合デパートに来ている。ネテロと決闘の約束を交わして既に丸1日が過ぎている。あの後たくさんの食事とたっぷりの睡眠を取って、今の私は万全の状態に戻った。
 そもそもただの睡眠不足とオーラの消耗だけだったので1日もあれば完調するのは容易い事だ。

 明後日の決戦に向けて念のため今日1日は休息する事にした。明日は心身と技の最終調整をしようかと思っていた矢先の事、リィーナとビスケが入室して来たのだ。
 用件は一緒に買い物に行かないか、との事だった。時間の余裕もあったし、買い物程度で疲れる事もないだろう。出かける事で気分転換になり、心の休息にもなるだろう。
 それにリィーナには道場の件で苦労をかけたであろうから、それくらいはと思い快く承諾した……のが間違いだった。

 ここは、地獄だ。



「いや、あの、私は別に今ある服で十分――」
「何言ってんのよアイシャ! 女の子があんな色気の欠片もない服しか持ってなくてどうするのよ!」
「ビスケの言うとおりです。あまり派手すぎるのがお嫌いなのは重々承知ですが、さすがに運動服ばかりというのは……」

 う、動きやすさを重視しているのだけど……女物を着ないのは私の精一杯の抵抗なのに……。

「何度も言いますが、私は元男です。この様な服はあまり着たくないんだけど……」
「郷に入っては郷に従え、だったっけ?」

 うぐっ! そ、そこを突くか!?

「せ、せめてもう少し活発そうな服をお願いします……」

 ああ、駄目だ。この二人が手を組んだら口では勝てない。
 て言うかリィーナ! お前私の弟子だろう!? 弟子が師の嫌がる事をするとは何事だ!

「こんなのもいいんじゃない?」
「そ、それはいくらなんでも! ビスケットさんなら似合いますが、私には無理です!」

 誰がゴスロリ服なんて着るか! 年齢はともかく見た目がマッチしてなさすぎる! いやそれ以前の問題だ! そんな服着るくらいなら私は裸で外に出るぞ!

「ビスケットさんだなんてそんな他人行儀に呼ばなくても。ビスケでいいわよ」
「……ビスケ、とにかく私はそれを着ませんよ」
「分かったわよ。そこまで言うなら仕方ないわさ。じゃあ、こっちの服は? この服は諦めるからせめてこれぐらいは着て欲しいわさ」

 ……ゴスロリに比べれば遥かにマシか。

「はぁ、分かりましたよ。それだけですよ?」
「では先生こちらへ。試着コーナーがございます」

 ……あれ? なんか論点すり替えられてない?
 どうして着たくないのに着る羽目になったんだ?



「ああ、とても良くお似合いです!」
「うん大したもんね。元がいいから服も見繕いやすいわ~」
「もういいでしょう……そろそろ帰り――」
「では次はランジェリーショップへ――」

 タスケテッ!







 明後日にはもう最終試験か。よくここまで来れたもんだぜ。初っ端から脱落するかと思ったもんなぁ……。
 ここまで来れたのもゴン達のおかげだな。あいつらには感謝してもしきれねぇぜ。おっと、最終試験に合格する前に感傷に耽ってちゃ意味ねぇな。じっとしてるからこんな考えになるんだ。
 気分転換に部屋から出るか。

 ホテルのロビーで少し寛いでいると、ホテル正面玄関からアイシャが入ってきた。なんだ? 外に出かけてたのか? えらい余裕だな。
 て、おい! なんだあの服? えらい……か、可愛い服着てるじゃねぇか!? 今までは動きやすそうな色気の欠片もない服だったのによ。

「ようアイシャ!」
「ああ、レオリオさんですか……お疲れ様です……」

 ……いや、お疲れなのはお前みたいだが?

「どうしたんだよその服? もしかしてそれもあの馬鹿でかいバックの中に入っていたのか?」
「いえ、これは、その、知り合いからの貰い物でして……」
「貰い物~? ……おいおいこれチャネールの服一式じゃねぇか! 貰い物ってこれだけで軽く6桁いくぞ?」
「はあ、そうなんですか?」
「そうなんですかってお前……」

 ああ、アイシャは今まで殆ど流星街にいたから分かんねぇのか。

「私としては普段着で十分なんですが、その知り合いはそれでは勿体ないとこの服や他数点……いえ、数十点もの服を見繕いまして」

 数十点だぁ!? どんだけ金持ちなんだよその知り合いは! 紹介してくれオレにも!
 まあ、勿体ないってのには賛成だな。こりゃいい眼の保養だわ。

 ……おいおい。相手は13歳(自称)のガキだぞ! 何考えてんだオレは!

「私にはこんな服似合わないと思うのですが……」
「いやそんな事はない。めちゃくちゃ似合ってるぜ!」
「え?」
「オレが保障する! アイシャは自分の容姿に自信を持った方がいいぜ!」

 ああ、なに言ってんだオレは! がぁぁ! 顔が赤くなってんのが自分でも分かるぜ!

「えっと、その、ありがとうございます?」
「いやなんで疑問文なんだよ?」
「いえ、男の人にそう言われたのは初めてですので」

 ……世の男の眼は節穴か? 流星街にはまともな美的感覚を持った奴がいないのか?

「そ、そうだ! アイシャには礼を言っとかないとな!」

 何となく気まずい雰囲気になりかけていたから無理やり話題を変える。こんな空気の中で居続けるのはオレには無理だ!!

「え? お礼?」
「ああ。……オレがここまで来れたのは皆の、お前のおかげだからな」
「私は大したことはしていませんよ。ここまで来れたのはレオリオさんが頑張ったからです」
「それでも礼はさせてくれ。……ありがとよ。お前やゴン達と会えて良かったぜ」

 こいつらと会えたのはオレの一生の宝になるだろうな。恥ずかしくて言えないけどな。

「私も……私も皆さんと、レオリオさんと出会えてとても嬉しいです」
「お、おう」

 やべぇ。心臓がバクバクいってやがる! あんな笑顔反則だろう!

「あの、私、レオリオさんの事……」

 え、何この展開? マジで? でも相手はまだ子供だぞ? いや何を言っている。そんなの時間の問題だろう? それに見た目も性格も十二分に申し分ない。どこに問題がある!

 わが世の春が来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 

「と、友達と思ってもいいですか!?」

 ああ分かっていたさ、そんな落ちだろうとはよぉぉぉ!! 夢ぐらい見てもいいじゃねぇか! どちくしょう!!

「も、もちろんだぜ! 何を言うかと思ったら、オレ達とっくにダチだろ? 少なくともオレはそのつもりだったぜ」
「れ、レオリオさん! ありがとうございます! 私、今までこんな風に話せる友達居なかったんですよね!」

 嬉しそうに悲しい事を言うアイシャ……。
 ああ、こんなに喜んでよ。全く、オレなんかと友達になれた事がそんなに嬉しいのかよ。
 ま、悪い気はしないけどよ。

 ダチ、か。
 ……絶対にハンターに、そして医者になってやる。アイツみたいな患者を少しでも減らすためにもよ。







 やったやったやった~!
 祝! 転生人生初の友達が出来たぞーー! 思わず嬉しくてスキップで部屋まで帰って来ちゃったよ。

 いやぁ、勇気を出して言ってみるもんだな。まさかレオリオさんが私の事を友達だと思っていてくれたなんて! まともな友達(ネテロはまともではない)なんてどれくらいぶりだろう!

 ああ、こんなに嬉しい事は何十年ぶりか! この気分の高揚、もう何も怖くな――! はっ!
 それ以上いけない!

 ……今、恐ろしいほどの悪寒が?
 あれ以上言葉を発していたらネテロとの対戦時に頭をもぎ取られて死んでしまうかのような……そんな幻視が見えた気がする。

 疲れてるのかな?

 いかんいかん。気持ちを切り替えて明後日の決闘に集中しなければ。ネテロは全身全霊で闘いに臨むだろう。私もそれに応えるべく残りの時間は全て決闘の為に費やさねば。

 今日は精神的に物凄く疲れたけど収穫がなかったわけではない。この決闘は恐らく私の長い人生の中でも最も激しい闘いとなるだろう。だから今日の買い物で女性物の服だけではなく、これも購入したのだから。これはわが師リュウゼンに教えを乞うていた時よりデザインに一切の手を加えていない。これを着るだけで当時を思い出し、集中力も増すというもの。

 明日はリィーナと稽古の予定も入れているし、少し早いけど着てみよう。こんな服とはとっととおさらばしたいしね!

 うん。やっぱりこれを着ると神経が研ぎ澄まされるようだ。リィーナが来るまで座禅をしつつ、さらに神経を集中しておくとしよう。相手はネテロだ。最高のコンディションにしておかなくては勝てるわけがない。あの時の、リュウショウの感覚を取り戻さなくては。







 明日は先生とネテロ会長の決戦の日。先生ならば必ずやネテロのくそじじいを打倒し、名実ともに武の頂点へと至られる事でしょう!

 今日は先生より明日の為の最終調整に付き合ってくれと頼まれています。トンパさんの阿呆は既にプロハンター3名の監視付きで道場本部へと連行されている。これで憂う物もないので1日中先生と一緒に居られます!

 ホテルにある大ホールを借り切り、そこで最終調整を行うとの事。約束の時間まで後1時間ほどありますが、弟子が師よりも遅れるわけにはまいりません。早く行かねば!

 大ホールに到着し扉を開けると、そこには既に先生の姿があった。ああ! 先生をお待たせしてしまうとは! 何と不甲斐無い弟子!

「先生! 遅れて申し――!」

 これは!? 部屋の中心で座禅を組んでいる先生。そこから発せられているのは膨大な闘気! むやみやたらに闘気を振りまくのではなく、先生の中へと闘気が蓄えられているのが分かる!

「来てくれましたか。早かったですねリィーナ」

 そう言いながらゆっくりと立ち上がる先生。

 ああ、昨日買われた風間流の道着を着込んで佇むそのお姿……! 動きの所作、その闘気、言葉の端々に僅かだが現れる先生の口調の名残。
 まさに、まさにリュウショウ先生の生まれ変わり!

「少し早いが、始めるとしよう。ネテロも今頃は闘気を充足していることだろう」

 っ! 先生! 先生が還ってこられた!
 今まで以上にそれが実感できる! また先生と修行が出来る! 先生の教えに触れられる! 今、私は人生最高の幸福に包まれている!!!

「どうしたリィーナ? 鍛錬中に呆ける様に教えた覚えはないぞ?」
「はい! 先生! 申し訳ありません!」

 そうだ。呆けている場合ではありません! 先生との一時を一瞬たりとも無駄にしてなるものですか!







 ふう。やれやれ、会長にも困ったものだ。今期ハンター試験最終試験会場の近くに居たというだけで私を強引に最終試験官にするとは。
 しかもそれでいて既に試験内容は用意してあると?

 ただ試験を監督するだけにこの私を使うか普通? 私とて暇ではないのですがね。

 まあいい。会長の無茶に付き合わされるのも慣れた事だ。
 さて。ビーンズに確認したところ会長はこの部屋にいるらしいな。

「失礼します。会長、最終試験について詳しく――!?」

 これは! 「心」Tシャツ! 会長が本気で戦う時だけ身に着ける勝負服……!!
 かつて一度だけあのリュウショウ=カザマとの戦いに赴く時に着ていたのを見た事があるが……! それを何故今また身に着けているのだ!?

「おお。忙しいのにすまないなノヴ。お前ぐらいしか頼める奴がいなくてな」
「会長のいきなりにはもう慣れましたよ。……それよりもその服は一体?」

 一体誰と戦う為に着ているのだ? 正直ネテロ会長が本気で戦うほどの者がいるとは。ハンター協会のトップ。老いてなお世界で最も強い念能力者。
 そのネテロ会長が全力で戦うなど、一体誰が相手だというのか?

「疑問か? ワシの相手が。ワシが全力で戦うのが」
「! 恐ろしい人ですね。私の心を読まないでいただきたい」

「ひょっひょっ。顔に書いておったぞ? まだまだ修行が足りんのう」
「私をして修行不足とは。プロハンターの何割が未熟者になるのでしょうかね」

「ワシから見れば皆ヒヨコよ。さて、ワシも忙しいのでな。用件を終わらせておこう」
「……最終試験の試験官に私を任命したのはもしや」
「邪推するのは構わんがのう。止めても無駄じゃぞ?」
「分かっていますよ。そんな事をしても無駄なのは。さっさと試験内容について細かく教えていただきたい」

 私が言って止める様な人なら苦労はしていない。

「ほっほ。すまんのう」

 やれやれ。試験官をする事は構わないが、惜しむらくはネテロ会長が全力で戦う場面を見る事は叶わない事か。
 ……近くにモラウがいれば試験官を押し付けていたものを。







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。