どうしてこうなった?   作:とんぱ
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修行編
第十九話


 ……ああ、夢、か。

 懐かしい夢を見たものだ。あれから……そう、ネテロとのあの最後の決戦からどれだけの時が流れたのか。もう100年以上も昔のことだったか。さすがに永く生きると細かな記憶も抜けてしまうが、あれだけはいまだ色褪せぬまま私の中に残っている。

 

 私ももう120歳になるか。あの時のネテロと同じ程の年齢か? 前世を含めたら250年以上を生きたんだな。……少し永く生き過ぎたと思う。こんなにも永く生きてしまうと、数多の別れと付き合うことになる。皆において行かれるのはやっぱり寂しい。

 

 ネテロはあの戦いのあと、治療の甲斐なく死んでしまった。私が殺したことになるが、闘いの結果だ。悲しみはしたけど後悔はなかった。

 あいつは、あいつはとても安らかな顔をして逝った。満足そうに、もうなにも思い残すことはないかの如く。私の気持ちも知らずによくもそんな顔で逝ったものだと当時は怒りもしたが、思えばネテロも私(リュウショウ)が死んだ時同じ気持ちだったのかと思うと怒りも消えた。

 ただ、寂しさだけが残った。

 

 リィーナはしばらくはビスケと共にいたな。師が死んでしまい落ち込んでいるであろう彼女の心の支えになりたかったんだろう。その後は弟子育成に勤しんでいた。早く後継を育て上げて私とまた鍛錬を積みたいと言っていた。全く、困った子だった。そして、私の自慢の子だった。

 彼女が死んだ時はそれは皆悲しんでいたな。大勢の弟子や知人、はては世界の著名人までが彼女の葬式に来ていた。

 

 ビスケはネテロの死後しばらくリィーナと共に旅をし、吹っ切れてからは自分らしく生きていた。大好きな宝石を集める為に世界中を飛び回っていたな。彼女の最期を私は知らない。何時の日か顔を見なくなってしまった。どこかで死んでしまったのか。捜索はしたが、終ぞ見つかる事はなかった。

 

 私はあれから様々なことをした。グリードアイランドに行き、蟻の化け物と闘い、外の世界にまで足を踏み入れた。荒事ばかりをしていたせいか、この体で50歳になる頃には精神が疲れてしまい、そういった世界からは足を洗った。

 やることもなくなった私は所有していた個人資産で孤児院の経営に乗り出した。武術しか能のない私だが、僅かなれども人の役に立てればと思い至っての事だ。

 たくさんの人々の助力もあり、なんとか孤児院経営も軌道に乗る事が出来た。

 

 特にレオリオさんには多くの子を助けてもらったなぁ。

 プロハンターに合格したレオリオさんは、その後見事に医者になる事が出来た。他人を助ける為に努力を惜しまない彼にはとても好感が持てた。

 レオリオさんは定期的に孤児院に診察に来てくれた。世界中を飛び回ってとても忙しいのに、自分の身体を顧みず人々を助け続けた。お金がなく治療費が払えない人からは一文たりともお金を受け取らなかった。それだけではない。多額の寄付金を孤児院含む慈善団体に寄付していたので彼自身はとても慎ましい生活をしていた。

 そのせいかよく私の料理を食べに来ていたからな。寄付してる孤児院で食事するって本末転倒だよね? と彼に言ったが苦笑いするだけだった。

 

 ゴンは父親を見つける事が出来た。かなり苦労したらしいが、見つけた事を報告するゴンはとても喜んでいた。彼はその溢れる才能を伸ばし、ハンター協会において最強の名をキルアと二分していた。

 キルアとはいつまでも親友のようで、常に2人一緒に世界中を旅して廻っていた。この2人が外の世界に飛び立ってから便りはない。だが、例えのたれ死んでいようとそれはそれで満足なんだろうと思う。

 

 クラピカさんは蜘蛛に復讐を果たした後、一族復興に励んだ。

 遺されたクルタ族は彼1人だったが、故郷の近くの町にクルタの血を引く女性を見つけたのだ。混血故に緋の眼になることはない彼女だったが、彼女の祖父の遺言、そしてDNA検査の結果からクルタ族の血を引いている事が分かった。

 その彼女とクラピカさんは結婚。殆ど愛がない結婚かと思ったが、意外と夫婦仲は睦まじく、14人もの子供と51人の孫に囲まれていた。私も早く結婚したらどうだ? といらぬお節介を焼いてくれたものだ。

 

 

 

 ……こんな風に昔を思い出すのは、死期を悟ったから、か。もう私も長くはないようだ。仕方ない。よく生きたものだ。

 孤児院の経営も信頼できる人に任せてある。好敵手も、弟子も、仲間も皆逝った。もう思い残すことはない。遺していく子供たちには悪いけど、これも自然の摂理だ。いつかは誰もが通る道。これを経験に大人になってほしい。

 

 あの世があるならば皆に会えるかな? そしたら久しぶりに闘ってみたい。ネテロはもちろん、ゴンやキルアとも。

 

 リィーナとビスケは仲良くやっているかな? リィーナには伝授しそこなった奥義があるから教えてあげよう。

 

 レオリオさんにはあなたが助けた子ども達がどれだけ立派になったか話してあげよう。きっと喜ぶ。

 

 クラピカさんは奥さんと共にいるのか? だとしたらあまり見せつけないでほしいな。

 

 ああ、そろそろお迎えが来たみたいだ。

 意識が、薄れていく……。

 うん、永い人生色々あったけど、まあ、満足できたかな。

 

 ……それじゃ、おや、す、み――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――という夢を見た。

 いやいや、何が満足なのか? 確かにネテロとの決闘は満足のいくモノだったけど、だからと言って人生の目標たる脱童貞を達成してないんだ。勝手に逝くな私。

 しかし夢の中で夢を見るなんて器用だな。というかなんだ今の夢は? 予知夢か何かか? かなりリアルだったんだけど? ネテロがあれで死んだなんて縁起でもない。

 

 ……ネテロ!? そうだ、あの戦いからどれだけ経った? ここはどこだ? 私はなんで寝ている!? もしかしたら今のは正夢かもしれない。そう思ったら居てもたってもいられず、思わず勢いよく起き上がった――

 

「~~~~~~~っ!!」

 

 ぎにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! い、痛い! 全身が痛い! 声にならないほどに!

 

「う、うぐぅ」

 

 あ、涙が出てきた。くそ、ネテロの奴め、しこたまやりやがって。いたいけな少女に何たることを。

 ……ここだけ聞くとアイツが性犯罪者みたいだな。

 

 ふぅ。落ち着いてきた。

 ここはどうやら病院かな? 部屋の雰囲気がそれっぽい。あの後リィーナとビスケが病院に搬送してくれたんだろう。それはともかくまずは現状を把握しなくては。身体の状態は、と。

 

 ……四肢や指に欠損はなし。神経も問題ないようだ。骨は数えるのが馬鹿らしくなるくらい折れている。全身ギブスと包帯でぐるぐる巻きだ。まさにミイラ女。でもくっ付きかけてるのもあるな。

 内臓はかなり損傷。いくつか破裂しかかっていたようだ。内出血、および擦過傷はわからない。ギブスで見えないし、そういった感覚もない。もしかして自然治癒したか?

 傷の治り具合、腹の空き具合からして細かくは分からないけどかなり眠っていたようだ。

 

 とにかくここが病室ならコールボタンがあるはず。何とかして人を呼ばなきゃ。どうやらさっきので点滴も外れてしまったようだし。

 と、そんな時に部屋の外に人の気配。この気配はリィーナか、これは都合いいな。

 

「先生、失礼しま――!?」

「リィーナ。良く来てくれた」

 

 私を見て驚愕するリィーナ。その後歓喜の表情へと。分かりやすいなぁこの子は。

 

「先生! お目覚めになられたのですね!!」

「ええ、たった今ですが。……ところでここはどこ? あれからどれだけの時間が経ったんです?」

 

「はい。ここは試験会場近くにある病院です。先生はあの決闘の後、1週間も眠られていたのです」

 

 1週間? 寝すぎだろ私。いや、そんな事よりもネテロだ! あいつはどうなった!? 生きてるのか、それとも……!

 

「ネテロは? ネテロはどうしている? あいつもここに入院しているのか?」

「ネテロ会長は、もう……」

 

 ――! ……リィーナの表情を見ればその先は聞かなくても分かる。

 そう、か……。勝手に逝くなよ。馬鹿野郎……。

 

「もう、勝手に自主退院してしまいました」

「……はぁ?」

 

 いやいや、何言ってんのこの子? え? 死んだんじゃないの?

 

「そうだ。先生が目覚めた事をビスケにも教えましょう! あの子もとても先生の事を心配していましたよ。……まあ、一応ネテロ会長にも伝えておきますか。気にしていましたからねアイツも」

「いやいやいやいや。ちょっと待て」

 

「はい? ああ、やっぱり会長には伝えないようにした方がいいと?」

「違うよ! ネテロ生きてるの!?」

 

「ええ勿論。ぴんぴん……とは言えませんが、2日ほど前に目覚めてます」

 

 何だそりゃ! 私の悲しみを返せ! 全く、思わせぶりな言い方と表情をしおってからにこの子は。そんな私の心の声を余所にリィーナはビスケに連絡を取ると言って退出していった。

 

 ふう。そうか、生きているか。それなら良かった。あんな夢が現実になるなんて嫌だぞ私は。

 安心してきたからか。……少々生理現象が私を襲ってきた。……右足動かない、左足動かない、右腕左腕同じく。

 やべぇ。

 

 いや諦めるな! ここで諦めたらお終いだぞ!? この歳でお漏らしだなんてそんなのは絶対に嫌だ!

 ……精神年齢百云十歳でオシメ替えてもらってたけどね! でもあれは赤ちゃんだからノーカウント! まともに動ける歳でそれは御免こうむる!

 全身をオーラで強化して這ってでもトイレに行くぞ私はぁ!

 

 

 

 結論、尊厳は守りました。でもトイレを出た後痛みで悶えてるところをリィーナとビスケに発見されて怒られました。

 しかも寝ている間は下の世話を看護師だけでなくリィーナとビスケもしていた事を知りました。

 

 ……Please kill me。

 

 

 

「まあ、無事で何よりだわさ」

「……」

 

「先生、まだ治ってないんですから危ない事をしては駄目ですよ」

「……」

 

「ネテロのジジイは内臓関係はアイシャよりぼろぼろで肋骨もほぼ全損してたけど、四肢は無事だったから勝手に抜け出したわさ。困ったものよね」

「……」

 

「全くです。先生が目覚めた事は一応伝えておきましたのでその内来訪するでしょう」

「……」

 

「いや、仕方ないじゃない。あんたずっと眠ってたんだから。いい加減機嫌直しなさいよ」

「……お前達には分からないでしょう。自分よりも遥かに年下の弟子とその親友に下の世話をされた私の気持ちは」

 

 せめてこの身が老人ならまだ納得いったのに。ああ、リュウショウに戻りたい。切実に戻りたい。

 

「と、とにかく先生! 決闘お疲れ様でした!」

「そ、そうね! ほんとお疲れ様。あれ程の決闘に立ち会えた事に感謝するわさ!」

 

 話題を変えようとしてるのが見え見えだけど……はぁ、仕方ないか。世話してもらって文句ばかり言うのも不義理だしね。

 

「ええ。私もネテロと最後までやり合えた事がとても嬉しいですよ。次は負けない様に一層励まなければならないですね」

「何を仰るのですか先生。あの決闘、勝利したのは先生でしょう」

 

 はは、弟子の想いは嬉しいけど、あれで勝利とは――

 

「いやいや、何言ってんのよリィーナ。どう見てもジジイの勝ちでしょ? アイシャの方が重傷なんだし」

 

 ……あれ? なんか空気おかしくない?

 

「ビスケこそ何を言っているのですか? ネテロのクソジジイはあなたの【魔法美容師/マジカルエステ】がなければオーラの枯渇で死んでいたでしょう? それに比べて先生は通常の医療行為のみで回復されてます。差は明らかでしょう」

 

 リ、リィーナさん? どうしてオーラが強まってるの?

 

「別にあれは念の為にした事だし。アイシャにもしたけど無効化されただけだし。それでじじいの負けって決められてもねぇ? どちらが多く相手にダメージを与えたかは明白でしょ」

 

 ビスケさん? ここで練をする必要はないんじゃないかな?

 

「……思えばあなたとは久しく決闘していませんでしたね」

「……そうね。手合せぐらいはしてたけど、決闘とまではいかなかったわねぇ」

 

「確か私が126勝102敗で勝ち越していましたね?」

「それ私が本気出してないのも含んでいるわよね? 本気の決闘なら大体五分五分でしょ?」

 

「大体、ですけどね」

「……上等よ」

 

 ……うん、大丈夫か。言葉だけ聞くとあれだけど、オーラに互いを悪く思っている感じはない。まあこれも仲の良い証拠だろう。

 でもここで本当に暴れられても困るから釘は刺しておこう。

 

「2人とも、仲がいいのは分かったから少し落ち着いて。病院ですよここは」

「も、申し訳ありません先生」

「あ~、悪かったわさ。ちょっと羽目外しすぎたわさ」

 

 うんうん、分かればいい。

 それはそうと聞いておかなきゃならない事があるな。

 

「そう言えば、ハンター試験はどうなったのですか? 私のライセンスってあるんですか?」

 

 ゴン達はハンター試験に合格出来たんだろうか? 合格出来てるといいんだけど。

 私は引き分けだからライセンスはなし、てな事になってたら面倒だな。来年もう一度受けるのも何だし。でもハンターライセンスは正直欲しい。

 あれがあれば色々便利だ。調べものをするにも通常のインターネットで調べても分からない裏の情報も得る事が出来やすい。グリードアイランドを入手するのに使えるかもしれないし。

 

「ご安心ください先生。先生のハンターライセンスはきちんと発行されております。これで先生も私と同じプロハンターですね」

「おめでとうアイシャ。一応この道の先輩として聞きたいことがあるなら色々教えるわよ?」

「2人ともありがとうございます。……リィーナ、あなたプロハンターだったんですか?」

「はい。黒の書を探すのにライセンスがあった方が何かと便利と思いまして」

 

 なるほど。でもそれでも見つかっていない……情報が出回っていないって事はコレクターが所有してるわけではないのか? マニアとかコレクターなら自分の集めた品を誰かに自慢したがるだろうし。そしたら自然と情報は洩れるはず。人の口に戸は立てられないものだ。

 うう、誰が持ってるんだ私のブラックヒストリー……見つけ次第焼却処分してやる!

 

「さっきビーンズに連絡しておいたから。アイシャが退院する時にライセンスを持って来てくれるそうよ」

 

 退院時か。重傷人にライセンスを渡したりしないのはこちらを考慮してくれてのことかな? 早く退院したいなぁ。ゴン達にも会いたいし。電話番号聞いてたら良かったよ。

 

「邪魔するぞいアイシャ」

 

 ん? ネテロか。本当に生きてたか、良かった良かった。枯れ木のようになってた身体も元に戻ってるし。

 

「元気そうで何よりですネテロ」

「そっちもな。零を喰らって無事だなんて正直驚いたわい」

「無事なもんですか。あんなのは二度と御免です」

 

 いや本当に。ネテロと戦うならあれは禁じ手にしてもらわにゃいかんですたい。

 

「安心しろ。ワシもあんなのは早々使いとうないわい。ビスケがおらなんだら死んでおったわ。……死ねばオヌシと戦えんからのぅ」

「いや、死んでも戦えるかもしれませんよ?」

「お前と一緒にするな阿呆!」

 

 それはそうか。普通転生なんて出来るわけないしね。

 

「それよりもネテロ。あなた退院したと聞きましたが、傷は大丈夫なんですか?」

 

 見たところ表面上は普通だが、ネテロの怪我の殆どは内部だ。肋骨と内臓は私よりも重症のはず。

 

「ん、まぁな。正直かなり堪えてるが、四肢が無事なのが幸いじゃ。会長の仕事をする分には問題ないわい」

「それならいいのだけど、無理はしないように。内臓関係は身体に響きますよ?」

「心配ないわい。ワシよりもアイシャの方が重傷なんじゃ。人の心配よりも自分の怪我を治すことに専念するんじゃな。医者が言うには全治半年との事じゃが、オヌシならひと月程度で十分じゃろう」

 

 私はネテロの最後の一撃のせいで全身の骨がボロボロだからな。しばらく動けそうにない。とりあえずしばらくは点と纏、そして絶をしながら体を休めよう。

 

「そう言えば先生は世界を巡ると仰っていましたが、どこへ行くかもう決められているのですか? もし行先が未定ならば是非一度道場へと」

「行先はまだ決めていませんが、道場に顔を出すのはまだ無理ですよ」

「そ、そんな……!?」

 

 いやそこまで残念がらなくても。

 

「私にも予定があるのです。行先もライセンスを手に入れ次第調べます」

 

 とりあえずグリードアイランドについてハンターライセンスで調べよう。通常のネットでは情報に殆ど規制がかかっている。でもプロハンター専用サイトならもっと詳しい情報が手に入るに違いない。

 

「予定? それは一体どの様な?」

「はい。その予定はもちろん――」

 

 ごくり、と誰かが生唾を飲んだ。

 一拍置いてから私の目的を話す。

 

「男に戻――」

『――それは勿体ない(わい・です・わさ)!!』

 

 突っ込み速いなおい!!

 

「な、何故ですか!? 私は元々男ですよ!? 男に戻ろうとして何が悪いと言うのですか!?」

「何を言うか! 元が男とはいえ転生後の性別が女性である事に変わりはない! ならばそれは天命なのじゃ!」

「そんな愛らしいお姿なのに男になるなど勿体ないです! 今回ばかりは会長に賛同です!」

「リィーナの言うとおり! わざわざ男にならなくても十分生きていけるわさ!」

「そもそも女として生まれ育てられたことに対し、郷に入っては郷に従え、と言ったのはアイシャではないか!」

 

 う!? 全員でまくし立てる様に責め立てるなんてあんまりだ! くそう! 負けるものか! 絶対に男に戻ってやるー!

 まずはとっとと退院だ! 強化系で治癒能力でも作ってりゃよかったよ!

 

 

 

 というわけで退院しました。

 いやぁ、バキバキに折れた骨が完治するのに3週間近くかかったよ。医者は化け物か? とか言ってたけど。失礼な、それはネテロに言ってくれ。

 ネテロの奴はハンター協会の仕事に追われているようだ。勝手に1週間ほど休んだから溜まっていた仕事以外に副会長とやらの仕業で仕事がさらに増えたらしい。おかげで私のところにはあれ以来一度も顔を出していない。

 

 リィーナも道場へと帰った。私を置いていくのに物凄く抵抗があったようだが、ビスケに強引に連れられて道場本部へと強制送還された。

 まああまりに長いこと道場から離れるわけにはいかないしね。トンパさんも待っている事だし。いや、トンパさん的にはリィーナが帰ってこない方がいいんだろうけど。

 

 3人とも最後に顔を合わせた時は男への性転換なんて絶対にNO! と釘を刺して行きやがった。この病院の医師にも性転換手術をしない様に徹底して言いつけているようだ。あの様子なら世界中の手術可能な医師全員に通達してそうで怖い。

 だが残念だったな! 私の性転換の方法は手術などではない! 手術では性転換出来ても完全に男になれる訳ではないからな! まあ、調べた限りではヤる事は出来るみたいだけど。

 

 とにかく私が目指すのは完全なる男性化だ。さっさと荷物をまとめて病院から出るとしよう。と、いったところでビーンズがやってきた。どうやらハンターライセンスを持って来てくれたようだ。

 

「わざわざすみません。病院まで来てくれるなんて」

「いえ、アイシャさんには会長がお世話になりましたし。……その件は本当にご迷惑をお掛けしました。治療費並びに入院費はこちらで全額負担させて頂きます」

 

 え? それは何か悪いな。入院したのはお互い様だし。

 

「お互いに合意の上での事ですから、それには及びませんよ?」

「大丈夫ですよ。協会からではなく会長個人のお金ですから」

 

 ……それで大丈夫ってのは秘書としてどうなんだビーンズ? いや、ハンター協会会長の秘書としては間違っていないのか? 協会の金を私事に使用しないという意味では。

 

「そ、そうですか。ではありがたく受け取らせてもらいますね」

「ええ、どうぞご遠慮なく。それではハンターライセンスについて説明しますね」

 

――豆男説明中――

 

「以上です。これであなたも新たなプロハンターとして認定されました。また、アイシャさんは念能力を修めているので裏ハンター試験も合格となります」

「ありがとうございます」

 

 おお、これで私もプロハンターか。

 おっと、感慨に耽っている場合ではない。ゴン達がどうなったか聞かなきゃ。

 

「あの、ゴン……他の受験生はどうなったのですか? 誰が合格して誰が不合格になったのか聞きたいんですけど」

「ああ、合格者……というより不合格者を教えた方が早いですね。不合格者は1人だけ、それ以外の方は皆……死亡した1名を除き合格されています」

 

 え? 不合格はたったの1人? だったらみんな合格してるかもしれないな。でも死者が出たのか。ゴン達の誰かが死んだ可能性もあるのか……。

 

「不合格者は、受験番号100番のキルアさんです」

「! ……キルアが不合格? 何故です? 彼ほどの実力の持ち主がそう簡単に不合格になるとは思えません」

 

 最終試験がペーパーテストとかなら話は別だけど。

 

「……反則による失格です」

「……詳しく聞かせてもらえますか」

 

 反則? いったい何をしたんだキルア? そもそも最終試験の内容もルールも知らないから何が反則かも分からない。くそ! 【原作知識/オリシュノトクテン】が使えたら! ……いや、既にその知識とは乖離している可能性の高い世界だ。意味はないかもしれないな。

 とにかく、今はビーンズの話に集中しよう。

 

 

 

 

 

 

「それでは最終試験を始めます。私は最終試験の試験官を務めるノヴといいます。以後よろしく」

 

 ノヴさんに試験官を任せて会長は何をしているんでしょう? 全く、会長の気まぐれにも困ったものです。しかし、自分で決めた試験だというのに他人に試験官を任せるなんて、面白いことが好きな会長にしては珍しいことですね。本当に何があったのでしょうか?

 

「試験内容は1対1のトーナメント形式で行う。組み合わせはこれです」

 

 意地が悪い組み合わせですね、会長らしいといいますか。

 案の定皆さん驚いていますね。まあこんなに偏った組み合わせなら当然でしょう。ですが会長の意地悪さは組み合わせだけでなく試験のルールに表れているんですよね。

 

「最終試験のクリア条件は至って単純。たった1勝で合格です。つまりこのトーナメントは勝者が次々と抜けていき、敗者が上に昇っていくシステムです。……何か質問はありますか?」

「つまり不合格者は1人と?」

「その通りです」

「組み合わせが公平でない理由は?」

「この組み合わせは今まで行われた試験の成績を元に作られています。成績のいい者にチャンスが多く与えられている訳です」

「ちょっと待ってくれ。どうしてその組み合わせの中にアイシャの……401番の番号がないんだ?」

 

 やっぱりそれを疑問に思いますよね……はあ、説明するのが億劫ですねぇ。みなさんが素直に納得してくれればいいのですが。

 

「それについては私から説明します。受験番号401番のアイシャさんは最終試験前に合格をいたしました。よって最終試験は免除されています」

 

 この言葉の後にざわめきと驚愕の声が室内に響く。さすがにそうなりますよね。

 

「どういう事だ? 納得のいくように説明してもらいたい」

 

 ……ですよね。……これを納得させなきゃならないなんて。会長、恨みますよ。

 そもそも誰もがプロハンターになりたいから試験を受けているのです。凄まじい倍率を誇り、年に1人の合格者すら出ない年も珍しくないのがプロハンター試験。そんな受験生の誰もが望む合格を、最終試験を受けずに得ることが出来るなんて簡単に納得出来るわけがありません。

 

「皆さんお静かに。……アイシャさんは会長とのゲームに勝利したため合格とみなされました」

「ゲームだぁ? 何だそれは?」

 

 いえ、私も知りませんよ。ただ会長からこう言えば大丈夫じゃとか言われただけですよ。これで納得してくれるなら苦労なんて――

 

「あ! キルア、あの時のゲーム!」

「……マジかよ。つまりアイシャの奴あのじじいからボール奪ったのか?」

 

 あれ? これで本当に通じるとは。さすがは会長と言いますか。……でも今苦労しているのも会長のせいなんですよね。

 

「どういう事だゴン、キルア」

「実はね――」

 

 ……なるほどそんな事が。そのような遊びで合格にするなんて。

 まあ会長からボールを奪えるなんてかなりの実力者ですけど。不用意にそんな約束をするからいけないんですよ。これを機に少々反省してもらいましょう。

 ……どうせどんなに愚痴っても意味ないでしょうけどね。

 

「皆さんご理解いただけましたか? 納得は出来ないかもしれませんが、会長自身が約束したことです。アイシャさんの合格は決定事項です」

「話を戻しますよ。トーナメントの戦い方ですが、武器使用可、反則なし、相手にまいったと言わせれば勝ちです。ただし、相手を死に至らしめた者は即失格です。その時点で残りの者が合格となります」

 

 上手くノヴさんが話を最終試験に戻してくれたので皆さん納得はしてないかもしれないけど、アイシャさんのことについては言及されずにすんだようです。

 

「それでは最終試験を開始します」

「第1試合! ハンゾー対ケンミ!」

 

 ……素晴らしい実力の持ち主ですねハンゾーさんは。これで念能力に目覚めたなら1流のプロハンターになる事も可能でしょう。ぜひとも頑張ってもらいたい。

 ケンミさんもかなりの実力者、どうやら風間流の使い手のようですね。ですが、ハンゾーさんには及ばなかったようです。まだチャンスはあるので合格できるといいですが。

 

「第2試合! ゴン対ヒソカ!」

 

 これは……実力差は圧倒的ですね。私程度が見ても現時点でゴンさんがヒソカさんに勝てるとは思えません。善戦はしていますが、遊ばれていると言った方が正しいでしょう。

 

「ゴン。今のキミじゃボクには勝てないよ♣」

「分かってるよ! でも、ぜぇ~ったいにまいったなんて言わないもんね!」

「ククク、ああ、分かってるさ。だから――まいった♠」

 

 え? ヒソカさんが降参した? 何故?

 ……いえ、このような試験のルールでは案外良い手なのかもしれませんね。どうもゴンさんは頑固そうな様子です。素直に負けを認める可能性は少ないでしょう。無駄な時間を掛けるよりもさっさと次の相手を降参に追い込んだ方がマシという判断でしょうか。

 

「え?」

「まいった。降参だよ。キミの勝ちだ、合格おめでとう♦」

「な、なんで?」

「だってキミ諦めないでしょ? だったら次の試合で合格するよ」

 

 やはりそうでしたか。しかし、これは次の対戦相手であるボドロさんが貧乏くじを引くことになりましたね。

 

「そんなの納得出来るわけないよ!」

「仕方ないなぁ。……今のキミは相手にするまでもない。もっと美味しく実ったら収穫してあげるから頑張って修行しておいで♥」

 

 そう言いながら凄まじい一撃でゴンさんを殴り飛ばした! ……ゴンさんはどうやら気絶したようだ。気絶してしまえば文句も言えませんよね。

 

「というわけで審判。ボクの負けを宣言するよ♣」

 

「第3試合! ケンミ対クラピカ!」

 

 これはクラピカさんの辛勝ですか。ケンミさんはハンゾーさんに腕を折られたのが痛かったですね。それがなければケンミさんが勝利していたかもしれませんが。

 このトーナメントでは負けても次のチャンスがあるので負けるにしてもダメージを少なくして負けた方がいいのですが、そう簡単に降参する人がここまで残るとは思えませんし。

 本当に意地が悪い試験を考えるなぁ会長は。

 

「第4試合! ヒソカ対ボドロ!」

 

 これはまた一方的な試合ですね。ボドロさんも諦めていないようですが、ヒソカさんには勝てそうになさそうです。それにしてもヒソカさんはゴンさんに対して本当に手加減していたのですね。そう思えるほどにボドロさんが痛めつけられています。

 ん? ヒソカさんがボドロさんに耳打ちをするとボドロさんが負けを認めた。いったい何を言ったのでしょうか。

 

「第5試合! ケンミ対キルア!」

 

 キルアさんのいきなりの戦闘放棄。戦う気がしないから負けを宣言するなんて。次で合格できると踏んだのでしょうか?

 

「第6試合!――」

「――ちょっと待ってくれ」

「……なにか?」

「俺の対戦相手はボロボロだ。少しでも休む時間を与えたい。だから先に次の試合をやってくれねぇか?」

「……レオリオ殿」

 

 なるほど。レオリオさんは心優しい人のようですね。このような人がハンターになってくれると私も嬉しいですが。

 

「いいでしょう。多少順序が変わっても問題ありません」

「レオリオ殿、かたじけない」

「良いってことよ。ただし、試合じゃ手加減はしないぜ」

「望むところよ」

 

「第6試合! キルア対ギタラクル!」

「久しぶりだねキル」

「!?」

 

 これは!? ギタラクルさんが顔の針を抜くと容姿がどんどんと変わっていく! どうやらギタラクルさんは念能力者のようですね。この現象は念以外では説明がつきません。

 

 

 

 ……なるほど、ギタラクルさんはキルアさんの実の兄でしたか。しかし熱を持たない闇人形。人を殺した時のみ喜びを覚える、ですか。会長もゾルディック家の人とは面識がありますが、その中の1人、ゼノさんは家業を継いで以来仕事以外で人殺しはしたことがないと言っていたらしいですが? 聞く限りでは結構人間味もある方との認識だったんですけど。

 

「ゴンと……友達になりたい。もう人殺しなんてうんざりだ。ゴンと……ゴンと、レオリオと、クラピカと……アイシャと友達になって、普通に遊びたい」

「無理だね。お前に友達なんて――」

「――ふざけんな!」

「ん?」

「何言ってやがるキルア! ゴンと、俺達と友達になりたいだって!?」

「あ……」

「寝ぼけんなよ! 俺たちゃとっくにダチだろうが! ゴンだって、アイシャだってそう思ってるはずだ!」

「その通りだキルア。私達は苦楽を共にした仲間だろう?」

 

 ……いいですね。友情というものは。あのような圧倒的実力者を相手にタンカを切れるなんて、簡単ではありません。それなのに友の為に怒り、それを素直にぶつけられるなんて。キルアさん、そういう友達は本当に少ないんですよ。良かったですね。

 

「そっかまいったな。キミたちはキルの事を友達と思ってるんだ。……401番も?」

「たりめーだ!」

「うーん。仕方ない。キミたちを殺そう……と、キミたちを殺したら不合格になっちゃうか。それは困るな。仕事の関係上オレには資格が必要だし、オレが落ちたら自動的にキルが合格しちゃうしね。そうだ! まず合格してからキミたちを殺そう!」

 

 ここまで簡単に人を殺そうとするなんて、ゾルディック家は何とも恐ろしく、悲しい教育をしているんですね……。

 

「それなら仮にここの全員を殺しても、オレの合格が取り消されることはないよね?」

「ええ。ルール上は問題ありませんね」

「聞いたかいキル。オレと戦って勝たないと、友達を助けられない。友達のためにオレと戦えるかい?」

 

 ……結局、キルアさんは負けを認めた。

 仕方ない事でしょう。あのプレッシャーの中、圧倒的実力差の相手に対して勝とうと思うのは無理というもの。

 そして次の試合。レオリオさんとボドロさんの試合開始と同時にキルアさんがボドロさんを殺害。キルアさんの不合格が決定してしまった……。

 

 

 

 

 

 

「というわけです」

「……」

 

 そう、か。そんな事があったのか。私がその場にいればあの顔面針男をぶっ飛ばしていたのに! それにキルアが私とも友達になりたかっただって? なんて嬉しいことを! レオリオさんといい、私に2人目の友達が! いや、話を解釈するにゴンやクラピカさんも私を友達と思ってくれてるかも!?

 もう何も怖くない! ゾルディックだろうがなんだろうがかかってこい!

 

「アイシャさん?」

「ああ、すいません。……今ゴン達はどうしてるか分かりますか?」

「説明会での会話を聞く限りではどうやら実家へと帰ったキルアさんを連れ戻しにゾルディック家へと赴いたようです」

 

 何だって! 彼らの実力でゾルディック家に行くなんて自殺行為だ!

 

「いつです!? 彼らはいつゾルディック家へ!?」

「説明会が終了してすぐです」

 

 つまり3週間前に出たと。……く、もしゾルディック家と敵対していた場合絶望的だ。生き残っている可能性は極わずかだろう……。

 でも、それでも行くしかない! 彼らは私の友達だ! 友達を助けないでどうする! わずかでも可能性があるならそれに賭ける!

 もしゴン達が殺されていたら……その時は――!

 

「ありがとうございましたビーンズ。私は急ぎますのでこれで失礼します」

「……まさかゾルディック家に行く気ですか?」

 

 その言葉には答えずに私は空港に向かって全力で走って行った。

 ……途中で空港の位置が分からずタクシーを拾ったのは言うまでもない……。

 

 

 

――ゴン達の現在位置――

 

 ゴン&キルア……ヒソカより強くなるために天空闘技場へ。現在飛行船で移動中

 クラピカ……雇い主を探すためまずは情報屋へ。現在汽車にて移動中

 レオリオ……国立医大に受かる為故郷に戻って勉強を。現在船にて移動中

 

 

 

――とある老人の秘匿回線――

 

「――久しぶりじゃの――うむ、ワシじゃ――いや、仕事の依頼ではない。少し聞きたいことがあってな」

「――うむ、2、3週間ほど前にそちらに数名の男性、1人は少年じゃの。名前は――そう、キルアを連れ戻しに行った奴らじゃ。そ奴らまだ無事か?」

「――いやいや、心配しとるのはそ奴らではなくての。確かに有望株な連中じゃが、プロの名目を抱いたからには自分の命は自分で守るもの。ケツの青いひよっこの尻拭いなどせんよ」

「――そうか、キルアを連れて旅立ったか。それなら良かったわい。血を見んですむのぅ」

「――そう、心配しとったのはおぬし等じゃよ。もし彼らの誰か1人でも死んでおったなら……ゾルディック家に香典を送らねばならなかったかもしれんからの」

「――はて、何のことかのう? そうそう、近々お前んとこにアイシャという少女が赴くことになっとるんじゃが、くれぐれも粗相の無いようにもてなしてやってくれんか? まあ、嫌なら構わんが――ほっほ、すまんのう」

 

 

 

 




おまけ

――ネテロとの面談――

・ヒソカ
一番注目しているのは?

「アイシャ♥ 彼女以外考えられないね。早く戦いたいよ♣」

今一番戦いたくないのは?

「それは……100番だね。412番も美味しく育つかもしれないけど……うーん、甲乙つけがたいや♦」

・キルア
「ゴンだね。あ、412番のさ。同い年だし」
「……401番かな。女殴るのもあれだし……ンだよ! 文句あんのかよ!」

・ボドロ
「44番だな、いやでも目につく」
「412番と100番と401番だ。女子供と戦うなど考えられぬ」

・ギタラクル
「100番」
「44番……401番」

・ケンミ
「401番ですね。女性でありながらここまで来れたのは素晴らしいと思います」
「それも401番ですね。女性に武を揮うのは躊躇われます」

・ゴン
「一番気になってるのは401番のアイシャかな」
「う~ん。100・401・410・411番の四人は選べないや」

・ハンゾー
「401番だな。下手すりゃ44番よりやばいかもしれん」
「戦いたくないのは44番だな。」

・クラピカ
「いい意味で412番、悪い意味で44番」
「理由があれば誰とでも戦うし、なければ誰とも争いたくはない」

・レオリオ
「401番だな。恩もあるし合格して欲しいと思うぜ」
「そんなわけで401番とは戦いたくねーな」

最終試験受験生
44番ヒソカ    原作44番
100番キルア   原作99番
195番ボドロ   原作191番
299番ハンゾー  原作294番
306番ギタラクル 原作301番
368番ケンミ   原作362番
401番アイシャ  原作何それ美味しいの?
410番レオリオ  原作403番
411番クラピカ  原作404番
412番ゴン    原作405番







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