どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第二十一話

「あ、アイシャはさ! その、ここから出ていったら何をするんだ!?」

 

 食事も終わり、そろそろ部屋で休ませてもらおうかと思った矢先にミルキさんからそんな質問がきた。

 

「ここを出てから、ですか? ……そうですね。欲しい物を手に入れる為に色々と奔走すると思います。あ、あとゴン達……私の友達ですね、彼らを探したいです」

 

 グリードアイランドを手に入れるのは当たり前だけど、ゴン達にも会っておきたい。別れの言葉もなく離れてしまったから、一言謝っておきたいし。

 ……友達に会いたいし。

 

「そ、そうか……欲しい物って何なんだ?」

「知ってるでしょうか? グリードアイランドっていうゲームですけど」

「! あれか……」

 

 お、やっぱり知ってるんだ。さすがはゾルディック。それにミルキさんってなんかゲームとか詳しそうだし。……偏見かな?

 

「グリードアイランドを手に入れるのは難しいかもしれないな……」

「そうですね。でもハンターライセンスも手に入ったので、それを使って情報収集して行こうと思ってます」

 

 これがあれば今までよりも精度の高い信頼性のある情報が手に入るだろう。ライセンス様々である。

 

「……よ、良かったらさ、お、オレが調べてやろうか、その、グリードアイランドとゴンって奴らの居場所をさ」

「え?」

「いや、オレ結構コンピューターには詳しいし、ウチの情報網とか使えば人探しも簡単だぜ! アイシャが1人で調べるよりも断然早く調べられるよ!」

 

 そ、それは魅力的な提案だけど。でも今日知り合ったばかりの人にそんな事を頼むのは悪いしなぁ。

 

「いえ、ですがそれだとミルキさんやゾルディックの方にご迷惑を……」

「いいって! 迷惑なんて思ってないからさ! いいだろ親父!?」

「……ミルに許された権限の中でならば構わん」

 

 ええ!? でもそれって結構な金額が動くんじゃ?

 

「ですが、人を使うのにもお金が……」

「大丈夫だって! 動く使用人もそれが仕事の内だし。これも給料分の働きって奴だよ! そ、それで納得がいかないなら、その、貸し1つって事でいいからさ!」

 

 貸し1つか……ゾルディックに貸し1つは怖いけど、この場合ミルキさんに貸し1つってことだよな。それなら私に出来ることで何かしら返すなら大丈夫かな?

 

「分かりました。そこまで言ってくれるなら、借りておきます。この恩は必ず返しますね」

「ああ! いいってことさ。し、調べるまで少し時間が掛かるだろうから、それまでここに泊まっていてもいいぜ!」

「分かりやすい奴だ……アイシャ、聞いての通りだ。グリードアイランドとやらはともかく、人探しとなると少々時間も掛かる。しばらく逗留するといい」

「……いいんですか?」

「ああ」

「では、しばらくお世話になります」

 

 深々と頭を下げて礼をする。まさかゾルディック家で一泊以上するかもしれないとは思わなかった。

 でも確かにゴン達を探すともなれば私1人では難しいものがある。この後彼らはどこに行ったんだろう? 原作知識で僅かに覚えているのは、『天空闘技場』『グリードアイランド』『蟻の化け物』これ位のものだ。他にも色々あったと思うから、今現在彼らがどこにいるかは予測できない……。

 ここはミルキさんのお言葉に甘えさせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 ミルの奴、分かりやすいのぅ。アイシャに惚れおったか……。やれやれ、厄介なのに惚れおったな。アレはミルの手には収まらんよ。

 しかしアイシャの奴、かなりの鈍感じゃな。あのミルキを見て自分に惚れたことに気付いておらんようじゃ。ワシの気配に気づいておきながら、それはあんまりじゃろう……。

 

 まあよい。ミルのせいと言うか、おかげと言うか、アイシャがしばらくこの家に逗留するとなれば、色々と聞き出せそうじゃしのう。さっそく明日にでも話をしてみるとするか。

 

 

 

 アイシャが一泊して一夜が明けた。既に朝食もすまし、今は家族各々が自由に動いておる。アイシャはする事もないだろうから、ワシと一緒に散歩に行かんかと誘ったらホイホイ付いて来おった。

 ……ワシらが暗殺者って本当に分かっとるのかこやつ?

 ちなみに散歩に誘ったワシをミルキが凄い睨んでおったのは言うまでもない。

 

「いい天気ですねぇ」

「うむ。絶好の散歩日和じゃな」

 

 ……ほのぼのしとるのぅ。

 いやいや、こんな話をする為にアイシャを散歩に誘った訳ではないわい。

 

「時にアイシャ。ネテロのことなんじゃが」

「ネテロですか? あいつがどうかしましたか?」

 

 ネテロをあいつ呼ばわり。接した時間は短いが、アイシャが他人をあいつ呼ばわりするような輩ではないくらいは分かる。アイシャが他人をそのような呼び方で呼ぶとは、やはりかなり親密なようじゃな。

 

「うむ、オヌシあやつの好敵手、と言っておったが……アレの念能力は知っておるのか?」

「まあ、知っていますが……教えはしませんよ? 念能力は他者に容易く話すモノではありませんから」

 

 ふむ。やはり知っておるか。それにアイシャが念能力者なのもほぼ間違いなしかの。

 

「いやいや。ワシもあのジジイの能力、【百式観音】は知っておるよ。あれには一度痛い目におうたからのぅ」

 

 さすがにいきなり念能力を話す程迂闊ではないか。じゃが相手が知っておったなら話は別じゃろ?

 

「そうなんですか? いやぁ、私もアレには何度も煮え湯を飲まされまして」

「そうじゃろうな。戦闘においてネテロの最も厄介なモノが【百式観音】じゃろうて」

 

 なるほど。【百式観音】相手に何度もやり合っていると。煮え湯を飲まされるとの言葉から攻略は出来てはいないが、それでもアレを相手に闘えるほどの実力を持っているようじゃな。

 ……うむ、十分すぎる実力じゃな。

 

「時にアイシャよ。オヌシなら【百式観音】をどう攻略する?」

 

 これは純粋な興味じゃ。ネテロと幾度となく対戦していると思われるアイシャなら、あの【百式観音】の攻略法を考えているだろうて。簡単に教えてくれるとは思えんが、まあ物は試しとも言うしな。

 

「それはさすがに禁則事項です」

 

 やはりか――

 

「――ですが……そうですね。私なりの攻略法は教えることは出来ませんが、それ以外の攻略法なら構いませんよ」

「ほう。……よいのか? ワシらがその攻略法とやらでネテロを暗殺するやもしれんぞ?」

「それは大丈夫でしょう。教えたところで実行出来るかは別ですし。……それに、ネテロと敵対したら私もネテロと共に戦うのみです」

 

 ――!

 これは……凄まじいプレッシャーじゃな。これほどの圧力をワシに与えるとは。

 

「まあ、無駄にあのジジイを敵に回すつもりはないぞ。……もちろんオヌシともな」

「ありがとうございます。あなた達とも出来れば敵対したくありませんから。……一宿一飯どころかしばらく御厄介になるので、この攻略法はそれの代金代わりという事で」

 

 その攻略法が使えるかどうか、また使う状況があるかどうかは置いといて、代金代わりにはちと多すぎるくらいじゃな。

 

「そうですね。前提としてまず【百式観音】に耐えうる耐久力が必要となります」

 

 ……まあ当然だろうな。しかしそれは攻略法と言えるのか?

 

「まあこれは数発ほど耐えられればいいでしょう。【百式観音】は不可避の速攻。こちらの行動の前に初手を叩き込まれますので」

 

 そういうことか。何発かはワシでも耐えられるわな。防御に徹すれば十数発はいけるか? まあ実際にやってみんと分からんが。

 

「そして【百式観音】とて一瞬の間もなく放てる訳ではありません。技と技の繋ぎにほんの僅かですが間があります」

 

 まあ、それも予測しとったことじゃ。しかしその間は本当に極僅かじゃぞ?

 

「一撃を耐え抜き、一瞬の間の内にこちらの一撃を入れる事さえ出来れば勝利の芽は出ます」

「……は?」

 

 いやいや。それをどうやってやるのかが知りたいのじゃが?

 

「まあこの時に出来ることは人それぞれ異なるでしょう。この一瞬の間にネテロの懐に瞬間移動する、ネテロを操作する条件を満たす、ネテロを無力化する能力を発動する等々」

「……それは」

「はい。ほぼ不可能と言っていいでしょう。【百式観音】の技の繋ぎは本当に極々僅かです。その瞬間にネテロ相手に能力を発動させるのは至難の業……どころではありません。なぜなら、その能力を発動する為に必要な間よりも圧倒的に早く、ネテロの次なる【百式観音】が発動するでしょうから」

 

 そう、あの連撃の間を縫って能力を発動する。それも相手を無力化するタイプの。それにはいくつかの細かい条件が必要となる、刹那の瞬間にそれを行うのは不可能に近い。

 

「それとも最初の一撃を喰らう前に発動する? それも無理でしょう。ネテロはまさに百戦錬磨の言葉もおこがましい程の戦いを潜り抜けています。相手が能力を発動しようとするとすかさず【百式観音】を放つでしょう。そして【百式観音】を喰らった状態で通常通りに能力を発動するのもまた至難」

 

 詰まる所【百式観音】を破るのは不可能と言っとりゃせんかこの小娘? 【百式観音】の攻略法を聞いとるはずなのに、ネテロの自慢を聞かされとる気分じゃ。

 

「そもそも相手を無力化する能力者は皆強化系と相性が悪い。つまり【百式観音】を一撃も耐える事が出来ない方が多いでしょう。まあ、まともに戦って【百式観音】を破るのはまず無理でしょうね」

「結局惚気話を聞かされたみたいじゃな……」

「惚気!? なんであいつのことを私が!?」

 

 あんなに嬉しそうに話されては惚気にしか聞こえんわい。

 まあ、ええ暇つぶしにはなったかのぅ。

 

「ちょっと! 聞いてるんですかゼノさん!?」

 

 

 

 

 

 

 全く、ゼノさんときたら! 私がネテロ相手にそんな気を持つ訳ないじゃないですか!

 まあ、そりゃ自慢気に話した気はしますが……それは、まあ、自慢のライバルといいますか、ねえ?

 

 ……ああ、もういい! この件はこれでお終い! これ以上考えても意味がないよ。

 

 しかし、先程のゼノさんは明らかにこちらを探っていたな。私の実力を少しでも知る為に探りを入れてきたんだろう。まあ、あれぐらいなら話しても支障はないかな。

 能力には知ることで対処出来る能力と知ってても対処の出来ない能力がある。ネテロのは後者だ。あれほど対処出来ない能力も他にあるまい。

 私自身の能力も話してはないし、あの説明の仕方では私を強化系と受け取った可能性もある。なにせ【百式観音】にある程度耐えていると明言した様な物だ。自ずと強化系やそれの隣り合わせの放出・変化のどちらかと捉えるだろう。

 

 

 

 さて、散歩から帰って来たのはいいけど、する事がない。

 散歩がてらに色々案内してもらえたけど、まだ午後の4時だ。夕食まで時間もある。

 日課の修行はもう終わったしなぁ。ゼノさんと散歩しながら念の修行をしてた。【天使のヴェール】マジ使える。

 これのおかげで堅の持続時間を延ばす修行がしやすいことしやすいこと。なにせ通常の状態だと堅をし終わるのに3日以上かかる。そんなの修行になる訳がない。でも【天使のヴェール】を発動していたらオーラの消耗は10倍に。さらに堅と並行して基礎と応用をすればさらに消耗が早くなる。

 

 意外な【天使のヴェール】の副産物だった。おかげでこの3年でオーラ量がさらに伸びたんだし。まあ、ここでオーラを使い切るつもりはないからある程度で修行は切り上げたけど。でも本当に何しようかな?

 

 そうしてぼぉっとしながら与えられた部屋で寛いでいると、部屋に客人がやって来た。……客の私が客人って言うのはおかしいな。

 

「アイシャ、その、入っていいか?」

 

 やはりミルキさんか。気配である程度は分かる。まあ、足音もすごいし……。

 

「どうぞ。……どうしたんですか?」

「ああ、実はグリードアイランドについて色々分かったんでその事で話が」

「本当ですか! すごいですねミルキさん! 昨日の今日で分かるなんて!」

「い、いや、アイシャからハンターライセンスを借りていたからだよ」

 

 ああ、ライセンスか。あれでハンター専門サイトに入ったのかな?

 

「と、とにかく色々話す事もあるから、一度オレの部屋に来てくれるか?」

「ええ、構いません。こちらからお願いしたいくらいです」

 

 わざわざ呼びに来てくれるなんて。いい人だなぁ。執事を使ってもいい立場の人だろうに。

 

「それじゃ付いて来てくれ」

「はい」

「あ、あと、オレのことはミルキって呼び捨てでいいよ」

「いいんですか? では改めてよろしくお願いしますミルキ」

 

 おお? 私が呼び捨てにしたら物凄く嬉しそうな顔に!?

 ……そうか。ミルキもキルアと一緒で友達がいなかったんだな。こんな環境にいたら友達が出来なくて当然だ。大丈夫だ! 今日から私が友達だよ! そう笑顔で応えてみせた。そしたら急に顔を背けてずんずんと前に進みだした……あれ?

 もしかして嫌われているんだろうか……?

 

 

 

「ここがオレの部屋だ。は、入ってくれ」

「それでは失礼しますね」

 

 ミルキの部屋に到着。中に入ってみると失礼かもしれないが意外に綺麗に整っている部屋だった。

 

「あ、すごい。綺麗に整頓してますね」

「ま、まあな」

 

 室内のインテリアはお洒落というのだろうか、中々感じ良く纏まっている。

 部屋の奥には大きなパソコンがあり、私も見たことないような色々な機械と繋がっているようだ。周りにはたくさんの本が整頓して棚に置かれている。漫画とかもあるかな? 予想していたよりオタク風の部屋じゃなかった。ごめんね、偏見だったかもしれない。

 

「じゃあ分かったことを話そう。さすがにアイシャの友達はまだ見つかっていない。今回はグリードアイランドについてだけだ。人探しの方も見つかり次第教えるよ」

 

 そうか、まあ昨日の今日で世界のどこにいるかも分からない人を探し出すのは難しいよな。グリードアイランドについて少しでも分かれば御の字だろう。

 

 そうしてオレはミルキの説明を聞いて行く内に私は絶望に包まれていった。

 

 グリードアイランドは念能力者が作ったゲーム。ゲームをスタートすると念が発動し、ゲームの世界へ引きずり込む。念能力者以外はゲームをする事は出来ない。プレイヤーが生きている限り例えコンセントを抜いてもゲームは止まらない、ただし死ねば止まる。セーブポイントを見つければ戻ってこれるらしい

 

 ど、どうしてこうなった!?

 念が発動してゲームの世界に引きずり込む!

 そうだよ! グリードアイランドは念でゲームの世界に行くんじゃないか!

 なんで忘れてたんだ私の阿呆!! 一番重要な事だろうが!

 

 ……【ボス属性】で無効化してしまう……!

 

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 もうだめだぁ……おしまいだぁ……。

 

 い、いや諦めるな。諦めたらそこで童貞永遠ですよ? そんな事を認める訳にはいかない! まず情報の段階で間違っている可能性もある。もしかしたら、限りなくないに等しいけど【ボス属性】があってもゲームをプレイ出来るかもしれない。

 絶望するのは本当にグリードアイランドが出来なかった時だ。諦めるにはまだ早い!

 

「あ、アイシャ! どうしたんだ? 顔色が悪いぞ?」

「え、ええ。大丈夫です。すいません、話の続きをお願いします」

「あ、ああ」

 

 とにかく、まずはグリードアイランドを手に入れることに集中しよう。あれがないと話にならない。

 

「じゃあ続けるぞ。現在グリードアイランドを入手するのは困難だ。理由は品数が少ないことと、死なない限りゲームが止まらない為、一度手に入れられるとまた市場に出回る可能性が非常に低いのが原因だ」

 

 ……確かに。さらに市場に出回った数少ないグリードアイランドをその有り余る資産で買い続けているのが――

 

「そして大富豪バッテラ。こいつが僅かに世に流れたグリードアイランドを買い漁っている。さらにグリードアイランドに関する情報も操作して一般にはあまり情報が行き交わないようにしている」

 

 とことんこいつのせいか。オノレバッテラ。

 

「……今年の9月に行われるヨークシンのオークションで数本、あるいは数十本ものグリードアイランドが流れるって噂があるが、恐らくバッテラが全部競り落とすだろうな」

「それではグリードアイランドを手に入れるのは……」

「非常に困難だ。まともに手に入れるならそれこそバッテラを上回る資金を用意しなくてはならない。まあ、総資産を上回らなくてもある程度あればいいが。1本競る度に最大金額を出し続けて、バッテラの資金が切れるくらいの資金さえあれば、な」

 

 それは無理だ。私の総資産なんて精々が6、7億くらいだったはず。バッテラの総資産がいくらあるかなんて分からないが、この程度ではそもそもグリードアイランドを手に入れる最低基準にすら達していないはず。

 リュウショウの時に有った資産が使えたらなぁ。個人資産は全部寄付してしまったし、道場はリィーナに譲ったし……。

 ……どうしよう?

 

「1つ聞きたいんだけど、アイシャがグリードアイランドを手に入れたいのはグリードアイランドをプレイしたいからだよな?」

「ええ、そうですけど?」

 

 正確には男に戻りたいからだけど、まあその為にはプレイしないと話にならないしね。

 

「だったら別にアイシャがグリードアイランドを入手しなくても、プレイさえ出来ればいいわけだな?」

「そうですね。でもその為にはグリードアイランドを持っている人が……! そうか!」

「そう、バッテラだ。アイツが何でそんなにグリードアイランドを集めているかは分からないが、それは今は置いておく。グリードアイランドをするには念能力者が必要だ。そして今までバッテラはグリードアイランドを入手する度にそのグリードアイランドをプレイする人間を選ぶ為の選考会をしていたらしい」

 

 そうだ。グリードアイランドが手に入らないなら、持ってる人にやらせてもらえばいいんだ。バッテラは大量にグリードアイランドを持っているなら大量に念能力者が必要になる! その中に入る事が出来れば!

 

「そしてすでにバッテラは9月に選考会を開く事を示唆している。もう手に入れた気になっているようだが、まあ間違いなく手に入れるだろうな」

「9月に選考会。場所は?」

「ヨークシンだ。細かい場所はまだ決まってないが、分かり次第連絡するよ。……そ、そうだ。連絡先を教えてもらってもいいか?」

「それはもちろん。これが私のケータイ番号です。ミルキには本当に世話になりますね」

「いいってことさ! こっちがオレの番号な!」

 

 後の問題はグリードアイランドをプレイ出来るか出来ないか……こればかりはやってみないと分からない。

 ……いや、大体分かっているけど、分かりたくない……。何とか方法を考えておこう。

 

「とりあえずこっちでもまた色々調べてみるよ」

「本当に助かります。このお礼は必ずしますね。私に出来ることなら何でも言ってください」

「な、何でも!? 今何でもするって言ったよな!?」

「い、いや、私に出来ることなら、ですよ?」

 

 さすがに出来ないことを言われても困る。

 

「大丈夫だ! お、お願いがあるんだが、その、お、女の子らしい服を着てくれないか!」

 

 ……わっつ?

 

「いや、アイシャって、その、か、可愛いのに、そんな服じゃ勿体ないと思ってさ!」

「あ、ありがとうございます、その、それがお願いで本当にいいんですね?」

「もちろん! よかったら家にある服を貸す、いやあげるからさ!」

「いえ、それには及びません。私服として一応持ってますから」

 

 まあこれも貰い物だけど。はぁ。まさかまたあんな服を着る羽目になろうとは……。せっかくリィーナやビスケもいないから以前の服装に戻していたのに。

 仕方ない。私に出来ることなら、なんて言ったんだし。この程度出来ないなんて今更言えない。お世話になっているんだ。これくらい我慢しよう。

 

「では少し着替えて来ますね」

「ああ! 待ってるからさ!」

 

 すっごく嬉しそうだな……これも男の性だろうか?

 まあ、確かに女の子が可愛い服を着ていたら男なら喜ぶか。いや、女でも喜んでる奴らはいたな。はぁ、まさか私が男の人を喜ばす為に服を着替える事になろうとは……。

 

 さて、どの服にするか。一応全部持って来ているけど……多いよ。どんな組み合わせかとかも忘れた……ん? なんだこの紙切れは?

 メモ用紙? 中には……服の組み合わせについて事細かく書かれている……! さらには穿く下着まで! いつの間にこんな物を入れたんだ!? 何々? 男を落とすのに効果的な下着? 誰がそんなもの穿くか!

 

 全く、下らない事に力を入れて! これは絶対ビスケの仕業だろう。

 女性物の下着を穿かないのは私の男としての最後の一線だ! あのデパートでの買い物でもそれだけは死守した。……代わりに色々と着せ替えさせられたけど。

 取り敢えず着るものだけでもこのメモに書いている組み合わせで選ぼう。女性の服のコーディネートなんて出来ないしね。

 

 

 

「は、入りますよ?」

「ああ!」

 

 うん、めっちゃ興奮してるよね? し、しょうがない、これも男の性だ……よね?

 

「ふう、恥ずかしいからこれっきりですよ?」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 共通語でおk。

 いや、今のどうやって発声したんだ? 一種の念能力か?

 

「やばい、魂が抜かれる。そうか、ここが俺の理想郷(アヴァロン)か」

「いや、死なないでくださいね? これで死んだら私のせいなのか?」

「答えは得た。大丈夫だよアイシャ」

 

 何の答えだ? そして明らかに大丈夫じゃない。

 

「取り敢えず落ち着いてください」

「あ、ああ。悪い、少し動揺していた様だ」

 

 いや、少しどころじゃなかった気がするんだけど?

 

「ふぅ、落ち着いた。もうだいじょ……あ、アイシャ、そ、その」

「ん? どうかしましたか?」

 

 はて? 先ほどよりも遥かに挙動不審になってるけど、どうしたんだろう?

 

「し、失礼な質問になるけど、その、ブ、ブラは着けているのか?」

「いえ? 着けていませんが」

「我が生涯に一片の悔いなし!」

 

 ミルキーー!? なんか満足した表情で右腕を掲げて意識を失った!?

 悔いは持とうよ! やり残したこと一杯あるだろう!?

 私のノーブラ程度で逝くなぁーー!

 

 

 

 私が立ち往生したミルキに慌てているとミルキの部屋に執事が入ってきた。

 良かった。これでミルキをどうにか出来るか? そう思った私は完全に浅はかだったと言えよう。

 

「ミルキ様、失礼します。夕食の――!? 貴様! ミルキ様に何をした!?」

「え? いや私は何も――」

「やはりゾルディック家を狙う刺客だったか!」

 

 あ、駄目だこれ話を聞かないパターンだ。私が言い訳をする前に執事さんは何かのボタンを押した。……やべぇ。

 

「待ってください! せめて話を――」

『何事だ!!』

「ミルキ様が意識不明! 犯人は客人だった女だ! 方法は不明! 念能力の可能性あり!」

 

 あ、駄目だこれ問答無用のパターンだ。

 ……どうしてこうなった?

 

 

 

「逃げるな!」

 

 冗談言わないでよ。逃げなきゃやってられんわ。

 後ろから放たれた念弾を躱し、前から来る執事達を飛び越える。

 ええい! どの人も念能力者か! 面倒極まりないな!

 大勢の執事を飛び越えた先にも大勢の執事。前も後ろも執事だらけだ。広いとは言え廊下だからこれだけの人数に囲まれると行き場がないね。

 

「取り押さえろ!」

 

 案の定まとめて掛かってきたか。だが、まだまだ甘い!

 

『がっ!?』

 

 飛びかかった全員を合気にて床に叩き付ける。多人数相手だろうが合気は不可能ではない。全員の呼吸をわざと合わせるように動けば容易いことよ。

 止めは刺さず、だが意識は奪ってその場を逃走。……ミルキ! 早く目覚めて!

 

 

 

 執事はいるよどこにでも~。

 

「お前ら! まともに飛びかかるな! 相手は手練だ、旦那様達がくるまで足止めに徹しろ!」

 

 的確な指示ありがとうございます。でも、コインをマシンガンのように飛ばすのはやめてもらえますか?

 

「よっ! はっ! とっ!」

「……オレのコインを全部受け止めるだと……」

 

 だって避けたり弾いたりしたら周りの執事さんや高級そうな飾りに当たりそうなんだもん。コインの回転は尋常じゃなかったから、そういう念能力だろうね。ま、私のオーラと見切りなら何とかなるレベルで良かった。

 

「いくらやっても無駄ですよ。調度品を壊さない内に止めることをお勧めします」

 

 あんまり防いでいるとオーラも消耗しちゃうからこれ以上は勘弁してください。昼間に訓練したせいで今のオーラ量は半分以下なんだ。……もう【天使のヴェール】切っちゃおうかな?

 拾われてまた飛ばされても面倒だし、手にしたコインは全部コネコネしちゃおうねー。

 

「てめぇ……!」

 

 激高しつつも警戒して私を襲いに来ることはない。他の執事も手をこまねいているようだ。良し良し、このままミルキが起きるか、ゼノさんやシルバさんが来れば状況も変わるだろう。

 そう思っていた私はやっぱり浅はかだった。やってらんないねほんとに。

 

「何をしているのですか! 早くあの女狐を殺りなさい!」

 

 はい、キルアママの登場です。拮抗した緊張状態が一気に傾きましたよ。私への攻撃という方向へな!!

 

「やはり本性を現しましたね女狐め! キルはおろかミルにまで! 絶対に許しませんよ!」

「あの、誤解……」

「さあ! やってしまいなさい!」

『はっ!』

 

 ああ、話を聞かないのは分かってたさ。ちくしょう。

 

 

 

 逃げて逃げて、ようやく屋敷の外に到着。一定の広さの屋敷内で戦う方が大勢を相手にするにはやりやすいけど、色々と壊しそうでちょっと却下。ここならそれなりに動けるしね。

 そう思って外に出るとそこにはゼノさんがいた。よかった! これでどうにか――

 

「中々楽しそうなことをしとるの。ワシも混ぜてもらおうか」

 

 もうどうにでもな~れ。

 

 

 

 ゼノさんのオーラが高まる。手に集中させたオーラをドラゴンを模した形態へと変化させる。ゼノさんは変化系かな? まだこの程度の変化では確定出来ないな。

 ……試してみるか。

 

「りゃっ!」

 

 腕の動きに合わせてドラゴンが伸びて凄まじい勢いで私に迫ってくる。それをギリギリで躱すが、躱した方向へと動きも変化して私を追ってくる。

 なるほど。大した使い手だ。これだけで変化系としての技術が並の念能力者よりも抜きん出てるのが分かる。手からオーラを放さないのも変化系が放出系をあまり得意としていないからだろう。いや、そう思わせて放出して射程を伸ばし意表を突く可能性もあるな。油断禁物だ。

 

 幾度かギリギリで躱し、タイミングを計ってゼノさんのドラゴンにわざと触れてみる。勿論触れる時はオーラでガードしてだ。

 

「ぬ?」

 

 私がわざと攻撃に触れたことに疑問を抱いたのだろう。ゼノさんの動きが止まった。

 こんなことで動きを止めるなんて、ゼノさん本気で私を殺す気はないな。絶対面白がってやってるんだ。……歳取るとそういう悪戯心が出てくるもんなのかね、ネテロみたいに。

 

「今のはどういう意味じゃ?」

「いえ、ただゼノさんの得意系統が何かを確認しただけですよ」

「ほう。して、ワシの得意系統は分かったかの?」

「ええ。変化系が得意のようですね」

「ふむ。変化させるのが上手な強化系か具現化系かもしれんぞ?」

「それはないと確信してますので」

 

 見たままの攻撃で変化系が得意とは分かっていたが、触れたことで完全に確信した。変化系が得意でなければ、例えば強化系だとしたら、どれほど熟練しても変化系の威力は80%になる。相手がどれほどのオーラを籠めているかは経験則のおかげで観れば大体分かる。そこから実際の威力を触れてみることで計測し、籠められたオーラ量と実際の威力の差を計れば、自ずと答えは見えてくるわけだ。

 

「なるほど……嘘ではないようじゃの。楽しくなってきたわい」

「お養父様! 助太刀いたします!」

「大旦那様! 加勢いたします!」

「どれ、オレも混ぜてもらおうか」

「……私、全然楽しくないです」

 

 ああ、早く目覚めてミルキ……。あと、さりげに入ってくるなシルバさん!

 

 

 

 

 

 

 ミルキが男立ちをしたまま意識を失った日から1週間が過ぎた。あれは思い出したくない事件だった……。

 幸い2時間ほどでミルキの意識は戻り、事なきを得たが……執事さんからは謝られたけど、キキョウさんは舌打ちしてたなぁ。ゼノさんは大笑い、シルバさんも苦笑していた。

 キキョウさんに至っては私がミルキを操作系で操ったとまで言い出す始末。この人は本当に苦手である。

 

 まあいい。もうゾルディックから出て行くんだ。キキョウさんと会うことはもうないだろう。ようやくゴン達の現在位置が分かったのだ。

 

「長い間お世話になりました」

「うむ。また来るといい。歓迎するぞ」

「キルに会ったらよろしく頼む」

「いいですか。キルを危険から命を賭けてでも守りなさい。そうすればあなたの今までの無礼を許しましょう。……色目を使ったら殺しますよ」

「……兄さんに手を出さないでねアイシャ姉さん。ミル兄さんならいいよ」

「おいカルト! あ、アイシャすまないな! ガキの言うことだから気にしないでくれ!」

 

 カルトちゃんとももう少し仲良くなれたらなぁ。大抵キキョウさんと一緒にいるからあまり話せなかった。でもなんで私を姉さんと呼ぶのさ?

 でもこんな小さな子どもから姉さんって呼ばれるのも悪くないな。

 

「いいですよ。私もそう言われるのは嫌じゃありませんし」

「ほ、本当か!?」

「ええ」

 

 可愛いものじゃないか。兄弟に姉がいなかったから私をそう呼んだのかもしれないし。

 

「でも本当に良かったんですか? ゾルディックの私用船まで借りてしまって」

 

 何から何までお世話になってるなぁ。やばい、どうやって借りを返そう?

 

「構わんよ。どうせ行きだけじゃ。それに、前の一件で迷惑も掛けたしの」

 

 あ、そう思えば借りを返す必要がない気がしてきた。まあ、何日も逗留してたからそっちの借りは返したいけど。

 

「それでは、皆さんありがとうございました。お元気で!」

「うむ、達者でな」

「さらばだ」

「せいぜい死なないように気をつけなさい」

「……ばいばい」

「グリードアイランドについて分かったらまた連絡するからさ!」

 

 皆さんに別れを告げて飛行船に乗り込む。何だかんだで楽しい時間だった。

 ミルキとは友だちになれたし、色んなTVゲームも楽しめた。シルバさんは厳格そうだけど、家族の話をした時にふと見せる優しい笑顔が良かった。ゼノさんとは一緒にいて一番安らいだなぁ。お茶を飲んでのんびりするのがほっとする一時だった。キキョウさんとカルトちゃんとはあまり仲良く出来なかったけど……。

 あと、時々見かける妖怪のような老人は誰だったんだろう? 

 

 まあいい。次の目的地に向かって出発するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 ……行ったか。不思議な娘だった。年頃の少女のようでありながら、老獪な老人のようでもあり、鈍感かと思えば、鋭くこちらの意を見抜く。独特の魅力を持った人間だったな。

 ミルも見た目以外の所にも惚れてしまったようだな。それも本気でな。

 

「親父……頼みがある」

「……何だ」

 

 まあ、言いたいことは分かる。コイツも男だったと言うわけだ。

 

「あと半年でオレを使えるようにしてくれ」

「地獄を見るぞ?」

「んなもん生まれた時から見せてるだろ?」

 

 決意は堅いようだな。たまに見せる本気の眼をしている。

 

「いいだろう。半年後には一端の使い手にしてやる。お前がオレの修行に付いて来られたならな」

「やってやるさ!」

 

 これもアイシャがもたらした変化か。これがゾルディックにとって吉と出るか、それとも……。

 先の事は誰にも分からない、か。

 

 

 

 

 

 

 飛行船で飛ぶ事約4日。ようやく目的地に着いたようだ。

 目的地、というか、目的の人がいる場所と言ったほうが正しいか。

 

 私が会いに来た人はクラピカさんだ。

 ミルキに彼らの捜索をしてもらって1番最初に見つかったのはゴンとキルア。彼らはあの天空闘技場で選手として参加しているらしい。目的はよく分からない。修行か何かだろうか? ある程度の経験を積むにはいい場所だと思うし。

 

 次に見つかったのがレオリオさん。レオリオさんはどうやら故郷に戻って医者になる為の勉強をしている様だ。ハンター専用サイトに載っていたレオリオさんの住所を調べるとすぐに見つかったらしい。

 

 そしてクラピカさん。

 彼はどうやら仕事の斡旋所、それもかなり特殊な斡旋所を探していたようだ。千耳会といい、見つけるのも困難な場所にある仕事斡旋所。裏から表まで様々な仕事を実力者に斡旋しているようだ。

 

 これを聞いて私はすぐに思いついた。クラピカさんの復讐と悲願を。

 幻影旅団への復讐。そして恐らくは緋の眼の回収。これがクラピカさんが何としても成し遂げたい悲願だろう。

 

 だが今のクラピカさんでは幻影旅団が相手では万に1つの勝ち目もないだろう。

 念能力者と非念能力者の壁は厚い。さらには相手はA級犯罪者だ。実力は念能力者の中でも上位に入るはず。復讐を止めたところでクラピカさんが復讐を断念するとは思えない。彼の意思は途轍もなく硬いものだった。

 力ずくで止めることも出来るが、その為にはかなり過激な事をしなくてはならないだろう……。

 

 止めるのは無理。だがこのままではクラピカさんは確実に死んでしまう。

 だったら、彼に力を与えた方がいい。そう、念と言う名の力を。

 幸いにしてクラピカさんはプロハンターの資格を持っている。念を教える口実としては十分だ。

 

 復讐の為の助力をするのは少し躊躇われるが、クラピカさんの命には代えられない。そのせいで幻影旅団の誰かが死ぬ事になろうとも……。知らない犯罪者よりも友達を優先させてもらうだけだ。

 

 クラピカさんを尾行しているゾルディックの手の者の反応はここか。彼が持ってる発信機から送られてくる信号をミルキにもらった受信機で見ながら辿る。

 

「お疲れ様です。これがミルキの受信機です。どうぞ」

「……ありがとうございます。目標は現在前方約30m付近を移動中です」

「はい。こちらでもすでに確認しています。ありがとうございました」

「……仕事ですから」

 

 そう言ってゆっくりと去っていく黒服さん。……渋い。

 さて、クラピカさんとの再会だ。

 

 

 

 

 

 

 ……どういうことだ?

 ようやく目的を達成出来そうな仕事を斡旋する紹介所を見つける事が出来たというのに、門前払いだと? 最低条件を満たしていないと言うが、一体何が最低条件だと言うんだ?

 ライセンスを持っているだけでは駄目。そして彼女が言った言葉に、私の試験はまだ終わっていないとあった。

 試験が終わっていない? つまりプロのハンターとしてまだ何かが足りない? それは何だ? 力か? だが単純な力ではなさそうだ。彼女の横に何があった? 私には何も見えなかったが、それが見える様になるのが最低条件。

 つまりプロハンターの者ならば――正確には今年度のプロハンターではなく、熟練のプロハンターなら見えぬモノが見えるということ。

 ……ハンターサイトを使って調べてみるか。何か分かるかもしれない

 

 そんな時、聞いた事のある声が私の耳に届いた。

 

「クラピカさん!」

「――! アイシャか!?」

 

 何でここにアイシャが? 今まで一体何をしていたんだ!?

 

「お久しぶりですクラピカさん」

「あ、ああ。久しぶりだなアイシャ。元気そうで何よりだ。ハンター試験の後、どこを探してもいなかったから皆心配していたんだぞ?」

「す、すいません……実は大怪我を負って1ヶ月ほど入院していたんです」

「なに!? もう体は大丈夫なのか?」

 

 見たところどこも悪そうには見えない、試験の時と変わらぬアイシャだな。……いや、服装が大分違うな。こんな服を着るのか。やはりアイシャも女性という事だな。

 

「はい。もう治りましたから」

「そうか。それなら良かった。しかしそういう理由が有ったなら仕方ないか」

「クラピカさんも試験に合格したようで何よりです。……キルアは残念でしたが」

「そうか、試験の顛末は聞いているのか?」

「ええ。……皆さんがゾルディック家に訪問をしたことも聞きました」

 

 そこまで聞いているのか……アイシャがここにいるのは偶然か? 何か……そう、何か作為的なモノを感じる。

 

「アイシャ、どうしてここにいるんだ? 私達が再会したのは偶然か?」

 

 単刀直入に聞いてみるか。アイシャが私を騙すとは思いにくい。……いや、思いたくないと言った方が正確か。仲間を信じたいんだろう。センチメンタルな事だ……。あのような短い期間で友と呼べる仲間が出来るとは思ってもいなかったな……。

 

「いえ、偶然ではありません。実はクラピカさんに用が有ってここに来ました」

 

 どうやら意図的に私の所へ来たようだ。だが、どうやって私の居場所を知ってのだろう?

 

「あと、クラピカさんの居場所はゾルディックの方達に調べてもらいました。すいません、勝手な事をして」

「何だと? ……ゾルディックとどういう繋がりがあるんだ?」

 

 あのゾルディックにそんな頼み事が出来るなんて!?

 アイシャ……お前は一体何者なんだ?

 

「繋がりも何も……私も今回初めてゾルディックに行きましたよ……皆さんがゾルディックに訪問なんて無茶をしたと聞いたから追いかけたんです……着いた時には皆さん出て行った後でしたけど……」

 

 そうか……私たちを心配してゾルディックまで。それなのに私はアイシャを疑ってしまった……。

 

「……すまないアイシャ」

「いや、いいんですよ。私が勝手にしたことですから。それよりも皆さんが無事で良かったです。自殺ものですよ? 今の実力でゾルディックに行くなんて」

 

 いや、謝ったのはそういう意味ではないが……まあいいか。

 

「しかしよくあのゾルディック相手に人探しなんて頼み事が出来たな」

「話すと意外といい人達でしたよ。職業はちょっと許容出来ませんけど」

 

 いい人達、か。いや、私もゾルディック家の人間をそんなに知ってる訳ではないが、そう言えるのはアイシャくらいではないのか?

 

「それで、私に何の用が有ると言うんだ?」

「ええ、そうですね。本題に入りましょうか。まず1つ確認が。クラピカさんは幻影旅団への復讐を諦めたりはしていますか?」

「諦めるわけがない……! 諦められるモノか!」

 

 そうだ。例え誰に何を言われたところで幻影旅団に対するこの黒い感情を捨て去る事など出来るわけがない! あの連中がのうのうと今も生きていると思うとそれだけでこの眼が緋の眼に変わりそうだ!

 

「そうですか、分かりました……やはり貴方には念を教えないといけない様です。クラピカさんは“念”というモノをご存知ですか?」

「念? 何かの隠語か?」

 

 感謝の念や念願といった用途で使われる意味合いの念とは違うのだろう。それならこんな風に話を切り出す意味がない。

 

「やはり知らないようですね。……“念”とは、生命が持つオーラと呼ばれるエネルギーを自在に操る能力の総称です」

 

 ……いきなり胡散臭くなったのだが?

 もしやアイシャは何かの宗教に入っているのだろうか? ならばここはアイシャには悪いが、私がこの手の勧誘を断る為に使うお決まりの文句を言わせてもらおう。

 

「すまない。私は部族で崇める精霊が――」

「――宗教の類ではありません!」

「そ、そうか。それは済まないが、いまいち信用ならないモノだったので、つい」

「ま、まあ突然あんな事を言われたらそう思うのも当然ですね。……ちょっと付いて来てください。実際に見せた方が早いです」

 

 そう言って私を街の外に連れ出すアイシャ。実際に見せると言われてもな……アイシャが下らない嘘を吐く奴じゃないのは分かるが。

 

 街から離れ、誰もいない荒野まで辿り着いた。どうやら念とやらはあまり他者に見せていいものではないようだ。本当にそんなモノが有ったとしたならばだが。

 

「いいですか? 今から私がこの岩を殴ります」

「この岩って……この大岩をか?」

 

 どう見てもアイシャの背丈の五倍はありそうな大岩だ。まさかこれを殴って砕くと言うのか!?

 

「いえ、殴るのはこっちの岩です」

 

 大体アイシャの半分ほどの岩だ。これならば時間を掛ければあの試しの門を開いた今の私なら壊すことも出来そうだ。

 

「いきますよ。ふっ!」

「――! 流石だな。まさか一撃で砕くとは」

 

 やはりアイシャの実力は私を上回っているようだ。いや、力だけで全てが決まる訳ではないが。だが力は最も分かり易いパロメーターの1つだからな。

 ……もっと鍛えよう。女性に力で負けているというのはやはり辛い。いや、もしやこれが念とやらの力か? なるほど、アイシャの力の秘密はここにあったのか。

 

「確かに。念とは凄まじいモノだな」

「え? 今のは念を籠めていない普通の打撃ですが?」

 

 ……鍛えよう。絶対に鍛えよう。

 

「今の私では生身でこの程度の岩を砕くのが精一杯ですが」

「いや、充分だ。とても充分だ。大事な事なので2回言わせてもらう」

「あ、ありがとうございます。次は念を使ってこの大岩を砕きます。少し離れて下さい、破片が飛んで来るかもしれませんから」

 

 その言葉に従い大岩から離れる。本当にあんな巨大な岩が人の力で砕けるのだろうか?

 

「見ててくださいね」

 

 アイシャがそう言いながら大岩に向かって軽く、本当に軽く拳を振るった――瞬間、大岩は粉々に砕け散っていった。

 

 ……いま、私は開いた口が塞がらないという言葉を文字通り実感している。

 人が、こんな大岩を砕くだと? そんなことが……だが現実に目の前で起こった事実だ。大砲を使ってもここまでの破壊にはならないだろう。

 

「これが拳をオーラで強化した結果です。……納得してもらえましたか?」

「あ、ああ」

「それは良かった。これで無理なら次は空でも飛ぼうかと思ってましたよ」

「念はそんな事まで可能なのか!?」

「いえ、それは人によります。細かい事は後で教えますが、念は人によって出来ることが変わりますので。私に出来ることがクラピカさんに出来るとは限りませんし、逆もまた然り。クラピカさんに出来ることが私には無理という事も当たり前に有り得ます」

 

 どうやら念と一言で言っても色々とあるようだ。

 

「この念というモノを私に教えてくれるのか?」

「ええ、その通りです」

 

 それは本当に有難いことだ。私が事を成すには力が必要だ。それも誰にも負けない、幻影旅団にも負けない力が。

 だが――

 

「どうしてアイシャは私に念を教えようと思ったんだ?」

 

 そう、アイシャが私に念を教える理由が分からない。これほどの力だ。一般的に広まっていれば私が気付かない訳が無い。つまり念とは一般的に秘匿されるべき力だろう。そんな物を気軽に私に教えてもいいのだろうか?

 

「……元々念能力はプロハンターに必須の能力です。プロハンターは危険と隣り合わせの仕事ですから、念を習得していない新米プロハンターにはそれぞれ講師が就くことがあります。もちろん例外もありますが」

 

 ――! そうか、あの斡旋所での女性の言葉! あれは念のことを指していたのではないか!?

 

「アイシャ! そのオーラとやらは目に見えないモノなのか!?」

「念能力者であるならばその眼に捉える事は出来ます。というか念能力者以外は見えません」

 

 やはりか。これで疑問が解けた。これだけでもアイシャには礼を言わなくてはならないくらいだ。

 

「そして念を教える一番の理由ですが――」

「幻影旅団も念を使えるのだな」

「……その通りです。プロハンターは皆、資格を持ったばかりの新人を除き全員が念能力者です。そんな彼らでも捕えるのが至難と言われるA級犯罪者幻影旅団。彼らが非念能力者であるはずがありません」

 

 ……アイシャが前置きに幻影旅団について話したのはそういう事だ。

 

「今のクラピカさんが幻影旅団に挑んだところで敗北は必至。……私は貴方に死んで欲しくない。と、友達ですから」

「アイシャ……ありがとう」

 

 ああ、本当に私のような人間には勿体無い友人だよ君は。

 








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