どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第二十三話

 …………………………。

 静寂と混沌が場を支配している。

 私の一言。シオンが女性というこの一言で3人の男性が困惑している。こちらを見るその顔に題名を付けるとしたなら『なん……だと……?』といったところか?

 

「は、ははは。なるほどな、あまり笑えない冗談だぜアイシャ」

「あ、ああ。そうでしたか。いや一本取られましたね」

「じょ、冗談だったっすか! 自分、見抜けなかったっす!」

 

 ようやく意識が戻ったと思ったら私の言葉を冗談と受け取ったか。

 だが残念。現実は非情なのだよ。

 

「いえ本当の事ですが」

『……』

 

 いや、そこまで鎮痛な表情をしなくても……。シオンが女性なことをそんなに認めたくないのか?

 

「むしろどうして気づかなかったのかと。キルアとズシ君はともかくウイングさんは長い付き合いなんでしょう?」

「いや、その、確かに10年以上の付き合いですが……その、シオンは一度も自分の事を女だとは……」

「でも男とも言ってないのでは?」

「……そうですね」

 

 どんだけ鈍感なんだこの人? 10年以上一緒にいて、しかも武を研鑽しあった好敵手なんでしょ? それで性別を間違えて覚えてるって相当だよ?

 

「アイシャが勘違いしてるだけってのは?」

「それはないですよキルア。相手の骨格や重心を見れば性別を判断する事は出来ますから」

 

 まあ、これも長い時を武術に浸って生きたことで身に付けた技能だな。人によっては骨格とかだけじゃ判断しにくい人もいるけど。

 もっとも今回の場合は初めから女性だと知っていたからだけどね。

 

「それってかなりすごいことだと思うっす……」

「で、では本当にシオンは女性……?」

「マジかよ……胸なんて全然なかったぜ……」

「胸で判断するのは失礼ですよキルア。そういう人もいるんです。むしろ希少価値と思いなさい」

 

 まあ、残念なことに変わりはないが……人によってはそれがいいと言う人もいるだろう。きっと。

 

「ま、待ってください。師範に確認してみます。あの人なら知っているかもしれない」

 

 そう言いながら誰かに電話をかけるウイングさん。師範という事はウイングさんのお師匠さんか? もしかしたらビスケかもしれないな。

 ……ちょっと会話を聴いてみよう。耳に全力で凝をして聴力を強化だ!

 

「……もしもし、お久しぶりです師範。今少しお時間よろしいでしょうか?」

『何よひよっこウイング。アンタが電話してくるなんて珍しいじゃない』

 

 うん。やっぱりビスケだな。縁は奇なものとは言うが、世界は狭いもんだ。

 ウイングさんがビスケの弟子ならシオンと近しい仲になっても不思議じゃないね。何せシオンはリィーナの直弟子に選ばれた子だったし。中々いい才能を持ってたもんだよ。順調に行っていれば師範代にはなってるとは思うんだけど、どうなんだろう?

 

「ええ、少しお聞きしたいことがありまして。……シオンのこと、覚えていますよね?」

『そりゃ当然だわさ。リィーナの愛弟子でしょ。私が忘れるわけないじゃない』

「そうですか……それで、お聞きしたい事なんですが……シオンって、その、じょ、女性の方なんでしょうか?」

『……あんた、どうやってそれを知ったの?』

「――っ! そ、それではやはりシオンは女性……!」

『そんなことは良いから答えなさい! アンタがそれに気付いたのはどうして!? 自分で気づいたの? それとも、誰かに教えてもらったの?』

「え? その、恥ずかしながら人に教えてもらい初めて気付きました……」

『……何てことだわさ!』

 

 えっと。何か話の雲行きがおかしいような。

 何でそんなにビスケは驚愕しているんだろう?

 

「師範? 一体どうされたので? な、何か不都合でも?」

『不都合も不都合よ! あんた何で自分で気付かなかったのよ!!』

 

 うわっ!? 聴力を強化しなくても聴こえる程の怒鳴り声!

 ど、どうしてそこまで怒っているんだ? シオンが女性だと気付かなかったウイングさんの鈍感さに怒っているんだろうか?

 

「も、申し訳ありませ――」

『――リィーナとの賭けに負けちゃったじゃない!』

「……は?」

 

 ……は?

 

『賭けよ賭けー! 私はアンタが自分で気付くのに賭けてて、リィーナは他人に教えてもらう方に賭けてたの! 弟子を信じた師匠の信頼を返しなさい全く!』

「……弟子で賭けをする事で失う信頼があることにも気づいてもらいたいのですが?」

 

 いや全くだ。何かと思えばくだらない。リィーナ、今回は少しお仕置きをしなきゃいかんようだな。

 

『ああもう、リィーナと約束していた2000万の買い物もパァ~よ! 大赤字じゃないこの鈍感ウイング! スープで顔を洗って出直して来なさい!』

 

 怒声とともに電話を切る音が響く……ビスケ、さすがに酷いと思うよ……。

 

「……はは、どうやら本当に女性のようですね。何故今まで気が付かなかったんでしょう……」

「ま、まあ仕方ないさウイングさん。オレだって男だと思ってたんだ」

「そ、そうっすよ! 自分も全然気付かなかったっす! 師範代がそこまで気に病む事はないっすよ!」

「シオンさんにも多少の原因はありますね。少しは女性らしい服装をすればもっと早く気付けたでしょうし」

 

 服装に関しては私が言えたことじゃないかもしれないけどね。

 

「そういえば以前心源流の道場にシオンが来ていた時、女子トイレに入っていくのを見たことが……」

『いや、それで気づけ(っす)』

 

 馬鹿なのかこの人は? 鈍感のレベルが一桁違うぞ? 絶対この人強化系だ。賭けてもいい。

 弟子のズシ君にさえ突っ込まれて落ち込んでいるようだが、フォローのしようがない。

 

「あの時はてっきりトイレを間違えただけかと……10年以上気付かないなんて……」

 

 ……こればっかりは自業自得というしかないな。

 

「と、とにかく一度シオンに会って謝らなくては!」

「……オレも謝っとくわ」

「自分も素直に謝るっす……あれだけ面倒を見てもらって気付かなかったなんて」

 

 キルアやズシ君はともかく、確かにウイングさんは謝った方がいいな。さすがに10年以上気付かないのはちょっと……。

 強化系って思い込んだら一直線な人って本当に多いなぁ。もうこの人が強化系以外には思えないよ。

 

 おっと、どうやらシオンが戻ってきたようだ。頭も冷えたかな?

 

 

 

 

 

 

 ようやく落ち着いた。鼻血も収まったし、これでまたウイングと顔を合わせられる。鼻血が出ている顔なんて見せられないもんね。

 

 ん? なんか部屋の空気が違う。ウイングも何故か緊張した面持ちで私を見ている。心なしかズシ君とキルア君も緊張しているようだ。

 変わりがないのはアイシャちゃんくらいだけど……一体どうしたんだろう?

 ……もしかしてさっき私があんな事を言ったから皆怒っているんじゃ!? た、大変だ! ウイングに嫌われたら生きている意味がなくなる! 早く謝らなくちゃ!

 

「すまない、先程は言いすぎた。少し冷静さを失っていたが、もう大丈夫だ」

「シオン……申し訳ありません!!」

「い、いきなりどうしたんだウイング!? ボクが怒鳴ったことを気にしているのかい? あれはボクが悪いのだから、キミが気にすることはないさ」

 

 突然謝るから一瞬告白の断りでもされたかと思っちゃったよ!

 すぐにそんな事はないって気付いたけど。何せ告白なんてした事ないものね。妄想の中でなら何万回もしてるけど……勿論答えは全部OK!

 でもたまには私からじゃなくてウイングから告白してくるパターンもありね!

 

 ああ、夢が拡がる……いけない、またも鼻血が……。

 61・67・71・73・79・83・89・97……。

 ふう、セーフセーフ。

 

「いえ、そうではありません。私はあなたに謝らなくてはならないのです……」

「……一体どうしたと言うんだい?」

 

 ど、どどどどうしたんだろうウイング!?

 こんなに思い詰めた顔をしたウイングは初めて見るよ!

 ああ、ウイング、そんな顔をしないで。貴方の笑顔を見るのが私の生きがいなのに……。

 

 でもこんな表情のウイングも素敵すぎる……。

 取り敢えず【映像記憶/オタカラフォルダー】を使って即保存っと。

 レア画像ゲット!! 今日はこれでしよう。

 

 それで、ウイングはどうしてこんなにも思いつめているんだろう?

 

「……申し訳ありません! 私は……私は今まで貴方の事を男性だと思っていました!!」

 

 ……ぱーどぅん?

 

「わりぃ……オレも勘違いしてた」

「申し訳ないっす! この通り、伏してお詫びを!」

「……キミ達は何を言っているんだ? ……ボクが男に見えていたと言うのかい?」

 

 ちょっと何言ってるか分かりませんね!?

 

 いや、え? その、なに? つまりどういうことなの?

 

 あれ? 私今までウイングに女として認識されていなかったの?

 

 え? ずっと私のことを男だと思っていたの?

 

「……アイシャさんに教えられ、初めて気付きました。このウイング一生の不覚です……なんとお詫びをしたらいいのか……」

「それは……あんまりだろうウイング。ボクはずっとキミと一緒にいたというのに……」

 

 そんな……ひどいよウイング。

 ウイングは、ウイングはやっぱり……………………。

 

 

 

 おっぱいの大きい女の方がいいんだ!! アイシャちゃんみたいに! アイシャちゃんみたいに!!

 

 ちくしょう! なんでこんなに成長しないんだ私の胸は! 乳製品は毎日飲んでいるし、バストアップ体操だってしている! 通販で買った胸が大きくなる薬もずっと飲んでいるのに……!

 

 どんなに努力してもちっとも成長しない……。

 うう、いっそ胸を大きくする念能力でも作ろうかな?

 

「……返す言葉もありません。友の……ライバルの性別すら間違えるなんて。私に出来ることがあれば何でも言ってください。せめてもの罪滅ぼしがしたいのです」

 

 ん? 今なんでもするって言ったよね?

 

 あ、やばい鼻血が!

 

 101・103・107・109ダメだ全然収まりそうにない! 刺激が強すぎたんだ!

 鼻血ブーな顔を見られるわけにはいかない! 早くここから逃げ出さないと!!

 

 何でも……。

 き、きききき、キスとかも、いいんだろうか!?

 っ! ダメだ! 何も考えるな! は、鼻血が吹き出そうだ!

 って!? 何でウイング追ってきているの!? 追いかけてくれるのは嬉しいけど今はそっとしておいてほしいよぅ!!

 

 

 

 

 

 

「あ! 待ってくださいシオン!」

 

 ウイングさんの声にも反応せず部屋を出て行くシオン。

 さすがにショックが大きかったか……。

 

「皆さん! 私はシオンを追いかけます。今の彼……いえ、彼女を放っておくわけにはいけません。わざわざ来ていただいたアイシャさんには申し訳ありませんが、話はまた後日に!」

「は、はい」

 

 そう言い残してすごい勢いでシオンを追いかけていくウイングさん。

 どうなるんだろう? 追いかけない方が良かったかもしれないけど……時間を置いた方がいい場合もあるだろうし。これは私でも予測出来ないことだ。ウイングさんが無事許してもらえるといいんだけど。

 

「えっと、それじゃあもう遅いですし、私達はそろそろ帰りましょうかキルア」

「ああ、そうだな。じゃあなズシ。早く200階に上がってこいよ」

「押忍! 色々とすいませんっす! 早くキルアさんとゴンさんに追いつけるよう、一層努力するっす!」

 

 何とも真面目でいい子だ。素直だし、ウイングさんとの相性も良さそうだ。

 このまま弛まぬ努力をすれば、ズシ君は将来きっと武道家として大成するだろう。

 さ、ゴン達も待っているだろうし、そろそろ天空闘技場に戻りますか。

 

 

 

「ウイングもすげぇよな。いくらなんでも10年以上一緒にいて気付かないってのもよ」

 

 天空闘技場まで道ながらにキルアと話しながら歩く。話題はやっぱりさっきのことだ。当事者の2人には申し訳ないが、第三者の立場からするとどうしても話題に上げてしまう。

 

「そうですね。まさか女子トイレに入るのを目撃しているのに疑問に思わないとは……」

「だよなぁ! はは、こりゃゴンとクラピカに話すのが楽しみだぜ」

「こらこら、あまり人の失敗を面白おかしく話すのは良くないですよ。ふふ」

「そういうアイシャも笑ってんじゃねぇかよ」

 

 それは仕方ないだろう。だって思い出すとやっぱり面白いし。

 

「まあ、ウイングさんは仕方ないとして、シオンさんは可哀想ですね」

「ん……まあな。ずっと勘違いされてたってのはキツイだろうな。でもシオンも紛らわしいと思うぜ。だって口調はああだし、服装も女らしくないしよ」

「まあ、それはそうですが……服装に関しては私もそうですよ?」

「いや、お前は……色々あれだからな。口調も顔も完全に女だし。シオンは顔は美形だけど、男にも見えなくもないって感じだし。こう、中性的っての?」

 

 確かに……何ていうか、その道に行けばものすごい人気が出るタイプだ。人気の元は主に女性だが。

 私だって小さい頃にシオンを見た時は男の子かと間違えそうになったくらいだしな。

 

「ところでさアイシャ」

「なんでしょうか? 念に関しては教えませんよ? ウイングさんとの約束があるんでしょう?」

 

 何だろう? 聞きたいことでもあるのかな?

 

「あの約束はゴンだけだからオレには関係ないよ。……まあ、念についてじゃない。いや、念も関わっていないわけじゃないけど」

「……? どうしたんですか一体?」

 

 本当に何を聞きたいんだろう? 念は関係してるけど、念について聞きたいわけじゃない?

 

「クラピカが念を覚えたのは今日だよな。アイツはアイシャ以外の念能力者を見たことがあるのか?」

「いえ、見たことはないはずです。念を覚えてからは、ですが」

 

 念を覚える前ならそうと知らずに念能力者と遭遇することはないとは言わないだろう。でもそんなことを上げていたらキリがないな。

 

「やっぱりそうか。……アイシャ、お前……どれだけ上にいるんだ?」

 

 ……え? 私がどれだけ上、高みにいるか。それが気になると。でもそれとクラピカの話に何の関係が?

 

「どれだけ上……ですか。まあ、少なくとも念初心者のキルアよりも上ですよ」

「だろうな。多分、お前はオレが想像出来ないくらい上にいる。そんな気がする……」

「どうして……そう思うんですか?」

 

 ……正直、いくらキルアが鋭いからといって、今の私の実力の底を見抜けるとは思っていない。だったらどうして? どうして私がそこまでの強さを持っていると思えるんだろう。

 

「正直、オレはゴンが戦った奴に脅威を感じなかった。勿論今のオレ達よりは上にいるのは分かる。だが、それは念に関してだけだ」

 

 どうやら天空闘技場の能力者の質はさして変わっていないようだ。中には強者もいるとは思うけど、思ったほどクラピカの実戦経験にはならないかもしれない。

 

「その念も大したモノじゃなかった。ヒソカやウイングの念と比べたら下の下。覚えたてのオレ達よりも少し上ってくらいだ。あんなのすぐに超えられる」

「そうでしょうね。キルアも、そしてゴンも素晴らしい才能の持ち主だと思っています。正直に言うと嫉妬したこともあるくらいですよ」

 

 もし、もし私に彼らの半分もの才能があったなら……そう思わずにはいられない程に圧倒的才能。天賦の才。

 

「でもその話と私がどれだけ上にいるかの話、どう繋がっているんですか?」

「……お前、クラピカに念を教えたんだよな」

「ええ、彼も非常に素晴らしい才能を持っています。わずか1週間で纏を身に付け――」

「――それだよ」

「……え?」

 

 クラピカの才能の高さと私の実力がどう結びついているんだ?

 

「ウイングが言っていた。オレ達なら1週間、もしかしたらそれより早く念に目覚められるかもしれないってな」

「……」

「そしてクラピカは1週間で目覚めた。つまりアイツはオレ達に匹敵するほどの才能を持っているわけだ」

「ええ、そうなりますね」

「そしてここが肝心のポイントだ。クラピカがゴンの部屋で言ったセリフを覚えているか?」

 

 クラピカのセリフ? 色々話したけど、気になるような事を言ってたかな?

 

「『私もアイシャから念について学んだが、あんなモノに覚えたての念で挑む気にはなれないぞ?』クラピカは確かにこう言っていた」

 

 ――! 素晴らしい……!

 あの何気ない会話の中から貴重な情報を見つけ、自身の経験と結びつけ、よくぞそこまで!

 

「オレ達と変わらない才能のクラピカが、挑む気にはなれない。そしてオレはゴンと戦ったような奴等相手に今でも負ける気はしない」

 

 ここまで予測出来るとは……正直侮っていたんだろう。どれほどの才能を持っていようと、まだ経験が足りない半人前と。

 

「ここまで言えばもういいだろ? つまりアイシャはクラピカやオレ達から見て遥かに高みに達しているってことだろう?」

「……脱帽です。僅かな情報でよくぞそこまで。感服に値しますよ」

「やっぱりかよ。他にも薄々とあったぜ? あの会長から攻撃を受ける程に追い詰めることが出来たんだろ? これだけでオレ達より強いってのは分かったよ」

「ああ、ただのマグレと受け止めてもらえたら良かったのに」

「アホか。んなわけあるか」

 

 だよねー。

 でも、今それを言うってことは……隠し事してた私とはもう友達じゃないなんて言い出すんじゃ!?

 

「そ、そそそそれで、わ、私が強さを隠していたかりゃもう絶交だと!?」

「いやなんでそうなんだよ! てかめちゃくちゃ焦ってんな!」

 

 マジで!? 絶交じゃないの?

 

「ふ、ふぅ。焦らせないで下さいよ」

「お前が勝手に焦ったんだよ。……別にそんなのでダチやめたりしねぇよ。誰にだって言いたくないことくらいあんだろうしな」

 

 おお……! キルアに後光がさして見える。

 

「ありがとうございます……いつか、いつか必ず皆に話しますね」

 

 ああ、そうだ。きっと話そう。友達に隠し事はないなんて、そんなことは言わないけど、それでも皆には話したい。それで拒絶されても……仕方ないさ。

 

「ああ。絶対だぜ」

「ええ。約束です」

 

 何か少し心のしこりみたいなモノが軽くなった気がする。

 キルアに感謝だな。

 

「キルア」

「あん? 何だよ?」

 

「ありがとう」

「べ、別にいいよ。……ダチだかんな」

「ふふ、そうでしたね。友達ですからね」

「嬉しそうにしてんじゃねぇよ! やっぱお前友達いなかっただろう!」

 

 な、何を馬鹿なことを! それを言うならキルアだって……はっ! そうだ。キルアに友達が出来たのは最終試験! そして私に友達が出来たのは!

 

「ふ! 甘いですねキルア! 私はあなたより早く友達がいましたよ!」

「嘘だろ! 誰なんだよ!」

「レオリオさんです! 最終試験の3日前に友達になりました!」

「……いや、馬鹿かお前は? それを言うならオレは試験初日にゴンと友達になったかんな!」

 

 なん……だと……?

 

「そ、それは卑怯です! 友達になろうなんて言ってないんでしょう!?」

「ばっか。レオリオが言ったんだよ。オレらはとっくにダチだってな! 友達ってのは、作ろうと思って出来るんじゃねぇ! いつの間にかなってるもんなんだよ!」

 

 キルアの言葉にがくりと膝が折れる……ふ、深い、何て深い言葉なんだ……!

 

「わ、私の負けです……」

「ああ、そしてオレの勝ちだ」

 

 くっ! キルアの勝ち誇った顔が小憎たらしい!

 

「ですが覚えておくことです。例え私を倒したところで第二・第三の私が……」

「いや、お前はどこのラスボスだ」

「いや、お前たちは何をしているんだ?」

『へ?』

 

 

 

 どうやらすでにゴンの部屋まで着いていたようだ。

 クラピカに突っ込まれるまで話に集中しすぎて2人共気付かなかった……恥ずかしい。キルアも心なしか顔が赤いようだ。

 

「全く。ここ200階にはあまり利用者がいないからいいものの。あまり迷惑になるようなことをするのはどうかと思うぞ」

「……ていうか何時から気付いてたんだよ」

「あ、友達がどうたらって辺りからかな」

「……ゴンもそこまで聞こえてたのなら声を掛けてくれたらいいのに」

 

 おかげで恥ずかしい思いをしてしまった。

 

「いやぁ、何か楽しそうだったし」

「まあ、友達がいるというのはいいことだぞ」

「うっせ!」

「ほっといてください!」

 

 こうしてしばらくは談笑しながら楽しい時間が過ぎた。

 だがそろそろ夜も遅い。私たちも宿に行かなければ。

 

「クラピカ、名残惜しいですがそろそろ行きましょう」

「ん、ああ、そうだな。そろそろ宿をどうにかしないとな」

「そういや2人ともまだ20階だったか。100階以上にならないと個室ないからなぁ」

「2人ともゆっくり上がっているんだね。2人ならもっと早く上がれるのに」

 

 仕方ない、それもクラピカの修行の為なのだ。

 

「2人が念の修行を再開する前に200階まで追いついてみせるさ」

「お、言いますねクラピカ。あと2ヶ月足らずであの条件の下にそれが達成出来ますか?」

「全部の攻撃を避けるんだっけ。大変だね」

「そうか? 結構簡単だろ?」

 

 キルアは戦闘技術はこの3人の中でもずば抜けているからな。多分同条件でも一度も負けることなく200階まで到達出来るだろう。

 

「勿論達成してみせるさ。それくらい出来なくてはな」

「そうこなくっちゃな」

 

 どうやら気負い過ぎているわけでもない。ゴン達に会ってモチベーションもいい感じに上がったようだ。これなら予想よりも早くに200階まで上がれるかな?

 

「あ、そうだ! ねえ、2人ともまだ宿はとってないんだよね?」

「ええ、そうですけど?」

「それがどうかしたのかゴン?」

「いいこと思いついたんだ! 2人ともこの部屋に泊まればいいんだよ!」

 

 え? でも眠る場所は? 見たところベッドは1つしかなさそうだけど。

 

「おいおい。また何言ってんだよお前は。そもそも眠る場所がないだろ?」

「え? ソファじゃダメかな?」

「ははは、気持ちは嬉しいがゴン、私はともかくアイシャは――」

「いいんですか? 一度友達とお泊りとかもやってみたかったんですよねぇ」

「なん……?」

「だと……?」

 

 今キルアとクラピカがかなりのシンクロ率だったような?

 

「ほ、本気で言ってんのかアイシャ?」

「ええ。ちょうどソファも2つありますし。先程見ましたが、お風呂も結構大きかったですよ。さすが200階選手の部屋ですね。豪華な部屋です」

「だが、アイシャは女で私は男なんだぞ?」

「私は気にしないから大丈夫ですよ。宿代の節約にもなりますし」

『いや私(オレ)が気にするんだ!』

 

 ん? どうしてキルアまで気にするんだ? 別の部屋のはずだけど?

 

「いいじゃんそんなの気にしなくても。それにやっぱりこうして休んでるだけって暇なんだよね。誰かいてくれると嬉しいし」

「ほら、ゴンもこう言ってることですし、遠慮せずお世話になりましょう」

「いや、遠慮してるわけではないのだが……」

 

 うーん、そこまでソファで寝るのが嫌なら仕方ないか。宿をとるとしよう。

 

「分かりました。それでは宿を取りましょう。幸いこの天空闘技場の周りにはたくさんの宿がありますし。……ゴン、すみませんがキルアもいるので大丈夫でしょう?」

「ふう……ところでアイシャ、宿は何部屋取るつもりなんだ?」

「え? それは1つのつもりで――」

「ゴン、すまないが個室を貰えるまで少し厄介になる」

 

 なぜに? 嫌じゃなかったのか? それとも私と2人きりになるのが嫌なんだろうか……?

 修行の効率と宿代節約を兼ねた一石二鳥のアイディアなのに。

 

「クラピカ!? ちぃっ!」

 

 キルア? いきなり部屋を飛び出したけど、どうしたんだろう?

 

「どうしたんだろうねキルア?」

「さあ? 何か気に障ることでも言いましたかね?」

「駄目だこいつら……早くなんとかしないと」

 

 お? 何かキルアがすごい勢いで戻ってきてるようだ。何しに出て行ってたんだろう?

 

「はあっはあっ! オレもここで泊まらせてもらうぜ!」

 

 そう言いながら恐らく自分の部屋にあったであろうソファを床に降ろすキルア……。

 わざわざそこまでしてここで泊まりたいなんて……キルアもお泊り会をしたかったんだな。

 

「全くそれならそうと言えばいいのに」

「お前が何を考えてるか分かんねぇが、全く見当外れな事を考えてる事は分かった」

 

 ははは。照れるな照れるな。

 

「それじゃ、ゴンの傷に障るといけませんからそろそろ休みましょう」

「うん。皆、お休み」

「どうしてこうなったんだ……?」

「駄目だ、天然は集まると手に負えねぇ」

 

 何か失礼な事を言ってる気がするけど、まあいいや。お休み~。

 

 

 

「すぅ、すぅ」

「ん……くぅ」

『羊が3211匹。羊が3212匹。羊が……』

 

 

 

 ……ん、ああ、日の光が眩しいな……朝か。

 くあぁ。ああ、よく寝た。今日もいい天気だし、体の調子もいい。いい1日になりそうだ。

 

「いいなクラピカ。絶対に最短で100階まで上がれよ!」

「無論だ。全力で試合に臨もう!」

「無傷だ。無傷で勝利しろ。そうすれば1日に2回試合を組まれる時もある。ある程度は時間短縮になるはずだ」

「ああ、分かっている。そう、全ては――」

『全ては快適な安眠の為に!』

 

 ……えっと。なに、あれ?

 

「ゴン、どうしたんですかあの2人?」

「分からない……オレも今起きたばかりだから……」

 

 何だか分からないけど……2人とも何か前より仲良くなった気がする。

 良いことなんだろうけど……本当に何があったんだろう?




新たな念能力の詳細を書いておきます。これも立派な念能力さ……多分。
ちなみにシオンは変化系が得意系統です。

【映像記憶/オタカラフォルダー】
・操作系能力
脳の記憶を司る部分を操作し、術者が見た映像を寸分違わず記憶して保存する能力。
保存した映像は術者の意思で自由に思い出せる。また設定した通りに映像を連続して脳内に映し出すことも可能。
頭の中に映写機があるようなもの。

〈制約〉
・ウイングを視界に入れている映像でないと保存出来ない。

〈誓約〉
・特になし。







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