どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第二十四話

「これでこのお泊り会も終わりと思うと名残惜しいですね……」

 

 たったの5日で100階に登っちゃった……個室も与えられたから今日からそこで寝泊りすることになった。まあ仕方ない。無傷で1日2回勝利したら最短5日で100階に到達するよね。クラピカもここまで順調に勝利している。少しは手古摺るかと思ったけど、100階以下だとまだまだ余裕のようだ。

 

「5日間……長かったな」

「良くやったクラピカ。オレは感動している……」

「本当にすごいねアイシャもクラピカも。あんな条件でこんなに早く100階まで登るなんて。オレは相手を思い切り押してただけだったから簡単だったけどさ」

 

 私はともかく、クラピカは本当にすごかった。何というか、鬼気迫る勢いで戦っていたな。相手選手もクラピカの気迫に飲まれていたところもあったと思う。

 

「皆で一緒にいるのは楽しかったんですが、まあこれも丁度いい機会でしょう。そろそろ点と纏だけでなく、次の修行にも移りたかったところですし」

 

 クラピカも纏には大分慣れたようで、寝ている間も纏を維持し続けることが出来るようになった。この5日間は念の修行は点と纏の繰り返しに努めさせていたからね。

 いくら才能があるといっても何事にも前段階というものがある。点と纏を疎かにした能力者に大成はない。

 

「ちぇっ。オレ達もゆっくりやってんだからクラピカものんびり行けよ~」

「悪いなゴン、キルア。2人が休んでいる間に先に進ませてもらおう」

「すぐに追いつくよ! だから先に行って待ってて!」

「ああ。私も200階まですぐに追いつく。だからゴンも早く怪我を治せよ。皆で強くなろう」

 

 うんうん、厚い友情に乾杯だ。私ももっと強くならなくちゃな!

 

「はい! もっと強くなりましょうね!」

『いや、アイシャは少しゆっくりしていてもいいぞ』

「あはは! 2人とも酷いや」

「2人とも、何か最近息があってませんか?」

 

 主にツッコミ役として。このお泊り会が始まってから妙にキルアとクラピカの仲がいい。まあ良いことなんだけどさ。

 

「それではこれで失礼しますね。ゴン、泊まらせてもらってありがとうございました」

「ではな。200階で待っていてくれ。世話になったなゴン」

「いいよ、また泊まりに来てもいいからねー!」

「やめろこのバカ。そんじゃな2人とも、早く上がってこいよ~」

 

 いやぁ楽しい5日間だった。これでまた1人部屋だと思うと寂しくなるな。

 仕方ない。またこうやって遊ぶ機会もあるさ。今はクラピカの修行に専念しなきゃね。

 

「それでは早速次の修行に移りますよ」

「ああ、望むところだ」

 

 

 

 それからは順調に進んでいった。

 試合も、修行も、両方とも順調に……本当に順調だった。……絶に掛かった時間は2日……練に至ってはたったの1日。もう凝とか出来るんじゃないか? その上、190階で一度相手の攻撃を受けたことによるギブアップでの負け以外は全て勝利。

 天空闘技場に着いてからわずか18日で200階に到達してしまった……。

 

「アイシャに2日遅れてしまったが、これで私も200階選手だな」

「ええ、そうです。まだ登録しに行かなければなりませんが」

 

 分かっていたけど本当にすごいな。

 対戦相手は確かに弱かったけど、それでも天空闘技場に来る前のクラピカではあの条件で勝利するのは至難の業だったはず。

 凄まじいスピードで成長している……! 相手の動きをよく観察し、動きを読み、様々な武術を学習し、さらなる強さへと変えている。それは強さの頂きを志す者なら誰もがすること。だが、そのスピードが並を遥かに凌駕している。

 

「少しずつ相手の動きが分かるようになってきた。何をしようとしているのか、どういう攻撃を繰り出そうとしているのか」

「どうやら観察眼が養われてきたようですね。ですがそれを過信しないように。生半可な実力で増長するのが一番危険なのですから」

「む……そうだな。私より強い者などいくらでもいるだろうしな」

 

 どうやら一度攻撃が当たった事が良かったみたいだ。もし一度も攻撃を受けずに全て勝利して200階まで到達していたら下手な自信を付けていたかもしれない。

 

 自信を持つのは良いことだ。何事も自信がなければ実力を発揮することは出来ない。

 だが持ちすぎるのは駄目だ。過ぎた自信は過信となり、慢心を生む。それは何時の日か己に災いを呼び込むことになりうるだろう。

 

「纏と絶の切り替えはどうですか?」

「ああ、初めは絶への切り替えが難しかったが、今では違和感なくスムーズに行える様になったよ」

 

 そうして目の前で纏と絶を何度も切り替えて見せる。ふむ。確かに上出来、あくまで初心者としてはだが。

 

「そうですね。まだ絶を覚えて2週間とは思えないほどスムーズです。取り敢えず合格ですが、この鍛錬も毎日怠らないように」

「ああ、分かった。……ところでこの鍛錬にはどのような意味があるんだ?」

「師の教えには疑問を抱かない……と、言うのは前時代的ですね。以前にも説明したように、絶は応用技でも重要になります。絶の練度を高めておくと応用技の時に非常に便利になります」

 

 例えば硬。これは纏・練・凝・絶を組み合わせた高等技術だが、この時、絶の切り替えが早いと硬へと至る速度も早くなる。攻防力移動の速度は念能力者にとって重要な課題だからね。

 

「練も見せてもらえますか」

「ああ。……ふっ!」

 

 ……成程。毎日欠かさず点と纏を繰り返しているようだ。力強さが練を覚えた時とは大違いだ。これなら初心者狩りと呼ばれる200階選手程度の攻撃なら全て弾くことが出来るだろう。

 

「ええ、これも合格点です。内部で練って蓄えたオーラを外へと出す速度も申し分ない。勿論これもまだまだ要修行ですよ」

「本当か! これで私も水見式とやらをやらせてもらえるのだな」

「ええ」

 

 嬉しそうだなクラピカ。修行の成果を認められたらそうなるよね。それに自分の系統も気になっていただろうし。

 

「それでは水見式を始めます。……このグラスに手を近づけて練を行ってください」

「こうだな。……グラスの中に不純物が出たが?」

「これは具現化系を表す反応ですね。クラピカは具現化系を得意とする系統だということです」

「……そうか。出来れば強化系がいいと思っていたのだが」

 

 一応前もって系統の説明はしていたけど、クラピカが望んでいたのは強化系だったか。クラピカが強化系を望んでいたのは恐らく強化系が戦闘において最も有利だと判断したからだろう。

 その考えはあながち間違っていない。攻撃・防御・回復と、純粋な戦闘で有利になる点が最もバランス良く整っているのが強化系だろう。極めれば通常攻撃が他の系統の必殺技と遜色ないレベルにまで高まる戦闘向けの系統だ。その上で他の系統を組み合わせた能力を作ると隙も少なくなるだろう。いい例がネテロだな。まあ、あれは別格すぎるか。

 その代わり大成するのに時間が掛かるのが欠点と言えば欠点かな。他の系統は一発逆転出来るような能力、ハマると強い能力を作りそれを活かせば大物食いも出来るけど、強化系はそうはいかないからな。純粋な実力が伸びるのは早いが、意外性が少ないとも言える。

 

「具現化系には具現化系の強さがあります。強化系と比べて見劣りするわけではありませんよ?」

 

 そう。純粋な戦闘で強化系に勝ち目が薄いのは確かだが、それなら純粋な戦闘をしなければいいだけの話だ。

 具現化系は具現化した物質に様々な効果を付与する場合が多い。それには上手く行けば相手を簡単に無力化することが出来る能力もある。

 

「だが、やはり蜘蛛と戦うとなれば安定した強さを持つ強化系が理想だったな」

「まあ、強化系の能力が覚えられないわけではないのですが……」

「習得率だったか?」

「ええ。この六性図に書いているように、能力の習得率はそれぞれの系統を頂点として最大100%。そこから隣へと移るごとに20%ずつ低下します。つまり貴方は強化系を最大で60%まで習得し、発揮出来るわけです」

「つまり純粋な肉体での戦闘では私は強化系に勝てない、と……?」

「いえ、そんなことはないですよ?」

「なに?」

 

 習得率が低かったらそれを得意とする系統には勝てない? そんなのは幻想だ!

 

「そもそも先ほどのは得意とする系統を100%極められるならの話。正直極めたなんて言える能力者は私の知る限りでもほんのひと握りしかいませんよ」

「……」

「さらには習得率で劣っているなら、60%で100%に勝るほどに実力をつければいいだけのことです。具現化系や操作系で強化系にガチンコで勝てないなんて決め付けるのは良くないですよ」

「く、ははははは! そ、そうか、確かにそうだな。私の強化系が60%しか極められなくても、それが強化系の100%を上回ればいいだけのことだな」

 

 むぅ。真面目に言ってるのに、笑うのいくない!

 

「潜在オーラの差、顕在オーラの差、攻防力移動の差、念技術の差、身体能力の差、体術の差、精神の差。例え体調をベストと仮定しても、これらの差で系統の差などひっくり返ることは大いにあります。……勿論系統の差が大きいのは否めませんが」

「分かったよアイシャ。私は私の系統で強くなる」

「それが大事ですよ。何事にも揺るぎない確固とした自分を持つことです。オーラは感情で大きく変わりますから」

 

 感情によってオーラが増大したり激減することは多々ある。普段以上の力を出すことも出来るけど……あまり無理なオーラを出すとそれは歪みとなって己自身に返ってくる。

 クラピカが蜘蛛への憎悪のあまり、感情を暴走させなければいいんだけど……。

 

「どうしたんだアイシャ?」

「あ、いえ……そうそう、具現化する物はよく考えた方がいいですよ。物質の具現化には凄まじい集中力・想像力を以てしても大量の修行が必要となりますから」

「……鎖がいいな」

「鎖?」

「ああ、具現化系と聞いた時にふと頭に浮かんだ……」

「それは今でも?」

「そうだ。これ以外はしっくりこない、そんな感じだ」

「分かりました。そのインスピレーションは大事です。これからは鎖を具現化する修行を行いつつ、他の修行を並行しましょう」

 

 何せ伝えなければならないことは沢山ある。

 制約に誓約。様々な応用技。どの系統でどんなことが出来るか。さらにはそれに合わせて基本の修行もしなければならない。堅の持続時間も伸ばしたいな。最低でも3時間は出来なきゃね。

 

 やっぱりビスケの助けを借りよう。私1人では時間が足りなさすぎる。ビスケの【魔法美容師/マジカルエステ】があれば修行のかなりの短縮が可能になるし。後で連絡してみよう。

 

「取り敢えずクラピカも200階の登録を済ませておきましょう。今日中にしておかないとまた1階からやり直しですよ」

「それは勘弁してほしいな。また攻撃を避け続ける苦行をしなくてはならない」

 

 2人でそんな会話をしつつ200階にあがる。

 ――が、どうやらすんなりとは行かないみたいだ。

 

「どうしたんだアイシャ?」

 

 急に立ち止まった私にクラピカが疑問の声を掛ける。だが私はそれに答えず目の前にある曲がり角を睨みつけて言葉を告げる。

 

「……いるのは分かってますよ。出てきたらどうですか変態」

「くくく。変態だなんて、相変わらずつれないなぁアイシャ♥」

「ヒソカ!」

 

 ……はあ。私が登録した時は出てこなかったのに。まあ、いないのを見計らって行ったんだけど。今回はどうやら待ち伏せしてたな? ずっと気配が動いていなかったし。

 

「それで、一体何の用ですか? 用がないならとっとと退いてください」

「確かにキミには用はない。いや、本当はすごくあるけど、ここじゃなんだしね♣」

 

 本当に嫌になるオーラだな。身の毛もよだつとはこのことだ。

 ま、人のことは言えないか。

 

「今はクラピカに用が有ってね。いや、まさか天空闘技場に来るとは思わなかったよ。意外に早い再会だったね♥」

「再会したいとは思っていなかったがな。どうせここで会ったんだ。蜘蛛について知ってることを洗いざらい話してもらうぞ」

 

 蜘蛛について? 幻影旅団について何か知ってるのかヒソカは? そしてそれをクラピカに教えようとしている……何かに利用しようとしてるな。クラピカもそれは分かっているだろうけど、それでも蜘蛛についての話なら聴かないわけにはいかないか。

 

「ああ、もちろん。でもこんな場所じゃなんだろ? ボクの部屋においでよ、そこで話そう♠」

「……分かった。アイシャはここで待っていてくれ。すぐに戻る」

「いえ、私も付き合いますよ。この変態が何をしでかすか分かったもんじゃありませんし」

「ボクはいいよ。むしろアイシャなら大歓迎さ♥」

 

 ……どうしよう。早くも帰りたくなってきた。

 

――変態説明中―― 

 

「――と言うわけさ。団長と殺り合いたいんだけど、ガードが固くてね。キミと手を組めば旅団を引っ掻き回せると思ったんだけど……♣」

「それを私が許すと思ってるんですか?」

「だよね♦」

 

 ふざけてるのかこいつは? 蜘蛛の団長と殺し合いをしたいがためにクラピカを利用しようとするなんて!

 

「待ってくれアイシャ。少しヒソカと話をさせてくれ。……ヒソカ、お前は旅団の一員なんじゃないのか?」

「うん。外面上はね♣」

「外面上?」

「団長と殺り合いたくて入っただけだし。今だって蜘蛛ってわけじゃない♠ ……まあ、キミ達にならいいか。信用を得る為に証を見せよう♦」

 

 そう言いながら服を脱ぐヒソカ。

 おい変態、何をするつもりだ? 襲ってきたら全力で排除するぞ?

 

「あれ? 恥じらったりしないの? そういう反応を楽しみにしていたのにな♥」

「マジで殺しますよ?」

 

 ダメだ、本気で殺意が湧きそうだ。もう殺っちゃってもいいんじゃないかなって思えてくる。……ああ、駄目だこいつ。私の発言で余計に興奮しちゃってるよ。誰か何とかしてくれ。

 ん? 背中に数字の入った12本足の蜘蛛の刺青。これが旅団の証か。

 

 っ! クラピカのオーラが!? 蜘蛛の刺青を見た瞬間に増大した!?

 眼が……緋の眼になってる。蜘蛛を見て感情が昂ぶったからか? しかし、だからと言ってこのオーラの増大は明らかに異常だ! 感情の変化で増大するオーラを遥かに上回っている! 心なしかオーラの質も変わっていないか? これは一体……?

 

「……すごいね。念を覚えてまだ1ヶ月足らずだろうに……ゾクゾクするよ♥」

「ふざけるな。さっさと証とやらを見せろ」

「分かったよ。……ほぅら。これでボクは旅団じゃない♠」

 

 蜘蛛の刺青が剥がれた? これは念能力か?

 

「これがボクの能力さ。紙に色々な質感を再現する能力でね。これで蜘蛛の刺青を偽造していたのさ♣」

「なるほど、よく分かった。お前が蜘蛛にとっての身中の虫だということがな」

「クラピカ!?」

 

 まさか本当にヒソカと手を組む気か!?

 

「安心していいよアイシャ。キミの大事なクラピカをどうこうしようと言うわけじゃない。情報交換を基本としたギブアンドテイクさ。互いの条件が合わなければ協力は無理強いなし。これなら安心だろ?」

「それに嘘偽りはありませんね……?」

「もちろんさ♥ じゃあボクと組んでくれるかなクラピカ?」

「……いいだろう。では早速お前の知ってる情報を聞かせてもらおうか」

「ああ。ボクの知ってる団員の名前、そして能力を教えよう。と言っても能力を知ってるのは7人だけだけど♦――」

 

 

 

 話を終え、ヒソカの部屋から出て登録を済ませた私達は与え得られた部屋へと移動する。

 ……やはり気になるのはクラピカのオーラの変化だ。あそこまでオーラが増大するのはありえない。クラピカがそういった念能力を作ってるわけがない。緋の眼になったとたんあの変化……切っ掛けは緋の眼か?

 

「……すまないアイシャ。勝手なことを……」

「あ、いえ。……もういいですよ。確かにクラピカが蜘蛛に勝つ為には相手の情報があった方が断然勝率が上がるのは当然ですし……」

「そうか……ずっと黙っていたからてっきり怒っているのかと」

 

 ああ、確かに部屋を出てから話をしなかったな。オーラの増大について考えていたらつい思考に没頭していたようだ。

 

「すいません。少し考えを纏めていたものでして」

「考え?」

「ええ。……クラピカ、あなた自分が緋の眼になった時にオーラが増大していたのに気付きましたか?」

「なに? ……いや、良く分からない。だがそう言わると、確かに何時もよりも力が漲っていたような……」

 

 ふむ。クラピカもまだ分かっていないことか。だがおぼろげながら感じるモノがあるんだろう。

 

「部屋に着いたら確かめてみましょう。……もしかしたら」

「何だというのだ?」

「……いえ、まだ確証のないことです。とにかく一度部屋へ行きましょう」

「あ、ああ」

 

 もしかしたら、クラピカは後天的な特質系なのかもしれない。もう一度、今度は緋の眼の状態で水見式をしてみよう。

 

 

 

 

 

 

「やはりそうでしたか」

「これは……! 先ほどとは水見式の結果が違うだと?」

 

 どういうことだ? アイシャに促され、緋の眼になってから水見式をすると、先ほどの具現化系の反応とは違う変化を見せている。

 

「クラピカ、もう一度通常の状態で水見式をしてください」

 

 言われた通りに精神を落ち着けて緋の眼を元に戻す。そして水見式をすると……水の中に何かが具現化している。最初に水見式をした時と同じ結果だ。緋の眼になると水見式が変化する? 一体どうしてだ?

 

「……クラピカ、貴方は特質系です。正確には、緋の眼の状態だと特質へと変化するようですね」

「緋の眼の間だけ? そんな事が有りうるのか?」

「特質系は先天的なモノと後天的なモノがあります。これは後天的なモノに含まれますが、本来なら一度特質に変わると元の系統には戻らないのです。これはかなり珍しいですね」

「そうなのか。……特質系はかなり特殊な系統らしいが、どうやって能力を作ればいいんだ?」

 

 どうやら他の系統に当て嵌らない特殊な能力を使えるらしいが。その分能力の作り方が分からないな。

 

「能力もまた特殊ですね。初めから能力が確定しているパターンと、本人の潜在意識が能力として現れるパターンがあります。自ら考えて作り上げることも出来ますが、それも潜在意識が強く関わっていますね」

「なるほど……私はどちらのパターンなのだろうか?」

「それは分かりません。取り敢えずもう一度緋の眼になってもらえますか?」

「これはかなりしんどいのだが……仕方あるまい」

 

 緋の眼にならなければ話にならないからな。蜘蛛を見るとすぐに緋の眼に変わるのだが、別に蜘蛛を見なくても緋の目にはなれる。強く憎めばいい。蜘蛛を、私の家族を、仲間を、友を、全てを奪った蜘蛛を!

 

「……すいません。検証の為とはいえ、辛いことをさせています」

「気にすることはないアイシャ。これが蜘蛛を倒す力となるのなら、むしろ嬉しいくらいだ」

 

 そうだ。蜘蛛を倒す為なら私はどんな苦痛も厭わない。だから、だからそんな顔をするのは止めてくれアイシャ。憎悪が薄れてしまうよ。

 

「ふう、ようやく緋の眼になったか。これは訓練が必要だな」

「どうですか? 何か変わった事はありますか? 能力が発現しそうだとか、何か具現化しそうだとか?」

「そうだな……ああ、何時もよりオーラによる強化が強い気がするな。いや、これは確実に強化率が上がっているぞ?」

 

 通常時よりも身体が強化されているのが良く分かる。ここまで違うと差は明白だ。

 

「それは……何らかの能力が発現しているのかもしれません。恐らく常時発動型ですね。緋の眼に変わると自動的にその能力が発動する。問題はどのような能力なのかですが……」

「しばらくは検証するしかないな。……緋の眼の状態もあまり長くは続かないしな、短時間で何回も変わったからそろそろ限界が近いようだ」

「そうですね。とにかく今日のところは一旦休みましょう。クラピカ、検証が完全に終わるまで200階での試合は厳禁ですよ」

「了解した。幸いあと90日の準備期間がある。その間に色々と調べてみよう」

「ええ、それではゆっくり休んでください。お休みクラピカ」

「お休みアイシャ」

 

 私が特質系、か。思った以上に運が向いてきた。少なくとも具現化系のままよりは確実に強くなるだろう。緋の眼の状態だとオーラ量が遥かに増し、また強化率も上がっていた。具現化系の系統がなくなったわけではないから鎖を具現化する事も変わらない。

 これで、これで蜘蛛を倒す力も手に入れやすくなる!

 

 ……だが、過信は禁物だな。アイシャに何度も言われているように、私はまだ念を覚えてわずか1ヶ月足らずの初心者だ。いくら才能が有るからといってそれに胡座をかいていては勝てる戦にも負けてしまうだろう。今はまだ牙を磨く時だ。焦るなクラピカ。私は確実に強くなっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 あ~、暇だなぁ。試合は出来ない修行は出来ない。ウイングとの約束まであと1ヶ月以上あるし。クラピカは今頃オレ達より先に行ってるんだろうなぁ。ちくしょう、早く念の修行がしたいぜ。

 

 暇つぶしにアイシャ達のとこにでも行ってみるか? ……ん? あれは……シオンか? こっちにトボトボと歩いて来てるけど……覇気が全然ねぇな。もしかしてウイングと上手く仲直り出来なかったのか?

 

 ……気になるな、ちょっと声を掛けてみるか。

 

「はぁ……ウイング……」

「ようシオン……さん。こんなとこで何してんだ?」

「え……? あ、キルア君。久しぶりだね。元気だった?」

「いやお前誰だよ?」

 

 シオンじゃねぇ! アイツはこんな喋り方じゃねぇ! 明らかに偽物だろうが!

 

「ははは、嫌だなぁ。私だよ、シオンだよ。さっきキルア君も私を名前で呼んでたじゃない」

「違う。お前はシオンじゃない。もっと優しい何かだ」

 

 こんなのオレの知ってるシオンじゃねえ!

 あいつなら、こう、『ふ、久しいなキルア。壮健そうで何よりだよ』こんな感じになるだろ!? 何だこの気持ちの悪い話し方は!

 

「え? で、でも私はシオンだし」

「嘘だ!! オレ達と一緒にいたアンタはそんな話し方じゃなかった!」

「……ああ! そう言えばそうだったよね。……私のこの話し方にはわけがあるのよ」

「わけ、だぁ?」

「うん、実はね――」

 

――乙女説明中――

 

「……つまり、アンタはウイングの前だと緊張のあまりに喋り方があんなんになっちまうと。で、今の喋り方が素だと?」

「うん。そういうことなの」

「アホだな。それも真性のアホだ」

 

 いくら好きな相手の前だからって口調がガラッと変わるほど緊張してんじゃねえよ!

 

「あ、アホだなんて……酷いよキルア君」

 

 駄目だ、調子が狂ってやりにくいコイツ……。

 

「仕方ないの……これも何もかもウイングが……か、格好良すぎるのが悪いのよ!」

「分かった。付ける薬がないというのがよく分かった」

 

 もういい。突っ込まねぇ。大体最近ツッコミが多いんだよ! こんなのオレのキャラじゃねぇ!

 

「それで、あの後出て行ったアンタを追いかけてきたウイングさんに鼻血顔を見られたくない一心で風間流とやらの奥義を放ったと……」

「う、うん……や、山崩しっていってね、その名の通り山のような大男も一撃で倒せるっていう、締め・打撃・投げが合わさった大技だよ! 実際にはそんなに大きな人には技がかけられないと思うけど……」

 

 いや、嬉しそうに言ってるけど、その山崩しとやらを喰らったのは大男じゃないウイングだからな?

 

「そうか、逝ったかウイングさん……良い人だったのに」

「死んでないよ! ちゃんと防御も受身も取ってたよ!」

 

 あ、生きてたのか。それは良かったな、人殺しにならなくてよ。

 

「それで、それからどうしたんだ?」

「……半死半生のウイングを宿に連れ帰ってズシ君に渡してからは……気まずくて会ってないの」

 

 防御も受身も取って半殺しかよ。照れ隠しでそんな恐ろしい奥義を使ってんじゃねえよ。おっかねぇ女だ……。

 

「ああ、ウイング分が足りない……もう326時間22分はウイングに会えていない。【映像記憶/オタカラフォルダー】があるからまだ耐えられるけど、近くにいながら会えないのはもはや拷問だ……あ、326時間23分になった」

「怖えよ」

 

 何だよウイング分って。会えなかった時間を分単位で覚えてんじゃねえよ。オタカラフォルダーって何だよ。ツッコミどころ多すぎんだよお前。て言うかつっこみまくってんじゃねぇかオレ!

 

「そんなに会いたいなら会いに行けばいいじゃん」

「で、でも、もし嫌われていたらどうしよう。その時は私自殺する前にショック死してる自信がある……」

 

 嫌な自信だなおい。何て面倒くさい女だ、これに惚れられたウイングには同情するぜ。

 

「大丈夫だって。ウイングだってアンタに謝りたかったんだし。アンタを追いかけたのだって心配してたからだぜ? それに――」

「……それに?」

「あのお人好しが早々人を嫌うわけないんじゃないか? それは付き合いの長いアンタの方がよく分かってんだろ?」

「つ、付き合ってるだなんて、そんな~!」

「お前の脳内は常時ピンク色なのか?」

 

 駄目だ、まともに会話できる自信がねぇ、誰かオレを助けてくれ。もう暇だなんて言わないからさ。

 

「そうだね。ウイングなら……きっと許してくれるよね!」

「だろうね。……それよりアンタはどうなんだよ? ずっと男と勘違いされてて怒ったりしないの?」

 

 明らかにウイングよりシオンが怒って当然なんだが? お前は許しを乞う立場じゃなくて逆だろ?

 

「それは、確かにショックだったけど仕方ないよ……だってウイングだもん」

「把握」

 

 そうか、それで納得出来るレベルの鈍感なんだな。ウイングさんが残念すぎる。

 

「それに鈍感なところも可愛いと思わない!? 強さと逞しさと凛々しさと格好良さと可愛さを兼ね備えたパーフェクト超人だよねウイングって!」

「オレとお前とでは眼球の光の屈折率が違うのかもしれないな」

 

 コイツに見えてるウイングはオレの知ってるウイングとは違うもっと別の何かだ。あばたもえくぼなんてもんじゃねぇぞ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

 

「そんなに好きならとっとと告白しちまえばいいじゃん。あの鈍感だぜ? 直で告白でもしないと絶対に伝わらないと思うけど」

「こ、こここっこっここっこ」

「落ち着け。お前は人間だ、鶏じゃあない。ゆっくり深呼吸して心を沈めろ」

「うう、2・3・5・7・11・13・17・19」

「なんで素数数えてんだよ」

 

 教えてくれ。オレはいったい何回ツッコミを入れればいいんだ? オレは何回ツッコミを入れればこの女から解放されるんだ?

 

「ふう、落ち着いたよ~」

「分かった。もう理解を捨てる。お前はそういう人種だと思う」

 

 どうして素数数えて落ち着くんだよ!

 

「こ、告白か。かつて何万回としてきたけど……」

「マジで! それでも気付かなかったのかウイングさんは!? てか何万!?」

「うん。私の想像の中で」

「いい加減にしろよお前? だから怖えって言ってんだろ!」

 

 それは想像じゃなくて妄想って言うんだよ!

 

「ああもう、いいからとっととウイングさんの所に行って来い! そんで告白でも何でもしてくりゃいいだろ!」

「は、はい! えっと、どんな事を言えばいいんだろう……」

「シンプルに好き、とか愛してる、とか言って抱きつきゃいいんじゃね?」

「こ、断られたらどうしよう」

「はあ、あのなぁ、断られる事を考えてたら何時までも前に進まないだろ? まずは当たってみなきゃよ。それに……もたもたしてる間にウイングが他の女に取られるかもしれ――って速っ!!」

 

 オレの言葉を聴き終わる前にすごい速度で飛び出して行きやがった。そんなにウイングが好きなのか。

 好き、ねぇ。オレには分かんないな、恋愛なんてよ。

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっ」

 

 走る。ウイングのいる部屋に向かって。

 考えた事もなかった。ウイングが他の女に取られるだなんて。最近はずっと一緒にいたから、いつの間にか一緒にいるのが当たり前に思っていた。

 

 でもそれは間違いだった。ウイングは私の気持ちなんて知らない。それどころか性別すら間違えられていた。もしかしたらすでに他の女に惚れている可能性だってある。

 

 そんなの耐えられない!

 いや、ウイングが他の女性と付き合うなら、嫌だけど、本当に嫌だけど祝福してもいい。でも私の気持ちを一度も伝えずにそうなるのは絶対にイヤ!!

 

 だから……だから断られてもいい。

 ……告白しよう。

 

 今まで想像の中で何回も何回も告白してきたことを、本当にしよう。これが断られたら……リィーナ様の所に戻ろう。残りの一生を武に捧げよう。

 

 

 

 ……ウイングの部屋に着いた。ウイングは中にいるようだ。彼の気配を間違えるわけがない。ノックをして返事を待つ。

 

「はい、どなたですか?」

 

 ああ! 326時間44分ぶりのウイングの生声! ぐ! ダメだ、脳がとろける……!

 

 き、気合を入れろシオン! ここで何時もの調子で鼻血を出してしまえばおしまいだぞ!

 

 23・29・31・37・41・43・47・53・59・61・67・71・73・79・83・89・97……よし!

 

「ボクだ……入ってもいいかい?」

「シオンですか!? ええ、どうぞ中へ!」

 

 ああ、良かった。この様子だと私は嫌われていないようね。ひとまず安心したよ~。

 

「よく来てくれましたシオン。……あの時は誠に申し訳ありませんでした」

「よしてくれ。ボクの方こそ、謝ってくれたキミに酷いことをした。……許してくれ」

 

 あ~ん! どうしてこういう話し方しちゃうんだよ~! もっと何時もの口調で話せればいいのに!

 

「許すも何も……シオンが怒って当然ですよ。私はそれだけのことをしたと思っています」

「もういいさウイング。終わったことだ。これからはボクを女性として見てくれたらそれでいい」

「そうですか、ありがとうございます。しかし良かった。しばらく会えなかったから、てっきり嫌われたのかと思いましたよ」

「な、何を言うんだウイング! ボクがキミを嫌うわけがないだろう!」

「あ、ありがどうございます!」

 

 ぐはぁっ! な、なんて破壊力の笑顔だ! ウイングは私を萌え死させるつもりか?

 だが負けん! このシオン、ここで終わるつもりはない! 終わらせてなるものか!

 

 101・103・107・109・113・127・131・137・139・149・151・157・163・167・173……た、耐えたぞ! ここまで耐えたのは初めてだ。

 

「そう言えば、ズシ君はどうしたんだい?」

「ズシなら少し前にランニングに行きましたよ。2~3時間は帰って来ないでしょう」

「……そうか」

 

 つまり今が好機! ズシ君には悪いけどこの機に告白をさせてもらう!

 

「ウイング!」

「ど、どうしました?」

「ああ、聞いてほしいことがある」

 

 ぐ、緊張で心臓が止まりそうだ……いや、あまりの鼓動の速さに心臓が裂けるかもしれない。

 

「はい、どうかしましたか?」

「ぼ、ボクは……」

 

 違う、私よ、私! ボクじゃダメじゃないか!

 あれ? 何を言おうとしてたっけ? こ、告白の言葉が出てこない!? あんなにエア告白で練習してたのに!

 どんな告白だったっけ? えっと、その、ああーーっと、そうだ! キルア君にアドバイスをもらってたっけ。そう、確か……。

 好き、愛してるって言って抱きつく。

 好き、愛してるって言って抱きつく!

 好き、愛してるって言って抱きつく!!

 

「ウイング! ぼ、ボクは……私は!」

「え? わたし?」

 

 リュウショウ様! リィーナ様! 私に勇気を! い、いけぇぇぇぇぇぇぇ!

 

「私は、う、ウイングが好き! 愛してる! 抱いて!」

「……え? ……え!?」

 

 い、言った! 言っちゃったよー!!

 ……あれ? 今何かとんでも無いことを言ったような?

 そこからしばらくは記憶がない……どうしてこうなったの?

 

 

 

 

 

 

「へぇ。シオンさんってウイングさんのことが好きだったんだ」

「そうだったんですか。それは驚きですね」

 

 クラピカが200階に登録してからすでに3日。修行をしつつも、時折息抜きにゴンやキルアと話をしたりしているが、キルアからとんでもない話が出てきた。

 

 そうか。シオンがウイングさんの事を……。キルアの話では告白に行ったようだけど、上手くいくといいな。

 

「驚きなのはあの話し方だよな。ウイングの前だと緊張してあんな喋りになるんだってよ。いきなり女口調で喋りだすから偽物かと思ったぜ」

 

 ああ、あの話し方はそうだったんだ。小さい頃とは全然違っていたから、てっきり大きくなって話し方を変えたのかと思ったよ。

 

「私はあまりその両名を知らないが、告白は上手くいきそうなのか?」

「うーん、無理じゃねぇの? ウイングの鈍感さは半端ねえぞ? 告白しても気付かなかったりしてな!」

 

 有りうるのが怖い。あの人の鈍感具合は達人の域に達しているだろう。鈍感の達人、恐るべし!

 

「ウイングさんの鈍感をどうにかしないとシオンさんの恋は実らないかもしれませんね。なんであそこまで鈍感なんでしょうか?」

『お前が言うな』

 

 解せぬ。

 

「まあアイシャの場合鈍感って言うより無自覚って言ったほうが正確か?」

「そうだな。環境が悪かったのかもしれん……」

「育った環境は確かに良くなかったとは思いますが、一体何の話です?」

 

 流星街の環境が良いのなら、世界の大半は幸せに包まれてるだろうよ。

 

「何故か2人に馬鹿にされている気がします」

「この2人って最近仲がいいよね。きっと皆で泊まったのが良かったんだね! また一緒に泊まろうよ!」

『おいやめろ馬鹿』

『え~』

 

 せっかくまた遊べると思ったのに。そうだ! いい事を思いついた!

 

「ゴン、今度はレオリオさんも含めて5人が揃ったらやりませんか!」

「あ、それいいね!」

「レオリオはこちら側に来るだろうか?」

「どうだろうな。案外喜びそうなイメージがあるけど。あの天然どもとは違う意味でな」

 

 ん? シオンの気配。どうやらここへ向かって来ているようだ。

 しばらくゴン達と楽しく会話をしているとノックの音がした。

 

「どうぞ~」

「お邪魔しますね」

「あ、シオンさんいらっしゃい!」

「ゴン君久しぶり。傷の具合はどう?」

 

 ああ、本当に話し方が全然違うな。リィーナや私(リュウショウ)と話している時はもっと畏まっていたから、これが素なのかな?

 

「うん! もう大分治ってきたよ!」

「そう、良かった。ちゃんとウイングの言うことをしっかり守らなきゃ駄目だよ? 念は本当に危ないんだから」

「う、うん。……本当に全然違うね」

「だろ。それでシオンさん。今日は何の用で来たんだよ?」

 

 さすがのゴンもあまりのシオンの変わりように面食らっているな。それも仕方ないだろう。まるで別人だしね。

 

「今日は皆にお別れの挨拶をしようと思ってね。それとキルア君へのお礼を言いに来たんだよ」

「別れ?」

「お礼?」

「どういう事です?」

 

 お礼は告白の件だろうか? では別れって? 文字通りここからいなくなるんだろうか?

 

「実はもうすぐ天空闘技場を離れなくちゃいけないの」

「え、どうして?」

「まさかウイングに振られたせいか!?」

「ち、違うよ! そうじゃなくて、師匠に呼ばれてるんだ。もう1ヶ月前から呼ばれているから、そろそろ戻らないといけなくて……」

 

 リィーナに? 一体何の用でシオンを呼んだんだろう?

 

「そっか。元気でねシオンさん! オレ、シオンさんに言われたこと忘れないから!」

「ま、そのうちどっかで会えるだろ? それまで元気でな」

「2人とも頑張ってね。ウイングはとてもいい指導者だから、きちんと教わったらきっと2人とも強くなれるよ」

 

 ふむ。そう言えばシオンは弟子を取っていないんだろうか? 大分鍛錬も積んでいるようだし、師範代の資格ぐらい取ってそうなんだけど。

 

「それと、キルア君には本当に世話になったね。キルアくんのおかげで告白する勇気も出て来たし」

「そういや告白どうなったんだ? あの後気になってしょうがなかったんだよ」

「それは……失礼ながら、私も気になりますね」

 

 顔を赤くしながらモジモジしている様子を見れば……上手く行ったのかな?

 

「それは……その……キルア君のおかげでね……きゃあ! 恥ずかしいよぅ!」

「マジで上手くいったのかよ!?」

「すごいですねキルア。どんなアドバイスをしたんです?」

「ふむ。キルアにそんなアドバイスが出来るとは。意外と経験豊富なのか?」

「じゃあ、シオンさんとウイングさんって、もう付き合ってるんだ! おめでとう!」

 

 いやめでたいめでたい。私も早く男に戻って相手を見つけたいもの――

 

「うん! 私達結婚するの!」

『いや、それは色々とおかしい』

 

 なんでだ! 何か色々とすっ飛ばしてないか!?

 告白→結婚の間にある過程はどこに消えた!?

 

「おかしいだろ! どうして告白したら結婚してんだよ! お前が女だって分かったのだって少し前だろうが! 段階飛ばしすぎてんだよ! あのアドバイスでどうしてこうなった!?」

「すごいですねキルア。どんなアドバイスをしたんです……?」

「……キルアがそんなアドバイスをするとは。経験豊富なんてものじゃない様だ」

「じゃあ、シオンさんとウイングさんって、もう夫婦になるんだ! おめでとう!」

 

 ブレないゴンがすごいよ。

 

「ウイングがね! 責任は取りますって言ってくれたの! 一生面倒を見てくれるって!」

「……ダメだ、脳内がお花畑になりやがった。こうなるともう手遅れだ」

「短い間によくシオンさんのことをよく理解してますね」

「理解したくなんてなかったよ」

 

 気持ちは良く分かる。こんな子だったんだ……私の知ってるシオンじゃない。

 

「一体なんの責任なんだよ……」

「え、それは、その……きゃああああ! 言えないよぅ! あ、やばい鼻血が――2・3・5・7・11・13・17……」

 

 いきなり素数を数えだしたぞこの子。大丈夫か?

 ……ん? そう言えば、昔シオンが緊張して試合で勝てないと落ち込んでいた時に、素数を数えると心が落ち着くと教えたような……?

 どうして素数で心が落ち着くと教えたんだろう? あまりにも昔のことでど忘れしてるな。

 

「ふぅ、落ち着いた。本番をこなした私に隙はなかった」

『本番言うな』

「? 何の話なの? 本番って?」

 

 ゴンが純すぎて辛い。

 

「それじゃ、そろそろ行くね。残り僅かな時間をウイングと共に過ごさなくっちゃ!」

 

 そう言って場を無茶苦茶に引っ掻き回してから部屋を出て行ったシオン。

 

「嵐の様な女だった……」

「幸せそうだったし、いいんじゃない?」

「ゴンは器が広いのか、それとも器に穴が空いているのか……」

「両方かもしれませんね」

 

 何かどっと疲れた。今日はもうゆっくり休みたい……。





シオンクリムゾン!
『シオンクリムゾン』の能力の中では、この世の時間は消し飛び……。
そして全ての人間は、この時間の中で動いた足跡を覚えていないッ!

『結果』だけだ!!この世には『結果』だけが残る!!







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