どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第二十五話

「ヒソカの試合ですか。もちろん見に行きますよ」

 部屋でクラピカの修行を見ているとゴンとキルアがやってきた。どうやらヒソカの試合観戦に誘いに来たようだ。

「ヒソカの試合は観戦するだけでもいい修行になりそうですしね」
「もちろん私も見に行くぞ。と言うか私の場合は強制参加だろうが」

 当然だ。私よりもクラピカの修行のためだからな。格上の試合を通して観ることも修行になるだろうしね。

「んじゃ、今から行こうぜ。優先券が手に入っても中に入るまで時間が掛かりそうだしさ」
「かなり人気みたいだねヒソカの試合。ダフ屋まで出来ているみたいだよ」
「怖いもの見たさだろうな。そういう物に惹きつけられる人間は多いだろう」
「対戦相手の大半が死んでそうですね」
「お、アイシャ正解。11戦して8勝3敗6KO、KO数イコール死人の数だってさ」

 やっぱりか。まったく、人殺しの何が楽しいのか分からないな。殺さなくても勝てるだろうに、これだから快楽殺人者は。まだ仕事以外で殺しはしない分ゾルディックの方がマシかもしれないね。……殺された側にとってはどっちも人殺しに変わりはないか。

「でもいいのか? キルアはともかく、ゴンは試合を見ても? ウイングさんとの約束があるのだろう?」
「う~ん、そうなんだよね。試合観戦もダメかなぁ?」
「大丈夫だろ? 修行じゃないし、ただ試合を見るだけなんだからさ」
「いえ、キルア。試合観戦も充分に修行になりますよ?」

 ていうか、この会話ウイングさん聴いてるし。柱の影から……あ、出てきた。

「ダメです」

 びっくりしているなぁ。さすがはウイングさん、師範代だけの事はあって気配を消すのも一流だ。……しかし、ウイングさん何かやつれてないか? 頬の辺りがげっそりしてるんだけど?

「試合観戦も念を調べる行為に相当します。ゴン君、キミはあと1ヶ月治療のみに専念なさい」
「うん、わかった。……ところでウイングさん。どうしてそんなにやつれてるの?」
「ああ、顔色悪いぜ? 真っ青なんてもんじゃねぇ」
「体調が悪いならしっかりと休むことを勧めるが」
「自己管理が出来ない方とは思えませんが、風邪でもひかれました?」

 明らかに体調が悪いな、オーラもかなり弱っているし。見る影もないぞ?

「……いいですか皆さん。簡単に何でもする、等と約束してはいけませんよ。これは人生の先達からのアドバイスです」
「あ、ああ(搾り取られたのか)」
「了解した(搾り取られたんだな)」
「肝に銘じます(搾り取られたんだろうね)」
「分かったよ!(早く念の修行したいな)」

 シオン……しばらく会えないからって、これはやりすぎだろう。どう考えても徹夜コースですね分かります。
 ……ズシ君はどうしていたんだろう?

「そういや、よくシオンさんと結婚まで約束したね。さすがに早すぎない?」
「キルア君。いえ、ここはゴン君とクラピカ君にも言っておきましょう。……男には、責任を取らなければならない時があるんです」

 哀愁を漂わせる背中を見せながらウイングさんは去っていった……。ある程度は自業自得とはいえ、さすがに少しむごい気もするな。

「……さて、ウイングさんはいいとして、ゴンは試合の録画をしといてくれよ。後で見ればいい」
「そうだな。今回は私達だけで行くとしよう。ゴンには悪いが、チケットもタダではないのでな」
「すいませんゴン」
「仕方ないよ。オレは点をしながら待ってるね」

 ゴンは残念ながら部屋で居残りとなった。約束破ったからしょうがないことだけど。

「それで、ヒソカの対戦相手なんだけどさ、ここで唯一ヒソカからダウンを奪った奴みたいだぜ」
「ああ、カストロという名前だったか。あのヒソカからダウンを奪えるとはかなりの使い手だな」
「今から大体2年程前の話らしいですね。恐らくその時に念に目覚めたのでしょう」
「因縁の対決って奴だな。どっちが勝つと思う?」

 ふむ。カストロという人を見たことがないので確定は出来ないが……。

「十中八九ヒソカでしょう」
「へぇ、言い切ったな。根拠は?」
「カストロが念を覚えて2年、さらにはそれまで念について知らなかったでしょうから師もいないはず。それで極められるほど念は浅くありません」

 念は膨大な学問のようなモノだ。過去の数多の積み重ねの末に現在の念が築かれている。それを独学で学んだところで辿り着ける先はたかが知れている。

「例えカストロが才ある人でも、たった2年ではヒソカのいる領域にはたどり着けないでしょう。せめて師がいれば話は別ですが」

 ここの念能力者の大半がカストロと同じだ。念を知らずに200階まで到達し、念の洗礼を受けてしまう。運が悪ければ死、良くても五体不満足になる可能性が高い。
 仮に何ら障害を受けなかったとしても、念について何も知らなければその修行方法も分かるわけがない。

 ゴンの試合をビデオで確認してみたが、対戦相手は酷いものだった。碌なオーラを練ることも出来ておらず、得意系統も噛み合っていない能力を使用。これでまともな念能力者になれるわけがない。

「つまりカストロではヒソカに勝てる可能性は無きに等しいということです」
「なるほどね。……師匠がいる分俺たちは幸運だったってわけだ」
「確かに。スタートラインからすでに整えられていたのだからな」
「師に出会えるかどうかは周りの環境や運次第ですね。念能力者の数は本当に少ないですから」

 私もリュウゼン先生に出会えなかったらどうなっていたことか。あのまま自己流で修行していたら、確実に現在はここにはいないだろうな。どこぞで野垂れ死にでもしていただろう。

「試合まであと1時間はあるが、すでに満員だな」
「ああ、こりゃ優先券がなけりゃ入れなかったな」
「2人とも! あっちにポップコーンとジュースが売ってましたよ! 買っていきましょう!」
「お前は野球かサッカーの試合でも見に来たのか?」
「私は遠慮しておくよ。この戦いに集中したいのでな」

 え~。こういう試合観戦の時には何かを飲食しながらの方が気分がいいのに。
 まあ2人はさすがに観ることに集中した方がいいか。私だけ買っておこうっと。



『さぁーーいよいよです!! ヒソカ選手V.S.カストロ選手の大決戦!!』

 もうすぐか。
 あれがカストロ選手……なるほど、ヒソカに勝負を挑む自信を持つだけのことはある。正直見くびっていた。ここで念に目覚めた人に強者はいないと。

「2人とも、前言……モグモク……撤回します。あの人は……ムグムグ……私の予想以上に、強いです」
「喋るか食べるかどっちかにしろや」
「行儀が悪いぞアイシャ」
「すいません……久しぶりにポップコーンを食べたものだから、つい……」

 ちょっと反省。モグモグ。

「それで、アイツ強いのか?」
「ええ。纏を見れば充分に分かります。洗練された力強いオーラが淀みなく体の周りを覆っています。ヒソカを前にして軽い興奮はあれど、それも戦いには悪くないコンディションを生み出しているようです」

 一度負けている相手なのに必要以上の気負いがない。点を欠かさず行っている証だ。師もいないのに独学で行き着いたというのか? それとも、もしかしたら師がいたのかもしれないな。

「念の技術を見なければまだ分かりませんが、少なくとも念に胡座をかいて努力を怠ってはないようです」
「……予想以上に善戦するかもしれないと言うことか」
「おいおい、下手すりゃヒソカに勝つんじゃないだろうな?」

 いや、さすがにヒソカがまだ優ってはいるが……お互い全ての技術や能力を見たわけではないから断定は出来ないな。……能力によってはもしかするかもしれない。

 それに……あのグローブ。
 服装は普通の道着。恐らくどこかの流派の物だろうが、動きやすく袖のない道着を着ているのに手にはグローブを、それも肘近くまで覆う長さの物をはめている。何かの武器か? 中に何か仕込んでいるとか。材質は……さすがに分からないな。薄く手に張り付いているレザータイプのようなグローブだから、そこまで手や指の動きを阻害はしないと思うが……。何を狙ってのものだろうか。

「感謝するヒソカ。お前の洗礼のおかげで、私は強くなる切欠を手に入れられた」
「……くくくく♣ どこまで強くなれたのか……熟成したワインを開ける好事家の気持ちが良くわかるよ♥」

 ヒソカも感じているようだ。カストロの実力を……。
 恐らくカストロが五体満足に念の洗礼を終えたのもヒソカが狙って行ったことだろう。カストロの才能を感じ、そこで潰すのは惜しいと思ったというところか。

 そして2年の月日が流れ再びあいまみえると、そこには以前より遥かに強くなった獲物がいる。ヒソカの心中は狂喜に満ちてるだろうな。抑えてはいるんだろうけど、オーラのおぞましさが段々と膨れてきているよ。

「まだ念を極めたというほどおこがましくはないが、それでも貴様に届く牙を身に付けたつもりだ……行くぞ!」

 審判の試合開始の合図と共にカストロが練を行う。……かなりの練! やはり念能力歴2年とは思えない!
 そのままヒソカに向かってダッシュ。踏み込み時に足にオーラを集めて爆発的なダッシュ力を発揮している。その勢いを維持したままヒソカに対して攻撃を仕掛ける。右・左・フェイントを入れて左・そして右の回し蹴り。
 どうやらカストロは打撃を主体とした格闘家のようだ。それも拳を作らず、手刀や掌を使って攻撃している。あの掌の形からして虎咬拳の使い手か?

 体術はかなりの腕前だ。それに……オーラ技術もよく研磨している。
 攻撃1つ1つに流を使っている。あの攻撃速度に間に合う流、かなりの攻防力移動だ。ヒソカも今は様子見の為か防御に徹しているが、カストロも油断していない。攻撃の合間合間に凝を行っている。ヒソカが何らかの能力を使ってもすぐに対応出来るように!

 む? カストロがさらに攻勢に出ようとしているな。
 フェイントが……4つか。目線で1つ、体捌きに3つ……。いや、オーラでもフェイントか!

「!!」
「クリーンヒットォ!!」

 ヒソカがまともに喰らった! 凝によるガードも間に合っていない。カストロの攻撃時のオーラ量も少なかったがダメージは通っているようだ。

「本気を出せヒソカ。武術家として、本気の貴様と決着をつけたい」
『先手を取ったのはカストロ選手!! フェイントを交えた攻撃をヒソカ選手避けきれずポイントを奪われました!』

「おい! 今なんでヒソカの奴は攻撃を受けたんだ? オレにだってカストロが左手で殴るってのは分かったぜ!?」
「ああ、いくつかのフェイントを入れていたようだが、それでも右を囮にして左で殴るのは分かった。ヒソカがそれに気づかないとは思えないな」

 2人がそう思ったのも仕方ないな。念について知らない者や、念初心者では引っかからないフェイントだからね。

「ええ、その通りです。カストロは念能力者にしか、それもある一定以上の実力を持った者にしか通用しないフェイントを入れてたんです」

 カストロがしたフェイントはオーラによるフェイントだ。
 念能力者は戦闘時に攻防力を移動させて戦う。攻撃する時にオーラを集中すればするほど威力は高まるし、防御時はもちろん防御力が高まる。故に攻防力をどれだけ素早く、かつスムーズに行えるかは戦いにおいて非常に重要になる。
 攻防力移動を見てどこから攻撃が来るかを見切るのは上級者の第一歩と言ったところか。

 もちろんヒソカもその見切りを行っていた。
 体捌きでは左手で攻撃する動きを見せていたカストロだが、その実オーラは右手に強く集まっていた。それを見抜き、右の攻撃を警戒していたヒソカだが、カストロはそれを逆手にとり、そのまま左手でヒソカを攻撃したわけだ。

 ヒソカもカストロをまだ侮っていたのだろう。いくら強くなったとはいえ、それでもまだ念を覚えてわずか2年、と。そんなフェイントを使うとは思ってなかったヒソカの侮りが攻撃を受ける結果となった。
 さらにはこれまでの攻撃は全て凝で攻防力を高めていたのも一役買っている。それまでの攻撃すらフェイントに使用したわけだ。

「――と、いうことです。もっとも、フェイントとして上手くいきましたが、オーラの少ない左手で攻撃したせいであまりダメージも通ってませんが」
『……』

 さすがにまだ彼らでは着いて来られないか。まだオーラの攻防力移動なんて習っていないからな。

「く、くくく♥ なるほど、2年前とは違うわけだ♠」
「そういうことだ。……全力で戦う気になったか?」
「そうだね、かなりやる気出てきちゃったよ。……ここまで育つとは思わなかった♦ キミの師匠には感謝しなきゃね♣」

 そうだな。ここまで来てカストロに師がいないなどということはないだろう。独学でこの領域まで到達するにはどんな才能があっても2年ではまず不可能だ。今もヒソカの動きを警戒して凝を怠っていない。よほど良い師がいたのだろうね。

「感謝か……残念ながら私に師はいない」

 な!? そんな馬鹿な! 本当に独学でここまで!?

「し、信じられません。どれほどの才能があれば……」
「アイシャ……」
「おい、これって本当にヒソカが負けるんじゃないだろうな?」

 分からない……油断しなければヒソカの方が実力が上なのは確かだ。でも……ここまでの才能の持ち主だと、どのような念能力を持っているか予測がつかない。もしかしたらこれぐらいの実力差をひっくり返す能力を持っているかもしれない。

「師がいない……それが本当なら大したモノだね♥」
「嘘を言う必要がないな。……もっとも、師と仰ぐ方はいるがな」

 え? どういうこと? 師はいないんじゃなかったの?

「……どういうことだい?」
「ふ……いいだろう、教えてやる。貴様に敗れた私がここまで強くなれた理由をな」
『おおっとぉ! カストロ選手、試合中に過去を語りだしたぁ!! こんな試合は見たことなぁい!!』

 いや本当にな。でも気になるのは確かだ。ここは話に集中しておこう。

「私が貴様からの洗礼を受け念に目覚めたあと、私は念についての情報を集めた」

「これって話してる最中にヒソカのダメージ回復してないか?」
「すでに回復し終わってそうだな」
「まあ、いいんじゃないですか? 本人が話したがってるみたいですし」

 案外誰かに言いたかったのかもしれない。自分の苦労秘話を。

「念の名前は同じ200階選手から聞くことは出来たが、その修行方法までは教わることは出来なかった。独自に調べてみたが、情報は手に入らなかった……独学で修行するしかない、そう思っていた私だが、偶然ある物を見つけたのだ」

 ふむふむ。

「ブラックマーケットに流れていたそれは、一冊の書物とは思えない程高額な品だった。だが、その品の説明書きを読んだ私は藁にも縋る思いでそれを購入した。幸いにもここでそれなりに稼げていたからな、購入する金額は何とかなった」

 はて? 何故か激しく嫌な予感がするんだけど? 嫌な予感のせいか、緊張のあまり喉が渇いてきた。持っていたジュースを口に含み乾きを癒そう。

「それこそが! かの伝説の武人・リュウショウ=カザマが著した念の指南書《黒の書》だったのだ!」

 ブフゥーーーーーーー!
 “ウワッナンカカカッタ!?” “ダレダキタネェ!” “ン? ナンダビショウジョカ” “ダッタラモンダイナイナ” “ムシロゴホウビデス” “アイシャタンペロペロ”

「げほっげほっ!」
「大丈夫かアイシャ!?」
「おい後半の変態はどこのどいつらだ。怒らねえから前に出てこい」

 あまりの驚きにむせ返ってしまった! 前に座ってる人たちに散ってしまって申し訳ないけど、今はそれよりも気になることが!
 黒の書? 黒の書って言ったよね!?

「黒の書には様々な念能力に、念の修行法まで事細かく綴られていた。私はそれに習い、念の修行を行ったのだ」

 や、やっぱり黒の書って言ったよ!!
 ふ、ふふふ……ふふはははははは! み・つ・け・た・ぞ!
 お前だったのかカストロ……! お前が私の黒歴史、〈ブラックヒストリー〉を持っていたのか!

「強いて私の師を上げるのなら、故・リュウショウこそがそうと言えるだろう。……生きている時に彼の人と出会いたかったものだ」

 お前なんか弟子に持った覚えはねえ!
 ……いや、尊敬されてるっぽいし、悪い気はしないけどさ。

 でもこれで納得がいったよ。〈ブラックヒストリー〉には私が【原作知識/オリシュノトクテン】で手に入れた念の修行法を書き記している。もちろんそれだけでは色々と抜けている部分がある。だがそれもリュウゼン先生から教わった正しい修行法も新たに書き記していたので足りない部分も補完されている。それを読み、弛まぬ研鑽を積めば確かにこの練度には納得がいく。
 ……それでも才能が豊かなのは確かだが。

 いや、そんなことは今はどうでもいい! どうにかして〈ブラックヒストリー〉を取り戻さなくては! あんなもんとっとと焼却処分してやる!
 くそっ! でもどうやって取り戻そう……。自室に置いてあるのか? でも部屋が何階のどの部屋かは分からないし、スタッフに聞いたとしても不法侵入するのもさすがになぁ……。
 こうなったら……試合が終わったら譲ってもらえないか頼んでみよう。全財産を出してでも! それで足りなければ借金してでも払ってやる!

『な、ななな何とぉー! ここでまさかのあの伝説の武人・リュウショウ=カザマの名前が出てきたーー!』

 あんまり大声でその名前を言わないで! 厨二の塊を作ったのがリュウショウだと世間に知られちゃうからーー!!

『リュウショウ=カザマはかつてこの天空闘技場でフロアマスターになったほどの実力者! 残念ながらフロアマスターはなって早々に辞退したそうですが、もしバトルオリンピアに参加していれば優勝も夢ではなかったでしょう! そんな彼が著した奥義書をカストロ選手が手に入れていたとわぁーー!』

 わざわざ観客に説明してんじゃないよ! サービス精神旺盛なのはいいけど私にはサービスどころかただの拷問だ!!

「正しい念の修行法にてこの2年、血反吐を吐きながらも私は修行し続けた。2年で極められるほど念は浅くはないが、それでも貴様と戦える力は身に付けられたようだな」
「ふーん。確かに強くなったね♥ 今も話をしながらも凝を怠っていない。……生かしていた価値があったよ♦」

 む、ヒソカのオーラがどんどんと膨れ上がり、かつ禍々しくなってゆく。どうやらもう抑えるつもりはなくなったようだ。予想以上に育っていた獲物の粋の良さに興奮が止まらないといったところか。

「これが、ヒソカの――!」
「くそ、なんてオーラしてやがる!」

 ……うーん。私のオーラってあれよりはマシだよね? あれと違って負の感情を込めてないし……いや、込めてなくても禍々しい分、私の方がヤバイのかな?
 や、やっぱり見せたくないよなぁ。でも、その内秘密を教えるって言ったしなぁ。はあ、先の事を考えると憂鬱だ。

「ぐっ、それでこそだ、これが私の望んだ戦いだ!」
「ふふ、行くよ。簡単に壊れたら駄目だよ♣」

 ヒソカに先ほどまで有った侮りが消えている。ここからが本番といったところか。

「2人とも、ここからは良く眼を凝らして観るように」

 これほどの念能力者が戦うことは滅多にない。出来るだけ見逃さないように念を押しておく。

「ああ、分かってるよ」
「……眼を『凝』らしてだな。分かった」

 どうやらクラピカには通じたようだ。この人もう凝出来ちゃうのよね。これだから才人は……。



 戦いは加速していく。
 先ほどとは打って変わって攻勢に出るヒソカ。打撃を中心とした戦法の様だ。素早い動きに乱れ打つかのような連撃。その戦闘速度に対し流も同等の速度で動いている。かなりの速度の流をこなしているな。

 連打の割に一撃一撃が手打ちになっておらず、体重が乗ったいい一撃を放っている。どうやら特に流派のない我流のようだが、それはそれで洗練されているモノだ。型に嵌った格闘家には嫌なタイプかもしれないが、それで対応出来ないのは2流だ。

 その点カストロは……どうやら1流の様だ。型のない動きにも惑わされず対応出来ている。上手く攻撃をガードし、負けじと反撃を試みている。

 ん? ……なんだアレは? ヒソカとカストロを繋ぐかのように細長いオーラの糸が伸びている?

「こ、これは!?」

 どうやらカストロも気付いたようだ。あの反応からしてあれはヒソカの念か。ヒソカの右拳からカストロの左腕へとオーラがくっついている。一体どういう能力だ?

「くくく、気付いた時にはもう遅いよ。ほぅら♠」
「なにぃ!?」

 ヒソカが右腕を強く引くとそれに合わせてカストロの左腕が動いた!? 急な動きにバランスを崩されたカストロはヒソカの攻撃をガードも出来ずに喰らってしまう。

「ぐはっ!」
「クリティカル&ダウン! 3ポイントヒソカ! 3-1!!」

 ……なんだあの能力は? カストロに張り付いて、伸び縮みしている? オーラを粘着性のあるモノに変化させているのか?

 伸縮し、粘着する。かなり厄介な能力!
 しかも拳で殴った時に貼り付けたようだ。これは近接戦闘が主体の人には相性が最悪の能力だ。何せ拳で殴った時にあの能力を相手に付けられるのなら、全ての攻撃を避けなければならない。ガードも出来ないなんて面倒極まりないな。
 いや、下手したらヒソカに直接攻撃した時にも付けられるんじゃないか?

「こ、これは!?」
「ふふ、さてどうする?」







 くっ! 何だこのオーラは!? 私の腕に貼り付いて、引っ張っても伸びるだけで一向に剥がれん! ヒソカの念能力なのだろうが、何時の間に付けられたんだ!? 凝は怠っていないというのに!

「そら!」
「うぐっ、はぁっ!」

 ちぃっ! 粘着しているだけでなく、伸縮もする! こちらが引っ張っても伸びるだけだが、ヒソカが引っ張ると縮み、私を引き寄せる! 何とか攻撃はガードしているが、全てを防ぐことは出来ん! このままではポイントで押し切られてしまう!

「いいのかい? 不用意にガードしても?」
「なに?」

 ガードしなければ……はっ! 右腕にも奴のオーラが!!
 くそっ! 拳に触れた時に付けることが出来るのか! 何て厄介な能力だ!
 これでは凝で見ても意味がない! 攻撃の時に付けられるのではオーラを隠す必要がないということか!

「ほら、こっちにおいでよ♥」
「うおお!?」

 奴に引き寄せられる! 両腕は左右に広げられ無防備な状態だ、だが奴も両手を動かして私を引き寄せている! ならば攻撃は蹴りか!

「舐めるな!」

 奴の蹴りに合わせてこちらも蹴りで対抗する。上手く一撃を相殺し、間を取る。

「へえ、良く受けたね♦」
「言ったはずだ。2年前とは違うとな」
『素晴らしい攻防が続きます!! まさに近年稀に見る好勝負! これほどの戦いは天空闘技場でも滅多にありませーーん!!』

 ああは言ったものの、この念能力をどうにかしなければ勝ち目はない。恐らくオーラに粘着性を持たせたもの。変化系の能力だな。粘着だけならまだしも、伸縮自在というのが厄介だ。試しにこのオーラを殴って見たが、伸びるだけで意味がなかった。

 殴っても駄目なら……あれを試してみるか! もう出し惜しみをしていられる状況でもない!

「貴様の能力、良く出来たものだ。正直、これほどやりづらい能力もそうないだろう」
「うん? それはありがとう♣ でも、だからと言ってギブアップとか止めてよね♥」

――そうなったら興ざめだからさ――

 くっ、何と禍々しいオーラか!
 怯むなカストロ! 引けば! 臆せば! それだけ勝利が遠のくと知れ!! 例え実力で劣ろうとも、気概で劣ってなるものか!

「安心しろ、それはない。……せっかくこの能力を破る手立ても思いついたことだしな」
「へえ、それは楽しみだ……どうやるんだい?」

 貴様のその何時いかなる時も平静でいられる精神には驚嘆せざるをえんよ。
 だが、これを見ても驚愕せずにいられるか!?

「はあぁぁっ!」
「!?」

 両の手でそれぞれ反対側にある奴のオーラを……焼き切る!
 ……よし! 成功だ! 打撃には強かろうが、高熱と手刀による斬撃の併用にはさすがに耐えられなかったようだな。

「それは……黒い、炎?」
「ふ、ようやく貴様の驚く顔が見れたな。……これぞ黒の書に記されていた、我が心の師・リュウショウが考案した念能力! その名も! 【邪王炎殺拳】!!」

 “きゃあぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!?”
 “アイシャ!?” “ドウシタナニガアッタ!?”

 む、女性の歓声が聞こえる。この女性にも分かるようだ、このネーミングの素晴らしさが。私もこのネーミングはとても気に入っている。さすがはリュウショウ師といったところか。

「そして【邪王炎殺拳】に私の虎咬拳を組み合わせることで完成した真の虎咬拳。その名も、【邪王炎殺虎咬拳】!」
『おーーっとカストロ選手そのままのネーミングだーー!』

 うるさい黙れ! かっこいいだろう!

 “いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!?”
 “オチツケアイシャ!!” “ダメダサクランシテヤガル!”

 ほらこの歓声を聞いてみろ。分かる人には分かるものだ。







 いっそ殺してくれ! どうして今更遥か過去の汚点を目の当たりにせにゃいかんのだ!? うう、羞恥で顔が真っ赤だよ!

「だ、大丈夫かアイシャ?」
「え、ええ。……少し取り乱しましたが、もう大丈夫です」
「少し? 絶叫してたように見えたのはオレの気のせいか?」

 あまり突っ込まないでくれキルア。私とてあれは忘れたい出来事なんだ。
 カストロがあんな念能力を使うなんて予想外だったよ……。
 自分の黒歴史が掘り返されているなんてあんまりだ……あまりのショックで思わず叫んでしまった私は悪くないと思いたい。

 しかし、まさか【邪王炎殺拳】を習得しているとは! 私が著した詳細の通りに正確に再現したのか? だとしたら……あれ? そもそもどんな制約とか付けてたっけ?
 ……駄目だ、100年以上前に書いた内容なんて覚えているわけがない。

「黒い炎……オーラを炎に変化することも出来るのかよ」
「はい。形状変化に比べ性質変化は難易度が高い能力です。オーラを炎に変化させるのは相当苦労したでしょうね」
「色が黒いのには意味があるのだろうか?」
「……ないんじゃないでしょうか?」

 オーラを変化させた炎に色による温度差があるわけがないし、そもそも黒い炎なんて実際にはないし。黒にする明確な理由はないよな。

 ……いや、自分で書いておいて何なんだが、本当にどうして黒にしたんだろう? 私が考えたわけではなく、あの能力にも何か元となるネタがあったと思うけど……。

「行くぞ!」

 またも攻勢が入れ替わる。邪王えn……いや、名前を思考に入れるだけで背筋が凍る。とにかく、念能力を発揮したカストロがヒソカに向かって先ほどのお返しと言わんばかりに猛攻を仕掛ける。

 ヒソカの能力もなくなり、動きを阻害されることもなくなったカストロ。これで1つ有力な情報が手に入った。あの伸び縮みするオーラは打撃には強いがオーラを込めた鋭利な刃や炎などならば対処も可能だということだ。
 後者の能力は早々使い手はいないが、オーラを鋭い刃状に変化させたら切り裂くことは出来そうだ。あとはヒソカに純粋に力勝ちした場合も伸縮を利用して引き寄せられることは少ないか。対処法がない能力はほぼないからな。



 幾度となく繰り出される攻撃を躱し続けるヒソカ。一切のガードはせず、反撃もせず、回避に集中しているようだ。

「どうした! 臆したかヒソカ!」

 ヒソカが回避に専念している理由は良く分かる。受けをすることが出来ないからだ。
 カストロの拳を覆っている炎、どうやらかなりの高温に達しているようだ。周りの大気が歪んで見える。触れれば火傷を負うのは必定。ガードをしてはその部分が焼け爛れてしまうだろう。単純な炎ならオーラで防ぐことも出来るが、あれは人が作り出した念の炎だ。防ぎきるには相応のオーラと技術がいる上に、例え炎を防げても熱までは完全に防ぐことは難しい。
 ヒソカの念能力と同じようにガードは出来ず、しかも攻撃力では圧倒的にこの能力の方が上。かなり厄介な能力だぞこれは。
 ……当時の私は多分ネタで〈ブラックヒストリー〉に書いたんだと思うんだけど、良くそれを完成させた上に自分のモノにしたなぁ。

「成程、これは厄介だ♦」
「どの口がほざく。そう思うのならばその笑みを消してから言うんだな!」

 ヒソカが楽しげに笑みを浮かべている。厄介と言った言葉に嘘はないんだろう。だが、それ以上にこの状況を楽しんでいる。戦闘狂のヒソカらしいな。

 ん? ヒソカからカストロに向かって伸びる細いオーラがある。隠で見えにくくしているようだ。カストロは気付いていないか?

「厄介だけど、弱点がないわけじゃない♥」
「!? ちぃっ!」

 気付かぬ内に左足にオーラを付けられバランスを崩すカストロ。瞬時に体勢を直し、すぐさまヒソカのオーラを焼き切るが時すでに遅し。強力な蹴りを喰らい後方へと吹き飛ばされた。

「クリーンヒットォ! 1ポイントヒソカ! 4-1」
「ぐっ、お、おのれ」
「両手に集中しすぎだよ。それじゃ注意が散漫になっちゃうね♠」

 さすがにヒソカの方がカストロよりも戦闘経験が高いな。その弱点にすぐ気付くとは。

 両手のオーラを炎に変化させるためオーラを強く集中しなくてはならない。そして、両手を炎から保護する為に装着しているであろうあのグローブの強化の為にもまたオーラを集中させている。そのため、両手に回している攻防力は80といったところか。
 攻撃力は凄まじいものだが、その分他の部位に回すオーラは極端に少ないため防御力はガタ落ちだ。さらには眼の凝をすることも出来ないため、先ほどのように隠に対応することも難しい。

 極めつけはオーラの消耗の速さだろう。オーラを常に集中し続けることになるので消耗が激しい能力となっている。攻撃の瞬間にオーラを炎へと変化させる事が出来たのならばこの弱点もなくなるのだが、まだカストロにそれを求めるのは酷だろう。

「弱点って何だよ? そんなにすぐに分かるもんなのか?」
「確かに弱点はありますが、説明は後ほどします」

 さすがに戦闘中にそこまで説明するほど暇はないしね。

「まだだ! まだ終わらん!」
「そうこなくちゃ♣」

 炎を纏った拳にて連撃を繰り出すカストロ。フェイントを織り交ぜ、右、左、右、右、両手、左と鋭い攻撃をするも、すでにヒソカには見切られているのかクリーンヒットには至らない。両手のみに攻撃が集中するのも弱点だな。場所がもう少し狭ければ追い詰めやすいが、広い闘技場の中だと戦闘経験が上の、それも回避に専念してる相手に両手のみに縛られた攻撃を当てるのは難しいだろう。

 ……いや、それはカストロも重々承知だろうが。

「この一撃が当たりさえすれば!!」
「ふふ、当ててみなよ♦」
「おのれぇぇ!!」

 ヒソカの挑発に乗って大振りをしてしまったか。これでカウンターを取られてヒソカの――

 いや!? 違う、誘いか!
 激昂したフリをして両手で攻撃をする。だがそれはフェイント、いや、恐らく拳のみで攻撃をし続けたのもフェイントの一環なのだろう。挑発に乗ったと思ったヒソカはカウンターを入れようと動いていたため、急に動きを止め蹴りへと攻撃をシフトしたカストロに反応しきれていない。
 両手の炎を解き、足に凝をしての一撃は確実にヒソカの左側頭部へとヒットした! 強烈な一撃を受け、ダウンしてしまうヒソカ。その隙を見逃さずに両手にまたも炎を纏い追撃をするが、脇腹を掠めるだけに終わってしまう。

 惜しいな。もう少し能力発動が速ければまともに当てられていたのに。だが、掠りでもヒットはヒットだ。炎の効果によりヒソカの衣服が燃え始めた。
 さらに虎咬拳は素手で生木を引き裂くほどの攻撃力を誇る。掠っただけでも猛獣の爪に裂かれたような傷が出来ている。多少の火傷も受けているだろう。

「クリティカルヒットォ&ダウン!! 3ポイントカストロ! 4-4!!」
「自分の能力だからな、弱点くらい把握している。それを補う戦い方くらい考えているさ」
「……」

 ……? ヒソカの様子がおかしい? まさかあれくらいの攻撃で参るような奴ではないだろうに。むしろ喜ぶん――! 
 こ、これは、ヒソカのオーラが!?



「どうしたヒソカ? まさかこれしきで――!?」
「……ああ、いいよキミ。これほど楽しめるとは思わなかった。……もう、ここで壊しちゃいたいくらいだ!」

 本気ではないと思っていたけど……ここまでオーラが増大するとはね。確実にカストロの倍以上の顕在オーラを発しているな。練の勢いだけで燃え上がった衣服の火も掻き消えた。禍々しさすら増大している。キルアもクラピカも言葉が出ないみたいだ。

 オーラを見ることの出来ない観客達もヒソカの異様な雰囲気を感じたのだろう。会場が静まり返っている。そしてカストロも……ヒソカに呑まれかけているな。

「う、あ……」
「誇っていいよカストロ♥ たったの2年で良くここまで熟れたね♠ でも――」

 ――実戦経験が圧倒的に足りないね♣

 その一言と共に今までよりも遥かに速くカストロに接近するヒソカ。
 カストロは急な攻撃に対応しきれない。先ほどの衝撃もあり、体も心も固まっていた瞬間だったようだ。そこをついたヒソカの一撃が腹部を穿つ。

「ぐ、はぁっ!?」
「おやおや、注意が散漫してるよ?」
「う、おおおぉぉ!」

 即座に反撃をするも、あっさりと見切られ最小限の動きで避けられる。そして二度、三度と顔面にヒソカの連撃。カストロも全てを凝でガードするが、その防御力を至極簡単に貫いている。これほどの顕在オーラの差があれば仕方のない事だろう。

「うぐっ? はあっはあっ! お、おのれ……」
「息切れかい? もう少しスタミナを付けた方がいいね♥」
「クリティカルヒットォ&ダウン! 3ポイントヒソカ! 7-4!!」

 余裕の態度を崩していない様に見えるヒソカだが、決して油断はしていないな。相手の動きを眼を『凝』らして良く観ている。2人の戦闘スタイルだと攻撃の距離は完全に噛み合っている。ヒソカの攻撃が当たる位置はカストロの攻撃も当たるということ。カストロの念能力は喰らうと今のヒソカの顕在オーラでも突破出来る可能性を持っているからね。

「黙れ!」

 昂っているせいで攻撃が短調になっているが、少なくともヒソカのオーラを受けたせいでの怯みはなくなったようだ。だが、ダメージは大きいようだな。後退するヒソカを追う足が出ていない。肋骨の何本かはイっているのだろう。さらには脳も少し揺らされている。……さすがに厳しいな。

 遠距離攻撃でもあればまた話は違うのだろうけど。

 ……あ! ま、まさか! いや、あった! 確かにあったぞ! 【邪王炎殺拳】にも遠距離攻撃の技が!

「はあ、はあ、流石だな、ヒソカ……! 今の私ではまだ貴様に劣るようだ……だが!」

 裂帛の気合と共にカストロのオーラが膨れ上がり、その全てが両の手に集まっていく! まさか、あれまで習得しているのか!?

「勝つのは私だ!! 喰らえ! 【邪王炎殺虎咬砲】!!」
「もうやめてよ!? 私の心が折れちゃう!!」
「お前今日はどうしたんだよ?」
「ふむ……かなり情緒が不安定だな(もしやあの日か?)」

 私の叫びなど戦闘に何の影響を与えるわけもなく。カストロの両手の黒い炎が形を変え、巨大な虎となってヒソカへと放たれた!

「!?」

 ヒソカもさすがにこの距離で攻撃する手段まで持ってるとは思ってもいなかったか。
 2年でここまでの実力を身に付けるなんて……地獄のような修行を己に課したのだろう。全てはヒソカに借りを返す為に。

「はああぁああぁぁぁ!!」

 残りのオーラも少ないのだろう。炎虎を放ったあとは堅の維持も出来ていない。最後の力は全てあの炎虎の制御と維持に回しているようだ。
 まさに全霊を込めた一撃がヒソカを襲う!

「あはははは! 本当にいいよカストロ!!」

 素早い動きで虎の牙から逃れるが、すかさず炎の爪がヒソカを追撃した! そこまで自在に操作出来るのか。だが――

「ふふ、敢闘賞といったところだね♦」

 ……ヒソカの頬をえぐるだけに終わった。
 そのまま炎虎は勢いを殺しきれずにヒソカの後方へと駆けていく。すぐさま軌道を修正してヒソカを追おうとしているが……それを許すほどヒソカも甘くはない、か。

 カストロが後ろへと後退しようとしているな。接近するヒソカから離れて炎虎が戻ってくるまでの時間を稼ごうとしたかったのだろう。
 だが、すでにカストロの足元の床には……。

「ちぃっ! なっ? あ、足が動かない!?」

 すでにあの粘着のオーラが広がっていた。恐らく後方に離れる前に設置していたのだろう。周到なことだ。変化系を得意とするであろうヒソカは放出系はあまり得意ではないが、それでも僅かな足止めをするには充分だったようだ。

「がはぁっ!」

 強力なアッパーにより宙に吹き飛ぶカストロ。そしてすぐさまオーラで引き寄せられる。そしてヒソカは地面に墜落しようとするカストロに振り下ろしの拳を叩き込んだ。

 地に倒れ臥すカストロ。さすがにもう動けないか。いや、たとえ動けたところで勝負はヒソカの勝ちだな。

「クリティカルヒットォ&ダウン! プラス3ポイント! 10-4!! TKOにより勝者ヒソカ!!」
「楽しかったよ。だからまだ生かしておいてあげる♥ もっと実戦経験を積むといい。そしたら今度は……ルールのない場所で殺り合おう♣」

『けっちゃぁぁぁーーく!! カストロ選手、雪辱ならず! しかし、ヒソカ選手を追い詰めたその実力はさすがと言えましょう!』

 ポイント制による決着。カストロをかなり気に入ったようだな。ここでは殺さず、いずれもっと強くなった時に殺し合いをしたいんだろう。確かにカストロはまだまだ強くなるだろう。基礎を怠らず実戦を積んで経験を高めればいずれはヒソカをも超えられる可能性は大いにある。

「……すごい戦いだったな」
「ああ。ヒソカがあそこまで強いなんてよ」
「敗れはしたが、カストロも私達等より遥かに強い……少しは強くなったつもりだったがな」
「大丈夫ですよ。2人の、いえ、ゴンも含めたあなた達の才能はヒソカやカストロにも劣らないモノです。いつの日か必ず彼らに届きますよ」

 この戦いを観て焦りでも感じたのだろうか?
 だが、さすがに念を覚えて1ヶ月程度ではヒヨっ子なのは当然だ。

「あなた達はしっかりと基礎を行う段階です。焦ってはいけませんよ?」
「……そうだな。すまないアイシャ、これからもよろしく頼むよ」
「オレはその基礎すら学べないけどな」

 そればかりは私に言われても。ウイングさんとゴンに言ってくれ。

「さて、そろそろゴンの所に戻るか。腹も減ったしな」
「そうだな。4人で食事でも摂ろうか」
「あ、すいませんが私は少し用事があるので、2人で先に戻っておいてください。食事も先に始めててもいいですよ」
「用事? 何しに行くんだよ?」
「それは……秘密です」

 これは誰にも言えない。言うわけにはいかない……。
 試合は終わった……そしてカストロも生きている……ならばすることは1つしかない。

 〈ブラックヒストリー〉を取り戻す!!
 そしてもう誰の目にもつかないように処分してやる!!!



 2人と別れてから医務室を目指して移動する。恐らくそこにカストロは搬送されているだろう。かなりの大怪我だったからな。もしかしたら面会謝絶かもしれないけど、取り敢えず居場所だけでも確認しておこう。

 係りの人に確認するとやはり治療を受けていたようだ。だが既に自室に戻ったらしい。……タフだな。結構ボロボロだと思ったんだけど? まあいいや。面会謝絶ではないそうなので早くカストロの所へ行こう。
 カストロの自室は係りの人に聞くと簡単に教えてくれた。こんなに簡単に教えてもいいんだろうか? ……押しかけるファンとかいたらどうするんだろう?

 ……ここか。うう、緊張するな。もし〈ブラックヒストリー〉を返してくれなかったらどうしよう? とにかく今は頼み込んでみるしかないな。取り敢えずノックしてと。

「すいません。カストロさんはいらっしゃいますか? 少しお話がしたいのですが?」
「……すまないが、今は誰にも会いたくなくてね。また後日に――いや、キミのその声は……」

 声? 私の声がどうしたんだろう?

「先ほどの言葉は撤回しよう。入ってきても構わないよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」

 良かった! 取り敢えず話をすることは出来るみたいだ。

「いらっしゃい。不格好ですまないが、何ぶん怪我人でね。勘弁してほしい」
「いえ、そのような時に押しかけてしまい、私の方が謝らなくてはいけませんので……申し訳ありません」

 こうして包帯で巻かれている姿を見ると後日でも良かったんじゃと思ってしまうな……。でも、もしかしたら明日にでもカストロさんが天空闘技場から離れないとは限らないし。

「キミは……アイシャさんだね。今日はどんな用があってここに?」
「私のことを知っているんですか?」
「もちろんだよ。同じ200階クラスの選手はチェックしてるのさ」

 なるほど。そういや私も200階選手だったわ。登録はしたけど特に戦うつもりもなかったから忘れてた。クラピカの付き添いのついでみたいなものだったしね。

「用件なんですが……単刀直入にいいます。私に黒の書を譲って頂けませんか!?」

 思いっきり頭を下げてお願いをする! なんなら土下座してもいいよ!

「……そうか、やはりな。……頭を上げてくれアイシャさん。悪いが、キミに黒の書を譲る事は出来ない」
「お金なら言い値で払います! どうか!」

 タダで手に入れようだなんておこがましい事は言わない!
 私の全財産は10億近くあったはず! そんなの全部あげるから!

「いや、すまないが金の問題ではないんだ」
「ではどうすれば!?」

 どうすれば譲ってくれるんだ?

「あの時、歓声を上げてくれたキミになら黒の書を譲ってもいい。そう思っている……だが――」

 歓声? 悲鳴なら絶叫した覚えはあるけど?
 いや、そんな事より譲ってくれるの? くれないの? どっちなの?

「すまない。黒の書は既に私の手元にはないんだ」
「そ、そん、な……」

 目の前が真っ暗になりそうだ。ようやく、ようやく見つかったと思ったのに……。

「では、今はどこにあるのですか?」
「……あれは今から2ヶ月ほど前の事だ。私は打倒ヒソカのために秘境にて武者修行をしていた」

 ……この人は過去を語りたがる癖でもあるんだろうか?
 まあいい、黒の書に関する貴重な情報だ。黙って聞いておこう。

「そして修行の末、【邪王炎殺虎咬砲】を会得した私は秘境から離れ、天空闘技場に戻るために船に乗った。しかし、そこで私は体調を崩してしまってね。恐らく、秘境で取ったキノコを食べてしまったせいだろう」

 確認もせずにキノコを食べたら危ないよ? 素人には食べられるキノコとそうでないキノコは見分けられないから。

「不覚だった。このままヒソカに一矢報いる事なく死んでしまうのか――そう思っていた時、1人の青年が私を介抱してくれたのだ」

 もしそれで死んでいたら死者の念を生み出していたかもね。その青年に感謝しなきゃ。

「薬を飲み、一晩経つと具合も良くなってね。彼には感謝してもしきれないよ」
「えっと。それと黒の書にどういう関係が?」

 聞く限りでは黒の書が出てこないんだけど?

「それはここからだ。彼に礼を述べ、謝礼をと思ったが、彼は礼はいらないと言った。何とも清々しい今時では見かけない好青年でね。何としても恩を返したかった。そして色々と話をしている内に彼がプロハンターだと聞いてね。念について知っているか聞いてみたのだよ」

 ま、まさか。これは、そういう事なのか!?

「だが彼は念能力の存在を知らなかった。そこで私は彼に念の存在を教えた。そして――」
「く、黒の書を?」
「ああ、譲ったんだ」

 神は死んだ。




新たな魔改造キャラクター、カストロ! 魔改造の結果、ヒソカに一層気に入られてしまいましたがw カストロの念能力の詳細を書いておきます。

【邪王炎殺拳】
・変化系能力
オーラを黒い炎に変化される念能力。オーラを炎に変化させるには並大抵の努力では出来ないが、カストロの才能と情熱(厨二)がそれを可能にした。
炎の色を黒にする理由はない。強いて言うならかっこいいから。メモリの無駄使いの様だが意外とカストロの想いも篭っており、威力が増す結果となった。
自身の身体(両手含む)も燃やしてしまうため、両手に特殊素材で作られた不燃グローブを装着し、極薄の耐熱テープでテーピングしていないと術者が火傷を負う。

〈制約〉
・手の周り以外のオーラは炎に変化出来ない。
・この炎は自身の身体にも効果を及ぼす。

〈誓約〉
・特になし



【邪王炎殺虎咬拳】
・変化系+強化系能力
名前そのまんま。邪王炎殺拳に虎咬拳を組み合わせたもの。高熱の炎で覆ったグローブを周で強化して相手に攻撃する。
この攻撃をガードしても熱によるダメージまで防ぎ切る事は至難。

〈制約〉
・【邪王炎殺拳】と同じ

〈誓約〉
・特になし



【邪王炎殺虎咬砲】
・変化系+放出系+操作系能力
【邪王炎殺拳】で生み出した炎を虎の形に変化させ放出し、対象を攻撃する能力。
自在に操作し、対象を執拗に追いかける事も可能。形の通り、牙や爪で攻撃も出来る。
本来は邪王炎殺黒龍波という名前だったがカストロが変更した。オーラの形も龍から虎へと変えている。
意味のない変更だが、やっぱりカストロのフィーリングに合ってるため、変更したほうが威力が強まった。

〈制約〉
・一度使用すると24時間経たないと使用出来ない。

〈誓約〉
・特になし

※下記の条件を満たした場合、【邪王炎殺虎咬砲】に特殊な効果が発生する。

① 【邪王炎殺虎咬砲】に使用した顕在オーラが、【邪王炎殺虎咬砲】を放ったあとの自身の潜在オーラ以上である。
② ①の【邪王炎殺虎咬砲】を受けた相手が無傷である(避けられた場合は無効となる)。

以上の条件を満たした時、放たれた【邪王炎殺虎咬砲】は術者自身に還り、莫大なオーラを生み出す餌となる。効果は5分間。
使用条件の厳しいまさに必殺の能力。
・強化系能力

〈制約〉
・上記の条件を満たす。

〈誓約〉
・効果が切れると強制的に絶となる。この絶は6時間以上の睡眠を取らないと回復しない。







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