どうしてこうなった?   作:とんぱ
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ゴンvsヒソカは原作と変わりがないので飛ばしています。ご了承ください。


第三十一話 ※

 ゴンとヒソカの試合はやはりヒソカの勝利で終わった。予想通りとはいえ、やはりゴンが負けたことは私も悔しく感じてしまう。

 

「取り敢えずは目標クリアか」

「うん。でも、負けちゃった……」

 

 ヒソカに一撃を返すという目標は達成できたけど、やっぱりゴンも悔しさを噛み締めているようだ。実力差がありすぎるから仕方ない、そんな分かりきっている事実があるとしても、負けた当人はそれで納得出来るわけがないよな。

 

「大丈夫ですよ。ゴンならきっとヒソカを超えられます。今回は残念でしたが、これも経験の内と思えばいいでしょう」

「ああ。あのヒソカ相手にいい試合だった。私もうかうかしていられないな」

「そうねぇ。あれで念を覚えて半年すら経ってないなんて思えないほどよ。想像以上に逸材じゃない。こんな原石がゴロゴロしてるなんてアイシャの依頼を受けて正解だったわさ」

 

 どうやらビスケもゴンの才能を見抜いたようだ。さすがはビスケ。人を見る目は確かだな。

 

「ありがとう。でもやっぱり悔しいな。ヒソカは明らかに手を抜いていたみたいだし……」

「それは……そうだな。明らかにカストロとの試合の時よりもオーラ量が少なかったのは確かだ」

「ああ。それだけじゃねぇ。体術でもゴンを必要以上に傷つけない様に急所を避けていたな」

 

 やっぱり手を抜かれていたのには気付いたか。

 まあそれは当然か。ヒソカの実力はカストロさんとの試合である程度は理解していたからね。あれが全力ではないだろうけど。まだ奥がありそうだなヒソカには。

 ……嫌な奴だけど、あいつと戦うのは少しだけ楽しみかもしれない。

 

「それは仕方ないわね。アンタはまだ未熟、磨きだしたばかりの原石よ。相手がどれほど研磨されていると思っているの?」

「ええ。これからですよゴン、そしてキルアとクラピカも。あなた達は念と言う名の山の麓に立ったばかりなのですから」

 

 クラピカもまだ一合にすら達していない。いやそもそも私も何合目にたどり着けたのやら。武の道は永く険しいものなのだ。生涯を費やしても五合にすら届かない者たちは星の数ほどいるだろう。

 だがこの3人ならあるいは……。そう思わせるほどの可能性を秘めている。

 

「そうだね。うん、分かったよ! オレはもっと修行してもっと強くなる! そしていつか必ずヒソカより強くなってみせる!」

 

 その意気や良し! 男子たるもの負けたままではいられないものなのだ! 私もネテロに負けると悔しさのあまり寝食の時間を削って修行したものだ。懐かしいなぁ。よくリィーナに身体を休めるよう懇願されてたっけ。

 

「ところでここですることもなくなったけど、これからどうする? 前に言ってたようにゴンの家に行くか? それとももっとここで修行するのか?」

「今は誰の試合も組まれていませんし、タイミングもいいのでゴンの家に行きませんか? くじら島は行ったことがないから楽しみなんですよね」

 

 リュウショウの時にも、アイシャとしてしばらく1人旅していた時にもくじら島には寄ったことがない。話に聞く限り自然溢れる島のようだ。空気も澄んでそうだし、海と山の幸も美味しそうで楽しみだな。

 

「オレはそれでいいよ」

「それは良かった。実は既に飛行船のチケットを人数分揃えていたんですよね」

「どんだけ楽しみにしてたんだよお前は」

「う、いいじゃないですか楽しみにしてたって」

 

 だって友達の家にお呼ばれしたんだぞ? それがどれほどぶりか分かっているのか? ちなみに私にも分からない。前世で友達の家に行ったのっていつだったっけ? この世界に来る前なのは確かだ。

 ネテロは別枠である。あれは強敵(とも)だからな。親友とは違うのだ。

 

 まあそんなこんなで楽しみにしていたせいで、ついチケットを買っちゃったんだ。

 

「くじら島に行くことは私も異論はないな。むしろ早くくじら島に行きたいものだ。……これ以上修行の増量が続けば本当に死んでしまう。ゴン知っているか? 三途の川にはサボリ気味の女死神の船頭がいるんだぞ」

 

 虚ろな目をしながら語るクラピカ。死神? 船頭? いったい何の話だろう? ……少し詰め込み過ぎただろうか?

 

「(ねえ、これヤバくない?)」

「(え、ええ。どうやら少々修行を盛り過ぎたようです……)」

「(だからあたしは止めた方がって)」

「(いや、私の修行ではあれくらいが……)」

「(先生と一緒にしたら可哀想でしょうに)」

 

「お前はクラピカに何をしたんだ? 軽く痙攣してるぞおい」

「た、タダの修行ですよ?」

「目を逸らさずに言えてたら信じてたかもなその言葉」

 

 くっ、その鋭い指摘、流石はキルア! 素晴らしい才能の片鱗だ!

 

「ねえクラピカ! クラピカってば!!」

「――っは!? 私は何を……?」

 

 あ、クラピカの意識が戻ってきた。

 最近たまにあるんだよね。そろそろ修行のペースを戻そう。クラピカの精神がマッハでヤバい。

 

「オレはクラピカがこんなになるような修行を受けることが出来んのか?」

「……オレも自信がないかな」

「良く分からんがまあそう言うな。一緒に強くなろうじゃないか。……お前たちが加われば地獄が分散されるかもしれないんだ。逃がさんぞ」

「本音ダダ漏れだな」

 

 クラピカ、くじら島ではゆっくりしてってね!

 

「さて、そろそろ飛行場へ行きましょうか。搭乗手続きをすませないと乗り過ごすハメになるわさ」

「そうですね。話は飛行船の中でも出来ますし」

「ああ。飛行船で港のある街へ移動した後にくじら島行きの船に乗るんだったな。以前くじら島に立ち寄ったのはハンター試験会場への道中だったから観光など出来なかったからな、今回はゆっくり回らせてもらうとしよう」

「そうだね。レオリオも一緒だったら良かったのに」

「ははは、レオリオも運がないよなぁ。……で、だ。そろそろ突っ込んでいいか?」

 

「どうしたのよ? 早くしないと遅れちゃうわよ?」

「お前誰だよ!? 何普通に会話に加わってんだよ! オレ達初対面だろうが!! ゴンもいいかげん追及しろや!!」

 

 あ、今更ながらにツッコミが入った。

 ゴンとヒソカの試合が終わって、ゴンと合流する時にビスケも一緒に合流したんだけど、ここまで会話に自然に加わっていたからスルーされているのかと思っていたんだけど。

 

「いや、何か普通に話してたから皆知り合いなのかなぁって」

「ありゃ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。あんた達の話はアイシャから何度も聞いていたし、試合も何度か観戦させてもらってたからすっかり忘れてたわさ」

「そうだったな、お前たちは初対面だったか。普通に会話していたから忘れていたよ」

 

 それでいいのかお前ら。言わなかった私が言えたことじゃないけどね。

 

「あたしの名前はビスケ。ビスケット=クルーガーよ。プロハンターであんた達の先輩といったところかしら。今はアイシャの依頼でアイシャの手伝いをしているわ。堅苦しいのは嫌いだからビスケでいいわよ。よろしく」

「オレはゴン。よろしくビスケ」

「……キルアだ。アイシャの手伝いって何してんだよ?」

「修行の手助けですよキルア。彼女のおかげでクラピカが急成長出来たと言っても過言ではありません」

 

 実際私だけだと今の半分の行程も進んでいないかもしれない。回復に掛ける時間があれ程短縮されるのは本当に助かっている。

 ……それがクラピカの無限地獄を生み出しているのかもしれないが。

 

「修行の手伝い? お前が~?」

 

 あれま。ダメだぞキルア、外見に騙されちゃ。念能力者に常識は通用しないと思わないと。こう見えてもこの中で1番年上なんだよ彼女は。

 ビスケさん? 何故こちらを睨むのでしょうか? 私は何も考えていませんよ?

 

「止めておけキルア。ビスケはお前が思っている以上に強い。私は彼女に一度も勝てたことはないんだ」

「はぁ? この女がか?」

「あんなに強くなってたクラピカでも勝てないんだ」

「ま、あんた達とは年季が違うわね」

「いや、お前何歳なんだよ?」

 

 それは当然気になるよな。見た目はゴン達とさして変わらない美少女なんだから。実際の年齢を聞いたら驚くだろうなぁ。まさか50を超えているとは思うまい。

 

「ほほほ、女性に年齢を聞くなんてマナー違反だわよ?」

「取り敢えずオレ達より年上ってのは何となく分かったよ」

「うーん。見た目じゃ全然分かんないや。これも念なのかな?」

 

 長い付き合いになるのが分かっていたのか、今回は初めから猫を被っていなかったからな。この話し方なら年上と見られても仕方ないことだろうさ。

 

「ところでゴンとキルアはくじら島に行った後はどうするんですか? 私達は修行に戻るので、あなた達さえ良ければ一緒に修行したいと思っているのですが」

 

 点と纏も毎日しっかりと行っているようだ。これなら充分修行に着いてこられるだろう。

 

「うん。オレももっと強くなりたい。だからよろしくお願いします!」

「オレも修行させてもらうぜ」

「ではビスケも問題ないですね?」

「ええ。この2人ならこっちから頼みたいくらい。まあちゃんと依頼料は継続してもらうわよ?」

「うっ。……分かっていますよ」

 

 はぁ。何時までこの着せ替え人形状態が続くのだろうか? しかも着替える度に大量に写真を撮られる始末だ。あんな姿を形に残さないでくれ……。

 

「依頼料って? お金がいるんだったらオレが払うよ!」

「ああ。オレ達の為の修行だ。アイシャが払う必要はないだろ?」

 

 ゴン、キルア! そう言ってくれる気持ちは本当に嬉しい。

 でも無理だ。お金で解決することならとっくに私が解決しているんだ……。

 

「依頼料は着せ替えアイシャちゃんなんだけど。……あんた達が代わりになる?」

「ゴメンよアイシャ。オレは……弱い!」

「さて、早く飛行場に行こうぜ。お、丁度タクシーがあった」

「手の平返すのが早いですね2人とも!?」

 

 ちくしょう! 特訓で地獄を見せてやるからな! 覚えてろよ~!

 

 

 

 遅れることなく飛行船に乗り込み空の旅。到着日は3日後なのでのんびりするとしよう。もちろん堅の持続時間を延ばす修行は全員にさせるつもりではあるが。

 

「しかしあれだな。飛行船が便利なのは認めるけどさ、もっと速く飛べないのかよ?」

「それは贅沢というものだろう。何の障害もなく目的地まで一直線に進めるんだ。多少の遅さは目を瞑るしかあるまい」

「オレは飛行船好きだけど。何か高いところってワクワクするし」

「私も飛行船の旅は好きですね。普段観る事の出来ない景観を味わえますから」

 

 個人で飛行船を保有したいくらいだ。いくら位するんだろう? 今度調べておこう。

 

「まあ、それは嫌いじゃないけどさ。もっと速く飛べたら移動時間も無駄にならないだろ?」

「まだまだお子ちゃまね~。旅の情緒ってもんを分かっていないわ」

「うるせぇな。どうせガキだよオレは」

 

 っと、キルアが拗ねてしまった。子ども扱いされるのが嫌いみたいだな。早く大人になりたい、子供扱いされたくない。けど自分が子どもだというのは分かっている。そんな苛立ちだろう。思春期だなぁ。

 あとキルアよ、安心していいよ。移動時間は無駄にはしないから。アイシャブートキャンプは場所を選びません。人生これ修行なんだよ?

 

「まあまあキルア。飛行船が遅いのは仕方ないんですよ。理由があるんです」

「理由? なんだそれ? 遅くなきゃいけない理由ってどんなんだよ」

 

 そう。飛行船の、と言うより航空機系の速度が一定以上にならないのにはある理由がある。それは世界の秘密に関わる。常識ある大人たちの暗黙の了解。社会では習えない世界の真実。

 

「アイシャ、あんたまさか」

「ビスケ。彼らは確かに子どもでしょう。ですが真に資格を得たプロハンターでもある。知る権利はあり、自己が為した結果の責任も彼らにある。全てにおいて子ども扱いする必要はありません」

 

 もちろん彼らが年齢やその精神はまだ成熟した大人ではないことは否めない。だが、一度プロの名を掲げたならばそこから先は自己の責任が問われるのだ。年齢なんか関係ない、それが資格を持つということでもある。

 まあキルアはプロハンターの資格を持ってないけど……まあ、いっか。

 

「……そう。確かにそうね。分かったわ、あなたがそう言うならあたしから言うことはないわ」

「ありがとうございますビスケ」

「いったい何の話なんだ?」

「この世界の真実ですよ」

「世界の真実? なんだそれ? それと飛行船が遅い事に何の関係があるんだよ」

 

 関係はあるんだよキルア。この世界において科学技術は核ミサイルを生み出す程に進化している。それは私の元いた世界と極端には変わらぬ程の技術力だ。

 そんな世界で何故、空の通行が飛行船のみなのか。私の世界では当たり前に存在していた飛行機は何故存在しないのか。

 

「それは今から説明します。あなた達は世界地図をご存知ですか?」

「それは当然だろ? そこらで普通に売っているし。誰だって一度は見たことがあるよ」

 

「そうですか。ところでキルア、世界地図とはどのようなものですか?」

「どのようなって……。んなの文字通り世界の地図だろう?」

 

「では、その世界とは?」

「そんなのこの世界にある陸とか海とか、その全てだろ? それ以外に何があるんだよ」

 

 そうだろうな。それが当然だ。世界地図とは文字通りその世界全てを記した地図だ。

 

「キルアの言う通りです。ですが、それでは私は世界地図を見たことはないということになりますね」

「はあ? どう言う意味だよ?」

「……言っている意味が分からないぞアイシャ。キミが流星街の出身だといえ、こうして世界を旅している今、世界地図くらい見たことがあるはずだ」

 

 婉曲な物言いをしてたせいで怪訝な想いを抱いているようだ。大丈夫、今から真実を話すから。

 

「私達の知っているその地図は世界地図ではありません。世界の一部のみを記した地図です。その外側にある世界は一切記されていません」

「外側?」

 

「言葉通りの意味ですよ。私達の知るこの世界地図。その外側にある大きな、内側の世界とは比べ物にならない程に広大な世界の事です」

『!!!?』

 

 世界地図に記された世界は途轍もなく大きな世界の極一部に過ぎない。人類が未だ踏破していないその世界の事を人は暗黒大陸と呼んでいる。

 かつて幾度となく暗黒大陸への進出が成されていたが、その度に人類には大きな災いが降りかかったとされている。それ故か、近代5大陸――通称V5――によって不可侵条約が締結されている。

 

 暗黒大陸へ行くための手段もなくはない。だがそれには様々な条件が必要となる。例え一国の大統領クラスの権力を持っていたとしてもその条件を満たすことは容易くはなく、また果てしない時を費やすこととなる。

 

「――それが世界の真実です。私達が人生を掛けて旅をしても全てを廻りきれないかもしれないこの地図上の世界は――」

「……本当の世界の極一部ってことかよ」

「……すごい。すごいや……!」

「文献や古文書でも見たことも聞いたこともない。まさかそんな世界が広がっていたとは」

 

 3人とも興奮さめやらないといった表情をしている。ゴンやキルアはともかく、クラピカがこうも興奮するとは思わなかったな。クラピカは様々な文献とかを読んでいるみたいだし、知識欲が湧いたのかな? さすがに暗黒大陸の存在を示唆するような物は見たことがないみたいだ。

 

「さて、この世界については話しましたが、飛行船の話とどう結びつくか分かりますか?」

「っ! そうか。暗黒大陸への進出はV5によって禁止されている。だから――」

「速度のある飛行船は作られないってことか!」

「あ、そっか。すごい速さで飛ぶ飛行船があったら、勝手に暗黒大陸まで飛んで行っちゃう人が出てくるかもしれないからか」

 

 そう、その通り。ミサイル等の近代兵器はあるのに利便性を求めた速度のある航空機は存在しないのはそのせいだ。開発しようものなら重罪ではすまない刑罰を受けるだろう。これこそがこの世界に置いて高速航空機が発達していない理由だ。

 

 暗黒大陸を初めて知った時は私もさすがに驚いたよ。ネテロと酒を酌み交わしている時に教えてもらったんだったな。この身体になってから酒は呑んでいないけど、成人したら今度ネテロと一緒に呑もう。

 

「いつか行ってみたいな、その世界に!」

「止めときなさいよ。許可取るのにも苦労するし、取れたとしても決められた場所だけを監視付きで見学するだけの体験ツアー程度のものらしいわよ」

「それでも行ってみたい! どんな世界が広がっているのかなぁ。そう考えただけでもワクワクするよ!」

「……そうだな。まさに世界が広がったようだ。これほど好奇心が刺激されたのは子どもの頃にある本を読んだとき以来だよ」

 

 そう呟くクラピカは嬉しそうでもあり、どこか寂しそうでもあった。

 きっと失ってしまった過去を想起しているんだろう。そのオーラには様々な感情が含まれていた。

 

「さて、色々思うところはあるかもしれないけど、そろそろ修行をするわよ。ここではあまり激しい運動は出来ないから、練の持続時間を延ばす修行と凝の修行だけをするわ」

「そうですね。クラピカはともかく、ゴンとキルアはまだまだ下地が出来上がっていませんからね。と言ってもゴンの里帰り中に厳しい修行をするのもどうかと思うので、その2つの修行に重点をおきましょう」

「おす! よろしくお願いします!」

 

「よっしゃ! ぜってぇクラピカを追い抜いてやる! アイシャ! クラピカよりもキツイので頼むぜ!」

「忠告しておくぞキルア。三途の川で船頭を見かけても声を掛けてはいけない。サボっていたらそのままそっと元の道を戻ってくるんだ」

「そんな臨死体験したくねぇよ。て言うか死ぬこと前提かよ」

 

「大丈夫ですよキルア。まだクラピカは死んでいませんから」

「まだって何だよ? ちっとも大丈夫には聞こえねえ……」

 

 本当に大丈夫だって。人間意外と頑丈なんだよ?

 

 そう告げるもゴンとキルアの表情は死刑台に立たされた罪人のそれだった。ビスケすらも頷いている始末。唯一クラピカだけは嬉しそうだ。自分と同じ境遇の者が増えたのが嬉しいのだろうか? ……いや違うな。これは修行時間の割り当てが減ることに対する喜びだな。

 そんなに喜ばなくても修行量は元に戻すというのに。

 

 ……元の修行量でもキツかったのかなやっぱり?

 

 

 

 

 

 

 うーん今日もいい天気。洗濯物を干すのに絶好の日和ね。この空の下でゴンは今なにをしているのかしら。

 ハンター試験に合格したって連絡をくれてから一向に音沙汰がないまま。合格したのはいいけど、危ないことに首を突っ込んでなければいいんだけど……。

 

 はぁ。こんな心配しても無駄よねきっと。だってゴンはジンの息子だもの。きっとトラブルに巻き込まれているわ。ううん、自分からトラブルに飛び込んでいるくらいね。

 ……無事でいるといいんだけど。

 

 そんなことを思いながら洗濯物を干していると、どこからか懐かしい声が響いてきた。……もしかして。

 ある種の確信を持って振り返ると、そこには私に手を振りながら近づいてくるゴンの姿があった。

 

「ミトさーん!」

「ゴン!?」

 

 ああ、やっぱりゴンだ。変わらず元気そうで良かった。少し背が伸びたかしら? 髪も伸びているみたいだし、後で切ってあげなきゃ。

 まったく。帰ってくるなら連絡してくれればいいのに。そしたら食事の材料も良い物を用意したのに。

 

 けど、ゴンの周りにいる人達は誰なのかしら?

 見たところゴンと同い年くらいの少年少女と、少し年上の男性と女性。

 友達かしら? それとも同じハンター仲間? ゴン以外にもこんなに小さい子がプロのハンターになれるものなの? それにこの女性も少女もすごく可愛らしいし、本当にどういう関係なのかしら?

 

「ただいまミトさん!」

「おかえりゴン。もう、帰ってくるならそうと連絡をしてよね。色々と準備だってあるんだから」

「いいよそんなの。それよりも皆を紹介するね」

 

 紹介? やっぱり新しく出来た友達かしら? それとも女の子は実は恋人とか?

 まさかゴンに限ってそんなことは……いえ、よく考えたらゴンって結構デートとかもしてるのよね。

 ジンだって急に帰ってきたと思ったら子どもをこさえていたし、ジンに似ているゴンならあながち有り得ないとは思えないわね。

 

 もし本当にそうだったらゴンにはきっちりと教育をしなおさなくちゃ。いくら何でもこの歳で恋人とか早すぎるわ。くじら島を出てから見知ったはずだから、付き合いもそれほど長くはないはず。そういうのはもっとお互いを知ってからでないと。

 ……けして私に良い人がいないから嫉妬しているわけではないわ。

 

 

 

 そうして皆を紹介されたのだが、私の心配は杞憂だったようだ。ビスケちゃんは違うようだが、他の3人はゴンとハンター試験で苦楽を共にした仲だとか。今ではゴンの掛け替えのない親友だと言っていた。

 

 良かった。このくじら島にはゴンと同い年と言える子はいなかったから。

 唯一年下の子もいたけど、ノウコちゃんは歳が離れすぎていたし、こうして友達が出来ただけでも外に出たのは良かったのかもしれない。

 

 クラピカ君やアイシャちゃんは礼儀正しく、とても荒事をこなすプロのハンターだとは思えないくらい。

 キルア君は少しぶっきらぼうな面もあるけど、ちょっと照れてるだけの可愛らしい少年だしね。

 ビスケちゃんはどうも親友という感じではないようだけど、プロハンターの先輩らしく、色々と教わっているようだ。

 

 どの子もとてもいい子達。ゴンが友達になるのも良く分かるわ。ゴンもジンと同じように人を惹きつける何かを持っているのかしらね。

 

「じゃあご飯の用意をするから。皆その間にお風呂に入ってなさい。船の中じゃ碌なお風呂もなかったでしょ? もちろん女の子が先だからね。ゴン案内してあげて」

「すみません。では、お言葉に甘えさせてもらいますね」

「あっと、ビスケが先に入ってもいいですよ。私は後から入らせてもらいますから」

 

 あら。一緒に入るのが恥ずかしいのかしらアイシャちゃんは? 女の子同士なんだからそこまで気にしなくてもいいのに。

 

「別に私は気にしないわよアイシャ。さあ、時間も勿体ないから一緒に入りましょう」

「いや、あのですね。分かっているんでしょう? 私は――」

「だから気にしないって。それに分かれて入るとゴン達をさらに待たすことになるわよ? アイシャも今更裸の1つや2つ見られても気にしないでしょ?」

「だから私ではなくビスケがですね……」

「はいはい。早く来るの。アイシャの場合髪の手入れも適当にしてそうだから、この際あたしが教えてあげるわよ」

 

 ? 何かビスケちゃんの感じが少し違う気がするけど……まあ、友達だったらそれもそうよね。私を相手には遠慮していたんでしょうね。

 そうしてアイシャちゃんはビスケちゃんに連れられてお風呂へと移動した。……させられたとも言うわね。何がそんなに嫌なのかしら?

 

 さあ、こうしちゃいられないわ。計5人分の食事を作らなきゃいけないんだから。

 ふふふ。普段はおばあちゃんと私の2人分だけだから、こうして他の人の為にご飯を作るのはやっぱり楽しいわね。

 さあ、張り切るわよ!

 

 

 

 

 

 

 ゴンの実家で1泊。昨日は楽しい1日だった。

 ミトさんもゴンから聞いていた通りの人だったし、ゴンの友達のキツネグマからもらった川魚も美味かった。昨日1日は修行もなくゆっくりするって話だったしな。いいリフレッシュになったぜ。

 

 さて、今日から本格的に念の修行に入ると思って気合を入れていたところに、ゴンが不思議な箱を持ってきた。話を聞くと何でもゴンのオヤジがゴンがハンターになったら渡してくれって言っていた物らしい。

 

「なあこれってどうやって開けるんだ?」

 

 見たところ開閉のためのスイッチやとっかかりもない。ちょっと、いやかなり力を込めてみたがびくともしなかった。

 

「ふむ。キルアの力で壊せないとなると、どうやらただの箱ではないようだ」

「だな。鉄箱程度だったら溶接されてても捻じ開けられるしな」

 

 悔しいがクラピカの言う通りだろうな。見た感じでは鉄っぽく感じるんだけど、何か仕掛けでもあるのか?

 仕掛け……ハンターになったら渡してくれ……ハンターになった後に手に入れたモノ……不思議な箱……不思議な力……!

 

「そうかもしかして」

「ああ。念だ」

「念? 念がどうしたの?」

「この箱だよ。ハンターになったら渡してくれってことは、ハンターになった後に手に入れたモノがこの箱を開けるのに必要なんだよ」

「恐らくそうだろう。ゴン、試しにこの箱を持って纏をしてみてくれ」

 

 ゴンが箱を持って纏をすると、今までびくともしなかった箱が急にバラバラになった。ビンゴ! やっぱり念がキーになっていたんだな。

 中から出てきたのはまたも箱だった。まさかこの中にも箱が入っているってオチじゃないよな? もしそうだったらそのジンってオッサンは絶対にぶっ飛ばす。絶対にだ。

 

「この箱を覆っていた物はただの鉄の切れ端だな。材質に特殊なモノを用いたわけではないようだ。……この模様は一体なんだ? 全ての鉄切れに描かれているが」

「これって……ウイングさんがくれた誓いの糸に似たような模様が描いてあったよ!」

「ああ。あれも念を使うと切れるように仕込んでたって言ってたよな」

「誓いの糸?」

 

 ああ。クラピカは知らなかったな。

 かつてゴンが約束を破った時にウイングによって渡された誓いの糸について説明する。

 

「なるほど……つまりこの模様には念と似たような力があるのかもしれないな」

「うん。これって何なのかな?」

「それは神字というものですよ」

『アイシャ!』

 

 何時の間に入ってきてたんだ? お前はミトさんとビスケと同じ部屋で寝てたんだろ?

 

「おはようございます皆。ノックはしたのですが、返事がなく何やら興奮していたようなので勝手に入らせてもらいましたよ」

「おはようアイシャ。部屋に入ったのは全然いいよ。それよりもアイシャってこの模様のことを知っているの?」

「神字って言ったか? 何なんだそれって」

「念の補助をしてくれるモノです。その模様を念を籠めながら物体に描くことで様々な効果を持たせることが出来ます」

 

 なるほどな。今回のや誓いの糸は念を籠めるとパーツが崩れるようにしてたってことか。

 

「へぇ~。まだまだオレの知らないことはいっぱいあるんだね」

「興味深いな。機会があったら学びたいものだ」

「でしたら心源流か風間流に行けばいいですよ。師範代クラスなら習得している者もいますから」

「アイシャは神字を作ることは出来ないのか?」

「簡単なモノなら。でも、専門家には遥かに劣りますね」

 

 アイシャにも出来ないこととかあるんだな。何だか念に関してはこいつに出来ないことなんてないんじゃないかって思ってたよ。

 

「そういやゴン、その箱は開きそうなのか?」

「うん。ここに差し込み口があるから、もしかしたらここにカードを入れるのかも」

 

 そう言って箱にハンターライセンスを差し込むゴン。カチッという音とともに箱がゆっくりと開いていく。そして中に入っていた物は――

 

「指輪とテープと、ROMカードか」

「この指輪にも神字ってのが描かれているな」

 

 どうやらこれも何かしらの効果を持った物のようだな。念には念を入れてうかつにはめないようにゴンに忠告しておく。

 

「じゃあテープを聞いてみる?」

「そだな。あ、ダビングの準備もしといてくれ」

 

 これも念のためだ。相手はかなり用心深そうな奴だからな。念には念を入れても入れすぎにはならないだろ。

 

「ゴンのお父さんが残したメッセージでしょうか?」

「分からん。だがその可能性は高いだろう。……私たちが聴いてもいいのかゴン」

「うん、皆ならいいよ。むしろ聴いてほしい」

 

 そう言ってゴンはカセットのスイッチを入れた。オレ達を信頼してくれているんだろう。言葉の中にはそんな思いがこもっていた。

 

“よぉゴン。やっぱりお前もハンターになっちまったか”

 

 再生されたテープから聞こえてきた1人の男の声。

 ゴンも皆も黙って聴いている。これがゴンのオヤジ。自由奔放で確固たる自身というものを持っている。恐らくその信念はゴンと同じように揺らがないモノなんだろう。

 どうやら一筋縄じゃいきそうにない奴みたいだ。流石はゴンの父親ってところか。

 

 やがてテープから声は聞こえなくなる。聞こえるのはカセットがテープを回している音だけだ。どうやらこれで終いのようだ。そう思いテープを止めようとしたが、ゴンからストップが掛かった。

 

 しばらく待つとまたもジンの声が再生されたが、どうしてゴンは分かったんだ? 直感か何かか? それとも親子だからか?

 

 新たに再生された内容はゴンの母親についてだったが、ゴンはそれを最後まで聞かずにテープを止めちまった。

 自分の母親はミトさん、か。

 

 いいよなぁ。昨日もゴンに言ったけど、オレもあんな人が母親だったら良かったのによ。

 

「さ、ご飯食べようよ」

「ミトさんばかりに世話をしてもらっては恐縮なので、今日の晩御飯は私が作りましょうか?」

「はぁ? お前料理出来んのかよ?」

「アイシャの作る料理は美味しいぞキルア」

 

 何でお前がそんなこと知ってんだよ? 食べたのか? 食べたんだな。

 そんな風に話しながら部屋を出ようとすると、カセットから不意に音が聞こえた。ふと振り向くと、停止したはずのカセットが勝手に動いていた。

 

「これは!? テープが巻き戻されている!」

「念ですね。このテープを収録した時に念を込めたのでしょう。簡単な操作系で可能ですよ」

「冷静に説明してる場合ではないだろう! 今度は録音しているぞ!!」

「自分の音声を消す為でしょう。念能力者の中にはこのテープを聞くだけで場所を特定出来る者もいるかもしれませんから。ゴンのお父さんは中々用意周到な方のようですね」

 

 だから冷静に言っている場合じゃねえだろ!? クソッ! コードを抜いても動いてやがる! こうなったら!!

 

「悪いなゴン! 壊すぜ!!」

 

 全力で殴りつける! っておい! 傷1つ付いていねぇぞ!

 

「念でガードしていますね。10年以上経ってここまで強力な念を留めているとは、素晴らしい使い手ですね」

「だぁあもう! 何とか出来ないのかよ!?」

「ゴン。壊してもいいですか?」

「う、うん」

 

 壊せんのかよ? オレの攻撃が全然効いてないんだぜこのカセット。

 

「ふっ」

「はあ!?」

「ま、真っ二つになっちゃった」

「さすがアイシャ。私たちに出来ないことを平然とやってのける」

 

 そこにシビれるあこが、ちげぇよ!? オレがあんだけ殴っても無傷だったんだぞ! それが手刀であっさり真っ二つかよ! いくらアイシャがオレよりも強いからってこれはねぇだろう!

 

「すいませんゴン。テープを傷つけないように真ん中から切らせてもらいました」

「それはいいんだけど……」

「ゴン、キルアよ。アイシャに我々の常識は通用しないと思え。そしてそれを受け入れろ。それが自身のためでもある」

「私の扱い酷くないですか?」

 

 クラピカが達観した表情でオレ達を悟らせるように語る。その言葉には何かとても重いモノが篭っていた……。

 オレも大概常識外れだと思っていたけど、アイシャと比べると随分まともだったようだな……。

 

「けどさ。今のアイシャってオーラを纏っていないみたいだけど、どうやってあのカセットを叩き斬ったの?」 

 

 っ! そうだ。どうやった? どうしてあのカセットを念無しで壊せた? アイシャ自身がオーラでガードしているって言ってたのに。

 

「ああ、それはですね。うーん……まあ、あなた達ならいいでしょう。クラピカも知っていますし。……当たり前ですけど他言無用ですよ?」

 

 何だ? クラピカも知っているって、もしかしてアイシャの念能力に関する事か? まあクラピカはずっとアイシャと修行していたから知っていてもおかしくはないか。

 

 ちょっとだけ気に食わないけどな。何でこんな気持ちになるんだろう? 分かんねぇな。

 

「私の念能力に【天使のヴェール】と言うモノがありまして、この能力を発動していると私のオーラは常に垂れ流しの状態でしか感知出来なくなるんですよ」

 

 …………は?

 

「えっと……それってつまり」

「お前がどんだけオーラを纏っても、オレ達には何も分からないって事か?」

「まあ、そういう事です。デメリットもあるんですが、結構重宝していますよ」

 

 重宝どころじゃねえよ。何だその反則能力は? オーラが見えない念能力者相手にどうやって戦えばいいんだよ? 全部の攻撃を避けろってか?

 

「それじゃさっきの手刀にも?」

「もちろん。あれだけの念でガードされた物を素で壊すなんて私には出来ませんよ。……テープまで壊していいなら話は変わりますけど」

「マジでどんだけだよお前」

「ああ、かつての私がここにいる。お前達が通っている道は既に私が数ヶ月前に通過している!」

 

 ご同輩が出来たのがそんなに嬉しいのか?

 ……嬉しいんだろうな。こんな馬鹿げたのをオレ達よりもずっと間近で見てきたんだろ? 達観したくもなるぜ。

 

「本当に追いつけんのか……?」

 

 口に出すつもりはなかった言葉だけどついポロっとこぼれちまった。いかんいかん。弱気になってどうすんだ。絶対にアイシャを超えてやるんだ。1つ歳上とはいえ、いや、1つしか変わらない女の子に負けたままでいられるかよ。

 

 決めた。絶対に決めた。将来の目標なんてなかったオレだけど、今決まった。絶対にアイシャより強くなってやる。その為ならどんな修行だって受けてやるぜ!

 

「よっしゃ! ゴン! さっさと朝飯食って修行しようぜ!」

「う、うん。あ、でもこのROMカードを調べてないんだけど……」

 

 あ、そういやそうだった。すっかり忘れてたぜ。

 これって確かジョイステのROMカードだよな? 何でこんなんが一緒に入ってたんだ?

 

「これはジョイステーションのROMカードですね」

「お、アイシャもやってたのか?」

「ええ、少しだけですが」

「オレはやったことないなぁ。クラピカは?」

「私もないな。むしろアイシャがやったことがあるのが驚きだが」

 

 だよな。そんなイメージがあんまり湧かないな。

 

「このROMカードを調べる為にまずはジョイステを買うとするか」

「あ、私持ってますよジョイステ」

『何で持っているんだ(よ)!!』

 

 意味分かんねぇよ! どうして、今! ここで! アイシャがジョイステを持ってるんだ! あまりの驚きにクラピカでさえ突っ込んでるじゃねぇか!

 

「えっと、以前に買ったことがありまして。一度天空闘技場に置き忘れていたんですが、職員の方が私が置き忘れていた私物をずっと保管してくれていたようで、今回選手登録して少し経った日に返してくれたんですよ」

 

 いやぁ、サービス精神がすごいですね、じゃねぇよ。

 

「だとしても普通持ち歩くか?」

「しょ、しょうがないじゃないですか。私は根なし草なので持ち歩くしかないんですよ。捨てるのは勿体無いですし……」

「天空闘技場に置いてくれば良かったんじゃ?」

「いえ、天空闘技場に戻る予定はありませんから。私物は全部持ってきました」

 

 ん? じゃあアイシャとクラピカはもう天空闘技場じゃ戦わないのか?

 

「クラピカはもうあそこでは戦わないの?」

「ええ。今の天空闘技場のレベルではほとんどクラピカの経験にならないでしょう。バトルオリンピアまで行けばまた別もしれませんが、それにはどうしても闘技場のシステム上時間が掛かります。それに能力も披露しなくてはならない可能性も高いのでデメリットが多すぎます」

「私も私物は既に持ち運んでいる。もっとも、アイシャと違って僅かしかないがな」

「今後クラピカはくじら島を出立次第、風間流の道場での戦闘訓練に移ります。それまでのくじら島での修行は堅の持続時間を延ばす修行を主にしましょう」

「ああ、分かったよ」

 

 そうか。アイシャ達はくじら島から出たら風間流道場で修行か……。

 

「ゴン」

「うん。ねえアイシャ、オレ達もその修行に着いて行ってもいい?」

「私は構いませんが、いいのですか?」

「ああ、オレ達だけ置いてかれてたまるかよ」

 

 クラピカにも負けたままじゃ嫌なんだよ。まずはクラピカがくじら島でゆっくりしている間に出来るだけ追いつく。その為にはかなりハードな修行になると思うけど、そんなの関係ないね。やると決めたらやるだけだ。

 

「分かりました。ではROMカードを調べる為にジョイステを持ってきますね」

 

 そう言って部屋から出て行くアイシャ。アイシャが寝泊りした部屋にあるバックからジョイステーションを取りに行ったんだろう。

 

「2人とも、アイシャとビスケの修行は厳しいという言葉を通り越して拷問に近いモノがある。……覚悟は出来ているな?」

「へっ。拷問なんて生まれた時から受けていたぜ」

「オレだって強くなりたいんだ。ジンに会うためにも、ヒソカに勝つためにも」

「そうか……。お前たちにこんな質問など愚問だったな」

 

「そういうこと。クラピカにも負けないからね」

「うかうかしてるとすぐに追いつくぜ」

「そうはいかん。私も怠けるわけではないのだからな」

 

 3人で顔を合わせながらニッと笑い合う。こういうのは男同士でないと分からない世界だな。そうして3人で通じ合っていると、アイシャがビスケを伴ってジョイステを片手に帰ってきた。

 

「何か面白そうなことしてるみたいじゃない。あたしも混ぜなさいよ~」

「おはようビスケ」

「起きるのが遅いんだよ」

「全く、怠惰だぞ。少しはアイシャを見習ったらどうだ?」

「うるさいわね~。睡眠はお肌に最高の栄養なのよ」

 

 相変わらず見た目に似合わないことを言ってんなコイツは。絶対見た目通りの年齢じゃない。賭けてもいいね。

 

「さて、それじゃあROMのデータを調べてみましょうか」

「しっかしアイシャがゲーム機を持ってるなんてねー。なんかゲームしてるところを想像出来ないわさ」

「私だってゲームの1つくらいしますよ。何だと思ってたんですか……」

 

 確かに。さっきは不思議に思ってたけど、コイツも年頃の女なんだよな。ゲームくらいしても当然なのか?

 

「ああ。そういやアイシャってどんなソフト持ってんだ?」

「格闘ゲームが何本かあるくらいと……あと――」

 

 お、格ゲーあんのか。後で皆でやったら面白そうだな。

 あとは何を持ってんだ?

 

「ドカ○ンを持っていますね」

「ド○――」

「――ポン?」

 

 なんだそれ? 兄貴の持ってたゲームをちょこちょこやってたけど、そのゲームは知らないな。

 

「面白いのかそれ?」

「……いつか友達が出来た時にと思って買っていたのですが……これは危険です。止めた方がいいでしょう」

 

 何だよそれ。逆に気になるな。後でやってみよっと。

 

「ねえ。このカードだけで何のデータが入ってるか分かるの? ゲームソフトもないんじゃ何も分からないんじゃ?」

「お前本当にゲームやったことないんだな。本体にソフトを入れずにROMカードだけ差し込んでからパワーを入れるとROMカードの内容が分かるんだ」

 

 ほんと、今時貴重な奴だな。……クラピカも何か感心しているように見ている。訂正だ、何て貴重な奴らだ。

 

「入っているゲームは……グリードアイランド? これだけで全部の容量を使い切っているのか」

「グリードアイランドですって!?」

「知ってるのアイシャ?」

「ええ。グリードアイランドとは念能力者が作ったゲームです」

『!!』

 

 念能力者が作ったゲーム!? 何だそれ? どうやってそんな、いや、どうしてそんな物を作ったんだ?

 

「グリードアイランドはね。複数の念能力者が100本のソフトに念を籠めて作ったとされる念能力者専用のゲームよ」

「念能力者のみがプレイでき、一度ゲームをスタートするとゲームの中に引きずり込まれる。そして死ぬか、帰還の為の手段を手に入れないと現実世界に帰ってくることは出来ない」

「未だにクリアしたものはいないとされる伝説のゲームよ」

 

 ビスケとアイシャが交互に説明を入れてくれた。未だクリアしたものがいない伝説のゲーム。念能力者しかプレイできず、死ぬ可能性もある危険なゲーム。

 

「ビスケもグリードアイランドについて知っていたのですね」

「まあね~。あたしもこのゲームをやりたいと思っていたし」

「奇遇ですね。私もそうなんですよ」

 

 この2人がやりたがっているゲームなのか。一体どんなゲームなのか興味が湧くな。

 

「ジンはオレを捕まえたければこのゲームをしろって言ってるのかな」

「さあな。でも、お前にそのROMカードを残したのはゲームをやってみろって意思表示だろうな」

「うん……!」

 

 楽しそうな顔してやがる。ワクワクが止まらないってか?

 ああ、オレだってそうだよ。どんどん楽しくなってきやがった。

 

「じゃあ早速このグリードアイランドを買おうぜ。……つうか、100本しかなかったら売り切れてね?」

「当たり前です。私たちではどう足掻いても入手することは出来ませんよ」

「何でだよ? 確かに世に出回っている数は少ないだろうけどオークションとかなら1つくらいは――」

「ソフト1本が100億ジェニー近い値段でも?」

『ひゃ、100億!!?』

 

 何だそりゃ!? 買えるわけねぇだろそんなもん! オレ達が全財産だしてもその10分の1にも届かねぇよ!

 

「ゲームソフトとはそんなにも高額なのか?」

「んなわけねえだろ! ぼったくりにも程があるわ!!」

「元々は58億だったはずですが、今では品数の少なさもあって値は急上昇しています。……しかも」

 

 しかも? この上まだ手に入れる難易度が上がる要素でもあるのかよ?

 

「バッテラという大富豪がこのグリードアイランドを金に糸目を付けずに買い漁っているため、僅かに世に出た貴重なソフトも購入されています」

「以前見たことがあるんだけど、バッテラがグリードアイランドを購入するのに消費した最高金額は200億を超えたそうよ」

 

 に、200億……。絶対に無理だ。届くわけがねぇ。何だその大富豪とやらは!? 大人の癖にゲーム買い占めてんじゃねぇよ!

 クソッ! じゃあどうやってもこのゲームを手に入れることは出来ないって……いや待て。ゲームと言ったらアイツが詳しいな。もしかしたらグリードアイランドを持っているかもしれないし、ダメ元でちょっと聞いてみるか。

 

「おいゴン、もしかしたらグリードアイランドを持ってるかもしれない相手に心当たりがあるから電話するぜ」

「本当!?」

 

 でもやだなー。こいつに頼み事すんの。ま、こういう時にしか役に立てないから仕方ないか。兄貴を役立たずにさせないオレって何て兄思いなんだろ。

 

「あ、ゴトー? オレオレ、キルアだよ。ブタくん呼び出してくんない? ――はぁ!? 嘘つけよあいつが修行するわけねーじゃん。ゴトーも面白い冗談言うようになったな、ははは。まあそれはいいからさ、10秒以内に電話にでないとてめーのフィギュアぶち壊すって――あ? フィギュアは全部捨てた? ねえよ」

 

 あのブタくんがあれだけ大事にしているフィギュアを捨てる? そんなの天地がひっくり返らない限りありえるわけがねぇ。

 もしそれが本当だとして、さらには修行に専念してるなんてことがマジだったら……。それはオレの知ってるブタくんじゃない。おぞましい何かへと変貌しているな。もしかして誰か操作系の能力者に操られてるとかじゃないか?

 

『はぁ、はぁ、何だよキル。いま、忙しいんだよ』

 

 あ、やっと来たか。相変わらず息が荒いなぁ。まともに運動してないからだよ。

 ん? 何か、何か声に違和感を感じるんだけど。

 

「兄貴? ……何か声変わったか?」

『すぅー、はぁー……。さあな。自分では実感わかないね。それより何の用だよ? さっきも言ったけど今忙しいんだ。用があるならさっさと言えよ』

 

 ……今、呼吸を整えたのか? 電話を取った時とは違ってスムーズに話し出している。マジでどうなってんだ?

 

 いや、そんなことよりも今はグリードアイランドについてだ。オレだってブタくん相手に長々と会話するつもりはないんだ、とっとと用件を伝えて電話を終わらそう。

 

『グリードアイランド? ……もしかしてお前、いまアイシャと一緒にいるのか?』

「は? 何でそんなこと兄貴に――」

『いいから答えろよ。それを言わないとこっちも何も言うつもりはないぜ』

「ちっ! ああそうだよ。それがどうかしたの?」

『そうか。じゃあアイシャに代ってくれないか』

「何でだよ。いいからこっちの質問にも答えろよ。こっちは答えたぜ。取引で嘘つく程にボケたのかよ」

『ああ、そうだったな。グリードアイランドはオレも持っていない。手に入れようにも当時は5歳だったからな。現在もバッテラって大富豪のせいで入手は非常に困難になっているな』

 

 ダメか。結局はアイシャとビスケから聞いたのと同じ程度の情報しか入らなかったか。ブタくんが入手を諦めるってのはさすがに驚いた。無駄にプライド高いところがあるから、持ってないことを指摘したらムキになると思っていたのにな。

 

『とにかく、アイシャに代われよな。こっちはアイシャに伝えなきゃならないことがあるんだ』

「兄貴がアイシャに何を伝えんだよ? 分かった、代わればいいんだろ」

 

 言われた通りにアイシャにケータイを渡す。一体兄貴がアイシャに何の用だってんだ?

 

「はい、代わりましたよ。――ええ、久しぶりですねミルキ。元気そうで何よりです。――はい、私も変わりはありませんよ。その節はお世話になりました。おかげで皆とも合流出来ました。――ありがとうございますね。このお礼はいつか必ず」

 

 ……何だか結構親しげに話してんな。アイシャが相手を呼び捨てにするって結構親しい仲じゃないとしないよな?

 さすがはアイシャか。あのブタくん相手にここまで嫌悪せずに相手出来るなんてな。普通ああいうのって女は嫌がるんじゃないのか? 少なくともオレは嫌だね。

 

「それで伝えたいこととは――! それは……盗聴の心配は――そうですか、分かりました。では折り返しということで。――ええ。ありがとうございます。本当にミルキにはお世話になりっぱなしですね。――ふふ、では後ほど。あ、キルアに代わりま……。すいませんキルア、あなたに代わる前に切れてしまいました」

「別にいいよー。聞きたいことは終わったし、ブタくん相手にそんなに話したいとも思わないしね」

「ダメですよお兄さんなんですからそんなこと言っては」

「いーんだよ。それよりもミルキが伝えたいことって何だったんだ?」

 

「ええまあ、少し頼み事をしていたんですよ。それについてでしたが、ケータイでは盗聴が危惧されたのでまた後ほど別の手段で連絡してくれるそうです」

「それってミルキに仕事の依頼をしたってことか?」

「いえ、ミルキが調べてくれると言ってくれたんです。……もちろんお礼は何かしらするつもりですよ?」

 

 そんな風にアイシャが言っているがオレはあまり聞いていなかった。それよりも驚きの方が大きかったからな。

 

 あのミルキが三次元の女の頼みを聞いた?

 

 …………信じられねぇ。アイツの嫁はモニターの中にいて、三次元の嫁はフィギュアだろ? それが生きてる女に対してこんなに尽くすなんて……俺の兄貴がそんなに殊勝なわけがない。ブタくんホントにどうしたんだ? こんなに兄貴を心配したことなんて初めてだぞおい。

 

 ……ま、いっか。ブタくんのことなんか気にしてもしょうがないしな。そんなことよりゲームでもしようか。ドカ○ンってどんなゲームだろうか。楽しみだぜ。

 

 

 

――この日、ある時間帯に限っての話だが、彼らの友情は破壊された――




怒りの鉄拳とかよくやってました。しばらくやってリアルファイトに発展しかけたこともありますがw

いきなり話が変わります。
ハトの照り焼き様から素晴らしいイラストをいただきました。まさか私の作品に絵が入るとは思ってもいませんでした……。感無量です。


【挿絵表示】


このイラストはハトの照り焼き様がpixivにも掲載されています。他にもイラストが描かれているので良ければご覧になって下さい。

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=49797712







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