どうしてこうなった?   作:とんぱ
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前回のあらすじ?

キル「ああ! クラピカてめぇ!」
クラ「残念だが、武器屋を襲って賞金首になったお前が悪いのだよ」
アイ「そしてキルアの賞金を受け取ったクラピカから私がごっそりお金を奪います。行けゲッチューロボG!」
クラ「な、なんてことを!」
ゴン「うーん、またボスに負けちゃった。もっと強くならなくちゃ」



クラ「くっ、当たらん!」
キル「へへ、スピード型を舐めんなよ。さっきの仕返しじゃおらぁ!」
アイ「み、三つ巴で負けるなんて……ああ、私の武器を返してー!」
ゴン「トーレナいわのせいでダンジョンから出られない……」



キル・アイ「ぎゃあああ!」
クラ「魔力特化型のフィールド魔法には耐えられまい」
ゴン「……オレ何もしてないのに」



ゴン「もうこれで終わってもいい……だから……ありったけを」
アイ「全員逃げろー!!」
キル・クラ「え?」
アイ「ゴンがデビラーマンになった……! もうだめだ、おしまいだぁ」

ついに全てを捨ててデビラーマンになったゴン! 果たしてアイシャ達はこの先生きのこることが出来るのか!? 今までの諍いを捨てて、3人が一致団結する! 倒せ! 恐怖のデビラーゴン!

デビ「this way」




第三十二話

「ほらほら、へばってる場合じゃないわよ。回復するのはもっと後だからね」

「疲れている時だからこそ効果的な修行もあります。常に万全の状態でいられるとは思わないことです」

『6!!』

「はい正解。でもゴンとキルアは少し遅い。ゴンは500回、キルアは300回の腕立て伏せ」

 

 ぐぐっ! また負けた! クラピカの奴、反応速度が以前とは段違いだ! 聞いたところこの凝の修行をアイシャを相手にずっとやって、全敗し続けていたらしい。

 競う人数も増えたからアイシャを除いて3人で数字当ての修行をしたんだけど、その時初めて勝利したのが嬉しかったのか感動していたよ。もっとも、この数字当てで負けるのが習慣づいてしまったのか勝っても条件反射のように腕立て伏せをしてたけどな。

 アイシャ達がクラピカを見つめる目には申し訳なさと憐憫が籠もっていたよ……。

 

 しっかし、これがクラピカが受けていた修行か……。

 キツいのは確かだけど、修行自体は耐えられないもんじゃねー。電撃を浴びたり毒を飲んだり拷問や痛みに対する耐性を付けるとか、それこそ文字通り拷問のような修行じゃない。

 

 だが、問題なのはその密度だった。

 休む間もなく修行を詰め込まれ、ぶっ倒れるまで動かされるとビスケの【魔法美容師/マジカルエステ】で僅か30分で強制回復。そしてまた同じ修行が始まる。ただひたすらに周でシャベルにオーラを纏わせてから地面を掘る。掘って掘って掘り進む。

 ある程度掘ったら今度は掘り返した土を元に戻す。環境を出来るだけ壊したくないから同じ場所――ゴンの家の前の地面――でこれを繰り返している。

 

 確かに繰り返すと疲れはするし、シャベルをオーラで覆うのはかなり堪える。身体能力とオーラ量も増える一石二鳥の修行なのかもしれない。

 でも地面なんて掘るのは簡単だ。柔らかい土を掘るなんてシャベルにオーラを纏わせる必要もない。一度掘り起こして柔らかくなった地面なんてそれこそもう一度掘り返すのはどうってことはないだろうさ。

 

 だがそんな簡単な修行をアイシャがオレ達にさせる訳はなかった。

 本来簡単に掘り起こせる地面に対してオーラを纏わせたシャベルを使っている理由。それはオーラ増大の為だけではない。

 

 そうしないと地面が掘れなかったからだ……!

 

 アイシャのやろー!! 地面に対して周をするってどういうことだよ!

 

 アイシャが周をした地面はオレ達の力じゃシャベルを使っても掘り進むには難しく、オーラを纏ったシャベルなら何とか掘り進むことが出来る絶妙な硬さになっていた。

 そうして適度な硬さへと変化した地面を何度も何度も掘っては埋め、掘っては埋め。ただひたすらにこれを繰り返すという終わりの見えない、オレが受けていた拷問のような修行とは違った意味の拷問のような修行を受けさせられていた……。

 

 この修行で基礎能力と精神力、オーラ総量とそれを操る技術を向上させるのが修行の第一段階らしい。合間合間にアイシャとビスケによる念の講義と数字当てによる凝の修行も加えられている。

 

 クラピカはずっと点と纏、そして堅の持続時間を延ばす修行に専念している。たまにビスケと流を用いた修行――確か流々武を元にした修行とか言ってたか?――をしたり、アイシャと組手とかをしている。クラピカにすれば今までよりもずっと楽な修行のスケジュールらしい。

 ……本当にどんだけ過密な修行を施されていたんだ? もはやクラピカ魔改造計画と言われてもオレは信じるぜ。

 

 しかし、アイシャはマジでヤバい。どんだけ強いのかマジで分かんねぇ。

 こいつ、オレ達が掘っている地面を周で強化しながら本を読んだり筋トレしたりクラピカと組手したりビスケと組手したりしていやがる。それでいてオーラが尽きる所を見たことがない。どんなオーラ量してやがんだよ。

 

「今日の晩御飯は何にしましょうか。何かリクエストはありますか?」

 

 呑気に晩飯の話を持ちかけてくるアイシャ。

 話しかけているのは腕立ての後に穴を掘ってるオレ達にか? 怪しげな本を読んで悦に浸っているビスケにか? ……それともお前との組手の最中に今も宙を回り続けているクラピカにか?

 お、クラピカが回されながらも鎖をアイシャに巻きつけて…………鎖ごと回された。どうやった? なんで絡まってねぇんだよ?

 クラピカの三半規管が鍛えられる前にパンチドランカーが常時スキルとして身に付くかもしれないな……。

 

「何か、ひぃ、ひぃ、軽めのモノがいい……」

「オレも……。今、ぜぇ、ぜぇ、油っこいものは食いたくねー……」

「う、うぐっ。今日は、な、何も食べたくはないな。食えば、で、出る」

 

 3人とももはや虫の息だ。いくら体力が回復しようともこうもみっちり拷も……修行が詰まっていれば食欲もなくなるわ。

 

「なっさけないわねー。アイシャー、あたしはジャポン食が食べたいわねぇ。確か結構得意なんでしょ?」

「懐石料理とかは無理ですよ。そこまで本格的じゃないものなら多少はですが」

「それでいいわよ。アタシだって本職の様なのは求めてないし。それに家庭的な料理もいいもんよねー」

 

「あなたも自分で作ったらどうですか? 出来ないわけではないんでしょう?」

「やーよ。他人に作ってもらうのがいいんじゃない。いやしかし。周による地面強化は中々便利ねー。これなら穴掘りも場所を問わないしね」

「元々は風間流の投げのダメージを強化する為に使ってたんですけどね。念能力者相手ではただ地面に叩きつけただけでは効果が薄い事もありますから」

 

「意外な利用法ね。まあ、オーラ消耗は激しいけど」

「私の修行にもなって一石二鳥です。とても合理的でしょう?」

「ええそうね。穴掘りに使った山岳地帯を買う前に思いついたらもっと良かったわね」

「うっ……。ひ、必要に迫られないと出てこないアイデアもありますよ……」

 

 などと、オレ達が必死こいて修行してる横で楽しげに話してやがる。……ダメだ。怒鳴る気力もねぇ。

 

「うーん。そろそろ回復をお願い出来ますか? これ以上は逆に非効率でしょう。あ、クラピカは別ですが」

「はいはい。そんじゃあんた達横になりなさい。クッキィちゃんによる至福の一時をプレゼントしたげるわ。ただしクラピカは除く」

「こうして人々の間で徐々に軋轢が生まれ、それが差別へと繋がってしまうのだ。ここでその怨嗟を断ち切らねば後に大いなる災いとなって――」

「あんたまだまだ余裕でしょうが。ほれほれ、バカ言ってないで堅でもしていなさいな」

「解せぬ」

 

 クラピカの妙な言動にも慣れた。というかこんなのを続けていれば変になりもするよ。

 はあ、また回復か。今が午後3時くらいだから夕食までにもう一度穴掘りがあるな。確かに身体の疲労はなくなるけど、それよりも精神を休憩させたい。

 

「……ゴン、大丈夫か?」

「……なんとか。キルアは?」

「ギリギリ。もう動きたくねー」

「後30分で動けるようになるけどね……」

 

 はいその通りですよー。疲労が30分でなくなるなんて超便利。そう思っていた時期がオレにもあったよ。

 

「ふむ。しゃべる余裕があるとは。流石はゴンとキルア、これはもっとペースを上げても大丈夫そうですね」

『……………………』

 

 鬼だ。修行の時のこいつは鬼か悪魔だ。

 少し成長したら少し修行をキツくする。その修行でまた成長したら同じように修行がキツくなる。地面もなんか最初の時より硬くなっている気がする。明らかに籠めているオーラを強くしてるだろ?

 そしてどんなにキツくても身体は壊れることはないときた。何時まで経っても楽にならない。無限地獄だろこれって?

 

「みんなー! そろそろオヤツの用意が出来たわよー! 修行もいいけど、少し休憩したらどう?」

「ありがとうございますミトさん。それではお言葉に甘えて一時修行を中断しておやつとしましょうか」

「ミトさんありがとう!」

「やった! ミトさんマジ天使!」

「地獄に仏、いや女神とはこのことか」

「あはは、大袈裟ねー。今日はプリンを作ったから、ちゃんと手を洗って食べるのよ」

「はーい」

 

 大袈裟なもんか。これでしばらくは地獄から抜け出せる! ゆっくりじっくり味わって食うぜ!

 

「地獄に女神、ねぇ。それじゃあたし達はなんなのかしらねぇ?」

「いいでしょう。地獄らしく鬼にでも悪魔にでもなってあげましょう。それであなた達が強くなるなら本望ですよ。ふふふ」

 

 あ、まだ鬼だという自覚はなかったのか。

 ……このプリンが最後の食いもんになるかもしれないな。

 ゴンもクラピカもそう思ったのか屍人のような虚ろな表情でゴンの家へと戻っている。多分オレも同じような顔してんだろうな。

 

 …………本当によく味わおう。

 

 

 

「あんた達何も食べられないんじゃなかったの?」

「それはそれ。これはこれなんだよ」

「ミトさんのプリン絶品ですね。上に乗ってる生クリームが最高です」

「あー確かに旨いなこれ。しっかしあれだな。回復してもらったけど、筋肉のダルさまではなくならないんだな」

「ああ、それは肉体を酷使したせいで筋肉が傷ついているためだからな。疲労とオーラはともかく、傷ついた肉体までは癒せないようだ」

「そこまで万能じゃないわよ。まあ多少は回復も早くなりはするけどねー。それにしても、う~ん! やっぱり甘い物って最高よ~」

 

 それもそうか。そこまで回復してたら強力すぎだろ。それに筋肉の超回復による成長を妨げるかもしれないしな。修行っていう点で考えたら最適だなコイツの能力は。

 

「ねえアイシャ。グリードアイランドについては本当にあのやり方で大丈夫なの?」

「ええ。ソフトを手に入れるのが非常に困難な私たちではこれが最善です」

 

 グリードアイランドか。

 確かに100億以上するかもしれないソフトをオレ達が買うのはまず無理だろ。今度のヨークシンのオークションで数本流れるらしいけど、それもアイシャが言うにはバッテラって奴が全部買うだろうって話だしな。オークションともなれば下手すりゃ100億じゃきかないかもしれない。

 

 だからこそアイシャの言っていた方法。

 グリードアイランドを買ったバッテラのお眼鏡に適ってグリードアイランドをプレイする。この方法が一番現実的だ。

 

 そりゃグリードアイランドを買うならそれに合わせてプレイヤーも必要になるだろう。その為の念能力者を募集していても可笑しくはない。現にビスケの話だと今までにも何回か募集があったらしい。

 

 今回も既にハンターサイトや限られた者が見ることの出来るサイトで募集の広告が載っていたみたいだ。ビスケもその募集を見てプレイヤーの選考会に参加するつもりらしい。それにアイシャもその選考会に参加するって話だった。

 

「ゴンがグリードアイランドを手に入れたいというなら話はまた別ですが、ゲームをプレイしたいのならこの方法が確実でしょう」

「うん。オレはジンが作ったゲームをしてみたいだけだよ。ゲームそのものが手に入らなくてもいい」

「まあ選考会で合格しなければ意味はないけどねー」

「オレ達じゃ合格できないってのか?」

「さあ? 多分グリードアイランドの経験者が審査をすると思うわ。だからグリードアイランドの難易度次第で合格の基準も変わるでしょうね。まああたしが審査員だったら今のあんた達は不合格だけどね」

 

 今は、か。なら答えは簡単だな。

 

「今で無理ならもっと強くなってみせるよ」

「そういうこと。その内追い越してやるから楽しみにしてろよな」

 

 ゴンも同じ思いのようだな。そうだ。オレ達がこのままなわけがない。

 明日は今日よりも強くなっている。明後日には明日よりも強くなるように努力する。ただそれだけのことさ。

 

「前向きで何よりだわさ」

「ふふ。わざわざ意地の悪い言い方をしなくてもいいでしょうに」

「ま、ちょっと気を引き締めてやろうと思ったんだけど。必要なさそうねこれなら」

 

 当然だ。生っちょろい覚悟なんてしてないぜ。例え地獄のような修行でも人間死ぬ気になれば大抵のことは何とかなるもんさ。クラピカに耐えられてオレ達が耐えられない道理はない!

 

「まあ、万が一にも不合格にならないように修行を組むつもりですけどね。あと2ヶ月切ってますからね。キルアの希望でもありましたし、クラピカ以上の超ハードコースで行きましょう」

「ニゲロ」

「何で片言!? てかホントにくじら島に来てからの修行でも超ハードじゃないのかよ……」

 

 確かに軽めとは言ってたけどよ。これ以上のをクラピカは4ヶ月も耐えたのか。そらキャラもブレイクするわ。

 

「まあ、多少ハードではありましたね。でも睡眠中は何もしていませんし、まだ堅による防御や流の修行もしていませんから。これからは寝ている時も修行ですね。時折奇襲を掛けますから油断してはダメですよ。

 寝る前にはビスケの回復はしませんよ? 疲れて眠るからこその修行です。翌日に疲れを残さないようしっかりと休みつつ、油断もしないでくださいね。

 ああ、組手もしなければ。風間流の道場で色んな念能力者と戦えるからいい経験になりますよ。どんな方たちがいるか楽しみですね。

 後は系統別修行もしたいところですが、流石に無理でしょう。まあこれはグリードアイランドの中ですればいいでしょう。体内オーラを操作する修行もしたいですね。後は――」

 

「ミトさん、オレをここまで育ててくれてありがとう」

「落ち着けゴン。今ミトさんは買い物に出かけている」

「次にくじら島から出る船の日にちと時刻はっと……」

「お前もだキルア。私よりも強くなるんだろう!?」

 

 んなの生きてこその話だろうが! 今の話じゃ1日24時間365日修行としか思えねーよ!! 俺んちでもそこまでじゃないわ!!

 

「マジで超ハードコースね。今のを9月までに詰め込むの? ……これって死んでもあたしの責任にならないわよね」

「…………」

「いや何とか言いなさいよ」

 

 指導する側で責任のなすり合いが勃発しかかってんだけど?

 それよりも死ぬことを前提として話を進めてんじゃねぇよ。

 

「大丈夫です! 9月にヨークシンに行くまでの間だけですから! そこからは本来のペースに戻しますよ?」

『疑問形で終わらせないで!』

 

 こんな調子でくじら島での旅行という名を借りたナニカが過ぎていった。

 

 ……ナニカ? なんか気になる言葉だな。……なんだったっけ?

 

 

 

 

 

 

 夕食後の修行により皆がクタクタになって寝静まった頃を見計らってゆっくりと気配を消して起き上がる。目的はもちろん奇襲だ。さて、誰にしよっかな~。

 

 3人とも同じ部屋で寝ているのがネックだな。部屋数が限られているから仕方ないけど。しかしゴンもキルアも流石だな。修行始めてそれほども経ってないのに、目に見える程のスピードで成長している。いくらビスケのサポートがあるとはいえ、これは才能としか言い様がないな。もちろんそれ以上に努力しているからだけど。

 

 これなら9月までにはグリードアイランドの選考会に合格出来るレベルには到達するだろう。現在でも既に凡百の念能力者では勝てなくなっているしね。

 

 ……ん? ビスケの奴、本当に寝入っているな。こいつめ、夜の奇襲は私に全部任せる気じゃないだろうな? もしそうだったらビスケに奇襲してやろうか?

 同じことが続けばそうしようっと。

 

 おや? 居間に誰か……って、ミトさんか。そういえば寝室にいなかったな。

 どうしたんだろう? もう深夜を過ぎているのに。お酒でも飲んでいるのかな?

 

「ミトさん。まだ起きていたんですね」

「あら。アイシャちゃんじゃない。どうしたの? 眠れなかった?」

「いえ。少しゴン達に奇襲を仕掛けようかと」

 

 あ、やっぱりお酒呑んでいるや。少し酔っ払っているかな? しかし、聞かれたので素直に答えてしまったけど、これってどうなんだろうか?

 

「いや奇襲って。ダメよ女の子がそんなことしちゃ。もっと自分を大事にしなさい!」

「え? いや私は別に……」

 

 やっぱり少し酔っているみたいだ。このままでは絡まれて時間がなくなってしまう。そうなる前に脱出だ! こんな所にいられるかー! 私はゴン達の寝室に逃げるぞー!

 

 アイシャは 逃げ出した!

 

「こら。大人の言うことは聞いておくものよ。もう、本当にゴンはどうしてこうなっちゃったのかしら? 昔は素直でいい子……まあ、今もそうだけど。はぁ、どうしてハンターなんかに興味持っちゃったのかしら……?」

 

 しかし回り込まれてしまった!

 知らなかったのか? 酔っぱらいからは逃げられない。

 ……まあ、ミトさんにはお世話になっているし、少し愚痴を聞くくらいはいいか。

 

「ねえ、聞いてるの?」

「えっと、お父さんに憧れてじゃないんですか?」

 

 ゴンがハンターになったのはお父さんみたいなハンターを目指すためって聞いたんだけど? もっともゴンはお父さんがどんなハンターか知らないみたいだけど。

 

「うん、まあそうなんだけどね。私はゴンにジンのこと……あ、ゴンの父親ね。ジンがハンターだって教えていなかったのよ。それなのに何時の間にかゴンはジンに憧れててね……。あんなのにどうして憧れるのかしら?」

「……ミトさんは、ジンさんのことが好きなんですね」

「は!? え!? な、何を言うのよ! どうして私がジンなんかを!!」

 

 そんな風に否定しているけど、ミトさんがジンの話をしている時の感情には怒りはあったが嫌悪は見られなかった。

 不満もある、軽蔑もある、嫉妬もあった。だがそれらは全て愛情の裏返しだろう。きっと好きな人が自分の知らない世界に1人だけ行ってしまって、しかもゴンという子どもまで作っていたから色々な感情がごちゃ混ぜになっているんだろう。

 

「私があんな奴を好きだなんてアイシャちゃんの気のせいよ! 知ってるアイシャちゃん!? あいつはゴンがくじら島に預けてから一度もゴンに会いに来てないのよ! そんなロクデナシを好きになるなんて絶対にないわ!」

 

 うーん、どうやら自分でも気づいてないか、気づいているけど認めたくないというか。……それも仕方ないか。ミトさんの立場だと素直になれないのも分かる。いまさらって感情が強くなるんだろう。

 

 でもミトさんみたいな良い人がこんな所で燻っているのも勿体無いな。見た目も器量もいいし、結婚話とかないんだろうか? ミトさんなら相手は選り取りみどりだろうに。

 

「いいアイシャちゃん。アイシャちゃんはあんなロクデナシのような男に惚れちゃダメよ。最後に泣くのは女の方なんだから!」

 

 あ、それってミトさんがジンさんに惚れているって言っちゃってるようなもんですよ?

 

「アイシャちゃんは少し世間知らずな所があるし、自分のことに無頓着だからダメな男に騙されそうで心配よ」

「え!? そ、そんなことはないですから!」

 

 男と一緒になる気はないから! 私は早く男に戻ってもう一度青春をやり直すんだ!

 今の私は男性にも女性にも恋が出来ない中途半端な存在。でも男に戻りさえすればこの中途半端な性のズレもなくなるはず!

 

「そんなことあるわよ。今日もブラを付けずに上半身は肌着だけの薄着で夕食を食べていたでしょ! アイシャちゃんのそれは男の人の目に毒なのよ。飢えた獣の前で霜降り肉を見せびらかしてどうするのよ。アイシャちゃんは強いみたいだけど、今に自分よりも強い人に襲われちゃうわよ?」

 

 えっと、私よりも強い人ってネテロくらいしか今のところ思いつかないんですけど? ネテロに襲われる? 性的に? はは、ないない。あいつはそんな、そんな奴じゃ…………あいつ、結構スケベだったな。

 ……まあネテロが私に欲情するなんてないだろう。私がリュウショウだって知っていてそんな考えを持つ奴じゃないさ。

 でも私以上に強い人がいないとは限らないし、確かに注意した方がいいのかな?

 

「分かりました。今度から気をつけます」

「分かればいいのよ。アイシャちゃんはいい子ねー。それに比べてゴンは……」

「ゴンは私なんかよりも良い子ですよ」

 

 これはお世辞なんかじゃなくて本音だ。

 ゴンは誰よりも純粋で純心だ。一度人を信じたら疑うことはなく、それでいて人を見る目もある。あの子の純粋さに毒気を抜かれた人は多いだろう。

 それゆえに危うい所も多いんだけど。目が離せない弟って感じだな。

 

「うん。ゴンがいい子なのは知ってるのよ。でも、心配なのよ……。大怪我をしていないか、騙されたりしてないか……。親子って離れていても似るものなのかしら? 結局私は心配しながら待つことしか出来ないのよ」

「……ミトさん。……心配して待つこと以外にも、出来ることはありますよ」

「え? それって――」

「――信じて待つことです」

「信じて……って、結局待つことに変わりはないのね……?」

「ええ。同じ待つなら心配するより信じて待った方がいいですよ。その方が建設的です。ゴンはジンさんと似ているかもしれないけど、やっぱりゴンはゴンなんです。ジンさんとは違いますよ。

 こうしてちゃんとミトさんに会いに戻ってきたじゃないですか。……それに、心配するだけ無駄そうですしね、ゴンって」

 

 これも本音だったりする。確かに安心出来ない性格をしてるけど、多分あれはもう治らないレベルの性格だ。

 だったら心配してもこっちの心が滅入るだけ。それなら何があってもゴンならきっと大丈夫。乗り越えられるはずだと信じた方がよほどいい。

 

「ぷっ、あはは! あー、確かにそうかもしれないわね。心配するだけ無駄、か。そうね。何だかそんな気がしてきたわ。同じ待つなら信じた方がいいわね。……それに、ジンとゴンが似ていてもやっぱり違うってこと、私が一番分かってなきゃダメなことよね」

 

 良かった。空元気とかじゃなくて本当に元気になってくれたようだ。愚痴を聞いた甲斐があったというものだ。

 

「ごめんなさいね、私の愚痴に付き合ってもらったみたいで」

「何のことですか? 私はゴンの昔の話とか聞きたいからこうしてミトさんと一緒にいるんですよ」

「ふふ。ありがとう。それじゃそうね、どんな話をしようかしら――」

 

 そうしてミトさんから小さい頃のゴンやジンさんの話を聞いたり、私がハンター試験からのゴンの話をしたりと、楽しく会話しながら夜は更けていった。

 

 結局一度も奇襲を仕掛けなかったけど、まあいっか。

 

 

 

 くじら島で2週間ほど滞在し、そろそろ風間流の本部道場へ行くこととなった。

 9月まで残り僅か。当初の予定では1週間程で島を出て行こうと思っていたが、ミトさんを思うと少し躊躇われた。せっかく再会したんだ。ゆっくりと話もしたかったろうしね。

 ……本当はもっと一緒にさせてあげたかったんだけど、風間流への移動時間や修行のことを考えるとこれ以上くじら島でのんびり(?)とするわけにも行かなかった。

 

 予定より風間流での修行時間は少なくなったけど、その分基礎訓練を充実して行うことが出来たのだからいいだろう。

 クラピカも堅の持続時間が4時間以上に達したことだし言うことなしだ。堅の持続時間を10分延ばすのに1ヶ月は掛かると言われているのに大したものである。

 ゴンとキルアの穴掘り修行も順調だ。2人とも見違えるくらいに身体能力が向上した。

 

 夜襲においてゴンはまだまだだったが、キルアはさすがの反応を見せてくれた。元々そういう訓練もしていたんだろう。訓練当初のクラピカよりも反応は上々だった。ゴンも段々と反応が良くなって、今では僅かな空気の動きも察知するようになってきた。成長が早くて何よりだよ。

 

「いい。あんまり危ないことに首を突っ込んじゃダメだからね。それと修行もいいけど身体には気を付けるのよ。アイシャちゃんの言うことをしっかりと聞くこと。あと――」

「大丈夫だってば。分かってるよミトさん」

 

 いま、ミトさんとゴンが別れの挨拶をしている。

 心配するだけ無駄かもしれないけど、だからと言って注意をしないわけではないのだろう。

 ちなみに分かっていると言っているゴンだが、その言葉を信用することが出来ない私である。ゴンは絶対に何らかのトラブルに首を突っ込む。そうとしか思えない。

 

「アイシャちゃん、ゴンをよろしくね。きっとこの子は感情に任せて突っ走ってしまうことがあるだろうから」

「はい、任せてください」

 

 私も同意見だしね、力強く頷くとする。ミトさんみたいな人に心配されているゴンは本当に幸せ者だよ。

 ……ミトさんとゴンを見ていると何だか無性に母さんに会いたくなってきたな。もう会えないけど、それでも母さんの遺体のあるお墓を参ることはできる。

 

 この島にいる間にお墓のある場所は確認できた。物は試しとハンターサイトで父さんのファミリー――コーザファミリーを調べてみたら検索に引っかかった。

 母さんのお墓は父さんの家、つまりはコーザファミリーの本家にあるようだ。そしてコーザファミリーは風間流の本家道場のある街、アームストルの近くに本拠地を置いている。

 私もリュウショウ時代には幾度と名を聞いたことがあるマフィアのファミリーだ。私(リュウショウ)とは向こうから関わることはなく、一般人に危害を加えるような連中ではなかったので私も特に関わろうとは思わなかった。

 

 本拠地のある場所も知っている。風間流本部からならさほど時間もかからないだろう。

 ……折を見て母さんのお墓を訪ねてみよう。私を産んで死んでしまった母さんに謝りたい、お礼を言いたい。いま私は大切な友達に囲まれて楽しく生きているって報告したい。

 

 父さんはどうしたらいいだろうか……? きっと父さんは私は死んでいると思っているはずだ。いや、例え生きていると思っていたとしても、私が母さんの事や父さんの事を知っているとは思っていないだろう。私がそれを知っているのは母さんの念のおかげなんだから。

 

 ……父さんは私が生きていると知ったらどうするだろうか? ……きっと私を赦さないだろう。

 私も赦されるとは思っていない。私があの人にした事がどれほどの事か。それは私では測りかねることだ。それなのに。あの人がどれほどの悲しみと憎しみで今もその心を覆っているかもしれないというのに、私だけがのうのうと生きているわけにはいかない。

 会ってどうしたらいいか分からないけど、でも、それでも…………会わなくてはいけないと思う。

 

 

 

「それじゃミトさん! 行ってくるね!」

「何時でも帰ってきなさい! ここはアナタの家なんだから!」

 

 別れの挨拶もすみ、くじら島を出立する。新たな旅立ちに意気揚々と船に乗り込む私たち。

 

「くじら島ともこれでお別れか」

「ふむ。そんなに愛着が湧いたのかキルア?」

「ん~、まあちっとはな。ミトさんも良い人だったしな~。また釣りでもしに来たいね」

「時間が出来たらまた来てよ。きっとミトさんも歓迎してくれるよ」

「そうですね。今度来た時は修行は程々にもっとゆっくりしましょう」

『あ、程々にはするんだ』

「仲が良いようで何よりだわね」

 

 うんうん。その内3人がかりで私と組手でもしてみようかな。この3人なら息の合ったコンビネーションを見せてくれそうだしね。

 

 そうして船に乗って海の旅。くじら島に来た時も乗ったけど、船長は残念ながらおじ様ではなかった。おじ様だったら色々と楽しかっただろうになぁ。

 今頃はどこかの海を航海しているのかな。ハンターにもなれたし、会ってお礼を言いたかったな。

 

「次は風間流の本部か。どんな連中がいるのか楽しみだな」

「甘く見てると大怪我するわよ。本部にいる念能力者は一流ぞろいよ。体術も念もね。……1人を除いてだけど」

 

 ふむ。私が居なくなって約14年か。当時の師範代クラスも成長しているだろうし、新たな師範代や師範も増えているだろう。その内の幾十人は恐らく支部に回っているから、本部にいる師範代クラスは10人くらいかな?

 私も楽しみだなー。知らない門下生も大勢増えているだろうし、かつての弟子たちがどれほど成長したのかと思うとワクワクする。

 

「流石にアイシャも泳いでヨルビアン大陸まで行けとは言わないみたいねー」

「いや当たり前ですよ。私を何だと思っているんですか?」

 

 泳いでヨルビアン大陸って、一体何日掛けて泳がなきゃいけないんだ? いくら何でも死んでしまう。海には何がいるか分からないし、休憩も出来ないんだぞ?

 

「(アイシャなら言いかねないと思ってしまったのだが?)」

「(ああ。オレもだ。言われたらくじら島に逃げ込む気だったぜ)」

「(2人とも、流石にアイシャもそこまでは……言わないよ?)」

 

 何やらコソコソとナイショ話しているようだが、凝で聴力を強化してやろうか? 大体何を言ってるか予想がつくのが悲しい……。

 ……ちょっとだけ修行のペースを落とそうかな。

 

「それじゃあ3人とも」

「な、何だ!?」

「待て話せば分かる」

「ミトさんとの再会も早くなりそうだなー」

 

 おい。本当に私を何だと思っているんだ?

 ふー、落ち着け。彼らはまだまだひよっ子なんだ。修行がキツイと思うのは仕方のないことだ。私があの拷問のような修行を乗り越えられたのは【絶対遵守/ギアス】あっての事だろう。それがない素の彼らがこの修行に耐えているんだ。こうなっても仕方ないことさ。だから少しくらい身体と心を休ませてあげるべきだろう。

 

「3人とも、今日は修行は無しにしましょう。身体を休めながらゆっくりと船旅を楽しむとしましょう」

「ゴン!」

「うん! ……熱はないよ!」

 

「クラピカ!」

「ああ! ……脈は正常だ!」

 

「ビスケ!」

「ええ! ……近くに敵の気配はないわ!」

「くっ! 念能力で操作されてるわけでもないのかよ!」

「ぶん投げますよアナタ達」

 

 私の言葉に反応して即座に私のバイタルチェックをするとはどういう了見だおい。阿吽の呼吸とはこのことか。本当にいいコンビネーションだよ。そしてビスケ、私にその手の能力が効かないことは知っているだろう? 悪乗りするんじゃない。

 

「私は正気ですよ! たまには休息日をと思っていましたが、どうやら必要ないようですね! ついでですからビスケも一緒に稽古してあげますよ?」

「いい? 私が何とか10秒間アイシャを抑えるからその間にクラピカは鎖でアイシャを拘束。そしたらゴンとキルアが前後から上半身と下半身に攻撃を分けて挟み撃ちよ。その隙に私がアイシャを海に叩き落とすわ。タイミングが全てよ。一瞬でもしくったら……死ぬわよ」

「クソッ! こうなったらやぶれかぶれだ! やってやるさ!」

「ここで死ぬわけにはいかない。アイシャ、全力で抗わせてもらうぞ!」

「えっと、どうしてこうなったのかな……?」

 

 それは私にも分からない。

 ちょうどいいからこのままゴン達の集団戦闘の稽古をするとしよう。

 

 

 

 …………船が沈まずにヨルビアンに着いたのは運が良かったと思う。




船ダイン「ぐわああああああーーッッ!!」







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