どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第三十八話

 レオリオがドミニクを治療している間のこと。

 ゴン達は治療の妨げとなる可能性のあるマフィア達がレオリオに近づかないよう足止めをする役を担っていた。3人がそれぞれ分かれ、レオリオが治療している場所へと繋がる道を封鎖する。それが3人が考えた取り敢えずの措置だ。

 

 3人にとってマフィア程度はどうということはなく、怪しまれると即座に気絶させ路地裏に隠すという作業をしばらく続けていた。その中でキルアはマフィアから情報を手に入れる。もちろんマフィアの善意の協力ではなく脅してであったが。

 それで分かったのは何者かによる襲撃があり、地下競売の客の大半が殺されたことと、その犯人を今も探しているという話だけだった。

 

 キルアはこの情報から襲撃者が幻影旅団である可能性が非常に高いものだと判断した。マフィア全てを敵に回すような異常極まりない馬鹿な真似をする者が他に早々いるとは思えなかったからだ。そして思い出す、3年前の父の言葉を。

 

『割に合わない仕事だった』

 

 それは旅団の1人を仕事で暗殺した後のシルバのぼやきだった。

 その言葉は暗殺一家の長、シルバ=ゾルディックにとっての標的に対する最大の賛辞であり、その言葉に続けて息子たちに忠告を促す。『旅団には手を出すな』と。

 

 父親のその話から3年が過ぎている。その間に成長もしたし念も覚えた。以前の自分とは訳が違う。だが上には上がいるとアイシャやビスケ、そして風間流道場で嫌になるほど教わった。

 

 今の自分が旅団相手に勝てるのか? オヤジですら手こずった相手に?

 

 一度その思考に囚われてしまうともう抜け出せなくなってしまう。キルアの中では旅団は最大級の敵に昇格しており、自分では手に負えない敵だと思い込み出す。

 そしてキルアは思いつく。別に旅団と戦う必要はないじゃないか、と。

 

 今は旅団の方が強いかもしれないけど、いつか必ずオレは旅団よりも強くなる。ゴンもクラピカもそしてレオリオもそうだ。だからここは一旦引くべきだ。無理をする時じゃあない。

 そう、自分を納得させるように自身に問いかけながらもキルアは気づかない。それは間違ってはいないが、逃げの思考であることに。

 

 

 

 思考に耽っていたキルアは何時の間にかマフィアの姿が途切れていることにふと気づく。今までは気絶させても何処から湧いてくるのかと言わんばかりに現れていたマフィアが今はどこにもいない。キルアにとっては都合が良いので問題はないのだが妙に気になる。

 

 その時だ。路地裏から何かの音がする。マフィアが目覚めたのかと疑問に思うキルア。

 

「チッ。加減ミスったか? 丸1日は起きれないようにしたつもりだけどな」

 

 独りごちるキルア。だがその音は携帯電話の発信音だった。マフィアの持っている携帯電話が鳴っているだけだった。

 なんだ、と拍子抜けしたキルアは何か可笑しいことに気づく。鳴っている電話が1つや2つではないのだ。気絶しているマフィアのほぼ全員の身体から携帯電話の着信音がする。

 

「どういうことだ? なんでこんな一斉に?」

 

 疑問に思いつつも鳴っている電話の1つを取り画面を見る。その画面に書かれている名前はもちろんキルアの知らない名前だ。だがキルアは着信ボタンを押し堂々と電話に出た。普段なら無視するだろうが、あまりにも同時に着信が来たので気になったのだ。

 

「もしもし?」

『おせーぞ何やってたんだ!? は、早く応援に来い! 敵襲だ!!』

 

 そこから聞こえたのはマフィアであろう男の声。その声は平常時のそれとは思えず、明らかに焦っている様子を見せていた。

 

「敵襲? 相手は何人だ。場所は?」

『1人だ! 場所は3番道路沿いの――ぐひゅえ!』

 

 奇妙な声とともに何かがひしゃげる様な音が聞こえてそこから男は何も言わなくなった。

 

「ちっ!」

 

 男が死んだことで情報を得られなくなったことに苛立ちを見せるが、電話はまだ繋がっているのでそのまま耳を澄ましてみる。すると聞こえてくるのは大量の銃声と悲鳴、それに混じって聞こえる1人の男の大笑い。そこは戦場だとキルアは理解する。恐らくは幻影旅団。その内の1人がマフィアと抗争しているのだろう。

 

 どうするか? このままここで治療が終わるのを待つ? それとも一旦ゴン達と合流する? マフィアはもういない。恐らくは動けるマフィアは全員がその戦場へと趣いているだろう。ならばここは一度ゴン達と合流するべきだ。ここに残っても1人で動いても、旅団とぶつかれば目も当てられない事態になる。

 

 そう判断したキルアはすぐに行動に移った。……未だ見てもいない敵を内面で強大にしながら。

 

 

 

「ゴン! キルア! どうやら無事のようだな」

「クラピカ!」

「良し。取り敢えず合流出来たな。レオリオはまだ治療中か?」

 

 レオリオが治療中の路地に入る道は3つ。ちょうど3人いたのでそれぞれの入口付近で別れて警護していた3人は、中央の道を見張っていたゴンの下に集合していた。

 

「2人とも、マフィアの様子がオカシイのは分かっているな?」

「うん、急に誰も来なくなったし、さっきからマフィアのケータイが何度も鳴っているんだ」

「ああ、何かが起こっているようだ……」

「……マフィアの話を聞いた。どうもまた襲撃を受けているみたいだ」

「なに! 幻影旅団か!?」

 

 キルアの言葉に驚愕しそのままキルアに詰め寄るクラピカ。その反応を見て失言をしたとキルアは内心で舌打ちをする。幻影旅団に対して復讐心を抱くクラピカにこんなことを話せばこういう反応をして当然だった、と。

 だが今さら誤魔化すのも無理だと悟り取り敢えず知っている情報を話す。

 

「幻影旅団かどうかは分からないけど、マフィアと何かが交戦しているのは確かだ。マフィアの話では相手は1人みたいだけど、圧倒的な強さでマフィアとやり合っているみたいだ」

「場所は!?」

「3番道路……っておい! どこに行く気だよ!?」

 

 キルアの話を聞くやいなや直様に身をひるがえし走り去ろうとするクラピカ。

 

「お前たちは着いてくるな! アイシャとレオリオを守ってやれ!」

「バカ野郎! 幻影旅団相手に1人で戦う気かよ!」

「これは私の問題だ! お前たちを巻き込むわけにはいかない!」

 

 そう言ってオーラを全開にしてクラピカは駆けていく。そしてキルアの隣では同じようにオーラを全開にし、クラピカを追いかけようとするゴンがいた。

 

「おい! お前まで行く気かよ!」

「今のクラピカを1人にはさせられないよ! オレは大丈夫だからキルアはここに残ってて!」

「ゴン!! ……クソっ!」

 

 そう言ってゴンもまたクラピカの後を追い駆けていった。残ったキルアは僅かに逡巡するも、意を決してゴン達を追いかける為に走り出す。

 

 ――3人揃って、なおかつ相手が1人なら。頼むから他の旅団はいないでくれよ――

 

 そう願い、キルアは旅団との戦いに身を投じる決心をつける。

 だが1つだけ気になることがキルアにあった。

 

――なんだろう? 頭が酷く痛むな――

 

 キルアを苛む愛(呪い)は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】の効果により膨大な筋肉を身に付けたウボォーギン。元々ウボォーギンは旅団最強の肉体の持ち主だ。それが【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】によって更に増幅したとなるともはや人の範疇に収まるレベルとは思えない筋量となっていた。

 そしてその力は早々に示された。土中から現れ不意を打ってきた陰獣の1人、蚯蚓をたった一撃、それも決して全力とは言えない程度の一撃でその身体を微塵と化したことで。

 念能力によって爆発的に進化した筋肉を莫大なオーラによって強化する。これにより今のウボォーギンは並の念能力者では想像もつかない程の攻撃力と防御力を有していたのだ。

 

「他の面子はもう少しで来るはずだ! それまでオレ達がコイツを抑えるんだ!」

 

 ウボォーギンと対峙する陰獣の1人、蛭は恐怖を押し殺しながらそう叫ぶ。自分たちマフィアを襲撃している馬鹿を始末する為にこうしてこの場に現れたのだが、ここまで圧倒的な念能力者と対峙するとは夢にも思っていなかったのだ。

 マフィアにおいて己たちは最強だという自負があった。世界で最強などとは夢にも思わないが、それでも数少ない強者だという自信があった。

 

 それがどうだ。目の前にいる男が放つオーラ。そして人間がその身に裁量出来る量を明らかに上回ると思われる筋肉。そこから繰り出された攻撃は仲間である陰獣の1人をいとも容易く打ち砕いてしまったのだ。

 それを見た瞬間に蛭の己の強さに対する自信は砕け散った。今この場に残っているのは陰獣としての僅かな矜持と、逃げ出した所でマフィアによる粛清が待っているという現実の為だった。

 

「ビビんじゃねー! 所詮はただの筋肉馬鹿だ! 囲んで翻弄しちまえばどうってことはねぇ!!」

「そうなんだなうん。どんなに威力があっても当たらなければ意味ないな、うん」

 

 仲間からの言葉に蛭は多少の冷静さを取り戻す。落ち着いて見ると敵の肉体はこれでもかと言うほどに筋肉に覆われている。これほどの巨体がまともなスピードで動けるとは蛭には思えなかった。

 

 病犬(やまいぬ)の言うように3方から取り囲み翻弄してしまえばまともに当てることが出来なくなるだろう。

 豪猪(やまあらし)の言うようにどれほど威力があろうとも当たらなければどんな攻撃も意味はないだろう。

 殺られてしまった蚯蚓は迂闊に敵の攻撃範囲に入ってしまっただけだ。そう、蛭は恐怖を希望によって塗り替えた。

 

「はは、そうだな。他の陰獣を呼ぶまでもなかったか?」

「念には念だ。万が一にもしくじる訳にはいかねぇんだ。この筋肉馬鹿にマトモなダメージを与えられないかもしれないしな」

「ああ、そうだな」

 

 病犬のその言葉に賛同の意を示すように頷く蛭。不意を打ったはずの蚯蚓の一撃で然したるダメージを受けているようには見えないのだ。例え翻弄したとしても倒すことが出来ないのでは意味がない。いずれこちらが殺られてしまうだろう。

 

 だが――

 

 チラリと病犬の顔を見る蛭。それに対し病犬は鋭く尖った牙を見せ小さく頷いた。

 病犬はその名前の如く噛み付きを得意とし戦法に組み込んでおり、その牙には強力な神経毒が仕込まれていた。一度人体に打ち込まれれば首から下の身体の自由を奪う毒だ。逆を言えば首から上は神経毒の影響を受けず、身体が動かないまま痛みや恐怖を味わうことになる。拷問好きの毒と言えよう。

 

 病犬の嗜好がどうあれ、その牙の一撃さえ通れば確実に勝利出来る。そう思い至った蛭はもう恐怖を忘れ、早くも敵であるウボォーギンをどう料理するか考えていた。

 

「よう。オレを倒す相談はもういいのか? なんなら仲間が来るまで待ってやっててもいいんだぜ」

 

 ウボォーギンは陰獣が仲間を呼んでいる間も、自身を倒す算段を付けている間も何もせずただ腕を組んで仁王立ちして待ち構えていた。別に陰獣に情けを掛けたわけではない。アジトへと帰還する仲間の為に少しでも長く時間を稼ぐためだった。陰獣に仲間を呼ばせたのも、仲間の元に他の陰獣を行かせないためだ。

 

 全ては仲間を護る為に!

 

「舐めんじゃねーよ筋肉ダルマが」

「調子に乗ってるなこいつ、うん」

「吠え面かかせてやるぜこのデカブツが!」

 

 ウボォーギンの言葉を挑発として受け取った陰獣たちは打ち合わせ通りに3方向に別れてウボォーギンを取り囲む。陰獣たちは一定の距離を保ち、容易にウボォーギンの攻撃圏内に入ろうとしない。どれほど強い言葉を吐こうとも、やはりウボォーギンの力を警戒しているのは見て取れていた。

 

 先手を取ったのは豪猪だった。

 全身の体毛を操作し自由に操る。それが豪猪の能力。それによって豪猪の身体からは大量の体毛が数十cmも伸びる。その伸びた体毛をオーラで強化し針のように鋭く尖らす。そしてそれをウボォーギンに向けて――大量に撃ち出した。

 

 体毛が伸びてしかも銃弾のように撃ち出してくるとは流石に予想外だったウボォーギンだが、その体毛に篭められたオーラからさほど脅威ではないと判断する。

 躱すまでもなく、そのままオーラと肉体の防御力に任せて毛針を弾くが、それでも豪猪に一瞬だが気を取られたのは事実。

 

 その一瞬の隙に蛭がウボォーギンの視界に入り攻撃を加えようとオーラを高めて迫る。だがそれは陽動だった。豪猪が作った隙を利用して攻撃を加えるフリをして、ウボォーギンの意識を自身に集中させるための囮。

 

 本命の一撃は病犬の牙。仕込んだ毒によって敵の行動を奪ってしまえば後は煮るなり焼くなり好き放題だ。

 ウボォーギンの身体は筋肉の鎧とそれをさらに強化するオーラで守られている。全オーラを防御に回されれば病犬の鋭い牙でも貫けないかもしれないほどだ。だが、そのオーラも意識が別に逸れてしまえばどうだろう? 眼前に迫り来る蛭に対して迎撃の動きを見せるウボォーギンは自然とそのオーラを拳や腕、そして足といった攻撃に用いる箇所に集中させるだろう。

 そしてそれは攻撃の瞬間にはそれ以外の箇所のオーラは自然と少なくなるということだ。そこを突いて牙を穿つ! それが陰獣の作戦だった。

 

 そしてその作戦は……圧倒的な力の前に何の意味を為さずに散ることとなった。

 

 筋肉で肥大化した巨体でマトモなスピードが出るわけがない。付けすぎた筋肉が動きを阻害するだろう。その陰獣たちの考えは……真っ向から否定された。

 

 意識を己に向けさせるためにウボォーギンの懐に飛び込もうとした蛭に対して間合いを詰めるウボォーギン。その強靭な脚で大地を踏みしめコンクリートが陥没し弾けるほどの踏み込みを生み出し、蛭の予想を遥かに上回る速度で間合いを詰めていた。

 

「え?」

 

 その間抜けな一言が蛭が発した最期の言葉となった。

 想像を遥かに超える速度に面食らった蛭ではウボォーギンの攻撃を避けることは出来ず、蚯蚓と同じように肉体を四散させてこの世を去ることとなった。

 

 またも仲間を殺された陰獣だが、それで攻撃の手を止めるような連中ではない。彼らとて闇社会を生き抜いてきた猛者なのだから。蛭が殺されたのは計算外だったが、それでも攻撃後の一瞬の隙をついて牙を突き立てるには逆に好都合だった。ここで確実に無力化しないと後がなくなるかもしれない。この機会を逃さんと、病犬は全力を以てして最もオーラが少なくなっている背中に対して噛み付き攻撃を敢行する。

 

 ――殺った!――

 

 そう思った病犬の目の前にあったのは、すでに病犬に振り向いて、拳を振りぬこうとしているウボォーギンだった。

 

「は、はや――」

 

 言葉を最後まで言い切ることなく頭部を木っ端微塵に吹き飛ばされ、病犬は力なく崩れ落ちた。それに驚愕したのはたった1人残された豪猪だ。

 

 ――何故!? どうして!? あんな身体でどうしてあそこまで俊敏に動ける!?――

 

 その疑問も分からなくもないものだろう。誰が見てもあんな巨体であれ程の速度で動けるとは思わないだろう。陰獣達からしたら巨大な象がチーターの俊敏さをもっているようなものだ。巫山戯ていると言っても過言ではないだろう。

 だが勘違いしてはいけない。巨体と言っても肥満ではないのだ。ウボォーギンの巨体の殆どが筋肉で構成されており、そしてそれは見せる為の筋肉ではない、戦闘用の筋肉だ。ウボォーギンの肉体に余分な脂肪など毛ほどもなかった。スプリンターやプロボクサーは一般人よりもその身体を筋肥大させているが、その動きは一般人の比ではないのは周知の事実だろう。

 そう、速く動くために必要なのもまた筋肉なのだ。

 

 もちろん筋肉が付きすぎて動きを阻害するというのはある。効率的な鍛え方をしないと特に顕著になるだろう。ただ筋肉を大きく美しく見せるボディビルダーの鍛えた筋肉と格闘家として鍛えた筋肉とを比べると、こと戦闘という面では圧倒的にボディビルダーが劣る作りとなるだろう。

 

 だが、それらは全て常識の範囲内の話だ。ウボォーギンの身体は最早そんな常識を遥かに凌駕する領域にあった。巨大なれどその筋肉は1つ1つが鍛え抜かれ高密度に圧縮されていた。

 

 巨体であるが故の動きの阻害という不利、それを補って余りある程の筋肉を付ける。

 凡そ常識的とは言えないその暴論。それを実行に移す行動力と自身の身体を信じて疑わない精神力。強化系としての才能、最強へと至る為の非常識極まりない修練、それら全てが今のウボォーギンを作り上げたのだ。

 

「ひっ!?」

 

 攻勢を仕掛けたはずの自分たちが何時の間にか劣勢へと追いやられている。それもほんの一瞬にだ。仲間たちは自分を残して無残にも殺されてしまった。そんな豪猪が悲鳴を上げるのも仕方のないことだろう。

 

 だからと言って見逃してくれるような優しい相手ではなかったが。

 

「さて、後はお前だけ――」

「おいおい殺られちまってんじゃねーか。たった1人相手に情けねーぞ豪猪」

「――あ? なんだてめぇ等?」

 

 ウボォーギンが残った豪猪に止めを刺すために近づこうとしたその時、それを妨げるかのように声を掛けてきた者がいた。いや、者たちというべきか。

 

 ウボォーギンが声のした方向を見るとそこには6人の念能力者の存在があった。その誰もが並の念能力者とは一線を画す実力者。僅かな動きや立ち振る舞いからウボォーギンはそう悟る。

 

「おまえら! 間に合ったな、うん!」

 

 殺される寸前に仲間が現れたことで多少は安堵する豪猪。

 こうも都合良く陰獣がこの場に全員集まったのには理由がある。そもそも陰獣全員が常に集まっているなど本来は有り得ないのだ。それぞれが属しているマフィアファミリーで仕事をしているか、修行をしているか、プライベートを過ごしているかの違いはあれど、一同に会するなどそう多くはないことだ。

 

 だが今回のオークションにはあるきな臭い話が出ていたのだ。オークションに参加する客は死ぬという、そんなきな臭い話だ。

 この話のソースはある念能力者の占いによるものだった。占いと言って馬鹿にする者もいるだろうがその少女の占いは的中率100%を誇り、客の中には少女のファンになる者もいる程であった。ちなみに十老頭にも少女のファンがいるらしい。

 その少女が頼まれた占いをしたところ、オークションに参加予定の者全てに死を暗示する結果が出てしまっていた。的中率100%の占いでそのような結果を聞いて警戒しない馬鹿はいないだろう。なので十老頭はあらかじめ陰獣を全てヨークシンに集めていたのだ。

 

「ほう。お仲間を救いに陰獣さんのお出ましか。ひーふうみーの、おお! 全員揃ってんじゃねーか!」

 

 ――手間が省けたぜ――

 

 内心でそう嘲笑うウボォーギン。敵が集まったのはウボォーギンに取って好都合のことだ。仲間への追っ手の件もあるが、何よりも己のオーラ量が無駄に消費しなくてすむことが好都合だった。

 

 強化系として鍛え抜かれたウボォーギンのオーラは世界で見ても比肩する者が少ない程のオーラを誇っている。強化系の修行しかしていないウボォーギンに取ってオーラ量を増やすのは必須だったのだ。

 得意系統のみを修行するよりも、他の系統の修行も挟みながら修行した方が結果的に得意系統の習得も早くなる。これを理解しつつもウボォーギンは強化系しか鍛えていない。つまりウボォーギンは念能力者として歪でまともとは言えない成長をしていた。オーラを何らかの形に変化させることはおろか、念弾1つまともに放てないのが今のウボォーギンだ。そして強化系としても同レベルの強化系能力者から比べると一歩も二歩も劣っているだろう。

 

 だったらどうする? どうやってその不利を覆す?

 その答えがオーラ量の増加という力技だった。多少の不利はオーラ量の差で無理矢理埋めるという強化系の鑑のような思考で行き着いた答えだが、とにかくそれにより結果としてウボォーギンは一部を除き世界トップクラスのオーラ量を誇るようになった。

 

 そんなウボォーギンでも【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】によるオーラの消費量は無視できない程のものだった。元々持っていた莫大な筋肉をさらに圧倒的なまでに進化させるこの能力は、ただ己の身体を強化するよりも遥かにオーラの消費量が高い。さらにはそこに肉体強化のオーラも使用しているのだ。

 ただ立っているだけでもオーラがどんどんと少なくなっている今、残りの陰獣がまとめて現れてくれたのは時間節約となりウボォーギンにとって都合が良かったというわけだ。

 

――もう充分に時間稼ぎは出来ただろう。こいつらを殺せばもうアジトに戻っても大丈夫なはずだ――

 

 ウボォーギンのその考えは間違っていないものだ。陰獣の内3人がすでに死亡し、ここでウボォーギンが残りの7人を殺せば陰獣は全滅となる。そうすればもう時間稼ぎをする必要はなくなる。ウボォーギンに立ち向かおうなんて考えを持った自殺願望の持ち主は最早マフィアにはいなかったからだ。自然と幻影旅団自体を追おうと考える者もいなくなるだろう。

 

 その考えに至ったウボォーギンはこの場で陰獣を逃さず皆殺しにする為に全力でオーラを練り始めた。

 

「はああああぁぁぁあああぁああ!!」

 

 気合と共に高まるウボォーギンのオーラ。あまりのオーラの高まりにウボォーギンの周りの空気が振動し砕けたコンクリート片が僅かに揺れてすらいた。

 

「こいつ!? なんてオーラ量だ!」

「ただのデカブツじゃないんだなうん! 油断すると死ぬんだなうん!」

「ああ、全員で殺るぞ。既に3人殺られてるんだ。これ以上調子づかすんじゃねーぞ!」

 

 陰獣も敵の強さに油断なくウボォーギンを包囲し集中攻撃を行おうとする。

 ある者はオーラを放出して牽制をしようとし、ある者は上空に飛翔し頭上から攻撃を行おうとする。またある者は布を具現化、全身を強化、オーラを変化させるなど、陰獣それぞれが得意な能力にてウボォーギンを牽制、または仕留めようとしていた。

 

 この状況で先手を取るのは誰か? そんな空気で戦場が緊張感に包まれる。その一瞬の間を取って先に動いたのは包囲されているウボォーギンだった。

 

「包囲して逃がさねぇつもりか? それはオレのセリフだぜ! 喰らえ! 【超破壊拳/ビックバンインパクト】ォォォ!!!」

 

 陰獣に包囲されている中、ウボォーギンが取った行動は至極単純なモノだった。

 全力で練ったオーラを、全力で右拳に集め、全力で大地を殴る。たったこれだけの単純な行為だ。

 

 【超破壊拳/ビックバンインパクト】と大袈裟な名前が付けられているがその実態はただの念を籠めただけの技とも言えない単純なパンチだ。だが、肉体を鍛えに鍛え、オーラを鍛えに鍛えた純粋な強化系能力者のウボォーギンがそれをすると単純な結果には収まらなかった。

 人が十数、いや数十人は埋まるような大穴が大地に出来るのだ。この結果から考えればこの名前も決して大袈裟とは言えないものだろう。名前を付けて必殺技とウボォーギンが認識しているのも念の効果を上げる1つの要素となっていた。

 

 そして人が数十人も埋まる大穴が出来るというのは……【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】を使用していない、通常のウボォーギンの〈凝〉による【超破壊拳/ビックバンインパクト】の結果だった。

 そしてたった今ウボォーギンが放ったモノは【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】によって限界を超えた筋肉を手にしたウボォーギンの〈硬〉による【超破壊拳/ビックバンインパクト】だ。

 

 全力で練ったオーラを、全力で右拳に集め、全力で大地を殴る。

 その単純な行為による結果…………ヨークシンに巨大なクレーターが出来ることとなった。

 

 かつての【超破壊拳/ビックバンインパクト】の何倍もの威力に放ったウボォーギン自身が驚いていた。この状態で全力の攻撃をしたことはウボォーギンにもなかったのだ。

 だがそんなウボォーギンよりも驚愕していたのが陰獣たちだろう。ただ拳を大地に振り下ろしただけで包囲していた自分たちが立っていた大地が陥没し崩壊したのだ。

 

 それだけではない。攻撃から生み出された衝撃波や高速で飛来したコンクリート片により陰獣の内の2人が即死する結果となった。その他の陰獣たちも死亡とまでは行かないまでも多少のダメージを負うこととなる。唯一無傷なのは空を飛翔している者だけだった。

 

「ば、化物かよ!!」

 

 それを上空から見ていた陰獣の1人は凡そ人がもたらしたとは思えないその破壊に身も心も震わせ、ウボォーギンに対する攻撃の機会を逸してしまうこととなる。

 そしてそれが彼の不幸を呼ぶ結果となった。

 

「避けろ蝙蝠!!」

 

 仲間からのその叫びを空を飛翔していた蝙蝠は最期まで理解出来なかった。避けるもなにも、敵であるウボォーギンは生き残っている他の陰獣に向かって駆け出している。空を飛ぶ蝙蝠に対して眼を向けることもなくだ。当然攻撃を繰り出した気配も感じなかった。むしろ避けるのはウボォーギンに迫られている仲間たちの方だろう。

 

――いったい何を避けろと――

 

 そこで蝙蝠の思考は永遠に途絶えた。上空から倒れてきたビルに押し潰されることによって。

 

 ウボォーギンがもたらした破壊はそのあまりの威力の為に近くにあったビル周辺の地盤まで砕いてしまっていたのだ。地盤が砕けたビルは当然のように倒壊。ビルはそのまま蝙蝠が飛翔していた角度へ向けて横倒しになった。それが蝙蝠を押しつぶす結果となってしまった。もし蝙蝠が攻撃後のウボォーギンの隙を突いて上空から攻撃をしていればこうはならなかっただろう。一瞬の躊躇が生んだ悲劇と言える。

 

 もっとも、悲劇という点では他の陰獣たちも負けていないだろう。

 包囲していたはずなのに早くも仲間が3人も死んでいる。元々の人数からすると既に半数を切ってしまったことになる。更に敵は一切の無傷であり、今も巨体に見合わぬスピードで生き残っている陰獣へと向かっているところなのだ。このまま調子づかせてはあっという間に全滅してしまうだろう。

 それだけは阻止するべく残りの陰獣は動き出す。

 

 ――守勢に回っていたら負けは必至。残ったメンバーで畳み掛ける!――

 

 誰もが生き延びるために全力以上の念を発揮してウボォーギンへと立ち向かう。

 死にたくない! その強力な想いが念の強さを後押ししたのだ。

 

「ハッ! いいねぇ。お前らのような命知らずは嫌いじゃねーぜ! だが死ね!!」

 

 ウボォーギンのその言葉を合図とし、更なる蹂躙劇が始まった。

 

 

 

 

 

 

 クラピカはキルアから聞いた場所と先程から聞こえる戦闘音を頼りにヨークシンを駆ける。その強い眼差しに込められていたのは揺るぎない覚悟。旅団を逃がすつもりも、旅団から逃げるつもりもクラピカには毛頭なかった。

 そして戦場と思わしき地に辿り着いたクラピカが見た光景、それは筋肉の塊が大地へとその巨腕を振り下ろした瞬間だった。

 瞬間、クラピカの足元が揺れた。いや、クラピカだけではない。離れた位置から戦いの様子を伺っていたマフィアと思わしき一団も同様に揺れていたのだ。

 

 ――何という馬鹿げた破壊力! 攻撃力はアイシャ以上か!?――

 

 大男がもたらした破壊痕から思わずそう推測するクラピカ。

 身体から発するオーラはアイシャの方が遥かに上であるが、その男の持つ圧倒的筋肉から繰り出された一撃はアイシャを上回るのではないかと思われた。さらにその攻撃でビルまで倒壊したとあっては流石のクラピカも息を飲んだ。

 

 驚愕したクラピカであったが、そんなことはどうでもいいと思わせるモノがクラピカの目に映った。それは大男の身体に刻まれた12本足の蜘蛛の刺青。蜘蛛の刺青には11という数字の刻印も入っており、それは間違いなく幻影旅団を表す象徴と見て取れた。

 それを見た瞬間クラピカの脳裏に思い浮かぶかつての惨劇。蜘蛛に対する大きな怒り。それはあっという間にクラピカを緋の眼へと変化させるほどのものだった。

 

 ――確実に強化系だな。あれ程の破壊を起こせる攻撃力、他の特殊な能力はない可能性が高いな――

 

 だがクラピカは激情に身を任さず、冷静に敵と思われる男の能力を測る。

 ここでただ憎き敵に飛びかかるのは至って簡単だ。だがそれで勝てるほど幻影旅団は甘くはないともクラピカは理解している。常日頃からアイシャに言われているのだ。敵を侮るな。能力を見破れ。能力を見破らせるな。観察は常に心掛けろ、と。

 今はその絶好の好機だ。蜘蛛は恐らくマフィアの念能力者と敵対している。ならばその状況を利用しない手はないだろう。

 

「す、凄い……!!」

「んだ、ありゃ……!? 化けもんかよ!!」

 

 クラピカが見に集中していると何時の間にかゴンとキルアもクラピカの隣に立ってその戦いを見つめていた。

 

 圧倒的。まさにその言葉が相応しい大男の蹂躙劇。

 小男が全身の体毛を強化するも大男の攻撃を防ぐこと適わず、傷1つ負わせられずに砕け散る。布を具現化した陰獣に対しては砕けた地面を蹴り上げその破片で攻撃。どうやら布に何らかの能力があると警戒して無闇に近づかないようにしているのだろう。そこからクラピカはあの大男がかなりの戦闘経験を積んでいると判断する。ただの筋肉馬鹿ではないようだ、と。

 

 陰獣は布で飛来してきた破片を全て包み込み、そのまま布を小さくする。具現化した布による能力。あれならばあの大男も無力化できるか? 

 それは大男も理解していたのだろう。近寄らず、離れた位置から布を持つ陰獣に対処する。その対処法は……声だった。それもただの声ではない。空気が爆発したかのような振動を起こすほどの大声を叩きつけたのだ。

 

 その音の攻撃は十分に離れた位置にいるクラピカたちにも伝わり、その音が鼓膜を叩く前に咄嗟に耳を塞ぐ。ゴンとキルアも鼓膜が破れるのを防ぐことが出来たが、近くにいた陰獣たちはたまったものではなかった。

 残った陰獣の誰もが鼓膜を破られ意識を朦朧とさせている。最早大男の圧倒的な暴力に抗う術を持つ者は誰もいなかった。

 

 ――最初からこうしてりゃ良かったか?――

 

 それが、たった1人で陰獣を全滅させるという離れ業を成した男の戦闘後の感想だった。

 

 

 

「……撤退だ。今は態勢を立て直すべきだ」

「ああ! あんなのに勝てるわけがねー! さっさとここから離れるべきだ! おい、お前らも一旦退くんだ!」

 

 クラピカたちを他のマフィアチームと勘違いしたのだろう。ウボォーギンと陰獣の戦いを同じように見ていたマフィアチームはクラピカたちにも撤退を促し、そのままこの場から走り去っていった。

 

 その言葉に同意したのはキルアだ。

 

「あいつらの言う通りだクラピカ! 今はまだオレ達に気づいていない! 一度アイシャとレオリオに合流するべきだ!」

「ああ。お前とゴンはそうしてくれ。私はあの男に用がある」

 

 キルアの説得。そこには普段にはない必死さが見て取れた。アレと戦えば死ぬ! その思いがキルアの心を埋め尽くす。だがクラピカはそんなキルアの説得に耳を貸すことはなかった。

 

「~~! アレに勝てると思っているのか!? 素手でビルをぶっ壊すようなバケモンだぞ! 勝てるわけないだろうが!」

「そんなことは関係ない」

 

 もはや聞く耳持たぬと言わんばかりにクラピカは幻影旅団へと歩を進める。

 

「この頑固ヤロー! おいゴン! クラピカ気絶させてでも連れて帰るぞ!」

「待ってキルア。……ねえクラピカ。どうしてもやるの?」

「ああ。お前たちまで付き合う必要はない。早くアイシャの元に戻るんだ」

「分かったよ。だったらオレも戦う」

 

 決意を秘めた顔でクラピカに共に戦う意を告げるゴン。そこには決して退こうとしない断固とした意志が込められていた。

 

「……これは私の復讐だ。お前まで付き合う必要はないんだ」

 

 そうは言うが、ゴンは絶対に付き合うだろうとクラピカには理解できていた。1年未満という短い付き合いだが、仲間の性格を掴むには十分すぎるくらいに様々な困難を共に乗り越えてきたのだ。ここでゴンが絶対に退かないというのはこれまでの事から明らかだった。

 

「1人で辛いことも皆と一緒なら乗り越えられるよ。今までだってそうだった」

「……奴の強さは規格外だぞ。一撃でもまともに攻撃を受ければ死ぬかもしれん。それでもか?」

「アイシャに比べれば大したことないよ! 絶対にアイシャの方が強い!」

 

 ゴンのその疑念のない眼差しを見てクラピカは一瞬あっけに取られる。そしてすぐに口元を手で抑え笑い出した。

 

「くっ……ははは! そうだな。確かにそうだ。アイシャの方があんな奴よりもよっぽど強い。……分かった。どうせ止めても無駄なんだろう? だったら一緒に戦うぞ。……いや、私と一緒に戦ってくれ」

「うん!! 任せてよ!」

 

 クラピカの初めての頼みに快く頷くゴン。だが、その後ろではこれ以上ないほど顔を青くしたキルアが叫んでいた。

 

「お前ら正気かよ! ああ、確かにあいつはアイシャより弱いかも知んねー! 感じるオーラはさっきのアイシャの方が強かったのは認める! だけどオレ達より強いのは間違いないんだぞ! あいつの力を見なかったのか!? 2人でも殺されるだけだ! ここはアイシャたちと合流して全員で掛かるべきだろ!?」

「そうしている間に奴が逃げ出さない保証はどこにもない。……大丈夫だ。私にも隠し球の1つや2つはある。負けはしないさ」

「っ!」

 

 気付けば何時の間にかクラピカのオーラ量はキルアの知るそれとは比べ物にならない程膨れ上がっていた。怒りがオーラを増大させたのかはキルアには分からなかったが、確実に強くなっているのは分かった。

 だが――

 

「それでもオレは反対だ。絶対に勝てると確信出来ない限り殺り合うべきじゃない!」

 

 それは暗殺者として育てられ、刷り込まれた……いや、埋め込まれた思考。勝ち目のない敵とは戦うな。兄の呪縛はキルアの知らぬ内に彼を苛んでいたのだ。

 

「キルアお前……いや、無理する必要はないキルア。お前はアイシャとレオリオにこの事を伝えてくれ。あの場から勝手に離れてしまったから心配しているだろう」

 

 キルアの形相から普段と何やら様子が違うことに気付くクラピカ。

 冷静で頭の回転も良く、敵の実力を測り危険の少ない戦闘法を選ぶ面はこれまでの修行で確かにあった。だがこれほど怯える姿を見るのは初めてのことだ。風間流道場でも相手が誰であれ逃げるような真似はしなかったのだから。

 

――いや、生死が関わっていなかったから? だがそれでもこの怯えようは――

 

 何かがおかしいと気付きつつ、クラピカはキルアを戦いから遠ざけようとする。元々誰かを巻き込むつもりはなかったのだ。キルアがここで逃げようとも何も責めるつもりはなかった。ゴンにもそれは分かっていただろう。クラピカがキルアを心から心配していることも。だからゴンもキルアを安心させるように言葉を紡いだ。

 

「大丈夫だよキルア。オレ達は強くなっているんだ。そう簡単にはやられないよ」

 

 だがキルアにはそれが分からない。その気持ちが伝わらない。

 今のキルアの心を占めているのは2つ。友達を見捨てたくないという気持ちと、友達を見捨ててでも逃げ出したい気持ちだ。

 

 ――どうする!? 不意を打って2人を気絶させて担いで逃げる!? 無理だ、1人ならともかく2人じゃ! そもそもクラピカはオレより強いんだぞ!

 いや電撃でなら? ダメだ! それであの化け物に気付かれたら逃げることも抵抗することも出来ずに2人が死んじゃうだろ!

 だったら見捨てて逃げるのか? そんなのは出来ない! 友達なんだ! 見捨てるなんて出来るわけないじゃないか!!

 いや、見捨てるんじゃなくて援軍を呼びに行くんだ。アイシャならあんな奴! どんなに強くても5人で掛かれば絶対に勝てる!

 ……違うだろ! 援軍を呼びに行くって言い訳をしているだけだろ! その間に2人が死なないってどうして言えるんだ!?

 どうすれば……! どうすればいいんだオレは!? クソッ! 頭が、頭が痛い……!

 

 キルアの葛藤は終わることなく続いていた。

 身体は逃げ出したいと訴えている。頭の冷静な部分もだ。だが心の中の大事な、何よりも大事な部分は逃げちゃダメだと必死に叫んでいた。

 ここで逃げたら一生後悔する。例え親友が許したとしても、自分自身が許せなくなるだろう。それを理解しつつもやはり身体は前へと動かない。まるで金縛りにあったかのように……。

 

「行くぞゴン」

「うん。……オレ達は死なないよキルア。絶対に勝つから」

 

 ゴンもキルアの様子がおかしいことには初めから気づいていた。だがそれでもキルアを優先しないのは放っておくとクラピカが1人ででも突っ走ってしまうと直感していたから。そして……何よりもキルアを信じていたから。一番の親友はきっと困難を乗り越えてくれると誰よりも、キルア自身よりもキルアを信じていた。

 

 だからゴンは立ち止まらなかった。キルアを信じて圧倒的な暴力の前に歩を進める。

 

「う、あ、ま、待て……待てよ。……お、オレも――」

 

 ――オレも戦う――

 

 どうしても、その言葉が口から出ようとしない。まるで何かに口元を抑えられているかのように。そしてキルアが己を縛る呪縛に囚われている間に……2人は幻影旅団ナンバー11、ウボォーギンの前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 ヨークシンの一角を廃墟にしたウボォーギンはかつてない程の充実感に包まれていた。今まで誰にも見せたことのない能力を思う存分に引き出し敵を蹂躙したのだ。仲間を護ったと言う実感と相まって満足するには充分の快感だった。

 オーラの消費が激しい【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】を解除し、そのまま立ち去ろうとして……ふと立ち止まり振り返った。

 

「何だぁお前ら? マフィアってワケでもなさそうだが」

「幻影旅団だな」

「そうだが。オレは今機嫌がいいんだ。マフィアと関係ないなら見逃して……!? ……なるほどな。お前に覚えはないがその目には覚えがあるぜ。……仇討ちって奴だろ? まさかあの一族に生き残りがいたとはなぁ!!」

 

 クラピカの燃えるような緋色の眼を見てウボォーギンは驚き、そして次に喜びを顕にした。

 

「……何が嬉しい?」

「オメェみたいなリベンジ野郎を返り討ちに出来るからさ! オメェみたいな奴らはどいつもこいつも必死に強くなってオレ達に復讐しにやって来る! そう言った連中を返り討ちにするのがオレの一番の楽しみなのさ!!」

 

 そこには他人に対して何も感じていない狂人の一端があった。ウボォーギンのそのあまりの思考にクラピカは一層怒りを増し、ゴンも顔をしかめる。

 

「ねえ」

「あん?」

「どうして……どうして自分たちと関係ない人達を殺せるの?」

 

 ゴンのその言葉はこの場にあって今更な質問だろう。

 だがゴンは知りたかった。何故こんなにも簡単に人を殺せるのか? ゴンには分からない。だから聞いただけの単純な、そして純粋な質問。

 そしてその答えは――

 

「関係ないからさ。他人なんざどうなったってどうでもいいだろ?」

 

 その答えに嘘偽りは一切含めていない。いや、嘘を言う必要すらないと断言できる程ウボォーギンはその質問の意味を理解していなかった。人を殺すことに罪悪など感じたことがなかったから。

 

「……そっか。分かったよ」

「ああ。良く分かった。……償う罪を理解出来ないというのなら、私が理解させてやろう。痛みと屈辱を以てな!!」

「御託は終いか? だったらとっととおっぱじめようぜ!! テメェ等は陰獣よりも楽しませてくれよぉぉっ!!」

 

 対峙する3人のオーラは高まり一触即発の空気を生み出す。

 そして瓦礫の一部が崩れ落ちた音を合図とし――激戦が始まった。

 

 




 陰獣さんは早々にログアウトしました。ファンの方申し訳ないです。原作では唯一生き延びていた梟もご退場。空を飛ぶ陰獣を蝙蝠と呼称していますが原作では名前は出ていません。見た目が蝙蝠っぽかったから勝手に付けさせてもらいました。







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