どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第三十九話

 廃墟と化したヨークシンシティの一角で、3人の念能力者が対峙していた。

 3人の内2人、ゴンとクラピカはその顔に怒りを顕にし、対照的に残る1人であるウボォーギンはその顔を愉悦に歪ませていた。

 人を殺すことに一切の躊躇も後悔も反省もなく、逆に喜びを感じているウボォーギン。そのウボォーギンに義憤を抱かないゴンではなく、また一族の敵を前にしたクラピカに怒りの感情を抑制することは最早不可能だった。

 

 人気もなく、高まるオーラとひしめく風の音のみが響く中、戦いは瓦礫が崩れた音を合図に開始された。

 

「おらぁっ!!」

 

 ウボォーギンは先手必勝と言わんばかりに猛然とクラピカに襲いかかる。オーラを込めた右拳を力強く振りかぶり攻撃するが、クラピカは当たる直前に跳躍により身を翻すことでそれを躱し、そのまま空中で体重を乗せた蹴りを延髄に放つ。

 

 その一撃を咄嗟にガードするウボォーギン。陰獣の攻撃はガードすらしなかったウボォーギンだが、それはガードする意味がなかっただけのこと。今は【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】を解除しているので、肉体の防御力は当然落ちている。そしてクラピカの蹴りに籠められたオーラから延髄にまともに受ければ自分でもそれなりのダメージを負うと判断したのだ。

 クラピカの蹴りを完全に防いだウボォーギン。だが、クラピカは左足で蹴りを、つまりウボォーギンの右側面から延髄を狙っていた。ウボォーギンがそれを防ぐには攻撃した右腕でガードしなければならない。そのタイムラグが生んだ隙を上手く突いてゴンが攻撃を加える。

 

「はぁっ!」

「ぬぐっ! こ、のっ!」

 

 まともにゴンの拳を喰らうウボォーギン。だが顕在オーラの差、肉体能力の差からウボォーギンに若干のダメージを与えはしたが、決定打となるには程遠くそのまま反撃の一撃を浴びそうになってしまう。

 だがそこに蹴りをガードされた反動でさらに上空へと跳躍したクラピカが右手の鎖を振るいその攻撃をカットする。だがウボォーギン目掛けて放たれたその鎖は砕けた大地をさらに砕くだけに終わった。すんでの所で後方に飛ばれ鎖を躱されたのだ。

 

 ――あの攻撃のモーションからでも躱すとはな――

 

 ――あの鎖、かなりのオーラが籠められてやがるな――

 

 クラピカはウボォーギンの判断力を上方修正し、ウボォーギンもクラピカへの認識を改める。

 

「なるほどな。多少は出来るじゃねーか。陰獣よりよっぽど強いぜ。そっちのガキはまだまだだが、それでもオレにダメージを与えられるだけ大したもんだ」

「お前なんかに褒められてもちっとも嬉しくない!」

「そう言うなよ。マジメに褒めてんだぜ」

 

 軽口を叩きながらもウボォーギンは冷静に考えていた。

 

 目の前の鎖野郎は具現化系か操作系と判断する。物体にオーラを籠める技術は『周』と呼ばれ、念の応用技としては難易度も低くある程度の念能力者なら当然のように使用出来る技術だ。だが、先程大地を砕いた鎖の威力を考えると具現化系か操作系の可能性が高かった。これは両系統とも物体を主体とした能力を作る傾向が多いからだ。

 具現化系ならば物体を具現化し、具現化した物体にオーラを籠めるのは当然だが他の物体に籠めるよりも容易いだろう。

 操作系なら物体操作が多い。操作するのは何か思い入れがある物が多いので、こちらもオーラを籠めやすくなるわけだ。

 つまり両系統ともに武器を使って戦闘した場合他の能力者が武器を使うよりも武器にオーラを乗せ易いということになる。

 

 クラピカがそのどちらの系統を得意とするかはウボォーギンには分からないが、厄介なのは具現化系だろうと考えていた。操作系だとしたら鎖の操作だけに終わるかもしれないが、具現化系ならばそうはいかない。具現化系は具現化した物体に何らかの能力を付与することが多いからだ。同じ旅団員で言えばシズクがそうだろう。彼女の具現化した掃除機は彼女が生物として認識した物以外の物を全て吸い込んでしまう特殊な能力を持っている。

 この鎖にも何らかの能力があると見た方がいいだろう。勿論クラピカが操作系で、鎖の操作以外には大した能力はない可能性もあるが、そんな希望的観測は捨てた方が身の為だ。敵を侮り過小評価して痛い目を見た者はごまんといるだろう。

 

 次にウボォーギンは対峙しているもう1人の少年、ゴンについて考える。恐らくだが強化系、自分と同じような雰囲気を感じたのだ。強化系一途なウボォーギンならではの感覚である。

 そしてその脅威度は然程のものではないと判断した。確かに強い。そこらの念能力者などとは比べ物にならないだろう……あの歳にしては、だが。ゴンの強さは認めるが、それは年齢の割にはである。将来的にはもしかしたら自分に匹敵するレベルの強化系能力者になるかもしれないが、現時点では然程の脅威にはならないだろう。むしろゴンを相手に気を取られてクラピカの鎖を喰らう方がマズイ。

 

 ――ガキは放っておき先に鎖野郎をぶっ殺す!――

 

 これがウボォーギンの決断であった。

 そして即断即決。一度決断したからには迷うことなくウボォーギンは行動する。眼前のゴンを無視してクラピカに向かって勢いよく走り出す。

 

「私に狙いを絞ったか!」

「一番邪魔くせぇのから始末させてもらうぜ!」

 

 近づけさせまいと鎖を振るうクラピカだが、最小限の動きで躱され一気に間合いを詰められる。

 

「ここまで近づきゃ鎖も振るえねぇだろ!」

「それは、どうかな!」

 

 接近を許したがそれでも鎖をウボォーギンに向けて放つが、至近距離では思うように当たらず逆に腕を掴まれてしまう羽目になる。一度怪力自慢のウボォーギンに掴まれてしまえば抜け出すことは至難だろう。最早絶体絶命か。そう思えるこの状況は――

 

「捕まえたぜ!」

「ああ、私がな」

 

 ――クラピカの予想の範疇だった。

 

「うおっ!?」

 

 クラピカの発言に訝しむ間もなくウボォーギンはバランスを崩し大地に転がることとなった。確かに力強く握り締めていた。オーラのガードがなければ掴まれた腕は砕けるほどにだ。なのにどういう理屈かクラピカが掴まれた腕を僅かに動かしただけでウボォーギンは大地に向かって反転した。

 

「て、てめぇ何を――」

 

 ――何をした!

 そう叫ぶ声は続くクラピカの声によって遮られた。

 

「良いのか? 私ばかりにかまけて?」

 

 その言葉でようやく真後ろのオーラの高まりを感じ取るウボォーギンだが、全ては遅かった。

 

「最初はグー! ジャンケン!! グー!!」

「がふぁっ!?」

 

 仰向けになったウボォーギンの顔面に向けてゴンの全力の一撃が振り下ろされる。

 自分を取るに足らない存在と扱ったウボォーギンに対して『ふざけるな』という強烈な意志を込めたその一撃は、確実にウボォーギンの身体にダメージを刻み込んだ。

 

 ゴンが放った一撃は硬によるモノ。全てのオーラを拳に込めて放たれるその一撃は今のゴンに出来る最大の攻撃だ。

 それだけではない。攻撃の際に特定のモーションを取り、硬の準備に取り掛かり、技の名を発する。この工程を踏むことでかなりのリスクを生んでいる。無防備な状態を作り、オーラの防御もなくなることを前提とし必殺技としているのだ。そのリスクの高さはそのまま念能力の効果を高める結果となった。

 

 だが、そこまでの一撃を受けてなお……ウボォーギンは獣のように獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「やるじゃねーかガキ! 認めるぜ! お前も脅威に値するってな!」

 

 鼻は砕けそこから止めど無く血が流れるが、それだけだ。ゴンの岩をも砕く最大の一撃を受けてもその程度のダメージしかなかった。ウボォーギンも高まるオーラに対して全力でオーラによる防御をしていたのだ。

 それでもここまでのダメージを受けたことに対してウボォーギンは素直に驚愕しているのだが、ゴンに取ってはそんなもの慰めにもなりはしないだろう。

 

「くっ!」

「そう嘆くなよ。かなり痛かったぜ。お前強くなるよ。……ここで死ななきゃなあ!!」

 

 颯爽と立ち上がり、やられた分はやり返そうとゴンに対して拳を振り上げたウボォーギン。まともにぶつかり合うと当たり負けすると判断したゴンはその攻撃を避けようとして……拳を振り上げたままのウボォーギンを不思議そうに見やった。

 

「な、腕が!? いや、身体が自由に、動かない、だと?!」

「ゴン!」

「うん! 喰らえ! ジャンケングー!!」

 

 まともに身体が動かないことに驚愕しつつも、ゴンの攻撃をオーラで出来るだけガードする。だが流石のウボォーギンも硬による防御ならまだしもただの堅による防御ではゴンの【ジャンケン】による一撃を防ぎきることは出来なかった。

 

「ごはっ!! ぐっ、こ、これは……鎖!? 何時の間に!? ……隠か!!」

 

 ウボォーギンの全身には何時の間にかクラピカの鎖が巻きついていた。ゴンに気は取られていたが、鎖から注意を逸した覚えはない。だが現にこうして鎖はウボォーギンを縛っている。

 そこからウボォーギンはクラピカの鎖が具現化した物だと完全に気付いた。具現化した物体ならば隠を用いることで具現化した物体を限りなく見えにくくすることが出来るからだ。

 

「隠も知っているか。頭の回転も悪くない。見た目通りのバカではないようだな。だが状況判断が疎かだな。2対1だというのに1人相手に気を取られすぎだ。こうして捕らえるのは容易だったよ」

「ぬぐっ! 舐めるなよ! こんな鎖なんかオレの力で引きちぎってやる! うおおおおおぉぉぉぉっ!」

「無駄だ。力でどうにか出来るものではない」

 

 ウボォーギンを捕らえたのはクラピカが開発した鎖の内の1つ、【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】の能力によるものだ。【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】でその身体を縛られた者は肉体が麻痺し身動き1つ取れなくなる。それが例えどのような怪力無双だとしても。そう、旅団一の肉体を誇るウボォーギンですらだ。

 

「ぐ、ぐぎぎぎぎ! く、クソッタレがぁぁぁぁっ!!」

 

 クラピカの言葉を証明するようにウボォーギンは指先1つ動かすことも出来ず、拳を振り上げたままの格好で固まっていた。

 

 この結果は全てクラピカの策によるものだ。クラピカは普段から鎖を具現化して行動している。それはクラピカの得意系統が具現化系と悟られないようにすることが目的だが、同時に戦略に置いても重要な役割を担っていた。

 人は目に映る物に注意を向ける。威力の高い鎖を振るわれれば、残りの指に付いている鎖から注意は逸れるだろう。そうして攻撃用の鎖――【打倒する人差し指の鎖/ストライクチェーン】――に注意を向けている間に、捕縛用の【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】を隠にて見えにくくし、ゴンに気を取られた一瞬にウボォーギンを縛り付けたのだ。

 もし鎖が見えていたならば、例えゴンに気を取られていたとしてもウボォーギンならば咄嗟に躱せていただろう。ここまで周到に準備をしていたクラピカの作戦勝ちだと言える。

 

 そして更にクラピカはウボォーギンを完全に無力化させる用意をしていた。この能力が発動して初めて完全な勝利と言える。そう、現状ではウボォーギンを無力化したとは言えないのだ。肉体の動きを完全に麻痺させているというのに、何故か?

 

 ――それはウボォーギンが身を以て証明してくれた。

 

「これならどうだァッ! うぉぉぉぉぉぉーーっ!!」

「くっ! 間に――」

 

 ウボォーギンを捕獲し、更なる一手を打とうとしたクラピカ。

 だが新たな念能力が発動する前にウボォーギンの念能力が発動してしまった。

クラピカが尤も警戒していた能力、【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】が。

 

「――合わなかったか……。こうなる前に決着を付けるのが理想だったのだがな」

 

 クラピカは陰獣戦でのウボォーギンとその戦闘後のウボォーギンを見て、あの莫大な筋肉が念能力で作られたものだと判断していた。ウボォーギンは陰獣との戦闘が終わるとその能力を解いたのか明らかにその肉体を縮小させていたのだ。どう考えても念の仕業と思うのが妥当だろう。

 

 そして自分達との戦いでもその能力を使う気配はなかった。恐らく使わなくても勝てるという自信か、オーラの温存、もしくは何らかの制約によるものと予測していた。

 制約や誓約が関係しているならもう使用しないかもしれないが、自信や温存が原因ならいつまたあの化け物になるかは分かったものではない。

 なので自身の能力がバレていない内に先手を取り動きを縛り、更なる能力で完全にウボォーギンを無力化する予定だった。

 だが……それよりも僅かに早くウボォーギンの能力が発動してしまった。

 

 見る見る内に筋肉が肥大化し、それに合わせてウボォーギンを縛り付けていた鎖が砕けそうになる。そうなる前にクラピカは【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】を解除する。一度砕けてしまうともう一度具現化するのに時間がかかってしまう為だ。

 

「ぐはははははは! なるほどな、それがこの鎖の制約ってところか! 随分脆いんだなあの鎖! 力なんて入れてねーのに身体がちょっとデカくなっただけでひび割れてやがる!」

 

 そう。ウボォーギンの言う通りそれが【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】の制約の1つだ。捕らえるとその身体の自由を奪うことが出来るが、鎖の強度は然したるモノではない。例え肉体を麻痺させたとしても念能力の使い方次第では今のウボォーギンのように至極簡単に抜け出すことが出来るだろう。

 

「今のはかなり焦ったぜ……。だがもう同じ手は食わねー。テメーの鎖から注意を逸らすことはもう絶対にねぇ! さあ! 仕切り直しと行こうじゃねーか!!」

 

 

 

 

 

 

 レオリオは仲間を探しヨークシンを走っていた。

 アイシャを見送った後、マフィアを警戒する必要はないと仲間に伝え合流しようとしたが、その肝心の仲間がどこにもいないのだ。

 まさかマフィアに連れ去られたのでは? と考えたが流石に全員同時には考えにくく、それならば奥にいた自分達の所にもマフィアが来るだろうと思い別の原因があると考えた。

 そしてその原因の最有力候補として挙げられるのが幻影旅団だろう。旅団憎しのクラピカが旅団に突っ走り、それを止めるためにゴンとキルアも追いかけたのでは? そう予測を立てたのだ。

 

「くそっ! アイシャに旅団を追うなって言われたのにこれかよ! 頼むから馬鹿な真似してんじゃねーぞ!」

 

 1人愚痴を口走りながらレオリオはある場所を目指して走る。

 その場所は先ほど目に映ったビルが倒壊した地区だ。恐らくそこで戦闘が行われているのだろう。ならばそこに旅団やクラピカ達がいる確率は高い。

 レオリオは仲間の無事を祈りつつ出来るだけの速度でその場所を目指した。

 

 

 

 走り続けたレオリオはやがてキルアを見つけ安堵する。特に怪我もしていない様子で無事に二の足で立っていたキルア。

 だが――

 

「おいキルア! お前離れるならそうと言えよな。全く、心配させやがって! 他の皆は……!? お、おい! 大丈夫かお前!?」

 

 だが、その安堵は一瞬にして心配へと変わる。キルアの顔は酷く青ざめており、呼吸は荒く、明らかにマトモな状態ではないと判断出来た。

 

「れ、レオリオ! 逃げろ! 逃げてアイシャを呼んで来てくれ! このままじゃあいつ等が死んじまう!」

「あ? いきなり何を……うおっ! なんじゃあの化け物は!?」

 

 キルアの異常に気が取られて今の今まで離れた場所で戦うゴン達に気が付かなかったレオリオだが、キルアの言葉でようやくゴン達に気付く。そして仲間が戦っている敵の肉体、その身に纏うオーラの力強さに思わず一歩後ずさる。

 

「旅団の1人だ。クラピカは言っても止まらないし、ゴンもクラピカを助ける為に戦っている……。だがあんなのに勝てるわけがない! 早くアイシャを! そうだ! 電話でもいいから早く!」

 

 なるほど。キルアの焦りも尤もだろう。あの化け物が圧倒的な存在だなんて一目瞭然だ。まともに戦うとレオリオなら1分と保たずに殺されるかもしれない。今はまだ2人とも無事だが、2人掛りでも勝てないだろうと思われる。それほどの存在だとレオリオの目には映っていた。

 

「アイシャは今は親父さんを連れて病院に行っている。今すぐ呼んでも来られないし、例え来たとしても間に合わないかもしれねぇ! それよりもお前は何をしているんだ!? オレ達も戦いに加わるんだよ! 4人掛りなら勝てるかもしれないだろ! 全員で掛かって隙を作れば――」

「だ、ダメなんだよ……! 身体が、身体が動かないんだ……! オレだって助けに行きたいよ! でも……でも!!」

 

 そのキルアの悲痛な叫びと、その顔を見てレオリオは絶句する。

 年上を年上とも思わない小生意気な子ども。自分よりも強く、そして過酷な過去を持つ少年。だが年相応の面も見せ、どこか憎めない新たに出来たダチ。……その今にも泣きそうなその顔を見て絶句せざるをなかった。

 

「っ! レオリオ! 耳を塞げ! 早く!」

「あ? ああ!」

 

 キルアの突然の叫びにただ事ではないと悟りレオリオもキルアに倣いすぐに耳を塞ぐ。そしてそのすぐ後に強烈な衝撃が鼓膜を襲った。

 

「ーーっ!! 何だこりゃ! 塞いでいたのに耳がキンキンしやがる!」

「ゴン! クラピカ! ……良かった。あいつ等も防いでいるか……」

 

 レオリオはキルアの安堵した顔を見て、そのままゴン達の戦いを見やる。強大な敵を相手に四苦八苦しながらも1歩も引かずに必死に戦っている仲間の姿が映る。そしてそれを苦しそうに見つめるキルアをまた見やり、そしてレオリオは優しく言葉を掛けた。

 

「……分かった。お前はそこで待っていろ。大丈夫だ、あいつ等はオレが助ける」

「な、何言ってんだ! お前が勝てる相手じゃねーだろ!?」

「んなの分かってんよ。オレじゃ殺されに行くだけかもしれないってな。……だけどよ。ダチを見捨てて生き延びて、それで医者になって胸張れる程……オレは器用じゃねーんだ」

「!?」

「……あまり自分を責めるなよキルア。なんだかんだ言ってもお前はまだガキだ。ビビっちまっても仕方ねーさ。だがよ。それでもオレはお前を……いや、なんでもねー」

 

 何かを言いかけ、そこで言葉を濁した。今のキルアの精神に重荷になる言葉を伝えるのを避けたのだ。そしてそのままレオリオはキルアを残し強大な敵と戦う仲間の元に駆け出した。

 

「お、オレは……オレは……」

 

 力なく項垂れ、走りゆくレオリオを見送るしか出来ないキルア。

 いや、今も精一杯の抵抗をしているのだ。頭痛は絶えず鈍く響き、身体が敵から遠ざかろうとするのを歯を食いしばって必死に抑えていた。

 

 ――逃ゲロ!

 

 ――うるさい黙れ!

 

 ――逃ゲロ! 早ク!

 

 ――嫌だ! 友達なんだ!

 

 ――逃ゲロ逃ゲロ逃ゲロ!

 

 ――皆友達なんだ! 見捨てたくないんだ!

 

 永遠に終わることのない葛藤。

 叶うならば後ろに向かって走り出したい。

 どこでもいいからこの場から今すぐに離れたい。

 だけどそれだけは出来ない。ここで逃げ出せばもう二度と大事なモノはこの手に戻ってこない。出来ることは仲間が、友が繰り広げている死闘を遠く見守るだけだった。

 

 だが恐怖にてキルアを縛るその呪縛は……さらなる恐怖の爆発によってかき消された。

 

 初めての友達。こんな自分を友達だと言ってくれた1番の親友。

 その親友が血反吐を吐きながら無残に吹き飛ぶ姿を見て生じた感情は新たな恐怖。死ぬことよりも、仲間から軽蔑されることよりも恐ろしい、永遠に友を失うかもしれない恐怖。

 

「うああああああああああああ!!!」

 

 絶望的な恐怖を怒りと、そして友達を失うかもしれない更なる恐怖で塗りつぶし、未だ自らを苛む呪縛に抗うかのようにキルアは己の頭に指を……突き入れた。

 

 

 

 

 

 

「はっはーっ! ちょこまかと必死に避けるじゃねーか! まともに殴りあうことも出来ねーのか!?」

 

 ウボォーギンは鎖から解き放たれてから文字通り暴れまわっていた。

 ただ単純に敵に近づいて手当たり次第に殴る蹴る。ゴンとクラピカは必死になってその暴威から逃れ、致命傷を避けながら戦っていた。

 

 今彼らの命を繋いでいるのはウボォーギンの戦いをあらかじめ見ていた為だ。

 巨体に似合わぬ動きの速さ、そして想像以上の破壊力。それらの情報を直接見たからこそまだ対抗出来ているのだ。もしこれが前知識なしでの戦いだったならば、ゴン達はとっくに挽肉になっていただろう。

 

 そしてウボォーギンに欠点があったことも攻撃を避けられる要因となっている。

 巨体となりそれでいてスピードが増しているという巫山戯たパワーアップを果たしたウボォーギンだが、それでも巨体ならではの弱点は有効だった。

 それは小回りの利かなさだ。確かに拳の速度や強力な踏み込みによる移動速度は脅威的だ。だがそれらの予備動作は大きく、拳を振り上げてから下ろす動作を予測して躱すことはゴンやクラピカならば不可能ではなかった。

 

 しかしそれだけだ。凄まじい勢いで突撃してくるウボォーギンが、その勢いのまま殴りかかってくるのを掻い潜って凌ぐ、ただそれだけ。

 その間に何発かは攻撃を加えたが一切のダメージを与えることなど出来なかった。

 クラピカの鎖は最優先で警戒されておりその眼は常に凝を行っている。隠を見逃すことはないだろう。ゴンの【ジャンケン】など使用出来るわけがなかった。もしそんな隙を作ってしまえばその場でお陀仏だろう。

 

「くっ、まるで重戦車だな! それもここまで素早く動かれると軽くホラーだよ!」

「言ってくれるな。だが逃げてばかりなんでこっちは飽き飽きだ。そろそろ終わらせるとするぜ!」

 

 そう言い、大きく息を吸い込むウボォーギンを見てクラピカは叫ぶ。

 

「ゴン!」

 

 その言葉にゴンは言葉では応えず行動で返す。ゴンもまた大きく息を吸い込み、そして同時に耳を塞いだ。

 

「はあっ!!!」

「わあっ!!!」

 

 互いに強烈な大声を出して相手の鼓膜を攻撃する。

 音には音。マフィアでの戦闘時にウボォーギンが使った音の攻撃に対して対策を立てておくのは当然のことだった。2人はあらかじめウボォーギンが大声による攻撃をする時の対処法を話し合っていたのだ。

 

 大声に大声をぶつけその威力を分散させ、耳を塞ぐことで完全に防御する。所詮は初見殺しの、技とも言えぬ攻撃だ。知っていれば対処は可能だろう。

 

「ちっ! こっちの耳にまで響きやがった。大した肺活量してるぜガキ! 今までで1番のダメージを食らったぜ!」

「うるさい! 今度はこっちの番だ!」

「待てゴン! 不用意に飛び込むな!」

 

 ウボォーギンのその挑発めいた言葉にカッとなったゴンが間合いを詰めて攻撃をする。それは油断もあったのだろう。これまで全ての攻撃を避けてこられたのだ。上手く掻い潜って急所やオーラの薄い部分を狙えばダメージも通るだろう。

 そう判断したゴンはやはりまだ経験不足と言えた。

 

 ――やっぱりまだガキだな――

 

 内心でそう言い放ち、ウボォーギンは不用意に近づいたゴンに対し地面を思い切り踏みつけることで大地を揺らした。ただの踏みつけもウボォーギンが行えば大地が砕ける。砕けた大地はゴンの足元にまで及び、そしてゴンは思わずバランスを崩してしまった。……化け物を眼前に置いたままで。

 

「じゃあなボウズ」

「ゴーーーン!!」

 

 クラピカの叫びに混じり骨がへし折れる音が辺りに響く。ゴンのボディには深々とウボォーギンの拳が突き刺さっており、血反吐を吐きながら遥か後方へと吹き飛ぶこととなった。

 

「ちっ! つくづくテメーはやりにくいな」

 

 渾身の一撃を加えたはずのウボォーギンから忌々しそうな声が漏れ、その瞳はクラピカを憎らしげに睨みつけていた。

 ウボォーギンは先程の一撃に然程の手応えを感じなかったのだ。それはゴンが咄嗟に防御したから、だけではない、クラピカが咄嗟に鎖を振るいウボォーギンの腕にぶつけることでその威力を削いでいたのだ。しかも同時にもう1つの鎖を操作してゴンを後方へと引っ張っていた。それによりダメージは軽減、ゴンは致命傷を免れたのだ。

 

「あのガキもガキでしっかりとオーラでガードしているしよ。おかげで一発で殺せなかったじゃねーか」

「き、貴様ぁっ!」

 

 わざとらしく肩を竦めるポーズを取るウボォーギンに、思わず激高しかけるクラピカ。だが、そんな彼を落ち着かせる存在がこの場に現れた。

 

「クラピカーッ!」

「レオリオ!?」

 

 こちらに向かって近づいてくるレオリオの叫びを聞いて冷静さを取り戻すクラピカ。2人はそれ以上言葉を交わさず、互いの顔を見てそれぞれがすべきことを理解し、そして即座に行動に移った。

 

 ――任せたぜ!

 ――任せたぞ!

 

 レオリオは吹き飛んだゴンの元へ。そしてクラピカはゴンの治療を邪魔させないためにウボォーギンの前に立つ。

 

「あ? まだ仲間がいたのか。まあいい。そいつも殺すだけだ」

「させると思っているのか?」

「死んじまえば邪魔も出来ねーだろ?」

 

 2人は対峙したまま互いに警戒を怠らず緊張感を高める。

 圧倒的な力を誇るウボォーギンだがクラピカの鎖にだけは注意していた。クラピカの指から具現化されている鎖の数は5本。それぞれの指に鎖があるのだ。まだ見ていない能力が3つはあると考えると油断するわけには行かない。

 クラピカとてそうだ。まともに攻撃を喰らうと一撃で致命傷になりかねない。いや、例えまともに喰わらなくてもかすっただけでダメージを負うだろう。それは致命な隙を作りかねない。

 2人は警戒しながら互いの隙を伺っていた。

 

 異変が起きたのはその時だった。

 

「うああああああああああああ!!!」

 

 突然の叫び声にクラピカも、そしてウボォーギンも互いに敵から意識をそらさずに声が聴こえた方角を見やる。そこにいたのは1人の少年。その少年をよく知るクラピカも、どこの誰とも知らぬウボォーギンもそれを見て呆然とした。

 離れているが見間違うことはなかった。そう、確かに頭に指を突き入れる少年の姿を2人は見た。

 

「キルア! 一体何を!?」

「あーあ、あれもお友達か? 可哀想に、気が触れたか? ま、そんなことよりさっさとケリを付けようぜ」

 

 自らの頭に指を突き入れるという奇行を見て気が触れたと思うのは当然の反応だろう。クラピカとて様子のおかしかったキルアを知っているため本当にウボォーギンの言う通りなのではと思っているくらいだ。

 

 そしてウボォーギンがキルアから興味を失ったようにクラピカを睨みつけた瞬間。

 真後ろから突然声が聞こえ、ウボォーギンはまたも振り返った。

 

「イルミの野郎、ホントやってくれたな。……こんなもん頭ん中に刺し込んでやがった」

「テメー! 何時の間に!?」

 

 そこにいたのはキルアだ。何時の間にかウボォーギンの真後ろわずか数メートルの位置にまで移動していたのだ。

 その手には歪な針を持っており、指を突き入れた頭からは当然のように血が流れていた。瞳からは涙が流れており、凡そマトモな精神状態ではないとクラピカは心配そうにキルアを見やった。

 

 だが、その心配をよそにキルアは全てから解放されたかのように清々しい笑顔を見せた。

 

「あー、すっきりした。完全に目が覚めた。いや、解放されたって感じか?」

「おいガキ、何ぶつくさ言ってやがる。本当に気が触れたか?」

「離れるんだキルア! 今のお前では殺され――!? ……お、お前は、本当にキルアか? な、何が有ったというのだ」

 

 キルアの変化にいち早く気付いたのはクラピカだ。付き合いの長さではゴンに次ぐクラピカだからこそすぐに気付いた。今のキルアは今までのキルアとは何かが違うと。

 

「おいデカブツ。オレのダチをよくもヤってくれたな。相応の礼はしてやるよ」

「ほぉー。言うじゃねーか。だがよ、そういうのは相手を見てから言うんだな」

 

 先程までとは最早別人のような気迫を見せるキルア。そしてそれを見てウボォーギンは侮りの言葉を吐きながらも内心警戒レベルを上昇させていた。

 

 ――このガキ! 明らかにオレ達よりの人種だ! それも半端じゃねーレベルの!――

 

「く、くくっくっく。何だよ何だよおい! 本当に面白いなお前らよぉ!! いいぜ! もう後先なんかどうでもいい! 全力で相手してやるからまとめて掛かってこいやぁぁぁぁぁっ!!」

 

 その言葉とともにオーラの温存など脳内から欠片も消し去ったかのように全力でオーラを纏うウボォーギン。

 

「冗談。お前みたいな筋肉バカにマトモにぶつかるわけねーだろ」

 

 そんなウボォーギンを嘲笑うかのようにキルアは肢曲と言われる特殊な歩法でウボォーギンの視覚を惑わすように移動する。

 

「なに!?」

 

 緩急を付けた特殊な歩法によりウボォーギンの視界には数多の残像が映り、本物のキルアを判別することが出来なくなる。

 だがそこは強化系の鑑。全部吹き飛ばせばいいと言う単純な解を即座に導き出し、大地を蹴って散弾を作り攻撃をしようとする。

 

「喰らえや!」

 

 だがそれよりも早くキルアが動く。

 何時の間にかキルアはウボォーギンの巨体を利用しその身を足がかりとして肩の上に立ち、ウボォーギンの耳に指を突き入れようとしていた。

 如何にウボォーギンと言えども耳の穴まで鍛えることなど出来るわけがない。オーラでガードするにしても薄い鼓膜など強化したところで如何程の意味があるのか。鼓膜を突き破り、その奥にある内耳にまで指が到達すればそれだけで人はマトモに動くことが出来なくなるだろう。いや、その奥にある脳にまで指が達すればその結果は言うまでもない。

 

「うおっ!? 離れろガキが!」

 

 これにはさしものウボォーギンも焦りを見せた。タフネスが売りなウボォーギンも流石にこれは許容できないダメージとなるのだ。必死に身体からキルアを振り払う。

 

「がっ!」

 

 そこにクラピカの放った鎖が後頭部にヒット。僅かにタタラを踏むが、そのまま鎖を掴みクラピカに反撃を試みる。だが掴んだ鎖は霞のように消え去り、引っ張った分体勢が崩れる結果となる。

 

「うおおっ!?」

 

 そしてキルアによる連撃が追撃された。それぞれが急所を狙った容赦のない攻撃であり、オーラと筋肉で守られているウボォーギンに僅かな、だが確かなダメージを刻む。

 しかしその程度のダメージなど意に介さず、ウボォーギンは悠然と大地に立ち続けていた。

 

「ちっ。マジでタフだな。これだけやって全然ピンピンしてるよ」

「うむ。今の私たちでは少々攻撃力不足のようだ。私たちで最大の攻撃力を有するゴンでも今のこの男にまともなダメージを与えるのは難しいだろう」

 

 【絶対時間/エンペラータイム】の副次効果によりオーラの絶対量が上昇し、全ての系統の能力も100%の精度で扱える反則のような能力を持つクラピカでさえ、現在の顕在オーラではウボォーギンに多少のダメージを与えるのが限界なのだ。

 そしてキルアも同じだ。どれほど正確に急所を狙ったとしてもキルアの攻撃力ではウボォーギンの防御を超えることは不可能に近いことだ。

 

「オオオォ!!」

 

 全てを破壊し尽くすかのように猛然と襲いかかるウボォーギンの猛攻をギリギリで避けながらクラピカとキルアは強大な敵を打ち倒す算段を付けていた。

 

「(おい。手はあるんだろうな? いくらアイツでもさっきの麻痺はもうマトモに喰らわないぜ? ずっと凝でお前の鎖を警戒しているんだからな)」

 

「(もちろん手はある。だがそれをするには些か奴の注意を引きつけてもらわなければならない。バレてしまえば二度と通じなくなってしまう)」

 

「(オレ1人で注意を引けってか? ……少しの間なら抑えられるけどよ。それだけでアイツがお前から注意を外すとは思えないぜ)」

 

「(ああ。だがこのまま避けに徹してもいつかは捉えられるだろう。どうにかして隙を作らなければ)」

 

 一撃でも当たれば即死となる攻撃の中、互いの口の動きを読み取り声を出さずに相談をする。一撃一撃を避けるたびに神経が削れていく。一瞬でも油断したらそこで人生が終わりを告げるだろう。

 こうしてどうにか致命傷を避けられているのはウボォーギンがクラピカを警戒しているためでもあった。隠を警戒し眼には常に凝でオーラを集めており、その為か攻撃も陰獣を相手取っていた時よりも精彩を欠いていた。

 【超破壊拳/ビックバンインパクト】を使うなど以ての外だろう。オーラを集中した瞬間を狙われてはたまったものではないのだから。

 

 その為にこうした膠着状態が出来てしまった。

 ギリギリで躱し僅かな反撃を続けるがこれといったダメージを与えられず、その精神を消耗させていくクラピカとキルア。

 オーラの消耗に内心焦りつつも、かと言って鎖から注意を外すわけには行かず攻めに集中しきれないウボォーギン。

 

 いつまで続くか分からないその状況は、ウボォーギンがその動きを止めることで流れを変えることとなった。

 

「ちっ。ダメだな。鎖警戒してると追い込めきれねー。このままじゃあ時間だけが過ぎるなぁ」

 

 いきなり攻撃の手を止め、そのようなことを口走るウボォーギンを胡乱な目で見ながらも警戒を続ける2人。既にウボォーギンはその目的を十二分に果たしていた。仲間が逃げるための時間はとうに稼ぎ終わっているだろう。

 それでもここに残っていたのは自分に向かってきたこの命知らずどもを叩きのめすためだったのだが、今の状況では先に自分のオーラが尽きてしまうかもしれない。

 そう考えたウボォーギンは――

 

「無駄に考えるよりも先に殺しちまえばいいよなぁ!」

 

 ――逃げるでもなく、このまま同じ状況を続けるでもなく……眼に回していたオーラを全身を強化する為に使用し、全力で敵を殺すことを選んだ。

 

「なっ!?」

「うおっ!?」

 

 動きを止めたと思ったらまたも猛襲を仕掛けてくるウボォーギンに面食らうクラピカとキルア。だが警戒していただけにそれくらいならば反応は出来る。だがウボォーギンの動きは今までとは一段違っていた。全てのオーラを肉体強化に回した結果、今までよりも何割か増した速度で巨体が動き出す。

 先程まで一定の速度で攻撃を避け続けた2人にそのいきなりの加速は奇襲に等しかった。

 

「捕まえたぜ!!」

 

 一瞬だが動きが固まってしまったクラピカの右腕を握る。まるで最初に柔を仕掛けられた時と同じ状況が出来上がっていた。クラピカは咄嗟に掴まれた腕で柔を仕掛けあの時と同じようにその怪力から逃げようとする。

 だが、ウボォーギンの肉体はほんの僅かにも揺らぐことはなかった。

 

「ば、馬鹿な!?」

「技を超えた純粋な強さ!! それがパワーだ!! さっきの技で今のオレを転がせると思うなよォっ!!」

 

 クラピカが幾千幾万と柔を受け続けたことにより自然と身に付けた柔の技は、ウボォーギンの力の前に何の意味もなさず……グシャ、という嫌な音とともにその腕を握りつぶされることとなった。

 

「ぐあっ!?」

「もういっちょ!」

「させるか!」

 

 さらに追撃をかけるウボォーギンにキルアがそうはさせじと攻撃を加える。ウボォーギンはその攻撃を見ても避けようともせずそのままクラピカに追撃を加えようとし、だがその動きが硬直し止まることとなった。

 

「ぎっ!?」

 

 その隙を利用しクラピカは自身の腕を掴んでいる側の腕の関節を蹴り上げどうにかその場から離れることに成功した。

 

「ぐ、電撃だと!?」

 

 そう。これがキルアの念能力。オーラを電気に変化する変化系能力だ。

 生まれた時から電気を浴びる拷問極まりない修行をしてきたキルアだからこその能力。他の者が同じ能力を作ろうとしたら才能を持った者でも数年に渡る歳月が必要だろう。

 いま使用したのは両手から電気を発し打撃とともに相手に叩きつける【雷掌/イズツシ】と言う能力だ。放たれる電撃は人を即死させる程のものではないが、それでも僅かに動きを硬直させることは可能だった。

 

「ぐ、お前オーラを電気に変化させているのか!? その歳でこの能力、末恐ろしいガキだな……!」

 

 キルアが今までこの能力をこの強大な敵に使わなかったのはここぞと言う場面で使用する為だった。一度使えば二度と通じない類の能力ではないが、それでも警戒されてしまえば効果は半減する。電撃の威力自体が下がるわけではないが、来ると分かっていれば多少は堪えられてしまい、電撃後の硬直も短くなる可能性もある。だがここで使わなければ恐らくクラピカは致命傷か即死のダメージを負うこととなっただろう。

 

「助かったぞキルア……」

「ああ。それよりも腕は……!」

 

 クラピカの右腕は無残にも前腕がひしゃげ、腕の肉ごと骨まで潰されていた。関節が1つ増えたかのように肘から先がブラブラと揺れているその光景にキルアは思わず顔を顰める。だが他人の心配をしている暇などキルアにはなかった。

 

 キルアもクラピカもその場から離れウボォーギンの追撃を躱す。

 キルアの電撃には舌を巻いたウボォーギンだが、それで止まるようなら幻影旅団などやっていない。むしろあそこで攻撃の手を緩めるとクラピカが何らかのアクションを起こすだろうと判断し攻め続ける選択を取っていた。

 

 その判断に内心舌を打ったのがクラピカだ。

 彼が持つ能力の1つに癒しの能力があるのだが、こうも矢継ぎ早に攻撃されてはその間も取れない。更にクラピカ達にとって厄介なことはウボォーギンの攻撃が段々と洗練されたものになって来ていることだ。

 大振りの一撃を徐々に徐々にコンパクトに抑え、一撃の破壊力よりもスピードと手数を増やし当てることを前提とした攻撃に切り替わってきたのだ。

 そしてそれは正解だった。例え手数を重視した攻撃でもその破壊力は計り知れないものがある。コンパクトに抑えた一撃でも当たりさえすれば動きは止まり、ガードした箇所は痺れ、まともに受ければ骨が折れる。

 

 加えてクラピカ達の攻撃ではまともにダメージを与えられず、キルアの電撃も一瞬動きを硬直させることが出来るがその後が続かない。クラピカの右腕が無事ならば鎖による攻撃を加えられただろうが、肝心の右腕は重傷。治療の鎖もこの状況に置いて使用する暇など有りはしない。

 

 まさに絶体絶命の危機!

 

「オラオラオラ! どうしたどうした。攻撃が完全に止まっているぜ!」

 

 もはや攻撃を防ぐのが精一杯となったクラピカ達に止めとばかりに襲いかかるウボォーギン。巨大なハンマーのような両の手で殴りかかり、大木のような脚で蹴りを放つ。

 攻撃1つを凌ぐ度に神経がすり減り、徐々に徐々に体力と気力が摩耗していく。避ける方向やガードするタイミング、籠めるオーラを間違えればそこで詰みとなるだろう。

 

 そしてとうとう、全てをなぎ払うように飛んできた蹴りを避けるために思わず跳躍してしまったキルアのその足を……ウボォーギンが力強く捕まえた。

 

「しまっ!」

「くたばれやぁっ!!」

 

 脱出は不可能。精神の消耗により咄嗟に電撃を放つことも出来なかったキルア。

 今度こそ確実に仕留めた! そう思ったウボォーギンの耳に有り得ない言葉が聴こえた。

 

「ジャンケングー!!」

「がぁっ!?」

 

 キルアに攻撃を加えようとしていた為に無防備になっていた脇腹に強烈な一撃が突き刺さる。オーラが薄くなっていたせいか、骨が折れる嫌な音が確かに響いた。思わず手に込めていた力も弱まり、キルアはその拍子に脱出を果たすことが出来た。

 

 身体に響く鈍い痛みよりも、小憎らしいガキがその手から逃げ出した口惜しさよりも、その攻撃を放った相手を見てウボォーギンは驚愕に顔を歪ませる。

 

「ば、馬鹿な! お前は確かにオレが仕留めたはず! 即死じゃなかったが、こんな短時間で戦線復帰出来る傷でもなかったはずだ!?」

 

 そう。先ほどの攻撃はゴンが放ったものだった。

 確かに手応えを感じた一撃を与えた相手が目の前でその両の足で確りと立ち、己にダメージを与えるほどの打撃を放つ。その有り得ない出来事に呆然としてしまうウボォーギン。

 

「【癒す親指の鎖/ホーリーチェーン】!!」

 

 そしてその隙を逃すクラピカではなかった。右手の親指から伸びた鎖が砕けた右腕に触れると見る見る内に傷が癒え、元通りの腕に戻っていく。

 

「な、なんだとォ!? お前は具現化系のはず! だと言うのに強化系並の治癒能力だと!! そんなこと有り得るわけがねぇ!! てめぇ何をしやがった!?」

「さて。それを貴様に教える必要があるのか?」

 

 クラピカの言葉に思わず歯ぎしりをするウボォーギン。当然すぎる正論である。だがそれよりもゴンが復活していることが疑問にあがった。確実に致命傷を与えたはずだ。例え意識が残っていたとしてもまともに能力を使うことは出来ないだろう。だが、現にこうして復活を果たしている。一体なぜだ?

 

「ゴン! お前心配させんじゃねーよ!」

「へへ。ごめんねキルア」

「……あ、謝るのはオレの方だ。オレがビビっていたからお前は――」

「オレはキルアを信じてたよ。絶対にキルアは来てくれるって。自分を乗り越えてくれるって信じてた!」

「ゴン……!」

「おいおい。感動の対面は後にしてくれよな」

「レオリオ! う、ゴホッ」

「おいゴン、無茶すんじゃねーぞ。まだ完全に治りきっていないんだからな」

「う、うん。へへ、アイツを倒したらゆっくり休むよ」

 

 互いの無事を、友の言葉を、それぞれが噛み締めている中ウボォーギンは会話の中から疑問の答えを見つけた。

 

「……そうか! そっちのグラサンは治癒能力者か! ……くくく! はあっはっはっはっ!」

 

 突如として大笑いをするウボォーギンに誰もが訝しむ。4対1という状況に追い詰められて何故笑っていられるのか?

 その答えは簡単だ。レオリオが治癒能力者だからだ。確実に重傷を負っていただろうゴンをここまで回復させる能力。それがあれば傷ついた仲間たちを癒すことが出来るだろう。例えレオリオが協力を拒んでも関係ない。能力を持っていさえすればいいのだ。後は団長と読心の能力を持つ仲間がどうにかしてくれるのだから。

 そしてもう1つだけ答えがあった。それは――

 

「……な、なに笑ってやがる!」

「おいグラサン! 良かったな、お前は命だけは取らないでおいてやる! ま、他は皆殺しだがなぁ!」

「て、てめぇ! オレ達4人相手に1人で勝てると思っているのか!?」

「勝てるさ」

 

 そう、この状況で負けるなどと微塵にも思っていないからだ。 

 

「お前らどいつもこいつもボロボロだろうが! そんな状況でオレに勝てると思ってんのか!?」

 

 ウボォーギンの言う通りであった。今の状況はただの4対1ではない。既に消耗が激しい状態の、万全ではない者達による4対1なのだ。

 ゴンは回復したといっても完全ではなかった。治療が終わる前にキルアの危機に飛び出した為、内臓が未だに負傷したままだ。最大の一撃を放ちウボォーギンにダメージを与えることは出来たが、激しい動きをするとすぐに傷口が広がることとなり、まともな戦闘を熟すのは困難と言えた。

 キルアは重機関砲のようなウボォーギンの攻撃に晒され続けたため身体のあちこちを負傷していた。まともに受けた攻撃はないが、避けそびれた攻撃をガードした腕には罅が幾つも入っており、また暴力の嵐の中心にいたことで精神的にも消耗している。息が上がっており、最初の頃のキレはもう出せないだろう。

 クラピカもキルアと同様に複数の傷が全身にある。そして右腕は完治したがそれ以外の傷はそのままだった。それはオーラが尽きかけている為に他の傷を治療する余裕がなかったからだ。これはウボォーギンも看破している。

 レオリオは唯一無傷ではあるが全身から大量の汗を流している。ドミニクに加えゴンという重傷患者2人をこの短期間で治療したのだ。当然相応のオーラを消耗していた。攻撃にオーラを回すと1回分が限界と言ったところだろう。

 

「どいつもこいつも半死半生じゃねぇか。強がってんじゃねーぜ! そんなナリでオレに勝てると思っているのかよっ!?」

「う、うう」

 

 その圧倒的な力を背景に持って放たれた怒号に思わずレオリオは後ずさる。

 だが、周りにいる仲間を見てその動きは押しとどまった。

 

 ゴンも、キルアも、クラピカも。誰もが諦めておらず、勝利を目指してひたすらにウボォーギンを見据えていた。

 

「さて、確かにお前の言う通りだ。だがお前とて普段通りの体調ではあるまい。その能力、かなりのオーラを消耗するのだろう? マフィアに次いで私たちとこれほど長く戦っているのだ。残っているオーラはどれほどだ?」

 

 そう、万全ではないのはゴン達だけではない。ウボォーギンもだった。マフィアの掃討、陰獣という念能力者集団との戦闘、そしてゴン達との死闘。すでにウボォーギンが戦いを初めて相当な時間が経っていた。どれだけオーラ量が多くとも、これだけの戦闘に加えて【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】という消費の激しい能力を幾度も使えば消耗もするだろう。

 ここまで攻めてゴン達を倒しきれないでいたのは様々な要因があったが、その中の1つがウボォーギンの消耗であったのは確かである。

 

「強がってんのはどっちだってんだよ。半死半生相手に攻めきれない奴がよ」

「オレ達はお前みたいな奴に絶対に負けない! 降参なんかしてやるもんか!」

「て、テメェら!!」

 

 ウボォーギンの怒号にも負けず、なお強い覇気を放つ仲間たち。厳しい修行を乗り越え、自分たちよりも遥かな強者と接してきた彼らはこの程度の逆境や脅しで屈することはなく、逆にその気迫でウボォーギンを押し込んでいた。

 そんな仲間たちに支えられたように、レオリオも覇気を取り戻す。

 

「へっ! そう言うこったデカブツ! オレ達を舐めたらどうなるか教えてやるぜ!」

「さっきビビってたのに調子いいなレオリオ」

「っるっせぇ! ビビってたのはお前だろうがキルアちゃんよ!」

「ああ!? あ、あれはちげぇよ! あれはイルミのせいでなぁ!」

「アイシャに言ってやろうっと。鼻水まで垂らしてたもんなぁ」

「ばっ!? は、鼻水なんて垂らしてねーよ!!」

「いいや垂らしてたね! やーい鼻垂れキルアー」

「テメぶっ殺す!!」

 

 いつもの調子でキルアと戯れるレオリオ。クラピカもそれを見て安心するが、敵を目の前にして何時までも馬鹿をしている2人を流石に止めようとする。

 だが、そうするまでもなく2人はウボォーギンに向かって構えることとなった。

 

「テメェら……オレを前に遊ぶ余裕があるとは上等だぜ!!」

 

 地面を踏み抜き大地が揺れる。その身からはオーラが溢れており、その心は怒りで染まっていた。

 

「おいおい。本当にオーラ少なくなってんのか?」

「間違いない。初めに奴はオーラを温存しようとした節があった」

「で、どう勝つよ。鎖は警戒されている。オレの電撃も保ってあと2、3発だ。多分それくらいで充電が切れる。ゴンの【ジャンケン】も発動の隙に殺されるのがオチだ。レオリオは……まあ無理だろ」

「おい待てコラ。ったくよ。オレにもとっておきがあるんだぜ。攻撃手段はあるって言ってただろ?」

「それはあのバケモンに効くのか?」

 

 キルアの危惧は当然だろう。大岩を砕くゴンの【ジャンケン】のグーを受けても多少のダメージしか受けていないのだ。いや、恐らくオーラで防御力を高めていたらまともに受けてもダメージは望めない、そんな怪物なのだ。生半可な攻撃が通じるとは思えなかった。

 

 だが、キルアのその言葉にレオリオは自信を込めて答えた。

 

「絶対に効く。あいつが生きている限り、これを防ぐことは出来ねぇ。……本当なら使いたくないヤツだけどよ、この状況じゃそうも言ってられねぇわな」

「……分かった。その能力、頼りにさせてもらうぞ」

「任せとけ! ……これは直接当てなきゃ意味がない能力だ。まずオレが切り込む。確実に当てられるように援護頼むぜ。そしてオレが攻撃した箇所をそのまま追撃してくれ」

「うん!」

「死んだら骨は拾ってやる!」

「一言余計なんだよキルア!」

 

 レオリオは眼を閉じ息を大きく吸い、そして吐き出しつつ眼を開く。その時のレオリオには迷いも後悔もなく、仲間を信じてただ前だけを向いていた。

 

「行くぜデカブツーー!」

「おお来いや! お前みたいな奴は嫌いじゃないぜ! 殺さないように手加減するのが惜しいくらいだ!!」

 

 ウボォーギンへ向かって特攻と言わんばかりに突き進むレオリオ。

 ウボォーギンはレオリオを凝にて見るが隠はしておらず、離れているクラピカは機を伺っているのか鎖には隠をしているが鎖を動かす気配はない。尤も、隠を見破っているので捕らえられるつもりはなかったが。

 レオリオの後ろにはゴンとキルアが走っていた。レオリオを皮切りに波状攻撃を仕掛け、その攻撃で出来た隙を突いて鎖による攻撃をする算段だろう。

 

 ウボォーギンはそう判断し、レオリオ達と対峙しようとも常に眼を凝らしクラピカから注意を放すことはなかった。その上でレオリオの攻撃がどのようなものなのか考える。この状況で先手を打つのだ。それなりの自信があるか、はたまた玉砕覚悟で仲間の礎となるつもりなのか。そしてウボォーギンはレオリオの攻撃を前者と取った。

 

 ――あれはマズイ! 多分まともに受けるとヤバイ気がする!――

 

 己の直感を信じてウボォーギンはレオリオを迎撃しようと全力で構える。どんな攻撃も当たらなければ意味はない。それを実証するかのように、レオリオが振りかぶった拳よりもウボォーギンが放った拳の方が圧倒的に速かった。

 だが、その拳がレオリオに触れる前にゴンが割り込みウボォーギンの拳に自らの拳をぶつける。

 

 レオリオを殺さないよう手加減した手打ちの攻撃ではゴンの拳を打ち払うことは出来ずその場で相殺されることとなる。その隙に攻撃を叩き込もうとしているレオリオ。だがやはりそれでもウボォーギンが速かった。

 右腕が防がれた瞬間に残った左腕でレオリオを攻撃。先に拳を振るったのはレオリオだったが、打ち込む拳の速度が段違いすぎたため先に到達するのはウボォーギンの拳だ。

 だが―― 

 

「【落雷/ナルカミ】!!」

「があっ!?」

 

 その拳はレオリオの身体に触れる前に止まることとなる。いや、拳ばかりかウボォーギンの身体全体が硬直し止まっていた。突如として降りかかった落雷に驚愕し、雷による麻痺と驚愕の二重の衝撃で身体が固まってしまったのだ。

 これぞキルアの能力の1つ、電撃に性質変化したオーラの形態を変化させて伸ばす中距離攻撃【落雷/ナルカミ】である。

 

 ――あの雷小僧! 雷を変化させやがったのか!!――

 

 それはキルアの駆け引きだった。キルアはあえて直接触れることで電撃を相手に叩き込んでいた。注意すればいいのは拳だけ、触れられなければ電撃は来ないと相手に思い込ませるためにだ。そしてそれはこの重要な場面で最大の効果を発揮した。ウボォーギンはキルアに対し歯噛みしつつも、身動きの取れない状況で自らに吸い込まれるように突き刺さる打撃を見ることしか出来なかったのだ。

 

「くらえ! 【閃華烈光拳/マホイミ】!!」

 

 右手に残る全オーラを込めて放たれたレオリオのその一撃は確かにウボォーギンに命中した。だが、吹き飛ぶだの、激しい音がするだのといったリアクションは一切見られず、ウボォーギンは変わらずその場に悠々と立っていた。

 

 それに疑問を抱いたのは他の誰でもない、ウボォーギンだ。

 己を脅かす一撃が来ると警戒していたら何のことはない、ただの威力の足らない一撃なだけだ。その一撃に賭けていただろうキルア達の渋面を見て多少の溜飲を下し、そして愚かな攻撃をしたレオリオを嘲笑しようとする。

 

「はっ! ただのパンチじゃねぇか! 驚かせやが……って…………あ、ぐ、あ、があっ!?」

 

 だが、ウボォーギンの口から吐き出されたのは嘲笑ではなく苦痛の叫びだった。今まで何をしてもまともなダメージを受けなかったウボォーギンの苦悶の表情にゴン達も戸惑うしかない。原因であろうレオリオをこの場の誰もが見やる中、レオリオは仲間に向かって叫んだ。

 

「今だ! 畳み掛けろぉっ!!」

 

 レオリオは叫ぶと同時にオーラを使い果たしその場で倒れ込んだ。己のすべきことを全て成したレオリオは仲間を、友を信用してそのまま気絶する。

 そのレオリオの言葉に最初に応えたのはゴンだった。残ったオーラを出来るだけ拳に集めて最大の一撃を放つ!

 

「最初はグー! ジャンケン! グー!!」

「おぐぅ!」

 

 不可解なダメージに戸惑っていたウボォーギンは無防備な姿を晒しており隙だらけであった。これまで数多の攻撃を弾き返してきた鍛え抜かれた腹筋は、ことここに至って何の意味も為さず、ゴンの渾身の攻撃はウボォーギンの腹部に深々と突き刺さることとなった。

 

 ゴンの攻撃で内臓にまでダメージを負い血反吐を吐き出したウボォーギンだったが、流石は裏社会の猛者か。未だ戦意は衰えず多大なダメージを負った身体を無理矢理動かしながら攻撃後の硬直をしたゴンに反撃を試みる。

 

「させるかよ! 残りの電気全部持ってけぇ!!」

 

 だがその攻撃をすかさずカットするキルア。最大限にオーラを籠めて放った電撃でまたも動きを止められる結果となった。

 

「が、ガキどもがぁっ!」

「今だ! 束縛せよ!」

 

 クラピカは立て続けに連撃を受け、動きが鈍ったウボォーギンに鎖を放つ。だがウボォーギンは満身創痍とは思えぬ程の反応でクラピカの鎖に対応した。

 

「それだけは、喰らわねぇって、言ってんだろうが!」

 

 それはただの意地なのだろう。敗れるにしても戦った末に殺されるのなら納得もいく。だが念能力で動きを封じられての決着を認めるなど、ウボォーギンの戦士としての矜持が許しはしなかった。残った力を振り絞り近づいてくる鎖を打ち払う。それだけで脆い鎖は砕け散る……そのはずだった。

 

「なっ! く、砕けねぇだと!」

「残念だったな。それは貴様を攻撃していた頑丈さが売りの鎖だよ」

「馬鹿な! テメェさっきは!」

「敵の言葉を信じるとは愚かだな。本命は既に貴様を捕らえている。喰らえ!」

 

 ――【封じる左手の鎖/シールチェーン】!――

 

 何時の間にかウボォーギンの身体にはクラピカの〈左腕〉から伸びる鎖が絡みついていた。そしてどういう訳か、ウボォーギンの身体が見る見る内に元の大きさに戻っていく。

 

「な、何故だ! どうして元に戻る!?」

「まだだ! 【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】!」

「うおおお!?」

 

 急に念能力が解かれたウボォーギンは今度こそ本当に【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】によってその動きを束縛された。

 またも【爆肉鋼体/マッスルエボリューション】を発動し束縛から逃れようとするが能力は一切発動せず、それどころか身体からオーラの1つも出せなかった。

 

「て、テメェ! な、何をしやがった!?」

「最早貴様は抵抗することは出来ない。それと、敵に能力を説明する必要はないといったはずだ」

「オレを封じている能力はどうでもいい! オレは確かに凝でテメェの鎖を見ていた! 隠をしていても見逃す訳がねぇ!」

「貴様が注視していたのは私の右手の鎖だけだ。左手に鎖があるなど今の今まで知らなかっただろう」

 

 クラピカの言葉を聞きウボォーギンはすぐさまクラピカの左手を確認する。そして確かに自身を縛っている鎖の1つが左手から伸びているのを確認した。今まで右手指から具現化した鎖しか使っていなかった為、左手への注意を怠っていたのだ。

 

 もちろんクラピカはそうなるように普段から振舞っていた。右手の鎖は具現化した鎖か本物の鎖かを見ても分からないように常日頃から具現化し続け、左手の鎖は一切具現化せずここぞという時に発揮するようにしていた。こうすることで具現化系だとバレた後も、左手の鎖には気付かれず注意も向けられないだろう。

 

 さらに戦闘中は右手の鎖を隠で隠していたが、ウボォーギンに悟られないように徐々に徐々に隠の精度を下げていたのだ。右手の鎖のみに注視していたウボォーギンは、その隠を見破ったことで安堵し本来の精度で隠をしていた左手の鎖を見逃すこととなる。さらに左手の鎖は地面の瓦礫を隠れ蓑に地を這って近づいてきたのだ。満身創痍のウボォーギンが気付けなくても仕方のないことと言えよう。

 

 そしてウボォーギンを捕縛した【封じる左手の鎖/シールチェーン】の能力は、捕縛した対象の念を封じると言うモノ。念を封じられればいかなウボォーギンと言えども能力を発動することは適わず、そして【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】によって身体の動きすら封じられたら抵抗することも出来ない。こうなってはもはや手はない、完全なる敗北である。

 

「ち、ち、チクショウがぁぁぁぁぁっ!」

 

 響き渡る蜘蛛の慟哭が、激闘終幕の合図となった。

 

 




 クラピカの新能力が特に捻りのないものでなんか申し訳ない。原作では人差し指の鎖が不明でしたが勝手に作りました。原作でとても重要な鎖として登場したら泣きます。
レオリオは大部分の方が予想していた通り閃華烈光拳でした。マホイミと読んでいますが効果はダイ大の閃華烈光拳と然して変わりません。
一応能力詳細書いておきますね。

【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】
・具現化系能力
 クラピカの右手中指から具現化された鎖。先端は鍵爪状になっている。対象に巻きつけその身体を麻痺させる能力を持つ。ただしその強度は脆く並の念能力者でも簡単に砕ける。

〈制約〉
・非常に脆い強度でしか具現化出来ない。

〈誓約〉
・特になし



【打倒する人差し指の鎖/ストライクチェーン】
・具現化系能力
 クラピカの右手人差し指から具現化された鎖。先端は錘状になっている。特に何らかの能力を持っているわけではないが、非常に強度が高く強いオーラが籠められる攻撃用の鎖。普段の戦闘ではこれをメインとして使用し、残りの鎖から注意を逸すようにしている。

〈制約〉
・特になし

〈誓約〉
・特になし



【癒す親指の鎖/ホーリーチェーン】
・具現化系能力+強化系能力
 クラピカの親指から具現化された鎖。先端は十字架状になっている。通常時には然したる効果を望めないが、【絶対時間/エンペラータイム】使用中だと重傷も数秒で完治する程の治癒力を発揮する。

〈制約〉
・自身以外には使用できない。※この制約は原作では確認されていません。この小説オリジナルの制約となっています。

〈誓約〉
・特になし



【封じる左手の鎖/シールチェーン】
・具現化系能力+特質系能力
 クラピカの左手から具現化された鎖。先端は星状(五芒星)になっている。対象に巻きつけ対象の念を封じる能力を持つ。ただし【絶対時間/エンペラータイム】使用中にしか効果を発揮しない。

〈制約〉
・【絶対時間/エンペラータイム】の効果中にしか能力は発動しない。
・能力が発動する前に対象に鎖が確認されると効果を発揮しない。また同じ対象にもう一度能力を使用する為には使用後24時間経過しなければならない。

〈誓約〉
・特になし



※他の鎖は原作と変化なしです。



【閃華烈光拳/マホイミ】
・強化系能力
 拳を硬で強化して放たれるレオリオ最大の攻撃。治癒の効果を籠めた拳を叩き込むことで対象の細胞分裂を異常促進させ破壊する能力。その能力から生物以外にはただの打撃となる。あまりの効果にレオリオも出来るなら使いたくない禁じ手としている。また必ず硬で拳を強化しなければ使用出来ないためリスクが激しい。

〈制約〉
・硬で強化した拳でなければ発動しない。
・対象の素肌に直接触れなければ効果は発揮しない。これは拳を何らかの物体(例:手袋)で覆っていても同じである。

〈誓約〉
・特になし







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