どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第四十話

 エル病院へのドミニクの入院手続きは問題なく終わった。

 いや、正確に言うならば問題はあった。傷口は確認されず、だが大量の血液を失っている患者を不審に思うのは当然だろう。感染症も含めた精密な検査を要求するアイシャに疑問の声が上がるがそこで伝家の宝刀ハンターライセンスが輝いた。数多の特権を有するハンターライセンスを持ち出されては病院側は何も言えず、むしろ快くドミニクを受け入れてくれた。アイシャも話には聞いていたがライセンスの特権を実感したのはこの時が初めてだった。

 

 ともあれ、ライセンスのおかげでVIP待遇での最高治療が任せられるのはアイシャにとって嬉しい誤算だ。今は失った血液の輸血が優先して行われており、内部診察や感染症の確認またその結果にはまだ時間が掛かるとのことだ。医者には命に別状はないだろうと言われアイシャは一先ずの安堵を得た。

 

 輸血を受けながら眠り続けるドミニクを一目見やり、アイシャはその場を後にする。父に対する心配がなくなると今度は仲間への心配が蘇ってきたのだ。レオリオには強く言い含めたアイシャであったがそれだけでクラピカが止まるとは思えない。周りの言葉を振り切って暴走してしまう姿がアイシャの脳裏に容易に浮かぶ。

 

 アイシャが体験した旅団員の強さは相当なモノだった。アイシャ自身の有り得ないオーラ量と技術だからこそあそこまで圧倒することが出来たのだ。並の念能力者など束になっても敵わない実力を有しているのは間違いない。

 

 クラピカとて既に並どころか1流と言っても過言でない実力に至っているが、それでも数の不利を覆す程ではない。ヨークシンにいる幻影旅団があの4人だけだとしても、クラピカ1人では勝ち目はないだろう。

 いや、4人同時であればゴン達が揃って数の不利をなくしたとしても勝ち目は薄い。それほどの実力差が今の彼らと旅団にはあった。

 

 アイシャは仲間が旅団と戦うなどと馬鹿な真似はしていないよう願いながら病院の電話室にて仲間へと連絡を取ろうとするを。だが、ふと何かに気付き携帯電話を操作するアイシャの手が止まった。

 

「これは……。気配を、消しているのか?」

 

 アイシャが気付いたのは何らかの侵入者と思われる僅かな気配だった。夜の病院で気配を消して移動する存在などいるわけがない。それも気配の消し方が並のそれではない。アイシャでなければ気付かないほどの隠形。明らかに常軌を逸した存在がこの病院にいることの違和感に訝しむアイシャ。

 

 ちなみに、自分が最も常軌を逸した非常識な存在だということは棚に上げているアイシャである。

 

 アイシャは侵入者と同じく気配を消して気配を感知した場所まで移動する。

 そこは病院の医療道具を置いている一室だった。その近くには病院のスタッフと思わしき人物が椅子に座っているように見せかけて気絶させられている。

 

 アイシャに気付いていない侵入者はその一室から大量の機材や道具を持ち出してそのまま部屋の外へと移動する。気絶した病院スタッフの影に隠れ絶をしていたアイシャはその侵入者の顔を確認した。

 

 ――この男は幻影旅団の1人! 何故こんな所に!?――

 

 そう。病院に侵入していたのは幻影旅団が1人シャルナークであった。

 シャルナークはウボォーギンが囮となって飛び出した後に仲間と別行動をしていたのだ。その理由は治療器具の確保のため。シャルナークは旅団でも有数の知識人であり、その修めた技術の中には医者の真似事もあった。

 だが肝心の治療も満足いく治療器具がなければどうしようもない。差し当たって最も必要になっていたのが輸血用の血液だ。

 

 その為にシャルナークは手近な病院に侵入し必要な物資をこうして盗んでいたわけだ。ウボォーギンが大暴れをしている今ならマフィアや自分たちを襲撃したアイシャに見つかる確率は少ないだろうとの思惑だったのだが……。

 アイシャがドミニクを運び込んだ病院に侵入してしまったのは運の尽きという他ないだろう。

 

 アイシャは病院内で暴れるのを避けるため、外へと移動しようとしているシャルナークに手を出さずにそのまま尾行する。周囲に溶け込むかのような隠密により尾行はバレてはいないようだ。

 

 シャルナークは荷物を抱えたまま病院の救急車まで移動する。どうやらこのまま救急車まで奪い逃走するようだ。仲間の元まで移動するのだろう。恐らく奪った治療器具も傷ついた仲間の治療に用いる物だとアイシャは予測する。旅団の仲間に対する意識を意外に思いながらもアイシャはこの後の行動に悩む。

 

 この場で取り押さえるのはさほど困難ではないだろう。相手は完全にアイシャに気付いておらず、奇襲を行えば容易に無効化出来る。

 

 だがこのまま尾行すれば幻影旅団のアジトを発見できるのでは? そう考え、この場での奇襲を躊躇するアイシャ。

 

 どうするべきか?

 僅かに逡巡するアイシャであったが、その悩みも意味のないモノへと変化することになる。突如として辺りにケータイの着信音が鳴り響いたのだ。鳴ったのはアイシャの携帯電話だった。

 マナーとして病院内では電話の電源を落としていたアイシャであったが、先ほどゴン達に連絡を取るために電源を入れていたのだ。電話は待ち望んでいた仲間からのモノだったが、それが原因でアイシャが気付かれたのは言うまでもない。

 

「!?」

 

 誰もいないと思っていた空間で突如鳴り響いた音に驚きながらも素早い反応で音のなった方角を見やるシャルナーク。

 そこに居たのは1人の少女。己が気配を察知出来なかったことにも驚いたが、それ以上に驚愕したのがその少女の正体だ。

 

「お前はあの時の! クソッ! どうしてこんな所に!」

 

 シャルナークが驚愕する中、アイシャはシャルナークから視線を外さずに悠々と鳴り続ける電話に出た。

 

「もしもし。どうしました?」

『ああアイシャ。実は今旅団の1人を捕まえたんだけどよ』

 

 電話の相手はキルアだ。ゴン達は旅団の1人ウボォーギンを捕らえ、マフィアに見つかる前に宿泊していたホテルまで誰にもバレないよう連れ込んでいた。捕らえたウボォーギンやその後のことも踏まえ一度仲間全員で集合して話し合おうとアイシャに連絡したのだが、ゴン達と幻影旅団が戦っていたなど寝耳に水のアイシャは怒鳴るようにキルアに話しかける。

 

「な、何を考えているんですか!? あなた達だけで何という無茶を! 皆は無事なのですか!?」

『うおっ! いきなり大声出すなよ! しょうがないだろクラピカが暴走したんだからさ。怪我人はいるけど誰も死んじゃいないよ。安心しろって』

 

 その言葉にほっと胸を撫で下ろすアイシャ。

 無茶をした仲間に多少の怒りもあるが、それ以上に無事でいたことに安堵する。そう一喜一憂するアイシャを尻目に徐々に離れようとするシャルナークであったが、アイシャは電話をしつつもシャルナークを鋭く睨みつけその動きを牽制し釘付けした。

 

「それで、皆は今どこに?」

『ああ。宿泊ホテルで借りたルームにいるよ。親父さんはどうなったんだ?』

「はい、ご心配ありがとうございます。大丈夫、無事でしたよ」

『? ……そうか。おい、お前いま厄介事に巻き込まれてないか?』

 

 キルアの鋭さに思わず舌を巻くアイシャ。

 先程からアイシャが固有名詞を口に出していないことを不審に思ったのだ。アイシャはキルアやドミニクの名前、そしてドミニクがこの病院に入院していることを悟られないよう言葉を選んでいた。それはもちろんアイシャの言葉を今も聞いているシャルナークに何も気取られないようにする為にだ。

 

「ええ、大丈夫ですよ。厄介事と言えば厄介事ですが、すぐに終わることですから」

『……ま、お前なら大丈夫か。それじゃ待ってるから早くしてくれよ』

「はい。それではまた後ほど」

 

 そう言って通話を切り、そのまま懐に電話をしまって改めてシャルナークと向き合う。

 

「お待たせしました」

「オレは別に待たなくても良かったんだけど? 何だったら今すぐ帰っていい?」

「それは駄目ですよ。だって泥棒はいけない事です。罰が当たりますよ?」

「アハハ。今まで当たったことないから大丈夫だよ」

 

 まるで久しぶりに再会した友人のように軽い口調で話し合う2人。だがその間にある空気はただならぬ圧力によって歪んでいるようにすら見えた。

 

「当たりましたよ? だって……私に見つかったじゃないですか」

「……そうかもね。あーあ、何でこんな所でキミと出会っちゃうかな?

 ……いや待て。……そうか! そういう事だったか! あっはは! 本当に運がないなオレ達は!」

 

 急に笑い出したシャルナークを怪訝に見ながらアイシャは尋ねる。

 

「何が可笑しいのですか?」

「いやなに、オレ達の運のなさが笑えてね。まさかマフィアの身内にキミのような化け物がいるなんてね」

「何を言っているのですか?」

 

 いきなりの核心を突くその言葉を出来るだけ冷静に流すも内心は動揺するアイシャ。アイシャから彼に渡した僅かな材料でそこまで読み切るとは。これにはアイシャも感嘆するしかなかった。

 

「隠すのが上手だね。でも無駄だよ、そうとしか予測できない。キミがあのビルにいた理由。オレ達を目の敵にした理由。そしてこの病院にいる理由。その全てを繋げると……いるんだろ? この病院に、あの時傷ついたキミの身内だろうマフィアがさ」

 

 シャルナークはその持ち前の頭脳でアイシャの内情を分析する。そしてその分析はまさに正鵠を射ていた。

 

「さて? 例えそうだとしてもこの場に置いて何の意味があると?」

 

 言外にそれがあっていたとしてもこの場で倒してしまえば何の意味もないと伝える。だが、その言葉の意味を理解しながらなおもシャルナークは笑みを強め提案を持ち掛けた。

 

「取り引きをしよう」

「取り引き?」

「そう、取り引きだよ。ここでオレを見逃してくれたらオレはキミとキミの身内について誰にも秘密にすると誓うよ」

「何を言い出すかと思えば……」

 

 あからさまに溜め息をつき、その愚かな取り引きにすらならない提案を一蹴しようとする前にシャルナークが言葉を続ける。

 

「いいの? ここでオレを殺したらオレの仲間がここに来るよ」

「……」

「オレがこの病院に行っていることを仲間は知っている。そのオレがいつまで経っても帰ってこなかったら当然仲間は不審に思うだろうね。そしたら一番最初に調べるのはこの病院さ。それで困るのはキミだろ?」

 

 アイシャはシャルナークの言葉になんの返答もせず思考する。シャルナークの言葉に嘘はないだろう。そのオーラは微動だにすら揺れておらずこの状況にあって平常心を保っていた。オーラの僅かな動きや質の変化から対象の感情を読み取るアイシャであってもその言葉が嘘偽りでないと判断出来た。

 

 だがそれはある程度の実力者なら誤魔化す方法は幾らでもある判断方法だ。アイシャも判断材料の1つにすれどこの技術に頼りきってはいなかった。オーラの操作に長けていれば堂々と嘘を吐こうともオーラが変化することはないだろう。この場では本気で言っていてもいざとなったら心変わりをする可能性もある。

 

 アイシャは僅かに思考し、そしてシャルナークに対して構えをとる。

 それは取引不成立の合図となった。

 

「……そっか。本当にいいの? 大切なんでしょ?」

「構いません。ここであなたを見逃しても約束を守る保証はありませんから」

「酷いなぁ。オレって約束は守るタイプの人間だよ?」

「人の物はおろか、命すら盗む盗賊の言うことが信用出来るとでも? それに誰が何人来ても問題ありませんよ。……全員倒せばいいだけのことですから」

 

「……!」

 

 その揺るぎない自負に気圧されるシャルナーク。この少女1人で仲間を3人も倒されたことをここに来て思いだし、額から一筋の汗を流しつつ思わず一歩後ずさる。

 

「そう。それは……残念だね!」

 

 言い終わると同時にシャルナークは手に持っていた荷物をアイシャへと投げつけ、そのまま出口に向かって逃走する。

 

「逃しません!」

 

 投げつけられた医療器具を躱し、そのままシャルナークを追いかけるアイシャ。

 

 

 ――ああクソッ! せめて【携帯する他人の運命/ブラックボイス】が使えたらなぁ!――

 

 シャルナークは内心そう愚痴りながらも全身をあらん限りのオーラで強化して逃走速度を上げる。

 シャルナークの能力【携帯する他人の運命/ブラックボイス】はオリジナルの携帯電話に付属しているアンテナを突き刺すことでその対象を自在に操作することが出来るという能力だ。だがその能力の対象は1人限定であり、そして現在は重傷を負ったフランクリンの治癒能力強化の為にフランクリン自身を操作するのに使用していた。

 つまり現状シャルナークは自身の能力が使用出来ないということだ。そのような状況で3人の仲間を圧倒したあの化物少女に勝てるとは流石の幻影旅団でも思っていなかった。

 

 対象にアンテナを刺しさえすればどれほどの強者であろうと勝利出来る。

 そして切り札として自身にアンテナを刺すことで自身を自動操作モードにすることで限界を超えた力を発揮出来るのだが、この状況ではどうしようもなかった。

 

 2人の距離は見る見る縮まっていった。アイシャとシャルナークでは肉体強化に回すオーラ量が違いすぎたのだ。アイシャは速度を落とさずシャルナークとの距離を縮め、その勢いのまま縮地を用いてシャルナークの眼前に回り込む。

 

「うわっ! 速すぎだろ!」

 

 そう言いながらもシャルナークはアイシャに向かって攻撃を仕掛けた。逃げられないのならば戦うしかない。そう判断したからには迷いなく行動に移っていた。

 

 走った勢いを拳に乗せての打撃。体重と加速が乗った拳に、その速度に見合った攻防移動でオーラが加わる。その一連の技術にアイシャも感心する。なるほど、確かに一流の念能力者だと。

 だが、アイシャが敵の打撃を見て思うことは常に1つだった。

 

――ネテロよりも未熟!――

 

 比べる対象が世界最強の念能力者では誰であろうと分が悪いのは仕方ないと言えよう。アイシャはシャルナークの拳を最小限の動きで躱しながら右手首と右肘の関節を外す。

 

「つぅっ! この一瞬で関節を2つも外すなんてね!」

「どうも。でも外しているのはこれで3つめですよ」

「え? 何を……!」

 

 アイシャの言葉に自らの身体の異変を悟る。

 そう、右腕が使えなくなったので左腕で牽制しようとするが、その左腕もまともに動かないのだ。まさかと思い左腕を見やると、そこには肘関節が外され力なくぶら下がっている左腕があった。

 

「嘘でしょ……。何時の間に?」

「あなたを追い越した瞬間にですが」

「……はは。これは勝てないかも」

 

 その人間離れした技量を何でもないように軽く呟くアイシャにシャルナークは乾いた笑いしか出てこなかった。

 

「降参しますか?」

「冗談。出来るだけ抗うとするよ」

「そうですか」

 

 アイシャは両腕を封じられながらも足掻く敵に対して容赦なく追撃を加える。元々この幻影旅団が原因で父であるドミニクが重傷を負ったのだ。さらに大切な友達であるクラピカの仇でもある。容赦をする必要など1つたりとてなかった。せめてもの容赦と言えば死なないように無力化するくらいである。

 

 

 

 程なくしてシャルナークは無力化された。

 両手足の、指1本1本に至る全ての関節を外され、さらに腰骨すらズラすという念の入りようでだ。今シャルナークが下手に抵抗して動けば脊髄を損傷するだろう。それで得られるのは僅かな身じろぎだけだから動かない方がマシに決まっていた。

 

 アイシャは自力で動くことも出来なくなったシャルナークを両手で抱きかかえ、ホテルに向かって移動する。誰かに見られたら厄介事にしかならないのでホテルを出た時と同じようにビルからビルへと飛び移ってホテルを目指した。

 

「あはは。こんな経験は初めてだね。まさかこの歳になって、しかも男のオレがお姫様抱っこされるとは思ってもいなかったよ」

 

 そう。現在シャルナークはアイシャに所謂お姫様抱っこと呼ばれる行為をされていた。背負うと首筋を噛み付かれる恐れがあり、荷物のように肩で抱えようにも腰骨をずらしているため骨や神経に掛かる負担が大きいのだ。

 結果このような形になったのだが、やっぱり旅団の負担など無視すれば良かったかと思うアイシャであった。

 

「下らないことを言うと落としますよ」

「やめてよね。今落とされたら死んじゃうじゃないか」

「オーラで身を守れば大丈夫でしょう?」

「いやいや無理無理。受身も取れないこの状況じゃ打ち所悪かったら死ぬよ」

「だったら黙っていてください」

「はーい」

 

 はたして捕らえられたという自覚があるのかどうか。

 溜め息を吐きながらアイシャは元いたホテルのベランダに着地し、そのままベランダの扉を開けて中に入る。鍵が掛かっていないのを無用心に思うも、こんな高所のベランダから侵入しようとする輩に鍵など無意味かと思い直す。

 

「ただいま戻りました」

 

 中に入って部屋を見渡すとそこには気心の知れた仲間とセメタリービルで見た大男、幻影旅団の1人がいた。

 仲間の内、ゴンとレオリオは疲労のせいかベッドに横たわって眠っていた。どうやら怪我はしているが無事なようだと安心する。

 大男はその全身を鎖で捕らわれ部屋の床に転がされていた。クラピカが能力を上手く使って捕らえたようだと理解する。

 

「おお、お帰りー……って、誰だそいつ!?」

「おっ! シャルじゃねーか! わはは! お前も捕まったのかよ!」

「ウボォー!? なんでウボォーまで捕まってんだよ!?」

「アイシャ! まさかその男は幻影旅団ではないのか!?」

「しょうがねーだろ。負けちまったんだからよー」

「負けたって……この女の子に?」

「おいアイシャ! お前どこで何があってこいつ捕まえてきたんだよ!」

「ちげぇよ。オレが負けたのはこの4人組にだよ。いま2人は寝込んでっけどな。それよりお前はどうしたんだよ?」

「オレは皆の治療の為に病院に侵入したところでこの女の子に見つかって負けちゃってね」

「……うるせぇなぁ。オレは疲れてんだ。寝かせろよなまったく」

「うぅん。何なのキルア……あ! アイシャ! お帰りアイシャ!」

「お前女1人に負けたのかよ! なっさけない奴だなおいー」

「何言ってんだよ! この子化け物だよ! 筋肉バカのウボォーじゃ絶対に勝てないね!」

「貴様ら何を悠長に話している! 自分たちが置かれている状況が分かっているのか!」

「何だとコラァ! オレがそんなケツの青い女に負けるわけねぇだろうが!」

「ケツの青い子ども相手に負けてるウボォーのセリフじゃないよねそれ! それにこの子は十分育っているじゃないか! Eカップはあったよ! 間近で見たんだから間違いない!」

「おいそこの優男。そこんとこ詳しく話してくれ」

「こいつ今すぐぶっ殺したほうがいいんじゃねーか? つうか殺そう」

「お前そうやって普段も女の胸ばかり見てるんだろこのムッツリ野郎が!」

「男が女の胸見て何が悪いんだよ! 鎖で縛られて喜んでいるウボォーよりはマシだね!」

「えーと。これって一体どういう状況なのアイシャ? オレ目が覚めたばかりで良く分かんないんだけど」

「カオス。私に言えるのはこれくらいです」

 

 アイシャの言う通りこの一室はまさに混沌と化していた。各々が好き放題に言い合うのでもう訳が分からない状態だ。アイシャはまたも深い溜め息を吐きつつ、未だ言い争う連中に対して怒気を叩きつける。

 

「っ!?」

 

 そのあまりのプレッシャーに皆が何事かと身構え静まりかえる。……まあ、旅団の2人は身動きが取れないのだが。

 

「……落ち着きましたか?」

『あ、ああ』

 

 アイシャのプレッシャーを浴びて何度も頭を振って肯定の意を見せる4人。それを見ながら旅団の2人はこの場に置ける力関係を何となく理解した。

 

「とにかく。色々話したいことはありますが、その前にまずはこの旅団をどうするかですね」

 

 全員の目線がベッドで横になる2人の旅団員に向く。その視線に晒されながらも2人は平然としており、その顔には笑みすら浮かべていた。

 

「殺せよ。残念だがオレたちゃ何も吐かねぇぜ」

「そう言うこと。嘘だと思ったら拷問でも何でもしていいよ?」

 

 表情を変えず、汗すら欠かず、平常心を保ったまま自らの命を軽々しく捨てるように言い放つ蜘蛛。言葉には一切の虚飾がなく、常日頃から死を享受してきた狂人の思想がそこにはあった。

 

「……とんでもねー奴らだなおい」

「これが幻影旅団なんだね……」

 

 この中では比較的まともな生き方をしてきたゴンとレオリオはその覚悟の一端に触れ旅団への認識を深める。

 

「大した覚悟だ。だがそう簡単に死へと逃げられると思うなよ」

 

 未だその両眼を緋の眼に変化させたままクラピカは旅団を睨みつける。その緋色に染まった瞳に映るのは憎き仇。心頭怒りに満ちているが、そこで仇を安易に殺すという選択をクラピカは取らなかった。

 

「どういうこった?」

「その瞳! クルタ族か。生き残りがいたんだ。つまるところこれはオレ達への復讐ってことか」

 

 クラピカの言葉にウボォーギンは訝しみ、シャルナークはその瞳の色からかつて己たちが滅ぼした辺境の一族を思い出す。だからこそ困惑する。復讐ならば同胞と同じように殺すはずだろうと。

 

「貴様らを殺したところで私の同胞は帰ってこない。そして貴様らは例え死したとしても己がした行為に反省も後悔も、欠片ほどの懺悔も抱かないだろう」

 

 クラピカの言う通りだろう。彼らは自身が成した行為によって起こった結果に一切の悔いがない。それ故に強く、それ故に狂人と言えた。

 

「それじゃどうするってんだ? 気の済むまでオレ達をいたぶるのか?」

「いいや、こうするのさ。【律する小指の鎖/ジャッジメントチェーン】!」

 

 クラピカの右小指から伸びた鎖がウボォーギンの胸に突き刺さる。鎖はそのままウボォーギンの心臓に絡まり戒めの楔となる。

 

「ウボォー!」

「な、何だこれは!?」

 

 胸に深々と突き刺さった鎖は一切の痛みをウボォーギンに与えなかった。それが逆にウボォーギンを困惑に陥れる。

 

「貴様の心臓に戒めの楔を刺し込んだ。私が定めた法を破れば即座に鎖が発動し、貴様の心臓を握りつぶす。……その結果は言うまでもないな?」

「て、てめぇ! オレが貴様の言うことを素直に聞くとでも思っているのかよ!」

 

そんなウボォーギンの叫びを無視し、クラピカは淡々と冷酷に言葉を続ける。

 

「私が定めた法は次の5つだ。

 1つ。今後一切の念能力の使用を禁ずる。

 1つ。私たちに関する情報の一切を他者に伝えることを禁ずる。当然だが筆談だろうが他人の念能力によって情報が漏れた場合もこの法に触れる。

 1つ。他者を傷つける行為を禁ずる。

 1つ。私の許可なくこの部屋から出ることを禁ずる。

 そして最後の1つ。……大人しく法の下に裁かれろ」

 

 それはウボォーギンにとって死刑宣告よりも屈辱なものだっただろう。

 誰にも憚られることなく好き放題に生き、暴力のみで世界を渡ってきたウボォーギン。だが念能力を封じられ、他者との争いを禁じられ、尚且つ自ら自首することを強制されるなど死に勝る屈辱としか言いようがなかった。

 当然そのような巫山戯た法を守るつもりなどウボォーギンにはなく、屈辱にまみれるくらいなら死を選ぶつもりだった。

 

 だがそこに待ったの声が掛かった。

 

「いいじゃないかウボォー。大人しくその定めを受け入れようよ」

 

 それはウボォーギンの同胞、同じ幻影旅団であるはずのシャルナークの言葉。

 屈辱極まりない、憎き敵の定めた法律に従えと言っているのだ。そのあまりの言葉にウボォーギンは一瞬自分の耳と脳を疑いすらした。

 

「何言ってやがるんだシャル! テメェこんなクソッタレな奴の言うことを大人しく聞けって言うのかよ!!」

「そうだよ」

 

 怒りを隠そうともせず怒鳴る仲間と対照的に冷静にシレっと答えるシャルナーク。その冷静さを間近で見て、怒り心頭のウボォーギンも逆に冷静になってくる。そしてそのシャルナークの考えをクラピカも読んでいた。

 

「シャル、と言ったか」

「シャルナークだよ。シャルは親しい仲での愛称なんで呼ばないでほしいな」

「そうか。シャルナークよ。貴様はこう考えているのだろう。生きてさえいればいずれ私の念を解除する機会はやって来る、とな」

 

 その言葉に対してもシャルナークは冷静に受け答える。

 

「さあ?」

「とぼける必要はない。貴様はこの馬鹿とは比べ物にならないくらい頭が回るようだ。それくらいの答えに行き着いて当然だろう?」

 

「誰が筋肉馬鹿だ!」

 

 隣でわめく筋肉馬鹿を無視してクラピカはシャルナークを見やる。シャルナークもただ笑みを深めるだけで何も答えない。

 

「ねえアイシャ? 相手に掛けた念って他人が解除出来るものなの?」

「……クラピカ?」

「構わない、教えてやってくれ」

 

 クラピカと旅団の会話から思った疑問を素直に聞くゴン。この場に置いても発揮されるその素直さはある意味では大物ではあった。

 

「はい、解除出来ますよ。他人や物に掛けられた念を外す能力。それは除念と言われ、その除念を身に付けた能力者を除念師と呼びます。尤も、除念師の数はとても少ないため、そう簡単に見つけられるものでもないですが」

「へぇ~。でもクラピカの能力が外されたら駄目なんじゃ……?」

「そりゃ駄目に決まってるだろ。おいクラピカ、そんな面倒なことしなくてもとっとと殺せばいいじゃんか。確かに殺しはいけないことだろうさ。でも今回は例外だろ? こんな凶悪な奴ら例え念で縛っても安心出来ないね。もし本当にお前の念が外されたら、その時はこいつ等絶対にお前を狙うぜ」

「でもよキルア。クラピカの能力に従ったら法の裁きを受けるんだろ? だったらこいつ等どう考えても死刑じゃねーのか?」

 

 キルアの当然の危惧に、レオリオがこれも当然の疑問を突きつける。

 

「甘いよレオリオ。今の世の中凶悪犯ほどそう簡単に死刑になりにくいんだぜ。お前だってトリックタワーで一緒に見ただろ? 名前は忘れたけど、百人以上殺しているのに懲役何百年とかでずっと生かされてる奴をさ。

 多分ずっと飼い殺しにしていざという時に利用したり、凶悪犯だからこそ簡単に殺さずに長い時を後悔の時間に当ててるとか何らかの意味があるんだろうけどさ」

「ああ、なるほど。確かにそうだったわな。そんでそれだけ長い懲役ならその内誰かに助けられたり、除念とやらを受ける機会も増える訳か」

 

 キルアの危惧はまさにレオリオの言った通りだった。彼らが大人しくクラピカの定めた法に従ったとしても、そこから抜け出せる道はまだ残っている。

 法の裁きを受け、どこかの収容所に入れられたとしても、脱獄をしてはいけないとクラピカは定めてはいない。もちろん他者を害してはいけないのでそう簡単に脱獄出来るとは思えないがそこは幻影旅団。そう簡単に出来ないことをやってのける嫌な予感がキルアにはあった。

 

「そうかもしれないな。だがA級賞金首であり念能力者として悪名高い幻影旅団を収容する場所はそれに相応しい収容所となるだろう。念も封じられたこいつ等ではそう易々とは脱獄することは出来ない」

「だけどよ――」

「――それに、だ」

 

 キルアの反論を途中で遮り、クラピカは蜘蛛に対して冷酷に言葉を発する。

 

「逃げ道を作れば貴様らと言えどそう簡単に死を選ばないだろう? なにせ上手くいけば私に復讐する機会を得ることが出来るのだからな。……僅かな希望を胸に抱き、屈辱にまみれて生き長らえろ薄汚い蜘蛛!」

 

 それこそがクラピカの復讐。

 死を受け入れている蜘蛛に何をしたところで彼らはそれを痛痒にも感じない。だが念能力を封じられ、他者を害することを禁じられ、法の監視の下で窮屈な暮らしを強制されることは今まで傍若無人に振舞ってきた蜘蛛にとって死に勝る屈辱だろう。

 それでも希望が、己をこのような境遇に追いやったクラピカに復讐する可能性が僅かでもある限り蜘蛛は安易に死を選ばない。クラピカはそう考えていた。

 

 そしてそれは正しかった。

 

「……なるほどな。シャルの言いたいことがようやく分かったぜ……! いいだろう! 敗者はオレ達だ! 甘んじて受け入れてやる! だが覚えていろ! オレは必ずこの鎖を打ち砕いてテメェの前に再び現れる! その時がテメェの最後だと思え!!」

 

「そうか。では定められた法をしっかりと順守することだ。破れば即、死だ。別に私はそれで貴様が死のうとも構わん。生きるのに疲れたならば勝手に死ぬがいい」

「そのツラが絶望に染まる瞬間を愉しみにさせてもらうぜ……!」

 

 まるで食い殺さんばかりにクラピカを睨みつけるウボォーギン。だがクラピカはそんなウボォーギンを無視して次にシャルナークへと向きを変える。

 

「さて、次は貴様だ。この男と同じ戒めだが、異論はないな?」

「あってもどうせ同じでしょ? 早くしなよ」

 

 この状況に置いて最早抵抗など無意味と悟るシャルナークはあまりに潔く戒めの鎖を受け入れる。だがその心中はウボォーギンとさほど差はないだろう。今は屈辱を喰んででも生き延び、いつかは必ず復讐を果たすと誓っていた。

 

「いい度胸だ。【律する小指の鎖/ジャッジメントチェーン】!」

 

 ウボォーギンと同じようにシャルナークにもその胸に鎖が突き刺さり、心臓に絡みつく。これで先の法を破れば即座に鎖が反応しシャルナークの心臓を握り潰すだろう。

 

「これで貴様にも戒めの鎖が突き刺さった。今しばしこの部屋で待っているんだな。準備が整えばお前たちに相応しい場所へと連れて行ってやる」

 

 そこまで言い放ったところでクラピカは立ちくらみを起こしたかのようにその場でフラリと体勢を崩す。それを見たアイシャが皆が何かを言う前にすかさず提案を発した。

 

「皆、無力化したとは言え幻影旅団がいる部屋では気も休まらないでしょう。ここは新しい部屋を借りてそこで休憩してはどうでしょうか?」

「確かにそうだな。それでは私が新しい部屋を借りてくるとしよう」

「ああ、私も付き添いますよ」

 

 そう言って流れるように2人は部屋から退室する。そのあまりのスムーズさに残された者たちはあっけに取られてさえいた。

 ただ1人、クラピカの異変を見てうっすらと笑うシャルナークを除いて。

 

 

 

 部屋の外へと出たクラピカは突然身体の力が抜けるようにその場で膝を突いた。

 

「くっ……」

「大丈夫ですか?」

「ああ……少々、長く変わりすぎていたようだ」

 

 クラピカの瞳が緋色から元の瞳の色へと変化していく。それと同時に緋の眼と同時に発動していた【絶対時間/エンペラータイム】の効果も切れることとなった。

 

 いまクラピカを襲っているのは極度の疲労だ。オーラの総量を劇的に増幅し、全ての系統の能力も100%の精度を発揮することが出来るという凄まじい能力にも当然のように制約が存在する。

 それこそがこの疲労だ。発動中はオーラの消耗も激しく、あまりに長い時間発動し続けると極度の疲労に襲われるのだ。場合によっては1日以上寝込むことすらある。

 新たな部屋を借りると言って部屋から退室したのも口実だった。実際新たな部屋を借りるのは必要でもあったから口実だけとも言えないのだが。

 

 とにかくクラピカは今の弱った姿を幻影旅団に見せることを避けたかった。無力化したとは言え、いつか本当に楔を外しクラピカへ復讐に来るかもしれないのだ。弱みの1つも見せるわけにはいかなかった。

 

「あまり無茶をしないでください。クラピカの能力は強力ですが反動も大きい。今は少しでも休んでください」

「大丈夫だよ。まだ限界まで変わっていたわけではないのだから。数時間休めば元の体調に戻せるさ」

 

 クラピカは笑ってそう言うが、現時点でもかなりの無茶をしているのはアイシャの目から見て明らかだった。確かに戦おうと思えば戦えるだろうが確実に精彩を欠いている。今すぐ旅団が襲ってくれば結果は言うまでもないだろう。

 

「出来るだけ早く休みましょう。私が新たな部屋を借りてきますから、クラピカは何処かで休んでいてください」

「……すまないな」

 

 アイシャが一緒に部屋を退室したのはこの為である。アイシャは仲間の中では唯一クラピカの全能力を把握していたからだ。あのフラつきからかなりの疲労が溜まっていると判断し、クラピカの弱点を悟られないよう自然と退室出来る流れを作ったのだ。

 

 だが、恐らくあまり意味がなかったなと退室時のシャルナークの表情を思いだしアイシャは渋面した。

 

「まあいいでしょう。弱点の1つバレたところで関係ないくらいクラピカを強くすればいいだけのこと」

 

 そう呟きながら今後の修行内容について1人考えつつホテルの受付まで移動する。

 

 ちなみにこの時クラピカの身に壮絶な寒気がよぎったのだが、それがアイシャの思考と関連性があるかはまだ誰にも分からないことだった。

 

 

 

 

 

 

 ヨークシンから僅かに離れた郊外にある幻影旅団のアジト。そこに幻影旅団の残り全ての団員が集結していた。残り全て。そう、ここに集っている団員の数は本来のそれよりも減っていた。

 旅団トップクラスの戦闘員ウボォーギンと、旅団の頭脳中枢の1人シャルナークの姿がないのだ。いや、姿だけで言えば戦闘員のフランクリンとフェイタン、そして団長のクロロとマチもこの場にはなかった。前者の2人はアジト内に居ることは居るが、アンダーグラウンドオークション襲撃のさいに重傷を負ってしまった為現在アジトの別室にて治療中であった。クロロとマチはその治療に赴いている為この場から離れているのだ。

 

「で、お前ら何があったんだ?」

 

 旅団戦闘員の1人、高い格闘能力を誇るフィンクスが襲撃班の仲間にそう問いただす。

 

「オレ達が地下競売の競売品保管庫に着いた時には中に何もなかった。その場にいたオークショニアの話によると陰獣の1人が競売品を持っていったらしい。出て行く時にゃ手ぶらだったって話だから多分シズクと同じタイプの能力者だ」

 

 それに答えたのは襲撃班の1人ノブナガ。ノブナガはそのまま話を続ける。

 

「オレ達は陰獣をあぶり出す為にオークション会場で暴れることにした。会場を襲ったのはフランクリンとフェイタンだ。そして――」

「……そこからは私が話すね」

 

 ノブナガの話に割って入ったのはシズクだ。シズクもフランクリンやフェイタンと同じく襲撃班の中で怪我をした者の1人だが、命に関わるほどの重傷ではなく比較的無事であったため治療もさほど時間も掛らずに終わっていた。と言っても、左腕の手首・肘・肩の関節が砕けているため軽傷というわけでもないのだが。

 

「私が会場の入口を見張っていると1人の女の子が襲撃してきたの。もちろん撃退しようとしたんだけど、よく分からない動きであっという間にやられちゃった」

「よく分からない動きだ?」

「うん。身体の動きと実際の移動がバラバラだった。どうやっているのか分からなかったし、速度もフェイタン以上だったかも。それでこんな目にあっちゃったんだけど……。

 とにかくやられて意識は朦朧としていたんだけど、何とか意識を保っていた私はフランクリンとフェイタンがその女の子と戦うのを見ていたんだ。……ちょっと尋常じゃなかったよその子。フランクリンの念弾をまともに受けても傷1つ付いていなかった。それどころかまるで意に介さずにフランクリンに向かって走ってた」

「はあ? 何だそりゃ!?」

 

 流石の幻影旅団もシズクの話す内容を瞬時に信じることが出来なかった。これまで強者として、奪う者として生きてきた強者のみの集団が幻影旅団だ。その旅団の攻撃をまともに受けて傷1つ付かない存在などそれこそまともな訳が無い。

 

「おいおいシズク。お前意識が朦朧として幻覚でも見てたんじゃねーか?」

「それはないよ。だって現にフランクリンとフェイタンはやられている。ノブナガも見たでしょ。フランクリン達が倒れている傍で無傷で立つ彼女の姿を」

「ああ。シズクの言ってることに間違いはないだろうな。オレも直接その女が戦う姿を見たわけじゃねぇ。だがありゃただもんじゃなかった。発するオーラの質、量ともに桁違いだったぜ」

 

 2人の話しぶりから法螺や誇張の類はないと理解する旅団員。仲間を害した存在を認め、だが何故そのような規格外な存在が旅団を襲ったのか疑問に思った。

 

「どうしてその女はその場にいたのかしら? その女はマフィアなの?」

 

 その疑問はパクノダと呼ばれる女性からのもの。パクノダは旅団に置いても類希なる能力の持ち主で、シズクと同じく特定条件下に置ける生存順位が優先されるほどだった。その能力は記憶を引き出す特質系能力。対象に触れることでその対象の記憶を読み取ることが出来るレア中のレア能力、まさに旅団の生命線の1つと言えた。

 

「分からねぇ。マチが言うにはマフィアって印象じゃなかったらしいぜ。ま、勘らしいけどよ。あいつの勘はよく当たるからなぁ。今回も嫌な予感がしていたらしいぜ」

「オレとしては襲撃が見越されていたのが気になるぜ。お前らが襲撃する前にそれを察知していたかの如く競売品を移動。その後にその女からの襲撃。……偶然とは思えねぇな。裏切り者でもいるんじゃないだろうな?」

「滅多なことを言うのはよせ」

 

 フィンクスの勘繰りに全身を包帯で巻いた異形の男――ボノレノフ――が異を唱える。

 

「裏切り者がいるにしろいないにしろ、それを決めるのはオレ達ではない。ここで何を言っても無駄になるだけだ。団長が戻ってくるのを待つしかない」

「あ? 敵がなんなのか推測すんのも無駄だってんのか?」

 

 一瞬にして室内に殺気が満ち溢れる。

 フィンクスも裏切り者がいるなどと本気で言ったわけではなかったが、それでもこうも真正面から自分の意見を否定されて平常心でいられるほど気の長い男ではなかった。まあ、一概に短気な男だと言える。

 

「そこまでよ。団員同士のマジギレは御法度。それを破るようなら私たちも容赦しないわよ」

 

 殺気立つフィンクスもその一言で落ち着きを取り戻す。もっとも、この殺気でさえフィンクスにとって本気ではなかったのだが。仲間内でもこの程度の殺気は日常茶飯事とも言える出来事なのだ。

 

「ちっ、分かってるよ。あー、治療はまだ終わんねーのか?」

「シャルが戻って来ていないしね。それまでは終わらないんじゃない?」

「治療道具を盗んでくるだけだろ? 何やってんだよシャルはよぉ」

 

 フィンクスのその愚痴に応えるものはいなかったがその言葉は全員が同意するものでもあった。治療道具を盗んでアジトに戻ってくる程度、旅団員の1人が成し得ない訳が無い。あまりに遅い仲間の帰り焦燥感を抱く蜘蛛。

 そしてどれだけ待ってもシャルナークは帰ってこなかった。

 

 

 

 どれほどの時間が流れただろうか。

 待つことに痺れを切らして鬱憤の溜まっている旅団員から溢れる険悪な空気が場を支配する中、その空気を壊すように1組の男女が現れた。

 

「待たせたな」

「団長!」

 

 現れたのは幻影旅団団長クロロ=ルシルフルとマチの2人。たった今治療を終えこの場に戻ってきたようだ。

 

「治療は一先ず終わったところだ。マチの念糸縫合で出来る限りの処置は施したが、正直芳しくないな。フェイタンは峠を越したが、フランクリンは保って数日といったところか。傷もそうだがそれよりも血が足りない。……ウボォーはまだか?」

「まだだ。こんなに遅いなんてやっぱり異常だぜ団長。囮になったウボォーはともかく、病院に入ったシャルがこんなに遅いのはおかしいだろ」

「……わかった。シャルの件については置いておこう、まずはお前たち襲撃班に何が起こったのか一から説明してもらおうか」

 

 重傷を負った仲間の治療を優先したためにクロロは細かな話を聞けてはいなかった。尤も、治療と言ってもクロロが出来ることはもしもの為にある念能力を使うつもりなだけだったが。フランクリンも致命傷とは言え、持ち前の生命力からまだ完全に死に至るには時間に余裕があったためこうして他の旅団員の様子を伺いに来たのだ。

 

「ああ、あれは――」

 

 

 

 

 

 

 全ての話を聞き終えたクロロは静かに考えを纏める。そして蜘蛛を束ねる団長に相応しい頭脳で推測を固めていった。

 

「恐らくマフィアとその女に繋がりはないな」

「どうしてだよ? マフィアを襲っている最中に現れたんだろその女? どう考えてもマフィアと繋がってんじゃねーのか?」

「いや、恐らく関係はあるが繋がりはない。そんなところだろう」

 

 まるで謎かけのようなその答えにフィンクスはおろか他の団員も意味を理解しかねて眉を顰める。

 

「まずはオレ達の中に裏切り者はいないと言っておこう。マフィアに蜘蛛を売ったところでそいつにどんなメリットがある? 金か? 名誉か? 地位か? そんな下らない物でメリットを得る奴がオレ達の中にいるのか?」

「それは……いねぇだろうな」

 

 クロロの言うことは正しい。彼らは盗賊であるが、そこにある欲望は金目の物を欲するだけではない。ただ金が欲しいだけなら蜘蛛を売るのもいいだろう。だが彼らは違う。欲しいものは奪い自由に生きる。何者かに束縛されたり与えられる生き方などまっぴらゴメンだった。

 

「それに密告があったにしてはマフィアの対応があまりに中途半端だ。競売品は撤去したというのに警備はお粗末。オレ達が競売品を狙っていると知っていたならもっと厳重に警備していてもおかしくはないだろう」

「その厳重な警備がその女じゃないのか?」

「違うな。それならば対応が遅すぎる。参加客にはマフィアの大物も大勢いたはずだ。殺されてから札を切る理由はない」

 

 その推論に一応の納得を見せた団員たちにクロロは続きを話す。

 

「マフィアの連中は何処からか仕入れた情報で今日何かが起こると知っていた。オレ達が来ると言う具体的な内容の情報ではないが、その具体性のない曖昧な情報を信じる者がマフィアンコミュニティーの上層部にいる。可能性として考えられるのは情報提供者の情報が曖昧であっても信頼性の高い情報であると上層部では周知の事実であること。何らかの念による情報収集能力かもな」

 

 なるほど、それならばマフィア達のあの対応にも頷ける。曖昧な情報だが地下競売が襲われると知っていた為にあらかじめ競売品を運び出していたのだ。だが、曖昧な情報ゆえに競売品の移動も蜘蛛襲撃の日になり、警備もずさんな――幻影旅団からすればだが――ものだったのだ。

 

「そしてお前たちと交戦したその女はマフィアとの繋がりはないだろう。曖昧な情報でも襲撃があると予測しているのだ。それだけ強いならば初めから客として会場内に潜ませていればいいだけのことだからな。それがないということはマフィアそのものとは繋がりがないということだ。

 だがその女はマフィアの中に知人でもいたのだろうな。あるいは家族か? とにかく何らかの関係を持つ者が参加客の中にいた。最後は正直推論よりも予測が大きいが、オレの結論ではこうだな」

 

 クロロの推論は的外れなものではないのだろう、それは団員全てが理解した。だがその結論を正しいとするのなら――

 

「待てよクロロ。それじゃなにか? 襲撃班がやられたのはたまたまマフィアの関係者にその化物女がいて、そいつがたまたま近くにいたからってことか?」

 

 運が悪かった。ある意味そう集約しても過言ではないだろう。

 元々世界的に見ても上から数えた方が早い強者の集いなのだ。自分達以上の敵などそう出くわすものではない。それも1人で複数の団員を相手取って無傷で勝利する者など見たことも聞いたことも、考えたことすらなかった。

 だが、フィンクスのその意見をクロロは切って捨てた。

 

「運が悪いとでもいいたいのかフィンクス。それは違うな。オレ達がすることに運が作用することはない。あるとすれば実力が不足していただけだ」

「……そうだったな。オレが間違ってたぜ」

 

 そう。常に力が物を言う世界で生きている彼らに運が悪かったという言葉はただの逃げでしかない。たまたま強者に出くわして負けた? それは違う。運が悪いのではなく強者に負けた実力の無さが悪いのだ。強ければ何も問題はなく、負けた方が悪い。そういう世界を生きているのだから。

 

「それで団長。競売品は盗めなかった。フランクリンとフェイタンは重傷。ウボォーとシャルも戻ってこない。この状況でこれからどうするんだ?」

「そのことだが、シャルは恐らく帰って来られない可能性が高いな」

「……どういうことだよ? そういやさっきもウボォーの帰りは聞いたけどシャルの名前は出していなかったな?」

 

 そう。クロロは先ほどウボォーギンの帰還を確認したが、その際にシャルナークの名前は出さなかった。シャルナークもウボォーギンと同じくこの場を離れていながら、だ。聡明なクロロがそれを忘れているとは思えない団員たちは嫌な予感を膨らましながらクロロの言葉を待つ。

 

「シャルは恐らく死んだ」

『!?』

 

 クロロの口から出た言葉は想像の範疇ではあったがその中でも最悪のモノだった。これが真実で、ウボォーギンまでも死んでいたとすれば一夜の内に仲間が2人も失ったことになる。いや、未だ予断を許さないフランクリンが死ねば3人だ。そのような事態は蜘蛛結成以来皆無であったというのにだ。

 

「恐らく、だがな。捕らえられ無力化されている可能性もある」

「どうしてそれが分かるんだよ? 団長の能力か?」

 

 クロロの持つ能力は特殊性が高く、その真価を発揮すればこの世の誰よりも多岐に渡る能力を持つことが可能だ。現状クロロが幾つの能力を持っているか、その全てを把握している旅団員は1人もいない。10か20か、あるいは100を超えるのか。

 その中の能力で団員の生死を判断出来ると言われても不思議には思えないだろう。

 

「いや、オレの能力は関係ない。フランクリンがシャルに操作されて治癒力を強化されていたのは知っているな。オレ達が治療中のことだが、その操作が突然切れた。フランクリンは無事だったが、術者であるシャルがその能力を解く理由などそう多くはないだろう」

「敵と交戦してやられたってことかよ……!」

「その可能性が最も高いな」

「くそっ! ウボォーも戻ってこねぇってことはやられちまったのかよ! やっぱりオレも残りゃよかったぜ!」

 

 己の判断を悔やむノブナガだが時は二度と戻らない。

 今ここで吠えたけようともそれで仲間が戻ってくることはなく、それを理解しているからこそ歯がゆさが増すばかりだった。

 

「それで、これからどうするって話に戻すぜ団長。お宝諦めてトンズラか? それともあいつ等の仇討ちか?」

「どちらにしろ敵を少しでも知っておいた方が今後の為だ。パク、シズクの記憶を読んでオレ達全員に撃ち込め」

「分かったわ」

 

 記憶を撃ち込めという意味不明な言い回しを命じるクロロの言葉にパクノダは迷わず従い行動を開始する。シズクの身体に触れることで能力の発動条件を満たし、そして特定の質問をすることで対象の記憶を呼び起こしそれを読み取る。

 

「あなたを傷つけた女性を思い出して。どんな姿で、どんな戦い方だった?」

 

 その質問とともにシズクの原記憶を刺激し、そこからこぼれ落ちた記憶をすくい上げる。その瞬間、パクノダはシズクが経験し記憶した女性の姿、オーラ、戦闘力を理解する。

 

「これは……本当にとんでもないわね」

 

 言葉では理解していたが、それでも実際に見てみるとまるで印象が違う。見た目とは裏腹なオーラの質。精錬されかつ苛烈とまで言える攻撃。掴み切ることが出来ない底の知れない実力。どれもが異質で異常な存在がそこには映し出されていた。

 

「それじゃあ記憶を撃ち込むわよ」

 

 懐から取り出した拳銃に弾丸を込める。だがその弾丸は通常のそれではなく、パクノダが具現化した特別な弾丸だった。6発分の弾丸を拳銃に装填して狙いを定める。その狙いは……仲間である幻影旅団に向かって伸びていた。

 

「おいパク!?」

「大丈夫だフィンクス。黙って見てろ」

 

 クロロの有無を言わせぬ迫力を合図に拳銃から6発の弾丸が発射される。6発の弾丸は狙い違わず6人の旅団の頭部に命中した。だがその弾丸で誰も傷つくことはなく、脳内に自分のものとは違う記憶がまるでビデオでも見ているかの如く再生されていった。

 

「これは…………なるほどな。記憶を撃ち込むとはよく言ったもんだぜ」

 

 そう、それこそがパクノダのもう1つの能力。

 パクノダが得た記憶を具現化した弾丸に込めて人を撃つと、打たれた人はその記憶を植えつけられる。情報の共有に置いてこれほど有用な能力も少ないだろう。

 

「ボクにも撃ってくれると嬉しいんだけど♥」

 

 パクノダが持つ拳銃の装弾数の問題で一度に撃てる数は6発。そして記憶を撃ち込む人数はこの場に7人。見事に溢れてしまったヒソカはやや演技調にパクノダに訴える。

 

「分かっているわよ」

 

 そうしてヒソカにも記憶の弾丸が撃ち込まれる。これで全員に現状知る限りの敵の情報が伝わることとなった。

 各々がその姿からは想像も出来ない実力に舌を巻く中、1人ヒソカは笑みを浮かべていた。ここに誰もいなければ憚られることなく大笑いしていたかもしれない。

 

 ヒソカの脳内に流れている記憶映像に映っていたのはヒソカの想像通りの人物だったからだ。

 

 ――ああ、アイシャ! こうまでボクの期待以上に関わってくるとは思わなかったよ!――

 

 ヒソカの最も恋焦がれている相手。今まで見た中でどんな敵よりも唆られる強敵。

 誰にも邪魔されず殺しあいたい! 心ゆくまでアイシャとの死闘を味わいたい! それこそがヒソカの最大の望み、いや欲望と言うべきか。アイシャと出会う前まで心焦がれていた幻影旅団団長クロロとの死闘は、今となってはアイシャというメインディッシュに至る前のオードブルに過ぎなかった。

 もちろん今なおクロロが最高級のご馳走であることに変わりはない。ただアイシャがそれを上回る程の極上のご馳走であっただけのことだ。

 

 旅団員がアイシャに慄き、ヒソカがアイシャに焦がれる中、クロロはまた違った反応を見せていた。

 

 ――この女……いや、このオーラ……何処かで見たことが…………っ! まさか!――

 

 瞬間、クロロの脳裏にかつてのある出来事が思い起こされる。

 それは14年近くも前のこと。流星街に突如として現れた悪魔の子との出会い。

 長い年月を経ても今なお忘れえない敗北の記憶。幼かったとはいえ、未熟だったとはいえ戦わずして逃走を選ぶという屈辱の選択。

 その恥辱に塗れた経験をクロロに植え付けた悪魔の子が発していたオーラとこの記憶の少女のオーラは非常に酷似していたのだ。

 

 ――年齢は10代後半か? いや早熟であるならばこの見た目でも13歳というのは有りうる。それが念能力者ならば尚更常識は当て嵌らないだろう――

 

 一度疑ってしまえばもうその疑惑を解くことは出来なかった。確証もなく、どれほど考えても推論にしか至らない。

 だが、それでもクロロは記憶の少女が流星街の悪魔の子であると確信する。見間違うわけがない。このオーラは間違いなくあの悪魔の子だと。

 

「この女が敵か。ウボォーとシャルが帰ってこないのもこいつに殺られた可能性があるな」

「まだ分からないね。陰獣の可能性もある。1人で陰獣全て相手取るといくらウボォーでも殺られる可能性は高いよ」

「それにシャルは病院に行ったはずだ。いくら何でも広いヨークシンでこの女とそう簡単に鉢合わせになるか?」

 

 強大な敵を確認し団員たちがそれぞれ意見を言い合う中、考え事をしていたクロロがその意見を耳に入れ突如閃いた。

 

「待て。シャルは病院に行ったと言っていたが、どの病院に行ったか分かるか?」

「え? いや、何の病院に行くかまでは言わなかったな」

「そうか。パク、ヨークシンの地図を持って来い。襲撃班の中でシャルが気球から離れた位置を正確に分かる者はいるか」

「あたしが分かるわ」

 

 次々に指示を出しパクノダが持ってきたヨークシンの地図を見ながらマチが言う位置を確認する。シャルナークが飛び降りた地図の位置から近く、かつシャルナークの思考から割り出してどの病院を狙うか。

 そしてしばし地図を眺めその結論が出た。

 

「ここだ。このエル病院。ここが最も近くそしてかなりの規模を持つ病院だ。恐らくシャルはここに侵入した。シャル程の使い手が陰獣相手に遅れを取るとは思えない。1人で出来ないと判断したことは絶対にしない男だ。もし複数の陰獣を確認したなら必ず見つからないように逃げの一手を打つはず。

 だが現にシャルは帰ってこない。それはシャルの力ではどうしようもない何らかのトラブルに巻き込まれたということ。現状で考えられる中で最も可能性の高いものは……この女と遭遇してしまったということだろう」

「なんでこんな病院にこの女が居たんだよ。それよか帰りがけに見つかったって可能性もあるんじゃねーのか?」

「確かにその可能性がないとは言い切れない。だが慎重に事を運ぶシャルが広いヨークシンで偶然その女に見つかる可能性がどれほどあると思う? それよりはこの病院で出会ってしまった可能性を考えた方が自然だ。そしてそれにより何故この女がこの病院にいたのかという疑問に行き着く。そうすると次の推理は簡単だ。

 ……これまでの話を統合すると、この女はマフィアの誰かを助ける為にあの場に現れた可能性が高い。シズクの記憶にある女を見れば分かるだろう、明らかに怒りに駆られていたその姿を。

 そしてシズクの記憶を見るに客の大半が死んでいたが、それでも生き残りは多少はいた。この女の知り合いが生き残っていたとして、重傷を負っていたらどこに向かう?」

 

 所詮クロロの言っていることは推論に過ぎない。前提とした推論がどれか1つでも間違っていたらあっさりと崩れ去るほど根拠のない推論。だが自信に満ち、戸惑うことなく矢継ぎ早に推論を口に出すクロロを見ていると不思議とその言葉が正しいように団員たちは思えてくる。

 

「しかもだ。地下競売の会場があったセメタリービルからこのエル病院はそれほど遠い位置にはない。オレが女の立場で病院を選ぶならこのエル病院を選ぶだろう。

 可能性は少ない。そのマフィアが死んでいる可能性の方が高いだろうからな。だがそれでもこの病院を調べる価値はある。上手くするとこの女の生命線を握ることが出来る。そうでなくてもシャルの現状が分かる可能性は高い」

「つまりそれはあれか? 撤退戦じゃなくて全面戦争って解釈でいいんだな?」

 

 ウボォーギンに並ぶ幻影旅団きっての武闘派であるフィンクスが嬉しそうに笑みを浮かべる。他の面子もこのまま引き下がるつもりはないという顔つきばかりだった。不安に苛まれていたマチでさえここまでコケにされて引き下がるつもりはもうないようだ。

 

 当然だろう。お宝は1つとて手に入れられず、仲間は敵に傷1つ付けられず打倒され、仲間の為に動いた者も帰ってこない。幻影旅団としてこれほどの屈辱を味わったのは初めてのことだった。団長が撤退を指示すれば嫌々ながらも従っていただろうが、今の言葉からそうではないと悟り全団員の士気が膨れ上がる。

 

「計画変更だ。このまま夜明けを待って2人とも帰ってこなかったらエル病院へ赴く。以降の指示は全てオレが出す。いいな」

『おう!!』

 

 意気揚々と全ての団員が返事を返す。明日は蜘蛛始まって以来の死闘になるだろうと全員が確信する。

 過去の屈辱を乗り越えようとする者、不安を打ち消し前を見る者、死闘に愉悦を感じる者、そして己の欲望の為に策謀する者。

 様々な思惑をそれぞれが胸に秘めたまま、ヨークシンでの1日が終わりを告げる。

 

 




 クラピカの旅団に対する復讐はこのような形になりました。納得いかない方も多いでしょうが私はこの形で貫こうと思います。だってこいつ等殺してもそれで堪える連中じゃないですし。物語の流れでこれがクラピカが出来うる一番屈辱的な復讐かなと思いました。







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