どうしてこうなった?   作:とんぱ
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シリアス終了。三人称から一人称に戻りました。


第四十六話

 9月7日、朝である。希望の朝だ。
 清々しい目覚めだ。先日までの雨の影響もなくなり天気も良くなっている。まるで私の心のように晴れやかだ。

 こうも清々しい気分なのはドミニクさんが多少なりとも譲歩してくれたのが嬉しかったからだろうな。私を許さないのはもう当然のことだから諦めていたけど、母さんの墓参りを許可してくれるとは思ってもいなかった。おかげで昨日ホテルに帰ってからもずっとにやけていた自覚がある。

 ……いかん。思い出したら少し恥ずかしくなってきた。ゴン達の私を見る目がどこか暖かかったのはそういうことだったのか……。年甲斐もなく浮かれてしまうとは情けない。
 いや、でも仕方ないな。それだけ嬉しかったんだから。

 さて、気持ちを入れ替えていくとしよう。
 今日はキルアとレオリオさんと一緒にヨークシンを観光する予定だしね。
 年に1度の、それも長い人生で初めてのドリームオークションなんだから色々見て楽しむとしよう。オークションの前半はどこぞの盗賊団のせいで散々だったからな。

 そう思い、一応の準備を整える。
 ……たまにはリィーナ達からもらった洋服でも着ようか。こういうのは苦手だけど、たまにならいいだろう。折角買ってもらって試着だけで終わらすのも服が可哀想だしな。
 まあ、殆ど押し付けられたようなものだけどね。

 荷物から洋服を引き出しながらそれを広いベッドに並べていく。
 組み合わせは要らぬお節介で入っていたメモ用紙に色々と書かれているのでそれを参考にする。まさかまたこのメモを使うことになろうとは。

 広い部屋に広げた服とメモを見ながら悪戦苦闘しつつもコーディネートする。
 部屋に備え付けられている鏡を見ながら何処かおかしな所はないか確認。誰かいれば感想を聞けるんだけどな。
 ……私だけ別の部屋にさせられたからなぁ。天空闘技場では一緒に寝泊り出来たのに。横暴だ! 断固抗議する!

 ……やっぱり女というのがネックなんだろうなぁ。男性の中に女性が1人。そりゃ私を思って部屋を分けようとするか……。つまり男に戻れば皆ともっと仲良くなれるはず! 
 でも少し悩むんだよな。このまま男に戻っていいものかどうか……。童貞を捨てる意志は未だあるんだけど、男に戻るのは母さんはともかく、ドミニクさんに悪い気がする。あの人、私に母さんの面影を感じていたかもしれなかったし……。

 私があの人に僅かでも許されたのは、私の何処かに母さんを見たからかもしれないから。病院で別れる間際の、あの台詞を聞いてそう強く思えた。それを考えると簡単に男になるのもどうかと思ってしまうようになった。

 母さんが消えた時はこうは思わなかった。母さんは例え私が男になったとしても、最初は反対するだろうけど最後には納得してくれるだろう。そう思ったから性転換の道を進んでいたんだけど……。

 ……………………うーむ。
 よし! 性転換の薬を手に入れたら男と女と使い分けよう!
 基本男で生きていき、母さんのお墓参りなどでドミニクさんに会うかもしれない時は女の姿で行く! これだ!!
 ふっ。我ながら名案である。問題は性転換薬が一度限りしか効かない場合や、数が少ない時だが、それはグリードアイランドで薬を手に入れてから確認するしかない。



 ある程度納得のいく答えに行き着き、着ていく服の厳選作業に戻る。
 そして2つまで絞り込んだ所で熱が冷めたかのようにふと冷静になった。
 こっちは明るくて可愛い、いやこっちの方は落ち着いているし、等と自分が着る女性物の服をじっくり選んでいる元男。……これはあかん。

 冷静に戻ると自己嫌悪で落ち込んできた。
 あー、やめやめ! どうして私が友達と遊ぶ為とはいえそこまでしなければいけない。ちょっと最近精神がマジでヤバイ。女性へと傾きつつあるかもしれん。環境は人を変えるというが、長い年月念能力で精神が変わった身として本当に実感出来るよ。
 このままでは本当に男になった時にも女性らしさが残っているかもしれない。母さんの能力で口調を女性らしくしないといけないから、せめて服装くらいは女性らしさを出さないはずだったんだ。
 ここ最近、というかビスケの着せ替え契約のせいでそこら辺が曖昧になっていた。ここらでちょっと気を引き締めねば!

 そう決意してすぐに洋服を片付ける。そしていつも通りの動きやすさ重視の服を引っ張り出し、素早く着替える。うむ。これでいい。
 さっきまでのは気の迷いだったのだ。そうに違いない。



 着替えも終了した所で時間を確認する。
 現在7時ちょいか。7時30分には朝食を食べに行く予定だから、そろそろゴン達の部屋へ移動しよう。そう思っていた所で懐からケータイの着信音が流れてきた。

 はて、誰からか。……おお、ネテロか!
 電話をしてきたということはようやくヨークシンに来る算段が着いたのかな? 名前を確認し、すぐにボタンを押して話しかける。

「はいもしもし」
『おお、アイシャか。連絡が遅くなってスマンのぅ』
「まああなたの立場が立場ですからね。ヨークシンに行きます、はいどうぞ。とは行かないのは分かっていますから」
『うむ。組織の長などと言っても自由な時間も少なく縛られる毎日よ』
「よく言いますね。あなたの突拍子のない行動でビーンズがどれだけ苦労したことか。昔酒の席で愚痴られたのを忘れていませんよ」

 リュウショウの時代にネテロと酒を酌み交わした時の話だ。
 たまたま仕事がなく、その場にいたビーンズも交えて軽く酒を呑んだのだが、疲れからかストレスからか、少量の飲酒で酔っ払ったビーンズが溜まったストレスを盛大にぶちまけたのだ。
 愚痴の大半が仕事に関することで、さらにその内の大半がネテロに対する愚痴だ。ネテロは優秀だが、時に意地の悪いことをしでかして他人を困らせて楽しむという子どもじみた所があるからな。
 被害にあった人は数知れず。ビーンズもそれに漏れず、しかもネテロの秘書という立場故にネテロの被害を受けた人たちから陳情を受けることもしばしばあったそうな。
 直接ネテロに言うことが出来ない人は多いだろうしな。板挟みになって苦労してるんだろう。それでも慕われるこいつは人としての魅力が大きいんだろうけどな。

『そうは言うがの。ワシも協会の為に動きつつ、僅かな時間を自由に使っておるんじゃ。だから少しくらいハメを外してもいいじゃろう?』
「それが他人に迷惑を掛けない外し方なら誰も文句は言わないでしょうね」
『厳しいのぅ。いいかげんワシも隠居しようかの? 歳じゃし、集中してやりたいことも出来たしな』

 そう言うネテロの声は今までとは違い言い知れぬ圧迫感を持っていた。
 顔を見ずとも分かる。今のネテロは確実にいい笑顔をしていると。

「歳、ね。私に負けても歳のせいにしないでくださいよお爺ちゃん?」
『抜かせ。そっちこそ負けを歳のせいにするなよ小娘が』

 そう言って互いに不敵に笑い合う。
 やっぱりネテロとのやり取りは楽しい。
 好敵手としてのこの関係は、友逹であるゴン達との関係とはまた違った楽しさがある。またこいつと闘えると思うとそれだけで心が躍ってくる。

「再戦を楽しみにしていますよ」
『こっちの台詞じゃわい。首を洗って待っとれよ』

 ではな、と締め括って電話を切るネテロ。
 齢120を越えるというのに、私に勝つ為に今も修行に励んでいるのだろう。
 そう思うと心にゾクゾクと響くものがある。私も負けていられないな。
 グリードアイランドではゴン達の修行を見るとともに自分自身もより高めるようにしよう。基礎修行は当たり前として、新たな技でも開発するのもいいかもしれないな。ふふふ、グリードアイランドへ行くのがまた楽しみになってきたな。

 ……はて? 何か忘れているような?

 何を忘れているか少し考えて、ふと思い出した。
 思い出したとほぼ同時にケータイが鳴った。
 着信名はネテロだった。

「えっと……もしもし」
『あ、今日……ホテルに昼頃到着予定じゃ』
「あ、はい。その、待ってます」
『……じゃあ、また後での』
「……ええ、また後で」

 私たちは互いになかったことにした。



 しかし、ネテロが昼頃に来るとなると今日のお出かけは中止か。
 残念だけど仕方ないね。いいかげん幻影旅団を放置しておくのも何だし。ネテロにはさっさとあの犯罪者どもを連れて行ってもらうとしよう。
 まあ取りあえずは朝食の時に皆にこの件を話すと――と、また電話か。立て続けに電話が掛かってくるなんて珍しいな。またネテロか?

 着信名は……リィーナ? どうしてリィーナから電話が? まあ、話を聞けば分かるか。

「はいもしもし」
『お早うございますアイシャさん。このような朝から申し訳ございません』
「いえ、いいんですよ。それで、どのような用件ですかリィーナ」
『はい。実は現在ヨークシンに来訪していまして。本日アイシャさんの元へとお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?』

 え? リィーナもヨークシンに来ているの?
 オークションで欲しい物でもあったのかな? それとも仕事?
 いや、もしかしたらビスケに付き合って来たのかもしれないな。ビスケもグリードアイランドをプレイする為に選考会に出る予定だし。
 あの2人、仲いいからね。昔はあんなにいがみ合っていたのに、喜ばしいことだ。

「構いませんよ。ビスケもいるのでしょう? 2人で遊びに来なさい」
『ありがとうございます! では、2人でお伺いさせていただきます。それで、先生がいらっしゃるのはどちらのホテルでしょうか?』
「ええ、――というホテルです。場所は分かりますか?」
『はい、大丈夫です。ヨークシンにある大方の宿泊施設は把握済みですから』

 ……私が泊まっている宿泊施設に辿り着くのに手間を少しでも減らす為にあらかじめ予習してきたのだろうな。相変わらず私に関しては間違った方向で努力をする子である。

『では、本日昼の12時程にそちらに参ります。先生にお土産がございますので、楽しみにお待ちください。それでは失礼いたします』
「ええ、また後で」

 そう言って電話を終える。そうか、2人が遊びにくるのか。お土産ってなんだろう?
 ……あ。12時? しまった。ネテロが昼頃だから、時間がブッキングしてしまったな。
 うーん。……ま、いっか。特にネテロと出かける用事があるわけでもないし。リィーナもネテロと長い付き合いだからな。

 おっといけない。そろそろ朝食の時間だ。遅れないように部屋を出るとしよう。
 さて、今日は忙しい1日になりそうだ。







 時刻は11時55分。そろそろ来る頃だろうと思いホテルのロビーで待機する。

「もうそろそろか?」
「ええ、リィーナは時間には正確なので、待ち合わせ時間の5分以内に到着するはずです」
「ロックベルト会長か~。まさかアイシャ達がそんな天上人と知り合いとはな~」

 ああ、レオリオさんはリィーナをロックベルト財閥の会長として知っているのか。医者になる為にお金に執着していたレオリオさんからすれば確かにリィーナは天上人だな。リィーナの総資産ってどれくらいあるんだろう?

「レオリオ。リィーナ殿に対して甘い考えは捨てておけよ。あの人は他者にも自身にも厳しい人だ。金をせびるなどというふざけたことを仕出かすと……私たちは友を1人失うことになる」

 一度強くレオリオさんを睨みつけ、そして明後日の方向を遠い眼差しで見つめるクラピカ。下手な脅しではなく、その信憑性のある言動にレオリオさんも気圧され、ゴクリと唾を飲みこんでいた。

「お、おお。もちろんそんなことするつもりなんかないぜ?」
(するつもりだったんだ)
(するつもりだったな)
(するつもりだったか)
(するつもりだったんですね)

 心を読まなくても聞こえてくる皆の声。
 今、確かに私たち(レオリオさん除く)の心は1つになっていた。

 そうして少しお喋りをしていると、ホテル入口前に黒いリムジンタクシーが止まった。そこから降りてきたのはシックなドレスに身を包んだ美女と、ゴスロリドレスを着飾った美少女。リィーナとビスケの2人である。

 優雅に大人のドレスを着こなし、ホテルのサービスマンの荷物運びに穏やかな笑みで丁寧な断りを入れ、凛と姿勢を正したまま自動ドアから入ってくるリィーナ。
 まさに淑女。弟子の晴れやかな姿を見るととても嬉しい。

 隣を見ると、初めてリィーナを見るレオリオさんが見惚れていた。美人だからなリィーナ。実年齢は71のお婆ちゃんだけどね。今更だけど念能力ってすごい。

 そんな見た目完全淑女のリィーナがどうやら声を掛ける前にこちらに気付いたようだ。その瞬間、微笑を携えていた顔が花咲くように恍惚の笑みに変わり、先程までの優雅さを明後日の方向へ投げ捨てて一瞬で近づいて来た。
 ……弟子の、晴れやかな姿など、なかった。

「せ――あ、アイシャさん! お久しぶりでございます! アイシャさんに会える日を一日千秋の思いで待っていました!」
「いえ、別れてからまだ10日程ですが」
「そうでございましたか? 私にはその10倍は月日が流れたと感じる程でしたが」

 うむ。このブレなさ、まごうことなき我が一番弟子である。
 ……どこを間違ったかなぁ。私の教えが悪かったのか? ホント、どうしてこうなったんだろう?

「変わんねぇなこの人はよ」
「むしろ10日程度で変わっていたらそれは偽物だろう」
「うん。オレでも疑うよ」
「……こんな人だったのかよ。ゴンでも疑うってどんだけなんだ?」

 ああ、あの純粋なゴンですらマトモなリィーナを疑うか……。

「おや、いらしたのですか皆様」
「気づけよ」
「無茶を言うなキルア。アイシャが居る時のリィーナ殿がアイシャ以外を視界に入れる訳がないだろう」
「失礼ですね。皆様の存在感がアイシャさんに比べて薄すぎるのがいけないのですよ」
「そっちの方がよっぽど失礼だなおい」

 全くである。この面子で存在感が薄いって、私はどれだけ濃いんだ? というか、今一番空気になっているのはリィーナに完全に食われているビスケだがな。

「はいはい、少し落ち着きなさいなリィーナ。見たところ初見の人もいるじゃない。まずは自己紹介からでしょ」
「……そうですね。申し訳ございません。私はリィーナ=ロックベルトと申します。以後よろしくお願いいたします」
「私はビスケット=クルーガー。ビスケでいいわよ、よろしくね」
「あ、ああ。オレはレオリオ=パラディナイトってんだ。よろしくな」

 ようやく初対面の3人が自己紹介をした。
 というかレオリオさんのフルネームを初めて聞いたぞ。パラディナイト……なんか格好良いな。

「へぇ~レオリオ、パラディナイトって苗字なんだ」
「に、似合わね~!」
「んだとコラーッ!」

 レオリオさんのフルネームを聞いて爆笑中のキルア。そのキルアに怒って追いかけるレオリオさん。
 全く。ロビーには他のお客さんもいるから迷惑になるっていうのに。暴れる2人の方を向いて注意をしようとする。

 ――その時だった。

「もう、ダメですよ2人と――」
「――あ、アイシャさん!? ど、どうなされたのですかその御髪は!!?」

 リィーナの大音量がロビー中に響く。あまりの大声で暴れていた2人も動きを止めてこちらを向いたくらいだ。
 私の髪でどうしてそんなに驚くんだろう。……ああ、そう言えば髪が少し短くなってたな。その程度で大げさな。いや、私も短くなったのには不満はあるけど。
 折角母さん譲りの黒髪だったのに。髪が長く綺麗だった母さんと唯一似ている部分なのだ。大事にしてたんだけど、切られたから仕方ない。でもこれからまた伸ばすからね。せっかくドミニクさんに言われたんだし! 絶対元の長さまで戻そう。

「これはですね。ちょっとした事情がありまして」

 そうしてリィーナに事情をかい摘んで説明する。
 幻影旅団との戦闘も話すことになるけど、特に問題はないだろう。

「幻影旅団を……流石はアイシャさん! あの幻影旅団を全て捕えるとは!」
「いえ、皆さんの協力あってのことですよ」
『いや、それはない』

 ……異口同音で否定しないでよ。

「アイシャと比べたら私たちのしたことなどどれほどのモノだというのか……」
「なあ。1人でほぼ全ての旅団やっつけといてそれはないだろ」
「オレ達の協力って必要だったのかなぁ?」
「クラピカの能力は必須だったな。それくらいじゃね?」
「皆さん、どうやら中々分かっていらっしゃるようですね。褒めて差し上げましょう」

 なんか皆の言葉を聞いてリィーナが気分良くなっている。
 私を褒めているように捉えているのだろうか? 褒められてる気がしないよこっちは。

「いえ、今はそうじゃありません。重要なのはアイシャさんの御髪を切り裂いた奴が幻影旅団にいるということです」
「幻影旅団もやるじゃない。幾ら多勢だったとはいえアイシャの髪を切るなんてさ」
「何を言っているのですかビスケ!! その盗賊どもはアイシャさんの御髪という国宝級と言っても過言ではないお宝を盗んでいったのですよ!!」

 過言にも程がありますよリィーナさん。私の髪にどれだけの値打ちを付ける気だ。
 どっと疲れが……おや? この気配はもしや……。

「即刻その者達には相応しい裁きを――」
「それは困るのう。そ奴らはハンター協会で捕らえ法の下に裁くと決まっておるのじゃが」

 やはりか。
 後ろから聞こえた声でようやくその人物に気づきバッと後ろを振り向くリィーナ。わざわざ絶を使ってリィーナを驚かす辺りコイツの意地の悪さが伺える。
 まあ、本気で気配を消していなかったようだから、気づかなかったリィーナが悪い。

「ネテロ会長!?」
「じじいがなんでここにいるわさ!?」
「ほっほ。無防備に後ろを取られるとは修行不足じゃのリィーナ嬢ちゃん。今ので1回死んどるぞ?」
「ぐっ! せん……アイシャさんの前で何たる不覚……! こうなったらこの老害を滅して汚名を返上するしか!」
「待て。落ち着け。話せば分かる、爺のちょっとしたお茶目じゃろ? じゃからそんなに殺気を叩きつけるんじゃないわい!」

 おお、何という殺気。周囲に拡散するのではなくただネテロ1人に集中して叩きつける研ぎ澄まされた殺意! ネテロが冷や汗を流すほどの殺気でありながら周囲の一般人はそれに気付いていない。これに気付けるのは一般人ではなく逸般人だ。
 その証拠にゴン達は直接殺気を当てられたわけでもないのにリィーナが殺気を放った瞬間にそれぞれ距離を取った。
 うんうん、いい反応だ。修行の成果も出ているというものだ。

「こりゃアイシャ! 何を悠長に満足気に頷いとるんじゃ! は、はようリィーナを止めんか!!」
「アイシャさんに助けを求めるとは何という惰弱! そのような惰弱者に生きる価値なし! このまま引導を渡して差し上げましょう! 安心なさい。葬式は豪華な物にしてさしあげますよ?」
「安心出来るかっ!」
「いいわよ~。もっとやりなさいリィーナ~!」
「こりゃビスケ! ちょっとはお師匠様を労わらんかい!」

 おお、流石に余裕あるなネテロ。
 リィーナの攻撃を捌きながらビスケへのツッコミも欠かしていない。心なしか動きが以前戦った時よりも若干鋭くなっている気がする。
 ふふふ。こいつもあれから修行したのだろう。再戦が楽しみになってきたな!

「何腕組んで不敵に笑っとるんじゃ!? 早く止めろと言っとるじゃろ!?」
「あ、忘れてた」

 いかんいかん。ついネテロとの再戦に胸を躍らせてしまっていた。

「リィーナ。こんなところで暴れたらホテルの従業員や他のお客さんにご迷惑ですよ。やるなら誰の迷惑もかからないところでやりなさい」
「いや、それって止めてなくね? 先延ばしにしただけじゃね?」

「はい! 申し訳ございませんアイシャさん。何処か人の迷惑のかからないところで殺ってきます」
「字が違……くはないか、こやつの場合……」

「謝るのは私にではないでしょう?」
「うむ、全くじゃ」

「はい、そうですね。皆様。このような場で騒ぎを起こしてしまい、誠に申し訳ございません。この通り、深くお詫び申し上げます」
「あ、ワシにじゃないのね。いや、分かっとったよこうなるって」

「ちぇー、つまんないわね。もっとやりなさいよー」
「お前破門していい?」

 いつからネテロに弄られ属性が付いたのだろうか?
 きっと私(リュウショウ)が死んでリィーナとビスケが仲良くなってからなんだろうな。哀れネテロ。

「いや、お前もワシ弄ってなかった?」
「人の心を勝手に読まないでください」
「お前が言うなと心底叫びたいんじゃけど」

 心外な。人の心を読むだなんてそんなプライバシーの侵害はしないぞ?
 私はただ顔色や筋肉の微妙な動きとオーラの反応で相手の心の機微を察しているだけで、文字通り心の中を読んでるわけじゃないからな。

「まあいいわい。それよりも早う何処か落ち着ける場所へ行かぬか? ここじゃ色々と不都合じゃろ」
「そうですね。では私の部屋へ行きましょうか」

 幻影旅団の引渡しともなれば細かい話もあるかもしれないしね。一般人もいるロビーで長々と話すことでもないだろう。まあ、聞かれても冗談にしか聞こえないだろうけど。どうにせよ、この注目しまくった状態は御免被りたい。なので皆を引き連れて私が使っている部屋へと移動するとしよう。



「さて、落ち着いたところで本題に入るとしようかの」

 全員が部屋に入って備え付けの冷蔵庫にある飲み物を口にし、それぞれ一息ついたところでネテロが本日来た目的を切り出そうとする。

「アイシャ、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ。以上の5名、A級賞金首である幻影旅団の討伐及び捕縛、誠にご苦労であった」

 先ほどまでとは打って変わり、佇まいを正したネテロが真面目に労いの言葉を掛けてくる。普段からこうしていればいいけど、常にこんなネテロだと気持ち悪いからやっぱりいいか。

「此度の成果はそれぞれが一つ星(シングル)の称号を得るに相応しい働きである。希望する者がいればその者をシングルハンターとして登録することも可能じゃ。おっと、すまぬがキルアは無理じゃ。お主はプロハンターではないからのぅ」
「別にいいよ。シングルとか言われても興味ねーし」

 シングルハンターか。特定の分野に置いて多大な業績を残したハンターに与えられる称号。700人を越えるハンターの中でもひと握りしか存在しないプロ中のプロ。
 と言っても特定の分野ということは恐らく――

「ちなみに今回の業績はブラックリストをハントしたことによるもの。故にシングルの称号もブラックリストハンターとしての物になるが、どうするかの?」

 やっぱりか。特定の分野に置ける業績に与えられる称号だからそうなるよな。

「んー、オレはいいよ。自分がまだそんなにすごいハンターだと思えないし。それにハンターとして認められるならまずはジンを見つけてからの方がいいや」

 ジン。ジン=フリークス、ゴンの父親か。
 聞けば聞くほどハンターとしては超一流みたいだが、1人の父親としてはどうなんだろうか? 自分のやりたいことの為にゴンをくじら島に置いていくなんて。せめて幼年期くらい一緒に過ごしてあげればと思う。自分の子どもよりやりたいことを優先するなら初めから作らなければいいのに。無責任にも程がある。
 ゴンはそれに対して特に思ってもいないみたいだけど。私としては一言物申したい。あの優しいミトさんも悲しませているし、会えたらちょっと根性入れ直してやろうか。
 ……いや、このゴンの父親なんだ。私程度では性根を変えることは出来ないかもしれない。ゴンと同じく頑固そうだもんなジンって人も。

「ほっほ。そうかそうか。ジンを見つけるのは苦労するぞ?」
「大丈夫! 絶対見つけてみせるよ!」
「うむ。見事見つけてみせた暁にはジンハンターとでも名乗るか?」
「え~、それはいいや……」
「何ですかそのハンター……特定の人物限定じゃないですか」
「いや、ハンターが何をハントするかは自由じゃからの。世の中にはかわ美ハンターというのもいるくらいじゃぞ」

 かわ美……ハンター? いや、それは本当に何をハントするんだ?
 可愛いものや美しいものを好んでハントするのか? もうそれってただの女子高生とかじゃないのか……?

「ともかくゴンは辞退と。他の者はどうするかの?」
「オレも遠慮するぜ。ブラックリストハンターなんて言われてもピンと来ないしな」

 レオリオさんは医者になる目標があるからね。プロのハンターとしてはあまり活動しないつもりなんだろう。ハンターになったのも高い授業料なんかを免除出来るかららしいし。
 お金のない人の為に医者になって頑張ろうとするなんて本当にレオリオさんは素敵な人だなぁ。レオリオさんには頑張って立派な医者になってほしいな。

「ふむ。ではお主はどうするかのクラピカ?」
「私は……。その申し出、ありがたく頂こう」
「あい分かった。正式な申請は後ほどじゃが、これでお主はシングルのブラックリストハンターじゃ。これからもハンターの第一人者として皆の模範となるよう頑張ってくれい」
「ああ。……すまないな皆。皆が辞退しているというのに」
「別に気にしなくていいよ。クラピカはオレ達と違って旅団を捕まえるのにすっごく役立ったんだから」
「そうそう。今旅団を捕らえてんのお前の力じゃん」
「そうだな。オレ達は興味ないけど、お前にはシングルの称号が必要だったんだろ? だったら貰っとけ貰っとけ」
「そうか。……アイシャもすまない。幻影旅団の捕縛の大半はお前の業績だというのに」
「そこまで気にしなくてもいいですよ。ゴン達が言うように、あなたも旅団を捕らえるのに一役も二役も買っているのですから。それに、シングルの称号も緋の眼を取り戻すためなんでしょう?」
「……ああ。シングルの称号ともなればかなりの利用価値がある。上手く使えば緋の眼を探すのにも便利だろうからな」

 シングルハンターともなればその称号だけでどれほどの価値があるか。
 名を売って闇社会から信用を得れば、世界中に散らばる緋の眼を探すための情報網を手に入れることも可能かもしれない。
 ブラックリストハンターというのが闇社会からすればネックかもしれないけど、世の中には賞金首でありながらプロのハンターというのもいるから実力さえ示せば使ってくれる相手など腐る程いるだろう。

「さて残るはアイシャ、お主だけじゃが……。お主の場合、弟子であるクラピカがシングルハンターとなっておる。ハンター十ヶ条其乃六を照らし合わせると、やや変則的じゃが二つ星(ダブル)の称号を与えることも出来るぞい?」

 ダブルかー。でも星とか貰っても特に嬉しくないかな。偉くなってしたいこととかもないし。ダブルハンターの称号が性転換の薬を手に入れるのに必要なら話は別だけどね。

「いえ、私も辞退します」
「よいのか?」
「ええ。別に称号が欲しくてハンターになったわけではありませんから」
「ふむ……。ま、お主ならそういうじゃろうとは思っとったがの」

 ま、そこは長年の付き合いってやつだな。

「あんた達謙虚ねー。貰える物は貰っとけばいいのに。称号あれば便利になることもあるのよ?」
「ハンターライセンス1つで十分便利ですよ」

 このホテルもタダだし、病院にも融通が利いたしね。
 おかげでドミニクさんにも最高の治療を施すことが出来た。ライセンス様々である。

「欲がないわね。まあいいけど。ちなみにあたしはストーンハンターのダブルよ。宝石専門のハンターだから、希少な宝石を手に入れたら宝石店より高く買ってあげるわよ~」
「ビスケってダブルハンターなのかよ!? ゴンやキルアと変わらないくらいなのにすげーなそりゃ」

 ここにもビスケの見た目に騙されてしまった犠牲者が1人……。
 見ただけで実年齢が分かったらその人は何らかの念能力を使っているね。

「てことはロックベルト会長さんも?」
「リィーナで結構ですよ。期待に応えられなくて残念ですが、私は称号を得ておりません」
「へぇー。強けりゃ称号が取れるってもんでもねーんだな」
「こいつ、リィーナさんになんて口聞きやがる。自殺願望でもあんのかお前?」
「キルアさん? 後でお話がございますのでお覚悟を。ああ、それとレオリオさん、でしたか? 私はハンターとしての活動を行っていない為に称号を手に入れる機会がないだけですよ」

 そう言ってニッコリと微笑むリィーナ。けどその笑顔、顔は笑ってても目はちっとも笑っていませんからー。
 レオリオさんが引きつった顔してるよ。あとキルアが青ざめてる。墓穴掘ったなキルア。なんか助けを求めるようにこっちを見てるけど、今のはキルアが悪い。無言で首を横に振る。

「くそっ敵しかいねー!」
「自業自得です」

 周りを見ればクラピカはキルアに向かって十字を切り、ゴンは手を合わせて苦笑していた。ネテロとビスケは無茶しやがってという表情だ。逃げ場なし。キルア、骨は拾ってやるからな。

「まあキルアさんとのオハナシは後にしまして。それよりもネテロ会長、貴方がここに来られたのはアイシャさんが捕らえた幻影旅団を引き取る為では?」
「うむその通りじゃが」
「でしたらそちらの方に注力してはどうですか? 称号授与も一通り終わったようですし、もう用はないでしょう?」
「いや、そうじゃけどさ。ちょっとくらい話してもいいじゃろーに」
「いえいえ。幻影旅団の連行という大役を請け負っているのですよ。今この瞬間にも逃げられるかもしれません。さあ、迅速に行動してくださいな」
「お主どんだけワシのこと嫌いなの?」
「何を仰るのやら。竈馬よりは好感度は高いですよ?」
「それって下から数えた方が早くないかの?」
「仲いいですね2人とも」
『まさか。そんなことあるわけないじゃろ(ございません)』

 いや、めっちゃ仲いいと思うよ。息ピッタリじゃん。喧嘩するほど仲がいいってまさにこのことだよね。

「だがリィーナさんの言う通り早くあいつ等を連れてってほしいぜ会長さんよ。いくら無力化したってもあんな奴らとひとつ屋根の下なんてゾッとするぜ」
「レオリオの意見に賛成。あんな物騒な連中とはとっととオサラバしたいね」
「おや、話の分かる方ですねレオリオさん。それにキルアさんも。先ほどの失言はなかったことにしましょう」

 あ、2人がものすごくホッとした顔になった。

「さ、職務に励んでくださいな会長。協会のトップとして下の者達に見本を見せる機会ですよ」
「ぬぐ、仕方ないのぅ。今回はそれが目的で来たわけじゃからな。早く帰らんとビーンズにどやされるしの」
「積もる話をする機会はまたありますよ」
「そうじゃな。ま、次の機会ではリベンジをさせてもらうとするかのぅ」
「それはこっちの台詞ですよ」

 前回の勝負はお互いに負けたと思っている。
 私はネテロより重傷を負っていたし、ネテロは最後の攻撃を私があえて受ける選択をしたから実際は負けだと思っているのだろう。
 お互い勝ちなしの勝負なんて心残りが大きすぎる。次は完全なる決着をつけてやる!

「……ねえ。ネテロ会長との戦いってアイシャが負けたんじゃなかったの?」
「いや、ワシの負けじゃよ」
「いえ、私の負けです」
「いえいえ、アイシャさんの勝ちです」
「いやいや、ジジイの勝ちだわさ」

 …………。

「ワシの負けじゃ!」
「私の負けだと言っているでしょう!」
「アイシャさんが勝ったに決まっています!」
「じじいが勝ったって言ってんでしょ!」

 こ、この頑固じじいめ! 私の負けだと言っているのだから素直に勝利を喜べばいいものを!
 喧々囂々とする私たちを見てゴンが溜め息を付きながら言葉を紡いだ。

「つまり、引き分けってこと?」
「……そのようだな。お互いそれを認めてないみたいだが」
「なんか、予想してたよりもあの2人って仲いいよな」
「ああ、なんかオレ達に対するのとはまた違うよな。もっと遠慮がないっていうかさ」

 呆れたように私たちを見守るゴン達を尻目に、私たちの意地の張り合いは白熱していったのだった。







「全員で12名か。幻影旅団は総勢13名じゃと聞いとったが?」
「ああ、1人は幻影旅団に偽装していたのですよ。まあヒソカのことなんですが」
「あ奴か」

 幻影旅団の連行は恙無く進んだ。ネテロが用意していた大きな護送車に、捕らえた12人の旅団は大人しく乗車した。暴れたり、逃げ出したところで意味がないと理解しているのだろう。もしそのようなことをすれば即座にクラピカが施した念の鎖によって心臓を貫かれてしまうからだ。
 彼らは最後まで悪態をついたり冷静にすましていたりと後悔も反省の色も見せずにいた。きっと死の瞬間にも彼らは彼らのままでいるのだろう。三つ子の魂百までというが、まさにその言葉に相応しい性根だ。悪い意味でだが。

「ヒソカはどうしたのじゃ?」
「倒しました」
「ほっ。なるほどのぅ。どうじゃった?」
「強かったですよ。あれはまだ強くなります」

 ネテロの言葉にあの戦いを思い出す。
 私を倒すために練り込まれた戦術。力の差を知っても微塵も揺るがない勝利への執念。勝つためには手首を切り捨てるその精神性。私がヒソカに感嘆したのは純粋な戦闘力ではなく、戦闘力だけでは測りしれないところだった。
 今回の敗北はヒソカをより強くするバネになるだろう。ゴンとカストロさんも苦労するだろうが、好敵手は強い方がいいに決まっている。

「ほう。楽しかったようじゃのぅ。顔に出ておるぞ」
「ええ。その内またやりあいたいですね」
「妬けるのう。ワシが先約じゃからな?」
「分かっていますよ。とにかく、ヒソカに関しては問題ありません。捕らえてはいませんが、楔は打っています。もう気軽に犯罪は出来ませんよ」

 ヒソカは敗れた次の日には既に部屋からいなくなっていた。
 私にやられた傷は完治してないだろうが、まあヒソカなら大丈夫だろう。
 今頃は何処かで傷の回復に集中していることだろう。

「ならいいわい」

 そう言ってネテロは護送車の中の旅団をもう一度確認し、こちらに振り返る。

「では、ワシはこれにてオサラバじゃ」
「ええ。ああ、もしかしたら幻影旅団を狙ってマフィアや殺し屋が襲ってくるかもしれませんから気を付けてくださいね」
「返り討ちにしてやるわい」

 ネテロだからそうだろうね。言っておいてなんだが、こいつがマフィアに出し抜かれる姿を想像出来ないし。
 これでネテロともしばらく会えないな。グリードアイランドに行けば簡単には出てこられないだろうし。再戦はしばらく先になりそうだな。
 ……グリードアイランドの後は、もしかしたら再戦出来ないかもしれないけど。遥か過去の薄れた記憶の中で、朧げながらも覚えている数少ない知識。もしあれが起こってしまえば……。

 止めよう。今そんなことを考えても仕方ない。この世界は漫画の世界ではない、私と変わらないたくさんの命が生きる現実の世界なんだから。
 漫画で起こったことが絶対に起きるわけではない。こうしている今も世界は動いている。漫画のように主人公に視点が置かれた紙の世界ではないんだ。精一杯今を生きるくらいしか私には出来ない。
 その上でもし、あの災厄が起こったら……。



 私がアレを止める。
 ネテロを倒すのは私だ。私以外にネテロはやらせん。
 いや、ネテロが戦って敗れるならばそれは仕方ない。それで死んだとしてもそれも戦いの常だ。友人として悲しむも、武人としては受け入れよう。
 だがあんな死は認めない。武人としての死すら許されないなんて、1人の武人として、ネテロの好敵手として絶対に認めない!
 あの時のネテロはプロのハンターとして死んだ。だが、私はネテロに武人として生きて死んでほしいんだ。あの時、【絶対遵守/ギアス】に操られていたからとはいえ、死の淵で私(リュウショウ)が満足して逝ったように。

「……おいアイシャ。どうした?」
「あ……いえ、何でもないですよ?」

 顔に出ていたのだろうか? 表情は変えてないつもりだけど……。
 ネテロだからな。私の雰囲気から何かを読み取ったのだろう。相変わらず鋭い奴だ。

「そうは見えなかったがな。……まあいいわい。そうそう、言い忘れとったが、幻影旅団を捕らえた報酬を渡しておかねばな」
「報酬だって! おいおい、幾ら位なんだ会長さん!?」

 私の後ろで今まで黙って立っていたレオリオさんがお金の話が出た瞬間にすごい反応をした……。いや、おかげで空気が弛緩したからいいけどね。ちょっと柄にもなくピリピリしてしまっていたし。

「ほっほ。まあ渡すと言っても既にアイシャのハンターライセンスにまとめて入金するだけじゃがの。ほいほいっと。これでOKじゃ」
「もう終わったんですか?」

 小さな機械を操作しただけなんだけど? 今時はそれくらいで入金も出来るのか。便利な世の中になったもんだなぁ。

「うむ。後で確認するといい。報酬をどのように分けるかはお主らに任せるとしよう」

 そういえばライセンスって銀行のカードの代わりにもなるんだな。というか、大抵のカードの代わりになるか。ホント便利だわこのカード。
 幻影旅団にもライセンスカード持ってる奴いたくらいだし。犯罪者でも持てるってちょっとどうかと思うけど。ま、没収して燃やしたけどね。ライセンスが失くなってもプロハンターであることに変わりはないが、彼らの罪はプロハンターと言えど裁かれるに十分な重さだ。精々他の旅団員より禁固年数が減るくらいだろう。それでも数百年単位になるだろうが。

「それではの~」

 今度こそ本当にネテロは去っていった。次に会う日を楽しみにしておこう。

「さて、それじゃあ無事幻影旅団の引き渡しも終わったことですし、一度部屋へ戻りましょうか。リィーナも私たちに用があるようですしね」
「ええ。アイシャさんに取っておきのプレゼントを用意致しております」

 ああ、そういえばそんなこと言ってたな。また可愛い服とかだろうか?
 でもリィーナが持っているのはノートパソコンが入るくらいの大きさの手提げ鞄くらいだし。部屋の中に置いてこずに持ち運ぶということはかなり貴重なものなんだろうか? この子のことだから凄い金額の物を買ってそうで怖い。

「オレは早く幻影旅団の報酬を確認してみたいぜ。く~、かなりの報酬なんだろうな~。アイツ等A級賞金首らしいし!」
「ん、まあ億は軽いだろうぜ。オレ達にもかなりの金額の賞金懸かっているみたいだし」
「そういやお前の顔写真に1億ジェニーの賞金が……。キルアくん、ちょっとお願いがあるんだが?」
「想像つくけど断る」
「いやいや。友達を売るわけないじゃないか。ただちょいとお前が実家に帰った時に家族の集合写真を撮ってきて欲しいってくらいで。もちろんお前抜きでいいからよ」
「予想以上に酷いお願いだったよおい」
「馬鹿なことを言ってないで早く行くぞバカリオ」
「お、おう。……って誰がバカリオだ!」
「あ、なんか懐かしいねそのやり取り」
「確かハンター試験で寿司を作る時のですね」

 そういえばあれからまだ9ヶ月しか経っていないのか。1年未満なのに、すごく凝縮した時間を過ごした気がする。長年生きてきたけど、今は本当に充実しているなぁ。

 そうやって物思いに耽りながらホテルの中へと戻ろうとすると、何処からか爆発音が聞こえてきた。

「これは……」
「この爆発音……じじいが走っていった方角からね」
「恐らくはマフィアか殺し屋の襲撃でしょう。まあそれはどうでもいいのですが、気になるのはどうやってネテロ会長が幻影旅団を連行していると知ったのかですね」
「……もしかしたら協会から漏れたのかも。じじい相手にそういう嫌がらせする奴に心当たりあるし」
「ああ、あの腐れ副会長ですか」
「副会長とネテロって仲悪いんですか?」

 今の副会長は知らない人だ。前副会長とネテロは良い信頼関係が築けていたと思うけど。副会長は会長であるネテロが選んでいるから、自分の思い通りにいかない人物でも選んだか? そういう弄れたところがあるからなネテロは。

「そうね。副会長はネテロに嫌がらせして楽しんでいるし、それをネテロも楽しんでいるから、ある意味では仲いいのかもね」
「私はあの者は好みませんが。奴のネテロ会長への嫌がらせのおかげで黒の書を取り戻す機会を失ってしまいましたしね……!」

 あ、それは私も許せないわ。ちょっとマジで。人の恥部が世界中に流れる要因の1つを担っているとは許しがたい大罪である。

「あの、普通に話してるけど、ネテロ会長の心配をしなくてもいいの?」
「ゴンは優しいですね。でもネテロですから大丈夫ですよ。それにこういうことが起こった時の為にネテロを呼んだのですから」
「そうそう。あのじじいの心配するだけ無駄よ無駄」
「全くです。さ、アイシャさんのお部屋へ戻りましょう」

 そう言って私たちはネテロのことを気にも留めずにホテルの中へと戻って行った。

「……いいのかな?」
「……いいんじゃね?」
「……いいんだろうな」
「んなことより早く賞金の確認しようぜ!」

 どこまでもブレないレオリオさんであった。




 今頃世界の裏側(描写されてない場面)ではネテロと暗殺者やマフィアによる壮絶なバトルが起こっているでしょう。頑張れネテロ! 負けるなネテロ! ピンハネ王子の嫌がらせに屈するな!







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