どうしてこうなった?   作:とんぱ
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グリードアイランド編
第四十八話


 グリードアイランド。それは文字通り欲望が渦巻く島。
 数多の念能力者がその欲望を満たすために命を懸けて行う史上最も危険なゲーム。その危険度は生死にも関わることすらあり、中にはプレイヤー同士による殺し合いも稀に起こっていた。
 グリードアイランドが発売されて早12年という年月が経っているというのに、未だにクリアした者はいない幻のゲームだ。

 クリア者が出ないままグリードアイランドで燻るプレイヤーが増える中、その状況を良しとしない者が徐々に増えつつあった。
 それは悪意の塊。プレイヤーが増えることによる弊害を減らし、自分の利益を少しでも増やす。それだけの目的で、プレイヤーを殺害するプレイヤーが増え始めたのだ。
 プレイヤー狩り。それが悪意の名だった。同じゲームをプレイしている他のプレイヤーを殺す。それはライバルを減らす為、ただそれだけではなかった。

 それを説明するにはグリードアイランドのシステムについて説明しなければならないだろう。
 グリードアイランドではその中に存在する特定の条件に満たない物以外は、全てカードへ変化してプレイヤーが所持することが出来るのだ。それはアイテムや魔法といったまさにゲーム的な物から、そこら辺の石ころやモンスター、果てはゲーム内の人間(NPC)すら、全てカード化することが出来るのだった。

 そしてこのゲームのクリア方法は、カードナンバー0から99までの指定ポケットカードと呼ばれるカードを全種類集めることである。

 もちろん指定ポケットカードと言われるだけに、その取得難易度も通常のカードなどより遥かに高く、また特殊な効果を持つ物も多い。そして、そのカード化枚数制限もまた通常のカードと比べて遥かに少ないのだった。
 そう、このゲームにある物は大抵がカード化出来るが、どのカードにもカード化するのに枚数の制限が付いているのだ。
 例えば、カード化枚数制限が10枚のカードがあるとしよう。そのカードは文字通り10枚まではカードにして所持することが出来るが、それ以上となるとカード化することなく元の形のままとなるのだ。
 当たり前だが、クリアする為にはカード化した物を集めなければ意味がない。

 これが先のプレイヤー狩りを生み出す結果となった。
 プレイヤーが死ぬと、所持しているカードは全て消滅してしまう。なのでプレイヤー同士で殺し合いが起きると、例え相手を殺しても目的のカードを奪うことは出来ないのだ。本来ならそれはプレイヤー同士の殺し合いを禁止する為の措置と言えよう。
 だが、グリードアイランドをプレイする者が増え、カード化枚数制限が徐々に少なくなり、目的のアイテムを手に入れてもカード化出来ないという状態が多くなってきたのだ。

 それを少しでも解消する為にプレイヤー狩りは他のプレイヤーを殺す。もちろん最初から殺そうとすることは少ない。痛めつけ、脅し、拷問にかけ、生かしてカードを手に入れようとする。
 だがプレイヤーは全て念能力者。多少の拷問では意志を曲げない者も中にはいる。その場合は殺して良しとするのだ。殺してしまえばカードは奪えないが、死んだプレイヤーが所持していたカードは消滅し、カード化枚数制限に空きが出来るからだ。
 自分がカード化する為の空きが少し増えるかもしれない。その程度の理由でプレイヤーを殺す者が現れるほど、今のグリードアイランドは過渡期にあると言えよう。

 グリードアイランドに蔓延る悪意、プレイヤー狩り。そんなプレイヤー狩りの中で、最も悪質で狡猾なのがボマーと呼ばれる存在だった。
 ボマー(爆弾魔)はその通り名が表すように、爆弾を使用したかのように対象を殺害する。誰にもその正体を知られず、常に水面下で動き、気づかれないようプレイヤーを殺し続けていた。その目的は前述したカード化枚数の件ももちろんある。だが、1番の目的はそうではなかった。

 彼はある組織に潜伏していた。その組織はグリードアイランドでも最大の人数を誇る組織だ。通常プレイヤー同士がチームを組んでも数人程度だが、その組織は現在50名を越える程の大組織となっていた。それだけの人数を集めたのは、彼らがゲームのシステムを利用したいわゆるハメ技を考えついたからだ。

 このゲームにはスペルカードと言い、魔法のような効果を持つカードが存在する。
 スペルカードは大まかに移動型と攻撃型と防御型の3種類に分けられている。
 移動型はその名の通り街や他プレイヤーの現在位置へ即座に移動することが出来るスペルだ。攻撃型は対象プレイヤーの現在位置や所持カードを盗み見たり、カードを奪うことが出来る。防御型でそういった攻撃型のスペルカードを防ぐことが出来る。
 逆を言えば防御型のスペルカードがなければ攻撃型のスペルカードを防ぎようがないということだった。
 これを突いたのがこの組織だ。人数を集め、防御型のカードを独占し、他のプレイヤーが成すすべもない状況を作り、攻撃型のスペルカードでカードを奪う。上手く行けば誰も傷つけずに100種のカードを集めることが出来る、まさにハメ技と言える作戦だった。

 この計画は成功までに長い年月を必要とした。
 計画を練った当初は10人の仲間しかいなかった。1人のプレイヤーが持てるカードの所持枚数に限界がある為、仲間は多ければ多いほどいい。
 なにせ計画に必要なスペルカードを独占する為には約1900枚ものカードを手に入れなければならないのだ。それを集める為にも、保管する為にも、更には計画を実行に移す為の監視・勧誘などにも人はいる。彼らの想定では70人前後の集団が理想的だった。

 そんな彼らの計画は徐々に実りつつあった。
 仲間は増え、必要なカードも集まってきた。仲間が増えたことでカードも加速度的に集まりだしたのだ。
 年月が経つごとに計画は順調に進んでいった。このまま行けば彼らがクリアするのも時間の問題と言えるだろう。

 その組織の中に、最悪のプレイヤー狩りがいなければ、だが。
 前述した通りボマーはこのハメ組とも言える組織に潜伏している。それも計画当初という最初期からだ。それどころかこのハメ技を計画したのもボマーだ。全てはハメ組が集めたカードを自らの物にするために。
 ボマーという通り名も自ら広めたものだ。ボマーの能力は爆弾を対象に設置するというもの。その能力の使用条件の1つとして、対象に触れてボマーというキーワードを言わなければならない。
 そのキーワードを口にしても不自然のないようボマーという通り名を広め、組織の仲間となった者全てにボマーへの注意を促すフリをして爆弾を仕掛けていく。
 一定数のカードが集まれば、ボマーは平然と彼らを裏切り爆弾を交渉材料に使いカードを奪うだろう。そして交渉の結果に関係なく彼らは皆殺しの目にあう。ボマーに彼らに対する仲間意識など欠片もないのだから。

 この計画は5年前から。否、それ以上前から立てられていた。
 周到に、組織の誰にも怪しまれないよう立ち回り、ボマーの恐怖をグリードアイランドに広めていく。
 もう理解出来ただろう。他のプレイヤーを殺すのはカード化枚数だけが目的なのではない。この計画にボマーの名を広めることが必要だったからだ。
 彼は組織の為に動くフリをしながら犠牲者を探す。定期的に、かつそれが分からないようランダムに適当なプレイヤーを殺し、ボマーという存在をプレイヤーに印象付ける為に。

 自らの為、金の為、欲望を満たす為、グリードアイランドに蔓延る悪意は、今も動き続けていた――













































 ――はずだった。



「二度と愚かな考えが頭に浮かばないよう性根を叩き直してあげますから、覚悟なさい」
「どうして……どうしてこうなった……?」

 悪意はちょっと折れかけてた。

 どうしてこうなったのか? それを説明するには、少々時間を遡らなければならないだろう。そう。アイシャが念願のグリードアイランドに入国したその日まで。






 …………う、あ。
 身体が……重たいな。しんどい。もっと寝てたい……。
 あれ? 何で寝てたんだろう? 寝る前になにをしてたっけ?
 ……あ。そうだ。グリードアイランドに……。

「う、ここ、は」
「アイシャさん! 良かった! お目覚めになられましたか!」

 リィーナ? 私を心配するように覗き込むリィーナの顔が目に飛び込む。
 少し周りを見るとビスケとカストロさんの姿もあった。2人も私を見てホッとした表情を見せる。
 ……そうか。私は【ボス属性】の誓約で気絶していたんだな。どれだけ気絶してたんだろう? いや、そんなことよりもだ。

「リィーナ、ここはもしや?」

 まだ覚めやらぬ朧げな視界に映るのは気絶する前にいた地下室とは全く異なる景色だ。気絶した私をこんなベッドも医療道具もない妙な部屋に運び込むリィーナではない。ということはここは……!

「はい。恐らくグリードアイランドの中かと」

 その言葉を聞いた瞬間、身体が震えた。
 グリードアイランド! ああ、ようやくだ! ここを目指して13年! グリードアイランドが完成する前から焦がれていた地に、ようやく辿り着いたんだ!

「……私はどれだけの間気絶していましたか?」
「大体6時間ってとこね。どうやらここではケータイは圏外みたいだけど、時計としては使えるわね」

 6時間か。戦闘中に【ボス属性】でオーラが枯渇したら致命的なんてものではないな。
 まあそれは初めから分かっていたことだ。そうならないように立ち回るしかない。
 問題は1ヶ月間の絶状態だな。こればかりはどうしようもない。何とか1ヶ月は大人しく過ごすとしよう。
 性転換の薬を探すのはそれからだな。

「私が気絶している間、ずっとここで待っててくれたんですね」
「当然でございます。気絶したアイシャさんを置いて行くなどどうして出来ましょうか」
「護るって言ったしね。それに、アイシャを護るだなんて貴重な機会もそうそうないでしょ」
「確かに。私程度で普段のアイシャさんを護るなどおこがましいな。麗しい女性を護らせていただく栄誉を賜って感謝したいくらいだ」

 皆優しいな。今回は心から甘えるとしよう。

「ふふ。まるで物語のお姫様になった気分です」

 お姫様とかちょっと元男的にアレだけど、少し悪くない気分でもあるな。なにせ護ってもらう経験なんてちょっと記憶にないからなぁ。たまにはいいかもしれない。

「うわっ……このお姫様、強すぎ……!」

 おいビスケ。どういうことだ? 今の私はちょっと合気柔術を極めただけの女の子だぞ。

「アイシャがお姫様なら魔王も攫うの大変でしょうね」
「アイシャさんを攫いに来るのならば、その魔王とやらは風間流全門下生を敵に回すことになるでしょう」

 いやリィーナさんや? それは職権乱用というのだよ? 私自身は風間流とはもう関わりがないからね?

 とにかく、今はこんなことを話している場合じゃないな。今にも他のプレイヤーがグリードアイランドに入って来ないとも限らないんだ。私が弱っている状態なのを気付かれる可能性は出来るだけ減らしたい。その為には早くここから移動して、人目のつかない場所を見つけなければ。

「皆さん。私が起きるまで待たせてしまい申し訳ありません。もう大丈夫ですので、そろそろ先に進みましょう」
「かしこまりました」
「ようやく愛しのブループラネットちゃんに会えるのね~」
「では、私が扉を開けよう」

 私が先に進むために部屋に唯一ある扉を開けようとすると、カストロさんがさっと私の前に立つ。
 ……どうやら何か危険がないか確かめるため私より先に行こうとしているようだ。気を遣わせてしまったな。扉は独りでに開いた。どうやら前に立つと勝手に開くように出来ているみたいだ。

 カストロさんを先頭に前に進んでいくと、また扉があった。先ほどと同じようにカストロさんが前に立つと扉が開く。
 中には1人の女性が宙に浮いた奇妙な椅子に座っていた。グリードアイランドの説明役と言ったところだろうか?

「グリードアイランドへようこそ……。ここではゲームの説明をいたします。申し訳ありませんが、説明は1人ずつさせていただきますので、先に入られた方以外は少々お待ちください」
「どうやら私が先に説明を受けるようだ。皆さんは少々お待ちを」
「はい」

 扉まで戻り、しばらく待つ。数分経ったか。説明室の扉が勝手に開き、中から声が聞こえてきた。

「次の方、どうぞ」
「では、次は私が参ります。ビスケ、頼みましたよ」
「はいはい。大げさねぇ」

 リィーナも私より先に入って危険がないか自身で確認するようだ。カストロさんでは信用できないというよりも、自分で確認しないと気がすまないのだろう。ゲームの序盤、それもただの説明で危険があるとは思えないけど、私の為を想ってのことだし心配性だと一概に切って捨てることは出来ないな。

 そうしてまた数分経つと扉が開く。

「では、次は私が行きますね」
「あたしゲームの説明とか良く分かんないから代わりに覚えといてね」
「ちょっとは自分で覚えなさい、全く」

 ビスケの軽口に応えて扉をくぐる。
 説明役の女性は幾度となく説明したであろうゲームのルールをスラスラと教えてくれた。その際に渡されたのが1つの指輪だ。この指輪をはめていると誰でも『ブック』と『ゲイン』という2つの魔法が使えるようだ。

 『ブック』はカードを納める本(バインダー)を召喚する魔法。
 『ゲイン』はカードにしたアイテムを元の形に戻す魔法。

 ゲインは分からないが、ブックは私にも使えた。どうやら【ボス属性】に引っかかる類の能力ではないようだ。
 私の声に反応してこの指輪が本を具現化する仕組みなんだろう。私自身が具現化するようにする指輪だったら、【ボス属性】で無効化されていただろうな。
 恐らくゲインも問題なく使えるだろう。カード化したアイテムは私の身体とはなんの関係もないのだから。

 いやだが待て。私は現在念能力が使用出来ない状況にある。
 それが理由でブックが使用出来たと考えることも……。とにかく念能力が使えるようになったら確認しなきゃいけないな。

 最低限の説明を受けて説明は終了した。
 詳しい情報は自分で調べろということなんだろう。プロのハンターが作ったゲームだけのことはある。
 階段を降り、部屋を出るとそこにはリィーナとカストロさんが待っていた。そしてもう1つ。見渡す限りの大平原も私を待ち構えていた。
 いいな、こういう景色も。でも情緒に浸るには邪魔な存在が多すぎるな。

「お疲れ様でございますアイシャさん」
「ええ。しかし、見られてますねぇ」
「はい。ですが、この距離から気付かれるとは未熟者にも程がございます。アイシャさんがお気になさることもないでしょう」
「ですが、油断は禁物です。アイシャさんは念が使えないのですから」
「そうですね。アイシャさんは私たちの後ろへ。何があっても私たちが対処いたしますので」
「うう、迷惑をかけますね……」

 雑談をしているとビスケが降りてきた。これで全員集合だ。さて、これからどうするか……。

「どっちに進む?」
「視線を感じる方向に恐らく街か何かがあるとは思います。ですがアイシャさんが念を使えない今、軽挙にプレイヤーが多くいるであろう場所へ移動するのはどうかと……」
「ですが、食料の問題もあります。街に行きゲームの情報を少しでも集めるのも必要でしょう」
「じゃあ二手に分かれる? 街に行って情報と食料を手に入れる人と、アイシャを安全な場所で護衛する人と」
「それがいいでしょう。まずは安全な場所を確保し、そこから代表1人が情報と食料を入手すると。残りの2人はアイシャさんの護衛ですね。その方針で如何でしょうかアイシャさん?」

 私が黙っても会議は進む。いや、なんか申し訳ないくらい楽です。

「はい。それで問題ないでしょう」
「じゃあ街から離れすぎても合流に手間取るでしょうから、街からちょっと逸れた方向に進んでみましょうか」
「そうですね。ところで、視線は2方向から感じますが、どちらに進みます?」
「それはアイシャさんに決めてもらうのはどうでしょう?」
「始まったばかりで何も分かんないから、それでいいんじゃない?」
「そうですか? でしたら……こっちに行きましょう」

 視線を感じる2方向の内、1つを何となくで選ぶ。ビスケの言うように始めたばかりのゲームだからよく分からない。なのでまあ、行き当たりばったりでも仕方ないだろう。



 先頭をリィーナとカストロさんが2人で並び、その後ろに私、そして私の後ろにビスケというポジションで前に進む。
 完全に護衛ポジションである。全員何気ない会話をしているようで、誰もが周囲を警戒している。もちろん警戒している気配は並の使い手には微塵も悟られないよう隠していたが。

 道中試してみたが、やはりアイテムをカード化するのも、ゲインでカード化したアイテムを元の形に戻すことも出来た。
 だがこれも念能力が使えるようになってからもう一度試さないと何とも言えないな。
説明の時の推察が合っていれば多分大丈夫だろうと思うけど

「しっかしホント凄いわね。本当にここってゲームの中なのかしら?」
「そうですね。肌に触れる風、草の匂い、踏みしめる大地の感触……どれも現実を思い起こさせます」
「このようなゲーム、例え念能力と言えど作り出せるのだろうか?」

 3人ともグリードアイランドの現実感に戸惑っているようだ。無理もない。ゲームの中に入るという説明を受けているのだから。

「いえ、ここはゲームの中ではなく現実世界の何処かですよ」
「え? そうなの?」
「ええ。グリードアイランドは現実世界の何処かを使って作り出されているんです。あのゲームはプレイヤーをこの場所まで飛ばすための念が込められた装置ですね」
「なるほど……それならば然程大きなルールを必要といたしませんね。あの程度の装置でゲームの中に入るなどどのようなルールで作られたのかと疑問に思っていましたが、それならば納得でございます」
「アイシャさんはそれを何処で?」
「友達が教えてくれたんですよ」

 ミルキ元気かなぁ? グリードアイランドに関わる情報を色々と教えてくれて本当に助かったよ。いつかお礼をしなきゃね。

 ……ん? 空から何か音が聞こえてくる。
 皆も気付いたようだ。全員が空を見上げている。私を中心にして、何が起こっても対応出来るようにしてくれている。

 音の出していた何かは音が聞こえてきて直ぐに私たちの近くに降り立った。
 空から降り立ったのは見知らぬ男だ。恐らくプレイヤーだろう。空から来たのは念能力か、それともゲーム内で使えるカードの効果か。どちらにせよ警戒は必要だな。
 リィーナが一歩前に立ち、不審人物に語りかける。

「何者です?」
「……ふむ。ここはスタート地点近くの平原。てことは君たちゲーム初心者かな?」
「質問に質問で返すのはよろしくありませんね」

 男はリィーナの質問を無視してバインダーを操作している。恐らく何らかのカードを使おうとしているのだろう。それが何を目的としているかは分からないが。

「ふむふむ。リィーナ、カストロ、アイシャ、ビスケね」
「……」

 なるほど。カードを使ってプレイヤーの名前を知る方法があるのか。それともバインダーを操作しているのはフェイクで何らかの念能力を使用しているのか。ゲームを進めていくと分かるだろう。

 全員が警戒心を上げ臨戦態勢に入ろうとしている。
 リィーナは先手を取ろうとしたけど私が止めた。後ろから意を発するだけでリィーナは気付いてくれたようだ。
 この男は大した使い手ではないようだ。このゲームに不慣れな私たちはゲームに置けるプレイヤーの動きをこの男から少しでも学ばなければ。

「……見たところ、あんたら只者じゃなさそうだね。なら……“密着/アドヒージョン”使用! リィーナを攻撃!!」
「!!」

 男が何かのワードを叫んだ瞬間。男からリィーナに向かって何かが飛んできた! これは念なのか!?

「っ!」
「キャハハハァーー! 残念! スペルから逃げることは無理なんだよーー!」

 リィーナは素早い動きで飛んできた光を避けるが、光は高速で動きリィーナを追尾していく。自動追尾する能力か? あれが念能力の産物ならリィーナなら対処出来るかもしれない。

「リィーナ! 『あれ』を!」
「はい!」

 近づく光を躱しながらリィーナが能力を発動する。
 瞬時にリィーナの両手を覆うように現れたのは黒と白の薔薇の刺繍が施された美しい手袋(シャーリンググローブ)。
 グローブを具現化したリィーナは、近づいてくるスペルとやらをそのグローブで……掴み取った。

「……はぁ!? な、ど、どうなっていやがる!? なんでスペルが止められるんだよーー!!?」
「スペル、ですか。貴方には色々とお聞きしたいですね」

 掴んだスペルとやらをそのままシャーリンググローブに吸収するリィーナ。
 ふむ。リィーナの能力で吸収出来たということは、スペルとは念の産物か。だが、それならば今の私に見ることが出来るというのはどういうことだ?
 今の私はオーラを見ることが出来ないはずだ。それが可能なのは具現化系の能力のみ……。もしかして……。あのスペルとやらは具現化しているのか?
 念能力者が見ても具現化した物体は通常の物体と見分けがつかない。それと同じようにスペルを見てもあれが念能力の産物だとバレないよう光るように具現化している……。
 もしそれが当たっていたら……このゲームの製作者は凝り性なんてもんじゃないぞ。もう何というか、そこまでするか? 凄いとしか言えないよ。

「“再来/リターン”使用! マサドラへ!!」
「あ、逃げた」
「逃げたな」
「逃げましたね」
「申し訳ありませんアイシャさん。逃してしまいました」
「いえ、仕方ないでしょう。私たちはこのゲームの特性をまだ理解していないのですから。恐らくスペルという様々な効果を持ったカードがあるのでしょう。私たちの名前が分かったのも、飛んで移動したのも、あなたに何らかの攻撃をしたのもスペルの力だと思います」

 だとしたら気になるのはあの男がリィーナに対して使ったスペルの効果だな。
 アドヒージョン、と言っていたな。アドヒージョン……粘着を意味する言葉だな。
 言葉の意味通りに取ると、ヒソカの能力みたいな効果か? でもそんな能力をあの場で使用するとは思えないし。
 やっぱり情報が足りないな。安全な場所を見つけて情報収集を待つとしよう。情報がなければ性転換薬を手に入れるどころか、私たちも危機に陥る可能性もある。

「……移動速度を上げてはどうでしょう? 何時また他のプレイヤーが襲撃してくるやもしれません。まずはアイシャさんが隠れることの出来る場所を見つけるのが早急かと」
「そうね。……あっちに森があるから、そこで適当な場所を見つけましょう。例えさっきみたいに飛んできても開けた場所じゃなければ見つかりにくいでしょうし。あとは気配消して潜伏しとけばそうそう見つからないでしょ」
「確かに。アイシャさんがプレイヤーに見つかる可能性は少しでも低くした方がいいでしょう」

 うう、皆の心遣いが痛い。ごめんね、自業自得の結果なのに護ってもらって。



 リィーナとビスケの提案に従い、森へと疾走する私たち。
 だが私は皆と違って生身のみの速度でしか走れない。そうなるとオーラで強化出来る皆と差が出来てしまう。
 なので現在リィーナにお姫様抱っこされている。この何とも言えない恥ずかしさは一生忘れないだろう。当のリィーナはすっごく嬉しそうだけどね。ああ、早く元に戻りたい……。

「うーん。森に到着したはいいけど……森って言うより林かしらね」
「そうですね。思ったよりも木が少ないです。でもまあ姿を隠すには十分な茂みや窪みもありますから、大丈夫でしょう」

 ここら辺は平原だから身を隠す場所は少ない。
 だがこれ以上高望みをすることも出来ない。この場所は街から遠すぎず近すぎずの程よい距離だ。高望みをすると街から離れすぎてしまう。どんな危険が待ち受けているか分からない現状では出来るだけ情報が手に入るだろう街から離れすぎない方がいい。
 同じように考えるプレイヤーは多いだろうが、周りには同じような林が幾つもある。どこに隠れているか探すのは骨だろう。一旦はここで身を潜めるとしよう。

「私はここでしばらく身を潜めます」
「分かったわ。それじゃ次は情報収集とアイシャの護衛役を決めなきゃね。ま、情報収集する人は決まってるけど」
「……私はアイシャさんのお傍に――」
「はいダメ~」

 リィーナが恐る恐る希望を言うが、ビスケにダメだしを食らってしまった。
 リィーナもその理由が分かっているから苦い顔をしながらも文句を言えないようだ。
私の傍にいたいのは分かるけど、情報収集するのにリィーナが適任なんだよな。

「あんたも分かってるでしょ? 現状で単独の行動をするならあんたが最適だってのは。あんたの【貴婦人の手袋/ブラックローズ&ホワイトローズシャーリンググローブ】はオーラを掴むことの出来る能力。それはこのゲームのスペルとやらにも通用したわ。あたし達じゃ防げないスペルをあんたは防ぐことが出来る。あんた以上の適任はいないのよ。諦めなさいな」
「う、うう。ですがアイシャさんを護るのは私の……」
「リィーナ。私は大丈夫ですよ。あなたの親友と弟子を少しは信じなさい」

 ビスケは文句なしに一流の念能力者だ。カストロさんはまだ未完だが、それでも並の念能力者を凌駕する実力を有している。この2人なら凡百の能力者が束になっても容易くやられはしないだろう。
 まあ油断は禁物だから、戦闘は最終手段だけど。見つからないに越したことはないんだ。気配を消して過ごしていよう。

「お任せ下さいリィーナ殿。身命に賭してアイシャさんをお護りすると誓います」
「心配しすぎなのよリィーナは。ここは任せて早く情報を集めてきなさいよ。それもアイシャの役に立つ大事な役目でしょ?」
「……分かりました。アイシャさんを頼みましたよビスケ、カストロさん。アイシャさん、お気を付けて……いざとなったらその2人を囮にしてお逃げください」
「おいコラ」
「それでは、行ってまいります!」

 ビスケの突っ込みを無視してリィーナはこの場から一瞬で移動した。
 方角は街がある方角ではなく別方向だ。恐らくこの場所が少しでも誰かにバレないように遠回りしてから街に辿り着くつもりだろう。
 後はリィーナが情報を持って帰ってくるのを身を隠して待つだけだ。

「さて、私たちは気配を消して潜んでいましょう」
「了解。どっかいいところないかしらね~」







 気配を消して移動しながら、適当な窪みを見つけたのでそこに身を潜める。
 周囲に人気はない。私の気配探知はそれなりのレベルだと自負があるから、多分誰もいないだろう。私以上の実力者か私でも感知出来ない念能力を用いているなら話は別だけど。

 リィーナが情報収集に赴いてから数時間は経った。
 そろそろ戻って来てもいい頃だと思うんだけど。あんまり遅いと心配だな。あの子も十分な実力者だから大抵のトラブルは対処出来ると思うんだが……。
 未知のルールがあるこのゲームだし、リィーナでも対処出来ない何かがあったのかもしれない。大丈夫かなリィーナ……。……あ、この気配はもしかして。

「ビスケ。聞こえますかビスケ。私です、リィーナです」
「……ネテロ」

 良かった。やっぱりリィーナか。
 ところでビスケや? いきなりネテロの名前を出すなんてどういうこと?

「くそじじい」
「どうやら本物のようね」
「あ、あなたは本当にネテロの弟子ですか……?」

 今のは合言葉か!? そんな言葉を合言葉にするなよ。
 ネテロェ……。どれだけ人望が……いや、これも人望の内なんだろうか。弟子におちょくられるのも遠慮がない証拠なのでは? 私ももうちょっとフランクに行けば良かったのかな?

 ――Heiリィーナ! もっと気楽に行こうYo!――

 ……ないな。こんな私(リュウショウ)を想像した私が馬鹿だった。
 何というか、私どころかリュウゼン先生すら馬鹿にしたかのような気持ちが……。申し訳ありませんリュウゼン先生!

 大恩ある師に心の中で詫びを入れていると、ビスケがリィーナを連れて戻って来ていた。どうやら無事に戻って……なんか人担いでるんですけどリィーナさん?
 誰? どゆこと? 何で人なんか連れてきてんのさ? どうやら気絶してるみたいだけど……。

「リィーナ、あんたとうとう誘拐を……」
「失礼ですね。これには事情があるのです。アイシャさん! ただいま戻りました! 何事もなかったようで何よりです!」
「あなたは何事かあったようですね……どうしたのですかその人は?」
「はい、実は……」

 リィーナの話はこうだ。
 情報収集の為に街(アントキバというらしい)に到着したリィーナはそこで色々とグリードアイランドと外の世界の違いを調べてきた。
 通貨すらカード化しないと使用出来ない買い物のシステム。アントキバにある月例大会。情報屋も発見したそうだが、それにもカード化したお金が必要となるみたいだ。
 これ以上の情報はもっと本腰を入れて調べなければならないだろう。取り敢えず一度私たちに合流して情報を整理しようと思っていた時に、この男が声を掛けてきたそうだ。

 どうやらリィーナをゲーム初心者と分かって声を掛けてきたらしい。
 優しげな表情で、柔らかな声色で、グリードアイランドに付いて注意しなければいけないことを教えてくれようとしたらしい。

 彼は“ボマー”という存在を知っているかと聞いて、リィーナがそれに付いて知らないと答えると、ボマーとやらの驚異を教えたそうだ。
 ボマーとはこのグリードアイランドにいる悪質なプレイヤー狩りで、このボマーに狙われた者は身体が爆弾か何かで爆発したかのような死に方をするらしい。ボマー(爆弾魔)とはよく言ったものだ。
 そうしてボマーの驚異を教えた後、彼はリィーナの肩に手を置こうとして……手首を掴まれ投げられ地に叩きつけられ喉元を踵で潰され鳩尾に一本拳を突き入れられ気絶して全身の関節を外されここまで連れ去られて来たらしい。

 ……うん。ひどいなこれは。
 いや、確かにこの人が信用出来ないのは分かる。初心者に声を掛け、いきなりボマーに注意しろでは少々不自然だ。特に身体に触れようとしたのが怪しい。能力の発動条件に関わるのかもしれない。
 もちろんただの心優しいプレイヤーの可能性もあるけど。注意するに越したことはないというリィーナの判断は分かる。
 でもこれはないだろう……。この人何かビクンビクン痙攣してるんだけど。もしこれで本当にただの心優しいプレイヤーだったらどうしたらいいんだ?

「大丈夫です。私に良い考えがございます」
「考え、ですか?」
「はい。とにかく、この男が怪しいことに変わりありません。この男の監視は私がしますので、アイシャさんとビスケは離れた場所でお休みください。カストロさんは食料を探して来てもらえますか? 残念ながら街では食料を手に入れることが出来ませんでしたから」
「了解しました。何か野生動物でも探してきましょう。……キノコはもう勘弁だからな」

 ああ、キノコに当たったんだっけ。それをレオリオさんに治してもらったんだな。そういえばレオリオさんがグリードアイランドをプレイするならカストロさんと再会出来てたんだな。カストロさんも恩人であるレオリオさんと再会出来たら嬉しかっただろうけど。残念だなぁ。

 あとカストロさん。食べ物は清潔な物にしてくださいね。鹿とか猪とかならいいけど、鼠とか虫とか不潔を思い起こす物は私食べられないから。
 ……サバイバルに向いてないなぁ、私。







 ここがグリードアイランドか。
 見渡す限りの大平原。これがゲームだとすればこの身に感じるリアルも再現したものなのだろうか? 現実の何処かと考えた方が現実的だが……そう考えるのは私に夢がないからだろうか? 昔はもっと冒険心があったものだが……。

 昔か……。あの頃、一冊の本に書かれた冒険活劇に憧れて外の世界に出たのだったな。復讐と同胞の眼を取り戻す為にそんなこと忘れていたが……皆の眼を取り戻し、同胞へと返すことが出来たら、冒険の旅に出るのも良いかもしれないな。
 色んな場所を冒険して、未知の体験をして、その冒険話をパイロに語るのも悪くない。ああ、悪くないな……。

「おー、待たせたなクラピカ」
「来たかレオリオ」
「おお。しっかしすげーなこりゃ。本当にゲームの中なのか?」
「それはきっと初めてこのゲームをした者全てが思うことだろうな」

 レオリオが来たとなれば次はゴンか。その次はキルアだったな。
 ……いや、キルアよりミルキが先か。恐らくあの男は私たちに着いて来るだろうからな。私たちと行動を共にするのがアイシャに会う1番の近道だろうからな。
 アイシャもゾルディックに惚れられるとはな。しかも2人もだ。キルアはそう言っても認めないだろうがな。

「そういえばレオリオ。お前は選考会の後、1人でバッテラ氏と会っていたらしいが?」

 選考会が終わりグリードアイランドをプレイする上での注意事項や誓約書を渡された後、レオリオだけがバッテラ氏と面会したらしい。
 私たちは午後の5時にターセトル駅からグリードアイランドのゲーム機を設置している古城まで車に乗り継いで辿り着いたが、レオリオだけ先に到着していた。
 どうやらバッテラ氏にヘリコプターで送ってもらったらしい。選考会が終わってから何をしていたのか、気にならないと言ったら嘘になるな。

「あー、わりぃがそりゃ話せねーな。守秘義務ってやつだ」
「そうか。なら仕方ないな」

 守秘義務……。となるとバッテラ氏のプライベートに関わる話か?
 レオリオを名指しで呼んだということは、レオリオでないと意味がない話であったということ。
 この男に出来て私に出来ないことは少ない。その中で特筆すべきものが……【掌仙術/ホイミ】だな。
 誰かの治療にでも当たっていたのか? それならば医者を目指しているレオリオなら守秘義務というのも納得だ。
 だが、バッテラ氏ならばどのような名医でも患者に当てることが出来るだろう。名医に成し得なかった治療がレオリオに可能なのか? 【掌仙術/ホイミ】はレオリオが知覚できない損傷や治療に必要な知識がない損傷に対しては著しく効果が下がるようだが……。

「治療は上手くいったのか?」
「……オレはもっと勉強するぜ」
「……そうか」

 ダメだったか。レオリオの表情から力不足に嘆く悲壮な感情が覗ける。

「私が言えた義理ではないがな……。焦るなレオリオ。人は神にはなれない。1人の人間に出来ることなんてたかが知れている。万人を救うなんて不可能なんだ」
「オレだってそんなことくらい分かってるさ……嫌というほどな」

 そうだな。小さい頃に大切な友を救えなかったのだからな。
 私も痛いほどに分かるさ。私も1人で復讐を果たそうとした。1人で強くなって1人で解決しようと……。
 だがな、それもお前たちに出会って変わったよ。1人で出来ないことも、仲間と共に立ち向かえば乗り越えられた。
 だからレオリオ――

「もっと私たちを頼れ。お前1人で出来ないことも、皆と一緒だったらきっと乗り越えられる。私に無理でも、ゴンもキルアも、アイシャもいる。ここにはリィーナ殿やビスケまでいるんだ。出来ないことの方が少ないさ。……頼っていいんだよレオリオ」
「……けっ。クサイ台詞吐いてんじゃねーよ小っ恥ずかしい」
「ふ、照れてるのか?」
「るせーよ! ……お前、ちょっと変わったよな」
「そうか? 自分ではよく分からんな」

 もしそうなら、お前たちが変えてくれたんだよ。
 復讐のみに囚われていた私を、な。

「ああ、変わったぜ。もちろんいい方向にな。……サンキュな。ちょっとアイシャに相談してみるわ。あいつなら何かいい案出るかもしれねーし」
「そうか。そうするといい。私に話してくれるなら出来るだけ手伝おう」
「おお。あんまり多くの人に話していい類の問題じゃねーからな。お前の力が必要だったらそん時に話すぜ」

 レオリオも吹っ切れたようだな。
 レオリオが医者を目指すなら、どうしても救えない人に必ず出会うだろう。そんな時に立ち止まってしまえば救える人も救えなくなってしまう。

「頑張れよレオリオ」
「? おお?」

 お前に言う気はないが、アイシャを除いて私が最も尊敬しているのがお前だよ。言えば調子に乗るから絶対に言わないがな。ちなみに仲間内で最も軽蔑しているのもお前だがな。

「お、ゴンが来たようだぞ」
「お待たせー! うわ、すごいね! 見渡す限りの大草原だ! ……ん? これって……」

 ゴンもグリードアイランドの世界に感動しているようだな。
 そして気付いたようだ。私たちを監視するこの視線に。レオリオは気付いていないようだがな。
 そのままたわい無い話をしながら数十分ほど待ち、ようやくキルアが降りてきた。

「お待た。チクショー、最後になるなんてついてねーよ」
「ははは。20人以上いてビリなんてジャンケンよえーなキルア」
「るせーよ」

 グリードアイランドをプレイする順番はジャンケンだったからな。
 運がなかったとしか言いようがないな。

「ところで、行き先は2つあるがどちらに行く?」

 まずは情報収集をしなければならない。
 この世で最も恐ろしい物の1つ、それが未知だ。何も分からない手探りの状態で、何も考えずに進むなど考えられない。

「何で2つなの?」
「視線を感じるのがあっちとこっちの2つからだからさ」

 このスタート地点を見張っているのだろう。
 監視をするには街の近くであることが理想だ。故にこの2方向を辿ればどこかしらの街に辿り着けるだろう。

「アイシャがどっちに行ったかだな」
「ミルキまだいたの? もう1人でいいだろ? さっさと行けよ」
「……お前たちと一緒の方がアイシャと合流しやすそうだからな。しばらく一緒に行かせてもらうぞ」

 やはりか。別に私は構わないのだが、キルアは嫌そうだ。
 実の兄だから気まずいのかもしれないな。元々キルアは実家を嫌っていたそうだし。
 だが話に聞く程の人物ではなさそうだ。この男も変わったのかもしれないな。アイシャのおかげか?

「もういいじゃんキルア。お兄さんが一緒でもさ。仲良くやろうよ」
「……ワリーな。ゴン、だったか?」
「うん。よろしくねミルキさん!」
「そうだな。アイシャに会うのならこれから一緒に行動することも多いだろう。私も自己紹介しよう。クラピカという。よろしく頼む」
「ああ、ミルキ=ゾルディックだ。……よろしくな」

 キルアがミルキを見て怪訝そうにしているな。
 やはり変わったのだろう。前のミルキはきっとゾルディックに相応しい性格だったのかもしれない。
 少なくともこうして私たちと挨拶を交わすような人物ではなかったのだろうな。かなり太っていたようだし、見た目も性格も変わっていればキルアが戸惑うのも仕方ないか。

「さて、自己紹介も終わったし、どっちに進むか決めよ――」
「それには及ばないわよレオリオ」
『!?』

 突如頭上から聞こえてきた声に誰もが意表を突かれ、即座に声が聞こえた方を注視する。
 先ほどの声はもしや。そう思い確認すると、やはりスタート地点の小屋の上にビスケがいた。ビスケは私たちが驚いたのを見ると楽しそうに飛び降りた。しっかりとスカートを抑えていたのは流石だ。

「ビスケ!? どうしてそんな所にいたの?」
「そりゃもちろん隠れる為よ。ここって身を隠す場所が少ないのよね~」
「なんでわざわざ隠れてたんだよ?」
「他のプレイヤーから隠れてたの。スタート地点に知らないプレイヤーが待ち伏せしてたら警戒されるでしょ?」
「なるほど。ではビスケが私たちを待っていたのはアイシャの所へ案内してくれる為か?」
「そうなるわね。……ところで聞き耳立てて悪かったけど、こっちの彼キルアの兄弟みたいね。信用は出来るの?」
「悪い奴じゃないぜ。結構話分かる奴だし」
「……これはアイシャの重要な秘密に関わる質問なの。悪いけど、信用出来ない奴をアイシャの元へ連れて行くわけにはいかないわね」

 アイシャの重要な秘密? オーラの質のことか? 確かに秘密にするに越したことはないが……。だがそれはアイシャの能力で隠蔽しているはず。つまりはそれ以外の秘密ということか?
 一体どういう秘密なのだろうか。

「オレはアイシャが傷つくようなことは絶対にしない! もちろん初めて会うオレを信用出来ないのは分かる。だからアイシャにミルキが会いに来たと伝えてくれ。それでアイシャがオレと会うのを断れば、オレはグリードアイランドから立ち去るさ」

 何という覚悟。今のミルキからは断固とした信念すら感じられる。
 それがキルアにも伝わったのだろう。キルアがミルキの援護をしだしたのだから。

「ビスケ、オレからも頼む。アイシャに聞くくらいならいいだろ?」
「キル……悪いな」
「……別に。久しぶりなのに会えないのは流石に酷いって思っただけだよ」

 相変わらず素直ではないな。それがキルアの味とも言えるが。

「……分かったわさ。アイシャがOK出せば問題ない話だしね。話がまとまったなら早く行くわよ。ちょっとクラピカの力が必要なのよね」
「私の?」
「そ。さ、着いて来て」

 そう言って平原を疾走するビスケ。すぐに私たちもその後を追う。
 私の力が必要? アイシャとリィーナ殿、それにビスケとあのカストロもいるはずだ。なのにどうして私の力が必要となる?
 私の能力か? 私の鎖の内の何かが必要となった……。妥当なのは【律する小指の鎖/ジャッジメントチェーン】といったところか。
 まあ、ここで深く考えていても意味がないか。とにかく今はビスケに着いて行くとしよう。







 ビスケの後を追い、やって来たのは木々に囲まれた林の中。
 ここにアイシャがいるのか? どうしてこのような場所にいるのか分からないのだが……。アイシャの秘密とやらに関係してくるのかもしれないな。

「ここら辺ね。リィーナ、連れてきたわよー」
「……リュウショウ先生」

 どこからかリィーナ殿の声が聞こえてきた。どうやら隠れていたようだ。流石に気配の消し方も1流だな。
 だがリュウショウ先生とは一体どういう意味だ? 恐らくリィーナ殿の師である今は亡き伝説の武人リュウショウのことだと思うが……。

「マンセー」
「ビスケ、お疲れ様です」

 ……合言葉なのか今のは?
 かの武神も自分の名前がそんな風に使われるとは露とも思わなかっただろうな。

「くしゅん!」

 ん? 今クシャミか何かの音が聞こえたような。気のせいか?

「よく来てくれましたクラピカさん。他の皆さんもグリードアイランドに来ることが出来たようですね。おめでとうございます。……1人見知らぬ方がいらっしゃいますが、この方は?」
「アイシャの知り合いらしいわよ。アイシャに会っても大丈夫か聞いて許可が出たら問題ないでしょ」
「……アイシャさんが許可を出すのならば私に否はございません」
「そう。それじゃ私はアイシャの所へ行ってくるわね」

 そうしてビスケは私たちから離れて別の場所へと移動した。
 アイシャの状況が気になるが、リィーナ殿が落ち着いているので命の危機というわけではないようだ。

「それで。私の力が必要だそうだが?」
「ええ。貴方の能力が必要です。少々協力していただけますか?」
「協力する内容によるな」

 私の能力で悪巧みをするような方ではないが、私もおいそれと念能力を他者に使用する気にはならない。明確な理由がなければな。

「詳細を説明いたします。まずはこちらへ」

 そうして連れられた場所で見たのは、1人の男が全身の関節を外されて凡そ人が取れるとは思えない格好で全身を雁字搦めに縛り上げられていた姿だった。口にはしっかりと猿轡もしている。
 正直同情した。この男が何をしたのかは知らないが、これは酷い……。気絶しているようだが、それは最早救いだな。この状態で意識があればただの拷問だ。

「えっと、なにこれ?」

 ゴン。その疑問は私たちの代弁なのだよ。
 全員が疑問の表情でリィーナ殿を見ていた。

「彼は私が近くの街で情報収集をしていた時に話しかけてきたのです」

 リィーナ殿の説明によると、彼の接近と言葉は妙に不自然だったらしい。
 長年の経験から怪しいと悟り、彼を気絶させ捕縛し、ここまで連れ去ったようだ。
 それが私たちがグリードアイランドに来る3日前の話で、以後目覚める度に気絶させ続け今に至るらしい。

 ……むごい。誰もが見知らぬ男に同情の視線を向けている。この3日間、目覚める度に気絶させられていたということは、ずっと飲まず食わずでいたのだろうか?
 気付けば非難が篭った目でリィーナ殿を見ていた。リィーナ殿はその視線をシレっと流していたが。

「ところで、クラピカさんの力を借りたいのですが、この方はいいのですか?」

 ……ああ。私の能力が知られてしまうという点か。
 確かにミルキはアイシャを傷付けないという点で信用しているが、仲間というわけではない。そんな彼に能力が知られるのは少々問題ではあるな。

「すまないがミルキ、少々場を外してもらっても構わないか?」
「……仕方ないな。能力を秘匿するのはオレも良く分かってるつもりだ。オレだって同じ立場なら同じことをする」
「念の為オレが着いて行くぜ。ここから離れてアイシャの所へ行くかもしれねーからな」
「……信用したんじゃないのかよキル」
「念の為っつってんだろ。信用して放置しとくとオレがリィーナさんに怒られんだよ」

 流石キルア。リィーナ殿の行動をよく理解しているな。風間流での1ヶ月は無駄ではなかった……!
いや、そんなことに詳しくなっても嬉しくはないが……。嬉しくはなくとも詳しくならねばならなかったからな。
 主にアイシャと深く関わる者たちはな。

「じゃあオレも行くよ。キルアとミルキさんが2人きりだと喧嘩しそうだしね」
「……んなことしねーよ」
「こいつが喧嘩売らなきゃな」
「んだとこら!」
「やるのか? 前のオレと同じだと思ってたら大間違いだぜ?」
「もう! 止めなよ2人とも~」

 ……あのまま2人で行けばゴンの予想通りになってたかもしれないな。ナイスフォローだゴン。



 ゴンとミルキがキルアと共に離れたところで改めてリィーナ殿が私に協力を要請する。

「この者に貴方の能力で楔を刺してほしいのです」
「……楔の内容は?」
「『リィーナ=ロックベルトへの絶対服従』です」
「いや、さすがにそれは――」
「ご安心ください。この者が白であれば楔を解除してもらっても構いません。聡明な貴方のことです。一度掛けた能力を外すことは出来るようにしてあるのでしょう?」

 確かにそれは可能だ。楔を掛けた対象が改心したのならばその楔を解除することも考えている。もっとも、幻影旅団だけは別だがな。あの連中だけは何があっても能力を解除することはない。

「もちろんこの者が黒であったとしても、この楔の効果を悪用することは致しません。この者の性根を入れ替えるのに必要な楔故にこのような内容にさせていただきました。何せこの者、そこらの凡百の念能力者とは比べ物にならない程の使い手です。現状ではゴンさん達では勝ち目は薄いでしょう。クラピカさんで良くて互角といったところかと」
「げ、こいつそんなに強いのか?」
「ええ。能力の相性を除けばの話、ですが。それにこのグリードアイランドではスペルカードと言われる特殊な効果を持ったカードがございます。それを使えば一瞬で遥か遠くへ移動することも出来るようです。そのようなスペルを使われると思えば轡を外すことも縛りを解くことも侭なりません」

 なるほど。リィーナ殿がこれほどまでにこの男を厳重に拘束しているのはその為か。このゲームで出来る何かを理解していない私たちでは、それを理解しているだろうこの男に出し抜かれる可能性が高いと踏んでいるのだろう。
 それは正しい。無知であると理解して、それに危機感を抱かないのは最も愚かな行為の1つだろう。この男には少々悪いが、今回はこの楔を掛けさせてもらうとしよう。その上でこの男が白であれば、リィーナ殿に相応の謝罪をしてもらうしかあるまい。

「分かった。彼に【律する小指の鎖/ジャッジメントチェーン】で楔を掛けよう。ただしそれには条件がある。それが呑めない限り協力はしない」
「条件、ですか?」
「ああ。リィーナ殿に『この男が善意で話を持ちかけていた場合、相応の謝罪をする』という楔を打ち込ませてもらう。それが私の条件だ」

 ここまでするのは心苦しい。彼女は私が強くなる為に協力してくれた恩人の1人なのだから。
 だが、先程の楔をこの男に打てば、この男の人生はリィーナ殿によって好きに歪められてしまう可能性もある。人の一生を左右するようなルールを定めるならば、相応の代償を払ってもらわなければならない。

「よろしいでしょう。そうであったならば私も自身の非は認めます。その上でこの者が受けた被害に対して相応の謝罪をする所存です」
「では、まずはリィーナ殿に鎖を打ち込ませてもらう」
「どうぞ」

 私を信用しているのだろうか? 鎖を打ち込まれることにも恐怖はないようだ。微塵も疑いのない目で私を見つめている。まるで心の底を見透かされるような瞳だ。
 ……アイシャが時々同じような眼をする時があるな。アイシャも時折心を読んでいるのではないかと思う時がある。

「【律する小指の鎖/ジャッジメントチェーン】! ……これでリィーナ殿の心臓に私の鎖が打ち込まれた。先程のルールを遵守しないと鎖が心臓を握り潰す。……本当に気を付けてくれ」
「ええ、もちろんでございます。さて、次は貴方の番ですよ」

 リィーナ殿が男の方を見ると、既に男は目覚めていた。
 その顔は憤怒と屈辱で染まっている。まあ、例え彼が善意の人物だとしてもこれだけの仕打ちを受けたら怒りの1つも覚えるだろう。

「えらくいいタイミングで起きたなこいつ?」
「クラピカさんが私に楔を打ち込む前に気付けを入れておきました。これでこの者も現状を理解したでしょう」

「そうだな。念の為説明しておこう。これからお前の心臓に念の鎖を打ち込ませてもらう。私が定めたルールを破れば鎖はお前の心臓を握り潰す」
「ぐむ! ぬぐぅ!」
「定めたルールは1つ。……『リィーナ=ロックベルトへの絶対服従』だ」
「むぐぅぅ!」

 うむ。何を言ってるのかさっぱり分からんが、恐らく『ふざけるな』というニュアンスだろう。
 まあそうだろう。3日も拉致監禁されて、挙句には心臓に鎖打ち込みますだからな。呪うならリィーナ殿に怪しまれる行動を取った自分を呪ってくれ。何で私がこんなことをしなければならないんだ……。

「安心しろ。お前が無害だと分かれば鎖は外そう。リィーナ殿から相応の謝罪も払う約束を取り付けている。そうでなかった場合は……まあなんだ、諦めろ」
「ふぐ! うごぉおぉ!!」

 私の言葉が死の宣告にでも聞こえたのだろうか? 全身をオーラで強化し必死に身体をくねらせて私から離れようとしている。
 その身を覆うオーラはかなりのものだ。今の私では【絶対時間/エンペラータイム】を発動させずに戦った場合、力負けするだろうな。リィーナ殿が評価するだけのことはある。まあ、今の状態ではどれだけオーラで強化しようとも亀の歩みなのだがな。
 そうして無駄な努力をする彼に、私は無慈悲に鎖を突き刺した。

「むぐおおおおぉぉぉぉぉっ!!」







 リィーナ殿に逆らえないこの男――ゲンスルーというらしい――は、リィーナ殿の許可なくカードを使用することを禁じられた。さらに虚偽を禁じられた状態でリィーナ殿の質疑に掛けられる。

 最初に聞いたのはゲンスルーの真の目的。どういう魂胆でリィーナ殿に声を掛けてきたのか。文字通り命を握られた現状で逆らうことも出来なかったゲンスルーは渋々だが全てを話した。その内容はもう完全にアウトだった。真っ黒にも程がある。

 ボマーとしての活動、グリードアイランドで行った殺人、ハメ組を騙して爆弾を仕掛けていたことも、ゲンスルーは洗いざらい話した。
 ボマーという悪名を広める為の犠牲者としてリィーナ殿を選んだとは……。見た目に騙されたのか? 外から見ると妙齢な令嬢だからな。
 とにかく相手が悪かったと言うしかないな。最早同情の余地もないが。

 ゲンスルーからは他にも有益な情報を聞けた。もちろん全てグリードアイランドにおいて重要な情報だ。その情報はスペルカードの詳細やスペルカードを売っている唯一の街マサドラを含めた重要な街に、トレードショップとやらの有効な利用方法など多岐に渡る。
 虚偽は認められてないのでこの情報に誤りはないと思っていいだろう。ゲンスルーが間違いを信じている場合を除いてだが。

「オレの知ってるこのゲームの情報はこれくらいだ……。もうお前たちに関わらないと約束する。だから開放してくれないか……?」
「その言葉に嘘はないようだな」
「嘘だったら今頃死んでるんだろう? 頼まれたってお前たちには近づかねーよ……」

 完全に心が折れてるな。それだけの仕打ちを受けているのだから仕方ないが。
 それも自業自得だから何とも言えないがな。

「いえ、貴方にはまだ聞きたいことがございます。貴方、この計画は1人のみで行っていたのですか?」

「………………」

 仲間の確認か。確かにそれは必要なことだ。
 そしてゲンスルーは黙秘、か。確かに虚偽は認められていなかったが、黙秘はそうではないな。
 黙っているだけでそれは答えを言っているも同然。しかもリィーナ殿に黙秘すら禁じられたら意味のない行為だ。それはゲンスルーにも分かっているはず。これだけの計画を数年にも渡って誰にも知られずに進めていたのだ。頭の回転もかなりのものだろう。

 しかし絶対服従の掟、か。これ1つで大体事足りるな。……蜘蛛にあんなにたくさんのルールを強いなくてもこれ1つで良かったのでは?

「黙秘、ですか。まあそれで十分答えになっていますが。もう1つ質問です。このまま貴方を拘束していれば仲間は貴方を助けにやって来ますか?」
「……それはない。オレが定期的に送っている連絡が来なくなれば、不測の事態に陥ったとしてオレを見捨てるようになっている」

 仲間がいることがバレたのはもう隠しようがないと悟ったか。そしてこの答えに虚偽はない、か。だが分かったことがあるな。その仲間はどうか知らないが、このゲンスルーという男は仲間を想っているということが。

「そうですか。では、貴方の仲間を呼び寄せることは出来ますか?」
「………………」

 やはり黙秘か。
 私がゴン達を想うように。ゴン達が私を想ってくれているように。ゲンスルーは仲間を想い、仲間を護る為に命を捨てようとしている。
 仲間よりも自分の命が大事ならば、仲間の有無を問われた時に黙秘で通そうとは思わないだろう。今までの質問には虚偽なく答えたのだから。
 その黙秘すら禁じられたとしても、恐らくゲンスルーは口を割らないだろう。そう思える覚悟をこの男から感じることが出来た。

「私が虚偽だけでなく、黙秘も禁じれば貴方は鎖の掟に触れ、その心の臓を握りつぶされるでしょう。そうなれば待っているのは確実な死です。……最後の質問です。貴方は仲間の為に命を捨てるのですか?」
「殺せ。死んでも、仲間は売らねぇよ」

 ……本当に意外だよ。このような外道極まりない者でも、仲間を想う心があるということが。悪意だけで人が成り立つことはないのかもしれないな……。

「なるほど……。いいでしょう。貴方のその仲間を想う心、確かに見させて頂きました。その想いと覚悟に免じて仲間について言及することは致しません。
 ……ですが、仲間を想う心は素晴らしくとも、大金の為に数多の人を騙し殺傷したその性根は腐りきっています。完全に悪に堕ちてないのは僥倖です。その性根、私が矯正して差し上げましょう!」

 あ、リィーナ殿の目が爛々と輝いている。
 代わりにゲンスルーの目は死んでいるが。

「あちゃー。リィーナの悪い癖が出たわねー」

 ビスケ、戻ってきたのか。アイシャは一緒ではないようだな。

「悪い癖、だと?」
「そうよ。リィーナはね……根性のひん曲がった奴を見つけると叩き直したくなる癖があるのよ。エイダとかトンパもその犠牲者ね。エイダは最終的に喜んでたけど。他にも何人もの人間がリィーナによって矯正されてきたわさ。もっとも、叩き直す余地がなさそうな奴は全員刑務所行きだったけどね」

「二度と愚かな考えが頭に浮かばないよう性根を叩き直してあげますから、覚悟なさい」
「どうして……どうしてこうなった……?」

 だから自業自得なのだよ。







「久しぶりですねミルキ。見違えましたよ」

 ビスケからミルキが私に会いに来たと報告を受けた。どうしてグリードアイランドにいるのか気になったけど、ミルキもゲームが好きだし、私のお願いでグリードアイランドの情報を調べていたから興味を持ったのかもしれない。
 わざわざ会いに来てくれたのなら会わないつもりはない。確かに今の状態を多くの人に知られるのは問題だけど、ミルキは信頼出来ると思っている。私の為に色々と力になってくれたミルキを疑いたくないのだ。

 そして久しぶりに会ってみたらあらびっくり。
 滅茶苦茶痩せているのである。何時の間に相撲取りからモデルにクラスチェンジしたんだ? 僅か半年でここまで痩せるなんて並大抵の苦労じゃなかっただろう。
 これだけの努力をして、私の為にたくさんの情報を集めてくれたんだ。会わないなんて考えは私にはなかった。

「ひ、久しぶりだなアイシャ! 元気にしてたか?」
「ええ。ミルキは痩せましたね。そちらの方がいいですよ(健康的に)」
「そ、そうか!」

 嬉しそうだなミルキ。努力が認められるというのは誰でも嬉しいものだ。
 この再会は喜ばしい物になりそうだ。あと、もう1人再会した人がいたな。思ったより早い再会だったけど。

「レオリオさんもグリードアイランドに来たんですね。一緒に居られるのは嬉しいですけど、医者の勉強は大丈夫なんですか?」

 そう、まさかのレオリオさんのグリードアイランド参戦である。医者の勉強に専念する為にレオリオさんは私たちとは別行動するはずだったんだけど……。

「おお。勉強ならここでも出来るからな。勉強道具も持ってくることが出来たしな。センター試験がある1月までにここから出れば大丈夫だぜ」

 そうか。確かに身に付けていたものはグリードアイランドに持ち込むことが出来るな。
 レオリオさんが持っている荷物の中身は勉強道具か。1月までは私たちと一緒にいながら勉強をするわけだ。

「グリードアイランドは危険な場所ですよ。あまり勉強に適した環境とは言えないと思いますが……」

 グリードアイランドがどれだけ危険かは私にも詳しくは分からない。
 でも部屋で勉強するのと比べたら天地の差があるのは間違いないだろう。
 そんな場所で勉強に集中出来るのか心配だし、命の危険もある。

「らしいな。まあ、オレもアイシャの修行に興味あったからな。勉強と修行、両方並行させて行くさ。強くなれば危険も少なくなるだろ?」
「それはそうですが……」

 勉強と修行を並行? ……大丈夫だろうか?
 いや、ビスケの能力を利用すれば……。それにレオリオさんの治癒能力が強化されるのはレオリオさんの為になるはず。

「いえ、分かりました。ただし、修行と勉強と両方するのはとても厳しいですよ。覚悟は出来ていますか?」
「おう!」

 それなら良かった。こうなったらレオリオさんをどこに出しても恥ずかしくない程の念能力者に鍛え上げよう。

「レオリオ……遺書は用意しとけよ」
「歓迎しようレオリオ。ようこそ地獄の一丁目へ」
「あはは。一緒に頑張ろうねレオリオ」

 私の修行が地獄とな? 私の修行時代は天国と感じてましたよ?
 【絶対遵守/ギアス】のおかげだったけどね! アレがない彼らには修行は地獄の苦しみなんだろうなぁ。

 おっと、再会と言えばこっちもだったな。

「おお、誰かと思えばキミは!」
「ああ! あん時の兄ちゃんじゃねーか!」

 そう、レオリオさんとカストロさんの再会である。2人とも実は互いの名前を知らないんだよね。これを機に自己紹介をしている2人である。

「いや、あの時は本当に助かったよレオリオ」
「気にすんなって。黒の書なんて礼も貰ってるんだ。おあいこさ」

 ぐ、黒の書……。今頃はどこに行ってるんだ……。ああ、早く私の所に戻っておいで。……完全に消滅させてあげるからさ。

「それでアイシャよ。お前の秘密に関わる話とやらだが……」
「……そうですね。皆さんには話しておきたいと思います。絶対に他言は無用でお願いしますよ」

 全員が肯定してくれたので、【ボス属性】の能力と私の現状について説明をする。

「――と、言う訳なのです」
「お前は馬鹿か?」

 うぐ、は、反論出来ない……。キルアの言うことはもっともだ。念能力が使えなくなると分かっていて、念能力者の集まるゲームに参加するのは馬鹿の証だろう。

「その能力は凄まじいが、デメリットも大きいな」
「ああ。ON/OFFが出来ないのは結構痛いな。それがなければ完璧な能力とも言えるが……」
「それがあるからこその効果だな。制約としてそれくらいなければ強すぎる能力になってしまう」

 なんかクラピカとミルキは私の能力について考察している。2人とも頭脳戦得意そうだなぁ。

「1ヶ月は念が使えないんなら、アイシャを護ってあげなきゃ。何だかアイシャを護るって不思議だな~」
「だな。つうか、護る必要あんのか? 絶でもカストロ倒すんだぞコイツ」
「いえ、あの時とは状況が違います。カストロさんとの試合では、身体を覆うオーラは絶でなくしていましたが、目の精孔は開いたままでした。なのでオーラを見ることは出来ていたのです。でも今はそれすら出来ません。そんな状況では念能力者の攻撃を予測するのは難しいです……」

 敵がオーラを放出してきたらそれを見ることも感じることも出来ないのだ。
 長年の経験と勘で予測することは出来るかもしれないけど、流石にそれだけで対応し続けるのは無理だろう。

「今の私はこの場の誰にも勝つことは出来ないと思いますよ」
『信じられない』

 ゴン達の息の合い方が異常だと思う今日この頃。それも私に関することだけにだ。くそ、私が何をした? いやすいません。大体分かってますはい。

「お前らいいかげんにしろよ。念が使えなくて不安なんだぞアイシャは。安心しろよアイシャ。お、オレが護ってやるからさ!」
「オレだってアイシャを護ってやるぜ。怪我したらいつでも治してやるからな」
「ミルキ、レオリオさん。2人ともありがとうございます」

 2人とも優しいなぁ。私には過ぎた友達だよ。

「どうやら話し合いは終わったようね」
「ビスケですか。そちらも尋問は終わったようですね」

 リィーナが捕らえてきたあの男の人。詳しい話はまだ聞いていないがどうやら思っていた以上に真っ黒だったらしい。

「あの男、ゲンスルーなんだけどね。……リィーナが徹底的に矯正することになったわさ」

 ……ああ。あの子の趣味でしたね。人格矯正って。
 でもまあ、救いがない悪人は問答無用でしたから、そういう意味ではゲンスルーとやらはまだマシなのだろう。悪人であることに変わりはないので、これを機に心を入れ換えてほしいものだ。

「そうだビスケ。私は1ヶ月念が使えないので、この機会を利用してゴン達の修行に専念したいと思っているんですよ」
「そうね。それでいいんじゃない。今のアイシャじゃグリードアイランドをプレイするのは無理でしょうしね」
「ええ。それでビスケにも前みたいに協力してほしいのですが……どうでしょうか?」
「……そうね。いいわよそれくらい。今回は依頼料もなしでいいわさ。ゴン達の才能なら、こっちからお願いしたいくらいだしね」

 良かった。賛同してくれるとは思っていたけど、依頼料なしは嬉しい誤算だ。お金はまだ余裕あるけど、前みたいに着せ替えを依頼料にされるのはもう勘弁だ。ビスケの趣味が才能ある人間を磨き上げることで良かった……。

「……これで修行→回復の地獄コンボの復活か」
「甘いなクラピカ。今はレオリオもいるんだぜ? 怪我しても回復するから以前よりタチわりーよ」
「そうですね。レオリオさんの修行にもなりますし、怪我をしても治療出来る現状なら以前より組手のレベルを上げても良さそうですね」
「またあの川に行きそうだなぁ……」

 ゴン、それってどの川なの? クラピカも前に言ってたけどあなた達はどこに行ってるの?





 シリアスはヨークシンに置いてきた。ハッキリいってグリードアイランド編(ギャグ編)についてこれそうにない……。
 グリードアイランドの山場? ボマーとの戦闘? ああ、原作にはあったね。原作には。だがここにはそんなもの存在しない!
 スペルカードの推察は私の勝手な想像です。実際は非念能力者には見えない具現化されたものではないのかもしれません。

 リィーナの能力の詳細を書いておきます。

【貴婦人の手袋/ブラックローズ&ホワイトローズシャーリンググローブ】
・具現化系能力
 術者の両手から肘近くまでを覆う白黒2色のバラの刺繍が入った美しい手袋。この手袋はオーラを衣服の如く掴むことが出来る。リィーナがこの能力を作った理由は、どんな相手であろうとも風間流のあらゆる技を掛けることが出来るようにするため。合気柔術なので衣服を利用した技も勿論あるのだが、その技は相手が衣服を着ていなかったら意味がない。それがリィーナには我慢ならなかったのだ。リュウショウに教わった技がたかだか衣服を着てない程度で無効化されるのが許せないという一念で生み出した能力。
 リィーナの顕在オーラを上回るオーラを掴むことも出来ないが、掴まれたオーラはリィーナが外そうとしないか、対象が絶などで消すかしないと外すことは出来ない。また、掴んだオーラはグローブに吸収することも出来る。もちろん吸収した場合は掴んでいたオーラは消滅するので、新たに掴み直さなければならない。具現化した物体も掴んで、その物体を覆うオーラと具現化に使用したオーラの合計値がリィーナの顕在オーラ以下ならば掴んだ部分をオーラへと戻して吸収することが出来る。吸収するかしないかはリィーナの自由。
 吸収したオーラは貯め込むことができ、自在に使用することも出来る。吸収出来るオーラの総量はリィーナの最大潜在オーラと同等。貯めていられる時間は最初にオーラを吸収した瞬間から1時間が限界。1時間経過すると吸収したオーラは全てリセットされる。

〈制約〉
・自身の顕在オーラを上回るオーラを掴むことは出来ない。
・貯めて置けるオーラの総量は最大潜在オーラと同等とする。

〈誓約〉
・最初にオーラを吸収してから1時間以内に吸収したオーラの総量が最大潜在オーラを超えた場合、吸収したオーラ量と同等のオーラ量を消耗してしまう。また、吸収したオーラを使用すると吸収したオーラの残量は減るが、総量が減ることはない。

 以上です。ちょっと分かりにくいかもしれません。吸収したオーラの総量は、例えリィーナが吸収したオーラを消費しても減りません。例えば合計して10000のオーラを吸収した時に、リィーナがその内5000のオーラを使用すると、残りのオーラ量は5000になります。
 ですが今まで吸収したオーラの総量は10000から減ることはありません。この状態でさらにオーラを1000吸収したとすると、吸収オーラ総量は11000に、残オーラ量は6000になるということです。そして吸収オーラ総量がリィーナの最大潜在オーラ量を超えた時、合計オーラ量分のオーラを失ってしまうというわけです。
 この計算は最初にオーラを吸収してから1時間経つと吸収したオーラとともにリセットされます。長期戦でこの能力を多用すると誓約に触れる可能性が上がります。まあリィーナの潜在オーラもかなりの量なので、そうそうパンクすることもないですが。
格上(先生)には通用しにくく、格下(先生以外※)には非常に有効な能力である。ちなみに誰かと協力してオーラを貯めておくと強力。協力した誰かはオーラが殆どなくなるけど。
 ※リィーナの理想。先生以外の存在より強く有りたいという。







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