どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第五十話

 ミルキの作ってくれた修行道具はかなりの成果を上げている。重さ自体はゴン達が着けても問題なく動けるレベルだが、負荷が増している状態でいつも通りの修行をするのはやはりかなりキツいようだ。
 それぞれ今の身体能力に合わせて重りを着けているので、誰もが基礎修行でいつもの半分程の時間でヘトヘトになっている。かく言う私もかなり疲れている。だが、この負荷に慣れてくれば身体能力も更に上昇するだろう。ふふふ、首を洗って待っていろよネテロ。

 そうしてグリードアイランドに来て3週間が過ぎようとしていた時のことだ。
 今日もいつも通り修行に熱中している最中、空からあの音、スペルカードによる移動音が聞こえてきた。誰もが修行を中断し、空に向かって集中した。全員臨戦態勢に素早く入っている。うんうん、いい成長だ。

 そして4人の男性が空から降り立った。ゲンスルーさんの近くに降り立ったことから、スペルカードでゲンスルーさんを目標に飛んで来たのだろう。つまり彼らはゲンスルーさんが騙していたというハメ組の人たちかな。全員私たちをチラリと見ながらもその意識はゲンスルーさんのみに向いている。一応私たちを警戒しているようだが……。

「ゲンスルー。何故オレ達と連絡を絶った? “交信/コンタクト”には気付いていたはずだ!」
「……ふぅ。オレはゲームを降りた。後はお前たちで勝手にしろ」
『なっ!?』

 やっぱりハメ組の人たちか。ゲンスルーさんと長いこと連絡がつかないから痺れを切らして直接乗り込んで来たわけだ。
 多分ハメ組の中でも戦闘経験に長けた人を連れて来たのだろうけど……。恐らく私たちの誰が戦っても彼らに勝つことは出来るだろう。まだまだ未熟だな。

「どういうことだ! ようやくだ、ようやくクリアの目処が立ってきたんだぞ!?」
「ここまで来るのに5年も掛かったじゃないか! 今さらクリアを諦めるのか!?」
「最近バッテラ氏に雇われたプレイヤーが大勢仲間になった。これで人数も目標をクリアした。スペルカードも今まで以上のスピードで集まるだろう。なのにどうしてだ! 答えろゲンスルー!」

 計画初期からの仲間だったゲンスルーさんの素っ気ない言葉に気が動転したのか、語気を荒げてゲンスルーさんに詰め寄るハメ組さん達。ゲンスルーさんはあからさまに溜め息を吐いた。本当に彼らを仲間とは思っていなかったようだな。

「どうでもいいだろ。さっきも言ったがオレはゲームクリアなんてもうどうでもいい。オレの分の報酬はお前たちで好きに分ければいい。オレが持っている指定ポケットカードも渡す。“ブック”……ほらよ、さっさと持っていけ」
「……本気なんだなゲンスルー」
「そう言っている。早くしろよ。オレは今日のノルマを終わらせないといけないんだよ」
「?」

 ハメ組さん達が何を言っているのか分からなくてキョトンとしているな。
 ノルマはゲンスルーさんに課せられた修行の量だ。そのノルマを毎日こなさないとリィーナによる折檻を受けるようになっている。誤魔化すことは禁じられているので毎日頑張っている。……頑張らざるをえないとも言う。負けるなゲンスルーさん。

 何というか。悪人なのは知っているんだけど、初対面でのゲンスルーさんの受けた仕打ちが印象的で、私たちの誰もゲンスルーさんに悪印象を持っていない。
 もちろん全員ゲンスルーさんがしてきた悪行は知っている。でもそれはキルアもミルキも同じだと言っていた。腹にまだ一物あるんだろうけど、ここまでの仕打ちを受けて修行に励むゲンスルーさんを見ているとやっぱり悪くは思えないようだ。
 ゴンなんか結構ゲンスルーさんに念の戦闘について教えてもらっているくらいだし。あの子は裏表がないからゲンスルーさんにも1番好意的に接している。ゲンスルーさんはそれに悪態をついたり、鬱陶しそうにしているけど、何だかんだで丁寧に教えている。ゴンの飲み込みも早いから、教えがいもあるのだろう。

 ハメ組さん達はゲンスルーの言葉に怪訝に思いながらもバインダーから指定ポケットカードを回収した。これでゲンスルーさんのバインダーには少しのスペルカードとその他のアイテムカードしかなくなったわけだ。

「ゲンスルー、周りの彼らは?」
「今さらだな。……どうでもいいだろ。さっさと行けよ」
「そうはいかん。お前と一緒にいるということはオレ達の計画やアジトについても知っている可能性もあるわけだ。どうなんだゲンスルー?」
「……」

 ゲンスルーさんが僅かに私に視線を向けた。
 私の意志を確認しているのか。今のゲンスルーさんへの命令権は私にあるからな。
 私はゲンスルーさんに首肯で応える。彼らにどう答えるかはゲンスルーさんに任せよう。

「計画を気にするくらいなら見知らぬ奴らがいる時に話すべきじゃないだろうに……。まあいい。こいつ等は確かにお前たちの計画について知っている。アジトの場所までは話してないがな」
「……彼らを計画に誘っていたんじゃないのか?」
「違うな。アジトについて信用出来ないならさっさと場所を変えるんだな」

 どうやらボマーについては話す気はないようだ。まあここでそのことについて話したら話が拗れるなんてもんじゃなくなる。しかも私たちまでボマーの仲間だと思われるだろう。それは勘弁だ。
 彼らにはゲンスルーさんの爆弾が付いているようだが、ゲンスルーさんが条件を満たさなければ爆弾が発動することはないようだし。彼らも覚悟を持ってこのグリードアイランドに来ているんだ。他人の念能力に掛かったのは自業自得の面もある。これくらいは問題ないだろう。

「……分かった。後悔するなよゲンスルー」
「いいのかニッケス」
「構わん。ゲンスルーの意思は固いようだ。時間も惜しい、早くアジトも変えなければいけない。戻ろう」
「……分かった」

 そうしてハメ組さん達は私たちから離れていった。
 多分私たちを“同行/アカンパニー”に巻き込まないように離れたのだろう。
 半径20m以内にいるプレイヤー全てが“同行/アカンパニー”の対象になるようだからな。

 スペルカードについてはゲンスルーさんのおかげで全員が網羅している。あ、ビスケは除く。あの子はこういう細かいことを覚えるのは嫌いなのである。
 私は結構ゲームとか好きだから覚えた。遥か昔を僅かに思い出すなぁ。オリジナルの魔法とか詠唱とか考えた記憶ががが。

「“同行/アカンパニー”使用! マサドラへ!」

 行ったか。このまま彼らが順調に計画を進めていけばゲームをクリアするのは彼らになるのかな。ゲームクリアをするつもりまではなかったから別にいいけど……。なんか少し納得いかない自分がいるな。
 元ゲーマーの血が騒ぐ。困難なゲームをクリアしろと叫んでいる。静まれ私の血よ。目的を違えるな!

「良かったのゲンスルーさん?」
「はあ? 何言ってやがる。オレをそうさせたのはお前らだろうが」
「うん、それは仕方ないと思ってる。でも自分でゲームクリアしたかったんじゃないの?」
「だから、それをあの女にぶち壊されたんだろうが」
「だったらオレ達と一緒にゲームをクリアしようよ!」
「あ?」
「ゲンスルーさんがやったやり方はオレも認められない。でも、あの人達のやり方もオレは好きになれない。だからさ、今からオレ達とまともなやり方でゲームをクリアしようよ! あの人達に負けないようにさ!」

 ……きっとゴンの中ではゲンスルーさんはもう輪の中の1人なんだろうな。
 その純粋さが人の心の垣根を越えることもあるのだろう。だが、それゆえに危ういんだけど……。

「馬鹿かお前は。クリアしてもオレに金が入ってくるわけでもない。あの女がそこまでしてくれるとは思えんしな。無駄な労力を使う気はねぇんだよ」
「そうかなぁ。リィーナさんは公平だから、ゲームのクリアに貢献したらちゃんと賞金を分けてくれると思うよ?」
「そうですね。リィーナはその辺は平等です。例え相手が誰であれ、役目に応じた報酬は出すでしょう」

 私に関すること以外ではあの子は本来平等なのだ。他人に厳しくする分、自分にも厳しくしている。理不尽なことはしない子だ。私に関すること以外で。私に関すること以外で。
 例えかつて犯罪を犯したことがある人でも、仕事をキチンと為せば見合った報酬は出してくれるだろう。

「それにオレ達と一緒にゲームをしたら、修行も少しは楽にな――」
「――そこまで言うなら仕方ないな。協力してやる」

 早い、早いよゲンスルーさん! そんなに修行が辛かったんだね! ごめんねゲンスルーさん!

「でもよゴン。このままじゃあのハメ組の連中がクリアするんじゃねーか? あいつ等もうクリア目前まで来てるらしいし。オレ達が貴重なカードを手に入れてもすぐに奪われると思うぜ?」
「いや、そうとは限らないな。あいつ等のやり方ではどうしても取れないカードが幾つかある」
「ホントに!?」

 流石はハメ技を考えついたご本人。ハメ技に出来ること出来ないことくらいお見通しか。

「まず第一に、あいつ等は弱い。束になっても数で劣るオレ達に勝てないくらいにな。そんな連中では自力でのカード入手は恐らくSランクカードが限界だ。SSランクカードになるとよほど運が良くないと手に入れられないだろう」

 どうやら本当にさっきの彼らはハメ組でも戦闘要員だったようだ。あの程度の実力だから正直もしかしたら他に戦闘要員がいるのかと考えていたけど、5年間もハメ組にいたゲンスルーさんの情報からしてそれはないようだな。

「次に、あのハメ技では絶対に奪えない防御法がある。それが“堅牢/プリズン”だ。お前たちにも教えたように、このスペルで守られた指定ページのカードはどんなスペルでも奪うことは出来ない。あとは“聖騎士の首飾り”だな。“徴収/レヴィ”には意味がないが、攻撃スペルはこれで反射出来る。この2つを揃えるのが最初の関門だな」

 なるほど。つまり私たちはSSランクの指定カードをどうにかして手に入れて、それを奪われないようにすればいいわけだ。奪われさえしなければハメ組は全てのカードを集めることが出来ず、クリアには至らない。そうして少しずつ自分たちのカードを集めていくと。

「だがそれでもクリアするには幾つもの問題がある。第一に“堅牢/プリズン”の入手が困難なことだ。人海戦術でスペルカードを集めていたハメ組でさえ“堅牢/プリズン”は1枚しか所持していない。それから3週間近く経っているから、もう何枚か揃っていてもおかしくはないがな。ちなみに“堅牢/プリズン”のカード化限度枚数は10枚だ。5000枚を越えるカードの中から運良く手に入れるしかない」

 5000枚か。お金もカードにしないといけないし、それだけの量のカードを買い占めるのは購入面でも購入後も物理的には不可能か。つまり“堅牢/プリズン”は地道にコツコツと購入を繰り返して運良く手に入れるしかないわけだな。

「運良く“堅牢/プリズン”を入手出来たとしても、守ることが出来るのはSSカードとそれと同じページのカードの計9枚だけだ。他のカードは集めても“徴収/レヴィ”で奪われる可能性があるな。オレ達のカード枚数がそれなりに集まったら確実に“徴収/レヴィ”による邪魔をしてくるだろう。例え奪ったカードが奴らに必要ない物だとしてもな。更に他の奴らが独占しているだろう指定ポケットカードの存在もある。そういったカードはスペルで奪うのが1番だが、生憎大抵の貴重なスペルはハメ組が多く所有している。オレ達が手に入れられるのは極僅かだろうな」

 聞けば聞くほど“堅牢/プリズン”入手が困難に思えてきたんだけど……。

「でも“徴収/レヴィ”のカード化限度枚数は25枚なんだろ? そんだけ使ったらすぐに無くなるし、補充も難しいんじゃないの?」
「いや、指定ポケットカードの1つに“徴収/レヴィ”と同じ効果を持つカードが存在する。それを使えば所持している指定ポケットカードがランダムに1枚破壊されるが、指定ポケットカードがあれば何回でも“徴収/レヴィ”を使うことが出来る。あの連中は余分な指定ポケットカードを使えばいいだけだし、そもそもクズカードを“贋作/フェイク”で指定ポケットカードに変化させて、他の指定ポケットカードを仲間に渡していれば破壊されるのはそのクズカードだ。どうせ重要な指定ポケットカードの全ては複数人に分けた上で何処かに隠れて厳重に保管しているだろうしな。唯一の救いはカードを保管している奴らが“堅牢/プリズン”による防御をしていないことか」
「どうして貴重なカードを“堅牢/プリズン”で守らないの?」
「使っちまえば他の誰かが“堅牢/プリズン”を手に入れる可能性が出てくるからさ。だから重要なカードは全て所持しているプレイヤーが隠れることで守るわけだ。もちろんそいつ等は聖騎士の首飾りと大量の防御スペルを持っているだろうな。
 ……いや待て。“擬態/トランスフォーム”を使えば“堅牢/プリズン”も増やせたな。駄目だな、全部のカードがガードされている可能性の方が高い」
「八方塞がりじゃねーか! どうすんだよゴン。こりゃクリアなんて到底不可能だぜ?」

 ……いや、方法はあるな。私たちには“堅牢/プリズン”がなくても“徴収/レヴィ”は愚か大抵の攻撃スペルを防ぐ方法がある。その方法を持っている人物が仲間にいるのだ。

「“徴収/レヴィ”を防ぐ方法に心当たりはありますよ」
「……どうやってだ? “堅牢/プリズン”以外でアレを防ぐことは出来ないはずだ」
「今は言えません。私に言えることは、現状は動くことが出来ないということくらいですね」

 リィーナの念能力を勝手に話すわけにはいかない。場合によってはこの方法は使用出来ないだろう。今はリィーナが帰ってくるのを待つしかないな。どうせ私の【ボス属性】による絶もまだ戻らないし。

「私の考えている方法ももしかしたらダメかもしれません。なので、あまり期待しないでねゴン」
「うん、大丈夫だよ。例えアイシャの考えた方法が無理でも、オレ達がクリア出来る可能性はゼロじゃないんだ。だったら諦めたりしないよ!」
「しゃーねーな。オレも付き合ってやるよ」
「ゴンの諦めの悪さは今に始まったことじゃねーしな」
「ああ、慣れたものだよ」
「オレってそんなに諦め悪いかな?」

 自覚なかったのゴン? ゴンってかなり負けず嫌いだよね。ハンター試験で私に勝つために釣り勝負に引きずり込まれたことを私は忘れないだろう。
 まあ、そういう私もかなり負けず嫌いか。

「まあやる気がなくならないなら手伝ってやる。その方が修行も楽になるしな」
「ありがとうゲンスルーさん!」
「勘違いすんなよガキが。オレはオレの為に手伝うんだ」

 ツンデレ入りました。ありがとうございます!

「いいか、何はともあれ最初にやることは“聖騎士の首飾り”の入手だ」
「それってどこにあるの?」
「アントキバの月例大会の賞品だ」
「げっ、あそこのかよ。また奪われそうだぜ……」
「何月の大会で賞品に出るんですか?」

 月例大会は月ごとに大会の内容も賞品も変わっているらしい。そして指定ポケットカードは奇数月の月例大会の賞品だ。なので1年で6種類の指定ポケットカードが手に入れることが出来る。勝てばだけど。
 つまり最低でも1年間はプレイしないと全ての賞品を集められないということである。これでは他人のカードを奪った方が圧倒的に早いだろう。

「1月だな。まだ先だが安心しろ。月例大会の賞品は全てBランク以下のカードだ。そしてBランクのカードはトレードショップで全て購入可能だ。同じトレードショップで50回以上買い物をすると得意客になり、店側から話をもちかけてくる」
「おお……!」
「やはり経験者がいると情報の有無が違うな」
「ああ、攻略本を読んでいるみたいでなんだがな」

 やっぱりミルキはゲーム好きだな。私も攻略情報は見ずにゲームをする派だ。だがこの状況では使える物は出来るだけ使わないとハメ組より先にクリアなんて不可能だろう。

「あとは出来るだけ金を貯めて全員でマサドラでスペルカードの購入だな。全てのカードを独占するのはあの連中にも無理だからな。これは早ければ早いほどいい。“堅牢/プリズン”が1枚でもあるとないでは大きな違いだ。移動系のスペルカードも多い方がいいな。移動に割く時間は省いた方がいい。あいつ等はあと1ヶ月ちょっとでカードの収集を終わらせてクリアへ向けて本格的に動き出す予定だ。早く動かないと手遅れになるぞ」
「じゃあ当面の目標はお金を貯めることですね。あと10日でここに来て1ヶ月になります。動くのはそれからとしましょう。残りの時間は修行しながらモンスターをカード化していきましょう。それを売ればそこそこのお金になるでしょうし」
「まあ、今すぐ動かないならそれが妥当だな」
「じゃあ方針が決まったところで、ゲームクリア目指して頑張りましょう!」
『おー!!』
「取り敢えず今日の修行を終わらせましょうね」
『おー……』

 この落差である。







 昨日も修行今日も修行。明日も明後日も修行の予定。修行漬けの毎日だ。
 時々思う時がある。私は本当に【絶対遵守/ギアス】の効果が切れているのだろうか、と……。前ほどに修行に傾倒してないから切れてはいるんだろうけど。【絶対遵守/ギアス】がかかる前の私だったら絶対に途中で逃げ出しているな。
 まあいい。強くなるのは良いことだ。グリードアイランドが終わったら嫌でも死闘が待っているんだからな。知識の中ではあのネテロでさえ勝てなかった化け物と戦うんだ。強くならなければ話にならない。
 でも思うんだ。今のネテロなら勝てるんじゃね? 絶対あいつあの知識のネテロより強いよ。そう思わないとやってられないくらい強いよ。いつか勝ち星を負け星より増やしてやる。

 そんな風に気合を入れながらいつも以上に修行に熱中していると、遠くから人が近付いてくる気配を感じた。かなりの速度だ。この気配は……リィーナか!

「……さーん! アイシャさーん! お待たせしましたアイシャさん! リィーナ、ただいま戻りました!」
「ああ、お帰りなさ……い?」

 勢い良く走って帰って来たリィーナだったが……おかしいな。何か妙な物体を持ち運んでいるんだけど? 何故だろう。既視感を感じる……。

「あの、リィーナ? その……あなたが連れている、でいいのですか? その人たちはどうしたんですか?」

 そう、リィーナはかつてゲンスルーさんを縛り上げて連れてきた時のように、見知らぬ2人の男性を縛り上げていた。
 それを担いでここまで走ってきたようだ。流石のリィーナも多少息が上がっている。人を2人も担いでバランスを取りながら全力で何十キロも走ったらそら疲れるよ。

「ああ、彼らは――」
「サブー!? バラー!?」
「――ああ、やはり貴方のお仲間でしたか」
「何でこんな所にお前たちが!? このクソ女がぁ! サブとバラに何をしやがった!?」
「言葉使いが悪いですよゲンスルーさん。ノルマ3倍です」
「この2人に何をなさったのですかリィーナ様!」
「別にそこまでの敬称を付けなくても。先生と付けるくらいでいいですよ」
「そのようなことはどうでも良いので早く説明をお願いいたしますリィーナ先生!!」
「落ち着きなさい。まずはアイシャさんへここまで遅くなった理由をご説明いたしますので。彼らについてはその後に説明いたしましょう」

 そうして興奮するゲンスルーさんを他所にリィーナは外の世界に行ってからの経緯を説明しだした。

 外へと脱出した後、リィーナは風間流にいる除念師へと連絡を取った。除念師にバッテラさんの恋人の説明をした後、除念師を伴いヨークシンに滞在していたバッテラさんの元へと訪ねたそうだ。
 アポイントは取ったそうだが、大層驚いていたようだ。こんなに早くグリードアイランドから戻ってくるとは思わなかったらしい。
 そうしてリィーナはバッテラさんに恋人が何らかの念能力の影響を受けている可能性を説明する。念能力の攻撃を受けていたとは考えもしなかったバッテラさん。念能力者を知っていても、彼は念能力者ではないということだ。
 念について詳しく知っていればその可能性も考えついただろうけど。

 とにかく、一度除念を試みようという流れになった。
 除念師と共に、リィーナは例の恋人が眠る病室へと連れられた。
 除念師は一目見て彼女が念に侵されていると察知したらしい。そういう能力も持っていたようだ。そうしてすぐに除念を受けた恋人だが……見事、除念は効果を及ぼし、すぐに目覚めたそうだ。
 バッテラさんはそれは歓喜したらしい。それも当然だろう。もう何年も眠り続けていた恋人が、ようやく目を覚ましたんだから。

 レオリオさんもこの話を聞いて嬉しそうにしている。自分が救えなかった人が救われたんだから、複雑だけどやっぱり嬉しいんだろう。
 本来ならこれで話は終わってすぐに戻って来ようと思っていたリィーナだったけど、そうはいかなかったらしい。

 何でもバッテラさんはまた恋人が眠りにつくんじゃないかと危惧したようだ。
 一度あったことが二度ないとは言い切れない。それにその恋人に念を仕掛けていた犯人も、自分の念が外されたことに気付くだろう。再び狙われる可能性は確かにある。
 なのでバッテラさんはリィーナに協力を求めたそうだ。二度と恋人が狙われないよう、狙われても大丈夫なように出来ないか、と。

 リィーナは自分の持ちうる力を最大限に利用してそれに応えたそうだ。バッテラさんの恋人に念を仕掛けていた者を、風間流の念能力者を動員して速攻で捕まえたらしい……。
 えー……どんだけ念能力者を動員したんだろう……。人探しの念能力を持っている者、仕掛けてきた念能力に反応して逆探知する能力を持つ者、他にも様々な能力者を使って犯人を見つけたそうだ。
 これはひどい。犯人もまさか風間流そのものが敵に回るなんて思ってもいなかっただろう。リィーナ、恐ろしい子……!

 そんなこんなで、犯人を捕まえたリィーナ。もちろんそれに対してバッテラさんは報酬を払った。莫大な報酬を、だ。
 それはバッテラさんの持つ全て。自分と恋人が慎ましく生きていけるお金と海岸にあるという小さな別荘以外の全てをリィーナが引き継いだらしい。
 正確にはロックベルト財閥が、だが。その引き継ぎの為の書類やその他諸々の面倒事を終わらせてくるのにかなりの時間が掛かったようだ。

「と、言うわけでございます。これほど遅くなりまして誠に申し訳ございません」
「いえいいんですよ。それよりも、バッテラさんも恋人も救えて本当に良かったです。少しやり過ぎな感もありますが、良くやりましたねリィーナ」
「ありがとうございますアイシャさん!」

 この子に尻尾があったらすごい勢いで振られているだろうな。それほどの喜びようだ。

「ちょっと待て、ください。ならもうクリア報酬は出ないのか? それは契約違反になるだろうですよ?」
「ご安心なさいゲンスルーさん。グリードアイランドのクリア報酬に関しては以前のままです。クリア報酬は事故で失った時間を取り戻す為の若返りの薬だけはバッテラさんが受け取り、それ以外の報酬は私の自由となりました。あと敬語が出鱈目ですよ」

 なるほど。本当にバッテラさんはお金なんかより恋人と、その恋人と一緒に過ごす時間の方が大切なんだな。
 いい話だ。人にはお金よりも大切なモノが出来るといういい例だよ。もちろん生きていく上でお金も大事だけどね。

「それでどうしてサブとバラがこうなったんですか!?」
「その話はこれからです。少し落ち着きなさい」

 そうして重要な書類や引き継ぎが終了したリィーナは、残りは息子に託してさっさとヨークシンの別荘まで戻ってきたそうだ。
  また面倒事を投げてきたなぁ。クリストファー君。強く生きろよ。

 だがログインしてからが問題だった。丁度同じタイミングでログインした者がいたのだ。それも2人も。それが今気絶しているこの2人、サブとバラらしい。
  彼らはリィーナを見て、「ゲンスルーという男を知らないか?」と聞いてきたそうだ。リィーナはそれで彼らがゲンスルーの仲間ではないかと思ったようだが、その場では彼らを無視してさっさとスタート地点から出て行ったそうだ。
 だが彼らはリィーナを追ってきた。質問を無視して行ったのだから当然だけど。そしてまた同じ質問をする。
 リィーナは彼らに対してこう言ったそうだ。「彼のことは忘れて真っ当に生きなさい」と。私は知っていますよと白状したも同然である。彼らはもちろんリィーナに攻撃を仕掛けてきたそうだ。仲間想いなんだろうな。
 そして結果は聞くまでもない。こうしてボロ雑巾のようになっている彼らが答えだ。

「サブ! バラ! 馬鹿野郎! どうしてオレのことをほっとかなかったんだ!?」
「う、うう……げ、ゲン!?」
「気づいたのかサブ!」
「お前……無事だったのか! 馬鹿野郎、心配させやがって!」
「バラ! 何言ってやがる、馬鹿はお前たちだ! オレからの連絡が途絶えたら計画は中止、グリードアイランドには入ってくるなと言っただろうが!」
「ふざけるな! ヤバイ橋を渡る時は3人一緒だろうが!」
「そうだ! オレ達はずっと3人でやって来たんだ! お前1人見捨てられると思ってるのか!?」

 ヤバイ。普通に仲間想いの3人組なんだけど。
 今この状況だけを切り取ったら悪いのは完全にリィーナと周りにいる私たちである。

「皆さん仲間想いで何よりです。それではクラピカさん。このお2人にも鎖の掟をお願いいたしますね」
「ふざけんなぁーっ!! この2人には手を出さない約束だろーがぁーっ!?」
「え? そのような約束はしておりませんが? 私がした約束は、お仲間について言及しないということだけです。手を出さないとも、鎖を仕掛けないとも言っておりませんが?」
「お前は悪魔かぁぁぁぁ!?」
「失礼ですね。一度は見逃したのですよ。感謝して頂きたいくらいですが。見逃されたというのに私に挑んで来たことが間違いだったのです。さ、クラピカさん。よろしくお願いいたしますよ」
「……何というか、本当にすまん。強く生きろよ。……いや、強くはなるな。強制的にだが」
「止めてくれクラピカーー!!」

 彼らの受ける仕打ちが自業自得であることに間違いはない、間違いはないのだが……。リィーナ以外の全員が彼らを同情の目で見ていたのは言うまでもなかった。
 頑張れ3人とも。その内改心したと判断されたら自由になれるさ。多分。







 リィーナが合流し、新たな修行仲間(?)が加わってから数日の時が流れた。
 サブさんとバラさんもゲンスルーさんに事情を説明されて仕方なく行動を共にしている。強制とも言うけど……。サブさんとバラさんもゲンスルーさんと同じようにリィーナに心折られていた。必要な処置らしい。
 何はともあれ、彼らも数日で諦めの境地に陥っている。愚痴を言いながらも抵抗の意思は少なくなっているようだ。
 ゲンスルーさんは仲間が同じ境遇になってしまったことを残念に思っているが、やっぱり大事な仲間と一緒にいるとどこか嬉しそうだった。

 そして今日でグリードアイランドに来て丁度1ヶ月が経った。つまり私の念能力が元に戻る日である。これでようやくカード集めをすることが出来る。つまりホルモンクッキーが手に入る日も近づいて来たということだ。
 楽しみだ。私がグリードアイランドに来たのは朝方だったから、もうすぐのはずだ。ワクワクしながら皆と一緒に朝食を摂っている。その時だ。

「……ん? お、おお!」

 おお、戻った! 念能力が戻ったぞ!
 ふはは! この漲るパワー! 馴染む、実に馴染むぞ!
 最高にハイってヤツだー!

「ふふふふ……あれ? 皆さんどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか!?」
「いきなりお前のオーラをぶつけられたら驚きもするわ!!」

 あ、【天使のヴェール】忘れてた。しばらくの間絶状態で過ごしてたのに、急に戻ったからうっかりしてたよ。私のオーラの質を知っているゴン達もいきなりのことだから吃驚したようだ。
 知らなかったカストロさんやミルキにゲンスルーさん達なんかは私からめっちゃ離れているんだけど。特に顕著なのがゲンスルーさん達3人組だな。見るからに怯えている。カストロさんとミルキは驚いて一足飛びに離れたけど、少しずつこっちに近づいて来ている。

「そ、そのオーラは一体……どういうことなんだアイシャ?」
「あー、私って昔からちょっとオーラの質が禍々しいんですよね」
「ちょっと? これがか?」

 そこはスルーしてよゲンスルーさん。
 ……なんか自分で審議したくなったなこの台詞。口に出さなくて良かった。

「このオーラ……でもこれなら家族も……おお、行けるんじゃないか?」

 ? ミルキはどうしたんだろう? 私のオーラを見て驚いていたけど、今は喜んでいる? 怖がられないのは嬉しいけど、どうして喜ぶんだろうか?

「とにかく一度オーラを隠しますね」

 【天使のヴェール】を発動してオーラを隠蔽する。これで誰も私のオーラを感じることも見ることも出来ない。

「オーラの質が変わった?」
「どういうことだおい?」
「アイシャ、説明してもらお――」
「――この件に関して聞くことも口外することも禁止いたします」
『マム! イエスマム!』

 実に飼い慣らされてしまったゲンスルー組である。あ、なんか涙が。

「さて、私もようやく元に戻れたので、今日から本格的にゲーム攻略に乗り出しましょうか」
『おー!』
「最初にすることはマサドラでスペルカードを買い集めることでしたねゲンスルーさん?」
「ああ。オレが“同行/アカンパニー”を持っているから、それを使ってマサドラへ移動する。あとはオレ達が持っているモンスターカードを全てトレードショップで売る。その時一度に売らずに50回に分けて売れば得意客になれて一石二鳥だな。
 その後スペルカードをある程度買ってから、何人かでチームを作ってそれぞれでカードを集めるのが効率的だろう。“交信/コンタクト”を使って連絡を取るのを怠るなよ。同じカードを何枚も取って無駄になることもあるからな
 後は貴重なカードが手に入ったらリィーナ先生に渡すように。念能力で“徴収/レヴィ”も防げるようだしな。……このゲームじゃ反則だなその能力」

 確かに。スペルカードをカード以外で防ぐなんて誰も想像しないだろうしな。
 後は何人かのチームに分かれてカード集めか。ゲンスルーさんが知っている限りのカードの入手方法は全員教わったから、70枚くらいは効率的に集まるだろうとのことだ。
 ……くくく、もちろんホルモンクッキーの入手方法も知ることが出来た。待っててね私のホルモンクッキー!

「では、チーム分けはマサドラへ行ってから考えましょうか」
「わ、私はアイシャさんと同じチームが!」
「後って言ってんでしょ。大体そのチームは倍率高いわよー」

 そうなの? 私は誰と組んでもいいんだけど? 誰と組んでも楽しそうだしね。ゲームは楽しむべきだよ。

「それじゃ飯も食ったし、マサドラへ行くぞ。全員オレの20m以内にいろよ。“同行/アカンパニー”使用! マサドラへ!!」

 その言葉とともに皆が光に包まれマサドラへと飛んでいった。
 私はオーラが減った。

 ……光が飛んで行った方向を見つめながら私はふと1人で呟いていた。

「ああ、あっちがマサドラかぁ。……走るか」

 どうやらチーム分けは私と私以外になったようだ。

 ……お、おのれ【ボス属性】ィィィィィ!!




サブバラも仲間?になったよ! やったねゲンちゃん! 寂しくないよ!







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