どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第五十一話

 検証するのを忘れてたけど、【ボス属性】ならスペルカードを打ち消す可能性は確かにあったよ。他のスペルも効かないのかな? 移動系以外も確かめた方がいいだろうな。

 はぁ。とにかく今はマサドラに向かって走るとするか。リィーナ達も心配しているだろう。

 

 じゃあちょっとオーラ全開で……ん? スペルカードの飛行音? 聞こえてきたその音を頼りに空を見上げると、誰かがこっちに向かって飛んできていた。ああ、顔を見るまでもない……リィーナだろうな。

 

「アイシャさん! ああ、やはり……スペルカードを無効化してしまったのですね!」

 

 やっぱりだよ。私がいないのに気づいてすぐに戻ってきたんだな。その内辿り着いたのに。“磁力/マグネティックフォース”で来たんだろうけど、スペルカードが勿体無いよ。

 

「ええ。どうやら私に移動系のスペルカードは効かないようです。他のスペルも無効化するかもしれませんが。それは後で確認しないといけませんね」

「お労しやアイシャさん……ですがご安心下さい! 私がアイシャさんをマサドラへとお連れいたします!」

「……? どうやってですか? 私に移動スペルは効かないと実証されましたよ?」

 

 本当にどうするつもりだろう。私を単純にマサドラまで走って案内するつもりか?

 でも方角は分かったから後は走ればいいだけだ。そして全力で走れば私の方がリィーナよりも早い。案内するのは時間の無駄なんだけど。

 

「はい。私がアイシャさんを抱きかかえてマサドラまでスペルで移動すればいいのです! そうすれば私と一緒にアイシャさんもマサドラへと移動しているはず!」

「おお……! 確かに上手く行くかもしれませんね……。試してみる価値はあるでしょう。お願いしますねリィーナ」

「はい! で、では。失礼いたします!」

 

 そう言って壊れ物を扱うように私をお姫様抱っこするリィーナ。

 心なしか、というか確実に嬉しそうである。いつものクールな表情は何処かへログアウトしたようだ。この顔を旦那が知れば泣くぞ?

 

「それでは。“再来/リターン”使用! マサドラへ!」

 

 そうして光に包まれたリィーナがマサドラへと飛んで行った。

 私はその場で尻餅を搗いた。

 

 体勢を直して着地することは出来た。でも何故かする気力がわかなかった……。

 ……オーラすら減っていない。どうやら【ボス属性】で無効化したわけではないようだ。つまりは1人用の移動スペルを使って、今みたいに複数人を移動させることは出来ないようになっているわけか。

 ふ、ふふふ。やってくれるな。本当に徹底してるよ。いいだろう。そこまでするならこっちも本気出してやる。

 

『他プレイヤーがあなたに対して“交信/コンタクト”を使いました』

 

 ん? 急にバインダーが現れて何か喋った。……なるほど。これが“交信/コンタクト”か。スペルによる電話みたいなものかな。

 

『アイシャさん! も、申し訳ございません! すぐにそちらに向かいたいのですが、移動系のスペルカードは丁度切れてしまい……。すぐ購入して迎えに行きますので!』

「いえ、構いません。どうやら移動系のスペルは私には本当に無意味のようです。これ以上スペルを無駄に費やすわけにはいきません。私はここから直接マサドラへ向かいます」

『アイシャさん……。分かりました。では、ここでお待ちしております』

「ええ、少しだけ待っててくださいね。それでは」

 

 “交信/コンタクト”が切れたのでバインダーを指輪に収納する。

 どうやら指輪を介する系統の効果は無効化しないようだな。“ブック”も使えたし、“交信/コンタクト”も受けることが出来た。これなら私から“交信/コンタクト”を使用することも出来そうだな。これは指輪そのものがスペルの効果を発揮していると思っても良さそうだな。

 

 つまり……バインダーは指輪が具現化した物。なので私の身体に関係がないから“ボス属性”では無効化しない。“交信/コンタクト”も指輪が受信するようになっている。バインダーから“交信/コンタクト”が使われた報せが聞こえたのがその証拠だろう。

 そして同じようにバインダーに入っているカードを盗んだり、バインダーの内容を調べたりするような、指輪に対して効果を発揮するスペルは私には無効化出来ないということだ。だけど移動系は私の身体を直接移動させているから【ボス属性】で無効化する、と。

 

 カードを奪うスペルは無効化しないのに、移動系は無効化する。とことんデメリットのみにしか効果を発揮していないな【ボス属性】よ。

 

 ……この怒り、全てオーラに回してやろう!

 全 力 全 開 だ!!

 

 

 

 

 

 

 あの場所から20分は走ったか。途中面倒事があったけど、ようやく大きな街が見えてきた。あれがマサドラだろうか。道中にあった小さな町があったけど、あれは魔法都市(マサドラ)という名前に相応しくなかったし、無視しても大丈夫だっただろう。

 

 お、街の入口付近に複数人の人影が。ゴン達だ! よし、ここで合ってたか!

 

「皆ー! お待たせしましたー!」

「はや! どんだけ早く……!? お、おいアイシャ! ふ、服はどうした!?」

 

 え? ああ、服か。そういえば上半身はインナーウェア、いわゆるスポーツブラだけしか着ていなかったな。少し前まで普通に服を着ていたのに、何十分かいなかっただけでいきなりそんな格好になっていれば驚きもするよね。

 

「お見苦しいものを見せて申し訳ありません。少々事情がありまして」

「皆さん! 早く目を瞑りなさい! アイシャさん! 早くこれを着てください!」

「ああ、すみませんねリィーナ」

 

 急いで私に着替えを渡してくれるリィーナ。この島では買った衣服もカードにして持ち運べるから便利だなぁ。

 

「くそっ!」

「く、少しくらい……!」

「……ちっ」

 

 どうしたミルキにレオリオさん。あとキルアも。何を残念そうに舌打ちしている? ……いやまあ分かるけどね。若い男だから仕方ないか。

 

「ちょっとサイズが合わないですねやっぱり」

「申し訳ございません。ですが、アイシャさんも替えの衣服を持っていたはずです。衣服がなかったことといい、どうなされたのですか?」

「ええまあ。ここへ来る途中物乞いに出会いまして」

「物乞い?」

 

 そう、あれはマサドラへ向けて走っている最中に山を突っ切っていた時のことだ。山の中で不穏な気配を感じた私は、まあいいやとそれを無視した。だがその気配は私の目の前に現れ、いきなり土下座をかましてきたのだ。

 話を聞けば病気の子どもの為に色々と物入りらしい。多分プレイヤーの懐事情を何らかの方法で把握しているのだろう。私が持っているカードと手持ちの衣服全てを要求してきたのだ。

 

 これも恐らくゲームのイベントの1つだと思い、私は全ての要求に応えた。ゲンスルーさんに聞いた情報にもなかったものだから、上手くすれば貴重なカードが手に入るかもしれない。そう思っていたんだけど……。

 

「何も手に入らなかったと」

「そういうことですビスケ」

「ちょっとその山まで向かいますので詳しい場所をお教え願いますかアイシャさん?」

 

 落ち着け。人殺しの目をしてるぞおい。

 

「まあ取られたのはモンスターカードと多少の食料、そして衣服くらいです。貴重なカードもなかったし、別に怒っていませんよ。強いて言うならここに来るのが遅くなったくらいですね。あ、でも……すいませんミルキ。あなたに貰った重りも与えてしまいました……せっかく作ってくれたのに、ごめんなさい」

「いいってそれくらい! アイシャが欲しいなら何時でも作ってやるからさ!」

「ありがとうございますミルキ!」

 

 良かった。あの重りはかなり使えるんだよね。全身鍛えるのに最適だよ。今度はもっと重くしてもらおうっと。

 でもあの物乞いさん達、モンスターカードとか重りまでどうして必要とするのか。滅茶苦茶な理由を付けて私の持ち物を全て取ってったよ。

 

「……ん? つまりお前は途中まで重りを付けて、その上物乞いのお願いを聞いてからここまで来るのに20分だったということか?」

「そうですけど? どうかしましたかゲンスルーさん」

「……なんでもねぇよ」

 

 ちょっと全力で動いたから驚いたのかな? でも重りって言ってもオーラが戻った私には軽いくらいの重さだったし。

 

「まあそれはいい。だが1つ聞きたいことがある。……アイシャ、お前は何らかの念能力でスペルカードの効果を無効化した、そうだな?」

 

 流石に気付くか。ゲンスルーさんの思考力はかなりのものだからな。

 まあいい。ここまで来たら教えないと今後の攻略に差し支えるかもしれないしね。

 

「ええそうです。私の念能力に、ある種の念を無効化する能力があります」

「……なるほどな。そしてそれは……自分の意思で無効化するかしないかを選ぶことが出来ない。違うか?」

「そこまで気付きますか。素晴らしいですね」

「けっ。リィーナ先生が迎えに行った時にスペルが無効化されたのを知れば誰でも気付く」

「言葉」

「気付きますはい」

 

 別に私にはいいのに言葉遣いくらい。もっとフレンドリーにしてくれた方が嬉しいくらいなのにな。

 

「リィーナ。私にはそういう言葉遣いは不要です。ゲンスルーさんへの命令を解除してあげてください」

「……分かりました。ゲンスルーさん、アイシャさんへの言葉遣いはいつも通りで構いませんよ」

「ふぅ。話を戻すぞ。これからのことだが、チームに分かれてカード入手に動くわけだが……。アイシャはこのマサドラ近辺にあるカードを探すようにした方がいいだろう」

「……え?」

「それは仕方ないな。スペルカードによる移動が出来ないのでは移動時間が掛かりすぎる。無駄を出来るだけ省く為にはアイシャは今いるマサドラを拠点として動いた方がいい」

「確かにそうだな。こればかりは仕方ないぜアイシャ」

 

 クラピカとミルキがゲンスルーさんの言葉を補足する。

 いや、でも、それだと……ほ、ホルモンクッキーが自力で取れなくなってしまうじゃないか! 事前に聞いたホルモンクッキーの入手場所はここから離れた街にあるみたいだ。つまりホルモンクッキーは私とは別のチームの人が取りに行くということ。

 それは困る! それだと私がホルモンクッキーを気軽に使えなくなってしまうじゃないか!

 

 本来なら私の分とクリア用の分、2つを手に入れるつもりだった。そして自分用を誰にも見られないようにこっそり使う予定だったのに!

 このままでは計画がおじゃんである。別チームが1つしか入手しなくても、それを“複製/クローン”で増やせば問題ないんだけど。それだとこっそりホルモンクッキーを使うのは難しい。他の人のバインダーに入っている物を使うとなると誰かに見られるのは当然の話だ。絶対、確実に、邪魔が入るに決まっている!

 クソッ! どうすればいい! 悔しいけど反論する余地がない! いくら私が全力で走っても移動スペルには敵わない! お、おのれ、おのれ【ボス属性】! お前本当にどこまで足引っ張る気だ!

 

「とにかく全員揃った所で一度トレードショップでカードを金と交換するぞ」

 

 ぐっ、仕方ない……今はゲンスルーさんの言う通りに行動するしかない。今は雌伏の時なのだ。機を待つしかない。

 

 既にゲンスルーさんは得意客になっているが、他にもなった方が良いということで何人かが得意客になる。

 1人のフリーポケットに入れることが出来るカードの枚数は45枚だから、フリーポケットカードを得意客になる1人に渡していく。そうして交換を繰り返し、結果ゴンとクラピカとリィーナとミルキとカストロさんが得意客になった。他にも何人か得意客になれたけど、増やしても意味がないので止めておいた。

 

 これで全員の持ついらないカードをお金へと交換出来た。フリーポケットはお金のカードで一杯だ。あとは出来るだけスペルカードと交換するだけだ。そうしてゲンスルーさんに案内されてスペルカード売り場へと向かう。

 

「ここがスペルカードショップだ」

「おお、早速買いに行こうぜ!」

「どんなのが手に入るか楽しみだね!」

 

 それは私も楽しみだ。スペルの名前と効果は教えてもらっているけど、それとこれとは話が別だ。買って何が手に入るか、開けてみるまで分からない所がいい。レアスペル手に入るかなぁ?

 

 

 

 皆でカードを購入した結果、計330枚のカードを手に入れた。

 1人あたり30枚のスペルカードを持つことになる。これ以上はフリーポケットを圧迫するから買いすぎない方がいいらしい。

 肝心のカードだが……。

 

 “盗視/スティール”11枚 “透視/フルラスコピー”8枚  “防壁/ディフェンシブウォール”2枚 “磁力/マグネティックフォース”7枚

 

 “掏摸/ピックポケット”13枚 “窃盗/シーフ”2枚 “交換/トレード”12枚 “再来/リターン”23枚

 

 “擬態/トランスフォーム”1枚 “複製/クローン”3枚 “左遷/レルゲイト”15枚 “初心/デパーチャー”13枚

 

 “離脱/リープ”1枚 “念視/サイトビジョン”4枚 “漂流/ドリフト”32枚 “衝突/コリュジョン”19枚

 

 “城門/キャッスルゲート”1枚 “贋作/フェイク”2枚 “堕落/コラプション”2枚 “妥協/コンプロマイズ”1枚

 

 “看破/ぺネトレイト”4枚 “暗幕/ブラックアウトカーテン”18枚 “追跡/トレース”8枚 “投石/ストーンスロー”13枚

 

 “凶弾/ショット”2枚 “道標/ガイドポスト”7枚 “解析/アナリシス”29枚 “宝籤/ロトリー”18枚

 

 “密着/アドヒージョン”2枚 “浄化/ピュリファイ”1枚 “神眼/ゴッドアイ”1枚 “再生/リサイクル”8枚

 

 “名簿/リスト”23枚 “同行/アカンパニー”7枚 “交信/コンタクト”17枚

 

 防御スペルが、すごく……少ないです。

 

「……どう考えてもハメ組のせいだな。防御スペルが極端に少ない。まあそれは分かっていたことだ。それよりも痛いのは攻撃スペルも少ないことだな。1番欲しかった“徴収/レヴィ”はおろか“強奪/ロブ”すら出ないとはな」

「攻撃スペルもあいつ等の計画には必要だからだろうな。特にその2つはな」

「これだけ買って出ないということはカード化枚数限度に達している可能性が高いな。それに“堅牢/プリズン”も入手出来なかったか。1枚でも出ていれば“擬態/トランスフォーム”で増やせていたかもしれないが……。まあ“擬態/トランスフォーム”と“神眼/ゴッドアイ”が1枚手に入っただけでも良しとするしかないな」

 

 まさかここまで防御スペルがないとはなぁ。使える防御スペルって数枚しかないし。ハメ組の作戦は順調に進んでいるということだろう。

 

「それじゃあこれをそれぞれが持つとするか」

「“神眼/ゴッドアイ”は使っておいた方がいいんじゃない? 盗られるかもしれないし」

「いや、貴重なSランクスペルだ。大天使の息吹の引換券を手に入れる為に取っておいた方がいい。リィーナ先生に持っていてもらえばスペルで奪うことも難しいだろう。他にも1枚しかないカードは使わないことだ。いつか引換券を手に入れなければならないからな」

「となると、本気で防御スペルは使えないな」

「攻撃スペルは“聖騎士の首飾り”で防ぐしかないか」

「それも“徴収/レヴィ”には無理なんだろ?」

「貴重なカードはリィーナ殿に持っていてもらうのが1番だろうな」

「いや待て。……アイシャの念能力は攻撃スペルも防げるのか?」

「……多分無理だと思いますよ。試してないので分かりませんが」

 

 私の考えが正しければ指輪に記録されているカードを奪う効果は私では無効化出来ないはずだ。

 

「試してみよう。これなら使っても問題ないだろう。“掏摸/ピックポケット”使用! アイシャを攻撃!」

 

 ゲンスルーさんの手のカードが光り、私へと飛んできた。光に当たったが私のオーラは減少することなく、ゲンスルーさんの手元に新しいカードが現出していた。

 

「……どうやら攻撃スペルは防げないようだな」

「ええまあ、分かっていましたよ……攻撃スペルはプレイヤーではなくプレイヤーの指輪に効果を及ぼしているのでしょう。私の念能力は私の身体に効果を及ぼす能力でない限り無効化出来ませんから」

 

 グリードアイランドでは完全に足を引っ張るしかない能力になっている……。いつか、いつかきっと敵の能力を無効化してくれるはず……そう信じてるぞ【ボス属性】!

 

「なら当初の予定通りリィーナ先生に貴重なカードを保管してもらった方がいいな。これから何チームかに分かれて動くが、入手に困難なカードが手に入ったら必ずリィーナ先生に渡すように。特にオレが教えた中にないカードが手に入ったらすぐに渡せ。

 チームにはそれぞれ“交信/コンタクト”と“磁力/マグネットフォース”を均等に分けておこう。ああそれと、マサドラに残るチームは定期的にスペルカードを買っておけよ。貴重なスペルが出るかもしれないからな」

「では、チーム分けですが私はアイシャさんと――」

「――あんたはダメよ。あんたにはゲンスルー達と一緒に行動してもらわなきゃ」

「な、何故ですか!?」

「何故も何も……あんたが1番適任でしょうが。彼らを教育してんのはリィーナで、リィーナに絶対服従のルールもある。リィーナが彼らを管理するのが責任ってもんでしょ。ああ、彼らと一緒にアイシャと行動したいなんて言わないでよね。分かってるでしょうけど、それって戦力過多ってもんだわよ」

「う、うう……! び、ビスケなんて嫌いです!」

「子どもかあんたは!」

 

 ビスケの正論に反論出来ないリィーナであった。

 となると、私は誰と組むのかな?

 

「1つ目のチームはリィーナ・ゲンスルー・サブ・バラの4人組ね。分かったわね」

『はい……』

 

 全員覇気がないな。リィーナは私と一緒になれなくて、ゲンスルーさん達はリィーナと一緒になったせいでだろう。

 

「それじゃ2つ目だけど……バランスを考えたら、私とカストロとクラピカがいいと思うのよね。残りのゴン達4人はこの2人に比べたらまだ未熟だし、そこにアイシャが加わったら丁度いいバランスになるんじゃないかしら? アイシャと一緒にならカード探ししながら修行も出来るしね」

「この尼ぶっ殺しますよ。どう考えても貴方に都合のいい人選ではありませんか!」

「いや、理にかなっているな。オレは賛成だぜ」

「全くだ。異議なし」

「オレも文句はないぜ。これでいいじゃん」

「えっと、いいんじゃないかな?」

「私に異論はないな」

「私はリィーナ殿の指示に従うが……」

「リィーナ~。多数決って知ってるかしら~」

「殺したい、この笑顔」

 

 カストロさん以外がビスケの意見に賛同している。ここでゲンスルーさん達を多数決に使っても6対5だ。リィーナの負けは確定だ。

 

「あ、アイシャさん……!」

 

 ん? 私? そんな期待込めた目で見られてもなぁ。私も別に文句はない。文句があるのはマサドラ周辺のカードしか入手に行けないことだ。獅子は我が子を千尋の谷に落とすという。リィーナ、これも修行だと思え。

 

「特に問題はないと思いますが?」

「ああ……! 何故ここまで来てアイシャさんと離れ離れにならなければ……! ……こうなったら神速でカードを集めます! ゲンスルーさん! 案内なさい!」

「マム! イエスマム!

 と、その前にだ。リィーナ先生組とビスケ組は一度オレと一緒に“同行/アカンパニー”で移動してもらうぞ。それぞれ拠点とする重要都市に移動した方が移動時間も短縮するからな。あとは渡しておいた情報を元にカード集めをしてくれ」

「それでは皆さんまた会いましょう。あ、カード集め中も修行はしてくださいね。リィーナ、ビスケ、よろしくお願いしますよ」

「お任せ下さい」

「もちろんよ」

 

 

 

 そうしてリィーナ組とビスケ組は別の都市へと移動していった。後に残ったのは私とゴン、キルア、レオリオさん、ミルキの5人である。

 

「それじゃあ私たちもカード集めと行きましょうか」

『おー!』

「どれから行く?」

「1番近い奴からでいいだろ」

「そうだな。マサドラで手に入るのは――」

「――いや待て。その前にちょっとアイシャに聞きたいことがある」

 

 ん? 私に聞きたいこと? 何だろうか。

 

「何ですかミルキ?」

「ああ、お前がここに来る途中で会ったという物乞いのことだ。どう考えてもゲームのシナリオの1つなのに、何もカードが貰えなかったのが気になっていたんだ」

「何かのフラグを建てられなかったんじゃないの?」

「いや、逆にこれがフラグなんじゃないかとオレは思っている」

 

 私がアイテムを恵んだのが1つ目のフラグということか。ならこの後に何かをすればシナリオクリアとなるのかな?

 

「これがフラグだとしてもよ。この後どうすりゃいいんだよ?」

「ああ、アイシャの話を聞いた後、“聖騎士の首飾り”の効果を確認して思ったんだ。“聖騎士の首飾り”は他プレイヤーの攻撃スペルを反射するだけじゃない。触れたカードの呪いも解けるんだよ」

「……? ……ああ! そういうことか!」

「分かったかキル」

 

 どういうことだろう? 呪いを解くことと追い剥ぎさん達に何の関係が……? カードの呪いを解く……。呪い、カード。……ああ、もしかして。

 

「あの追い剥ぎ達も呪われている可能性があるということですか」

「そういうことだ」

「え? でもその人たちってカードじゃないんでしょ?」

「忘れたのかゴン。このゲームじゃ大抵がカード化出来るんだろ。ゲンスルーも言っていたが、それこそNPC(ノンプレイヤーキャラクター)なら人間でもな」

「なるほど! その追い剥ぎ達をカード化してから“聖騎士の首飾り”で呪いを解いたら!」

「いや待てよ。追い剥ぎは病気なんだろ? 呪いとは違うんじゃないのか?」

「だけど試してみる価値はありますね」

 

 無駄だったら仕方ないと思うしかない。でも上手く行けば何かのカードが手に入るかもしれない。流石はミルキだ。こんなことを簡単に思いつくなんて。ゲーマーだけのことはあるな!

 

「アイシャでも“聖騎士の首飾り”を使うことは出来るだろう。これはアイシャの身体に直接効果を及ぼすアイテムじゃないからな」

「ええ。プレイヤーが持ったカードに反応するのだったら、そのはずです」

「じゃあ一度アイシャにはその追い剥ぎの所へ行ってもらうか。オレ達はその間に街中で手に入るカードを入手してるよ」

「分かりました。それでは一走りしてきますね」

「いってらっしゃーい!」

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

「ああ。つか、滅茶苦茶はえーな。もう見えないぞ」

「アイシャに驚くのは今さらだろ」

「だね。このままじゃオレ達が何かをする前にアイシャが帰ってきちゃうよ。マサドラで手に入るっていうアイテムを取りに行こうよ」

 

 確かにな。あのスピードじゃアイシャが帰ってくるのも時間の問題だ。その前にやることをやっておかなきゃな。

 

「……」

 

 レオリオの無言の視線に僅かに首肯する。

 焦るな。確かに今は迅速を尊ぶが、焦ればゴンはともかくキルに気付かれる。そうなったらどうなるか分かっているだろう。

 

「じゃあここからさらに二手に分かれるぞ。このマサドラでは2種類の指定ポケットカードが手に入るようだしな。オレとレオリオ、キルとゴンに分かれてそれぞれ調べようぜ」

「……ふーん。まあ、それでいいぜ」

 

 まずい、気付かれたか? ……いや、大丈夫だ。何か感づいた様子もなくゴンと談笑してやがる。

 

「じゃあオレ達は行くからよ。さぼんじゃねーぞ」

「さぼらねーよ。お前こそ、アイシャが帰ってくるまでにアイテムを見つけられるのかよ」

 

 挑発はわざとだ。こう言えばキルはムキになってカード探しに夢中になるだろう。

 

「あ? お前よりも早く見つけてやるよ」

「いいぜ。競争と行こうじゃないか」

「もうー、また2人とも喧嘩してー」

 

 喧嘩腰なのはキルだけだよ。オレのはフリってヤツだ。いつまで経ってもお子様だな。別に競争で負けてもどうでもいい。キルが調子に乗るだろうが、それよりもオレ達には重要なことがあるんだ。

 

「それじゃ行くぜ」

「ま、頑張れよキル」

 

 精々カード探しに熱中しててくれ。

 

 

 

「……ゴン達はいないな?」

「ああ。気配もねーぜ」

 

 良し。上手くいったか。だが念の為に人影の少ない所へ行こう。

 

「こっちだレオリオ」

「ああ! くぅー、早く見せてくれよ! バッチリ撮れてんだろうな!?」

「任せろ。オレの技術は知ってるだろ?」

 

 そう、オレの技術はゾルディックでも随一だ。機械類に関してオレの右に出るものはそうはいないぜ。

 

 オレは右耳に付けているピアスを慎重に取り外す。さらにそのピアスから小さな小さなマイクロチップを取り出す。

 

「相変わらずすげぇな。こんなちっちゃなピアスで写真が撮れるなんてよ」

「まあな。機械を作るのは得意なんだぜ」

 

 メスの蚊に取り付けられる程の小型の爆弾だって作れるんだ。ピアス大のカメラだって楽勝さ。

 

「しかしよ、どうやって撮影してんだ? これじゃシャッターを押すことも出来ないだろ?」

「そこがオレの凄いところだ。このピアス型のカメラは耳に一定の力を加えることで稼働するんだ。だから手を触れる必要もない。もちろんシャッター音もならないからバレることもまずないわけだ」

 

 これを使うには耳のみを動かせるようにならなければならない。

 その上で動かしたと分からないように絶妙な力を込め、その力で稼働するようにピアス型カメラを作る。まさに完璧な技術だ。

 

「おお……! すげぇな。無駄に洗練された無駄のない無駄な技術と技能のオンパレードだな」

「ふ、そう褒めるなよ」

 

 あとはこのマイクロチップを同じくオレ特製の携帯印刷機にセットしてと。

 

「ま、まだか!」

「お、落ち着け……! もう少しだ!」

 

 高画質に拘っているため、この大きさの印刷機だと現像に少し時間が掛かる……!

 ジジジ、という音とともにゆっくりと輝かんばかりの写真が現像されていく。

 待ち遠しい……! 一瞬一瞬が無限に思えてくる時間の中、ようやく写真がプリントアウトされた!

 

「お、おおお……おおおおおおお!!」

「あ、あああ……あああああああ!!」

 

 オレ達は自分でも何を言っているか分からない程歓喜していた。

 ここに写っているのはまさに……女神だ!!

 

「ぐふぅおぉおぉ! こ、ここまで鮮明に写ってんのかよ!」

「ふ、ふふふ! 当然だろ! オレが作った機械だぞ!」

 

 そう! この写真に写っているのはアイシャ! それもただのアイシャの写真じゃない! あの時、あられもない姿でマサドラまで走って来た時の、つまりは下着写真だ!!

 ま、まさかこんな写真を撮る機会が来ようとは……! これまでにもアイシャの写真は撮ってきた。レオリオとそれを2人でこっそり共有し合っていたが、これほどのお宝に巡り会えるとは思っても見なかったぜ!

 う、うう、感無量だ。今死んでもオレは後悔しない。

 

「ミルキ、あなたが神か」

「よせよ。オレはただの恋する1人の男さ」

「いや、お前のことは漢と呼ばせてくれ。いや呼ばせてください」

「オレとお前の仲だろう? 敬語はやめてくれよ」

「ミルキ!」

「レオリオ!」

 

 2人でがっしりと握手をする。何というか、こいつとは妙に気が合う。これが友人って奴なんだろうな。今ならキルアの気持ちも理解出来るかもしれない。

 オレ達ゾルディックでもダチを作ってもいいんだ!

 

「さあ、もっと現像しようぜ!」

「ああ、これを2人の友情の証としよう!」

「へえ、そいつは良かった。オレもその友情を祝福してやるぜ」

『え?』

 

 声? キル? しまっ! 電撃! 避け……! 無理! データ! 間に合わ!?

 

「【雷掌/イズツシ】!!」

『ギャアアアアアアァァァァ!?』

 

 あががががが! お、おれの、オレのお宝、お宝データがぁぁあぁあぁぁっ!

 

「やっぱりロクでもないことしてやがったか」

「うわぁ。この写真、さっきのアイシャのだね」

「どうやって撮ったんだか。これはオレが責任持って預かっとくぜ」

 

 ふ、ふざけるな! テメェそう言って1人占めする気だろうが!

 

「よ、よくもオレのマイクロチップを! お宝データを! 女神の肖像を! ぶ、ぶっ殺すぞコラァ!!」

 

「げ、スタンガン3本分の電撃なのにもう起きやがった。さすがは腐ってもオレの兄貴。電気への耐性はあったか」

「……ミルキだけじゃねーぜキルアぁ」

「嘘だろ!? なんでレオリオまでもう回復してんだよ!」

「オレも成長してんだよ。これがオレの新能力、【仙光気/リホイミ】だ!」

 

 おお、レオリオ、オレとの特訓が生きたな。

 薄い【掌仙術/ホイミ】を全身に纏うことで常時回復を促す能力。回復能力と来たらゲーム。そしてゲームを思い起こせばこれくらい思いついたぜ。

 欠点は自身にしか使えないことと、瞬間回復量は【掌仙術/ホイミ】に劣ることか。だが常に回復し続けるのはかなり強いだろう。電撃による麻痺も回復したのは僥倖だぜ。

 

「ここじゃ周囲を巻き込む。街の外に行こうぜ……久しぶりにキレちまったよ」

「上等だよ。ゴン、やるぞ!」

「どうしてこうなったの?」

 

 それはこのクソガキが男の夢を壊したからさ。

 夢を壊した奴に手加減も気兼ねもする必要はない。全力で殺るぞレオリオ!

 

 

 

 

 

 

 オレ達は周囲を巻き込まないようマサドラの外に出てから相対した。

 これからこのクソガキに大いなる制裁を加えなければならない。

 思えば長いことこいつには苦労させられた。ゾルディックの長い歴史を見ても飛び抜けた才能を持っている癖に暗殺者としてはムラがありすぎる。何度となくそれに苛立たせられたか。そればかりじゃない。こいつが家を飛び出した時にオレの腹にナイフを突き刺したのも忘れちゃいない。こいつはそのことを少しも反省してないだろう。

 オレが強くなったのはアイシャに見合う男になりたいが為だったが、こいつに兄貴としての威厳を教え込む為でもあったのかもしれない。

 

「〝待〟ってたぜェ! この〝瞬間〟をよォ!」

「あんま〝調子〟ノンなよミルキよォ。〝ひき肉〟にしちまうゾ?」

「〝オレ〟がインのも忘れんなよォ? この〝レオリオ〟を〝ナメ〟るんじゃねーゾ……〝キルア〟ァ!」

「何だろう? オレだけ世界が違う気がする」

 

 おいおい。躊躇ってたら〝不運〟と〝踊〟っちまうぜゴン?

 

「オラァッ!」

「シィッ!」

 

 どちらが先に動いたのか? 多分同時に動いたんだろう。

 オレとキルはオーラを漲らせながら初手から全力で攻撃を繰り出していた。

 

 互いに隙を作り出す為に幾多ものフェイントを交えながら攻防する。

 やはり純粋な体術と身体能力においてオレはキルに劣る。ずっとまともに動いていなかったんだ、それも仕方ない。だがオーラに関してはオレに1日の長がある。オレはこいつよりも幼い時に念に目覚めさせられたからだ。

 キルは本当にオヤジ達に期待されていた。だから念についてはずっと秘密にさせられていた。早期から念について知ってしまえば、それに頼って身体能力を疎かにするかもしれないからだ。オレみたいにな。

 発にしても子どもの純粋な発想も確かにいいが、考えなしで作ってしまうこともある。オヤジ達はキルに最高の暗殺者になって欲しいがために慎重に育てていたんだ。

 

 だが、それがここに至ってはオレの有利に働いた。あと数年、いやこいつの成長速度からしたら1年も掛からずにオレを上回るかもしれないが、今この瞬間はオーラに関してはオレが上だ。

 潜在オーラ、顕在オーラ、オーラ技術、その全てにおいてキルはオレに劣っている。念能力者の戦いにおいてそれは致命的だ。しかもこいつの能力である電撃はオレには効果が薄い。一応は同じ地獄を潜って来てるんだからな。電気への耐性なんて生まれた時から鍛えられてたさ。

 勝てる! オレは生まれて初めてマトモにキルに勝てる!

 

「死にさらせェ!」

「テメェがだダボがァ!」

「ゴン、オレらも〝ケリ〟ぃ付けようゼ?」

「いや、止めようよ。絶対何かおかしいよ」

 

 既にオレ達に後退の二文字はねぇんだヨっ!

 

「ぐっ? こ、これは!?」

「くく! 掛かったな〝馬鹿〟がよォ? オレの〝能力〟忘れたのかヨ?」

 

 そう、オレの能力は重量操作! それは何もお前たちにやった重りだけに限ったわけじゃねーんだぜ? オレが触れた物体はそれが何であろうと、そう、生物だろうとその重量を増すのさ! オレと戦う時はオレに触れられないようにしなきゃどんどん重くなっちまうぜ?

 

「重く出来んのはお前だけじゃねーんだゼ!」

「ぐっはぁっ!?」

 

 オレはオレ自身も重くすることが出来る!

 攻撃のインパクトの瞬間に拳や足、靴などの重量を増せば、その破壊力は絶大なものになる!

 

「ちぃ! 〝ナメ〟てんじゃねーぞミルキぃ!」

「おっと」

「〝何〟ぃ!?」

 

 キルアの反撃を軽く避ける。その時の動きが予想外だったんだろうな。驚愕で顔が染まってんぜ?

 

「何度も言わせんなヨ? オレの〝能力〟忘れたのかってなァ!」

 

 重量〝操作〟だ! 重くすることも、軽くして動きを早くすることも出来んだよ!

 

「貰ったぜキルアぁ! あの世で〝反省会〟でもするんだなァ!」

 

 キルアは反撃が避けられたことで体勢が戻っていない! そんな状態でオレの攻撃を防ぐことは出来ない! 勝った! オレの勝ちだキルアぁぁぁぁ!

 

「あぐぁ!?」

 

 !? ど、どういうことだ!? なんで攻撃したオレの方がダメージを受けている!? 確実に当たっていたタイミングだった! あれで避けるどころか、反撃をするなんて出来るわけがない!

 し、しかも僅かだが身体が痺れてやがる! 電撃を喰らったのか!?

 

「どうした? オレの〝能力〟を忘れたのかヨ?」

 

 なん……だと?

 こ、こいつ! キルの髪が総毛立っている!? 全身に電気を帯びてんのか!?

 だが、どうしてそれであんな神速の反撃が……!?

 

「ま、まさか!?」

「その〝まさか〟だよクソ兄貴ぃ!」

 

 こいつ! 電気信号で直接神経を刺激してんのか! それで文字通り雷速の反応をしたのかよ! な、なんて能力作りやがる! キルの電気が切れるまでコッチの攻撃は全部反撃される! 無敵に等しいぞ!?

 

「すげーなおい……」

「あ、レオリオ元に戻ったんだ。良かった~」

「ああ。隣でこんな高レベルの戦闘されたらな。正気にも戻るわ」

 

「これなら避けきれないだろうが! くたばれやミルキぃ!!」

「ぐああああぁぁ!」

 

 全身をキルアの攻撃が襲う! クソッ! 反応することすら出来ねぇ!

 く、くくく、だが、避けることは出来なくても、耐えることは出来るぜ!?

 

「な、なに! 何で攻撃が効かない!」

「随分と攻撃が〝軽〟いなキルアよォ?」

「!? まさか!」

「軽くなって動きやすくなっただろ? 感謝しろよォ!?」

 

 そう! オレはキルアの重量を今までとは逆に軽くしたのさ! 一度オレが重量を操作した物体は重くするのも軽くするのもオレの意思次第! より重く、もしくは軽くするにはオーラを籠める必要があるが、初手の攻防で十分にオーラは籠めてある。

 

「どうせ避けらんねぇならよォ……〝重〟くする意味もねぇだろォ?」

「〝クソ〟がァ!」

 

 あとはキルアの電気の充電が切れるのを耐えるだけだ! 急所は常にガードしていればいずれは……!

 

「〝上等〟ォ! 電気切れる前にお前の〝電源〟切ってやんよォ!」

「〝ヤ〟ってみろやァ!」

「ミルキィィィィィィィィ!!」

「キルアァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 身体が熱いぜ。キルとこんなに殴りあったのは、本当に初めてだな。もう、お互い指1本動かす体力も残っていない。2人とも地べたに転がって息を荒げている。

 

「ぜぇ、ぜぇ……や、やるじゃん兄貴……」

「ひゅー、ひゅー、お、おまえ、こそ、な……」

 

 オヤジやジイチャンに地獄の修行を付けてもらって自信がついたけど、やっぱりキルは凄い。才能だけじゃない。どれだけ努力していたかはグリードアイランドに来て良く分かっている。アイシャと一緒ってのが羨ましいけどな! オレはマッチョとジジィで、お前は美女美少女女神に囲まれてるってどういうことだよ?

 ……いや、女神以外はちょっとアレな女達だが。

 

「いや……正直本当に見直したぜ……あのブタくんがここまで強くなるなんてな」

「キル……」

 

 まさかこいつからオレを認めるような発言があろうとはな。

 思ってもみなかったぜ。何だろう。身体はボロボロなのに、こみ上げてくる何かで無性に身体を動かしたくなる。

 

「……さっきは悪かったな。つい衝動的にやっちまった」

「いや、オレが盗撮なんてしたのが間違いだったんだ。お前がしたことは正しいことだよ」

 

 素直にキルの謝罪を受け止められる。いい気分だ。蟠りが溶けていくようだ……。

 

「ほら、写真は返すぜ。……あとよ、この写真上手く使えば……」

「ああ。オレの技術なら複製は楽勝だぜ?」

「おお! じゃあ、その……」

「ふ、皆まで言うな」

 

 こいつも男ってことだ。ガキだガキだと思っていたが……ふ、成長しやがって。

 

「あ、兄貴!」

「キル!」

 

 今、オレ達は本当の兄弟になれた!

 

「あの……何してるんですか2人とも?」

「アイシャ、この写真ミルキが盗撮してたんだぜー」

「キルアァァァァァァァァァ!?」

 

 裏切るのも雷速かこのクソガキィ! こいつやっぱりぶっ殺す!

 ていうかもう帰ってきたのか女神! もといアイシャ!

 

「え? この写真……?」

 

 見られた。終わった。さよならオレの初恋……。もはやこの世に生きる価値なし。死んで償おう。あ、キルを殺してからな。

 

「もう、ダメですよミルキ。こんなの勝手に撮って」

「……え? そ、それだけ?」

「それだけって? ええ、別に写真撮られたくらいでそんなに怒りませんよ? でも、勝手に撮るのはダメですよ。言ってくれれば写真の1つや2つくらい」

 

 ――慣れてますし――

 

 慣れてんの? こんな姿のだよ?

 え? 撮っていいの?

 

「あ、でも……流石にこの写真はダメですよ……。やっぱりちょっと恥ずかしいです……」

『ぐはっ!』

 

 アイシャが恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いた姿にオレとキルとレオリオが吐血した。

 

「なんで血を吐くの!?」

 

 お、男だからさ……。

 

 

 

 

 

 

 全く。写真を撮るなら言ってくれれば別に怒らなかったのに。何時の間に撮ったんだろう? 視線は感じていたけど、写真を撮られているとは思ってもいなかったよ。

 ピアス型のカメラだなんて凄い技術だな。どうやったらそんなの作れるんだ? キルアが電撃で壊したらしいけど。勿体無いなぁ。

 でも、写真として見るとなんだか恥ずかしかったな。あの時はあんな格好でも恥ずかしいと思わなかったのに……なんでだろう?

 

「ねぇアイシャ、物乞いの病気は“聖騎士の首飾り”で上手くいった?」

「ああ、そうそうそれですよ。上手くいきましたよ! これを見てください! “ブック”」

 

 バインダーを開き、ゴンに手に入れたカードを見せる。

 開かれたページは指定ポケットのページ、つまり指定ポケットカードを手に入れることが出来たんだ! ふふふ、何か楽しいなこういうの。全部のアイテムをコンプリートしたくなってくる。

 

「おぉー! 指定ポケットだ! ミルキさんの考えが当たってたんだね!」

「ええ。これはゲンスルーさんの情報にもなかったアイテムです。凄いですよミルキ!」

「それほどでもないぜ」

 

 またまた謙遜しちゃって~。しかし、情報にない指定ポケットカードを早々に入手出来るなんて、これは幸先がいいな。意外と本当にクリアも出来るかもしれない。

 

「じゃあ早くこれをリィーナさんに渡しとこうぜ。オレ達が持ってたら奪われるかもしれないしな。ゲンスルーが知らなかったってことはハメ組も未入手のアイテムの可能性高いし」

「そうだな。それじゃオレが持ってくぜ。アイシャじゃ移動系のスペルは使えないしな」

「お願いしますねレオリオさん」

 

 レオリオさんに入手したアイテム、“奇運アレキサンドライト”を渡す。

 私も移動系スペル使いたいなぁ。一瞬で移動するってどんな気持ちなんだろう?

 

「任せとけ。それじゃやってみるか。え~と、こうだったか? “磁力/マグネティックフォース”使用! リィーナ!」

 

 レオリオさんが光に包まれて一瞬で移動する。

 いいなぁ。もう私も飛んで移動しようかなぁ。

 

「それじゃレオリオが帰って来たらオレ達もカード集めとしようぜ」

「ああ、さっさと集めないと他のチームにどやされちまう」

「皆がおかしなノリにならなきゃ1枚くらい集められたかもしれないのにね」

「そ、それを言うなゴン……」

「オレ達が悪かったよ……」

 

 ゴンがジト目でキルア達を見つめている。こんなゴンは珍しい……本当に何をしてたんだろうか? キルアもミルキもボロボロだし。私の写真を取り合ってたのか? そんなのビスケに頼めば一杯手に入るのに……。

 あ、そんなこと知らないか。

 

「あの、私の写真が欲しかったのならビスケにお願いしたらくれるかもしれ――」

「――その話詳しく」

「え、ええ。少し前にビスケにたくさん写真を撮られていたので、かなりの量の写真を持っているはずですよ」

 

 く、食いつき早いなミルキ。

 でも、言っててなんだがアレも見られるのは少し恥ずかしいな。いつもの格好じゃなくて女性物の、それもかなり可愛いかったり際どかったりも……。

 ……ビスケ、あの写真リィーナに売ったりなんかしてないだろうな?

 

「次にレアカード手に入ったらオレがリィーナさんの所に持っていくよ」

「お前その帰りにビスケん所に寄ってくつもりだろ? ざけんなオレが行く」

「……次にリィーナさんの所に行くのはオレにするね」

 

 そうした方がいい気がする。

 でも何だろう。心なしかキルアとミルキの仲が前より良くなっている気がする。兄弟仲が良くなるのは良いことだけど……本当に何があったんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 本格的にゲーム攻略に取り組んでから1ヶ月近くが経った。

 大分カードも集まってきたな。リィーナがまとめて管理している指定ポケットカードの数は70枚を超えているはずだ。その中にはあのホルモンクッキーもあるはず……!

 欲しい。でもリィーナは遠く離れた場所にいる。私は移動系スペルを使えないから気軽に会いに行くことは出来ないのだ。

 だから一計を案じた。私が行けないならリィーナに来てもらえばいいじゃない。

 

 

 

「こうして皆が揃うのは久しぶりですね」

 

 マサドラだよ! 全員集合!

 ふふふ。カード集めもかなり進んできたので、一度一区切り付けて全員で集まって話し合いを兼ねた休憩をしようと皆に声を掛けたのだ。

 作戦の第1段階は成功だ。あとは上手く“ホルモンクッキー”を手に入れることが出来れば……!

 

「はいアイシャさん! お元気そうで何よりです!」

 

 お前もいつも通りで何よりだよ。たまにはブレていいのよ?

 

「なんかゲンスルーさん達やつれてない?」

「……おお、ゴンか。生きて会えて嬉しいぜ……?」

「ねえこいつ誰? オレの知ってるゲンスルーじゃない気がする」

 

 キルアの言うことももっともだ。精根尽き果てているなゲンスルーさん。完全に人が変わっているというか。隣にいるサブさんとバラさんも目が虚ろだ。何がどうしてこうなった?

 

「いえ、ちょっとカード集めの最中も修行の手を緩めなかっただけなのですが……」

「鬼か?」

「鬼ね」

「鬼だな」

「いや鬼が可哀想だろ?」

「うむ。これはひどい」

 

 そらカード集めに奔放してるのに修行のノルマが減ってないんじゃこうもなるわな。

 

「……3人とも、この機会にゆっくり休んで下さいね」

「そうですね。3人ともかなり尽力して頂きました。今回の貴方達の貢献は確かなものです。なので今回はゆっくりと休むことを許可しましょう」

『ありがとうございますリィーナ先生!』

 

 あ、多少生気が戻った。目が輝いているよ。この1ヶ月、まともな休みもなかったんだろうなぁ。哀れな……。

 

「そう言えば、貴方達はお金欲しさにグリードアイランドで暗躍していたのでしたね」

『申し訳ございませんリィーナ先生!』

 

 ゲンスルーさん達の一糸乱れぬお辞儀である。どれほどの教育を受けたのか良く分かるよ……。

 

「いえ、責めているわけではありませんよ。もちろん反省はしてもらいますが。そうではなく。このまま上手くグリードアイランドをクリアすることが出来れば、貴方達の貢献に免じて十分な報酬を渡すことを約束致しましょう」

『お前偽物だろう?』

 

 間髪いれず、一糸乱れぬ疑問の声であった。

 

「休憩はなしですね」

『申し訳ございませんリィーナ先生!』

「死に急ぐか、馬鹿な奴らだ……」

「うむ、リィーナ殿の温情を蹴るとはな……」

「いや、オレがあいつ等と同じ立場だったら確実に疑うね」

「オレもだ。こいつ誰ってなっても仕方ない台詞だった」

 

 リィーナの評価が正当すぎて涙が出そうである。

 

「はいはいそろそろコントは御終いにしときなさい。これじゃ話が進まないわさ」

「そうですね。色々と話をしたいこともありますから、一度他のプレイヤーの邪魔が入らない場所まで移動しましょう」

 

 

 

 そうして皆でマサドラから離れてモンスター跋扈する岩石地帯へと移動する。

 ここら辺のモンスターくらいならこの中の誰が相手でも負けることはない。それに他のプレイヤーが来るほど重要な場所でもない。秘密の会話をするなら十分な場所だ。

 

「では司会進行はゲンスルーさんにお任せします」

『異議なし』

 

 このゲームに1番詳しいのはゲンスルーさんだ。現状の詳しい説明をするのに相応しいだろう。

 

「まず、現在集まった指定ポケットカードから説明しよう。今リィーナ先生が保管している指定ポケットカードは全部で72種だ。これは1ヶ月という期間では非常に速く集ったと言えよう」

『おおー!』

 

 72種か。つまりあと28種でコンプリート! だが後に残ったカード程入手が困難になってくるだろう。簡単にはクリアとは行かないだろうな。

 

「喜ばしいことはまだある。1種のカードはオレ達で自力入手し独占することが出来た。これで他のプレイヤーがクリアするのは難しくなっただろう」

 

 それは嬉しい報せだな。独占出来たカードは私たちから奪わない限り他のプレイヤーが入手することは出来ない。

 

「だが悪い報せもある。幾つかのカードは入手出来てもカード化することが出来なかった。既に他のプレイヤー達によってカード化限度枚数に達しているようだな」

 

 私たちがしていることは他のプレイヤーがしていても当然か。これはそのカードをスペルで奪うか壊すかしないと入手することは出来ないな。

 

「それともう1つ。ハメ組がリィーナ先生に目を付けだした。指定ポケットカード所持数が70枚を超えた辺りでハメ組と思わしき連中が何人か通り過ぎたことがある。オレ達を意識しまいとしていたが、逆にそれで意識が漏れていたな。取り敢えず放っておいたが、あれは確実にリィーナ先生をバインダーに登録する為に近くを通り過ぎたのだろうな。恐らくその内にリィーナ先生に対してスペルによる攻撃をしてくるだろう」

 

 リィーナが全ての指定ポケットカードを所持しているせいでランキングにもその名が載っている。ハメ組がそれを見ればリィーナに注目が行くのも当然だろう。あとは“念視/サイトビジョン”を使えばリィーナが持っているカードは丸分かりだ。欲しいカードがあれば奪いに来るだろうな。

 それにリィーナにはゲンスルーさんが一緒にいたんだ。ハメ組としてはかつての仲間が別のプレイヤーと一緒に急速にカードを集めているとなったら気にもなるだろう。

 

「アイシャ達マサドラ組がスペルカードを集めていたおかげで幾つかのレアスペルカードが手に入ってのはいいが、やはり“堅牢/プリズン”だけは手に入らない。あれからスペルカードの入手状況はどうだアイシャ?」

「駄目ですね。“強奪/ロブ”や“徴収/レヴィ”は何枚か手に入りましたが、やっぱり“堅牢/プリズン”だけは出てきません。ハメ組や他のプレイヤーにより限度枚数に達していると見た方がいいかと……」

 

 私たちマサドラ組はゲンスルーさんの言う通り、こつこつとモンスターをカード化して売ったり、ダブって不要になった指定ポケットカードを売ったりしてスペルカードを買っていたのだ。

 おかげで“堅牢/プリズン”以外のスペルカードは集まったし、貴重な“徴収/レヴィ”も数枚はある。“擬態/トランスフォーム”も結構持っている。でもこれは“擬態/トランスフォーム”を使ってハメ組が“堅牢/プリズン”を増やして独占かそれに近い状況にしているからだろうな。

 

「そうか。やはり“大天使の息吹”を手に入れる為の引き換え券すら入手することは難しいな。しかも引き換え券を手に入れられたとしても、恐らく“大天使の息吹”も奴らが独占しているから入手はまず無理だ」

 

 これは困った。やっぱりハメ組が攻略のネックになってくるな。どうしたものか……これが戦闘ゲームならアジト見つけてアボンしてくるんだが……。

 無理矢理奪うって何だかなぁ。ゴンもそれを嫌っているし、この案は却下だろう。

 

「ハメ組が独占してるならスペルで奪うのは無理だよなぁ」

「“堅牢/プリズン”で守っていたら完全アウト。それ以前に誰が持っているかも分からない、何処にいるかも分からない。お手上げだな」

「せめて“堅牢/プリズン”が手に入ったらな。そしたらハメ組の誰かが大怪我でもして、“大天使の息吹”を使わざるを得なければもしかしたら……」

「運否天賦に過ぎるだろうそれは」

「……交渉で譲ってもらうのはどうだ?」

 

 ミルキ? でもそう簡単に交渉に応じるとは思えないんだけど。

 

「おいおい。あいつ等が“大天使の息吹”を譲るわけがないだろ?」

「いや、それなりの餌を用意すれば食いつくかもしれない。奴らがまだ手に入れてないカードならな」

「……オレ達が独占したカード……」

「そうだ。オレ達はハメ組が唯一カードを奪うことが出来ないチームだ。まだハメ組による攻撃は受けてないが、奴らもリィーナさんがスペルカードを防げると分かれば……」

 

 なるほど。今までのハメ技が通用しない相手が自分たちの持っていないカードを独占している。そうなったら彼らに残された方法は無理矢理奪いに来るか交換するかの2つ。そして彼らは戦闘能力に自信がないから交換をするしか残らないわけか。

 

「だがオレ達が独占しているのはAランクの“闇のヒスイ”だ。これじゃ流石にSSランクの“大天使の息吹”との交換材料にはなりにくいな」

「だったら同じSSランクを手に入れればいい。前に“名簿/リスト”で調べた時に確認したが、No.2の“一坪の海岸線”は誰も手に入れていなかった。これをオレ達が入手して独占出来れば……」

「……交換材料には申し分ないな」

「でもよ、それだとハメ組が先にクリアするんじゃないか?」

「いや、“闇のヒスイ”を独占している状況でそれはないな」

「おお、ならいけるんじゃないか?」

「取らぬ狸の皮算用だ。まずは“一坪の海岸線”を手に入れてからだよ」

「そうですね。早く手に入れた方がいいので、今回の休息が終わったら“一坪の海岸線”を探す方向でいくとしましょう」

 

 次の方針が決まったな。段々とクリアへと近づいているな。

 そして私の目的達成も間近だ。くくく、ホルモンクッキーが待ち遠しい……!

 

「では一度ゲームのことは忘れてゆっくり休みましょう。たまの休憩ということで修行の方も休みにしてね」

『イヤッホーーーッ!』

 

 拍手喝采の嵐である。ゲームクリアしてもこれほど喜ばないんじゃなかろうか?

 

「では今日は女性陣が手料理を振る舞いましょう。リィーナとビスケも買い出しに付き合ってくださいね」

「かしこまりました!」

「はいはい。ま、たまにはいいわね」

 

 丁度師匠全員が女性なのである。せっかくの休息なんだから私たちが食事の準備もした方がいいだろう。店で買った食事はあるが、たまの休みくらい手料理を振る舞ってあげよう。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ美味かったな」

「ああ。ビスケも意外と料理が上手なんだな」

「家庭的な女性はいいと思うな」

「ポイントアップキタコレ」

「いや、口にしたら駄目だろ……。ところでビスケ、アイシャの写真とやらで相談が……」

「あ、写真が欲しかったらリィーナに言いなさい。写真の権利は譲ってあるから」

「もうダメだぁ……おしまいだぁ……」

 

 食事も終わり、皆が思い思いに話に花を咲かせている中、私はリィーナを連れ出して皆が寛いでいる場所から少し離れていく。

 後ろを見ると誰も私たちを気にしていない。私が男へなろうとすると何故か必ず邪魔が入るからな。本当はもっと離れたいんだけど、そしたら怪しまれるかもしれないからな。

 

「それで、御用とは一体なんなのでございましょう?」

「いや、大した要件ではありませんよ。指定ポケットカードも大分集まってきたでしょう。それを少し見させてもらいたいのですよ」

「そうでしたか。それくらいお安い御用でございます。“ブック”。さあ、どうぞご自由にご覧下さいませ」

「ありがとうございますリィーナ!」

 

 ホルモンクッキーホルモンクッキーホルモンクッキー! 夢にまで見た私の性転換アイテムホルモンクッキー!! これで、これでようやく私の願いが叶う!

 

 1つ1つ指定ポケットページを捲りながらカードを確認していく。

 焦っては駄目だ。ゆっくりと1枚1枚のカードをよく見てからページを捲るんだ。焦って早くホルモンクッキーのみを探そうとすればリィーナに私の考えがバレてしまうかもしれない。大丈夫だ。ここまで待ったんだ。あと少し待つくらい出来る。だから焦るんじゃない私!

 

 ………………あった。

 ああ、これが、これがホルモンクッキー…………。ようやく、これが手に入るのか。男に戻れるのか……。うう、嬉しさのあまり目が滲んできた。涙が溢れる、我慢しなければ……。

 

 まだ男に戻ったわけじゃないんだ。目的を達成する為にはまだしなければならないことがある。これを私のバインダーに入れて“複製/クローン”でコピーし、本物を返さなければ。

 コピーでも本物と同じ効果となるのは確認済み。“複製/クローン”は指定ポケットに入っているカードをランダムで複製するのだが、私は指定ポケットには1枚もカードを入れていない。つまり“複製/クローン”で複製されるのはホルモンクッキーのみ!

 

 さあ、さらばだ女の私! そしてお帰り男の私! これからは一人称もオレにするからね!

 素早くリィーナのバインダーからホルモンクッキーを奪い取る。すまないリィーナ! 本物は必ず返すから!

 

「アイシャさん!?」

「ごめんね! “ブック”!」

 

 バインダーを開き指定ポケットにホルモンクッキーを入れる! あとはフリーポケットにある“複製/クローン”を使用すれば!

 

「“複製/クローン”使用!!」

 

 手に持った“複製/クローン”がホルモンクッキーへと変化する!

 よし、これでようやく……はっ!?

 

「くっ!?」

「ちぃっ! 流石はアイシャ! 完全に不意を突いたつもりだったんだけどね!」

 

 ビスケ!? 何時の間に私の傍に……! 危うくホルモンクッキーを奪われるところだった……! くっ、ホルモンクッキーに意識が集中し過ぎてビスケに気が付かなかったとは……! 不覚!

 

「やっぱりそれがアイシャの狙いだったのね」

「……バレていたのですか」

「はい……。アイシャさんが以前から性転換をしようとしていたこと、グリードアイランドに行きたがっていたこと……。そのホルモンクッキーを手に入れた時に思い至りました……」

 

 リィーナに気付かれていたのか……。これだけの情報があれば気付くか。

 だがそれならどうして私にバインダーを見せるような真似をしたのだろうか。私がホルモンクッキーを手に入れる為だと理解しているならバインダーを見せない方がいいと分かっているはず……。

 

「リィーナは出来るだけアイシャを疑いたくなかったのよ……。リィーナのその気持ち、あなたなら分かってあげられるでしょう?」

「り、リィーナ……! そこまで、私のことを……!」

「せ……アイシャさん……!」

 

 うう、私は果報者です……! 師に恵まれ、好敵手に恵まれ……この上弟子にも恵まれているのだから……!

 

「分かってくれたのねアイシャ! じゃあそのホルモンクッキーはこっちに――」

「――あ、それとこれとは話が別です」

 

 おや、ビスケがずっこけた。

 

「こ、この頑固者! やっぱり何だかんだであんたとネテロは似てるわさ!」

 

 失礼な。私のどこがネテロに似ているというのか。あんな負けず嫌いの頑固ジジイと一緒にしないでもらいたい。

 

「こうなったら覚悟を決めなさいリィーナ」

「ええ……。申し訳ございませんアイシャさん! 不忠者と罵られようともこのリィーナ! アイシャさんが男になるのを見過ごすわけにはいきません!」

「……誰が不忠者と言いましょうか。私はあなたの成長が嬉しいですよリィーナ……」

 

 あのリィーナが。師の言うことは絶対と断じるリィーナが。私が言うことは何でも叶えようとするだろうリィーナが。私の意思に背くというのだ。これを嬉しいと言わずに何と言うのか。離れていく子を見る親の気持ちは多分こんな感じなのだろうな。

 

 でも、今じゃなくてもいいんじゃないかと切に叫びたい。

 

「アイシャさん……。ありがとうございます……! ならば私に出来る最大の抵抗をさせて頂きます!」

 

 む? どうする気だ?

 

「全員集合!」

『おう!』

「ぶはっ!?」

 

 リィーナが一声掛けたら寛いでいたはずの男性陣全員が飛んで来やがった!

 こ、こいつ等あらかじめ内通してやがったな!? そうじゃなきゃ一声掛けただけであんなに素早く私に向かって“磁力/マグネティックフォース”で飛んで来れるもんか! そうして一糸乱れぬ動きで私を取り囲んだ。手際良すぎない君たち?

 

「悪いが邪魔させてもらうぜアイシャ!」

「スマンが今回はリィーナ殿に賛同させてもらうよ」

「アイシャが男になるなんざ認められねーんでな!」

「そういうことだ! それを認めるとオレは何のために痩せたのかと……!」

「悪いが師の命令だ。覚悟してもらおうアイシャさん」

「悪いが命が懸かっている。覚悟してもらおうアイシャ」

「右に同じ」

「左に同じ」

「総力戦よ。いくらアイシャでもこれだけの人数にこれだけの質……同時に相手して勝てるかしら?」

「これが私の全力の抵抗です。これを突破出来れば……あとはお好きになさってください!」

「……1日くらい良いと思うんだけどなぁ」

 

 お、おお……!?

 良く分からないけど全員から異常なほどの気迫が漂ってくる! リィーナ達はともかく、キルアとレオリオさんとミルキ、そしてゲンスルーさん達からは並々ならぬ物を感じる……! ゲンスルーさん達は確実にリィーナの命令だな。キルア達はそんなに私が男になるのが嫌なのか? あとゴン。1日くらいって何の話?

 

 いや、そんなことは今はどうでもいいんだ。

 今大事なのは、彼らが私の悲願の邪魔をしようとしていることだ……。

 時間が経ちカードからアイテムへと変化したホルモンクッキー1箱を大事に胸元へと仕舞いながら全員を睨みつける。……ていうか、何箱あるんだこれ? 結構な数が地面に落っこちたんだけど?

 まあいいや、取り敢えず1箱は死守しよう。残りは出来たら回収する方向で。

 

「いいでしょう。全員かかってきなさい。ですが……今の私は阿修羅すら凌駕する存在だと知れ!」

 

 私vs反性転換連合の死闘が今ここに狼煙を上げた。

 

 




 アイシャがスポーツブラとはいえ下着を着けだしたのはビスケからノーブラだと胸の形が崩れると言われたからです。そこから体幹が崩れるのを嫌がったためですね。

 レオリオ新能力。と言っても【仙人掌/ホイミ】を利用したものなので然程メモリも取らない能力です。

【仙光気/リホイミ】
・強化系能力
 術者の身体を薄い【掌仙術/ホイミ】で覆うことで常に回復効果を得続ける能力。回復量は【掌仙術/ホイミ】に劣るが、身体が動かなくてもオーラを操る意思1つあれば使用可能。全身を覆う為か、代謝や抵抗力も上がっており多少の毒や麻痺なども回復する。だが元は【掌仙術/ホイミ】なので術者が把握していない傷や適切な医療法を学んでいない傷には効果は減少する。

〈制約〉 
・術者本人にしか効果はない
・使用者が把握出来ない傷に対しては回復効果は減少する。
・傷に対する適切な医療法を学んでいないと回復効果は減少する。

〈誓約〉
・特になし







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