どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第五十七話

「これでオレ達のカードの所有種は何種になったんだニッケス?」

「ああ、今回で94種まで集まった。あと6種だ。もうじき全てのカードが集まる。諸君! クリアも目前だ」

 

 オレの声にアジトに集まった一同が高らかに声を上げる。だがそれは虚構の声だ。オレの言葉とは裏腹にクリアには大きな障害があるのを皆が知っているのだ。

 今回はその障害をどのように対処するかを話し合うために全員に集まってもらった。

 

「さて諸君。皆も知っているだろうが、我々が奪うのはツェズゲラ組の3枚と、リィーナ組の2枚だ。だがツェズゲラ組はガードが固く、また運もいい。我々が攻撃に出ても我々に必要な3枚を奪うことは出来なかった」

 

 ツェズゲラ組も面倒だが“聖騎士の首飾り”で“徴収/レヴィ”以外の攻撃スペルからカードを守っている。

 今までに何回か大量の“徴収/レヴィ”と“税務長の籠手”による物量作戦を敢行したが、その全てが空振りに終わっている。手に入ったのは我々に必要のないカードばかりだ。……危険だが、“リスキーダイス”と“徴収/レヴィ”のコンボを使うことも視野に入れなければならないかもしれないな。

 

「だがツェズゲラ組はまだいい。いずれは“徴収/レヴィ”によってカードを奪うことが出来るだろう。……問題はリィーナ組だ」

 

 そう、クリアに向けての1番の難関がリィーナ組だ。

 リィーナ組はカードの所有種数85種とクリアにはまだ遠いが、我々の作戦で何の戦果も上げられないというのが問題なのだ。

 まさかスペルカードを無効化する能力を持つ能力者がいるとは思ってもいなかった。反則じゃないのかあれは? ゲームマスター出てこい。訴えてやる。

 

「知っての通りリィーナ組のリーダーであるリィーナはスペルカードを無効化する能力を有していると思われる。しかもその実力は我々よりも遥かに上だと予測される。もし戦闘になってしまえば全員で掛かったとしても多くの犠牲者が出るだろう。今回集まってもらったのはこのリィーナ組にどう対処するかを話し合うためだ。全員忌憚ない意見と案を出してくれ」

 

 オレの言葉を皮切りに全員が周囲にいる仲間たちと意見を出し合う。

 だが中々話が纏まらないようだ。無理もない。今まで順調に進んでいたからな、こんな障害が出来るなんて予想外だったんだ。

 そんな中、2人の仲間から意見が飛び出てきた。

 

「無理矢理奪うのが無理なら交渉しかねぇだろうな」

「プーハットの意見に賛成だ。それ以外に方法はあるまい」

 

 意見を出したのはプーハットにアベンガネか。

 この2人は新参だが、頭の回転はかなりのものなので信用に置ける。プーハットはアベンガネに対して少々ライバル心を持っており、負けず嫌いな点がマイナスだが。

 だがアベンガネは常に冷静沈着で今までにも合理的な答えを何度も導き出している。オレ達の仲間として幾度も役に立つアドバイスをしたこともあった。この2人が同じ意見ならそれはほぼ間違いない答えなのだろう。

 

「だが交渉に応じるのか? もしそこから戦闘へと発展してしまえば……」

「いや、そんな好戦的な性格じゃないと今までのリィーナ女史のプレイから推測するぜ」

「そうだな。もし好戦的な性格であれば、ニッケス達がカードを奪いに行った時に殺られているだろう。例え“同行/アカンパニー”で逃げた所で追い掛けることは出来るのだからな。それをしなかったということを考えれば、こちらから交渉を持ち出せばいきなり戦闘を仕掛けてくることはないだろう。もちろん、こちらが騙し討ち等をすれば話は別だろうが」

 

 ……確かにな。あの時、オレ達を殺そうと思えば1人や2人くらいは殺せただろう。

 そうはしなかったし、今までのプレイでも好戦的な行動を見せたという話は聞いていない。このグリードアイランドで好戦的な行動をしているプレイヤーの噂は非常に早く回るからな。

 ボマーのように正体を隠していたとしても、そういうプレイヤーがいるという話は出回る。だがそのような話も一切ない。

 ……そう言えばボマーの犠牲者を最近はとんと見なくなったが、どうしたんだろうか? ……案外プレイ中に死んだのかもしれないな。

 

「問題は交渉するのなら、こちらの交渉材料をどうするかだが……」

「彼女たちが持っていないカードなら何でもいいんじゃないか?」

「いや、それでは難しいな。彼女たちは“一坪の海岸線”を手に入れているんだぞ?」

 

 それだ。それが1番のネックだ。全く、どうしてそんな高ランクのカードをあの連中が手に入れてしまったんだ。手に入れたからには“擬態/トランスフォーム”と“複製/クローン”で限度枚数まで増やしているに決まっている。

 “一坪の海岸線”のカード化限度枚数は3枚だから、いくらオレ達がスペルカードを多く所有していたとしてもそれくらいのスペルは持っていると見ていいだろう。

 

「ならこっちもそれに値するカードを渡さないと……」

「……つまり、同じSSランクの“ブループラネット”か――」

「――“大天使の息吹”か、だな」

 

 ……やはりそうなるか。

 

「そして“ブループラネット”は既に彼女たちも所持している。交渉材料になるのは“大天使の息吹”のみだ」

「だけどよ! “大天使の息吹”を渡すのは癪だぜ! アレを手に入れるのに何年掛かったと思ってるんだ!?」

「落ち着けアッサム。気持ちは分かるが、それ以外に方法はないだろう」

「そうだぜ。クリアしなくちゃ報酬もないんだ。ここは割り切るしかないさ」

「そうだ。それによく考えてみろ。例えここでリィーナ組に“大天使の息吹”が渡ったとしてもすぐにクリア出来るわけじゃない。リィーナ組のカードの所有種は85種だ。ここで1枚や2枚増えた所でまだクリアには程遠い」

「逆にオレ達はここで“一坪の海岸線”と“闇のヒスイ”を手に入れることが出来れば、後はツェズゲラ組が持つ3枚だけだ。ツェズゲラ組はリィーナ組と違って“徴収/レヴィ”の物量作戦が通用するから、リィーナ組の独占するその2種さえ手に入れることが出来れば……!」

「……後はリィーナ組がカードを集める前にツェズゲラ組からカードを奪えばいいだけ……!」

「そうなると……99種揃って!」

「クリアは目前だ!」

 

 こうして希望的な材料を並べると先が明るくなってきたな。No.000のカードは恐らく99種のカードが集まった時に起きるだろうイベントで手に入れることが出来るアイテムだと言われている。

 つまりリィーナ組との交渉さえ上手く行けば……!

 

「なら“闇のヒスイ”と交換する指定ポケットカードも考えた方がいいか?」

「相手が指定してきたのでいいんじゃないか? リィーナ組が必要なのは“大天使の息吹”を除いてあと13種だから、その中でオレ達が持っているのを1枚でいいだろう」

「いや、奴らもオレ達に独占しているカードを取られたらどうなるかは考えているだろう。もしかしたら“闇のヒスイ”の交換は応じないかもしれないな」

「だったら3枚くらい渡せばいいだろ。そしたら食いついてくるんじゃないか?」

「だがそれだとクリアに近づいて――」

「でもそうじゃなきゃ――」

 

 ふむ、話が纏まらないな。こればかりはリィーナ組と実際に交渉してみない限り分からないだろう。3枚くらいなら交渉に応じてもいいが、それ以上となると流石に許容は出来ないな。オレ達がツェズゲラ組からカードを奪う間にクリアされるかも……いや、それは……。

 

「落ち着け。ここは3枚くらいまでなら交渉に応じるべきだろう。どうせ我々から4枚のカードを手に入れた所で、リィーナ組がクリアすることはない。そもそもツェズゲラ組が独占するカードを手に入れることが出来ないだろうからな」

「おお」

「確かに」

 

 あの慎重なツェズゲラのことだ。独占しているカードを交渉材料にすることはあるまい。

 奴もオレ達のやり方を知っているんだ。他のプレイヤーにカードを渡してそれがオレ達に奪われると考えたらそう簡単には交渉には応じないだろう。

 リィーナも自分のアドバンテージを他人に教えるような馬鹿じゃないはずだ。教えてしまえば逆に警戒されて交渉を跳ね除けられるかもしれないからな。

 何せオレ達のやり方を無効化出来る唯一のプレイヤーだからな。そんなプレイヤーにカードが集まるのはツェズゲラも御免だろう。

 

「よし、ではリィーナ組と交渉に入る。この結論に異議のある者はいるか?」

 

 ……誰もいないな。

 よし、ここからが本番だ! 上手く行けばオレ達は億万長者だ!

 

 

 

 

 

 

「我々と交渉したいと?」

『ええ、トレードの申請です。どうでしょうかツェズゲラさん?』

 

 ゲンスルーというプレイヤーからの突然の“交信/コンタクト”を取ってみれば、会話に出たのはあのリィーナ=ロックベルトだとは。

 リィーナ=ロックベルトがここ最近凄まじい勢いでカードを集めているのも、4人程のプレイヤーが集まって行動しているのも知っていたが、ゲンスルーがその仲間だったとはな。

 ゲンスルーはかつて私と交渉した時に『爆弾魔』の話を振って来た男。話題の切り替えがやや不自然で警戒していたんだが……それが何故リィーナ=ロックベルトと行動を共にしているんだ?

 

「トレードと申されましてもな。一体何と何をトレードしたいと?」

『“一坪の密林”と“身代わりの鎧”、そして“浮遊石”も欲しいですね。こちらからは“一坪の海岸線”と“奇運アレキサンドライト”に“闇のヒスイ”を提供いたしましょう。……如何ですか?』

「……少々お時間頂きたい」

『かしこまりました。それでは20分程後にまた“交信/コンタクト”にて連絡いたします』

「それには及びません。その時はこちらから連絡いたしましょう」

『それはわざわざすみません。それではお言葉に甘えさせて頂くといたします。良い返事が聴けるよう期待しております。それでは失礼いたします』

 

 ……これはどうするべきかな。ここまで大事のトレード交渉になるとは……。

 

「どうするんだツェズゲラ?」

「この交渉、受ける気か?」

「……確かにこの交渉は悪くはない。“一坪の海岸線”をリィーナ=ロックベルトが入手したことは確認済みだ。恐らく独占もされているだろう。我々が自力で入手するには彼女からカードで奪わなければならないわけだ。そして“闇のヒスイ”に関しても同じだ。全てリィーナ組に独占されている。“奇運アレキサンドライト”は入手方法は知っているが、今の我々ではその条件を満たすことは困難だ」

 

 そう、リィーナ組が独占したカードを手に入れる方法は交渉を除くとスペルによる奪取しかない。戦闘で無理矢理奪うなんて不可能だろう。それほどの実力差が我々との間にはあるのだ。

 逆に彼女が実力行使に出て来たらたまったものではない。そんな人物ではないとは思うが……。

 

「オレはこの交渉に賛成だぜ」

「……ゴレイヌか。理由は?」

 

 ゴレイヌ。最近までソロで活動していたプレイヤーだ。だがソロに限界を感じたらしくオレ達に接触してきた。有力な情報を手土産にな。

 “一坪の海岸線”の入手方法とハメ組への対策法は確かに役に立った。それだけでも十分な報酬を約束してもいいくらいだ。

 彼自身も優秀なプロハンターだ。グリードアイランド攻略までという条件付きで仲間に加えるのは悪くない話だった。

 

 彼のおかげでハメ組への対策も立てることが出来た。

 今我々が持っている重要なカードの殆どが“贋作/フェイク”で作った偽物だ。

 本物はゴレイヌに渡してある。もちろんゴレイヌが狙われないようゴレイヌには定期的に外の世界に出てもらっている。

 相談の為と重要なカードを預かってもらう為に週に一度は戻って来ているが。こうしてリィーナ=ロックベルトからの連絡があった時に居合わせたのは運が良かったのだろう。

 ゴレイヌが裏切るかとも思うが、報酬を約束している以上裏切る心配は少ないだろう。それに彼が裏切ったとしても単独でのクリアは難しいのだからな。

 それなら我々と共にクリアを目指した方が建設的というものだ。彼なら合理的な判断を取るとオレも判断した。

 

「それは彼女が持っているカードをハメ組に奪われる可能性が僅かでもあるからだ」

「……だが、彼女がハメ組への対抗策を教えてくれたんだろう?」

 

 そうなると、既に“一坪の海岸線”はハメ組にも知られていないプレイヤーが持っている可能性もあるわけだが……。

 

「確かにそうだ。だがさっきツェズゲラに貰った“念視/サイトビジョン”で調べてみたんだが、まだ“一坪の海岸線”をリィーナ=ロックベルト本人が持っているんだ」

「……何だと?」

 

 それは……まずいな。万が一ハメ組の強襲を喰らえばすぐにでもカードが奪われる可能性があるということじゃないか!

 

「恐らくツェズゲラと交渉が上手く行った時のトレード用に所持しているのだろうが、これでハメ組に襲われでもしたら……」

「我々のクリアは遠のいてしまうな……」

 

 それだけは阻止しなければならない。問題はリィーナ=ロックベルトが持つカードの所有数だが……。確か前に確認した時は83種だったな。今はどうなんだ?

 

「ゴレイヌ、現在のリィーナ組の持つカード数は?」

「“念視/サイトビジョン”で調べた限りでは85種だ。チーム内の他のプレイヤーが持っていたカードはダブリのカードかスペルカードとどうでもいいカードのみだったな」

「……良し、交渉を受けよう」

 

 私たちから手に入れるカードを合わせても88種だ。これではクリアはまだ遠いな。例えそれ以外のカードを他の仲間が隠し持っていたとしても、“大天使の息吹”だけは持っていないはずだ。

 あれはハメ組が全て独占している。それに引き換え券をリィーナ組が手に入れるのも難しいはず。彼女たちがグリードアイランドに来てからでは全てのスペルカードを集めるのはまず不可能なはず。ハメ組のせいでスペルカード不足だったからな。

 

 そして私たちはこれで98種になる。後は“大天使の息吹”を手に入れさえすれば……!

 “大天使の息吹”の引き換え券は入手済み。ハメ組が独占している“大天使の息吹”を使用すれば、私たちの持っている引き換え券は自動的に“大天使の息吹”に変化する。

 この際多少強引だが彼らの内の1人を痛めつけるという手段に出なければならんかもしれないな。

 まあいいだろう。彼らもこのゲームに参加しているからには危険な目に遭う覚悟はしているはずだ。それにあんな手段でカードを奪っているんだ。多少は痛い目に遭うのもいいだろう。

 

 

 

「お久しぶりですねツェズゲラさん」

「ええ、お元気そうで何よりです。最近はカードの集まりもいいようで、クリアも間近ですな」

「ふふ、お世辞はいいですよ。それにツェズゲラさん程ではございません。もうクリアも目前ではないのですか?」

「ははは。今回のトレードで95種ですな。あと5種です。おかげさまでクリアに近付けましたよ」

 

 軽く嘘を言っているが、何だか普通にバレている気がする。噂通り心を読む能力でも持っているのかもしれないな。そんな噂をあながち嘘だと言えない所が恐ろしい……。

 敵には回したくない女傑だ。無駄な会話もせずに交渉を終わらそう。

 

「それではトレードに移るとしよう。ただ1つだけ注意が。“一坪の密林”は“複製/クローン”で増やした物ですので、“聖騎士の首飾り”を付けているとカードが元に戻ってしまいますから気を付けて下さいよ」

「なるほど。では首飾りは外しておきましょう。それと私たちも同じ注意を。私たちの“一坪の海岸線”と“奇運アレキサンドライト”も“複製/クローン”で増やしたカードでございますのでお気を付け下さい。もちろん“贋作/フェイク”でないことは私の名と風間流最高責任者の肩書きにかけて誓いましょう」

「信じていますよ。私たちもリィーナ殿を相手に交渉事で下手を打つつもりはありません。このカードが“贋作/フェイク”でないことは保証しますよ」

 

 一言話す度に精神が削られるようだ。これでもし“贋作/フェイク”でも渡そうものなら殺されるだろうな。藪をつついて龍を呼ぶつもりはない。こんな下らないことで死んでたまるか。

 

「それではこれで……」

「ええ、交渉成立ですね。……そうそう、ツェズゲラさんはある集団にカードを奪われたりなどされておりませんか?」

「ある集団? ああ、恐らく彼らのことでしょうな。確かに何度か襲われましたが、重要なカードは奪われることなくすんでおります。運が良かったですな」

「そうですか。それは良かった。彼らに負けないよう私たちもクリアを目指すといたしましょう。それではこれにて失礼いたします」

 

 そうして何事もなくリィーナ殿は去っていった。

 ……ふぅ、思わずため息が漏れるな。あの人は苦手だ。私すら赤子扱いするのだからな。あんなのからカードを奪おうとするハメ組の気が知れんよ。自殺志願者の集まりか?

 

「……上手くいったな」

「ああ。というか、別に普通のトレードだ。上手く行かない方がおかしいだろう」

「確かにな。でもあの人を見ると正直普通ってのが実感湧かなくてな。アレがリィーナ=ロックベルトか。お前が簡単にあしらわれたって話も頷けるな」

「その話はもういいだろう? 勘弁してくれ」

 

 アレはオレの恥部だ。二度とあんな真似はせんぞ。

 

「とにかく交渉が終わったんだからゴレイヌに連絡しよう。後は“大天使の息吹”だけだな」

「ああ、クリアも間近だ。このゲーム……我々の勝ちだ!」

 

 

 

 

 

 

「こうして交渉に応じてくれて助かるよリィーナさん」

「いえ、お気になさらず。それよりも交渉とは? 無理矢理カードを奪うのが貴方がたのやり方ではありませんでしたか?」

 

 ……その話を持ち出すのは勘弁してほしい。

 何をしても意味がなかったのは知っているだろう? その張本人なんだからな。

 

「その件は本当に申し訳なかった」

 

 頭を深く下げて謝罪をする。こちらの方が立場は下なんだ。機嫌を損ねさせてしまうとどうなるか分からん。出来るだけ下手に行かなければな。

 

「その点はもう結構でございます。私は何の被害も被っておりませんから。それで、交渉とやらに移りたいのですが?」

「そうだったな。簡潔に行こう。そちらが所持している“一坪の海岸線”と“闇のヒスイ”をトレードしてほしい」

「……なるほど。それは分かりました。ですが、そちらがトレードに用意されたカードは何なのでしょうか? それによってはこのトレードはお断りさせて頂きますが?」

 

 だろうな。だが安心しろ。お前が飛びつくような材料を用意してあるからな。

 

「こちらが出すのは“大天使の息吹”! そしてさらに! そちらが所持していないカードを3枚までなら出そうじゃないか!」

「!?」

 

 ふふ、表情が変わったぞ。喰らいついたな。

 喉から手が出る程欲しがっただろうカードが一気に4枚も手に入るんだ。悩む必要はないだろう?

 

「…………」

「これは破格の条件だと思っている。何せこちらが出すのはSSランクを1枚と、そちらの任意のカード3枚だ。SSランク1枚にAランク1枚との交換なら悪くない条件だと思うが?」

「……確かに」

 

 もしやオレ達がこれでクリアするかと危惧しているのか?

 ……確かにその考えはあるな。ちっ、オレ達のカード入手状況をバレないようにしたのが裏目に出たのか? ここで渋られたらカードの入手はハードモードに突入する、いや、ルナティックの方が的確だな。

 勘弁してくれ。そんなの500億でもやりたくないぞ?

 

「分かりました。そのトレードに応じましょう」

「本当か!」

 

 やった! ルナティック回避! いや落ち着け! ここで喜びを見せすぎたら無駄に怪しまれるかもしれないぞ!?

 

「んん! それじゃあそちらが欲しいカードを言ってくれ。そのカードをすぐに持ってこよう」

「では――」

 

 

 

 

 

「上手く行ったな!」

「ああ、これでカードは96種まで集まった!」

「後はツェズゲラ組から奪うだけだな!」

「“徴収/レヴィ”の枚数は?」

「18枚だ」

「十分だな。“税務長の籠手”は?」

「6人が装備している。その6人には指定ポケットにそれぞれ20枚ずつカードを入れてある」

「ツェズゲラのバインダーを確認したか?」

「今さっき確認したばかりだ。独占カードは両方ともツェズゲラが持っている。所持しているカード枚数の合計は100に満たない」

 

 良し! 良し良し良し! 準備は万端だ! これでツェズゲラを襲ってカードを奪い取ればいい!

 合計して138回の“徴収/レヴィ”による攻撃だ! ツェズゲラのカード所持数は指定ポケットとフリーポケットのカード枚数を合わせても100枚以下! つまり我々の“徴収/レヴィ”を防ぎきることは不可能!

 

「手順を確認するぞ。“徴収/レヴィ”による攻撃は3交代制によるものだ。攻撃した者はすぐに距離を取り、目的のカードを奪えたか確認する。奪えてなければ再び攻撃に加わり、奪っていた場合は移動スペルでその場から離れること。いいな。念の為戦闘になった場合に数でも押せるように戦闘要員全員で行くぞ。“同行/アカンパニー”の準備だ!」

『おお!』

 

 ふふふ! 待っていろツェズゲラ!

 このゲーム……オレ達の勝利だ!

 

『プレイヤーの方々にお知らせです』

 

 ……何? バインダーから声が? “交信/コンタクト”ではないぞ?

 何だ? こんなことは初めてだが?

 

『たった今あるプレイヤーが99種の指定ポケットカードを揃えました』

 

 ……パードゥン?

 

 

 

 

 

 

「上手く行きましたね」

「これにてミッションコンプリートォ!」

「99種集まったわけか! ははは、ハメ組ざまぁ!」

 

 テンション上がってるなゲンスルーさん。ハメ組を出し抜けたのが嬉しいのかな? でもこれでクリアかと思うと確かに嬉しい。

 

「ハメ組の方たちが自分から交渉を持ちかけて下さったのは嬉しい誤算でした。おかげでこちらの狙いに気付かれる心配も少なくなりましたから。彼らの前で演技をするのは疲れましたよ」

 

 そう言って笑うリィーナ。結構演技が上手い気がするんだけど?

 そうじゃなきゃ財閥の会長なんて出来やしないだろうし。

 

 さて、そろそろリィーナにカードを返そうか。

 

「“ブック”。リィーナ、受け取ってください」

「ありがとうございますアイシャさん」

 

 そうしてリィーナに私が持っている“聖水/ホーリーウォーター”を渡す。

 するとそのカードをリィーナが持った瞬間、身に付けていた“聖騎士の首飾り”の効果で“聖水/ホーリーウォーター”が元のカードに戻った。それは指定ポケットカードの1枚、“メイドパンダ”だ。

 そうしてゴンやキルア達も次々とカードを渡していく。そのどれもが私たちの必要な指定ポケットカードへと変化していった。

 

 これこそがゲンスルーさん発案! “擬態/トランスフォーム”による指定ポケットカードの偽装だ!

 私達は手に入れた指定ポケットカードをすぐに“擬態/トランスフォーム”によって別のカードへと変化させていたのだ。そうすることで私たちが指定ポケットカードを手に入れても、“念視/サイトビジョン”では別のカードを持っているようにしか見えないのだ。こうして所持しているカード枚数を少なく見せかけて、交渉に応じやすくしたわけだ。

 

 そう、私たちの本当の指定ポケットカード所有種数はツェズゲラさんとハメ組との交渉前には既に92種あったわけだ。私たちがカードを集めて行くと必ずクリア前に邪魔が入ったり、交渉が上手く行かないことが多くなるから偽装した方がいいとゲンスルーさんが考えついた作戦である。

 

 後はツェズゲラ組とハメ組の独占カードと、ハガクシ組とトクハロネ組のゲイン待ちだけが残りのカードだった。残念ながらハガクシ組とトクハロネ組との交渉は断られてしまったが、その分のカードはハメ組が持っていたカードを貰うことで補えた。

 余分にカードを出してくれるなんて太っ腹だ。彼らにはクリアの算段がついていたのだろうが、残念ながらそれは諦めてもらおう。

 

「これで99種目でございます」

 

 リィーナが99種のカードをバインダーに収めた。

 さて、何が起こるのかな?

 

『プレイヤーの方々にお知らせです』

「!?」

 

 おお、バインダーから声が? これは……受付の人の声かな?

 

『たった今あるプレイヤーが99種の指定ポケットカードを揃えました。それを記念しまして、今から10分後にグリードアイランド内にいるプレイヤー全員参加のクイズ大会を開始いたします。問題は全部で100問! 指定ポケットカードに関する問題が出題されます。正解率の最も高かったプレイヤーに賞品としましてNo.000カード“支配者の祝福”が贈呈されます。皆様バインダーを開いたままでお待ち下さい』

 

 ………………こ、これは。

 バインダーから流れたNo.000のカード取得条件を聞いた皆の視線がある1人に向けられる。

 

「…………待て、待ってくれ」

「頼んだぞゲン」

「お前に掛かってるぞゲン」

「ゲンスルーさん頼むぜ」

「お前に任せた」

「オレ達も頑張るけど、ゲンスルーさんならきっとトップを取れるよ!」

「待ってくれ! グリードアイランドにはあのツェズゲラがいるんだぞ!? あいつは自力獲得では恐らくダントツのトップだ! そいつを押しのけてオレがトップを取れるわけが――」

「――トップを取った暁にはクリア報酬を10%増やすことを約束いたしましょう」

「全力で臨ませて頂きます!」

 

 素直でよろしい。

 でも正直厳しいな。ツェズゲラさんを押しのけてトップを取ることが出来るかどうか……。

 まあ分かっているのはハメ組の人たちにはトップを取ることは出来ないということだな。彼らのカードの自力獲得数は低いなんてもんじゃないだろうからな。

 

 

 

 そうして始まったクイズ大会。

 今までに皆と色々と話していたおかげで私が取りに行っていないカードの問題についてもある程度は分かった。

 だがそれでも確実に解けた問題は半分程度だろう。残りは正直うろ覚えと勘だ。70点取れてたらいい方ではないだろうか?

 

『それではこれより最高得点者を発表いたします!!』

 

 ゲンスルーさんでありますように。

 これでツェズゲラさんだったらまた面倒なことに……。

 

『最高点は……100点中96点!!』

 

 あ、駄目だこれ。点数聞いた時点でゲンスルーさんが絶望の表情で首を振っている。そこまで取れた自信がないんだろう。多分最高得点者は……。

 

『プレイヤー名……ツェズゲラ選手です!』

 

「はぁ……」

「やっぱりな」

「ゲン……」

「オレか? オレだけが悪いのか?」

「残念ながら10%アップは無しですね」

「クソッタレーッ! ツェズゲラがぁ……覚えていろよぉ!」

 

 それは逆恨みですゲンスルーさん。ツェズゲラさんは何も悪くないからね。

 トップを取れなかったのは残念だけど、今はそれよりもどうやってNo.000のカードをツェズゲラさんから手に入れるかが問題だな。

 

 

 

 そうして私たちが悩んでいると、その悩みの種であるツェズゲラさんから“交信/コンタクト”を受けた。

 

『リィーナ殿、まずは99種達成おめでとうと言わせて頂く。油断したよ。あの時点でそこまでカードを集めているとは思いもよりませんでした。“大天使の息吹”だけは持っていないものと思っていたのですがね』

「それは申し訳ございません。ですが、騙し取ったつもりはございませんよ?」

『その点に関しては責めるつもりは毛頭ないですよ。気付かなかった私が愚かだっただけの話。まあ今回の“交信/コンタクト”はそのようなことを話したくてしたのではない。

 本題に移ろう。……我々と代表者5名による勝負をして頂きたい。勝負は1対1を5回繰り返す星取り戦。先に3勝を上げた方の勝ちだ。勝者には敗者が持つ好きなカードを1つ手に入れることが出来る……どうです?』

 

 ほう、そういう交渉で来たか。これは面白い。

 彼ら5人と、私たちの内の5人で勝負をして、先に3勝した方が勝ち、と。分かりやすくていいじゃないか。

 リィーナが私に向けて確認のサインを送ってきた。私は周りを見回して全員が頷いたのを確認してリィーナにサインを送り返す。

 

「その話、受けさせて頂きます」

『それは良かった。代表の5人は戦う順番を予め決めておくのはどうだろうか? それを戦闘前に確認してその順に戦うという方式だ。どうだろう?』

「いいでしょう。それで結構です」

『ありがとう。日時は明日。順番などをよく考えておいてください。場所は追って説明しよう。……では、これにて失礼する』

 

 そうして“交信/コンタクト”が切れた。

 勝負は明日か。さて、5人の代表を選ばなくてはいけないけど、誰が出るかな?

 

「オレは出るぜ。ツェズゲラの顔面爆破してやる!」

「落ち着けゲンスルー。あまりやりすぎるとお仕置きを受けるぞ」

「……手を爆破するくらいで勘弁してやろう」

「まあゲンスルーさんが出るのはいいでしょう。他に出たい方はいらっしゃいますか?」

「オレも出たいね」

「オレもオレも!」

「待てよ。オレはドッジボールでずっと外野だったから殆ど何も出来ていないんだぜ? オレが出てもいいだろう?」

「あ、それなら私も出たいです。ドッジボールはおろか、他の試合もずっと見学しか出来ませんでしたし……」

「ツェズゲラ乙」

「……爆破は勘弁してやろう」

「これで1勝と。あと2勝で確定だな」

 

 どういうことなの?

 

「それではアイシャさんとゲンスルーさん、そしてレオリオさんも確定でいいでしょう。他の方はジャンケンで決めてくださいませ」

 

 それでいいのかおい? ツェズゲラさんは本気で来るだろうになぁ。

 

 

 

 

 

 

「これで良かったのか?」

「これしかあるまい。全く、油断したよ。あの交渉の時には既にリィーナ=ロックベルトの中では必勝の確信があったのだろうな」

 

 あの交渉が私たちを騙すためのものだったわけではない。

 何せ交渉自体は嘘ではないのだからな。リィーナ=ロックベルトがカードの所持数を申告したわけでもない。私たちが調べた結果から勝手に所持枚数を予測しただけなのだ。“念視/サイトビジョン”にも穴があるというのに、それを過信した私たちが愚かだったのだ。

 

 今回のイベントは僥倖だったと言えよう。上手くNo.000のカードを手に入れることが出来たのだからな。正確にはNo.000のカードを手に入れる為の引き換え券みたいなものだが。

 ……この島の支配者からの招待状か。恐らく待っているのはゲームマスターだろうな。

 

 カードを交換した後はゴレイヌを呼び出しに行かなければな。No.000を持っている者が直接呼びに行った方がいいだろう。ハメ組が狙って来ないとも限らん。

 全く。昨日グリードアイランドから出て行ったばかりのゴレイヌを呼び戻すハメになるとはな。

 

「だが勝てるのか? 相手はあのリィーナ=ロックベルトだぜ?」

「だからこその星取り戦だ。例えリィーナ=ロックベルトに負けたとしても、残る4人で3勝すれば問題ない。問題は戦闘の順番だ。奴らは戦力を前半に固めてくるか後半に固めて来るかのどちらかだと思われる。なので初戦は捨て札だ。最初と最後にリィーナ=ロックベルトが出てくる可能性が高いからな」

「なら先鋒はオレがやろう。オレが最も適しているだろうしな」

「……悪いなドッブル」

 

 ドッブルの能力は探知型だからな。戦力としても十分に役に立つが、我々の中で1番戦力が低いのも彼だ。彼には捨石になってもらうが、それが勝利に繋がることになる。重要な役割だ。頼んだぞドッブル!

 

「次鋒はオレかゴレイヌでいいだろう。奴の実力は確かだ。リィーナ組の実力は不明だが、それでも通用するレベルではあるはずだ」

「ああ、リィーナ組はリィーナ=ロックベルト以外のプレイヤーもかなりの者らしいが、1番厄介なのはリィーナ=ロックベルトだということに変わりはない」

「ゴレイヌが言うにはゲンスルーもやはりかなりの実力者らしい。一緒にいた残り2人もそれに近いレベルではあるとのことだ。正直分の悪い賭けになるだろう……」

「今さらだろう。オレ達はずっと一緒にハントして来たんだ。この程度の苦難乗り越えてやるさ」

「そうだぜ。これを乗り越えれば500億だ。やる気も増すってもんさ」

「フ、そうだな」

 

 後の1人が完全に未知数だが、それはもう仕方ないだろう。ここまで来たら後は実力で勝つしかない! この数ヶ月、あの子ども達に触発されて基礎鍛錬を充実させて来たんだ。必ず勝ってみせる!

 

 

 

 そうして勝負の時がやって来た。

 勝負の場所に選んだのはNo.000のカードを受け取った城下町リーメイロから少し離れた場所にある山岳地帯。

 ここなら遠くから覗く者もいないだろう。能力を使用したバトルになるだろうからな。そういう点も配慮しなければならん。

 

 そしてリィーナ組がやって来たのだが……。

 

「お待たせいたしましたツェズゲラさん」

「あ、ああ……いや、たいして待ってはいませんよ」

 

 ……12人もいるとは思ってもいなかったよ。

 隣にいるゴレイヌを見ても首を振る始末。ずっと4人でプレイしていたから、仲間がいても1人か2人くらいが精々と思っていたのだが……。しかもあの子ども達までいるじゃないか。リィーナ=ロックベルトの関係者だったのか?

 まあそれはいい。人数が多いのも問題ない。どれほど仲間がいようとも試合に出られるのは5人までだ。

 

「それで、試合のルールなのですが……」

「ああ、それですか。そうですね……」

 

 そう言えば細かいルールを決めていなかったな。

 ふむ、あまり命の危険がないようなルールにはしたいな。クリアの為とは言え死にたくはない。もしリィーナ=ロックベルトと当たったら殺されるかもしれんからな。

 

「目突きや金的、そして相手を殺してしまった場合は反則負けというのは?」

「分かりました。こちらも殺すつもりなどございませんからね」

 

 良かった、呑んでくれたか。

 これで誰かが殺されるという最悪の事態は避けられたな。

 

「それではこれが私たちの代表と順番となります」

「はい。これが私たちの代表と順番だ。確認を」

 

 お互いに作っておいた代表とその戦闘の順番を書いた紙を渡す。

 さて、リィーナ=ロックベルトはどの場所に……なんだこれは?

 

「その、リィーナ殿に質問が……」

「はい、何でございましょう?」

「これは、その……ちゃんと考えて作ったのでしょうか?」

「いえ? ジャンケンで選んだ代表に同じくジャンケンで順番を決めただけでございますが?」

 

 馬鹿にしてるのかおい?

 ゲンスルーはいい。キルアもだ。彼は若輩ながら確かな実力を選考会で示したからな。だがカストロとは誰だ! アイシャとはなんだ!? レオリオは治療系念能力者だろうが!

 リィーナ=ロックベルトの名前はどこにも載っていない。最大戦力抜きで勝てると思っているのか!?

 

 どうやら我々を随分侮っているようだな。いいだろう。それが愚かな選択だったと教えてやる!

 

 


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