どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第六十二話

 アイシャがキメラアントの巣に近付いている中、ゴン達も順調にアイシャへと近付いていた。

 そしてその途中で見つけたのは1つの村だ。山の麓にある村だが、そこには人1人いなかった。あったのは散乱した衣服や自然から作られた何かしらの道具だけだ。そこからキメラアントの襲撃があったのだろうとゴン達は予想する。

 

「……何か臭うよ」

 

 村を調べている最中にゴンが異臭に気付く。

 ゴンの嗅覚は犬のそれに匹敵しており、この場の誰よりも早く異臭に気付いたのだ。

 

 ゴンの案内で異臭のする方角を調べる一行。

 するとそこには複数の木にそれぞれ1匹の大きな獣が突き刺さっているという不気味なオブジェがあった。どうやら異臭の原因はあの獣が腐敗した為らしい。

 

「まるで早贄だ」

「ああ、鴃の早贄だな」

「何だそれ?」

 

 キルアの質問にクラピカが詳しく説明をする。

 鴃とは捕らえた餌を木の枝などに刺すという独特の習性を持つ鳥の一種だ。だが鳥なので捕らえる餌は昆虫や節足動物、大きくても小型の鳥類がいいとこだ。

 しかし突き刺さっているのはゴンやキルアよりも大きな動物たちだ。一体誰がこんなことを……そう思っていたゴン達の元に、早贄の持ち主が自ら姿を現した。

 

「おい」

『!?』

 

 それは完全に気配を消してゴン達に近付いていた。気配を完全に消せることにカイトが僅かに驚く。

 ゴン達の裏にある木々の合間から現れたのは人間ではない何か。顔つきはどことなく兎をイメージさせるが、顔自体は人間に近いものがある。腕には鳥の羽のようなモノが生えていた。まるで幾つもの生物を組み合わせたかのような生物。

 

 これがキメラアントだろうと全員が確信する。まさにキメラだ。

 

「ゴミども、それはオレのだ。近付くなっ!」

 

 早贄に近付かれたことを自らの獲物を奪われると思ったのか、そのキメラアントは一瞬で激昂してゴン達へと攻撃を仕掛けてきた。

 だがゴン達がそれに動揺することはなかった。この程度の不意打ちに対応出来ないような修行は受けていないのだ。

 

 ゴン達は急速に駆けて来たキメラアントに瞬時に臨戦態勢に入る。

 それを見てそのキメラアントもゴン達の実力をある程度だが理解し、勢いを殺して後方へと跳び下がる。

 

「……レアモノか」

 

 5対1。念能力を覚えて調子に乗っていたそのキメラアントだが、それでもこの戦力差を計れない程愚かではない。人の血が混ざってはいるが、野生に生きる動物たちも元となっているのだ。相手の力を本能的に察したのだ。

 

「1匹か。じゃあこいつはオレがやる」

「おい兄貴。勝手に決めんなよな、オレにやらせろよ」

「待て。キメラアントの力を計るいい機会だ。私にやらせてもらおう」

「ずるいよ3人とも! ここはいつも通り【ジャンケン】で決めようよ!」

「お前なんかそのジャンケンに不吉な括りを入れてないか?」

 

 ゴンの言うジャンケンをすれば命の危機に陥るような錯覚を覚える3人。

 

「……最初はグーは無しで行こうぜ」

「賛成だ」

「右に同じ」

「えー。何かそれだと調子出ないんだけどなぁ」

 

 そんな調子の出し方をするなと3人の心が一致した。

 

「まあいいや。それじゃいくよ!」

『ジャンケン! ポン!』

 

 ゴンはチョキ、キルアとクラピカとミルキは揃ってパー。つまりゴンの勝ちだ。

 

「やった!」

「くっそー」

「く、ゴンはグーで来るという思い込みが……」

「オレもだ……」

 

 ゴンと言えばグーという何処か強迫観念に似た思い込みが3人の思考を制限してしまったのだ。全く以てどうでもいいことであるが。

 

「……貴様ら舐めてるだろ」

 

 明らかに敵である自身を舐めた行動を取る4人に対し、キメラアントは完全に切れていた。カイトも無理はないと若干そのキメラアントに同意していたが。

 

「別に舐めてないよ。ところでさ、オレが勝ったらもう人間は食べないって約束してくれる? そうすればオレに負けてもキミは死ななくてもすむんだけど」

「っ! それがっ! 舐めてるって言うんだよ糞ガキがぁっ!!」

 

 ゴンの優しさと甘さから来るその言葉は、キメラアントへの挑発として最適の効果を発揮した。

 怒り狂ったキメラアントは全身のオーラを高めてゴンへと突進してくる。そのオーラを右腕の羽から生やした刃に集め、ゴンの首を切り裂こうと一閃する。

 このキメラアントは本来かなり嗜虐的な性格をしており、獲物はひと思いに殺さず嬲って楽しむタイプだが、今回はあまりの怒りに楽しむことも忘れ完全に殺しに掛かっていた。

 

 だがそんな逆上して行った単調な攻撃を読めないゴンではない。

 鋭い一撃を攻撃した腕の側、つまりキメラアントの右側へと躱し、追撃を容易に行えない位置へと移動する。

 キメラアントがゴンの方向へと向き直そうとするが、ゴンはその前に攻撃して伸びきった右腕の関節を強く蹴り上げる。

 

「ギッ!?」

 

 蹴り上げられた腕の関節は完全に折れてしまった。

 その痛みに顔を顰めているキメラアント。だがゴンの攻撃はそれで終わっていなかった。顎を打ち抜くようにアッパーカットですくい上げる。その一撃のあまりの威力にキメラアントは大地から足が離れ空へと浮かび上がった。

 そしてゴンは止めの一撃の準備に入った。

 

「最初はグー!」

 

 腰だめに構えた拳に圧倒的なオーラが集中していく。

 空中に飛ばされたキメラアントはそれを見て背筋を凍らせた。

 

 ――な、なんてオーラだっ!!――

 

 まともに喰らえば完全に死んでしまう。そう思わせるには十分過ぎるオーラがゴンの右拳に集まっていた。

 このままでは殺される。逃げなければ。そう思い、空を飛んで逃げようとするキメラアント。両腕の羽は飾りではない。鳥類の血を反映させた彼は空を飛んで逃げることもできるのだ。

 大地を這うことしか出来ない人間風情が。この痛みは万倍にして返してやる!

 そう思ったキメラアントは、しかし飛ぶことも出来ずにそのまま大地へと墜ちてゆく。

 

 ――み、右腕が!?――

 

 そう、彼の右腕はゴンの攻撃によって折られているのだ。

 そんな状態でまともに飛ぶことなど出来るわけがない。彼に出来たのは精々落下地点を僅かにずらしたくらいだった。そしてその程度でゴンの攻撃から逃れられるわけもなかった。

 

「ジャンケングー!!」

「!!?」

 

 ゴンの【ジャンケングー】を腹部に食らったキメラアントは、まともな発音で叫ぶことも出来ずに上半身と下半身が分かれて吹き飛んでいった。

 例えキメラアントの持つ生命力でも死は免れない程の破壊。頭が無事ならしばらくは生き延び意識もあるだろうが、ある意味その方が地獄と言えるだろう。

 

「相変わらずおっそろしいな」

「だが少し過剰だな」

「ああ。ゴン、これから先どれだけの敵がいるか分からないんだ。もう少しオーラを節約していけよ」

「うん。オレも彼らがどれだけの耐久力があるか分からなかったから少しやり過ぎちゃった。でも手応えではすごく硬かった。半端な攻撃じゃ弾かれてたと思う。昆虫の頑強さと人間の柔軟さを持ち合わせているみたい」

 

 ゴンも初めてのキメラアント戦に少々力を入れすぎたようだ。

 だが一戦したおかげで敵のポテンシャルの一部が理解出来たようだ。

 

「そうか。やっぱり厄介みたいだなキメラアント」

「それだけじゃない。アレは精々兵隊クラス。それが念能力を使っていたんだ。これから先は全てのキメラアントが念を扱えると思って行動した方が無難だな」

「厄介だな。キメラアントの階級構成上、あれよりも強い蟻は幾らでもいる。あれと同クラスに至ってはそれこそ100じゃ利かない数がいるかもしれないだろうな」

「キル、あんまり能力は使うなよ。お前の能力はここじゃ充電出来ないからな」

「ああ、分かってる。よっぽどじゃないと使わない」

 

 先程戦ったキメラアントの情報をまとめながらこの先の為の戦術も見直す。

 特にキルアの能力はオーラを電気に変える能力。その制約として体内に電気を充電していなければならない。NGLに来る前に大量の電気を充電して来てはいるが、使い切ったら充電する場所等あるか分からないのだ。何せ機械文明を捨てているのだから。

 まあ、クラピカが言ったように何処かに麻薬の工場等の機械を操る場所には電気もあるだろうが、そう都合良く見つかると考えない方がいいだろう。

 

「……」

 

 カイトはキメラアントに関しての情報をまとめている4人を見て驚きと共に安堵する。

 

 ――これは予想以上だな――

 

 ゴンと兵隊蟻との一戦はカイトの予想通りの結果であり、そして予想以上の過程であった。

 ゴンの実力からして兵隊蟻程度には負けないとは思っていたが、それでもあそこまでの圧勝とは思ってもいなかったのだ。

 あの時の一撃は傍から見てもゾッとするものだった。まともに喰らえば完全に勝負の決まる一撃だ。

 更に驚いたのはあの一撃を当てる為のプロセスだ。隙の大きい一撃であることを理解して、相手が避けられない状況を作り出してから必殺の一撃を繰り出す。

 しかも外見から推測してあのキメラアントが空を飛べることを想定して飛んで逃げられないようにダメージを加えていた。

 

 それを見ていたキルア達3人の様子や、戦闘後の会話から、彼らもゴンと同等かそれ以上の使い手だと伺える。これはカイトにとっては嬉しい誤算というやつだった。

 

 そして一方で嬉しくない誤算もあった。

 そう、キルア達が言っているように、キメラアントが念を扱っているのだ。

 産まれてから然程の月日も経っていないはずのキメラアントが早くも念を操っている。人間と混ざったキメラアントが念能力を覚える懸念はカイトにも有ったが、それでも幾ら何でも早すぎる。

 

「む?」

 

 思考するカイトや会話していたゴン達もそれに気付く。

 少し離れた森から1つの影が飛んでいったのだ。

 

「……なるほど、部下に戦わせてこっちの手の内を探ったか」

「さっきのみたいに直情馬鹿ばかりじゃないみたいだな」

「それはこちらの情報にもなったな。一層気を引き締めよう」

 

 どうやら部下を先行させゴン達の手の内を探っていたらしい。

 その行動からキメラアントにも戦術を扱う者もいると、元々懸念はしていたが今回ので確信するゴン達。

 

「……行こう」

「ああ。アイシャに追いつかなくちゃいけないからな」

「ああ。それに時間を置けば置くほどキメラアントの利になるだけだ」

「そうだな。奴らがまだ念の初心者の内に潰すのが1番だ」

 

 ゴン達の顔を見て、カイトはゴン達に覚悟の有無を確認する必要がないと判断する。

 ここから先は勝っても負けても地獄を味わうことになるだろう。数多のキメラアントと命懸けの戦闘、いや、戦争をするのだから。

 だがゴン達は既にその覚悟が出来ていた。仲間内では1番甘いゴンでさえ敵を殺すことへの躊躇を切り捨てた。そうしなければ自分だけでなく仲間まで、いや世界そのものを危険に晒すと理解しているのだ。

 

「それじゃ行こうか」

『おう!』

 

 そうしてゴン達は前へと進む。アイシャは、そしてキメラアントの巣は近い。

 

 

 

 

 

 

 今、キメラアントの巣で師団長が一箇所に集まって会議をしていた。

 本来自由奔放で勝手な行動をするキメラアントが多い中、こうして師団長が揃って会議しているのには理由があった。

 

「殺せばいいだけの話だ」

「賛成だな。強いって言っても所詮は兵隊長を倒したくらいだろ?」

「だがユンジュ達も殺られている。他にも連絡の途絶えた部隊もある。舐めて掛かるとこっちが殺られるぞ?」

「ユンジュからの信号では敵はたった1人って話だ。コルトの言う奴らとは別に動いている人間のようだな」

「1人で動いているってことは余程自信があるんだなその人間」

「事実既に2個師団がその人間1人に壊滅させられているんだぞ。早期に殺すべきだ」

「だが相手の実力を知らずに無闇に攻めても戦力を無駄に浪費するだけだぞ」

「じゃあ黙ってそいつが巣に来るのを待ってるってのか?」

「ここまで来たら総力を上げて殺せばいい。その方が確実だ」

「遠征に出ないでずっと待ってろって言うのかよ!?」

 

 等とそれぞれが各々の意見を言い合う。

 だがやはり人間と混ざった為か、キメラアントの性格にも個性が大きく出ており中々意見がまとまらないでいた。

 そんな師団長に対し、あるキメラアント達が意見を申し出た。……いや、それは意見ではない。命令だった。

 

「餌を取ってこないと王にちゃんとした栄養がいかないんだよね」

「そのレアモノ達を殺して女王の餌にすればいい。それだけのこと……」

「めんどくせーな。お前ら全員で殺しに行けばいいだけだろ?」

 

 その言葉に師団長全員が息を呑み、会話を止める。それは圧倒的上位から齎された恐怖が原因だ。普段まとまった行動を取ることのない者が多い師団長が、全員集まって会議じみた行為をしているのもこの3者が原因だ。

 

 王直属護衛軍の1人ネフェルピトー。

 同じくシャウアプフ。

 同じくモントゥトゥユピー。

 

 師団長等とは産まれた時から格が違う存在。

 念能力を覚え、調子に乗っていた師団長達が全員頭を垂れる程の実力を産まれながらに有する存在。

 勝てるわけがない。見た瞬間にそう思わせるオーラを放つ化け物。それが王直属護衛軍だ。

 

 本来の歴史に置いてはこのタイミングで目覚めているのはネフェルピトーのみのはずだった。シャウアプフもネフェルピトーに僅かに遅れて目覚めるが、それでもまだ目覚めるには少し早く、モントゥトゥユピーに至ってはもっと遅れて目覚めているはずだった。

 だが、蝶の羽ばたきが歴史を変えてしまった。

 

 キメラアントが餌にしたレアモノ、念能力者の数が本来の歴史よりも多いのだ。

 キメラアントの調査に来ていたハンター達はその犠牲者を大きく減らしている。だが、NGL内にいた念能力者の数が史実と比べて圧倒的に増えていたのだ。

 それはある1冊の書物が原因だった。NGLを支配していた者達が念能力について細かく書かれたその書を読んだ為、NGLの裏を牛耳る連中が能力者となっていたのだ。

 

 そしてそれはキメラアントの女王にとって最高のご馳走となってしまった。

 本来よりも多くの栄養を確保出来た女王は、王直属護衛隊へ回す栄養を早めに摂取出来たのだ。

 もちろん念能力者が多かった為にキメラアントの犠牲も多かったが、多少の犠牲など女王にとっては些事に過ぎない。女王にとって大事なのはただ1つ、王のみなのだから。

 

 幾ら念能力者が多かったといえ、キメラアントの持つポテンシャルと数に圧倒され、多くの念能力者が女王の餌となってしまった。

 唯一NGLのトップだけは逃げ延びたが。逃げ延びたトップは今も何処かで再起を伺っているが、それはここでは意味のないことなので話を戻そう。

 

 とにかく、女王が多くの栄養を摂取したことにより護衛軍は早くに目覚めてしまった。唯一モントゥトゥユピーのみ魔獣をベースとしたキメラである為その中でも遅く産まれてきたが、それでも本来の歴史よりも早くに目覚めることとなった。

 

 そんな彼ら護衛軍のすべきことはただ1つ。

 

《全ては王の為に!》

 

 そう、それのみを掲げて護衛軍は生きている。

 王以外のモノは全てが瑣末事に過ぎず、そこには己の命すら入っていた。

 王の為なら己の命すら必要としない。己の全てを懸けて王に忠誠を尽くす。だからこそ王直属護衛軍なのだ。

 

 女王に一応の忠誠を捧げているが、王が産まれればその瞬間に女王のことなど護衛軍の頭から消えてなくなるだろう。

 だが今はまだ女王を重んじている。忠誠を誓うべき王を身篭っているから当然の話だ。ここで女王が死んでしまえば彼らの存在意義は無くなってしまうのだから。

 

「巣を空にするわけにはいかない。彼らは陽動なのかもしれないのだから」

「ん~。女王を殺す為に巣に侵入してくるかもしれないってこと?」

「そういうことです。巣の戦力を減らしてしまえば別の敵が攻めてくるやも……」

「でもボクの円で警戒しているから侵入者はすぐに分かるよ?」

「念は奥が深い……瞬間移動で女王の真横に現れないとも限らない……警戒のし過ぎはない、それだけのこと……」

 

 物事を考えるのが苦手なモントゥトゥユピーを除いてネフェルピトーとシャウアプフの間だけで話が進んでいく。モントゥトゥユピーは話を理解するのが面倒になって来て欠伸をしていた。

 

「ユピー、少しは真面目に考えてはどうですか?」

「悪いが難しい話はお前らに任す。オレは王の為に敵を殺すだけだ」

 

 何よりも愚直で純粋な答えを返されてはシャウアプフも文句の1つも言えなかった。溜め息を1つ吐いて、シャウアプフは周りの師団長に命を下す。

 

「貴方達の裁量で師団を動かして敵を殺してきなさい。殺した敵はその日の内に必ず女王に届けることです。女王には豊富な栄養を摂取してもらわねばなりませんからね」

『……はっ!』

 

 結局は師団長の会議など意味を為さなかった。全てはシャウアプフの一言で決まったのだから。

 これにより師団長達が各個撃破されたとしても護衛軍はそれを意に止めない。護衛軍が倒されることで戦力が減る等とは露ほどにも思っていないのだ。

 何故なら王を守るのに自身たちさえいればいいと信じきっているからだ。師団長など瑣末事を片付ける為の道具程度にしか感じていなかった。戦力にすら換算されていないのだ。

 それを師団長達は理解しつつも逆らうことは出来ない。逆らったところで待っているのは死だけだからだ。彼らに出来ることは誰が人間を殺しに行くかを決めるくらいのものだった。

 

 

 

 

 

 

 アイシャはキメラアントの巣を肉眼で確認出来る位置まで近付いていた。と言っても実際の距離はまだ数十キロ以上離れているが。

 巣が巨大なことと、障害物がないこと、アイシャの視力が異常なことによりその距離からも巣が確認出来ただけだ。

 そして巣を視認したことでアイシャは巣の中にいる力ある存在をより強く認識した。

 

 3体の突出した力を持つキメラアントがいる。以前にも感じたその力を今はもっと肌で感じ取れていた。その3体だけで他のキメラアントの総力を上回っていると確信出来るほどの実力。

 3体を同時に相手すれば自身でも危ういだろう。まさかそこまでの力の持ち主が既に3体も産まれているとは流石にアイシャも予想外だった。

 

 ――何とか1体ずつ誘き寄せられれば――

 

 流石にそう上手く行くかは分からないが、1対3の状況に陥るのは避けなければならない。いや、場合によっては全てを無視して女王を殺しさえすれば、最悪の状況を生み出すことはなくなるだろうが。

 その場合待っているのは高確率で自身の死だろうとアイシャも理解している。数多のキメラアントに囲まれた状況で、特にこの3体がいればアイシャでも逃げきれるかどうか……。

 

 当初とは予定が違うが、討伐隊として来るであろうネテロを待つのも手の1つかとアイシャは考える。

 アイシャがキメラアントについて報告してから既に幾日も経っている。早かったら既に討伐隊が差し向けられているだろう。その中にはネテロもいるはずだ。ネテロと2人で組めばこの程度の戦力ならば突破出来るはず。そうなれば王が産まれる前に方を付けることも可能だろう。

 

 そうして今後の方針を考えていたアイシャは複数のキメラアントの気配を察知する。

 巣から多くの部隊が出て来たようだ。その動きから何かを探しているのをアイシャは理解する。

 恐らくアイシャを探しているのだろう。巣から出てきたキメラアントは工場へ向かう部隊とアイシャが敵の師団を壊滅させた辺りに向かう部隊との二手に分かれたからだ。

 

 好都合だ。少しでも戦力を減らしておくにこしたことはない。

 3体の強者が巣にいることを確認し、アイシャは自分に近いキメラアントの部隊へと奇襲を仕掛けるために移動を開始した。

 

 

 

 完全に気配を消したアイシャは樹上にてキメラアントの師団を確認する。

 どうやら複数の師団がまとまって行動しているらしい。二手に分かれたとはいえ戦力が集中しているのは各個撃破を避けるためか。

 少しは考えて行動しているようだ。だが、それでもキメラアント達はアイシャを過小評価していた。

 

 アイシャは樹上から4体のキメラアントを見つけ出す。

 纏うオーラや雰囲気からそれらが師団長クラスだと判断したアイシャは、匂いによって気付かれる前に奇襲を敢行した。

 

 音を消して1体の師団長の頭上から攻撃を加える。

 その師団長はアイシャはおろか、浸透掌を受けたことにより死んだことにも気付かずにこの世を去った。

 

「は?」

 

 突然自分たちの隊長が殺されたことに周りのキメラアントが呆気に取られる。

 アイシャはキメラアント達が正気に戻る前に一瞬でその場から離れた。移動先は別の師団長だ。統率の取れている隊を瓦解させるには統率者を倒すのが1番だ。

 そうしてキメラアント達が動揺して、仲間へと信号を送ることも出来ていない内にアイシャは1番近くにいた2体目の師団長の首を捻じ切った。

 

「て、敵襲だーーっ!!」

 

 そうなって初めてキメラアントはアイシャの存在に気付いた。信号を送り、仲間へとアイシャの存在を知らしめる。

 

 “ゴラン隊長、そしてゼム隊長死亡! 敵は素早く動き回って次々と仲間を殺しています!”

 “落ち着け!! ゴラン隊とゼム隊は私の指揮下に入れ! バイタル隊は前へ! ゴラン隊はバイタル隊と合流せよ! ゼム隊とポコロ隊はバイタル隊をフォローしろ! 陣形を崩すな! 敵の思う壺だぞ!”

 

 師団長の1人がそれぞれの部隊へと信号を送り指揮を取るもキメラアントの混乱は収まらない。元々まとまって行動することを苦手とする者達が多いのがキメラアントだ、こうした連携は不得手なのだろう。

 人間が混ざったことにより様々な利点を手に入れたキメラアントではあったが、それが故に我が強くなりすぎて連携を取ることが上手く出来ないのだ。

 まあ、産まれて然程時間が経っていないのも理由の1つでもあるが。キメラアントが経験を積めば全てに置いて人間を凌駕する可能性があるのだから恐ろしい話である。

 

 次々と仲間達の信号が減っていくことに恐怖を抱くキメラアント達。

 それが更なる混乱を呼び、まともに姿を見せず強襲と離脱を繰り返すアイシャを捉えることが出来ないでいた。

 アイシャは兵隊長クラスを見つけるとそこに強襲し、一瞬で兵隊長を破壊してその勢いで周りにいる戦闘蟻を瞬殺していく。

 そうして一部隊を壊滅させるとまた樹上へと移動し姿を隠す。時折樹上にもキメラアント達がいるが、それすらアイシャによって瞬く間に壊滅させられる。

 

 ――ん? 視線?――

 

 アイシャは何処からか自身を見つめる視線に気付く。そしてそれと同時にオーラが僅かにだが減少したことも感じ取った。

 いや、減少した、ではない。減少し続けているが正解だ。このオーラの減り方には覚えがあった。そう、【ボス属性】が発動しているのだ。つまりアイシャは何らかの念能力の影響下にあるということ。

 

 だがその原因を探す前にキメラアント達がアイシャに向かってやって来るのを察知した。匂いで気付かれたのか、何らかの念能力か、奴らの誰かが視線の持ち主なのか、それともたまたまか。

 詳しくはまだ分からないが、アイシャはまずその兵隊長達を迎撃することに専念する。

 

「いたぞ! 殺せ!」

 

 兵隊長クラスと戦闘蟻が複数で同時にアイシャに攻撃を仕掛ける。

 アイシャはそれを素早く捌き、敵の攻撃を別の敵でガードすることで同士討ちを計る。更に力の流れを支配し幾つかの攻撃は相手自身へと返した。そこから生きている者へ止めを加える。

 

 そうしてその場を離れるが、またも別の部隊がアイシャに向かってくる。

 偶然ではない。確実に何かがアイシャを探知している。アイシャはそれを確認する為に周囲を集中して観察する。

 

 ――……この視線! 複数からの視線だが、気配は同一!――

 

 そうしてアイシャは視線の正体を見つける。

 アイシャの周囲にいる数匹のトンボが視線の正体だ。ただのトンボかと思いきや、どうやらこれもキメラアントの仲間か念の一種のようだ。

 アイシャは恐らく探索系の念能力だと推測する。このトンボが映した映像を何処かで本体が受信しているのだろう。

 つまり本体は安全な位置から戦場を見張っているはず……。

 

 ――上か!――

 

 アイシャは上空に意識を飛ばし、1体のキメラアントを確認する。

 そこにいたのはトンボを元にしたかのようなキメラアント。間違いなくあれが本体だと判断する。

 

 “フラッタから各隊へ、敵は新たにポイント――”

 

 フラッタ――トンボのようなキメラアント――はアイシャの位置を【衛星蜻蛉/サテライトンボ】と言う能力で創り出した複数のトンボで視認していた。

 【衛星蜻蛉/サテライトンボ】が視認した映像は、フラッタの【超複眼/スーパーアイ】に受信され、あらゆる角度から対象を観察することが出来る。

 アイシャは【ボス属性】を有している為、アイシャの肉体は【衛星蜻蛉/サテライトンボ】には映らないが、その身に纏っている衣服は別だ。

 フラッタも衣服しか映っていないのは不思議に思っていたが、敵の居場所が分かれば問題はないと考えていた。

 

 とにかく、原因が分かればこの程度はアイシャにとって何の問題もない。頭上にいれば安全だと考えていたキメラアントは愚かとしか言い様がなかった。念能力者の戦闘に絶対はないのだから。

 

 アイシャは上空にいるフラッタに向けてオーラ弾を放つ。

 圧縮されたオーラ弾は仲間へとアイシャの位置を教えていたフラッタの股間から脳天までを貫いた。完全に即死である。

 即死したフラッタはそのまま大地へと落ちていった。アイシャはそれを確認し、すぐに自身に向かってきている部隊の殲滅に移る。

 

 次々と部隊を壊滅させていくアイシャ。

 それを戦場から離れた位置にいる2匹のキメラアントが恐々と見つめていた。

 

「何あれ……あいつ絶対人間じゃないですよハギャ様!」

「……」

 

 ハギャと呼ばれたライオン型のキメラアントと、その隣に立つ人間に近い見た目のキメラアントがアイシャを見て恐れを抱いていた。

 人間とは思えないその戦闘力。そう、あれではまるで護衛軍のようではないか。そう思わせる実力をまざまざと見せられたのだ。

 部下であるフラッタをレアモノ捕獲部隊に貸与え、自身は敵の戦力を計るために離れた位置から戦場を確認していたのだが、まさかここまでとは思ってもいなかった。

 

「……退くぞ」

「賛成! あんなの相手にしてられないですよね!」

 

 今は無理をするべき時ではない。かつては己が絶対強者だと思っていたが、上には上がいると知った。生まれ変わって強くなったが、それでもやはり上というのは存在することを護衛軍で学習した。

 そう、学習することが1番の武器なのだ。ここで無理をしても無駄死にするだけだ。

 ハギャはそう考えてその場を離れた。そしてハギャ達が移動した一瞬後、ハギャ達が元いた位置をアイシャのオーラ弾が2つ通り過ぎていった。

 

「ひえっ!?」

「なん……だと?」

 

 当たらなかったのは運が良かっただけだ。この場は退くと判断して離れていなければ、今の攻撃はハギャ達の体に確実に当たっていただろう。

 攻撃を放ったであろうアイシャを確認することもなく、すぐにその場から離れる2匹。全力で走り、戦場から大きく離れた所でようやく一息つく。

 

「はぁっ! はぁっ!」

「し、死ぬ、殺されるぅー!」

 

 2体とも体力以上に精神力が焦燥しきっていた。

 まさかあの位置にいても安全ではないとは思ってもいなかったのだ。

 一瞬の油断が生死を分ける。その野生の常識は分かっていたが、まだ世界の広さを知らないキメラアント達であった。

 

 

 

 アイシャは全ての部隊を壊滅させるが、かなりの時間が掛かってしまった。

 さすがのアイシャも向かってくる者達はともかく、途中から逃げ出し奔走したキメラアントを残さず倒しきるのは少々手間がいることだった。

 確実に何体かのキメラアントは逃がしただろうが、それは誤差の範囲だとアイシャも諦める。

 

 逃げ惑う敵を追いながら殲滅戦をしていたので、大分敵陣の奥に入り込んだようだ。だが元々の目的の為にはそれも好都合だ。上手く3体の強者の内の1体でも釣れないかどうかを確認してみるのも手の1つと考える。

 そうしてアイシャはキメラアントの巣から数km離れた位置から巨大な巣を眺める。

 

 あの中に女王がいるのだろう。女王を守る為か、信じがたい程に巨大な円が巣を覆っていた。アメーバ状に変化する円は一部で最大2km程には延びていた。これに触れれば円の使用者にアイシャの存在は簡単に察知されるだろう。

 

 ――これ程の円、そしてこの不気味なオーラ……確実に3体の内の1体――

 

 これにわざと触れることでその1体を誘き寄せるか……そう考えるも、残りの2体が同時に出てくる可能性もあると逡巡するアイシャ。

 いや、師団長のみにアイシャの捜索を任せていたということは、3体全てがアイシャを攻撃しに出てくるとは考えにくい。

 女王を守る手勢として確実に1体は残っているだろう。ならば上手くすればここで3体の内の1体を倒すことが出来るやも……。

 

 そう考え、円の範囲内へと移動しようかと思っていたアイシャはある存在を見つけた。

 キメラアントの巣から、1体のキメラアントが姿を現したのだ。

 

 ――アレは!――

 

 一目見た瞬間に理解した。アレこそがずっと感じていた強大な力の持ち主、その1人だと。身に纏うオーラから、円を発動していたのはあのキメラアントだとアイシャは確信する。

 そのキメラアントがある一点を見つめていた。しかも両足が膨れ上がり、姿勢からもその場から跳び立とうとしていることが分かる。

 

 円の持ち主――巣から出てきた――何かを見つけ――跳び立とうとしている――師団長ではなく――より上位のキメラアントが。

 その情報からあのキメラアントの狙いが自分以外の存在だと理解し、アイシャはキメラアントが見つめていた方向へと視線と意識を向ける。

 

 瞬間、アイシャとキメラアント――ネフェルピトー――は同時にその場から跳び立った。

 








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