どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第六十五話

「……アイシャの、勝ちだ」
「す、凄いものを見た」
「やっぱりアイシャは最高だ!」
「落ち着けよ兄貴」
「ふぅ、だが、これで少しは一段落したな」

 ネフェルピトーが崩れ落ち、死闘を制したアイシャへと駆け寄ろうとしたゴン達。
 だが、アイシャはゴン達に振り返りもせずに、死体となったはずのネフェルピトーを未だに警戒していた。

「来るな!」

 そしてアイシャは近寄って来るゴン達を一喝して制する。
 未だ臨戦態勢を解かずにネフェルピトーを見やるアイシャにゴン達も怪訝に思うもその場に留まり、そして次の瞬間に信じられないモノを見た。

『!?』

 誰もが驚愕した。己の眼を疑った。信じられなかった。
 確かに死んだはずだ。顔の穴という穴から血を吹き出していた。糸が切れたかのように倒れ伏した様は人形を思わせるようだった。生気は完全に失くなっており、誰が見ても死体だと判断していただろう。

 それが再び動き出したのだ。
 一切の予備動作もなく、アイシャへ向かって両の鋭い爪を揃えて突撃してくるネフェルピトー。アイシャは今まででも最速のその攻撃を縮地にて躱す。
 今までオーラの消耗を避ける為に使用していなかったが、命には代えられない。当たっていればアイシャでも致命傷を免れかねない攻撃だったのだ。

 アイシャは縮地で僅かに体をずらして攻撃を回避しながら、真横を通り過ぎゆくネフェルピトーの頸部に中高一本拳を突き入れる。
 骨が砕けた音が周囲に響き渡る。手応えからも完全に頚椎が砕けたと実感するが、ネフェルピトーは未だ動いていた。

「な、何だあれは!?」
「ま、まさか……!」
「死者の念か!」

 そう、ネフェルピトーは完全に死んでいた。
 生命力が強靭なキメラアントでも、脳が破壊されたら生命活動を停止する。だが、それでもなおネフェルピトーは動いていた。
 ネフェルピトーを動かしているのは己自身の能力【黒子舞想/テレプシコーラ】。それが死者の念となって暴走し、死体となった本体を動かし続けているのだ。

 念というのは術者が死ねば消える物が殆どだ。だが、稀にそうではない物がある。それが死者の念だ。深い恨みや未練を残したまま死ぬと、その念はより強大になって残ることがあるのだ。
 もちろん【黒子舞想/テレプシコーラ】もそうだ。つまりはネフェルピトーは相当な未練を残して死んだということ。では、その未練とは……考えるまでもないだろう。

 全ては王の為。王の為! 王の為!!
 己の全てを王に捧げる為に産まれた。それだけが存在理由。王の役に立てない護衛軍など存在する価値がない。
 王の為。その為にすべきことを成す為に、死者の念はネフェルピトーを動かし続ける。

 王の為に何をすればいい?
 目の前の敵を殺す?
 だが敵は強大だ。殺す前に壊される。
 ならばどうする? どうする? どうする?

 アイシャの念能力と違い、元々死後を想定していなかった念能力故に、死者の念となった【黒子舞想/テレプシコーラ】は完全に暴走している。
 だがそれでも、王を想う感情の大きさ故か、ネフェルピトーは王の為に最善を尽くそうとする。

 死者の念でより強大になったが、それでもアイシャには届かない。肉体が自身の動きに耐えられないのだ。このままアイシャと戦っても自滅するか、【黒子舞想/テレプシコーラ】でも操作出来ない程の破壊を受けてそれで終わりだろう。
 つまりそれは王の為にはならないということ。そんなことが許されるわけがない!

 ならばこの身で王の為に出来ることはただ1つ!

 ネフェルピトーは砕けた足で大地を蹴り、操り人形のようにバラバラの関節の四肢を使って高速で這うようにその場から離れていく。死者の念で強大になった【黒子舞想/テレプシコーラ】が壊れた肉体すら無理やりに操って動かしているのだ。

 行き先はアイシャの元、ではなく、キメラアントの巣だった。

「なに!?」

 これにはアイシャも驚愕した。まさか敵を目の前にして逃げるとは思ってもいなかった。敵を倒す為に出来た死者の念が逃走などという行動に出るとはアイシャでも想像出来なかったのだ。
 だがアイシャは勘違いしていた。ネフェルピトーは決して敵を殺す為に死者の念を産みだしたのではない。
 全ては王の為に! 王の役に立つ為に、産まれてから一度も王の役に立つことが出来なかったその無念こそが死者の念を産みだしたのだ。

 アイシャという最大の外敵を倒すことは確かに王の為になるだろう。
 だがそれが叶わないなら、ここで朽ち果てるだけならば、それはただの役立たずで終わることになる。それでは王の役に立つことは出来ない。
 だから、最初で最期の奉公をする為に、巣へと戻ったのだ。

 アイシャには理解出来ないこの行動に、アイシャの中の何かが警鐘を鳴らしていた。

 ――アレを巣に行かせてはならない!――

 アイシャは去りゆくネフェルピトーに向かってオーラ砲を放つ。
 人1人など軽く飲み込む程のオーラ砲がネフェルピトーの体へと放たれるが、ネフェルピトーは周囲にある木に尾を巻きつけてそれを躱す。
 完全には躱しきれず右腕が消し飛ぶが、死体がそんな損傷など全く意に介すわけもなく、ネフェルピトーはそのままシャウアプフが展開している円の中に入り込んだ。

「くっ!」

 ――どうする? 追うか? いや、あの中にはアレに匹敵する蟻がまだ2匹いる!――

 アイシャは僅かに悩み、そしてゴン達に振り返る。

「あなた達はもう帰りなさい! あそこには先程の蟻と同レベルの存在があと2匹います。あなた達では――」
「――オレ達じゃ役立たずだって言いたいの?」

 ゴンのその真っ直ぐで突き刺すような瞳は、今のアイシャには何故か痛かった。

「――! ……そ、そうです。だから――」
「――だから帰れっていうのか?」

 キルアの睨みつけるような瞳がアイシャの心をえぐる。

「……ええ、そうです。帰って――」
「――帰ってどうしろと? 仲間が、友が傷付いて戦っているのを知りながらのんびりしてろと?」

 クラピカの厳しくも暖かい言葉がアイシャを苛む。

「わ、私は傷付いてなどいません。精々かすり傷が良いところです。あんなの後2匹くらい――」
「――傷付いてるだろうが! お前、どんな顔であいつに止めを刺したか分かって言ってんのか!」

 ミルキの叫びが、アイシャの胸に浸透していく。

「……え?」
「そんな泣きそうな顔しながら帰れって言われて、はい帰りますって言えるわけないだろうが!」
「優しいお前のことだ。敵に止めを刺すことがどれだけ辛かったか……」
「オレ達はアイシャより弱い。でも、アイシャの助けになるくらいは出来るよ」
「少しくらいなら支えてやれるから、ちょっとは頼れよ」

 ゴン達の言葉が次々とアイシャの胸を打つ。
 それはキメラアントを殺していく度に冷えていったアイシャの心を解きほぐしていった。

「あ……で、でも……」
「あんたの気持ちも分かるが、こいつ等の気持ちも汲んでやってくれ」
「あ、あなたは……?」
「オレはカイト。こいつ等と道中一緒になってな。目的はあんたと同じキメラアント退治だ。まあ、予測が甘くて死ぬ思いをしたところをあんたに助けられたんだがな。あの時は助かった、礼を言うよ」
「あなたがカイトさん……話はゴンから良く聞いています」

 礼を言うカイトに対して逆に頭を下げるアイシャ。
 そんなアイシャに苦笑しつつ、カイトはアイシャに語りかける。

「オレもこいつ等に色々と助けられた。子ども子どもと思っていても、何時の間にか成長してるもんだ。年上はそれに気付きたくないのか、中々分かってやれないんだがな」
「……そうですね。いつの間にか成長してる。体だけじゃなく、心も……」

 今もアイシャはゴン達に救われた気持ちになっていた。
 先程まで心の隅にあった鬱屈した想いが軽くなっていくのをアイシャは感じる。
 それはゴン達に言われるまで自分でも気付かなかった想い。
 ゴン達に指摘され、初めてアイシャは自身が想像以上に心を痛めていたことに気付いた。

「ですが、それでも敵は強大です」
「分かっている。あの円に触れて嫌というほど理解した。いや、あんたとあのキメラアントの戦いで、更に上だと知った」
「なら……」
「だが、足止めなら出来る」

 カイトのその言葉にゴン達が力強く頷く。

「あのキメラアントと同レベルが2匹いるんでしょ?」
「オレ達が1匹受け持つ。そしたらアイシャは残った1匹に専念してくれ」
「お前が敵を倒したら、私たちを助けに来てくれればいい」
「まあ、オレ達全員で掛かれば勝てるかもしれないけどな。アイシャの戦いを見て、あいつ等にはまだ技術がないことも理解出来たし」

 最後のミルキの言葉は決して強がりではなかった。
 アイシャに匹敵するオーラに、アイシャ以上の身体能力を見て勝ち目がないと当初は思っていた。
 だが、アイシャとネフェルピトーの戦いを通じて、敵はどれだけ強大でもまだ産まれたてだと理解出来たのだ。
 ならば付け入る隙はある。全員が力を出し切れば、1体くらいなら勝てるだろうと自信を持って言えた。

「オレ達とあんたが一緒なら、女王に届く。一緒に行かせてくれ」

 カイトが頭を下げてアイシャに頼み込む。
 皆の決意を見て、そのオーラが揺るぎない物だと理解して、アイシャは溜息を吐きつつも、どこか嬉しそうに承諾した。

「分かりました。でも、危なくなったら逃げてくださいよ?」
「うん! その時はアイシャも一緒だよ!」
「ふふ、そうですね。危なくなったら一緒に逃げましょう」

 NGLに入国して、初めて笑ったアイシャ。
 まだ嫌な予感は感じるが、それでも皆と一緒なら乗り越えられる。
 そう思っていたアイシャ。

 だが、その想いはすぐに砕け散ることとなった。







「こ、これは!」
「ぴ、ピトー!?」

 キメラアントの巣は騒然となっていた。
 巣の近くまで近付いていたレアモノを捕らえに行ったはずのネフェルピトーが、死体となって帰って来たのだ。
 しかも死体でありながら動き続けている。女王の元へと凄まじい勢いで駆け寄ったその死体を、一瞬敵の念能力かとシャウアプフは疑った。
 だがネフェルピトーは女王の手前で動きを止めた。女王の近くで警護していたシャウアプフもネフェルピトーの死体が怪しい動きをしないか訝しげに見つめる。

 するとネフェルピトーは女王に跪き、その身を差し出した。

 “ネ、ネフェルピトーよ! 其方は死してなお!”

 死してなお、王の為に。
 外敵を打ち倒せないならば、せめてその身を王の糧に!
 その王への有り余る献身に、女王は感動のあまりに体を震わせた。

 “分かった。お前の献身、頂戴しよう。その身は余すことなく王に捧げられるだろう!”

 女王が発するその信号を受け取る能力はネフェルピトーにはない。単に死体だからというわけではなく、元々護衛軍の3体は信号を発信することも受信することも出来ないのだ。
 だが、女王がその信号を放ったすぐ後に、まるで安心したかのようにネフェルピトーは崩れ落ちた。

 “この忠義者を我が下に!”
「はっ!」

 王を身篭り、身動きが出来ない女王が傍で仕えるキメラアントの1体に信号を送り、シャウアプフに命令を下す。
 死体となったネフェルピトーを丁寧に抱き上げ、女王の下に運ぶシャウアプフ。
 そして女王はネフェルピトーを余すことなく食しだした。

 その食事風景を同じ場にいた師団長達の何匹かは沈痛な表情で眺める。
 餌である人間ならともかく、同族が食べられるとは思ってもいなかった。
 だが、ネフェルピトーと同じ王直属護衛軍の2匹は食べられるネフェルピトーを羨ましそうに見つめていた。

 ――王の一部になれるとは!――
 ――オレだって王の為に働きたい!――

 それが王直属護衛軍の感覚だ。
 同胞が食べられようと、それが王の為ならば善きことなのだ。喜ぶべきことであり、羨むことなのだ。
 そうして女王はネフェルピトーの全てを食べ終えた。

 “全員聞け。私は今から王を産む”

「な!? それはまだ早すぎます女王! 王がお産まれになるにはあとひと月以上は掛かると仰ってたではありませんか!」

 女王からの信号の内容を傍にいたキメラアントから聞いたシャウアプフは女王の発言に驚愕する。あまりにも早すぎるのだ。今、王を産んだとしても未熟児にしかならないだろう。

 “分かっている。だが敵はもうそこまで来ている”

「ならオレが行って殺して来ますよ!」

 モントゥトゥユピーがそう言うが、女王は頑として意見を変えなかった。

 “いえ。ネフェルピトーが殺されたのだ。お前たちでも殺られるやもしれぬ”

「ですが今王を産んでも!」

 “私の命を使う”

「な!?」

 女王はそう言ってすぐにオーラを高めていく。
 王が成熟するまで女王の計算では後2ヶ月は必要としていた。
 実際には後ひと月もせずに産まれて来るのだが、それは女王の知る由ではない。どちらにせよ敵の襲撃には間に合わないだろう。

 敵は強大だ。あの王直属護衛軍すら倒しうるのだ。しかも複数存在している。全てが護衛軍と同等の力を持つなら巣の戦力全てで当たっても負けるやもしれない。
 そうさせるわけにはいかない。そうなれば王は産まれる前に殺されてしまうからだ。
 ならば王を守る為に必要なことはなにか? 答えは簡単だ。それは王が守られる必要がない状態にまで育てばいいのだ。
 最高の餌で育まれた王ならば、外敵など一蹴するだろう。その確信が女王にはあった。だが実際には王が産まれるにはまだまだ時間を必要とした。しかし、不可能を覆し可能とする力がこの世にはあった。

 そう、念能力だ。

 女王は既に念を修めていたが、能力は作っていなかった。
 どんな能力にしようか等と悩んではいなかった。王の為になる能力にしかする気はなかったのだから。
 ただ、産まれてきた王を確認してから能力を作ろうとしていたのだが、ここに来てそれが幸を成した。

 産まれてくる子どもの成長を早める。それは本来なら女王の未熟な念能力では成し得ない程の強力な力。
 だがそれを制約と誓約で補う。自身の全てを王に捧げ、命を懸けて念能力を作り、王へと注ぐ。
 未熟なれど王を想うその気持ちが、自身の命も厭わぬその覚悟が、女王の念を形作っていく。そう、想いが念を後押しするのだ。

 “み、皆の者……お、王を。王を頼む!”

「はっ!」
「身命に賭しましても!」

 女王の最期の命に護衛軍の2匹は躊躇もなく応える。
 それに続き残りの師団長全てが頭を垂れた。

 “お、王よ……我が子よ……私には見える……其方が世界を統べる姿が……”

 女王を中心に光が広がっていく。
 そして光はやがて縮まり、徐々に女王の元に収束していく。

 “其方の名は……メル……全てを、照らす――”

 女王のその最期の信号を受け取れたキメラアントはおらず、女王は力なく息絶えた。
 そして光が収まった時、そこに女王の姿は欠片も残っていなかった。

 代わりに在ったのは1匹のキメラアント。
 その姿から放たれるのは王の威風。
 護衛軍すら一線を画す圧倒的なオーラ。
 磨き抜かれた彫刻のような肉体。
 全てのキメラアントが一目見て理解した。

 ――王!――

「余は空腹じゃ。馳走を用意せい」

 名も無き王が、絶望を告げる産声を上げた。




 少し短いですがきりがいいのでここで切ってます。

 王誕生。今の王は原作初期の王より強いです。表記するとこんな感じ。
 原作初期王<軍議を学んでコムギと通じ合った原作王<今作王(new)<<<<プフとユピーを食った原作王。
 本来ならまだ産まれるには栄養も足りてなく完全体にはなっていなかったけど、そこは女王の命と念で補い、その上でピトー食ってるので原作より遥かにパワーアップして産まれています。







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