どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第六十七話

 アイシャと王が対峙する最中、ゴン達と護衛軍はその場を離れていく。どうやら互いにアイシャや王の邪魔にならない場所にて決着を付けるようだ。

 そしてこの場に2人だけとなったアイシャと王。
 アイシャは変わらず最早慣れきった構えを取り、王は不敵に笑いながらアイシャを見る。

 王から見てアイシャは脆弱な餌に過ぎない。それは先の一撃をいなされ、自身に返された今も変わらない考えだ。今見てもアイシャから感じる力は己よりも圧倒的に下だ。生命エネルギーは隠しているのか殆ど見えない。
 それなのに、全力ではないといえ、人間に反応出来るとは思えない一撃に反応し、それを返した。

 如何なる業を用いたのか。人間という下等生物がここまで至るに掛かった努力は如何程なのか。そしてその全てを喰らえるとなると、どれほどの至福を味わえるのか。
 そう思うだけで王は声を漏らして嗤ってしまった。

「くっく――」

 王の視界が反転した。否、視界が暗闇に閉ざされていた。
 気付けば王は大地に頭から叩きつけられ、大地を突き破って地中に突き刺さっていた。

 自分を餌と見て嘲り嗤う王は、アイシャにとって隙だらけだった。
 完全にアイシャから意識が逸れた瞬間に距離を詰め、虚を突き柔にて天地を逆さまにする。そして顎へと硬による一撃を叩き込み、更に王が大地に叩き付けられる前に大地の一点、王を叩き付ける一点のみを硬にて強化し、そこ目掛けて全力で叩き付ける。一連の流れで硬を使い分ける超高速の流。これこそがアイシャの念能力の真骨頂とも言えるものだ。

 オーラで強化された大地に頭から叩きつけられても、王の頭部は損傷することなく地を砕き沈んでいった。それくらいはアイシャも予想していた。王のオーラならばこの程度は耐えることも造作もないだろう。

 そこからアイシャは更に追撃を加えようとするが、アイシャの頭部があった位置を王の尾が通り過ぎていった。瞬時に頭を下げることでそれを躱すも、続けてアイシャの体を狙うようにまたも尾が振るわれる。
 アイシャはそれを更に体を沈ませることで躱し、通り過ぎゆく尾を掴んでその勢いを利用する。王の力に自身の力を加え、王を大地から引き抜きまたも大地に叩き付ける。

 王の力も加わった為か、先の一撃とは比べ物にならない爆音を上げ、大地に大きなクレーターが出来上がる。
 アイシャは攻撃を途切れさせないよう更なる追撃を加えようとする。クレーターの中心にいる王へ向かって駆けようとし……次の瞬間にアイシャはその場から、王から離れた。

 攻撃を受けたわけではない。攻撃を避けたわけでもない。ならば何故、何故あの状況からあの場を離れたのか。

「……貴様」

 それは怒気だ。王から発せられる尋常ならざる怒気。その怒気だけでアイシャは退いた。退いてしまった。

 土煙が晴れ、クレーターの中心にいる王が鮮明に映る。
 その顔はオーラを読むまでもなく怒りに染まっていると誰もが理解するだろう。
 いや、並の能力者ならば理解する前に意識を手放している。そうしなければ精神が崩壊しかねないからだ。
 それほどの怒りをオーラに乗せて王は発していた。

「人間風情が、余に……王たる余に大地を舐めさせたな! 一度ならず、二度までも!!」

 ――まるで堪えていないか――

 王の暴威に触れ、思わず飛び下がってしまったアイシャ。
 だが冷静さは失っていない。それどころかますます研ぎ澄まされていくようだ。そうしなければ勝ちの目が消え去ると本能で理解しているのだ。
 アイシャは冷静に王の戦力を分析する。

 開幕の攻撃も、王自身の力を加えた二撃目も見た目にはダメージらしきものはない。開戦前に王が飛び掛って来た一撃を返した時とは違い、今度は大地にオーラを籠めて威力を上げていた。
 王に放った先の一撃をまともに受ければネテロでさえ即死するだろう。なのに無傷、まさに桁が違うと言ったところか。

 ――攻撃力、速力、耐久力、全てが人間の限界を軽く凌駕しているな――

 耐久力だけでなく、その肉体のスペックもある程度は理解出来た。
 正直理解したくなかったというのがアイシャの本音である。アイシャは長年数え切れぬ程の、それこそ星の数程も敵の攻撃を合気で返している。それ故か、アイシャは相手に触れるだけで相手の肉体のスペックをある程度把握出来るようになった。
 そして、王のスペックは計り知れないということを理解出来た。ネテロですら、そしてネフェルピトーですら把握しきったというのに、だ。
 最早人外という言葉すら生易しい存在。それが王だ。

 そんな王がアイシャへとその怒りをぶつけていた。

「その罪! 万死に値する!」

 アイシャがソレに反応出来たのはネテロのおかげと言っても過言ではないだろう。ネテロと幾百も戦い、幾千もの【百式観音】を味わい、それに対抗すべく業を練り上げてきた。最速の念能力に対抗してきたからこそ、王のその攻撃に反応出来た。

 王の攻撃は別段特異なものではない。
 走って近付き敵を殴る。ただそれだけである。そこには技術の欠片もなかった。
 だが……怒りに任せて放たれる王のそれは、それだけで必殺の攻撃となる。
 今まではまだ遊んでいたのだろうと理解出来る。アイシャでも反応するのがやっとの速度で近付き、アイシャでも受け流すのが精一杯で攻撃を返すことが出来ない程の威力で殴る。

 攻撃を王に返すなど烏滸がましい。そう言わんばかりの一撃をどうにか受け流したアイシャはその余波で吹き飛んでいった。
 正確には追撃されないよう力を抜いて自ら吹き飛ばされたのだが、それでも予想を遥かに上回る距離を吹き飛んでいくアイシャ。

「ぐぅっ!」

 コロの原理や脱力や流やオーラの回転による受け流しなど、様々な技法を混じえて威力を逸らして、なおこのダメージ!
 まともにガードしたわけでもないというのに、受け流す為に使用した腕が痺れている。少しでもタイミングを間違えていれば……。
 骨が折れるならばまだ良いだろう。下手すれば腕がもがれていただろう。

 ――まともに受ければそれで終わりだな――

 こちらの攻撃は殆ど通じず、相手の攻撃は即死級。なんて理不尽。
 だが、この化け物に勝てなければそこで終わりだ。自分が死ぬだけなら良し。だが確実にゴン達も殺されるだろう。
 そして世界がキメラアントによって侵食されていく。その過程でアイシャの多くの知り合いも犠牲になるだろう。
 それを許すわけにはいかない。勝ち目のない戦いなどとは思わない。どんなに勝率が低かろうとも勝たなければならないのだ。

 アイシャがまだ生きていることに更なる怒気を孕みつつ、王はアイシャへ向かって駆ける。そして先程と同じように攻撃を繰り出す。見ることすらままならぬその攻撃に、アイシャはまたもかろうじて反応して受け流すことに成功する。
 またも吹き飛ばされるアイシャ。それを追って王は追撃を加える。それすらもどうにか受け流し、また吹き飛ばされる。

 ――人間風情が!――

 自らよりも劣る人間を仕留めきれない現状に苛立つ王。
 そうして何撃目かの打撃を繰り出す。次こそは殺すと力を込め、振り抜いた拳はまたもアイシャを捉えることなく受け流された。
 いや、受け流されただけではない、先程までとは逆に王が吹き飛ばされることとなった。

「ぬう!?」

 先程までとは違った結果に少々の戸惑いを禁じえない王。
 だがこの程度で戸惑いはすれど今さら驚きはしない。敵が人間にしてはヤルということは理解している。どうせこの程度では然程のダメージはない。この程度の抵抗、死期が僅かに延びただけのこと。次の一撃にて仕留めてみせる!
 そう思い、吹き飛ばされてすぐに周囲の岩を足場にし、アイシャへと駆け寄り間を詰める。そして死を纏う一撃を振るい――

「ぐっ!」

 またもアイシャによって自身の力を利用されて吹き飛ばされることとなった。

 ――馬鹿な! あやつ何故!――

 吹き飛ばされた王はそれ自体を驚いてはいなかった。前述したとおり、アイシャが自身に僅かながらも抗いうる力を持っていることは理解している。
 王が驚愕したのは全力の攻撃を返されたからではない。王が驚愕したのは――

「何故眼を瞑っておる!?」

 アイシャが瞳を閉じたまま、王の攻撃を返したからであった。

 何故超速で繰り出される王の攻撃を前に、視覚という生物で最も外部情報を得ることの出来る感覚を閉ざしたのか。
 それは王の攻撃があまりにも速すぎる為、視覚から得られる情報が少なすぎることが要因であった。視てから反応していては遅すぎるのだ。それでは攻撃を受け流すのが精一杯なのだ。

 視て遅いのならば、視る必要はない。それがアイシャの結論だ。
 視覚を閉ざし、残りの感覚を最大限に発揮する。オーラすら閉ざし、完全な絶となって更に感覚を研ぎ澄ます。
 そこまでしてようやく王の攻撃に反応が追いついた。そこからは体が覚えている通りに動かす。触れられる瞬間のみにオーラを用い、完全なる合気にて力を返す。
 何万、何十万、何百万、いやそれ以上か。どれだけの組手をこなしたかは分からない。どれだけの攻撃を受けたかは分からない。どれだけの攻撃を返したかは分からない。
 北島晶の数十年が、リュウショウの数十年が、アイシャの十余年が。今のアイシャを構成する全てが、王の攻撃を視ずとも反応することを可能としたのだ。

 王の攻撃を察知。触れる前に触れる箇所のみにオーラを纏う。全身を使って攻撃を逸らし、触れたオーラを回転させてさらに受け流す。
 そして王の攻撃を流しつつ、自身の力を加え、あらぬ方向へと吹き飛ばす。

 この繰り返しだ。吹き飛ばされた王に殆どダメージはないが、全くないわけではない。自身の力が返ってくるのだ。頑丈な王と言えど多少はダメージを受ける。見た目には分からないが、痛みがないわけではなかった。
 それでもこの方法では百や2百の攻撃を返しても王を倒すことは出来ないだろう。
だがアイシャはそれを理解しつつも揺るぎない精神で技を振るう。百で駄目ならば千。千で駄目ならば万の合気を叩き込むのみ。

 ――私を舐めるのは良い。だが、風間流を舐めるなよ――

 アイシャの意地が、積み重ねた研鑽が、王に確かな痛みを刻んだ。







 アイシャと王が対峙する中、ゴン達も護衛軍の2匹と対峙していた。
 数の上ではゴン達が有利だ。その差は7、つまり9対2という大差である。だが、それで実際の戦闘でも有利かと言われればそうだと頷ける者はゴン達の中にはいないだろう。

 護衛軍の2匹。シャウアプフとモントゥトゥユピーから発せられるオーラは王には劣るものの、アイシャと然程変わらない程のオーラ量だ。
 そしてそのアイシャを相手にこのメンバーは全員で纏めてかかって敗北している。しかもその時は今よりも3人の念能力者がいたにも関わらず、だ。
 オーラでアイシャに匹敵する敵が2体。そんな敵を相手に数で有利だからと油断するわけがなかった。

「さて、王より貴方達の相手を仰せつかりましたが、ここでは王の邪魔になるでしょう。ここから離れた場所で戦おうと思っているのですが、いかかですか?」

 そう提案してきたのはシャウアプフだ。見た目は優男と言ってもいい風貌で、外見に合った柔和な言葉遣いで語りかけてくる。
 キメラアントからの提案だが、それ自体はゴン達も願ってもない提案だ。こんなにも近くで戦っていてはアイシャも王に集中することが出来ないかもしれない。
 それに如何に王が護衛軍に手を出すなと言っても、その命令を破ってでも護衛軍が王の手助けをするやもしれないのだ。場所を移すことに異議はなかった。

 シャウアプフの提案にゴンが全員の代弁として首肯する。

「それは良かった。では、あちらへ移りましょう。少し離れた場所に丁度よく開けた土地があります」
「良かったな。お前らの寿命が延びたぞ。そこに行くまでは死なないからな」

 モントゥトゥユピーの嘲りには誰も何も返さなかった。明らかに人間を見下しているその台詞だが、そう思ってくれているならそれはそれで好都合だ。
 こちらの力を過小評価しているならそれに越したことはない。敵が油断しているならそれを突くだけだ。



 アイシャ達から十分に離れた場所にて再び対峙するゴン達と護衛軍。
 既にアイシャと王は戦いを始めているようだ。離れた場所でもアイシャと王の戦闘の余波が響いてくる。それを耳にして、シャウアプフは「ほう」と感心したように息を吐く。

「まさかここまで王と戦えるとは……」
「王が遊んでおられるだけだろ? 人間にしてはやるようだが、王に勝てるわけねーよ」
「まあその通りではありますが、それでも流石はネフェルピトーを屠った者、と言ったところでしょうか」
「あ? あいつがピトーを殺した人間か?」
「そう考えるのが妥当でしょう。それほどの人間ならば王とも多少は渡り合えるのも納得ですから」

 ゴン達と対峙しつつもそう話している2匹に緊張や王を心配する気持ちはなかった。何故なら2匹は王に絶対の信頼を抱いているからだ。
 もちろん王を護る護衛軍として、王と戦える人間がいるというのは驚異となる話だ。だが、2匹は確信している。王が全ての生物とは次元を隔てた存在に至っているということを。
 女王とネフェルピトーの死者の念を引き継いだ王のオーラに間近で触れた2匹は、王に勝つことの出来る存在がこの世にいるとは到底思えなかった。
 オーラの多寡だけが勝敗を分ける重要な要素ではない。そんな念能力者の常識を覆す圧倒的オーラを持って産まれた王。まさにこの世を統べる絶対者。
 今は少し強い人間を相手に戯れているだけ。その気になれば最初の襲撃でも容易く方が着いたはず。2匹はそう信じて疑ってはいなかった。

「アイシャを舐めんなよ。王と離れたことを後悔することになるぜ?」
「それはそれは。ですが、本当は彼女の元に駆け寄りたいのでしょうに、虚勢はみっともないですよ?」
「!?」

 まるで心を見透かしたかのような言葉にキルアは絶句する。
 まさにシャウアプフの言った通りの心境だ。出来るなら今すぐにでもアイシャに加勢したい。だがそれが無意味であると理解しているからここにいるのだ。行っても邪魔にしかならない、ならば敵を分断して抑えておくのが最高の援護だと分かっていた。分かってはいるが、感情と理性は必ずしも一致しない。それをもどかしく思うが、それよりも重要なことをキルアは考えていた。

 ――こいつ……オレの心を正確に把握している?――

 果たしてそれは洞察力に優れているだけが。それとも何らかの能力によるものか……。
 能力ならばまだいい。能力による読心ならば防ぎ方もあるだろう。能力の発動条件を満たさせなければ能力は発動しない。発動条件が緩ければ、それだけ能力も然程効果は高くないということだ。それならそこまで問題視する必要はない。
 だがこれが洞察力によるものなら厄介だ。洞察力故に発動条件などない。心を読まれないようにするには、相手に判断材料を与えないようにしなければならない。
 表情を隠す、精神を平常に保つ、オーラの変化を隠す。いずれも戦闘中に注意していれば戦闘そのものが僅かでも疎かになりかねないだろう。

「お気になさらず……何となくそう感じる、それだけのこと……」

 そう言い放つシャウアプフの言葉を鵜呑みにするキルアではない。むしろこの一言で確信に近いものを感じた。これは鋭い洞察力ではなく、何らかの能力による読心に近いものだと。
 洞察力とは経験から察せられるものだ。いくらキメラアントが産まれ付き知識を持っているとはいえ、ここまで細かくキルアの心情を把握するなど出来るとは思えなかった。ならば残った答えはたった1つだ。

 キルアの予想通り、シャウアプフの読心は洞察力によるものではなく能力によるものだった。【麟粉乃愛泉/スピリチュアルメッセージ】。それがシャウアプフの能力の1つだ。自身の鱗粉を相手の周囲に散布してオーラの流れを鮮明に把握し、そこから相手の感情やその時の思考を読み取る能力。正確には感情や思考を読み取る、推測するのは能力に関係なくシャウアプフ自身の頭脳によるものだが。
 とにかく、この能力によりシャウアプフは対象の思考を読み取っているのだ。

 そしてシャウアプフが能力により導き出した答え。それは目の前の敵――ゴン達――の戦力を侮ってはならないというものだった。
 どの敵も予想を遥かに越えた戦士たちだ。この状況にあっても絶望しておらず、警戒をしてかつ警戒し過ぎて臆病にはなっていない。全員が緊張感と覚悟、そして自信を有している。オーラの大小の差はあれど、誰もが警戒に値するオーラを纏っていた。
 自分達程ではないが、彼らは強い。人間でも精鋭の兵士だろう。ゴン達のオーラを読み、シャウアプフはそう思い至った。

 ゴン達も護衛軍の強大さを理解している。確実に個としてのスペックは相手が上だ。能力を数値化すると、ほぼ全ての能力が護衛軍に劣っているだろう。優っているのは数と経験、そして技術といったところか。
 他の数値には絶望的な差がある。だが、有利な点があるならば勝てない道理はない。後は如何に戦闘を運ぶかだ。

 そうやってゴン達とシャウアプフが互いの戦力を計って思考を巡らせている中、1匹のキメラアントが痺れを切らした。

「おい、何で攻撃しないんだよ? こいつ等もう殺していいんだろ?」

 モントゥトゥユピーは物事を深く考えるのが得意ではない。故に現状を短絡的に、そしてある意味では誰よりも正しく認識していた。
 王の敵を殺す! そこに戦略も戦術も戦法もない。目の前の敵を叩き潰す、ただそれだけだ。それが王の為になるならばそれだけで十分なのだ。

 モントゥトゥユピーは肉体を音を立てながら変形させる。見た目は人間に近かったその肉体は、上半身に幾つもの眼を作り、複数の腕を生み出したことによって異形の化け物へと変化していった。
 そして複数の腕を1つにまとめ、巨大な一腕としてハンマーを振り下ろすように、ゴン達に向けて叩き付けた。
 これが戦闘の合図となった。








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