どうしてこうなった?   作:とんぱ
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第六十八話

 モントゥトゥユピーの放った一撃は大地を大きく抉った。あまりの威力にクレーターのような大穴が出来上がり、粉塵は飛び交い、衝撃だけで木々が悲鳴を上げる。破壊力という一点に置いてはネフェルピトーを遥かに上回るだろう。だが、その一撃にモントゥトゥユピーは何の手応えも感じていなかった。

 開幕の一撃に圧倒的な破壊力を見せつけられたゴン達は、何とかあの一撃を無傷で切り抜けることが出来ていた。大振りの、しかし素早い一撃を咄嗟に避けられたのは日頃の訓練の賜物と、そしてモントゥトゥユピーの一撃から発せられた圧倒的な迫力からだった。
 そう、天を覆うような巨大な槌を振り下ろされたかのような錯覚。その錯覚がゴン達を緊急回避へと導き、命を救ったのだ。

「なんって、破壊力だよ!」
「臆するなレオリオ! 奴らが出鱈目なのは承知の上だ!」
「おりゃあお前と違って初見なんだよ!!」

 曲がりなりにもモントゥトゥユピーと同格の護衛軍であるネフェルピトーの力を間近で見た経験のあるゴン達だが、NGLに途中参加したレオリオ達はそうではない。
 人間とは比べようもない圧倒的な存在にレオリオはおろかリィーナやビスケですら面食らっていた。

「こりゃ無茶苦茶ね……」
「気は進みませんが1対1の正面からは避けますよ。数の利を活かします!」

 リィーナもこの状況では武人としての拘りではなく戦闘に勝つ為に利を選んだ。
 そういう拘りを持ち出す状況ではないのだ。仲間の誰が死ぬかも分からない、そればかりか敬愛する師すら命の保証がない。ここは勝つ為に拘りを捨てる場面なのだ。

 幾多の訓練や試合、実戦を通してゴン達は各々の戦力をほぼ把握している。
 それ故にこの状況で最も効率の良い戦い方も理解していた。

「喰らえ!」

 カストロが粉塵を突き抜けその先にいるシャウアプフへと攻撃を仕掛ける。
 それに続きリィーナとビスケもシャウアプフへ向かって攻撃態勢を取った。

「ふむ。これは中々」

 カストロの猛攻をシャウアプフは涼しい顔で捌く。だがそれとは別に内心ではカストロの戦闘力に賞賛の意を持っていた。人間風情にしてはやる。賞賛と言ってもそれくらいのものだが。それくらいカストロとシャウアプフには戦闘力に大きな差があったのだ。

「はあっ!」

 虎咬拳の連撃にてシャウアプフへ猛攻を加えるが、そのどれもが完全に見切られていた。それは戦闘技術の差、ではない。そも技術に置いてはカストロに軍杯が上がるのだ。それでもなお覆せない身体能力の差が今のカストロとシャウアプフの戦闘を物語っていた。

 だが、そこにリィーナとビスケが加わると話は変わる。

「おや?」

 カストロを仕留めようと猛攻を避け切った後に反撃をしようとしたシャウアプフ。
 だがそれを許すリィーナではない。シャウアプフの鋭い一撃を柔にて捌き、そのまま体を崩してシャウアプフを投げ飛ばす。そして投げ飛ばした方向にはビスケが待ち構えていた。元の姿に戻り、完全な戦闘力を取り戻したビスケの全力の一撃が、シャウアプフの顔面を捉えた。
 吹き飛び、大地に倒れ伏すシャウアプフ。その一撃はゴンの全力の一撃に匹敵、いや、凌駕していたかもしれない程だ。

「こっちはあっちほど出鱈目じゃなさそうね」

 アイシャを除いて最高戦力とも言える3人が纏まってシャウアプフと対峙しているのは理由がある。それはモントゥトゥユピーよりも組みやすしと見たシャウアプフを出来るだけ速くに片付けて、すぐにゴン達の加勢をして残ったモントゥトゥユピーを一気に倒そうと計算していたからだ。
 リィーナ達が合流するまではゴン達はあの圧倒的破壊の持ち主と対峙しなければならないが、彼らが防御に徹すれば時間を稼ぐことは出来るだろう。そして全戦力で叩き潰す。これがリィーナ達の戦術であった。

「油断は禁物ですよ。どのような能力を有しているのか判明していないのですから」
「分かっているわよ。さあ、こいつを倒してゴン達に加勢するわよ!」
「おう!」

 本来ならこれで決着だろうが、相手は護衛軍だ。先のモントゥトゥユピー程強力ではなさそうだが、それでも油断出来る相手ではない。
 そう思っていたリィーナ達だが、それでもまだシャウアプフを侮っていたと後に理解することになる。



 リィーナ達がシャウアプフと戦っている一方で、ゴン達はモントゥトゥユピーと対峙していた。
 数の上では6対1。圧倒的な差だ。だが、それを有利だと思わせない程の力をモントゥトゥユピーは全身から発していた。

「雑魚が。群れても意味がないことを教えてやる!」

 複数の触腕を無造作に振り回す。周囲を囲む蚊とんぼを払うかのように、無造作に、高速で、ただ振るい続ける。それだけでモントゥトゥユピーの周囲は死を撒き散らす暴風域と化した。
 開幕の一撃に比べたら触腕1つ1つの威力は低いのだろうが、それはモントゥトゥユピーからすればの話だ。ゴン達がまともに喰らえばそれだけで致命傷に至るかもしれない。そんな攻撃が無数の腕から繰り出されるのだ。脅威以外の何物でもない。

 だが、どんな攻撃も当たらなければ意味はない。

「ちぃ! とっとと当たれよ!」

 モントゥトゥユピーの苛立ちが示すのは、ゴン達が無事だという事実だ。
 鞭のようにしなる触腕の攻撃は、一撃たりともゴン達にヒットしていなかった。
 流石のモントゥトゥユピーも、複数に分かれて自身を囲むゴン達を細かく狙って攻撃することは出来ない。1人に集中すればその1人は既に倒せているだろうが、そんな戦法を取るほどモントゥトゥユピーも愚かではない。
 1人の敵に集中して他の敵を疎かにすればどのような目に遭うかも分からないのだ。同胞のネフェルピトーが殺られたという事実が、モントゥトゥユピーを慎重にしていた。

 そして周囲を大まかに攻撃するような雑な攻撃ではゴン達でも避けることは可能だった。触腕の攻撃範囲を見切り、その全てをどうにかして切り抜ける。
 しかしゴン達が攻勢に出ることはなかった。こうしてモントゥトゥユピーの攻撃を凌いでいるだけだ。だがそれで良かった。ゴン達は決定的な瞬間を、勝機を待っていたのだ。
 それはリィーナ達ではない。リィーナ達がもう一体のキメラアントを倒して加勢に来てくれるのが理想ではあるが、現実はそう上手くいかないことばかりだ。ならば勝機は自らたぐり寄せるしかない。
 ゴン達は死を撒き散らす暴風の傍で耐え凌ぎ、その瞬間が訪れるのをただ待っていた。

 そして、思ったよりも早くにその瞬間は到来した。

「このっ! ちょこまかと! ウザったい蠅どもがぁ!!」

 元々気が短いモントゥトゥユピーだ。その苛立ちが増してくると、攻撃も大雑把になる。そう、開幕の一撃と同じ、全てを巻き込むような大打撃を放って来たのだ。
 そしてゴン達はそれを待っていた。

 ――潰れ死ね!――

 右の触腕を全て束ね、巨大な鉄槌に変えてゴン達に向けて叩き下ろす。
 外れても良し。外れたら当たるまで叩き付けてやる。弾け飛ぶ岩石まで全てを避け切れる訳が無い。そして脆弱な人間ならばその内力尽きるだろう。
 それがモントゥトゥユピーの見解だ。それはあながち間違いではない。直撃を避けても、間近にいる故に衝撃や飛び交う岩石までは避けきれない。
 このままモントゥトゥユピーが攻撃し続ければ、戦闘の結果はモントゥトゥユピーの思った通りになるだろう。
 攻撃し続けられれば、だが。

「最初はグー!!」
「!?」

 モントゥトゥユピーは背後から聞こえたその声に反応する。
 あの攻撃を避け、岩石や衝撃を物ともせずにモントゥトゥユピーの背後に回り込む。強化系を極めんとするゴンだからこその芸当だ。
 その体には幾つかの傷が出来ていたが、この程度ではゴンの動きが鈍ることはない。仲間内で最も頑丈なのがゴンなのだ。

 全力の一撃を放った後という最大の隙を狙って攻撃を叩き込もうとするゴン。
 だが、モントゥトゥユピーは不意を突いた攻撃にも反応した。ゴンの声に反応して即座に反撃を、いや、迎撃を選択。背中を変化させ、鋭い刺を大量に生やしてゴンを突き刺そうとする。だがその攻撃がゴンに届くことはなかった。

 ――【落雷/ナルカミ】!――

「ギッ!?」

 ゴンを殺さんとするその一撃は、キルアの電撃によって防がれた。強靭な肉体を持つとはいえモントゥトゥユピーも生物だ。生物であるならば電撃による一時的な神経の麻痺は防ぎきれない。それを防ぐことが出来るのは特殊な訓練を積んだ者くらいだ。

 モントゥトゥユピーが肉体を硬直させたところにゴンが全力の【ジャンケン】を叩き込む。仲間を、友を、キルアを信じていたゴンは、モントゥトゥユピーから反撃を喰らうという不安を欠片も抱かずに、全力で攻撃に意識を割いていたのだ。

「ジャンケン、グー!!」
「がぁっ!?」

 【ジャンケン】に置いて最大の破壊力を持つグーを放ち、モントゥトゥユピーの巨体を吹き飛ばす。流石のモントゥトゥユピーもこの攻撃にはダメージを受けた。そしてダメージ以上に怒りを覚えた。

 ――雑魚が!――

 餌風情が己に痛みを与える。そんなモントゥトゥユピーからすれば許し難い行為は、モントゥトゥユピーから冷静さを更に奪い取った。
 感情の赴くままに己に痛みを与えたゴンへと怒りをぶつけようとする。だが、吹き飛ばされて着地した場所は、モントゥトゥユピーに取って死地だった。

「糞餓鬼がぁっ!」

 ゴンへと向き直り、先程よりも怒りと殺意を籠めてその力を増していく。力とともにその巨体も更に大きさを増していた。
 だが、そこまでだった。そこから先は、その力は振るわれることがなかった。

「な、何だこれはぁぁっ!!?」
「捕縛完了。こうなったら最早逃れる術はない」

 何時の間にか、モントゥトゥユピーの全身に2種類の鎖が巻きついていた。
 鎖の出処はもちろんクラピカだ。右手の中指から放たれた【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】がモントゥトゥユピーの肉体を縛り、左手から放たれた【封じる左手の鎖/シールチェーン】が念能力を縛る。

 全ては計算通りだった。開幕の一撃からモントゥトゥユピーの性格が攻撃的で短気なものだと推測していた。
 そしてモントゥトゥユピーの攻撃を全て躱している内に、いずれは我慢出来なくなり開幕の一撃のような荒く隙の大きい攻撃をしてくると踏んでいたのだ。
 その隙を突き、粉塵に紛れて砕けた地面に仕込んでおいた2つの鎖までモントゥトゥユピーを押し込む。ゴンの攻撃力ならそれが可能であり、隙を突けなかった場合のフォローもキルアがするようにしていた。
 その2人で無理なら他の仲間が更にフォローに回る予定だったが、どうやらゴンとキルアのみで十分だったようだ。
 そしてモントゥトゥユピーを助けることの出来るシャウアプフはリィーナ達と激戦を繰り広げている。あれではモントゥトゥユピーの元へと辿り着くことは出来ないだろう。
 そう、最初から全ては計算通りだったのだ。ここまでの濃厚な修行の日々が、ゴン達に相談なくとも阿吽の呼吸で作戦を成功させる要因となったのだ。

「舐めるなよ! こんな鎖如き! がぁぁぁぁぁ!!」

 肉体と念。その2つを完全に縛られたモントゥトゥユピーにこの状況から抜け出す方法はない。どれほど力を籠めようとも、オーラを放とうとしても、そのどちらもモントゥトゥユピーの意思通りには動かなかった。

「ば、馬鹿な!? このオレが、こんな虫けら風情に!!」
「人間を侮り過ぎたなキメラアント」

 念能力者の戦いに絶対はない。それを証明するかのような戦闘だった。
 戦闘力ではゴン達全員の数値を足してもモントゥトゥユピーの方が上だ。だが結果は数値通りには進まなかった。

 ――これが念! これが人間!!――

 圧倒的に劣るはずの人間にこうしてあしらわれたモントゥトゥユピーは、怒りとともに人間に対する賞賛の意を抱いた。
 ちっぽけな存在が、知恵と戦略によって戦力差を覆す。強大な存在として産まれたモントゥトゥユピーには思いもつかなかった戦いだ。

「ぐぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 だがちっぽけな存在の驚くべき力を賞賛している場合ではない。ここで己が死ねば残ったシャウアプフは1人窮地に立たされる。そうなれば数の利でそのまま押し込まれるかもしれない。こうして自身が敗北しそうなのだ。有り得ない未来ではない。
 そしてその次は王だ。王を護るべき護衛軍が全滅する。それは王を危険に晒す可能性が遥かに増すということだ。
 それを許すわけにはいかない。人間への賞賛など頭から追い出し、全力を籠めて鎖から抜け出そうとする。
 だが――

「無駄だ。どれほど力を籠めようともこの鎖は砕けんよ」
「クソがぁぁぁぁっ!!」

 鎖の能力で完全に動きを封じられたモントゥトゥユピーではどう足掻こうとも鎖から抜け出す方法はない。身動き1つ出来ずに足掻き続けるモントゥトゥユピーに、無慈悲にも止めを刺すために全員が躊躇ない一撃を繰り出そうとする。
 いや、何人かは動けない敵に止めの一撃を振るうことに多少の躊躇いはあったが、その躊躇いで仲間が死ぬかもしれないのだ。
 後悔は終わった後にする。そう割り切り、念を使うことも出来ずに動けないモントゥトゥユピーへと全員が飛びかかった。

 ――瞬間。モントゥトゥユピーを縛る鎖が砕け散った。

『なっ!?』
「おおおおおお!」

 突如として開放されたモントゥトゥユピーは、足掻いていたままに肉体を暴れさせた。まさかクラピカの鎖から抜け出せるとは思ってもいなかったゴン達はその攻撃とも言えない暴力に晒されてしまう。
 咄嗟に全身を全力の堅でガードするが、思いもよらぬ攻撃に幾人もが痛手を負ってしまった。不幸中の幸いか死者は出ていないが、それでも無視できない程のダメージを受けてしまった。

 束縛からの開放はモントゥトゥユピー自身も思いもよらぬことだった。そうでなければあのタイミングで確実に幾人かは屠れるように攻撃していただろう。無造作に暴れたからこそ的確な攻撃ではなく、ゴン達も大きなダメージにはならなかったのだ。

 ――何故だ!?――

 それはこの場の全ての存在が同時に思ったことだ。
 何故モントゥトゥユピーは鎖から開放された? それはモントゥトゥユピー自身も疑問に思っていた。
 戦場に疑問が膨れ上がる中、その答えが姿を現した。

「おやおや。危なかったですねユピー?」
「プフか!? お前、どうしてここに!?」

 空中から現れたのはリィーナ達と戦っているはずのシャウアプフだった。
 何もない空間から突如として現れたシャウアプフに動揺を隠せないゴン達。
 だが、シャウアプフは突如として現れたわけではない。元々ここに居たのだ。

 これにはシャウアプフの念能力【蠅の王/ベルゼブブ】が関係している。
 【蠅の王/ベルゼブブ】はシャウアプフの肉体を最小でナノサイズまで分解することの出来る能力である。自身を様々な大きさ・数に分裂させることが可能で、サイズが小さければ小さい程その数は増える。ナノサイズまで分裂したシャウアプフを肉眼で捉えることはまず不可能だ。つまりシャウアプフは急にこの場に現れたのではなく、あらかじめナノサイズまで分裂していた分身を等身大まで集合させただけなのだ。

 シャウアプフはここまでの戦闘を分身によって全て見ていたのだ。敵をたかが人間と侮っているのはシャウアプフも他のキメラアントと変わりない。
 だが、その上でなおシャウアプフは敵の戦力を把握する為にナノサイズの分身を空中で待機させていたのだ。そして流石に同胞の危機を見過ごすことはなく、鎖を砕ける大きさまで戻って鎖を断ち切った。これがモントゥトゥユピーが鎖から解放された経緯だ。

「あっちにもお前がいる……お前って増えることが出来るんだな」
「……あまり敵の前で味方の能力を教えないでもらえますか?」

 その言葉にゴン達もシャウアプフが2人いることに気付く。
 思いつくのは具現化系の能力だ。それによって自身を具現化した。それが最も行き着きやすい答えだろう。実際に細かな分体を見ない限り、肉体をナノサイズまで分裂可能な能力だと思いつくことはまずないだろう。

「さて、私はそろそろ戻りますよ。あちらの私も苦戦しているようですから」

 力を分散していたシャウアプフではリィーナ達とやり合って少々押されているようだ。分身は増やせば増やすほどその力も分散するのだ。今リィーナ達と戦っているのは全体の半分と言ったところだった。そしてここにいるのが残りの半分だ。流石にリィーナ達ほどの実力者を半分の力で倒しきるのはシャウアプフにも無理なようだ。

「……わりぃな」
「お気になさらず。ああそれと、先程の鎖はもう使えないようですよ」
「へぇ、そうなのか? そりゃあいいな」

 シャウアプフの言葉に不気味な笑みを浮かべるモントゥトゥユピー。
 何故それがバレた!? そう驚愕するクラピカだが、そのクラピカに向かって微笑みながら分身のシャウアプフは本体へと戻っていった。

 ――ふふ、貴方のオーラがそれを教えてくれた。それだけのこと――

 【麟粉乃愛泉/スピリチュアルメッセージ】。一度見破られるともう一度使用するのに時間という制限がある切り札を破られ、焦りを抱いたクラピカの心象を正確に読み取っていたのだ。
 正確には使用出来なくなったのは【封じる左手の鎖/シールチェーン】のみであり、対象を無効化するもう1つの能力【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】は見破られても使用可能だ。
 だが、肉体を麻痺させることは出来てもこの鎖は非常に脆い。モントゥトゥユピーのオーラならば堅をするだけでも砕けるやもしれない。念そのものを封じない限りモントゥトゥユピーを拘束することは不可能だろう。

「くそっ!」
「まさかあれで仕留めきれないとはな……」

 左手を負傷したカイトが悔しげに呟く。先のモントゥトゥユピーの攻撃を防ぎきれずに負傷したのだ。骨が変形しているのが傍から見ても理解出来る。どうやら完全に骨折しているようだ。右手に【気狂いピエロ/クレイジースロット】が変化した刀を持ち眼前のモントゥトゥユピーに構えているが、この刀がこれほど頼りないと思ったのはカイトも初めてだった。
 カイト以外も大小それぞれダメージを負っている。ゴンは両腕の骨に罅が入っていた。両腕を交差して攻撃を受けた為だ。むしろこの程度で済んだのは僥倖だろう。
 ミルキはスピードを上げる為に自身の重量を軽減させていたのが功を奏したのか然程のダメージは受けていない。体重が軽すぎたことと、攻撃の威力が高かった為に直接攻撃が当たる前に風圧で吹き飛んだのだ。
 キルアも念には念を入れて【神速/カンムル】を発動していたので際どいところで攻撃を躱している。攻撃を仕掛けた中で完全に無傷なのはキルアくらいだ。
 レオリオは誰よりもダメージを負っていた。肋骨が幾本も折れ、その内の1本は内臓を傷つけてすらいた。だが、シャウアプフとモントゥトゥユピーが話している内に【掌仙術/ホイミ】を使用して殆どのダメージを癒していた。

 無傷なのはキルアとクラピカのみ。だがキルアは充電していた電気を少しずつだが消費している。オーラと違って休めば回復するものではないのだ。ここで使い切ったら充電は不可能だろう。
 クラピカは確かに無傷だが、切り札を使用出来なくなったのは大きな損失だろう。ミルキは軽傷であり戦闘に支障はないだろうが、レオリオは傷を癒す為に相応のオーラを消費してしまった。
 ゴンは動きが鈍ることはないだろうが攻撃には確実に支障が出るだろう。両腕が使えないとゴンの攻撃力は相当下がってしまう。
 カイトはゴン程ではないが、片腕が使用出来ないのは十分な痛手だ。利き腕は無事だが、利き腕のみで振るう攻撃が通用するとは思えない敵なのだから。

 対して相手は殆ど無傷だ。攻撃などキルアの電撃とゴンの【ジャンケン】を食らったのみ。それも致命傷には程遠いだろう。
 片や負傷し、片やほぼ健在。数の利で押して、切り札を切った上での結果がこれでは勝率は大きく下がったと言ってもいいだろう。
 誰もが焦燥するが、それで止まってくれる敵ではない。敗北を味わいそうになった屈辱を怒りに変えて、モントゥトゥユピーはゴン達へと暴威を振るい始めた。








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