どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第七話

「んくっんくっんくっ」

「あらあら。そんなに勢いよく吸って。そんなにおいしいの?」

 

 最高です! 何これ? 母乳ってこんなに美味しいものなのか!? 美人の女の人のおっぱいだとか、大人の精神を持ってて今さら母乳を飲む羞恥プレイだとか、そんな考え一瞬でぶっ飛んだね!! やっぱりあれか? 空腹は最高の調味料ってか? すきっ腹にミルクが響くぜ!! もっと飲ませてください!

 

「んくっんくっんくっ。……ぷぅ」

「はい。ご馳走様でした。じゃあ次はげっぷをしましょうね~。はい、とんとん」

「けぷっ」

「よく出来ましたね~。えらいですよ~」

 

 そんなに褒めるなよ。照れるだろ。

 

 

 

 さて。取り敢えず落ち着いたところで冷静になって考えるか。

 

 何だこの人? さっきまで居なかったのに、急に現れた。さらに言うなら俺のこのオーラにまったく怯えていない。オーラを感じにくい一般人でも怯えるオーラだというのにだ。

 

 ……その事から考えるに、この女の人は俺が作り出した念獣だな。恐らく、このまま死にたくないという俺の強い気持ちがこの念獣を無意識の内に具現化したのだろう。念獣が女性の形をしているのは、俺が無意識の内に母親を求めていたからなのか?

 

 しかし俺が動かそうと念じても勝手に動く。消そうと念じても消えることはない。……自動操作の念獣か? 消えないのは制約のせいかもしれんな。……生まれ変わって最初に作った念が母親の念獣とは。……メモリぇ。

 

 まあ、メモリに関しては仕方ない。諦めるしかない。

 

 しかしこれで生き延びることが出来そうだ! あのまま死んだらここら一帯に念の呪いをぶちまけて死んでいたかもしれん……。とにかく生き延びることが出来たんだ。過去を悔いる事は一杯あるが、とりあえず未来の事を考えよう。

 

 当初の目的である、原作キャラで脱・童貞という気持ちはもはやない。ギアスに掛かっている時にも思ったが、ここは漫画の世界じゃない。この世界はもう一つの現実なんだ。

 

 だが! 童貞のまま居続けるつもりは毛頭ない!! あくまで原作に拘らないだけの事よぉ!! 俺は童貞をやめるぞ! ネテローッ!!

 

 この強大なオーラ! 前世で学んだ武術! この二つを以てすれば、モテモテになることも夢ではないはずだ!!! ふはははは! ハーレム王に、俺はなる!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に思っていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

「さあアイシャちゃん。おっぱいの時間よ。今日も一杯飲みましょうね~」

「あ~う~」

 

 …………アイシャ、今の俺の名前だ。お母さんが名付けてくれました。女みたいな名前だろ?

 アイシャが男の名前でなんで悪いんだ!! と、逆切れ出来たらどれほど良かったか……!

 

「今日も可愛いわね~アイシャちゃんは。きっと将来は私そっくりの美人さんになるわよ~。良かったわね~。きっと男の人にモテモテになるわ」

 

 ええ、とっても嬉しくないですね。何が悲しゅうて男にモテにゃならんのだ?

 

 これが転生後第三の誤算……俺の性別は、女だった……。

 

 

 

 どうして、こう、なった……!?

 

 

 

 

 

 よくよく考えたら当たり前だった。転生するのに必ずしも転生前と同性で生まれると決まってるわけがない。それならばそうなる様に念能力を作っておかなければならなかったのだ。

 むしろ人間に生まれ直すことが出来ただけ幸運だったと言える。何せ新たな命に生まれ変わるという設定の念能力だ。下手すりゃ動物とか虫に転生していた可能性もあったのだ……。

 

 お、恐ろしい……。なんて成功率の低いギャンブルをしていたんだ俺は……。もし畜生に転生していたかもしれないと考えると女に生まれ変わったぐらいなんでもないぜ!

 

 

 

 ……ごめん、無理。やっぱりなんでもない訳ないわぁ~。このまま女で生きていくと童貞を捨てるなんて端から無理だ。なんせ捨てるどころか初めから持ってすらいないのだから。しかも男に言い寄られる可能性もある訳だ。……鬱だ死のう。

 

 ……いや待て。よく考えろ俺。念能力で転生出来たんだ。同じく念能力で性転換できるんじゃないか!?

 ん? ……なんか、そんな能力に覚えがあったような。……くそっ! 【原作知識/オリシュノトクテン】が使えたら! 確かにそんな能力があったはず……。思い出すんだ俺! ここで思い出さなきゃ一生女のままだぞ!

 

 ……そうだ! 思い出した!! ゲームだよ、念能力者が作ったっていうゲーム! あの中に確か性別を変える薬みたいなのがあった気がする! それさえあれば! 男に戻る事も出来る!! 童貞を捨てることも出来るはずだ!!!

 よし! 身体が成長したらまずはそれを取りにいこう! 良かった。これで何とかなるな。

 

 ふう。焦った焦った。一時はどうなる事かと思ったぜ。

 

 ふわぁぁ。なんか安心したら眠くなってきたな。赤ちゃんボディはすぐに眠たくなるから困る。

 

「あらあら。おねむの時間かしら? ちょっと待っててね。……はい、用意が出来たわよ。ゆっくりお休みなさい」

「あう~」

 

 わざわざガラガラ天蓋付き赤ちゃん用ベッドを具現化していただき真にありがとうございます。本日のミルクもイチゴ味で大変美味しゅうございました。ちなみにその前のミルクはバナナ味だった。

 ……すごい高性能だな母さん。

 

 

 

 

 

 

 月日は流れ、私ことアイシャはすくすくと育ち5歳に成長した。

 体はとても健康です。これも毎日飲んでいる母さんの母乳のおかげです。……ええ、体が成長して普通食を食べれるようになった今も、毎日の食事は母乳です……。

 

 もちろん普通の食事も食べたい。でもここにあるものは全部ゴミ。食べられるものなんて1つもない。ネズミとか虫はいるけど食べたくない……。

 

 仕方ないので母乳で我慢。……でもこれ本当に美味しいんだよね。昼のは何味かな? 朝はヨーグルト味だった。次は果物系にしてもらおう。

 ちなみに顎が鍛えられないんじゃないかと思ったが、そうでもない。母さんがガムを具現化してくれたのでそれをよく噛んでいる。他の食事は具現化出来ないのか聞いてみたが、母乳が一番栄養あるからだめ、と言われた……ちょっと厳しい。

 

 あ、ガムの成分は母乳のようです。つくづく無駄に高性能。

 

 さらに雨風はどうやって凌いでいるのかというと、この母さん、赤ちゃん用の部屋を具現化しました。……そこまでするかと思ったが、実際その方が助かるし、ハイハイとか掴まり立ちとかはこの中で練習しました。外でやると危ないしね。

 あとここには年月日付きの時計もあるので月日の経過も細かく分かります。水道もお風呂もトイレも鏡や体重計も完備。まさに至れり尽くせりです。

 

 年月も経って体も成長し生活も落ち着いたところで今の私が何の系統の能力者になったか水見式で確認してみた。結果は他の5系統に当てはまらない、木の葉が回転しながら水の中に沈むというものだ。確実に特質系だろう。

 まあ、【輪廻転生/ツヨクテニューゲーム】が成功しているから特質系なのは当然だね。木の葉が動いたのは操作系の名残かな?

 

 

 

 さて、女として生まれて5年。以前の決意、男に戻るという決意は、まだ残っている。もちろん脱・童貞もだ。しかし、自身の口調や思考は女の子らしくなってしまった……。

 

 これには理由がある。普通に喋れるようになるまで成長した私が、自分の事を“俺”と言って母さんに話しかけたことがある。母さんは「女の子が自分の事を俺だなんて言っては駄目よ」と、初めはやさしく注意してくれたが、何度注意を受けても直さなかった私に一度本気で怒ったことがあった……。

 あれは怖かった……。

 それ以来だ。何故か自分の中で“女の子は女の子らしくしなくちゃ駄目”という思いが出来てしまったのだ。

 

 最初の頃はそれでもまだ男の口調を貫こうと頑張っていたんだが、徐々にその気持ちも薄れていき、最後にもう一度同じ注意を受けたときには綺麗さっぱりなくなってしまった……。

 

 ……多分あれも母さんの能力だと思う。明らかに変だ。女として生きて数十年とかの年月が経ったなら分かるけど、生まれて2~3年で男の意識が女の意識になるなんて有り得ないよ……。

 

 オタクの精神→修行馬鹿の精神→老人の精神→もはや植物の域の精神→転生前後にまたオタクの精神→女の子の精神。……我が事ながらぶれ過ぎだと思う。

 

 しかし、男に戻りさえすれば! そうすれば大丈夫のはず!! なにせ“女の子は女の子らしくしなくちゃ駄目”だからね。男になったら男らしくしなくちゃ駄目なのだよ!!

 

 5歳にもなれば大分体を動かす事が出来る。

 これまで生きてきて思ったんだけど、この体、かなりハイスペックだ。他の人と比べた事がないから分からないけど、少なくても前世の私よりは性能はかなり高いと思う。前世の私が5歳の時に1時間も走り続けれるなんて出来るとは思えない。もちろん、念は抜きで1時間だ。

 この体はそれが出来た。部屋の中ですることがなかったから運動がてら自身のスペックを確認しようと思ったのだ。多分スペックは高そうだとは思ってたけど、5歳で、まともな訓練は受けてない状態でそれとは……。

 

 もしかしてこれも母さんの母乳のおかげかな? この母乳、栄養価が高いのか、本当に体がすくすく成長するのだ。

 すでに平均的な五歳児よりも大きく成長しているだろう。だいたい小学生2~3年生くらいにはなっていると思う。

 

 しかし、かつての私はありえないくらい修行したな。オーラ量とかオーラの基礎・応用も滅茶苦茶高いレベルにあるんだけど……。【絶対遵守/ギアス】は大成功と言える。あんな修行はマゾでも出来ないね。

 まあせっかく身に付いたものだし、衰えないようにはしておこう。どうせする事なんて母さんからの勉強以外殆どないし。……今さら算数とか習わされることになるとは。

 

 

 

 まともに動けるように成長した私だが、未だに流星街の中に居る。……もちろん、周りには私と母さん以外の人間はいない。ここは流星街の中でも特一級危険地域になっているみたいだ。

 

 失礼な。こんなにも愛らしい子どもと美人の母さんが住んでいると言うのに……!

 

 ……さて、動けるようになったのにどうして流星街の外に出ないのか? 答えは簡単だ。出ると皆に怯えられた……。

 

 

 

 一度私が3歳になった時にここから出て行きたいと言ったことがある。母さんは「アイシャちゃんがそう言うなら、ここからお出かけしましょうか」と、快く承諾してくれた。

 

 私は意気揚々と流星街の外に出て、母さんと一緒に他の都市に赴いた。都市に近づいた私は即座に絶をした。もちろんこの不気味なオーラを隠すためだ。こんなオーラを撒き散らしていれば誰も近寄ってこない。これなら大丈夫だ。そう思って街に入る私たち。

 

 周りには沢山の人とビルが立ち並んでいる。おお、久しぶりのまともな街だ。人々の歩く音。車が行き交う音。テレビから聞こえるニュースキャスターの声。飛び交う悲鳴。皆懐かしい……。

 

 ……悲鳴?

 

 どうしたんだ? 銀行強盗でも出たのか? 周りを見渡すと、明らかに人々がこちらを凝視している……? なんで? 絶はしている? どうして私に注目するんだ?

 いや違う。私を凝視したなら私はその視線に気付くはずだ。そこまで鈍ってはいない。じゃあ誰を見ている? 決まっている。隣にいる私の母さんだ。何故? 何故母さんを凝視して震えてるんだ?

 

 隣にいる母さんを見ても何も分からない……? いつもの母さんだ。いや、少しうろたえている。母さんも何が何だか分からないようだ。

 

「皆さんどうしたのかしら?」

「分かんない……とにかく一度話を聞いてみる。ちょっと待っててね」

「あんまり離れちゃ駄目よアイシャちゃん」

「大丈夫。そもそも10m以上離れたら母さんも一緒に動いちゃうでしょ」

 

 そう言って近くにいるおっちゃんに話しかける。……おっちゃん腰抜かしてるよ。

 

「あの、どうしたんですか?」

「ひっ!? あ、こ、子供か……? なんだ驚かさないでくれ……」

 

 そういや絶をしていた。びっくりさせてしまったか。

 

「驚かせてごめんなさい。聞きたいのですが、皆さんなんでそんなに怯えてるんですか?」 

「い、いやそれがよく分からないんだ。何故か知らないけど、か、体が勝手に震えるんだ……」

 

 そう言いながら、自分の手で体を包み込むおっちゃん。

 

 ……はて? 私はオーラを発していないから、一般人はおろか念能力者でもオーラに怯えないはずだけど……。

どういうこと?

 

「な、何だこの禍々しいオーラ!? キサマ何者だ!!」

「はあ。何のことでしょう?」

 

 !? オーラを感じている人がいる! 念能力者か!!

 

「美しい女性の姿をしているがこの第一級シングルビーストハンター・ディオウ様の眼は誤魔化せんぞ! キサマ魔獣の類だな!! 人間がこのようなオーラを放つものか!」

 

 ハ、ハンターだって!? しかもシングルの称号持ち! ていうかあいつ母さんを魔獣扱いしたのか!?

 

「大方人に化けて街を襲うつもりだったのだろうがそうはいかん! このディオウ様に出会ったことを後悔するんだな!!」

 

 ハンターはまずい……! 早く逃げなきゃ!

 

「母さん、家に帰ろう!」

「アイシャちゃん……わかったわ」

「子どももいたのか! 見事な絶……! だがこの第一級ダブルビーストハンター・

ディオウ様の名に賭けて逃がすわけにはいかん!!」

 

 なんでさっきよりも称号が上がってるんだ!?

 

「こっちに来るな!」

 

 全力で練! 母さんを傷つける様ならこのアイシャ、容赦しない!!

 

 ……泡吹いて気絶しちゃったよこの人……ほんとにシングルハンターなのかな? とりあえず今のうちに逃げよう!

 

 ふぅ。ここまで来れば大丈夫かな……。

 

「大丈夫、母さん?」

「私は大丈夫よアイシャちゃん。それより駄目よアイシャちゃん。あんなに乱暴なことしちゃあ」

「だってあいつ母さんを傷つけようとしてたし……」

「私のことはいいの。いつも言ってるでしょう? あなたは女の子なんだから、女の子らしくしなくちゃいけないわ」

「……ごめんなさい」

「ん。分かればいいのよ。ありがとう。母さんの為に怒ってくれて」

「うん!」

 

 

 

 こんな事があったわけだ。そこで思ったのが、母さんのオーラも私と同じく禍々しいオーラをはなっているのでは? と推測したのだ。

 

 私にはとても安心感のあるオーラにしか感じないけど、それなら説明がつく……。母さんに絶や隠が使えたらいいんだけど、あれから2年、どんなに練習しても母さんは絶をすることが出来なかった。いや、正確には発以外の念の技術が使えないと言ったほうがいいか。

 

 この5年で母さんが私から10m以上離れることが出来ないのは分かってる。今の状態で街に行けば警察やハンターがやってくる可能性が高い。そうなったら私はともかく、母さんを守りきれるかは分からない……。

 

 仕方ないのでここから出るのはしばらく諦めた。何かいい方法を思いつくまでは今まで通りここを住処としよう。

 

 

 

 というわけで、流星街よ。今後ともよろしくお願いします!


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