どうしてこうなった?   作:とんぱ
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後日談その6 ※

 疲れた表情で離れていくハンゾーを見送ったアイシャはそのまま家に帰ろうと――せず、その場でしばらく立ち止まっていた。

「もう出てきてもいいんじゃないですか?」

 アイシャ以外誰もいないはずのその場でそんなことを呟くと、木々の陰から2人の男性が突如として現れた。

「やっぱりアイシャから隠れるのは無理だったか。驚かそうとしてたのに、残念♥」
「……」

 木々の裏に気配を消して隠れていたのはヒソカ。そして顔に大量の針を刺している異様な風体の針男だった。
 ヒソカはともかく、この針男は何者かと僅かに逡巡するアイシャ。そして印象的なその見た目とハンター試験後にビーンズから聞いた言葉を思い出す。

「あなたは確か……キルアとミルキのお兄さん、でしたか?」
「知ってるようだね。2人に聞いたのかな」

 そうしてイルミは顔から全ての針を抜き、ギタラクルという仮面を捨てて本来の姿に戻る。目付き以外どこかミルキに似ているが、ミルキよりも人間味を更に薄くしたような雰囲気を漂わせている。
 これがゾルディックの闇なのだろうとイルミを見た瞬間にアイシャは思った。同じ暗殺者として育てられていたキルアやミルキとはまるで別の存在だ。あの2人も時間を掛けて徹底的に育てられていればイルミと同じようになるのかもしれない。
 そう考えると絶対にあの2人をゾルディックに戻したくないと決意するアイシャであった。

「暗殺者が何の用でしょうか?」
「キルから離れてもらえないか? 暗殺者に友達は必要ないよ」

 予想はしていた。だが、家族からそんな言葉が出るような環境しか与えられていなかったあの2人を思うと憐憫と怒りが湧き出る。
 いや、少なくても父親と祖父からはまだまともな愛情を感じられた。確かに2人とも暗殺者であり、キルア達に拷問のような修行を課していたが。
 だがこのイルミは歪みすぎている。ただの家族愛ではすまない歪んだ愛をキルアに向けていた。どちらかと言えば父親よりも母親に似たような雰囲気だろう。

 その愛の全てはキルアの才能から来るものだ。キルアは長きゾルディックの歴史の中でも最も優秀と言っても過言ではない才能を誇っている。
 だからこそ家族の中で最も大切に育てられてきた。念能力の存在も教えずに基礎能力や技術を磨きあげ、ある程度成長したら放任することで刺激を与えて更なる成長を期待する。
 そして家族の中で誰よりもキルアに期待しているのがイルミだ。誰よりもゾルディックそのものを最重要に置いているのがイルミだろう。
 だからこそ、ゾルディック最高峰の暗殺者となるキルアを過保護とも言える愛を注いで育てていたのだ。その愛の中に相手の意思の尊重というものは欠片もなかったが。
 所詮はイルミの愛は器への愛だ。キルアの心まで考慮に入れるわけがない。そうであるならば、キルアの意思を抑制する針を脳に埋め込んだりなどしないだろう。

 ともかく、そんなイルミからしたらアイシャやゴンの存在は許しがたいものだ。大事にしていた宝物を掠め取られた気分になるのも不思議ではない。
 現ゾルディック家当主であるシルバからキルアのことは放っておけと言われたから今までは放置していた。
 だが、会長総選挙にて偶然にもアイシャの姿を見たからには一言言っておきたくなったのだ。

 もっとも、そんな下らない――アイシャにとってだが――言い分を大人しく聞くアイシャではないが。

「お断りします。彼らは暗殺者の道を抜けました。いえ、例え暗殺者だろうと友達は友達です」
「彼ら? もしかしてミルも?」
「ええ」

 家族としての立ち位置は自分たち寄りだったミルキが何時の間にかそんなことを言い出している。イルミとしては有り得ないと言ってもいい現象だ。操作系の能力の可能性も考慮に入れている程だった。

「そ――」
「操作しているとか言い出したら、どうなるかはあなたの体で理解することになりますが?」

 イルミの台詞に被せるように発せられた言葉に、イルミは口を閉ざしてしまう。
 いや、言葉ではない。アイシャから発せられた怒気によって喋るよりも警戒するしか出来なかったのだ。そして一瞬にしてイルミは十数mは後方へと下がっていた。

『勝ち目のない敵とは戦うな』

 自らが口をすっぱくしてキルアに叩きこんだ教え。それは自らもまた親にそれを叩きこまれたからでもある。
 勝ち目がない。操作系である自分なら針さえ刺すことが出来ればとも思うが、その針を刺せるイメージが湧かない。
 こんな化け物の傍に大切なゾルディック家の跡取りがいることを危惧するが、同時に安堵もする。これなら大抵の危険からは守れるだろうと。

 ちなみにヒソカの方は股間が放送禁止レベルになっていた。
 禁欲が長いヒソカにアイシャの怒気は禁断症状手前のジャンキーの前に大好物の麻薬を置くようなものだ。

「今すぐ襲い掛かってもいいかな? とっくに1ヵ月は過ぎてるしね♣」
「聞くだけ理性が残っていると思うことにします……。今は大事な話があるから後にしなさい」
「えー……♠」

 変態に毒気を抜かれたのか、アイシャから怒気は消えていた。それと共にヒソカの息子も消沈していったが。

「……まいったな。オレじゃ勝てそうにないや。ねぇヒソカ、報酬は払うから協力してくれない?」
「キミのお願いでもそれは駄目♦ 彼女はボクの、ボクだけの獲物さ♥」
「当人の前で暗殺依頼を出したり獲物呼ばわりするの止めてくれません?」

 アイシャを警戒しながら対応出来る距離を保ちつつ、イルミは何でもない風にヒソカに暗殺の協力依頼を出していた。
 当人の前で大した度胸である。流石は暗殺一家の長兄というべきか。

「考えを変える気はないみたいだね」
「もちろんです。そちらこそ考えを変えることをお勧めしますが」
「それはないよ。でも分かった。キルはしばらくそっちに預けておくよ。危害を加えることはないだろうし。でも、キルはいずれオレ達のところに帰ってくる。それがキルにとって最も幸せなことだからね」
「キルアの進む道も幸せも、全てはキルアが決めることです。道を指し示すことはすれど、道を決めつけることなど誰にも出来ません」
「……キミとは相容れないかな」
「お互い様ですね」

 武道の頂点と暗殺の極点とも言うべき2人は考えが混ざり合わない水と油のような存在だ。決してその道が重なることはないのだろうと2人同時に確信する。
 母親がミルキにならアイシャを嫁にしてもいいと言っていたのをイルミは思い出すが、例え家族になったとしてもイルミに取ってアイシャは部外者となるだろう。

「それじゃあね。キミが家族にならないことを祈るよ」
「……何のことですか?」
「……まあミルくらいは応援してあげよう」

 普通の愛が理解出来ないイルミにもそう思えてしまうアイシャの鈍感具合であった。
 アイシャに取って訳が分からない台詞を残して、イルミはそのまま立ち去った。
 残っているのはアイシャとヒソカのみである。

「さて……やるんですか?」
「ここだと邪魔が入るよ。何せハンター協会本部の間近だ♥」
「じゃあ移動しますか?」
「いや、止めとくよ。今はまだ勝てそうにない。勝ち目が薄い戦いは嫌いじゃないけど、勝ち目がない戦いはする気にはなれない♣」

 ヒソカとてあれから強くなった自信はある。だが、アイシャもまた強くなっていた。少なくても自分と戦った時よりも一段か二段は上になっているのをヒソカは感じていた。互いに強くなっているならその差はほとんど縮まってはいないだろう。
 あの時は策を講じて勝率を上げていたが、完全に対等の状況下ではその勝率も著しく下がってしまうのは目に見えている。
 強い相手に勝ちたいから戦うのだ。絶対に負けると分かっていて戦う程ヒソカは愚かではなかった。

「今回はボクもこれで退くとするさ♦」
「そうですか。それでは次の機会を楽しみにしていましょう」

 アイシャとしても意外とヒソカとの再戦を望んでいた。ヒソカ程の実力者は稀であり、思う存分力を震える機会も少ないのだ。
 ネテロとの再戦を楽しみにしていたがここ最近の出来事のおかげでお流れになってばかりだったので、アイシャも意外と欲求不満だったりする。



 ヒソカもいなくなり、いよいよこの場にはアイシャしかいなくなった。
 完全に周囲から気配が消えたことを確認し、更に念には念を入れて協会本部から視認出来ない程に離れる。
 そして携帯電話を取り出して、ある人物へと連絡をした。

「……あ、もしもし――投票は終わりましたか? ――そうですか――はい、もう迎えに来てもらっても大丈夫です。それじゃあ待ってますね」

 電話を終えて十数秒もすると、空から飛行音が聞こえ誰かがその場に降り立った。
 そんな能力を有するのはアイシャの知る限りただ1人。そう、先程の電話の相手レオリオである。

「よう、待たせたな!」
「いえ、流石の速さですね」

 レオリオの【高速飛行能力/ルーラ】に必要な目印をアイシャは常に携帯している。首から提げているお守りがそれだ。
 これを目印にすればいつでもレオリオはアイシャの――正確にはアイシャの持つ目印だが――元へと辿りつけるわけだ。

「ここが協会本部のある街か」
「ええ。この街にも目印を設置した方がいいでしょう。何かあった時に便利ですし」
「そうだな。ちょいと時間貰うぜアイシャ」
「はい」

 そうしてレオリオは目印作成に入る。適当な石を刻んで念を込めた神字を記し、それを地面に埋める。これで完成だ。これでいつでもこの街や協会本部へ移動できるようになったわけだ。協会本部から少々離れているが、直接協会本部に飛ぶような目立つ行為は避けたかったので丁度いいだろう。
 まあレオリオの能力が周知の事実になってきたら話はまた別だろうが。利便性の高さに、飛行という目立つ移動方法だ。いずれはハンターの誰もが知ることになるだろう。

「これでよしっと。それじゃ一旦家に帰るか」
「ゴン達を拾ってからですよ。彼らも投票が終わることでしょうし」
「そうだな。そういやハンゾーには会えたのか? オレが投票した場所にはいなかったけど」

 レオリオの言葉にハンゾーとのやり取りを思い出したのか意気消沈するアイシャ。
 その表情に「あ、これは駄目だったな」とアイシャの返事を聞く前にレオリオは察した

「ええ……ですが、残念ながら黒の書は回収出来ませんでしたが」
「そうか、そりゃ残念だったな。また誰かに譲ってたのか?」
「いえ、そう言うわけではないですね。詳しくはゴン達と一緒に説明しますね」
「そうだな。それじゃゴン達を回収しに行こうぜ。」

 そうしてレオリオはアイシャを抱きかかえる。所謂お姫様抱っこという奴だ。
 アイシャは【ボス属性】によって【高速飛行能力/ルーラ】の恩恵を無効化してしまう。そんなアイシャを【高速飛行能力/ルーラ】で移動させる方法がレオリオが抱きかかえることなのだ。こうすれば【高速飛行能力/ルーラ】によって移動するレオリオに引っ張られる形でアイシャも移動出来るわけだ。
 とある2人からは不満だらけの方法だったが。

「ま、万が一にも落ちないようにしっかりと抱きしめるからな」
「はい、よろしくお願いしますレオリオさん」

 滅茶苦茶役得のレオリオであった。
 落ちないようアイシャの体を引き寄せ密着させ、アイシャも落ちまいとしっかりとレオリオに抱きつく。
 自然とアイシャの胸の感触を布越しとはいえ味わえる。【高速飛行能力/ルーラ】を作って本当に良かったと感動するレオリオ。

 アイシャの豊満な肉体や女性特有の柔らかな香り――最近は入浴時のシャンプーや石鹸を変えたのかより良い匂いを放っている――を感じながらレオリオは思う。

 ――ゴン達が別々の投票場所に行ってて良かったぜ――

 ハンゾー確認の為、協会本部以外の別地投票場所へと何人かに分かれたので【高速飛行能力/ルーラ】による移動回数も必然的に増える。
 つまりはアイシャとの密着時間が増えるわけだ。今回の幸運を特に信じていない神に感謝するレオリオだった。
 ちなみにゴン達にもそれぞれ【高速飛行能力/ルーラ】の目印を渡してある。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あの?」
「お、おう!? どうした?」
「いえ、出発しないのですか?」
「そ、そうだな! それじゃ行くぜ! 【高速飛行能力/ルーラ】使用! ゴン!」

 たっぷり数十秒はアイシャの肉体を堪能してからレオリオはアイシャに促されてようやく【高速飛行能力/ルーラ】を発動した。







「せいっ!」
「なんのー!」

 ミルキの振るった拳をレオリオはクロスアームガードでしっかりと衝撃を吸収し防ぐ。レオリオは反撃のローキックを放つ。まずは機動力を奪うつもりだ。地味だが効果的な攻撃だろう。

「甘い!」

 だがそれはキルアによって防がれた。軸足を刈られたレオリオはバランスを崩してしまう。
 転倒することはなくどうにか体勢を保ったが、それでも動きを止められたのは確かだ。その隙をすかさずドミニクが追撃する。

「たまには体を動かさんとなぁ」
「そう言いながら銃撃ってんじゃねぇよドミニクさんよぉ!?」

 笑いながらレオリオの足元に発砲するドミニク。一応当たらないように撃っているようだが、良く見ると銃弾にはオーラが覆われていた。
 もし当たればレオリオの防御を越えることは間違いないだろう。いくらドミニクのオーラがレオリオより低くても、銃弾自体の威力は高いのだから。
 ちなみにドミニクの良心であるミシャはこの場にはいない。激しい動きをするとミシャから5m以上離れてしまうからだ。
 つまりドミニクを止めることが出来るのはこの場にはいないのである。唯一アイシャがそれに値するが、そのアイシャは何故か幸せそうに悦に浸っていた。



 この騒ぎの発端はレオリオがゴン達を連れてドミニクの家まで帰ってきたことから始まる。
 ドミニクの家にも【高速飛行能力/ルーラ】の目印は設置されていた。もちろん家主の許可は得ている。一瞬でアームストルまで帰ってきたことに改めて【高速飛行能力/ルーラ】の有用性を感じるゴン達。
 だが、タイミングが悪かった。レオリオ達が降り立ったのは家の庭だったが、そこにはたまたま庭を散策していたドミニクとミシャがいたのだ。
 突如として降り立ったレオリオ達に驚くドミニク達だが、【高速飛行能力/ルーラ】に関しては前もって説明していたのですぐにそれに思い当たる。
 そうしてレオリオ達を歓迎しようとするが、そこでドミニクは許しがたい物を見てしまった。
 そう、レオリオの腕に抱かれる娘の姿である。そして次のミシャの一言でドミニクの怒りは頂点に達した。

 ――あらあら、お姫様抱っこなんて。アイシャちゃん羨ましいわ――

 ドミニクの怒りは完全に振り切れた。
 ドミニクは本来親馬鹿である。もしミシャが死なずにアイシャが生まれていたら今頃デレデレの姿を娘に見せていただろう。
 未だにアイシャに対して蟠りがなくなったわけではない。だが、一度受け入れてからは徐々に親馬鹿な一面を見せるようになっていた。

 そんなドミニクが、アイシャが異性に抱き抱えられている姿を見てしまったのである。しかもミシャのこの台詞が決め手となった。聞きようによってはミシャがレオリオにお姫様抱っこされたいと言っているように聞こえるだろう。
 いや、普通はそう思わないだろうが、今のドミニクにはそう聞こえてしまったのだ。完全に冷静さを失っている結果である。

 ミシャが止める間もなくドミニクはレオリオからアイシャを奪い取り、怒りのままに攻撃を開始した。
 キルアとミルキはそれに便乗したのである。アイシャを抱き抱えるという羨ま……もといけしからん行為をした罰を与える為にだ。
 ドミニクが5m離れて肉体が消える前に、あらあらと呆れるも微笑ましい笑みを浮かべてミシャは消えていった。
 レオリオにとっては微笑ましくも何ともなかったが。

 アイシャはアイシャで父が自分のために嫉妬して怒ってくれていることを嬉しがっていた。
 始めに冷たく当たられて後から愛を受けるとコロリと行く。冷静に状況を見ていたクラピカはヒモに引っかかりそうなアイシャに若干の危機感を覚えた。

「レオリオ結構頑張るね」
「ああ、まあ時間の問題だがな。キルアとミルキの2人掛かりでは私でも勝てん」

 ゴンももうこの程度の騒ぎなど慣れっことなったので普通に観戦していた。
 助けてくれーとか聞こえるが、きっと気のせいだろうと流していた。

 3人相手に逃げ切れるわけもなく、やがてレオリオは大地に沈んだ。

「ふん、今日はこれくらいで勘弁してやる」
「まだ温いくらいだぜドミニクさん」
「ああ、修行中はこの程度じゃないからな」
「そうか? じゃあ後2、3発殴っとくか」

 容赦の欠片もなかった。まさに死体蹴りである。
 キルア達もピクピクと痙攣するレオリオに止めとばかりに蹴りいれていた。

「ふぅ、すっきりした」
「しっかしあれだな。アイシャが遠出する度にこれなのか」
「個人の飛行船なら所有しているがそれでは駄目か?」
「それだけじゃ遅いしなぁ。【高速飛行能力/ルーラ】が便利過ぎるのが痛いぜ」

 げしげしと未だに蹴りを入れながらもそんなことを話し合うドミニク達である。

「アイシャ、そろそろ止めてあげたら?」
「……はっ!? そうでした! 父さん、2人も! もうレオリオさんを許してあげてください!」

 ゴンの声掛けでようやく夢の世界から帰ってきたアイシャ。
 3人はアイシャに庇われるレオリオに更に嫉妬を強くするが、これ以上は自分たちが危ないと悟りレオリオへの追撃を保留することにした。

「ちっ。命拾いしたなレオリオ」
「月夜の晩ばかりと思うなよ」
「1人歩きする時は後ろに気をつけるんだな」

 まるでチンピラのような捨て台詞を吐いて3人は家の中へと入って行った。
 3人と入れ替わるようにすぐに黒服が2人やって来てレオリオを介抱する。
 ドミニクの何だかんだ言ってもレオリオに対する優しいその行為にアイシャはやっぱりツンデレだなぁと和んでいた。
 もっとも、その実態はアイシャがレオリオを介抱するのを防ぐ為だったりするのだが。







 選挙投票を終えたアイシャ達は特に結果を気にせずに何時も通り過ごしていた。
 誰が会長になろうとも別段自分たちに関係ないと思っているのだろう。
 適当に投票した人は誰かとか会話をしながら夕食が出来るのを待っている6人である

「誰に投票したんだゴン?」
「オレはビスケにしたよ。いつも修行で世話になってるしね。キルアは?」
「あー、確かにな。オレはリィーナさんだな。ビスケも考えたけど、あいつは会長とかしそうにないだろ? リィーナさんなら務まるだろうしな」

 ビスケが聞いたら憤慨しながらも納得する言葉である。
 リィーナは組織運営などはビスケと比べるまでもない経験と実績もあるし、ハンター協会会長も十分に務まるだろう。
 もっとも、そこにアイシャという要素が加わらなければの話だが。

「私もリィーナ殿に投票した。彼女にその気がないなら迷惑になるだろうが」
「オレもだ。リィーナさんならいい会長になれそうだしな。ミルキはどうなんだ?」
「オレもリィーナさんを書いた。他に思いつかなかったんだよな」
「あらら、リィーナが多いですね。もしかして本当に会長になったり……。ちなみに私は十二支んのボトバイさんに投票しました。いい会長になってくれそうな人ですよ」

 この場の面子だけで既に4票を得ているリィーナ。風間流のプロハンターが全員投票したとすればそれだけで相当な票数になるだろう。
 他にもリィーナを慕うプロハンターがいれば更に増える。会長になる可能性も0ではないだろう。
 少なくてもある程度会長を狙える位置にいる可能性は高いだろう。

「アイシャも結構票が集まるんじゃないか?」
「そうかもな。アイシャが為したことを知っているプロハンターも少ないがいるしな」
「そうでしょうか? まあ票が入っても1、2票がいいところでしょうね」

 確かにアイシャの実績を知るハンターはいることはいる。だがその殆どが自分に投票をするとは思えないアイシャ。
 ネテロは確実に投票しないだろう。会長を辞めてまでアイシャとの勝負に専念しようとするネテロがアイシャを会長にしようなど本末転倒だ。
 リィーナもまずない。アイシャが会長になればアイシャと共にする時間が少なくなるのは道理だ。もっとも、アイシャが会長になれば新たな十二支んになりそうではあるが……。
 ビスケは投票するともしないとも言えない。どうせ会長になることもないと思って適当にアイシャの名前を書く可能性もあった。
 この場にいる面子はすでにアイシャ以外に投票済みなので論外だ。

 他にはNGLにて助けたハンター達がいるが、彼らの全てがプロハンターというわけではない。中にはアマチュアもいただろう。
 しかも名前を知らない者が殆どだろうことからアイシャに投票したとしても数名がいいところで、下手すれば0ということも大いに在り得た。
 こんな状況で自分が会長の座を狙えるレベルで票が入るとは全く思っていないアイシャである。

 いや、アイシャ以外の誰もがそう思っていた。会長選挙など半分は人事だ。誰が会長になろうと彼らは気にせず何時も通り過ごすだろう。
 後日、彼らは選挙結果を見てその考えを改めることになる。







 第13代会長総選挙投票結果。

 1位 ネテロ      188票(24.9%)
 2位 パリストン    156票
 3位 リィーナ      85票
 4位 チードル      31票
 5位 ボトバイ      23票
    イックションペ   23票
 7位 ミザイストム    16票 
 8位 アイシャ      12票
 9位 サッチョウ     11票
    ビスケット     11票
 11位 ギンタ       10票
    ピヨン       10票
    クルック      10票
 14位 キューティー     9票
 15位 サンビカ       8票
 16位 クラピカ       7票
    ジン
    テラデイン
    ルドル
 20位 リンネ        6票
    ブシドラ
    ツェズゲラ
    カイト
 23位 モラウ        5票
    ノヴ
 25位 ヒソカ        4票
    ゲル
 27位 カンザイ       3票
 28位 サトツ        2票
    メンチ
    他8名
 38位 ゴン         1票
    レオリオ
    ハンゾー
    他22名

 無効票          14票(自分の名前を記入、誤字脱字、氏名該当者なし等)
 欠席票          20票(シャルナーク、クロロ他18名)
 過半数票獲得者       なし
 投票率         95.4%



 過半数票獲得者は出なかったが、投票率が95%を超えたことにより得票数が上位16名による再選挙が行われることが確定した。16名というが、同順位の者がいるので実際には19名だったが。
 いや、そんなことはアイシャ達には関係がなかった。半分は対岸の出来事と思っていた選挙でまさかの事態が起こったのである。

「な、なんで私が8位に!?」
「いや、それよりも何故私が16位に!?」

 そう、アイシャとクラピカがそれぞれ上位16位以内にランクインしているのだ。
そんなに目立つようなことをした覚えがないアイシャはこの結果に納得が行かなかった。
 だがクラピカとしては少々票は多いがアイシャがある程度の票を獲得することは予測していた。
 特に難しいことではない。アイシャに助けられたハンターがそれだけいたということだろう。その上にアイシャの見た目だ。見目麗しいうら若き乙女で人格も良く、しかも実力者。これだけで知っていれば投票しても可笑しくはないだろう。

 だが自分は何故だと真剣に悩むクラピカ。そこまでのことをした覚えは本当にない。
 クラピカはプロハンターとなってから殆どの時をアイシャと共に過ごしている。ならば自分が成したことよりもアイシャが成したことの方が目立つのが当たり前だ。
 関わったプロハンターも殆どいないというのに、一体どうしてこんなにも票が集まっているというのか。

 しばらく考え、その明晰な頭脳が答えを出した。
 幻影旅団捕縛の件である。あれはアイシャあってこその結果だが、それを知る者はゴン達を除きネテロとリィーナとビスケくらいだ。
 詳しく内情を知らない者が結果だけを見ればシングルハンターとなったクラピカだけに注目が行くのも可笑しくはない。
 クラピカのその考えは当たっていた。多くのプロハンター達は幻影旅団捕縛についてこう認識していた。
 あのA級ブラックリストの幻影旅団を捕まえた奴がいる。そいつの名はクラピカ、今回の功績でシングルブラックリストハンターになった実力者だ、と。

 幻影旅団は並のプロハンターでは手を出すことすら考えない犯罪者集団だ。今までにも何人ものプロハンターが返り打ちにあっているだろう。
 並どころかシングルの称号を持つブラックリストハンターですら捕らえられていないのがその実力を物語っている。
 そんな凶悪な犯罪者集団を1人で捕まえたのだ。一部のブラックリストハンター達からの期待が今回の投票に現われてたのが今回の選挙結果である。

「2人ともおめでとう……なのかな?」

 ゴンのどう言っていいのか分からないその言葉に、アイシャはげんなりとして応えた。

「嫌ですよそんな面倒な。これって棄権は出来ないんですか?」
「無理だな。立候補式ならともかく、この選挙は全ハンターが強制的に立候補者となっている。個人の理由で棄権は不可能だろう」

 クラピカが諦めたようにそう説明する。
 アイシャも分かってはいたが、改めて面倒な現実を突きつけられて思わず溜め息をつく。

「それよりもネテロのじいさんも大変だな。せっかく会長を辞めたってのにこのままじゃ強制復帰しそうじゃん」
「確かにな。アイシャやクラピカは流石にここから巻き返して会長になることはないだろ。ちょっと面倒だけど少しの我慢さ」

 キルアとミルキの言う通り、多少の面倒事はあるだろうが2人が会長になることはまず無理だろう。
 流石に188票と12票では差がありすぎる。どう足掻いても逆転は難しいというのに、本人に逆転する気がないのだから尚更だ。
 それよりもネテロの方が面倒だろうとアイシャは思う。このままでは会長の立場に逆戻りだ。この結果は果たしてネテロの人徳によるものか、はたまた副会長の罠か。アイシャとしては判断に悩んだ。

 あの時ネテロは次の1手は予想が出来ていると言っていた。ならばこれも予想の範疇ということ。会長を辞めるのを推薦しておきながら、選挙にてネテロを合法的に会長に戻す。確かにネテロを会長に戻したいと言っていたパリストンならやりそうな手ではある。

「あ、ジンの名前がある」

 クラピカの名の下、同順位にジンの名があるのをゴンが発見する。
 いずれは名前だけでなく本人を発見したいと思っていたゴンだが、どうにもこの選挙を通じて意外と早く出会えそうであった。

「リィーナさんも凄いね。オレ達が入れた票もあるけどそれ以上にたくさんの人がリィーナさんに入れてるよ」

 リィーナは現状3位、ネテロやパリストンには劣るが四位以下を大きく離しての3位だ。会長の座を狙うのも不可能ではないだろう。
 リィーナは風間流の門下生からプロハンターになった者達は当然として、それ以外のプロハンター達に意外と人気があった。
 十二支んのような色物ではなく正当派とも言える見た目に、風間流最高責任者という立場と実力。これらから密かにファンがいたりするのだ。
 あの冷徹な瞳で見て欲しいと思っている者もいるとかいないとか。まあこれらは当のリィーナはもちろん、アイシャ達も知らないことだが。

「リィーナさんはともかく、私は確実に落ちるだろう。上が多すぎる。会長の立場になれば緋の目の情報も入りやすくなるかもしれないが、その分動きが制限されるのが辛いしな」
「そうですね。私も8位ですが、正直上との差が開きすぎて五十歩百歩と言ったところですし」

 そう、2人とも会長になるかもしれないという心配は特になかった。面倒だと思っているのはそれ以外のことだ。

 そんな2人へとハンター協会から通達が来た。内容は、次回の選挙の前に上位16名の紹介と演説を撮影するので協力してほしい、とのことだ。
 ハンターサイトの動画に流して全ハンターに見せるための撮影だ。上位16名の細かな詳細などを分かりやすくするためだろう。
 やはり面倒事が来た。そう思うも逃げ道はないと諦めるしかない2人だった。





 イルミの歪んだ愛は嫌いでしたが愛情だけは認めてはいました。
 でも選挙編でアルカの有用性がキルアの存在を上回るとキルアを木偶にしてもお釣りが来るとか言う始末……。
 キルアへの愛も結局はゾルディックの利のみで考えていたのでしょうね。キルアが優秀な才能を持っていたからこその愛だったと思い知らされた。

 選挙に関しては色々と票が原作と変わっています。ネテロがいたりパリストンが違う動きをしているのが大きいですね。
 ビスケの順位が上がっているのは良くリィーナと一緒にいるからです。風間流の紳士なプロハンターの何人かが投票しました。
 ヒソカの順位が上がっているのは正義の味方の影響だったりなかったり……。

 ハトの照り焼き様から頂いたイラストです。

【挿絵表示】

 差分です。

【挿絵表示】

pixivに他の差分があるので興味があるならご覧ください。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51227014







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