どうしてこうなった?   作:とんぱ
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後日談その8 ※

 第3回13代会長総選挙は概ねリィーナの予想通りに、そして多くのハンターの予想を大きく外れる結果となった。

 1位 パリストン     194票(25,6%)
 2位 リィーナ      146票
 3位 アイシャ      118票
 4位 ネテロ       100票
 5位 チードル       62票
 6位 ボトバイ       55票
 7位 ミザイストム     37票
 8位 イックションペ    25票

 欠席票           18票

 今回も得票数1位であるパリストンであったが、その得票率は過半数を超えていない。全体の95%のプロハンターが投票しているので上位半分、つまりは4位以内による再選挙である。
 それはいい。そう簡単に終わらないルールとなっているのがこの選挙なのだから。そんなことよりも多くのハンターを驚愕させたのが、アイシャという存在の急激な台頭であった。

 今までの選挙で大半のプロハンターがアイシャに対して特に何も感じていなかった。アイシャが投票されている理由が全く分からなかったからだ。
 中にはその見た目で判断して投票しているのではと思っている者も多いくらいだ。しかしそれも仕方ないと言えよう。アイシャの功績を知る者は極僅かなのだから。
 アイシャの演説動画を見た者達は本人は特に選挙に興味はないが、周りの者が興味本位や見た目に惑わされてからかい半分で投票したのが積み重なり、その結果順位が上がったのだろうと予測していた。
 だが、今回の投票結果を見て、流石にそのような予測を立てる者はいなかった。前回32票の6位から、109票へと大幅に増加しネテロ会長を超えて3位に浮上したのだから。
 この急激な上昇に誰もがいぶかしんだ。演説動画でそのような急激な票の増加を見込めるような演説はしていなかった。それどころか票を拒否していたくらいだ。なのに何故だ?

 一部の者――十二支んの一部やアイシャ達――はその答えに行き付いていた。パリストンの仕業である、と。
 今回のパリストンの得票数は194票。全体の数字で見るならば立派なものだ。今回も見事に1位をキープしている。
 だが、前回のパリストンの得票数は191票。これを考えると194票というのはおかしいのだ。少なすぎると言えよう。

 確かに前回と比べると得票数は上がってはいる。だが、この選挙は上位半分が再選挙をすると同時に残りの下位半分は脱落するシステムだ。
 そうなると脱落した分の票は残った候補者達の誰かに投票される。つまり選挙の回数が多くなる程に候補者の得票数も多くなっていくのだ。もちろん少なくなる者も中にはいるだろうが。
 第2回総選挙にて脱落した候補者達が有していた票は135票。135人のプロハンターがそれぞれ会長に相応しいと思う人物に新たに投票することになる。
 それだけの人数がいれば現在1位であり会長最有力候補のパリストンにも多くの票が流れることもあるだろう。
 だというのにだ。実際にはパリストンの得票はたったの3票しか増えておらず、情報が殆どないルーキーであるアイシャが86票も増えているのだ。

 大抵の者はそうなる理由が理解出来なかったが、パリストンを良く知りアイシャとネテロの関わりを知った十二支ん達は理解した。この流れを作っているのがパリストンだと。
 アイシャ達もこうなるだろうと予想はしていた。ここまで極端に得票数が上がるとは思っていなかったが。

 だが、この流れを作ったのがパリストンだと理解出来ても、何故そのような流れを作ったのかまでは理解出来ない。
 そう困惑しているのは十二支ん達だ。パリストンが何をしたいのか理解出来ないのだ。選挙にてネテロ会長を合法的に会長に戻すのかと思いきや、アイシャという少女を無理矢理勝ち残らせる。
 その先にある目的が何なのか全く理解も想像も出来ないでいた。……ただのネテロへの嫌がらせだとは思考の端にすら浮かばないでいた。

「どういうつもり? →子」

 パリストンの思い通りに選挙が動き、自らもそれを阻止すること叶わず落選することとなったチードルは、パリストンに有無を言わせないような圧力を以って問いかける。
 だがそんな圧力など何もないかの如く、パリストンはいつもの笑みを絶やさずに気軽に答えた。

「どういうつもりと言われましても? 何のことですかチードルさん?」
「何故、あのアイシャさんを勝ち残らせるの? →子」
「何のことでしょう? アイシャさんが残っているのは実力ですよ実力。アイシャさんは素晴らしい人物だと思いますよ。ボクは彼女なら会長に相応しいとも思っています。実力はネテロ前会長のお隅つき! その上あの若さです。美貌も申し分ない。見た目とは非常に重要な要素ですからね。新たな協会を牽引する力として申し分ないでしょう」
「……」

 はぐらかすように答えているが、パリストンが裏で手を回したのは明白だ。ただそれを探っても意味がないのはチードルも理解している。
 証拠を残すようなことはしていないだろうし、例え残していたとしてもそれは別にばれてもどうでもいい証拠だろう。
 とにかく、何らかの目的があってアイシャを会長にしようとしているか、会長にしようとせずともここまで勝ち残らせた意味はあるはずだ。
 それを少しでも探ろうとこうして声を掛けたのだが……。やはりいつもの如くのらりくらりと躱されて終わりそうだ。

「あなたが何をしようとも、協会はあなたの思い通りにはさせないわ」
「へぇ……」

 いつもならそんな台詞を口にしたりはしないチードルだが、今のところは全てがパリストンの思い通りになっている気がして対抗するようにそう言ってしまった。
 自身が会長になる可能性も潰え、パリストンの動きを阻むことが出来なくなったのも理由の1つだろう。

 そう言い放ってチードルはその場から立ち去って行った。

 ――嫌だけど、彼女に頼るしかない……!――

 そんなチードルの最後の希望は、しかしパリストンには容易く読まれていた。
 パリストンはチードルには聞こえない程小さく呟く。

「ふふ、貴女では彼女は動かせませんよ」

 ほぼ全てが思い通りに動いている現状、次に起こりうる出来事を考えてパリストンは溜め息を吐いた。

「ま、これが限界なんですけどね。アイシャさんには優秀な味方が多すぎる……これ以上の手は打っても意味はない、か」

 ネテロとリィーナ。この2人が味方に着いているだけでパリストンに出来ることは最早なかった。
 どちらか片方だけならばいいのだが、どちらもというのが問題なのだ。
 協会内でのネテロの発言力は未だ健在。その存在は会長を辞職してなおハンター協会の顔と言えよう。
 対してリィーナは協会内の発言力はともかく、経済界での発言力の高さが問題だった。多くの政治家ともコネクションを持っており、ネテロでは不可能だろう政府への発言すら可能な程だった。ある意味ネテロ以上に厄介な存在だ。
 ネテロだけならば政府の動きを通じて無茶を通すことも可能だっただろう。リィーナだけならば協会の力で選挙を思い通りに動かせただろう。だが2人同時に相手をしてしまうとパリストンでもこれ以上の手を打っても無意味な物とされてしまうのだ。

 ここまでは理想通りに動かせたが、だからこそ最後の展開まで読めてしまう。そしてそれを防ぐ手立てはパリストンにもなかった。
 いや、会長になる為にならば動きようがあるが、会長になることに愉しみを覚えていないパリストンにその気はなかった。

「ま、防げないならそれで良し。そうなったらそうなったで今後を愉しみましょう。アイシャさんの秘密も大体は想像付きましたしね」

 アイシャを調べている内にその人間関係で理解した、いや直感したアイシャの秘密。
 確証などなくとも確信する突拍子もないそれは、パリストンが興味を持つのに十分過ぎるものだった。

「そう、チードルさんでは彼女、リィーナ=ロックベルトは動かせない。彼女を動かすことが出来る者は極僅か。ネテロさんとクルーガーさん、そして……」

 パリストンは真の意味でリィーナを動かすことが出来る唯一無二の人物を思い浮かべる。

「いやぁ、本当に愉しくなってきたなぁ」

 端から見れば天使のような、パリストンの内心を知る人が観れば悪魔のような微笑を浮かべながら、パリストンは心底愉しそうにその場から立ち去って行った。







 第4回13代会長総選挙は今までと違い、投票権を持つほぼ全てのハンターが1つの会場に集まり、残る4人の候補者の主張を聞いてから候補者同士の質疑応答などを終えて投票するという流れになった。
 これを提案したのはパリストンだ。残った候補者も4人となり、会長決定も間近と言える。だからこそ全てのハンターに候補者達の生の声と主張を聞いて自らが選ぶ会長を後悔なく決めて欲しいという理由からだ。
 もっとも、パリストンの言う理由などを信用している十二支んはいなかったが、例によって例の如く反対意見を正論で潰されての可決となった。

 ちなみにほぼ全てのハンターが集まったというだけに、全ハンターが集まったわけではない。その最たる例がジンだろう。
 彼はとっとと協会本部から逃げ出しており、この選挙の投票も別の場所から行うようにしていた。多くの十二支んが叱責していたが、それでも聞く耳持たずなのがジンである。
 これにより多少の厳罰は受けるだろうが、十二支んでありダブルハンターの称号を持つジンならばそれ程重い罰にはならない。それを見越して逃げたのだが。
 全てはゴンに見つからないようにするためである。現在ゴンは会場内を見渡しながらジンを探しているが、残念ながら徒労に終わるようだ。



 現在壇上には4人の候補者と、今回の選挙の司会を務めることとなった十二支んのピヨン、計5人がいる。
 ピヨンが特徴的な間延びした口調で選挙の詳しい説明をする中、壇上に立つことが出来なかったチードルは歯噛みしながら壇上を見る。
 彼女は昨日パリストンの読み通り最後の希望であるリィーナに協力を願い出た。チードル自身リィーナのことを好ましく思っていない。敬愛するネテロに対して隠すこともなく悪態を吐いている人物だ。嫌悪して当然だろう。
 それでもパリストンの思い通りにことが運ぶくらいならばリィーナが会長になった方がマシというものだ。
 だがそんなチードルの想いは『興味がございません』という一言でけんもほろろに一蹴された。

 分かってはいた。リィーナは自分たちと相容れることはない、と。だが、それでも一縷の望みを賭けるしかなかったのだ。
 こうなっては残った十二支んでも自分と同じ良識派のボトバイやミザイストムなどと協力し、何とか外から票を操作しリィーナに投票を集中させるしかない。
 短い時間で出来ることは少なかったが、自分たちの手の内にいるハンターにはそう働きかけた。最後に残った手は1つだけ。
 その最後の1手が壇上にある巨大な画面に映し出される。

 画面に映っているのはチードルだ。前回の選挙で落選した候補者からのコメントを流しているのだ。つまり事前に撮っていた動画である。
 既に残りの落選者である3人――ボドバイ、ミザイストム、イックションペ――のコメントは終了している。
 イックションペは別だが、ボドバイとミザイストムのコメントは今から流れるチードルのコメントとほぼ同じ内容だった。

『私は会長に相応しい人物はリィーナさんだと思っています。彼女の実力と卓越した政治力は皆さんも知っての通りです。彼女ならば協会をより良く導いてくれるでしょう』

 他の2人と違い簡潔ではあるが、3人の元会長有力者が同一人物を会長に推すのだ。効果はそれなりに期待出来るだろう。
 自分たちの信奉者はもちろん、これで少しでも他の候補者たちに投票していたハンターの票がリィーナに流れることを期待する。後は壇上を見守ることしか出来ない。
 それが一番悔しかった。せめて壇上に立ててさえいれば、どうにか主張や質疑応答を通してもっと世論を動かすことも出来るというのに……。
 チードルは壇上にいるパリストンを見る。落選した元候補者の3人がリィーナを会長に相応しいと推しているというのに、彼の顔にあるのはいつもの涼しげな笑顔だ。その余裕の表情を見て余計に苛立ちを覚え表情を変えずに歯軋りをする。

 チードルの想いをよそに選挙は進む。
 残った候補者の中で得票数が少ない者から順にそれぞれの主張を述べていく形式だ。
 最初の候補者は4位のネテロだ。前会長にして未だ現役。老いてなお最強のハンターと名高いネテロが壇上に立つと自然とどよめきが起こり、すぐにそれも静まる。

「あー、ワシに投票してくれた者たちの気持ちはありがたいがの。前回の演説でも見たように、年寄りは引退させてくれんか? 後は若い風が吹く時代よ。おぬし等1人1人が協会を形作っているのじゃ。老兵は去るのみじゃよ」

 お前のような老兵がいるか。ネテロを良く知る者は誰もが内心でそう怒鳴った。
 そんなことはさておきネテロの主張は続く。

「先も言ったが、今の協会は若い風が吹く時代じゃ。そんな中ワシが最も会長に相応しいと思う人物が壇上におる」

 ネテロが会長に相応しいと思う人物。一体誰なのかと皆が考える。
 やはりパリストンか? いやリィーナさんだろ? リィーナ殿は若くはないんじゃ……? 等と小声で話す者が多く、小声と言えども多くの者が話すことで会場がざわざわと騒がしくなっていく。
 ちなみにリィーナはちゃんと自分のことを若くないと言った人物を脳内にインプットしていた。

「それはな……アイシャじゃ!」

 ネテロの口にした名を聞き、会場は一気に騒然となる。
 今回のダークホースとも言える存在を前会長が推している。その事実がアイシャの急激な台頭を物語っているようだった。
 実際にはパリストンが裏で動いた結果なのだが、そこまで想像するのは内情を知らない者達には難しいだろう。

「アイシャならば協会を牽引する力となるじゃろう。うむ間違いない! ワシからは以上じゃ」

 何とも力強く断言し、ネテロは壇上にある椅子へと戻っていった。
 そんなネテロの主張を聞いて、パリストンはやはりと自身の予想が当たっていたのを確信した。

 ――やっぱりこの状況になりましたか。となるとリィーナさんの主張も……。そうなるとボクが何を言っても無駄ですね。流れに任せるとしましょう――

 少しでも面白くなるように掻き回してね、と最後に付け加えて、パリストンは予定調和となった選挙を見守っていた。

 ネテロの主張が終わり、次に3位の投票数を獲得しているアイシャが壇上中央の机の前に立つ。
 その表情はどことなく諦めの境地が見えた。実際は内心物凄く嫌がっていた。どうしてこうなったと声を大にして叫びたい気分であった。

 アイシャが前に立つと会場内は一気に静まった。全員が渦中の存在であるアイシャという人物を見極めようと集中しているのだ。
 今回の選挙でアイシャの名前と顔は一気に売れてしまったようだ。もはや手遅れといえよう。
 面倒事に巻き込まれないようにと祈りつつ、すでに面倒事に巻き込まれたからこうなったのかと思い直し、アイシャは自身の主張を述べた。

「えー、私は会長になる気はありません。なので他の方をお勧めしますよ? 以上です」

 そう簡潔に述べてアイシャはネテロの隣の席に座る。
 特に前もってリィーナやネテロから貰ったアドバイスでは、アイシャが何を言おうと結果は変わらないというものだった。
 ならば出来るだけ本心を語らせてもらっただけである。

 アイシャの選挙へのやる気のなさにどよめきが走るが、続いて第2位のリィーナが前に立ったことでそのどよめきも落ち着いていく。
 会場内が落ち着きを取り戻してすぐにリィーナの主張が始まった。

「まず、私に投票して下さった方たちに感謝を。私をそこまで評価してくださってありがたく思います。ですが、私よりも会長に相応しい方がいらっしゃいます。……それはアイシャさんです」

 その発言に静まっていた会場内がまたも揺れた。ネテロとリィーナ。協会内で知らぬものはいないと言える程の有名人の2人がこぞって1人の女性を援助する。
 これに驚愕しない者が果たして何人いるというのか。リィーナの発言を聞いたチードルとミザイストムは驚きのあまり目を見開いた程だ。
 旗頭にしようとしていた人物がまさかの選挙放棄に等しい発言だ。しかも会長に推したのがパリストンが裏で票を操作しているアイシャなのだ。
 一体何を考えているのか? リィーナがパリストンを嫌っているのは周知の事実だ。それがリィーナを旗頭に選んだ理由の1つでもあるのだから。
 リィーナならばパリストンがアイシャの票を操作していたことなど見抜いていただろう。だというのに、パリストンを手伝うような真似をするとは露とも思っていなかったチードル。

 ネテロがアイシャを推しただけですでに計画は破綻し掛けていたというのに、これで完全に計画は潰えただろう。
 最早チードルにパリストンを止める手立てはない。せめてパリストンの真意を見抜こうと、壇上に立つパリストンを睨みつけるように見つめる。

 そうして最後の1人、獲得投票数1位を持つパリストンの主張が始まった。

「皆さん、ボクはとても嬉しいです! 何故なら、壇上の4人の気持ちが同じだったからです!」

 突然何を言い出したのか? 壇上の4人の気持ちが同じなど、すでにアイシャが会長には興味がないと言っている時点でありえないだろう。
 パリストンの発言を理解出来たのは壇上にいる残りの候補者3人だけだった。
 つまるところ嫌味みたいなものである。アイシャ達の行動は理解していますよ、ボク達の気持ちは同じです、と暗に伝えているのだ。

「ネテロ前会長やロックベルト女史が仰るように、会長に最も相応しいのはアイシャさんです!」

 またもアイシャを推すその発言に、最早会場内はどよめきが収まることはなかった。
 ネテロ・リィーナに続き、パリストンまでもがアイシャという無名の少女を会長に推薦する。
 そこにある理由・背景が全く理解出来ない。そんな会場内の想いに応えるように、パリストンは主張を続けた。

「何故彼女が会長に相応しいのか? それを説明する為にまず我々プロハンターに最も重要な要素を説明いたしましょう。それは戦闘力です! これは我々の活動の性質上絶対条件! そして全ハンターの代表足る会長にもそれは求められて当然です! ネテロ前会長のその強さは皆さんも知っての通り、彼がプロハンター最強だからこそ、皆さんも安心することが出来たでしょう! ネテロ会長さえいればハンター協会は安泰だ! そう思ったことは一度や二度ではないはずですよ? 皆さんにも覚えがあるでしょう! ボクだってそうです!」

 パリストンの言葉に多くの者が納得する。確かにそうだ、と。
 ネテロの強さを間近で見たことのある十二支んは言わずもがな。詳しく知らない者でも、ハンター試験などで僅かに触れ合っただけでその強さを実感したことがある者は多い。
 プロとなり念能力を覚えた後に出会えばより顕著だ。副会長派と言える者たちでさえそう思ったことはあるだろう。

 だが何故今になってその話を持ち出すのか? アイシャという少女を見て、すぐに強さと結びつく者は少なかった。
 例外はアイシャと親しい者達以外では、NGLにてアイシャに助けられたプロハンターと十二支んくらいだった。

「だからこそ! ボクは彼女が会長に相応しいと断言出来ます! 何故ならば……彼女はネテロ前会長と戦いネテロ前会長を病院送りにした程の実力者だからです!!」

 今度こそ、会場内が爆発した。いや、爆発したかのようにざわめいたのだ。
 ネテロ会長と闘い、病院送りにした。それがどのような意味を持つのか理解出来ない馬鹿はこの場には1人としていない。
 あの少女が、壇上に構えられた椅子に座り、どこか頭が痛そうに呻いている少女が、あのネテロ会長と闘い勝ったというのだ。これに驚愕しない者はいないだろう。
 ちなみにパリストンはアイシャがネテロに勝ったとは一言も言っていない。あくまで病院送りにしたと言っただけだ。パリストンとてネテロとアイシャの戦いの勝敗を知らないのだから。
 都合の良い真実のみを抽出して話し、あとどう想像するかは聞き手の勝手というわけだ。

「これは真実です! 何ならネテロ前会長に確認をしてくださってもいいですよ? しかもネテロ前会長と比べて彼女は若い! それは彼女が更に強くなるということを現しています!」

 会場内のハンター達がパリストンの言葉に右往左往しているところに、パリストンはさらに畳み掛けるようにアイシャの素晴らしさを並び立てていく。

「さらに! 彼女は巨大キメラアントを駆除するという偉業も成し遂げています! 巨大キメラアントに関しては皆さんの中にもご存知の方もいるでしょう! 中にはアイシャさんに直接助けられた者もいらっしゃると思います。そういう報告も協会に届いていますからね。キメラアントという凶悪な生物が人間大のサイズで存在している。これに脅威を覚えない皆さんではないでしょう。そんな恐ろしい存在が世界に拡散することを未然に防いだのが、アイシャさんなのです!!」

 会場内のざわめきはもはや止まることなく拡がり続けている。周りにいる者たちにキメラアントについて確認する者、ハンターサイトにて調べる者、アイシャに助けられた者の声を聞きパリストンの言葉に信憑性があることを実感した者。そういったハンター達を見て十分に効果があったことを確認し、パリストンは最後の締めとばかりに主張を続ける。

「もちろん、彼女が若い故に経験が足りないと仰る方もいるでしょう! ですが経験不足は補うことが出来ます! そう、ボク達が一丸となって支えれば、多少の経験不足など容易く埋めることが出来ます! ですが強さは違う! 圧倒的な力というものは時に数では補えないこともあります! そんな掛け替えのない力を彼女は有している! だからこそ、彼女こそ! この場で会長に最も相応しい人物だと、改めて言わせてもらいましょう!! ネテロ前会長やロックベルト女史が彼女を推薦するのもその証拠と言えましょう」

 そう言い切り、パリストンは笑顔とともに椅子へと戻って行った。
 パリストンは既にネテロとリィーナがアイシャに協力していることでこれ以上の目論見は無意味だと悟っていた。
 だからこそパリストンは出来る限りアイシャを美辞麗句にて飾りたてた。アイシャの注目度を上げる為にだ。
 そうすることでアイシャの動きを少しでも阻害し、それがネテロへの嫌がらせに僅かでも繋がるなら儲け物ということだ。ついでに新しい玩具になりえるアイシャへの嫌がらせにも繋がる。まさに一石二鳥である。

 パリストンの主張を聞いたハンター達の反応は様々だ。
 多くの者が虚偽や大風呂敷だと思ったり、何か企んでいるのかと訝しんでいたが、中には少数ながらも素直に信じる者もいた。主に信じているのはパリストンの信奉者だったが。
 だが、アイシャの強さに疑問を抱いていた者たちも、アイシャの隣に座るネテロの顔を見てその疑問もまた揺らぐこととなる。
 自分を病院送りにしたという不名誉な情報を流されたネテロ本人が、特に不満や抗議を出すこともなく平然と座っているのだ。
 わざわざパリストンがネテロに確認をしてもいいと断言したことが更にアイシャの強さに真実味を持たせていた。

 ここまで来ると段々とパリストンの話を信じる者が増えてきた。ネテロとリィーナという2つの巨頭がアイシャを強く推すのもその実力の高さ故かと納得し出したのだ。

 候補者全員の主張が終わり、続いて候補者同士の質疑応答が始まったがこれはたった1つの質疑応答で終わることとなった。

「ネテロ前会長に質問です。先程ボクの言ったネテロ会長がアイシャさんに病院送りにされた、これについて何か異論はありますか?」
「特にないの。真実じゃからのぅ」

 これだけだ。これだけで終わりであり、アイシャ達やパリストンに取ってこれだけで十分だった。
 もっとも、アイシャは苦虫を噛んだような気持ちになっていたが。もちろん顔には出さないように気をつけていたが、どこまで自制出来たかアイシャも分からなかった。
 前もってネテロからこうなる可能性も大いにあると忠告されていたが、いざそうなると何とも言えない気持ちになってしまった。

 ――結果が変わらないなら過程を楽しみ、その上で次の目的への布石を打ってくるか。ネテロが気に入るわけだよ……――

 何ともネテロが苦手そうで、だからこそ気に入るような性格だとアイシャは思う。

 ともあれ、この後の投票において4回に渡った第13代会長総選挙は終わりを告げる。

 1位 アイシャ      708票(93,7%)
 2位 パリストン      15票
 3位 リィーナ        8票
 4位 ネテロ         7票

 獲得投票数708票。得票率93%以上の圧倒的1位となったアイシャが第13代会長に就任することとなった。

 壇上には既にアイシャ以外の姿はない。第13代会長となったアイシャが会長としての初の声明を行うのだ。
 アイシャが一礼をしたところで大きな拍手が鳴り響く。その拍手が収まったころにアイシャはゆっくりと口を開いた。

「えー、この度会長となりましたアイシャです。早速で何ですが、会長としての初仕事をしたいと思います」

 会長としての初仕事。新たなスローガンでも掲げるのか、それとも副会長を選抜するのか、はたまたハンター十ヶ条の改定を宣言するのか。
 誰もが期待と不安と興味をない混ぜにした視線を向ける中、アイシャはとんでもないこと台詞を吐いた。

「私は副会長にボトバイさんを指名し、この場で会長を辞することとします! 短い間でしたがありがとうございました。それでは!」

 そう言ってアイシャは笑顔で手を振りながら呆気に取られているハンター達を尻目にその場から立ち去った。

 これぞリィーナがアイシャにしたアドバイス、『逆に考えるんだ、会長になっちゃってもいいじゃない』である。
 会長になるのを防げないならば、一度会長になればいいのだ。その上で会長を辞任すればいい。ハンター協会会長に任期年数などなく、規定の年数を会長として務めなければならないという法もないのだから。
 会長が会長の立場を辞するのは自由なのである。ネテロも同様の方法を前日の内にアイシャに伝えていた。
 この2人が協力すればパリストンがどう動こうともアイシャに会長になるだけの票を集めることが出来るのだ。

 それはパリストンも予想していたことだった。そして会長になったアイシャがそのまま会長の座を辞することもまた予想していた。
 自分が同じ立場でも同じことをするだろうと考えていたのだ。その上アイシャにはネテロとリィーナが付いている。
 どちらか、もしくは両方がこの結論に至ってアイシャに入れ知恵していたとしても可笑しくはないとパリストンならば気付けたのだ。

 アイシャを会長にするのを止めることも会長の座を辞することを止めることもパリストンには出来ない。
 だからこそ積極的にアイシャを会長にするように動きつつ、アイシャへの注目度を上げるように大げさな熱弁をしていたわけだ。



 後に残されたハンター達は呆然自失となった後、騒然と喚きだした。だが、いきなり副会長に抜擢され驚愕していただろうボトバイがそれを抑えた。

「皆、静粛に! 突然の出来事に驚愕しているだろうが、プロのハンター足る者いかなる時でも冷静さを保ってほしい。私も副会長に抜擢されてしまい戸惑っているし、私が副会長ということに納得の行かぬ者もいるだろう。だがこのままでは話は進むことなく混乱の一途を辿るだろう。なのでこうして私がこの場を取り仕切ることを許してほしい」

 力強く、しかし落ち着いた口調が会場内に響く。それに伴い徐々にハンター達も落ち着きを取り戻していった。

「ありがとう。ではまず次の会長選出について――」

 皆を纏めるボトバイの姿を遠目からこっそりと覗き見ていたアイシャはうんうんと頷きながらその場から離れて行った。

「いやぁ、やっぱり彼に任せていれば大丈夫そうですね」
「それはそうじゃが、いきなり大役を任されるボトバイも難儀じゃのう」
「……私は彼なら出来ると信じていますから」
「面倒事を他人に押し付けただけとも言うの」
「ぐ……」

 いつもならお前が言うなとネテロに言い返しているアイシャだったが、流石に今回のことは言い返すことが出来ない程ボトバイに対して申し訳なく思っていた。
 思っていたが、会長などという面倒事をするつもりはアイシャには毛頭ないので前言を撤回するつもりはないのだが。
 それにボトバイならば会長に相応しいと思っているのも事実だ。戦闘力・経験・ハンターとしての実力。そのどれもが会長に相応しい水準にあるだろう。
 唯一政治力が不安だが、それは十二支んで補うことも可能だろう。

「まあそれはいいが、問題なのは」
「パリストン……ですね」

 2人して同時に溜め息を吐く。完全に目をつけられているという嫌な自信がアイシャにはあった。
 確実に今後何らかのアクションを起こしてくるだろう。彼に目をつけられるのはある意味会長になるよりも面倒事かもしれなかった。

「ああ、どうしてこうなったのか。……彼に元々目をつけられていたネテロが悪いということにしよう」
「パリストンに呼ばれてホイホイとやって来たアイシャが悪いんじゃよ」

 お前だ、いやお前じゃ、という不毛な言い合いをしながら、2人は追手が来ても見つからないように高速で協会本部から走り去っていった。




これにて選挙編は終了です。結局アイシャの取った手段が原作パリストンの丸パクリ……。これ以上を思いつけないのが私の限界です。

ハトの照り焼き様から頂いたアイシャの挿絵です。良ければご覧下さい。


【挿絵表示】







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