D・Mの精霊が一般的に認知されるようになり、商業として利用されるようになった時代。人々は精霊を私欲のために利用し、精霊の権利を蔑ろにしていた。
名無しの執行者は、悲鳴をあげる精霊たちの代弁者としてその罪人たちを裁く。

※短編小説。一話のみです。

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書きたいことは後書きに全て。


Dark Hero for Sprits

 

 

 

精霊法第1条――

――この法律は、精霊および人の権利を定め、これらの権利の保護を図り、もつて産業、文化の発展に寄与することを目的とする――

 

 

 

精霊法第3条――

――この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるものとする。

一、精霊 デュエル・モンスターズのカードに自然に宿ったものであって、法律が認めるものをいう。

 

四、固有能力 種族・種類に関わらず精霊が所有する、人や自然物に直接干渉できる能力のことをいう。

 

 

 

 

精霊法第4条――

――精霊の権利を不当に害してはならない。

 

 

 

精霊法第80条――

――第12条に違反した者は、死刑に処する。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

漆をぶちまけたような黒に染まる闇の中で男は一人、脇腹を押さえつけて逃げ惑う。ただ一切のアテもなく、信仰したことも聞いたこともないあらゆる神に向かって命を乞いながら。

 

「クソォッ! こんな……ことが……!」

 

まさに袋の鼠。誰も通りかからない路地裏の行き止まりに追い詰められたのは彼の不運か、それとも追いかける男の策略か。頭上数メートルの壁を背にし、肩で息をしながら鳴り止まぬ恐懦と緊張を強く噛みしめる。

狩る側の人間は、浮かぶ月光を背に一歩一歩獲物へと向かって距離を縮めていく。それに比例して心拍数は上昇し、体の奥から発せられた熱は汗腺から水分と共に発散していく。

 

「最後に言いたいことは」

 

感情の起伏を一切見せず機械の如くそう告げたのは、眼前に立ちふさがる男なのか、それともその後ろに影を潜める大きなモンスターか。

背の壁に持たれ込みながらずりずりと姿勢を下げていく。膝を折り、脱力しきった状態で震えを加速させた。その時自分にとどめを刺そうとしていた男の目にはどう映っていただろうか。ひょっとすれば世界の終末を迎えたような表情をしていたかもしれない。

 

「ヒィッ……! ま、待ってくれぇ……! 話せば分かるはずだ!」

 

掠れた声で放った苦し紛れの一言も、男には決して届かなかった。じっと獲物を見つめるだけのその佇まいからは、何も窺い知ることは出来ない。

 

「っ……! お、お前が人を殺していい理由なんてないだろう?!」

「ない。人が精霊を私欲に利用していい理由がないように」

 

何を話しても無駄だと承知のうえで僅かな時間を稼ぐ。その間に脳を駆け巡る走馬灯から在りもしない打開策を探し回った。しかし案の定どれだけ思考を巡らせても、この絶望的状況から生還する見込みは打ち出せない。

自分は今からどうやって殺されてしまうのだろう――眼前の男の後ろに立つ、目と爪をギラリと光らせるモンスターに(はらわた)を切り裂かれるのかもしれない。ひょっとすれば男自身が何かの凶器を使うのかもしれない。

 

「や、やめ……うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

――男が最期に見たのは、無慈悲にも手をかける執行人(エグゼキューター)

 

 

 

* * * * *

 

 

 

21XX年。数百年前から数々の進化を伴い発展してきたD・M(デュエル・モンスターズ)は、今でも世界で強烈な影響力を持つコンテンツとなっている。そしてその中で最も大きな進化点の一つは、たったの一言で言い表すことができよう。

 

「ええ。そちらの方は問題ありません。《ラビー・ドラゴン》150体。ええ。全て異常なく用意が完了しております。乗り心地は最高ですよ」

 

――それは、“精霊”という存在と概念が人間社会において認知され浸透されきったという事。日常生活ではD・Mのカードに宿った精霊が人間と共に生活し、共に助け合い、共に生きている。翼を持った大きな竜の精霊は人間の交通ツールとして利用され、超能力を持つ精霊は災害時の救出や怪我人の治療に貢献している。前時代における“携帯電話”とは比較にならない程、必要不可欠な存在にまでなっているのだ。

 

「リリー。こっちの患者さん頼むよ。その後はこっちのカルテもね」

『は、はい! えーと……こっちですか?』

 

しかしここ数十年、精霊への依存に比例するように精霊の議論は幾度となく繰り広げられた。人間と同じ人権を認めるべきであるという意見や、人間による束縛から解き放たなければならないという意見がその一例だ。それも一理ある筈なのに表向きにはされない。

 

『皆さーん! 今日は私《ブリザード・プリンセス》の単独ライブに来てくれてありがと~!』

「「ブリプリちゃーん! こっち向いてくれー!」」

 

何故ならもう後戻りは出来ないからだ。精霊と人間は既に分子レベルで結合してしまっている。精霊は人間に奉仕し、人間は精霊に愛情を注ぐ。当初持っていた未来予想図は、そんな独りよがりにも思える理想へと成り代わり、数十年かけて“|精霊プロジェクト”を完成させたのだった。

 

「「精霊に人間と同じ権利を!」」

 

そのような歪んだ価値観が浸透しそれが実行へと移されている世界では、精霊を保護する団体がいくつも結成されることも必定である。街頭では日々あらゆる団体が拡声器片手に声を荒げている。街を歩くものにその声が届いているのかは定かではないが、彼等はただ一途に自らの理想を企業や国に対してぶつけているのだ。

そして国側も彼等を表立って弾圧することは出来ない。もし弾圧してしまえばそれはつまり、精霊の権利を蔑ろにしていると認めていることになってしまう。

 

「当初の理想は人間と精霊の共生だった筈です! それなのに気が付けば精霊は人間に奉仕するための道具になり下がった! こんなことが許される訳はありません!」

 

か弱くも凛々しい声で、ほんの少しでも民衆の心を動かすことを祈り続けて女性は叫び続けていた。――民衆の心は既に動いている。しかしそれでも今更精霊に依存しない生活に戻ることは出来ないために、黙って目を瞑るしかない。

 

そして、盤石な居城も蟻の一穴から崩れ去る事を人間はよく知っている。一部の精霊が心の内に溜め込んだ不満が爆発してしまえば世界はいとも簡単に破滅し得ることもよく知っている。余りに細い支えでこの理想世界は成り立っているのだ。

 

「――簡単ではないぞ? このモンスターは」

「確かに元々気性の荒い種族ですが、これを実用化・商品化すればより社会は発展することは言うまでもありません」

「そうは言うがの。今までの“制御装置(リミッター)では……」

「法定の制限ですか。そちらは問題ありません」

 

都市部に聳えるビルの一室。しわ一つないスーツ姿の男は口元を釣り上げ、小太りの男性に向かってそう断言した。自信を伴わせた快活な口調と、まるで魂を悪魔に売ってしまったような深い笑いが、それを聞く男性の言葉をくぐもらせた。

精霊はその種族に応じて一定範囲の能力制限をかけなければならない。ドラゴン族の精霊は大抵最大レベルの制限(リミット)であり、昆虫族などでも種類によっては高いレベルの制限(リミット)を課せられる。

――これが、精霊の権利を奪っていることへの、そして精霊を良いように利用していることへの非難の主な原因だ。

 

「ふんむ……霧岬(キリサキ)くん……君は恐ろしい男よ」

「私は人類と社会のために行動しているのです」

 

背中をソファにもたせ掛け、そう言い放った。彼の理想に“精霊”の為の福祉は入っていないようだ。しかしながらこの世界に住む人々の多くは彼の理想に対して非難することは出来ないだろう。皆が少なからず自らの便益のために精霊を利用しているのだから。

 

2人の交渉が最終段階に入った時、部屋の扉のノック音が響いた。小太りの男性は低い声で「入りたまえ」と言うと、その言葉を確認してからノックの主が入室する。冷静でそれでいて緊迫した口調で、緊急事態の報告を入れる。

 

「失礼いたします。“ジョンドゥ”がまた現れました」

「……チッ! また我々の邪魔をするか……」

 

 

―――――。

 

 

出力の強い懐中電灯を焚き、警察(セキュリティ)は闇夜に溶け込んだ目標を探す。その光に当てられたのは、地面に横たわる1枚の“カード”。それを確認するや否や、男は地団太を踏んだ。

 

「くそ……またやられたか! 探せ! 草の根分けてでも探すんだ!」

 

警察(セキュリティ)のリーダーがそう一喝すると、すぐさま彼等は散開した。ある物は白バイクに乗り、ある者は自分の足と銃で目標を捜索する。彼等の目当てはただ一つだ。

部下たちがその場を離れたのを確認すると、リーダーはその場に落ちたカードを拾い上げた。

 

「ジョンドゥめ……!」

 

拾い上げられたカードに描かれていたのは、メディアで見覚えのある“男性”だった。“精霊”の市場において知らぬ者はない有名企業の代表取締役。商品だとすればあまりに趣味の悪いカードだが、生憎彼が拾ったカードは“人によって作られた物”ではない。

 

「牛尾さん! 駄目です、見つかりません!」

「馬鹿野郎! 諦めるのがはええんだよ!」

 

警察(セキュリティ)が常備させている精霊《ヘルウェイ・パトロール》は、周囲数十メートルの目標をとらえるという固有能力を持っている。それすらも掻い潜り行方を晦ませるとなれば、宿敵であるジョンドゥも特別な精霊を連れている筈だ。牛尾、と呼ばれた男は腰に掛けたトランシーバーを無造作に取り出し、そこへ向かって声を浴びせかける。

 

「一番隊は裏の通りを探せ! 二番隊は――」

 

“ジョンドゥ”は今やニュースで報道されない日は無い有名人となった。ある者は彼を殺人者と非難し、またある者は彼を義賊だとか救世主だとか持ち上げた。夜な夜な目標を襲い、決まってその目標が描かれたカードを落として去っていく。そこに魂を封印されているのか、それともカードに描かれている人物は既に殺されたのか。何度も同じ事件に遭遇していながらいまだその答えは見つからない。

精霊の力を借りた警察(セキュリティ)でさえも彼の尻尾を掴むことは出来ない。日に日に増え続ける犠牲者にただ手を焼くのみだ。

牛尾が全部隊に命令を告げた後、小さく舌打ちをした後にコンクリートの壁に持たれ込み、近くに立つ部下に更に命令を下す。

 

「KC《キリサキ・コーポレーション》が近くにあったはずだ。ガードマンは十分だろうが、我々も霧岬社長や要人をお守りしろ」

 

ジョンドゥが狙うのは決まって精霊が絡んだ業界の役人や重人。何人ガードマンを配備しても、網の隙間を狙って仕事を完遂する。護衛の責任は増し、その市場が活発になるなどという半ば信じられない副次的効果も発生するようにもなった。

他に判明しているのはその人物が“男性”であることのみ。それ以外は深い闇に包まれたまま。人々は正体不明である彼を、名無し(ジョンドゥ)と呼んでいる。

 

 

* * * * *

 

 

「ジョンドゥも……同じなのかな」

 

右手に持ったコーヒーカップを机に置き、嘆息するようにそう呟いた。

FoS(Friend of Sprits)。精霊に対して人間と同じ扱いを施すために日夜奮闘する、非公認の精霊保護団体だ。非公認ではあれどそのメンバーは世界中に点在し、馬鹿には出来ない規模にまで成長している。そして精霊を人間の束縛から解放するという思想は、ジョンドゥのそれと恐らく同じ――FoSの思想を究極までに過激化させたのが、ジョンドゥという存在だ。

 

「ね、デネブ。ジョンドゥの事……どう思う?」

『僕等の仲間が苦しんでるのは見たくない……けど、人間が殺されちゃうのもみたくないよ。美咲みたいに優しい人間だって一杯いるもん』

 

人間との完全なる別離を求める精霊もいれば、人間との平等な扱いを求める精霊もいる。中には人間に対しての奉仕が喜びとなる精霊も存在する。藤森 美咲(フジモリ ミサキ)と共に生活する星因士(サテラナイト)デネブの精霊のように、精霊が人間に対して持つ感情も千差万別。

FoSの支部事務所で、美咲は相棒であるデネブと言葉を交わしていた。

 

『美咲はどう思うの?』

「……私はこの国の体勢を許したことはないし、許すつもりもないよ。ベガが連れていかれちゃった日からずっと、ね」

 

精霊法第10条――「固有能力を持つと国に認められた精霊については、これを国に提供しなければならない」。

精霊法第12条――「精霊の固有能力を正当な理由なく使用してはならない。但し、この法律が定める機関によって特別な許可を得たものはこの限りではない」。

世に出回っている“精霊”は、それぞれの種族・種類が持つ能力に加えて希に“固有能力”を持って生まれることがある。セキュリティに支給されている《ヘルウェイ・パトロール》がその代表的な例であり、非常に希少な存在として重宝される。

しかしその固有能力を許可なく使用する事は絶対に許されない。民間人は勿論、強大な力を持つ企業や公営機関も原則使用不可だ。使用できる権限を原始的に持つのは、精霊を運用する上層部の限られた機関のみ。

 

「どこで何をしてるんだろう。それすら教えてくれないんだもん」

 

美咲の所持していた精霊であり、デネブの親友だった精霊は不運にも固有能力を持ってこの世に生まれ出た。その時点で彼の運命は決してしまったのだ。ベガの代わりに美咲の手に残されたのは、国から支給された、一生遊んで暮らせるほどの莫大な対価だった。

 

「御国の為……だって。そんなの横暴だよ」

『美咲……』

「こんなお金押し付けられても困っちゃうよね……ほんと」

 

支給金は全てFoSの活動費に使用している。押し付けられた金を国へ返し、代わりにベガを返してもらうために。

結局、美咲がジョンドゥに対して持つ感情をデネブに話すことはなかった。もしこの時、ジョンドゥが精霊と人との関係をやり直すための希望である――などと言ってしまったらどうなっていただろう。彼は自分の事を嫌ってしまうかも知れない。

そうだ。自分はジョンドゥを英雄視している。社会に蔓延る癌細胞の駆除の役目を命がけで買って出ている義賊である、と。

 

FoSの活動がほとんど意味をなさない事くらい、本人だって感づいている。口で言って伝わらない相手には力で以て打ち倒さなければならないのだ。そして、自分が国に対してしてやりたい事をジョンドゥは行ってくれている。

 

これは憧れか、一種の歪んだ恋心か。

 

 

* * * * *

 

 

都内の賑やかな繁華街にて。ここでも例外なく人間と精霊は共に生き、共に仕事をする。否、精霊は働かされているといった表現の方が適切かもしれない。

 

『私、もうこんなお仕事したくありません……』

 

スタッフが準備をする控室。余りに散らかった部屋内からは店長の適当っぷりが伺える。足の踏み場も少ないそんな空間にいたのは、俯いて絞り出すように声を出す精霊と、鬼のような眼光で睨み付ける店長。

 

「はぁ? 誰に向かって口聞いてんだよ?」

『う……す、すみません……』

 

カード名《風霊使い ウィン》。その非の打ち所のない端麗なルックスとおっとりとした表情が世の男性たちの好感を買う。まさに男子に対しての接客という点で、ここメイド喫茶においてこれ以上の適材も中々見つからない。必然的に、この種類の精霊は高値で取引される。

店長の男は椅子を蹴り飛ばし、一気にウィンに詰め寄った。両者の顔が数センチにまで近づいたところで、男は両の手を壁に押し付け逃げ場をなくす。まるで、こき使われる精霊を体現しているかのようだった。

 

「お前等を買うのにどれだけの金を叩いたと思ってんだ。お前たちは俺のいう事を聞けばいいんだよ。またお仕置きされてーのか?」

『ひゃっ……ひゃぃ!』

 

子が親を選べないように、精霊は主人も環境も仕事も選べない。両目から頬を伝う一筋の涙が、彼女を含めた同じ境遇の精霊たちの心理状態を表出する。この男の下についてしまった時点で彼女の運命は決する。そんな悲劇がこの世界で当たり前のように横行してしまっているのだ。

男はウィンを押し飛ばし、パソコンの前――自分の定位置に戻った。

 

「分かったらさっさと戻れ。次ウダウダ言ったら分かってんだろうな?」

『すみ……ません……』

 

接客態度としてはよろしくないようなどんよりした表情で、ウィンは控室を後にする。

その直後、廊下で掛けられた声に、ウィンの肩は思わずビクついた。

 

『まーた道島さん(マスター)に逆らっちゃったの。懲りねーなお前も。今度は何されるか分かんねーぞ?』

 

廊下の壁にもたれ掛かりウィンを待っていたのは、彼女と同じ霊使いの一人である《火霊使い ヒータ》だ。ウィンとは対照的にボーイッシュな顔立ちをしており、この2人が広い範囲で男たちの理想を満たしてくれるようだ。2人ともメイド服を着ているが、これは本意ではない事を本人たちのために特筆しておく。

 

『ヒ、ヒータちゃん……ヒータちゃんはいいの?』

『んや、いい訳ねーよ。だけどどうしようもねーし……逆らっちまったらもっと酷え場所に連れてかれるかもしれない』

『ひどい……ばしょ?』

 

それを自分から言わせるか――と言いたげな表情でヒータはウィンを見つめ返した。手前味噌でもないが、人間に決して逆らえない美女が何処へ連れていかれて何をされるかと問われれば、哀しきかな想像は容易についてしまう。

何かを押し隠すような嘲笑を込め、ヒータは言葉を続ける。

 

『ま、飯は食わせてもらってるんだ。我慢しようぜ』

『一生……?』

『――っ……。い、一生は……俺もやだけど……』

 

苦い表情だ。どこか抜けているウィンでも流石に察したのだろうか、これ以上の詮索をヒータに対してする事を中断した。数年前から八方ふさがりのこの状況で、何の面白みもなく何の労りもなくここで働かされてきたのはヒータも同じなのだ。

ヒータはウィンの肩に手を置いた。苦しみを間近で共有する唯一の仲間として。

 

『ヒータちゃん……』

『ほら。営業スマイル』

 

理不尽な労働環境でウィンがここまで我慢できたのもヒータのお蔭。ヒータの笑顔を目にした途端、ウィンはうっすらと笑い返した。何度だってヒータの笑みが陰ることはない。

 

彼女たちは持ち場に戻って指名された人の元へ駆け寄っていく。笑顔を無理矢理作り、いつもより甘い声で、胸元の谷間を強調させて、教えられた通りの接客だ。

 

『お帰りなさいませ、ご主人様!』

 

ウィンの言葉の語尾にはハートマークが想像される。これも哀しいことだが慣れてしまった。そんな言葉を掛けられた客人は室内にも拘らずコートを着込み、フードを深く被っていた。若干の不気味さを覚えつつウィンは頭と体で覚えた接客マニュアル通りに言葉を続けていく。

 

『ご注文をどうぞ♪』

「えーと……そうだな。どうしよう」

 

じっくりと時間を使い、男は可愛らしく彩られたメニューに目を滑らせる。というか、あまりこういう場に慣れていないような雰囲気が感じられる。

 

(初めての人……なのかな?)

 

銀のプレートで口を隠し、ウィンはそう考えた。それから数秒後男は漸く口を開く。

 

「お勧めとか……ありますか」

『は、はい! えーと、これなんてどうでしょうか?』

「……じゃあそれで」

『かしこまりました、ご主人様!』

 

ともすれば、自分の心情を察せられたのだろうか。自分では気が付かなくとも、こんな仕事をしたくないという念がひしひしと伝わってしまっているのだろうか。そんな杞憂の念を残し、ウィンは再びにっこりと笑ってその場を後にした。

男はその後姿を見送ると、ポケットに手を突っ込んで椅子に深く座り込む。見惚れていた――と言うよりは、睨み付けるような表情。何かに対して抑えきれぬ怒りを表しているような表情。

 

スッっと、音もなく立ち上がった。自分が何を注文したのかすら覚えていないまま、ウィンが帰ってくるのを待たずしてその場から遠ざかっていく。その不自然な行動を目にしたのは、偶然にも誰も居なかった。

 

『お待たせしました――って、あれ……?』

 

 

* * * * *

 

 

ひんやりとした廊下、窓一つない空間で前を見ることが出来るのは、切れかかった蛍光灯が辛うじて自らの力を振り絞ってくれているお蔭だ。

これくらいの温度が丁度いい。着込んだコートが冷たい空気を遮断してくれる。

 

コツ、コツ――

 

廊下中に響き渡る足音の数は一人分。先ほどの謎めいた男だ。彼の目的地は、このメイド喫茶の控室。

 

コン、コン――

 

ノックの音は鈍く、小さかった。関係者以外立ち入り禁止の控室をノックする不気味さは、室内にいるオーナーが最も感じたことだろう。

 

ガチャ――

 

「なんスか? 済みませんけどここ立ち入り禁止――うぁっ!」

 

一瞬にして男はオーナーの首元を捉え、地面にたたきつけた。文字で形容するとすればギリギリという音。呼吸すら暫くの間許さない程の力で以て、行動を縛り付ける。その手際の良さは感服する……全く関係の無い傍観者ならば。

 

「あ……あ……」

「声を出すな。このまま殺してもいいんだぞ」

 

慌ててオーナーは無抵抗のジェスチャーをとった。男がオーナーのぶら下げた名札に目をやると「道島」と書かれている。彼の苗字だ。

そのあと、室内を見渡した。無造作にファイルや資料が散りばめられ、空いたペットボトルの容器が大量に並んでいる。害虫が好みそうな室内で、唯一の取柄はそこそこ広いというくらい。男が探していたのは監視カメラだったが、杜撰にも一つも設置されていない。

道島を手放すと、慌ててその場から後退りした。その姿は見るも無様だ。

 

「な、なんだてめぇは……金か?! それとも精霊(ウィンたち)か?」

 

需要の高い精霊はその財産価値も高い。このメイド喫茶を開店するための初期投資は、ここ2年半で漸く取り戻すことが出来た――というくらい。

数十秒ぶりに吸った空気をこれでもかという程味わいつつ、乱れた口調でその男に問いかける。

 

「……後者だ」

「あ……?」

 

一切の肌の露出を見せないコートから、左腕に装着されたデュエルディスクが覗かれる。それを凝視すると、見せびらかすように男は左腕を振りかざす。

 

「でゅ、決闘(デュエル)……?」

 

よろよろと立ち上がると、道島は弱々しい声でそう言った。これほど控室内に監視カメラを置かなかったことに対する後悔の念が沸きあがったこともない。

 

「分かったならばさっさとしろ」

「ひっ……!」

 

「デュエル」――と、宣言する余裕すらない。ライフが4000と表示されたことを確認すると、2人の静かな決闘が幕を開けた。

 

?? LP4000

道島 LP4000

 

「お、お、俺の……ターンだ」

 

戦う前から戦意を完全に喪失してしまっているが、この場から逃げることは出来ない。一刻も早く助けが来ることを望んで、時間を稼ぐように立ち向かう。

 

「俺は《ライオウ》を召喚するッ!」

 

《ライオウ》 星4/光属性/雷族/攻1900/守 800

 

オブジェクトのようにフィールドの中央に浮遊するのは、雷の王という名には似つかわしくない金属光沢が輝くモンスター。バチバチと小さな稲妻を辺りにまき散らすその姿は、自身の能力が持つ圧倒的な制圧力を具現化しているかのよう。

《ライオウ》はお互いのドロー以外の手札増強を封じ、更に一部の特殊召喚を相殺する。更に下級モンスターにしてはトップクラスの攻撃力と、先攻1ターン目に立たせておくモンスターとしてはかなりの有用性を誇る。

 

「カードを1枚セットしてターン終了」

「俺のターン」

 

《ライオウ》のおかげで、相手の動きはかなり封じられる。そう高を括った道島だが、相手は一切の動揺や苛立ちを見せない。

 

「《名推理》を発動。レベルを宣言しろ」

 

通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキを捲り、そのレベルを相手に言い当てられなかった場合はそのモンスターを特殊召喚できるカード。相手のデッキがまだ分からない以上、宣言すべきレベルは当然――

 

「……4だ」

 

その言葉を確認すると、男はカードを素早く捲っていく。

 

《カオス・ソーサラー》

《ブラック・ホール》

《ダーク・クリエイター》

《天魔神 ノーレラス》

《ダーク・アームド・ドラゴン》

――《ダーク・ネフティス》

 

「レベル8。《ダーク・ネフティス》を特殊召喚」

 

《ダーク・ネフティス》星8/闇属性/鳥獣族/攻2400/守1600

 

室内を覆い尽くして姿を見せた鳳凰神。漆黒に染めあげられた太陽が自らの威を示すと、室内中の物は空間を食いつぶされたように黒い炎に侵略されていく。じわりと燃え盛る書類やファイルは、さながら太陽に向かって首を垂れるかの如く萎れていった。

 

「《ダーク・ネフティス》の効果発動。このカードが特殊召喚に成功した時、貴様のセットカードを破壊する」

 

破壊されたのは、相手の攻撃宣言に反応して相手モンスターを全滅させる《聖なるバリア‐ミラーフォース‐》。《ライオウ》を守る後ろ盾はなくなった。

 

「魔法カード《手札抹殺》。互いの手札を全て交換する」

 

そう言うと、男は4枚の手札を一気に墓地へと送った。しかしそれとは対照的に、道島は動きを見せない。

 

「何をしている」

「っ――!」

 

道島が動きを止めた理由は男もすぐに察した。

口をあんぐりと開け、道島は視線を周りに流す。今まで立体映像(ソリッドビジョン)だと思い込んでいた“炎”は、どこからどう見ても本物だ。メラメラと書類は燃えている。その火は強まる事はなく、同時に弱まることもない。そして不自然にも、一切の煙は存在しない。

 

(こ、こいつは間違いなく……“精霊”の……)

 

固有能力。国によって使用を禁じられている禁忌の力。この超常現象を目の当たりにした道島が心の中で巡らせていた疑念は、ついに確信のものとなった。

想像もしたくない事が現実化している。今死神のように目の前に立つ黒ずくめの男こそ、巷を騒がせている当本人――“ジョンドゥ”であると。

 

体中の震えが止まらない。墓地への挿入口にカードを入れることすらままならない。漸くカードを入れ替えると、それを確認したジョンドゥは墓地のカードを発動させた。

 

「墓地へ送った《シャドール・リザード》の効果発動。別のシャドールを更にデッキから墓地へ送る。……《シャドール・ビースト》を送り、ビーストの効果で1枚ドロー」

 

連続した墓地肥しと手札交換。そして道島の前に立ちふさがる《ダーク・ネフティス》による伏せカードの破壊。

準備は整った。

 

「これで、終わりだ」

「ひっ……!」

「自分の墓地の闇属性を7種類除外することで、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 

7つのカードが墓地から姿を消すと、その魂は黒い宝玉となって中に舞う。フィールドにこのモンスターが姿を現せば、最早自分の命は無い。

 

「ラ、《ライオウ》をリリースし、そいつの特殊召喚を無効に!」

 

浮かぶ宝玉は《ライオウ》と共に消滅した。まさに首の皮1枚……ライフが全く減少していないにも拘らず、だ。

ともかくこれで時間を稼ぐことは―――

 

「逃げられると思ったか?」

「……!」

「精霊は人間から逃げられない。そして人間は罪から逃げられない。速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動」

 

除外されている3枚のカードを墓地へと戻す魔法カード。選択するのは勿論、3枚の“闇属性”モンスターだ。

 

「墓地の闇属性が3体の時、手札の《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚する!」

「なっ……ああ……!」

 

《ダーク・アームド・ドラゴン》星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000

 

これは特殊召喚の宣言であると同時に、罪人に対する死の宣告。強烈な覇気を放つダークモンスターと自分を挟む障害物はもう何も存在しない。一瞬にして体の力は抜け、燃え盛る黒い炎に包まれながら倒れ込む。

 

「最後に何か言いたいことは」

「っ……?!」

 

その場にしゃがみ込み、道島の耳元でそう呟いた。

 

「助けてくれ……たのむ……許してくれぇ……」

 

目尻を震わせ、ただ只管に命を乞う。しかし、そんな命乞いがこの男に通じるとは思っていない。本能が身勝手に口を動かしているのみだ。

 

「貴様と同じ事を世界中の精霊が何度も言っている。貴様等はそれを無視し続けた」

「……」

 

 

 

「地獄へ行っても絶対に忘れるな。貴様が犯した罪を」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……道島さん(マスター)?』

 

忽然と姿を消した自分の主人。床にまでゴミの散らかりが広がった奇妙な控室。そして、消えかかった黒い炎。その前でウィンは茫然自失としていた。

 

『おっすお疲れーっす……ありゃ。道島さん(マスター)は?』

 

遅れてヒータも到着する。彼女もまた違和感に気が付くのに時間はそう要しなかった。

――その後控室内で道島が描かれたカードが落ちているのに気が付くのは、警察(セキュリティ)が到着して捜査を始めてからのことだった。

 

「ジョ、ジョンドゥだ……! クソォッ!」

 

思わずそのカードを握りつぶしそうになったがそれを我慢。駆けつけた牛尾は強靭な顎の力で歯を食い縛り、怒りをなんとか放出した。

“ジョンドゥ”――その言葉を聞くと、他の店員も加えて精霊であるウィンやヒータも青ざめた表情を隠せないでいた。

 

「……お前達は自由になった」

『じ、自由……』

 

牛尾が2人にそう告げた。突然の解雇通知であり、突然の解放宣言。

精霊は人間と同じであり、主人を失えば帰る家もなくなってしまう。何かにすがる思いでウィンは後ろに立つヒータの顔色を伺った。牛尾も彼女たちの気持ちは察することが出来る。野良精霊のような人生も送らせたくはない。

 

「一応、我々が保護してやることも出来る。警察(セキュリティ)の一員として働くか、公認の保護団体に世話されるか」

『ヒータちゃん……どうする?』

『お、俺だって分かんねーよ。いきなりこんなことになるなんて……』

 

確かに道島(マスター)は精霊から見てもどうしようもない下衆だった。ジョンドゥに裁かれて清々している自分がいることも否定は出来ない。

しかし、身寄りのなくなった自分たちはこれからどうなるのか――現実的な不安が遅れて彼女たちを取り巻いた。

 

精霊(ウィンたち)の為に、ジョンドゥは道島(マスター)を葬り去った。それが果たしてどんな結末を生むのだろう。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「パパー! 見て見て、パパの絵だよ!」

「おお……凄いじゃないか! こんなに上手に描けるなんて父さんびっくりだ!」

 

高級住宅街の中でもとりわけ大きな一軒家内。こんなにも広い住宅に住むのは、一人の幼い娘とその父親。それから日曜日以外は専属の精霊家政婦。

朝7時、父親が出社する前の時間であり、休日以外で唯一溺愛する娘との時間を過ごすことが出来る至福の一時だ。

 

娘が見せた父親の似顔絵を見るや否や、父親の目頭は急激に熱を帯びた。この子が生まれて7年。ずっと男手一つで娘を育ててきた思い出が突如頭を過ったのだ。

 

「パパ……どうしたの?」

「んん? い、いや、何でもないぞ。ちょっと目にゴミがな……」

 

ふと、部屋中を見渡した。ここまで漕ぎ着けるのに一体どれほどの努力をしただろう。娘が生まれた時には、衣食住すらまともにしてやれなかったような生活を送っていたというのに。

――今や、大手企業の社長だ。全ては愛娘の為。彼女のためならば、どんなに汚い世界にも他人を押しのけ入っていく。

 

ピリリリリリ……

 

机の上に置かれたPDAが震えだす。膝の上から娘を一旦降ろし、コールの主に返答をする。

 

「……霧岬だ」

《霧岬社長。昨日の内に我が社の提供先の内、3つが――》

「……そうか」

 

都外の工場、キャバクラ、そしてメイド喫茶。昨日の内で3つの被害が発生した。この3つの共通点が、過酷な条件で精霊を働かせているという事。そして、ここKC(キリサキ・コーポレーション)が精霊を提供しているという事だ。

 

「これ以上の損害は我が社にとっても認められない。すぐ行く」

 

通話を切るとこわばった表情をすぐに解き、娘に対しての笑顔に戻した。頭を撫でて優しい言葉遣いだ。

 

「ごめんな。紫苑(シオン)。父さん今すぐ行かないと」

「えー? まだ7時だよ。もう行っちゃうの……?」

「ごめん、ごめん。お仕事終わったらすぐ帰ってくるから。家政婦(ジュノン)に迷惑かけず、いい子にしてるんだぞ」

「はーい」

 

愛する娘の無邪気な笑顔は鋭利な刃となって霧岬の体を突き立てる。心中のどこかで理解しているつもりだ。今までやって来たことは、本当に彼女のためにはなっていないと。

 

『お嬢様。お食事の用意が出来ましたよ』

 

絹のように柔らかな口調で声が聞こえる。霧岬が家で雇っている《魔導法士 ジュノン》は、にこやかな笑顔で食器の載った盆をリビングへと運ぶ。今日のように一足先に父親が出社していなければ、いつもの様に3人で団らんと出来ていたはずだ。

今や家政婦(ジュノン)が実父である“霧岬 原”の代わりに紫苑を世話している。ジュノンは原の妻ではなくとも、紫苑の母親なのだ。

 

「パパ最近すぐお仕事いっちゃうの。……どうして?」

『……旦那様は紫苑様の為に頑張っていらっしゃるのですよ』

 

ジュノンの歯切れの悪い口調も、無邪気な紫苑が違和感を感じ取る事などない。主人(マスター)は紫苑の為に頑張っている――何ら間違っていないと、ジュノンは心の中で言い聞かせた。

 

「ジュノンおねえちゃん。ご飯食べたら一緒にあそぼ!」

『ふふ……今日は何をしましょうか』

 

実の生みの親はいない。それは原や紫苑だけでなく、ジュノンも知っている事実。母親は“精霊”の為に生き、“精霊”の為に死んでいった。

 

 

 

―――自宅玄関の扉を開けた時も、会社に到着した時も、社長室の扉を開けた時も、会議中も、何度だって想起してしまう。自分が薄汚い世界に片足を入れる度に脳裏には紫苑の笑顔が浮かんでくる。

 

「紫苑ちゃんは――お元気でしょうか」

 

一日が終わり、外はオレンジ色の夕闇に包まれていた。燦然と輝く光景が世界の終末を表しているように見える。

椅子で両手を合わせて俯く霧岬社長に向かって、ピッチリとしたスーツを纏う秘書がそんな声をかけた。一拍置いた後で霧岬が後ろを振り返ったその瞬間、秘書である彼女が慌てて謝ったのは何故だろう。それほどまでに自分の顔が強張っていたのか。

 

「……元気だよ。私がこの会社でどんなに酷いことをしているのかも知らずに、健気に私を慕ってくれているんだ」

「でも、紫苑ちゃんの為なんでしょう……?」

 

出来るフォローと言えばそれくらいしか思いつかなかった。いや、実際問題彼の原動力は自分の娘ただ一人であることも偽りの無い事実。

心のどこかで、ある思いを巡らせていた。一言で表すならば“逃げる”という選択肢。

 

「この地位から手を引こうと思っている」

「え……?」

 

秘書の顔を見ることなく、霧岬はそう言った。自分が今発言したことに対する後ろめたさが、面と向かって話す勇気を与えてくれなかった。これだけ悪に手を染めておきながら今更良心の呵責がどうとかで辞任するなど、無責任もいいところである。

 

「私がやってきたことの罪滅ぼしは一生かかっても出来ないだろう。娘に知られればきっと私と今まで通り接してくれることもないだろう。手遅れなのは分かっている。だが――」

「今、彼女の為に何が出来るのかを考えた結果ですか?」

「ああ」

 

息を吐くように短く返した。これからは娘の為に、そして精霊に対する罪滅ぼしのために一生を使うと心に誓う。

霧岬は椅子から立ち上がると後ろを振り返った。外の景色を眼下に一望できる窓だ。周りのどのビルよりも高い場所から、向こう側にある山と太陽を眺めることが出来る。

 

「この高さにたどり着くまでに色々あった」

「ええ」

「もし、一度たりとも悪事を働かなかったとしたらどれくらいの高さだっただろうな」

「……」

「この世界は賢い人間が生き残る。正直者が馬鹿を見る。だから私は死んだ妻に代わって娘の為に“賢く”なった……つもりだった」

 

正直者だった妻は死んだ。だから自分は賢くなった。精霊の為に生きた妻は死んだ。だから自分は精霊を利用した。

 

「だが、駄目だった。……俺は……賢くなりきれない」

 

最後に自分に課せられた使命は、人間の業が生み出してしまったジョンドゥ事件を完全に収束させたうえで元の人間と精霊の関係に修復する事。そのためには自分の全てを差出す覚悟だ。

 

午後8時。霧岬は筋骨隆々な数人のボディガードに囲まれ、黒のリムジンに乗り込んでいた。煌びやかな外のネオン街が車内をうっすらと照らす。

 

「現時点で新たに発生した被害は?」

「ありません。セキュリティも一穴の隙なく配備されています」

 

徐々に、しかし確実に精霊の市場は縮小し始めている。事業の継続は命の危険を意味するからだ。如何にこの世界が精霊に依存した世界なのかを世に改めて知らしめることになっているのだ。

 

「目撃情報は?」

 

霧岬の続けての問いかけに反応する者はなかった。不意に訪れた静寂に、霧岬は一抹の不安を覚えつつ車内を確認する。

 

――ボディガードである黒服は、首を曲げて目を瞑っている。まるで夢の旅路に入り込んでいるような。

 

「……! おい、どうした!」

 

黒服の肩に触れるや否や、真横に倒れ込んでしまった。前に座る別のボディガードもその緊急事態に反応しない。彼もまた気絶している。ただ一人何事もなく自分の仕事を遂行するのは、リムジンの“運転手”。

霧岬の座る位置から運転手の顔を確認することは出来ない。

 

「き、君……」

 

時間が止まったような、自分の運命が歪んだような。霧岬が目にしたその光景は、今の自分にとって最悪の光景だった。

運転手は急ブレーキを踏み、リムジンを停止させる。慣性に従い、気絶したボディガード達は前のめりに倒れ込んだ。

 

KC(キリサキ・コーポレーション)の社長で間違いないな」

「なっ……! お、お前は!」

 

ここで死んではいけない。まだ自分はこの世界でやり残していることがある。霧岬は倒れ込んだボディガードを押しのけ、一目散にリムジンから身を出した。助けを求めて胸ポケットから小型のPDAを取り出すが、機能はしない。

 

「くっ……奴の仕業か……!」

 

今まで証拠を一切残すことなく確実に仕事をこなしてきた。そんな男から一人で逃げられるとは到底思えない。

霧岬は足を止め、後ろを振り返った。逃げるのではなく、立ち向かう他に選択肢はないと判断したためだ。

 

「いい判断だな。そこらの雑魚とは違う」

 

――ジョンドゥは黒のコートに身を包み、すぐそこまで追いついていた。ボディガードの不審な気絶と機器の故障、そして今の今まで助けが一切来ない事……制限(リミッター)をかけられていない精霊ならばいくらでも説明はつく。

デュエルディスクを展開し、霧岬は構えた。

 

「分かった。相手になろう」

 

娘の為には生き残らなければならない。そんな思いが、霧岬の意思を後押しした。

 

 

 

 

 

「「デュエル!」」

ジョンドゥ LP4000

霧岬 LP4000

 

「俺のターン。モンスターを守備でセット。カードを1枚セットしてターン終了」

 

初ターンは動かない。2枚のセットカードがフィールドに出現した直後、すぐさま闇夜に溶け込んでいく。じっと息を潜めて襲撃のチャンスを待つ。

 

ジョンドゥ LP4000 手札3

□□■□□ 裏守備

□□■□□ 伏せ

 

「私のターンだ。ドローする。私は《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚」

 

《ライトロード・パラディン ジェイン》星4/光属性/戦士族/攻1800/守1200

 

「バトル。裏守備モンスターを攻撃!」

 

自らが光を放つように、白い剣はセットされていた裏守備モンスターの影を照らす。攻撃対象となったモンスターは破壊される直前、置き土産を送る。――自らの墓地へと。

 

「《魔導雑貨商人》。リバース効果により、魔法、罠が出るまでデッキからカードを捲る」

 

《シャドール・ビースト》

《キラー・トマト》

《終末の騎士》

――《おろかな埋葬》

 

ゆっくりと、慣れた手つきでカードを捲っていく。両者は1枚1枚のカードをじっくりと確認する。相手である霧岬にとっても、この情報アドバンテージは必要だ。

 

「《おろかな埋葬》を手札に加える。さらに《シャドール・ビースト》が墓地へ送られたことで、効果によりデッキからカードを1枚ドロー」

「ちっ……運のいい奴だ。エンドフェイズ、ジェインの効果によってデッキからカードを3枚墓地へ送る。ターン終了」

「その前に――エンドフェイズ時。伏せていた《針虫の巣窟》を発動。自分のデッキからカードを5枚墓地へ送る」

 

更なる墓地肥し。先のカードに加えて5枚が墓地へ送られるとなれば、そろそろ彼のデッキコンセプトもはっきりと見えてくる筈だ。

 

《ダーク・ホルス・ドラゴン》

《スキル・プリズナー》

《ダーク・グレファー》

《ブラック・ホール》

《サイクロン》

 

刺すような眼光で確認したカード、モンスターは全て闇属性。加えて墓地から発動できる罠カードがある。この時点で、墓地を肥やしてから始動するデッキであることは容易に推測できる。……そして、それが半分以上達成してしまっていることも。

 

霧岬 LP4000 手札5

□□■□□ 《ライトロード・パラディン ジェイン》

□□□□□

 

「俺のターン。《死者蘇生》を発動。墓地の《ダーク・ホルス・ドラゴン》を蘇生させる」

 

《ダーク・ホルス・ドラゴン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守1800

 

黒い鉛のような鎧がギリギリと唸りをあげ、天に向かって翼膜を広げる。虚空を駆け巡る風は、緊張の汗を流す霧岬の肌と服を逆なでする。

 

「バトルだ。《ダーク・ホルス・ドラゴン》でジェインを攻撃」

「っ……通そう」

霧岬 LP4000→2800

 

最初のダメージレースは、敗北の苦汁を舐めさせられてしまった。だが、次のターンが回った時点でそれは裏返る。霧岬はそう確信している。

 

「ターン終了」

 

ジョンドゥ LP4000 手札3

□□■□□ 《ダーク・ホルス・ドラゴン》 

□□□□□  

 

「私のターン。……ふん。その竜は厄介だが、まとめて消し炭にしてやろう。魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》発動! 手札のライトロードを捨て、2枚ドロー。更に2枚をデッキから墓地へ送る」

 

手札交換と墓地肥しを同時に行える強力なサポートカード。ジョンドゥのデッキと同様、【ライトロード】も墓地を肥やすことを目的の一つとするデッキなのだ。

直後、魔法カードの発動に呼応してジョンドゥの操るダークモンスターが咆哮した。

 

「通常魔法が発動した時、《ダーク・ホルス・ドラゴン》の効果が発動する。墓地よりレベル4の闇属性モンスター《終末の騎士》を特殊召喚。そして《週末の騎士》の効果によって、《ネクロ・ガードナー》を墓地へ」

「成る程な。幾度となく暗殺を成功してきただけのことはある」

「暗殺――か」

 

モンスターの攻撃を1度だけ無効にするカード。暗殺者は、自らの命を守る術も持ち合わせていなければならない。

しかし、気のせいだろうか。“暗殺”というワードを耳にした途端、ジョンドゥが妙な反応を示した。

 

「私は2枚目の《ソーラー・エクスチェンジ》を発動する!」

 

計4枚分の墓地肥し。前のターンも併せれば、“あの”モンスターの召喚条件が揃う。

霧岬が1枚のカードを手にした腕を振り上げると、目を焼くような光が柱となってフィールドを包み込んだ。【ライトロード】における唯一にして最強のモンスター。

 

「現れろ――《裁きの龍》(ジャッジメント・ドラグーン)!!」

 

《裁きの龍》 星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2600

 

ドスン――と前足を振り下ろす。発生した深い地面の亀裂は、数メートル離れたジョンドゥの足元にまで届いた。翼は撫でるように空を仰ぎ、尾は風を斬るように強く撓る。

 

「《裁きの龍》の効果を発動。ライフを1000払い、このカード以外のカードを全て破壊する!」

霧岬 LP2800→1800

 

《裁きの龍》が発した光は、ジョンドゥのダークモンスターを焼き切るように浄化する。憎き暗殺者に裁きの鉄槌を下すように。

そう。ジョンドゥに対して“裁き”を下すのだ。人の命を奪った、憎き、犯罪者に―――

 

「暗殺者と言ったな」

「――!」

 

フィールドのカードが《裁きの龍》一体のみになった後、唐突にジョンドゥは口を開いた。無機質で無感情な声。それでいて、憎しみの籠った声で。

 

「俺は暗殺者(シリアルキラー)じゃない。貴様らを処刑する執行者(エグゼキューター)だ」

 

執行者。そんなワードをジョンドゥが口にした意図は、霧岬にも痛いほど分かってしまった。本当に“裁かれる”べきなのは果たしてジョンドゥだけなのか? いや、違う。

複雑に絡み合う感情を押し殺すように、霧岬はプレイングを続けた。

 

「……2体目だ。2体目の《裁きの龍》を特殊召喚する!」

 

2体の全く同じモンスターが、ジョンドゥをじっと睨んでいる。攻撃力は3000。《ネクロ・ガードナー》が防ぐことが出来るのは1体のみ。

 

「バトルフェイズへ移行する」

 

通常召喚権は残されていたが、幸運にもモンスターは追加されなかった。

 

「1体目の《裁きの龍》でダイレクトアタック!」

「……《ネクロ・ガードナー》を除外し、無効」

「ならば2体目だ。受けろ!」

「……」

 

ジョンドゥ 4000→1000

巨龍の爪は4分の3のライフを一気に削り取った。深く着込んだフードが吹き飛びそうな衝撃に思わずジョンドゥは右腕で後退った。しかしそれでもその信念は決して折れ曲がることはない。その眼はただ只管に狙った相手を見定めている。

 

「……カードを1枚セットしてターン終了」

 

攻撃力が3000のモンスターが2体。更に罠をセットして布陣を整える。霧岬は死に物狂いでこの勝利を勝ち取らねばならない。

今まで他人を蹴落として競争に勝ち上がってきた。それもあと一歩だ。あと一歩で、自分が愛娘と人生をやり直すための場所へと辿り着くことが出来る。

 

霧岬 LP1800 手札3

□■□■□ 《裁きの龍》《裁きの龍》

□□■□□

 

「ぬるいな」

「何……?」

「貴様等が犯した罪は決して消えることはない」

「……」

「今も世界中で精霊が苦しんでいる。人間の良い様に使われている」

 

その姿と言葉は、まるで世界中の精霊の代弁者。耳の奥で木魂する精霊たちの悲鳴も本当は今まで何度も聞こえていたのに、霧岬は無視し続けてきた。ジョンドゥの声は、それをはっきりと思い返させた。

 

「ジョンドゥ。お前は精霊を救うために戦っているのか」

「初めて精霊が世間に浸透し始めた時に人々が掲げた理想は、両者の共生だったはずだ。人が精霊を助け、精霊が人を助けるものだったはずだ。両者は平等だったはずだ」

「それは……」

「対価もなしに精霊を利用し、精霊の権利を蔑ろにし、精霊を人間の都合で捨てた」

 

 

* * * * *

 

 

『大丈夫。たとえどこへ行っても、貴方の事は絶対に忘れません』

 

 

* * * * *

 

 

「俺のターンっ……」

 

どこか、その時の宣言は今までよりも力強く感じた。初めて彼から“感情”というものを伝えられたような気がした。

ジョンドゥのフィールドには何もないが、それでも霧岬は自らの追い求める勝利と希望に影を落としていた。そしてその不安はすぐに現実化する。“絶望”は何の前触れもなくやってくる。

 

「自分フィールド上にモンスターが存在せず、墓地に5体以上の闇属性が存在する時、手札から《ダーク・クリエイター》を特殊召喚する!」

 

《ダーク・クリエイター》星8/闇属性/雷族/攻2300/守3000

 

赤黒い両手を体の中心に寄せ、暗闇の中で更に黒く染まる雷を発生させる。バチバチと、そのエネルギーは忽ち増幅していった。闇属性モンスターを墓地から1体除外することで、別の1体を墓地から蘇生させる切り札級のダークモンスターだ。

しかし《ダーク・クリエイター》でも、現時点で墓地に存在する闇属性モンスターでも、2体の《裁きの龍》を倒すことは出来ない。

 

(奴は一体何を考えている……?)

 

「俺は《ダーク・クリエイター》の効果を発動。墓地の《終末の騎士》を除外し、《ダーク・ホルス・ドラゴン》を特殊召喚する」

 

その時だった。闇属性モンスターの数と、ジョンドゥの妙なプレイングが霧岬に違和感を覚えさせた。奴がどうやってこの盤面を突破するのか、そして、何故手札に引き入れた《おろかな埋葬》を使用していないのか。

 

「……これで墓地の闇属性モンスターが3体になった」

「3体……!」

「墓地の闇属性モンスターが3体の場合のみ手札から特殊召喚できる。現れろ、《ダーク・アームド・ドラゴン》!」

 

《ダーク・アームド・ドラゴン》星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000

 

聞く者の魂を打ち震わせる長い吼号を轟かせ、何色にも染まらぬ黒を霧岬の眼に押し付ける。その姿は、霧岬に対するジョンドゥと精霊の持つ怒りを体現しているようにも見えた。

 

「《ダーク・アームド・ドラゴン》の効果発動。墓地の闇属性モンスターを1体除外し、貴様の伏せカードを破壊する!」

 

 

 

 

 

ここで、霧岬は動く。殺人鬼であり、執行者であり、英雄である(ジョンドゥ)の最期に花を添えるときがきた。

 

「カウンタートラップ《天罰》! 手札を1枚捨て、効果モンスターの効果を無効にして破壊する!」

「――!」

 

鎌首をもたげて咆哮するドラゴンの頭上から降り注いだ一筋の雷は、永遠にも思える闇を一瞬振り払った。これで《裁きの龍》を倒すことのできる唯一のモンスターは墓地へと葬り去られる。

 

「残念だったな。お前はここで終わりだ」

 

セキュリティに身柄を拘束されれば、固有能力を許可なく使用したジョンドゥは精霊法によって裁かれる。命を持ってその罪を償うことになるのだ。

この盤面を突破することは出来ない。このままターン終了の宣言をする他に、出来る行動は残されていないのだ。

 

「……どうした、ジョンドゥ」

 

男は動かない。ターン終了の宣言もしない。敗北という現実から目を逸らし、ただ立ち尽くす。そんな姿を霧岬はどう見たのだろうか。

 

「お前のやったことは許されることではない。……だが、我々が今までやって来たことも、当然には許されない……」

 

ここに立つ2人はどちらも犯罪者だ。そしてジョンドゥが狩ってきた者達だって、法に触れることをせずとも精霊の自由を奪った悪魔だった。

誰も正しい者などいない。エゴとも言える自らの信念をただぶつけることしか出来ない。

 

それを覚悟の上で、ここに立っている。霧岬はそう考えていた。無論ジョンドゥも同じ――

 

「俺は間違っていない」

「何……?」

 

突如、ジョンドゥは口を開いた。

 

「この世界で上に立つ者は、その分責任も課されるんだ。権力が認めれれば認められるほど、責任は増大する」

「何が言いたい?」

「固有能力を持った精霊が国へと連れて行かれる。需要の高い精霊は商品として取引される。……奴らは精霊を道具としか見ていない」

 

霧岬には見えた。彼の左手の拳が握りしめられているのを。

 

「そんな馬鹿共をこの手で裁いてやってるんだ。何も間違っちゃいない」

 

男の火はまだその勢いを失ってはいない。

 

「……俺は、まだ通常召喚の権利を残している」

「なっ……!」

「《ファントム・オブ・カオス》!」

 

《ファントム・オブ・カオス》 星4/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

 

次元が揺らぐように中央に渦巻く謎の物質。そこに近づけばあっという間に魂ごと吸い込まれてしまう――そんな錯覚が霧岬を襲う。

その小さな穴から、絶望へと叩き付けられる大きな穴へと姿を変えるのだ。

 

「効果発動。墓地の《ダーク・アームド・ドラゴン》を除外し、その効果をコピーする!」

「ぐっ……!!」

 

粘土を捏ね上げるようにその渦は姿を変えていく。質量保存の法則を無視して、ゆっくりと。完成された風貌は、どこかで見た黒い竜だった。

 

「残された墓地の闇属性モンスター2体をゲームから除外し――2体の《裁きの龍》を破壊!」

 

精巧に掘られた石造――いつの間にか2体の龍はボロボロとその身を崩していった。積み上げた物が打ち砕かれていく……霧岬はただそんな悲劇を見つめていることしか出来ない。

 

「馬鹿な……こんな……」

「《ダーク・ホルス・ドラゴン》で――」

 

 

 

* * * * *

 

 

「パパ、遅いね」

『……ええ。どうしたのでしょう』

 

既に帰ってきてもおかしくない時間を過ぎている。ジュノンは胸騒ぎを収められず、思わずその場から立ち上がった。

 

『まさか……そんな事、ないですよね』

 

下唇を噛み、玄関へと走って行く。

 

「ジュノンおねえちゃん? どうしたの?」

『すぐ……戻ってきます。絶対に外に出ないでください!』

 

もし霧岬(マスター)の身に何かあれば――もしこの胸騒ぎが気のせいでないのであれば――

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆をぶちまけたような黒に染まる闇の中。霧岬は地に這いつくばるようにうつ伏せに伏せていた。表示されているデュエルディスクのライフは0を示し、その激闘は終わりを告げる。

 

「紫苑……す……すまん……」

 

ジョンドゥに一切の躊躇いはない。終わりの無い復讐を、可能な限り続けていくことのみ。

例えこの男にどんな事情があっても、この男が死ぬことでどんな人が悲しむとしても、彼には関係ない。精霊には関係ない。

 

「最後に何か言いたいことは」

 

小さな声で言葉を紡いだ。

 

「……ない」

「なんだと?」

「私は敗北した。裁きを受ける番なのだろう」

「……貴様」

 

ジョンドゥにとっては、霧岬の悟った態度が気に入らないのだ。

のたうち回り、逃げ回り、命を乞い、無様な断末魔と共に消え去っていく――それが裁かれる者としての姿。

 

「被害者ぶってんじゃねぇよ……散々好き勝手しやがって……!」

 

ジョンドゥがジョンドゥとして、初めて感情を露わにした瞬間。その口調も乱れ、今にも泣きだしそうな震えた声だった。張り裂けんばかりの怒りと悲しみを滲み出すジョンドゥと、霧岬は顔を合わせることが出来なかった。

 

「俺は……俺はッ……!」

 

 

 

―――――――。

 

――――。

 

――。

 

 

KC(キリサキ・コーポレーション)代表取締役の疾走は、世間を震撼させる大ニュースとなった。ジョンドゥの仕業であると推測はされたものの、今までの事件と異なり現場にカードが置かれていない事が議論を加速させることとなった。

 

ジョンドゥ事件はまだ終息していない。今でも黒いうわさが絶えない者の周りで事件が勃発している。にも拘らず、いまだ精霊たちの悲鳴は世界の至る所で止むことはない。

 

「「精霊に人間と同じ権利を!」」

 

結局何も変わらず、人は精霊を利用し、保護団体は声を荒げる。そしてジョンドゥは精霊に代わって悪の断罪を執行する。

 

 

 

 

「や、やめてくれぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

心地よくも、不快な叫び声――これで何度目か知れない。

駆けつけたセキュリティの目を掻い潜りながら、ジョンドゥは一人、声を漏らす。

 

 

 

 

 

「ジュノン……どこにいる……?」

 







ここまで呼んで頂いた方々、ありがとうございました。
私なりの厨二全開エピソード。完全なる自己満足。ネタが被ってたらすみません。

別の連載小説を執筆中、ふとした思いつきで書いたものです(そちらの小説と一部の設定を共有してありますが、それ以外は全くの無関係です)。伏線とか丸投げかも。この一話のみで一応お話は終わりです。書かれていない裏設定はありますが、基本的にこれ以降の展開は考えていないです。

結局チラシの裏行き。ひっそりと書いていこうと思います
お疲れ様でした。

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