つまるところ、リリカルゲシュペンスト。意味分かんねえ!
リリカルなのは世界でオリ主がコール・ゲシュペンストする、それだけのお話です。
四月馬鹿の一発ネタということで、一度やりたかったことをやってみました。
多分、相当にイタイです。ご容赦下さいな。

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時は来たれり?

 夜も更けた、街並みの中。

 暗闇を塗りつぶすネオンと蛍光の明かりの下で、いつも蠢いているはずの人の群れは、何故か消えていて。そこには一人の白い服の少女と、黒い服の少女と、動物の姿2つ。

 二人の少女はまるで羽根が生えているかのように飛び、桃と金の光弾を打ち合い。その手に持つ杖を鍔迫り合わせ、金属音を鳴らす。

 息つく間もない戦い。それは、彼女らの合間に存在する、たったひとつの青い宝石を競うもの。

 白い服の少女は、助けた男の子の切なる願いを叶えるという、正義を果たすために。

 黒い服の少女は、ただ一人すがり頼る人間の願いを叶え、認められるため。

 飛び、斬り、撃つ。未熟な容姿と心に似合わぬ、決意と頑固さに満ちた戦いの表情を表に、いつ終わるとも知れぬ交錯の繰り返し。

 その果てに、何が起こったかというと。

 

「なっ……これって、まさか……」

「いけない、離れるんだ、なのは!」

 

 ジュエルシードと呼ばれる宝石――古代次元文明の呪われし遺産、ロストロギアの発現だった。

 破壊的なエネルギーの旋風に、思わず立ちすくんでしまった白い少女は、高町なのは。

 そんな彼女にただ離れろ、逃げろと必死に告げる小動物を、ユーノ・スクライアという。

 

「このままじゃ……っ!」

「ちょ、フェイト!? 何を……!?」

 

 考える間もなく飛び出す、黒衣の少女はフェイト・テスタロッサで。

 それを止めようとする犬耳の女性、らしく見えるが同じく少女な使い魔がアルフ。

 周知の事だ。

 

「――止まれっ!」

 

 飛び出したフェイトが、両手の平に魔力を集中させ、暴走する瀬戸際のジュエルシードを無理矢理に押さえ込もうとするのも。

 それとただ、呆然として。少女が宝石を握り締める手で、そのまま胸を鷲掴みされるような顔で静止する三人の姿もだ。

 覚えている。体験はしていないが、見ている。

 

「止まれ、止まれ、止まれ………くぅっ!」

 

 手の中の青が弾け、衝撃波が刃となって黒い手袋を引き裂き、そこからは赤い血が流れていく。

 きっと、ただの擦り傷切り傷などよりずっと深く、痛さも段違いだろう。

 それでも、風圧で黒マントを吹き飛ばされかけ、整えていた金髪を滅茶苦茶にされたまま、少女は手を離そうとしない。

 その優しさを、健気さを、必死さまでも知っていた。その理由も知っていた。

 そうしてどうなるかという、結末も、全て。

 

「止まれ、止まれ、止まれ、止まれ……!」

 

 結論から言えば、フェイトのこの行為は成功裏に終わる。ジュエルシードはその破壊エネルギーを寸前で収め、血に染まりボロボロになった手でそれをしっかり握りつつ、少女は去る。

 それは、既に決定されていることだ。なにせ、幾多の人間に"観測"されていることなのだから。

 "観測"されている世界とは微妙に違うこの世界でも、概ね同じようなことが起こるだろう。

 それは、この出来事に限ったことではない。例えば、本来一般の小学3年生のまま日々を過ごす高町なのはが、魔法に出会った理由も。彼女のこれまでの戦いと、フェイト・テスタロッサの出会いも。全てが"観測"した通りに動き、行われた。

 それは、この世界――彼がやって来た世界にしっかと根付いて離れない法則だ。アニメーション、漫画、小説、その他全ての表現媒体で、何万何億と描かれる物語。それが現実として行われる場がこの世界であり、だから、物語として"観測"された出来事・事実は、物語のままに殆ど変わらないものなのだ。それこそ、人の生き死にが関わらない限り。

 所謂、原作再現、である。

 

「止まれ止まれ、止まれっ……!」

 

 だから、フェイトを心配する必要はなかった。彼女の手にどれだけ傷が付けられようが、表情がどれだけ苦悶にゆがもうが。

 結局、物事は何の不安定も無く解決するのだ。

 故にここでの最適解は、ただ何もせず見守るということだった。

 この出来事はなのはにとって、フェイトの身を削ってまでの献身に気づき、その理由を確かめようとするための大事なファクターだ。いわば、ただの女の子が『魔法少女の高町なのは』として成立するための要素であり、これから続き、また新たに始まる物語を淀みなく動かすために必要なことである。

 そこへ茶々を入れれば、それこそなのはたちの精神が、そしてこれからの歴史が、どう動くかは分かったものではない。既に"観測"されている歴史は、この海鳴を保全し事件に関わる少女たちの笑顔を見るための、殆ど無駄のない最適解だ。奇跡と言うべき要素も多少は含まれているものの、それを招いたのが少女のたゆまぬ努力と挫けぬ心の賜であるならば、何もなしに待ち望まれて起きた奇跡ではあるまい。

 だから、今。

 高層ビルの屋上で、若葉時に似合わない真っ黒なコートに両腕を突っ込みながら、戦いとその後の顛末をひっそりと眺めていた少年は、更にそのまま、状況を見守るべきだった。

 目的としても、介入する必要はない。白い女の子の宝石探しが始まってからというもの、難儀に難儀を重ねてようやく結界を解析し、入ったのだ。ジュエルシードについての詳密なデータを取るだけが、今回のミッションだった。

 そこから彼女たちに接触するには、更に何回か段階を踏まなければならないだろう。むしろ、介入しない方が良い。少年――正確には、その裏にいる人物が――欲しがっているのはジュエルシードというエネルギー源のみ。それを奪うには、少女たちに活躍させてひと纏まりにさせ、それらが揃って行方不明になる場面まで忍べば簡単だからだ。

 

 だから、少年は厳命されていた。

 状況に介入する事なかれ。決して、その場から動くことなかれ、と。

 ここは、そういう世界だから。全てがかつて"観測"された通りに動くのだから、その果てに溢れる甘い汁を吸うのが最も効率的である。

 

「止まれ、止まれっ……く、ぅ!」

 

 未来は既に確定している。

 

「ぅ……止まれぇっ!」

 

 決定的な悲劇は、ここでは起きない。これは、礎なのだ。この先の熱く、叙情的(リリカル)な逆転劇の土台になるのだ。

 

「……」

 

 それでも。

 

 少年は両手をポケットから抜き。右腕の手首に巻かれた大きな腕時計型の機械を、口元まで持っていった。

 

『む。何をする、つもりかの?』

 

 機械からの発信音と、しわがれた言葉。だがそれは、少年の首を真綿で締める、とまでは行かないものの、引っ掛けるくらいの強制力があった。

 

「……」

『ワシの建てたプランに、そこまで不満があるのかの? そりゃあちと消極的であるきらいはあるが、現状では一番、ベターな手であると思うがの』

 

 真綿は、段々と引き絞られていく。

 続いて響く老獪な声の主は、少年に腕時計の機械を与えた張本人であり。それどころでなく、少年のの衣食住、身分、そして力の全てを与えていた。

 ある日突然、何の縁故もない別世界からやって来た少年。親類縁者も金もない、まさに身一つで、投げ出されただけの不幸な転移者。

 それを保護し、その知識に価値を見出し、一般的には価値を見出されない己が科学に転用する。そんな奇特な老博士が居なければ、少年は三日と経たずに飢え死んでいたことだろう。

 

『オヌシの気持ちはようわかるでの。じゃが、不用意に彼女たちの場に踏み込めば、どんな変化が起こるか分かったものではない。致命的事態になるまでは監視のみ……と最初に提言したのは、他でもない、オヌシではなかったかの』

 

 だから、少年は動けない。命の恩人であり、そして今、少年の夢を半ば叶えきってくれている博士の恩には、どうあったって報いなければならない。

 それに理性では、この判断こそ自分が最初に望んだものであり、ベターかつ無難な、選ぶべき手であると理解もしている。老博士のひねくれた言葉は、少年を留めるための嘘ではなかった。介入も辞さない博士を、少年が必死に止める。それが、こうなる一ヶ月前の日常風景だったのだから。

 

 しかし。

 

「ぅ……あ……ぐぅ、ぅ……!」

 

 ますます激しくなる魔力の奔流を、指を弾け飛ばされそうになりながらも抑え続ける金髪の少女の、痛ましい姿を見れば。

 その壮絶さに立ち止まり続ける他の三人の、不安に満ちた顔を見れば。

 

「……」

 

 少年の口が、初めて開かれ、何分節かの言葉をつぶやくのも、無理はなかった。

 

「コード・クリア。メインターム・アクセス」

 

 音声に反応し、prrrr、という小煩い電子音が鳴る。それは、機械から放たれた通信波が、衛星軌道上のとある衛星に指令を送った証だ。

 

『行く、か……』

 

 同時に嗤う、老人の言葉。彼が嘲るのは少年の甘さであり、優柔不断さであり、何も考えずにトラブルへ突っ込む無鉄砲さだ。しかし、嗤うだけで、止めはしなかった。

 

『まぁいいでの。どうせ一回オヌシにやったもんじゃから、オヌシの好きにするといいでの』

 

 その言葉に、少年は「試されている」という感覚を味わっていた。勇んで飛び出した後、暴走直前のジュエルシードを肩代わりして、果たして止められるか。もし止められたのなら、その先に起こる様々な厄介事を、乗り越える事が出来るのか。

 やってみる。少年は決意した。

 それくらい出来ないで、歴史に介入なんて、上手く行った奇跡を、更にもっと上手く行かせることなんて、出来やしないし。

 

――この、黒き鎧を、本来の持ち主から借りる資格だって、有りやしない。

 

「モード・アクティブ!」

 

 その言葉と同時に、少年の周囲の空気がゆらり、と乱れる。まるで、何かを『割りこませられる』ように。それから、青白いスパーク。未だ洗練されているとは言えないシステムが生み出す不安定さの象徴だが、少年はこの行為が失敗裏に終わる、なんて事を考えては居なかった。

 なにせこいつを作り出したのは、この世界、いや、次元世界を睥睨しても、一握り以下の大天才である。彼の偉業は、少年が知るだけでも多々あるが、例えば彼の平行世界の同位体は、かの最強鉄壁反則無敵な機動兵器「グランゾン」を創りだした人物の一人なのだ。

 

「コール!」

 

 そういう天才に、少年は様々なことを教えた。平行世界での彼が作った兵器と、その搭乗者が辿った数奇な顛末から始まって。彼が生きる、または存在の確認されている世界の歴史や、その世界で作られた様々な超技術と、その結実として象徴的な「スーパーロボット」たちについて。

 博士は無論、それを荒唐無稽と笑いはしなかった。真剣に耳を傾け、嗄れた肌と頭蓋骨に隠された鋭敏な脳髄を一文節ごとに震わせ、新たな発想と閃きを生み出していた。そういう価値があるから、近代法治国家の中で身元も無い少年は引き取られ、博士の家族として扶養されるに至れた。

 そうして次に、少年が博士の住む町と、行きつけの喫茶店から推測した、これから起こるだろうある物語とその背景にある世界の構造を語った時。博士は、ある提案を持ちかけた。

 お前の知識から、自分が道具を作る。それを使って、何かを成してみないか、と。

 少年はそれを承諾した。拾われた恩もあり、博士の目的の手伝いをしたかったというのもあるが、何より自分の欲求のため、提案に乗った。

 それは、学校で奇しくも同級生になった、白い服の魔法少女。危険に巻き込まれる可能性がある、その親友。そして、彼が"観測"した知識で見知った、金髪の少女や車椅子の少女。

 彼女たちが万が一、危険に陥った時。自分に出来るだけのことをして、彼女たちを守るため。

 

 つまり、少年は放っておけないのだ。例えそれがモニタの前で見た、少年からしてみれば仮初めの存在だとしても。迷うこと無く助けに突っ込まずには、どうしても居られない。多少頭でっかちになろうが、本質としてその思考を裏切れない、お人好しで、突撃思考のばかやろう、だった。

 

 なればこそ。

 少年がこの鎧を望み、博士がそれを作り得たのは、むしろ必然だったかもしれない。

 今、少年が高らかに叫ぶ、その名は。

 

 

 

 

「GESPENST!」

 

 

 

 

 無尽蔵の魔力を手に、今にも力尽きそうなフェイトが、ふっ、と風に吹かれたように押し出された。それと同時に、彼女の手から激痛が引く。無論切り裂かれた傷は残るが、あと少しでバラバラになりそうなくらい、無茶苦茶な痛さは既に無い。

 

「なっ……」

 

 その場に居た誰もが目を見張り、驚愕した。突如現れた鋼鉄の巨人が、フェイトの手からジュエルシードを奪い、今度は鉄の両手でそれを押さえつけているのだ。その全長は、少年少女たちの背丈をはるかに上回る、約3m。しかも、真紅のバイザー以外は漆黒に染められている。黒い巨体の威圧感は、例え同じく暗い夜の町中でも、いや、むしろ夜だからこそ映えていた。

 機械の腕は、フェイトのか細い手よりも遥かに強い力で潰すくらいに押し付け、ジュエルシードの魔力を宝石の中に留めようとする。しかし、魔力を直接流し込んでも中々止まらないエネルギーの噴水を、力だけでは止められない。

 よくよく考えてみれば、当たり前だ。この小さな、たった一個の宝石が内包するエネルギーの総量は次元を歪曲し、世界を滅ぼして余りある程なのだから。

 

「……なら、こいつを使う!」

 

 ロボットの中から、僅かなエコーと共に聞こえた声。

 それはなのはの意識に「え?」という言葉を言わせ、強く疑問符をなすりつけたようだったが、それに構っている暇はない。

 両手から移って片手だけで抑え、もう片手で、腰にマウントした長砲身のビーム・ランチャーを構える。そして、ジュエルシードを放り投げ、すかさず、幾多あるランチャーの機能の内、一つを開放した。

 

「ヴァンピーアレーザー、照射!」

 

 Vampire、つまり吸血鬼の名前を持つ紫色のレーザーは、青い魔力の閃光にぶち当たり、その光を覆い包んで飲み込んだ。そうして、光の強さが段々減っていく。ジュエルシードから湧き出るエネルギーを中和し、無力化して吸収しているのだ。

 

「な、何なんだ、一体……どうやってるんだ?」

 

 その現象に、ユーノやアルフが驚くのも無理はなかった。一体どこの誰が、レーザーを照射することでエネルギーを吸収する、というシステムを思いつくだろう。

 レーザーを照射している、本人ですらその原理は今一理解していなかったが。だが、そんなことに気を割く余裕は無かった。

 

「おい、高町!」

「え、ふぇっ!?」

 

 黒い巨人が発する、再びの不躾な台詞に、なのはは背筋をぴんっと伸ばして驚いた。

 その声は、普段いつも「なのはと呼んで」お願いしているのに、つんと目を逸らして少し顔を赤くしながら「高町」と呼ぶ、強情な男の子の声にそっくりだったのだ。

 

「今すぐ封印砲を用意してくれっ、このままじゃ、抑えきれん!」

 

 名前の呼び方を隠すことも意識できないほど焦っている理由は、ジュエルシードから発せられる無尽蔵のエネルギー放射だった。いくら稼働とビーム照射に莫大なエネルギーを費やす巨人とはいえ、貯蔵出来るエネルギー量には限りがあり、それを超えるとオーバーヒートしてしまう。その境界線を、ジュエルシードから吸収されたエネルギーにあっさりと超えられてしまいそうなのだ。

 だからその前に、高町なのはの魔力による砲撃で、どうにか封印する。実際、少年が脳内で建てた作戦はそれだった。

 

「え、あ、うんっ」

 

 常ならぬ、余裕のない言葉。呆気にとられていたなのはもそれに応じて、手に持っているデバイスを砲撃形態に変え、両手で構えるが。寸前、あることを思い出して尋ねた。

 

「で、でも……大丈夫? 巻き込んじゃうよ?」

 

 封印砲撃は直射型砲撃魔法であり、とてもじゃないがジュエルシードのみを狙い撃つ訳にはいかない、。直撃の爆風は、近くにいる鉄巨人をも巻き込んでしまうだろう。

 だが、紅いバイザーを持つ頭部がなのはの方を振り向いて、応えた言葉はそんな心配を吹き飛ばす程、自信に溢れた声だった。

 

「大丈夫だ。ゲシュペンストは、その程度じゃびくともしないさ」

 

 ゲシュペンスト。

 ドイツ語で「幽霊」という意味の不吉な名前だが、それを語る少年の声は高らかで、何か神聖な物について述べているようにも思えるくらいだ。

 それくらい、少年にとってこのロボットは憧れであり、夢であり、また、大好きなものだった。だからこそ、別世界の自分と同じく武装機甲士を作ろうとしていた博士に頼み込んでまで、この黒い巨人を作り上げさせたのだ。

 

 どうせ戦うのなら。誰かを守るために力を振るうなら。自分の夢であったものに乗ってみたい。そうして、かつて本気で憧れていたキャラクターのようになりたいという、夢を叶えるのだ、どうせなら。阿呆らしい望みだが、それが少年の本心だった。

 

「う……うん、撃つよ!」

「おう、ばぁーんとやってくれ」

 

 そういう単純で、しかし少年の言葉だから、なのはも何も疑わず、それに従う。

 杖の先端に魔力を集中させ、それに一つの指向性を持たせて撃ち放った。

 

 見事に直撃したその砲撃の余波に、黒い巨体が包まれて。

 だが、ゲシュペンストは小揺るぎもせず立ち尽くしていた。その頑健さに、なのはとユーノは揃って息を飲む。

 

「……アル、フ。ジュエル、シード、は……」

「んなこと言ってる場合じゃないよ! 手当しないと……!」

 

 そして、フェイトとアルフは状況の不利を悟り、そして傷ついた身体を治すために後退する。

 かくして、結界内に残されたのは二人の子どもと、一つの鉄巨人。

 

「……えぇ、と……」

「ん、どうした、白い魔法少女」

 

 未だ見慣れぬ巨体におずおずと、しかし近づいて尋ねて来るなのはに対する少年の返答。わざわざ抽象的な言い回しをする所を見ると、なるだけ正体を隠す、という意図は持っていたらしいが、しかしもはや、無意味なことである。

 

「田中くん、凄いね。そんな……ロボット? に乗ってるなんて」

「っ……」

 

 バレた、と気づいた途端、少年――田中の声はつんのめるように止まったが、それならそれで仕方ない、と考え直しもした。思考の転換、というより切り替えが早いのも、単純な彼の特徴だ。

 

「まぁ、な」

「どうして、ここにいるの? 結界って、魔法使えないと入れないんだよ?」

「結界があることは、もうちょい前に気づけてたんだ。そこにどうにかして割り込むのに時間を食った。ほら、居るだろ、家の爺さん」

「あ、保護者会に出てたおじいさんだね」

「高町も噂ぐらいは聞いてるよな? 町外れに研究所作ってるって」

「うん」

「それがな。町に散乱してるエネルギー源に興味持っちゃってさ。で、俺はその使い走りなわけ」

 

 へぇ、と一応納得するなのはに対して、文句の一つも言ってやりたそうな顔をして、ユーノ・スクライアが肩に座っている。別に小人でも妖精でもない。フェレットに変身しているだけだ。

 

「ええと、君」

 

 流石に二人の会話を聞くだけでは済まないらしく、割り込んできた。

 

「ん?」

「そのさ、君が今持ってる宝石なんだけど。それは、ジュエルシードって言って」

「集めてる、んだろ?」

「え? あ、いやそうなんだけど」

 

 先手を取られ、器用に口ごもるフェレットの姿を見て、田中は少し罪悪感を覚えた。彼としては懇切丁寧に話して事情を納得させてくれようとしているのに、自分は既にそれを知っていて、二度手間になるからこうして遮っている。押し売りでもない親切を跳ね除けるのには、それなりの後ろめたさが含まれるものだ。

 

「それも含めてさ。爺さんと俺から話したい事がある。研究所に、来てくれないか」

 

 田中の提案に対し、二人揃って顔つき合わせてきっかり五秒間。その間、何回かの念話のやりとりが行われているのは少し想像力を働かせれば分かることだった。多分、なのはの疲労やら、高町家の門限やらを議題にしているのだろう。

 

「いいよ。田中くんのことも、聞きたいし」

 

 ぱっ、と再びゲシュペンストへ向き直り、代表してなのはが答える。すると、黒い2つ角の頭が納得したかのように首を縦に振って。

 なのはの小さい身体を、片手で持ち上げた。

 

「え、ふ、ぇぇぇっ!?」

「ごめんな。結界もそろそろ解けるだろ? 誰かに見つからないように、空飛ばなきゃ」

「や、でも、そんなに、大きかったら」

「大丈夫、こう見えて結構よく飛ぶし、ステルスもちゃんと完備してるんだぞ」

 

 そっけない言葉だが、田中としては結構な断腸の思いを抱いていた。本来なら自由に戻せるはずの『パーソナル転送システム』は、どうやら未だ試作品であったようで、行きは良い良い帰りは不能、という塩梅なのだ。

 で、夜遅くに、魔法少女とはいえ女子小学生をたった一人で町外れまで歩かせる訳にはいかない。だから、抱きかかえて、ゲシュペンストで飛んでいく。

 黒いゲシュペンストは本来なら陸戦用なのだが、アニメではポンポン滑空なり飛行なりしていたし、それにこの世界では、最初から一つだけ、所謂移動タイプを「空」にする強化パーツが装備されていた。

 テスラ・ドライブ。ゲシュペンスト開発の片手間で作られた、重力制御・慣性軽減装置である。

 

「行くぞ? しっかり捕まっててくれよ」

「にゃぁぁぁぁっ!」

 

 黒い幽霊が、白い魔法少女の躰を抱き、月の瞬く空を飛ぶ。

 その不可思議な光景は、高度なステルス・システムにより、誰の目にも映らなかった。

 




設定解説

田中(主人公)

 題目通りに神様に呼び出され、リリカルなのはの世界へ転生してきた主人公。スパロボ・コンパチヒーローシリーズについて並ならぬ知識を持っている。
 なのはたちと同年齢という設定で転生したが、ただし両親も家族もなく、家も金も、何もかもが無かった。服だけは何故か着ていた。
 行くあてもなく三日フラつき、飢えて流石に絶望してきた所でこの世界のエリック・ワンと遭遇。もうそろそろ死ぬんじゃないかと思っていたのでスパロボに関する知識をもう全部洗いざらいぶちまけたことで関心を持たれ、どうにか生かされ、身元も保証される。
 それからは、エリックの助手として転生して得たハイスペック肉体とよく回る頭脳、そしてスパロボ知識を酷使されつつ、義務教育で小学校に通う。
 この時なのはと出会ったことで、リリカルなのはの世界に転生したと確信し、それをエリックに話した所、ジュエルシードだの闇の書だのでますますヒートアップさせてしまう。
 だがそこは慣れたのか、研究の手伝いの為のパワードスーツを強請った所あっさり承諾され、そしてパワードスーツ型の『ゲシュペンスト』を手に入れるに至った。
 冷淡な話し方をすることでクールな性格に見られるが、一皮むけばただのロボアニメ好きな熱血馬鹿。転生時に得た頭脳で冷徹な判断が出来なくもないが、大抵それを投げ捨てて飛び込んで行ってしまう。

エリック・ワン

 この世界のエリック・ワン。性格はOG世界のそれと同じく、人懐っこいが掴みどころのない不気味な妖怪爺。
 若い頃は学会で大暴れしていたらしいが、老いてのんびり暮らすべく海鳴に引っ越し、ボロボロの研究所で日夜不気味(にしか見えない)研究を続けている。お陰で、町外れの奇妙な発明爺さんとして海鳴ではそこそこ有名。
 偶然田中を拾い、死にかけの彼がぶちまけた話でなんと『虚憶』が引き出されたらしく、彼を偉く気に入りこき使い始める。その後も田中の言葉の数々に虚憶をじゃんじゃんばりばり引っ張りだされ、気づけばEOTすら含む、超絶的な科学力を手にしてしまっていた。
 流石に自重しようと思うも、田中からリリカルなのはの物語について聞かされ、次元世界という未知なる海に科学者としての欲求がますますヒートアップ。
 田中の口車に乗るふりをして手持ち技術の粋を集めた実験機たるゲシュペンストを制作し、ジュエルシードの分析と、可能ならばサンプルの回収を命令した。
 また、闇の書についても独自に手を伸ばしているらしく、足繁く海鳴市立病院へ通っては、八神はやてのデータを入手しようとしている。

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