ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回から新章ですが、その一発目のメインがAqoursではなくまさかのSaint Snow登場回です!


Saint Snow 登場!!

 

 教育実習生活も残り1週間となった。内浦に来た当初は3週間もここに拘束されるのかと若干面倒な気持ちもあったのだが、自然も豊かで住民も温厚、何よりAqoursとの出会いがそんな気持ちを早々に吹き飛ばしてくれた。今ではここを離れるのを名残惜しいというか、ちょっぴり寂しくなっちまう。そう思ってしまうほどこの2週間でたくさんの思い出を作れたということだ。

 

 てな感じでいかにもクライマックス間近な言い方だが、まだまだ俺の教育実習生活は終わらんよ。内浦に来てからというもの1日1日が濃密で、穂乃果たちと大学でダラダラしながら過ごしている時とは大違いで忙しい。だからこの1週間もまた長くなりそうだ。

 

 

「せんせぇ~ここの問題わかんないで~す!」

「千歌……まず机に身体を伏せてないで起きろ。分からなかったら人に聞く前にノートを見ろ」

「寝てたからノート取ってないです。はい論破」

「そんな馬鹿なことを言うのはこの口かぁあああああああああああああ!!」

「い、いひゃいいひゃいよせんしぇ~」

 

 

 俺は両手で千歌の両頬を抓ると、そのまま左右に広げ可愛い顔をブサイクになるよう歪ませてやる。自分から今日の数学の授業が分からなかったので教えろと申し出てきたくせに、いざ補習をしてみればこれである。やる気があるのかないのか、どちらにせよ俺は教師だからコイツに勉強を指導する義務がある。まあ高坂家の長女をやる気にさせ、本来なら叶わなかったレベルの高い大学に導いた経歴のある俺だ。千歌の1人や2人を勉学に奮い立たせるくらいは容易い。

 

 

「いい加減にしないと帰るぞ。そうなったら今日の宿題はどうなると思う? 分からないことだらけで徹夜するはめになるぞ」

「せ、先生は優しいから、1日締切を伸ばすくらいはやってくれますよね……? いやぁ先生カッコいいもんんなぁ~。しかもこんなやる気のない生徒のためにマンツーマンで指導してくれるなんて、まさに教師の鏡!! 惚れ惚れしちゃいますよぉ~♪」

「おだてても無駄だ。早くノート開け、また1から教えてやるから」

「さっすが先生! やっぱり先生とマンツーマンだと勉強が捗ります!」

「どうだか……」

「えへへ♪」

 

 

 どうしてこんなに嬉しそうなんだコイツは……。見たところそこまで勉強を嫌がっている訳ではなく、むしろ俺と一緒にいるこの状況を楽しんでいるような気がする。流石に自惚れ過ぎかもしれないが、さっきからやけに笑顔を見せる千歌を見ているとそう思わざるを得ない。

 

 そんなこんなで俺の補習授業は途中で千歌が嬉しそうに駄々をこねながらも進んでいき、もうすぐAqoursの練習時間が迫っていた。元々1日の授業が終わってから練習時間までは教育実習のレポートを書く時間にしようと思っているのだが、最近はやたら俺に授業の質問をしてくる生徒が多く、中々その時間を取らせてもらえない。しかもそんな生徒に限って嬉しそうと言うか、補習中も教科書やノートではなく俺に視線が向けられていることが多く、もはや補習の目的を見失っている。もちろん千歌も同じ部類の人間だ。

 

 

 本当に俺の授業内容を理解してくれているのか怪しみつつ補習を終えようとすると、教室の扉が開かれ、背丈の小さい先輩女性教師である山内先生が顔を覗かせた。

 

 

「あっ、神崎君ここにいたんですね!」

「山内先生? 何か用ですか?」

「さっき職員室に神崎君に会いたいって子たちが訪ねてきたの。実はもうそこまで来てるんだけど、通しちゃっていいかな?」

「いいですけど……誰なんだ?」

 

 

 またμ'sの誰かがアポなしで来たのかと思ったが、以前楓が襲来したことで12人全員が内浦に訪れたことになる。つまりμ'sの誰かではなく、かと言って俺に会いに来てるんだから俺に知り合いなのだろう。そう考えるとA-RISEかこころやここあだとは思うが、μ'sのように押しかけ女房するような奴らじゃないしその線はないだろう。だったらなおさら誰が来てんのか分かんねぇ……。ま、そこまで来てるみたいだしすぐに判明するか。

 

 

「神崎君こちらにいたので入っていいですよ! それでは私は職員室に戻りますので、用事が終わったらまた声をかけてください」

「はい、分かりました」

 

 

 そうして山内先生は扉の前から去った。

 一体誰が来るのかと俺も千歌も興味津々で廊下を眺めていたが、その刹那、謎の黒い影が目にもほとんど映らないスピードで補習教室へと入り込んで来た。背後に忍び寄る暗殺者のように、いやもはや人間が成せるスピードとは思えない。窓から差し込む夕日の暁のせいでシチュエーションまで不気味に感じてしまう。

 

 そして、唐突に俺の腰が人肌の暖かさに包み込まれる。恐る恐る目を下げてみると、そこには小柄な女の子が俺の腰に腕を回して思いっきり抱きついていた。赤み掛かった紫色の髪。それを短いツインテールとしている少女。顔を胸に埋められているため本人確認はできないが、この子にこうして抱きしめられる感覚に俺は覚えがあった。

 

 更に彼女だけではなくもう1人、いつの間にか教室の入口に立っていた女の子が丁寧にお辞儀をして入ってきた。綺麗なバイオレットの髪を左結びでサイドポニーとしている少女。背も高くついでに胸も大きく、一目見ただけでも眉目秀麗だと実感させられるその見た目。そしてなにより、この子の存在も俺には見覚えがある。

 

 

聖良(せいら)!? それじゃあいきなり抱きつてきたコイツは……理亞(りあ)!?」

「はい、お久しぶりです――――コーチ」

「会いたかった――――兄様」

「せ、Saint Snow!? それにコーチに兄様呼びって……どういうこと!?」

 

 

 ちょっと突然の出来事ばかりで何から処理していけばいいのか分かんねぇ!! 千歌も頭にたくさんの"?"マークを浮かべて動揺しているし、とにかく1つずつだ。1つずつ冷静に対応していこう。

 

 まず行儀良く教室に入ってきたのが鹿角聖良(かづのせいら)Saint Snow(セイントスノー)というスクールアイドルのメンバーの1人だ。とは言っても、Saint Snowはこの子を含めて絶賛俺に抱きついているこの子の2人だけなのだが……。

 そして俺を絞め殺す勢いでハグしているこの子が鹿角理亞(かづのりあ)。苗字を見てもらえればお察しの通り聖良の妹である。つまりこの2人は姉妹でスクールアイドルをやっている訳だ。最近ではμ'sに影響されてそこそこ大人数でのスクールアイドルグループが増えているから、ただ身内間だけで、しかもここまで少人数のスクールアイドルは珍しかったりもする。

 

 それにしても、理亞の抱きつくパワーが秒単位で増しているんだが!? 男に拘束プレイなんて誰も望んでないからね!?

 

 

「お、おい理亞、もう少し力緩めてくれ。苦しいからさ……」

「久しぶりの兄様。いい匂い」

「それはありがとう……って、そうじゃねぇよ!!」

「理亜はずっとコーチに会えるのを楽しみにしていましたから。この日が近づくたびに柄にもなくそわそわして」

「お前も大変だな聖良……」

 

 

 ちなみにこの2人は北海道の出身だったりする。だからそこまで会う機会には恵まれないので、()()()に邂逅したのは天の巡り合わせと言えよう。ていうかそもそもコイツら、一体何しに来たんだ……?

 

 

「どうして私たちがここにいるんだって顔してますね。実はアキバでのライブに呼ばれていて、今日はその前乗りなんです。そうしたら理亜がどうしても静岡にいるコーチに会いたいって聞かなくて」

「そういや教育実習のこと、お前らにも連絡してたっけ」

「もう一度あの時みたいに兄様に抱きしめて欲しかった。兄様、暖かい……」

「はは……遠路遥々ご苦労様」

 

 

 北海道のスクールアイドルなのに聖地であるアキバでのライブに呼ばれてるって、もう相当な知名度じゃないか? Saint SnowもAqoursと同じでまだこれといって目立った結果は残していないものの、世間の注目度ではAqoursよりも上に位置するくらいだから。いくら客寄せが厳しい地方で活動していようとも、この2人を見ればどのスクールアイドルにも可能性があるってことだな。

 

 そして話は変わるが、さっきから千歌の鋭い目線が俺の身体を貫きそうなくらいに突き刺さる。横目で彼女を見てみると、軽く頬を膨らませて明らかに嫉妬してますよオーラを漂わせていた。机に座ったまま上目で俺を睨み、それとは別に理亞の動向が気になるのか彼女にもチラチラと注意を向けている。女の子の嫉妬姿というのは大変可愛いのだが、あまり放っておくと怒りが爆発してしまう可能性もあるので過度な放置プレイは危険だ。これ、ヤンデレちゃんたちを攻略した俺からの助言な。

 

 

「先生とSaint Snowのお二人は知り合いだったんですか? そうやってハグし合う仲みたいですし……」

「ハグし合う仲って、理亞が一方的にしてくるだけだって」

「一方的? 最初は兄様からだった。そしてそれから私の身体は兄様専用になったの」

「はぁ!? せ、専用ってことはつまり……!!」

「その発言は意味深すぎるから!! 千歌も鵜呑みにすんな!!」

「大丈夫、他意はない」

「だったら他意があるようにしか聞こえない発言は謹んでくれ……」

 

 

 そろそろ理亞の雰囲気で気付くと思うが、彼女は表情変化が少なく声も淡々としている。それゆえに見た目ではほとんど感情を感じられないのだが、内心は俺にデレてデレてデレまくっている生粋なクーデレタイプである。同じタイプでツンデレ寄りの雪穂と比べれば感情の起伏が少なく、まさにお手本のようなクーデレなのだ。しかもデレの時ですら真顔なのが不気味だが可愛く、発言も先程のようにちょっと常識外れなことも多いがそれはそれでまた愛らしい。意味深な発言が故意なのか天然なのかは未だに図りきれてはいないが……。

 

 

「聖良さんと理亞さんは、先生とどういったご関係なんですか……? そしてどうしてそう安々と抱きついてるんですか……!? 兄様呼びってどういうことですか!?!?」

「段々声が大きくなってきてるぞ千歌! 熱くなりすぎだからちょっと落ち着け!」

「安々……? 私と兄様の関係が安いとでも……? あなた馬鹿!?」

「理亞も声が大きくなってるから……」

 

 

 理亜は普段はクールだが、こうして感情が高ぶると相手に噛み付くように声を荒げるのがたまにキズである。そこまで明確な悪意ではないだろうが暴言も躊躇がないし、ツリ目がちということもあり初見では俺も近寄りがたい印象を抱いていた。まあこうして懐いてくれさえすれば、少し手の掛かる小動物みたいで全然可愛いんだけどね。

 

 

「理亞だと話が進まないので、私が説明しますね」

「頼んだ」

「はい。私たちとコーチは春に出会いました。私たちがスクールアイドルを目指そうと思い、聖地であるアキバで観光を兼ねた練習をしていた時に」

「へぇ~それじゃあ結構最近なんですね。その時に先生に指導を?」

「そうです。あの時の私たちには指導員すらいなかったので、コーチにたまたま声を掛けられ、そこから数日間指導してくださってとても助かりました」

「なるほど。でも先生はどうしてSaint Snowのコーチになったんですか? 最初Aqoursの顧問ですら嫌そうな顔をしていた先生が……」

「何と言うかな、ビビッと来たんだよ。今時スクールアイドルなんてそこらにゴロゴロいるだろ? 公園の近くを通りかかればほぼ100%誰かの練習を目撃するし、特にアキバは聖地だけあって全国からスクールアイドルも集まりやすい。つまり俺が高校生時代よりもスクールアイドルが多すぎて、魅力というものをほとんど感じなくなってたんだ。そんな中、俺の目を惹きつけられたのが――」

「Saint Snowだったってことですね」

 

 

 言い方は悪いが、最近は量産型スクールアイドルが増えているのが現状だ。伝説のμ'sやA-RISEに感化されてスクールアイドルを始めたはいいものの、思ったより人気が出ないからすぐにやめてしまうスクールアイドルも後を絶たないと聞いたことがある。その事実を踏まえると、スクールアイドルの魅力というのは俺の高校時代よりも低下したと言える。もちろん今のスクールアイドルの全員がそうであると言っている訳ではなく、AqoursもSaint Snowも人を惹きつける魅力はバッチリだ。

 

 俺の中では輝きが低迷しつつあったスクールアイドル界隈だが、そんな中でたまたまSaint Snowが練習しているところを見かけた。彼女たちからはただの憧れだけでスクールアイドルをやっているんじゃない。スクールアイドル界の頂点を目指したいという闘志が練習からでもひしひしと感じられたんだ。俺も伊達にμ'sと一緒にいた訳じゃないから、スクールアイドルたちがどのような精神で練習をしているのかなんて見ただけで分かる。Saint Snowは量産型スクールアイドルじゃない。ただ伝説たちの光の輝きを、おこぼれのように受けようと思っている奴らじゃない。自らが自分たちの光で輝こうとしているのが一発で分かったんだ。

 

 そう悟った瞬間、俺は聖良と理亞に声を掛けていた。

 

 

「コーチにはとてもお世話になりました。まだ効率的な練習方法が確立されていない私たちに、文字通り手取り足取り教えてくれましたから」

「も、文字通り……?」

「あれもこれも全て練習に必要なことでしたから、他意はありません」

「兄様の指導は的確だった。あれもこれも……ね」

「なんか聖良さんも理亞さんも、先生の色に染まっているような……。先生、2人に何をやらかしたんですか……?」

「ナ、ナニモヤッテナイヨ……」

「棒読み!! 未だかつてないほどの棒読みですけど!?」

 

 

 まあやっていないと言えば嘘になるけど、やってると言われるとそれは嘘なんだよなぁ……。とにかくだ、その辺り諸々の事情はまた別の機会にでも話してやろう。ここではいくら補足しようにも補足できないくらい色々あったからなぁコイツらとは。

 

 

「それで? 理亞さんの兄様呼びはどういうことなんですか……? まさか本当の兄妹じゃないですよね!? もしそうだとしたら楓さんの時よりも驚いちゃいますよ!?」

「違う違う。だからコイツが勝手にじゃれてくるだけだって」

「勝手にではない。兄様にこうなるようちょうきょ……指導されてしまったから」

「してねぇから。神様なんて信じてないけど神に誓ってそう言えるわ」

「む~……羨ましい」

 

 

 嫉妬してるってことは、千歌にももしかして俺に抱きつきたい願望でもあるんだろうか。彼女は性格上穂乃果に似ているが、彼女のようにいきなり抱きついてきたりなどの突発的な行動がない分、まだどこかに恥じらいがあるのだろう。もちろん俺としては美少女にハグされるのは大好きだから、いつでもウェルカムだけどね。

 

 

「また話が停滞しているので私から説明しますね」

「あ、あぁ頼む」

「はい。最初は私も理亞もコーチのことを警戒していたんです。練習をしていたら男性に突然声を掛けられるなんて、ただのナンパとしか思えなかったですから。それに私たちは北海道の出身なので、東京のヤリ手のナンパ師には不慣れでもありました」

「その言い方だと、俺が普段から所構わず女の子を誘ってるみたいじゃねぇか……」

「「「事実」」」

「そんなところで一致団結すんなよ……」

 

 

 ナンパと言われると聞こえが悪く、しかも俺からではなく女の子側から話しかけてくることも多いため、何も俺が女ったらしという訳ではない。まあ大学では高校時代以上にハメを外しすぎて、色んな女の子を引っ掛けていると言われればそうなのだが……。

 

 

「続けますね。とまあそんな感じでコーチに不信感を抱いていたのですが、提案していただいた練習メニューで私たちは自分で自分の成長を目に見て感じることができました。その他にもまあ色々あったのですが、おかげで最初はコーチを無言で威嚇していた理亞も、今ではコーチを"兄様"と呼ぶくらいにまで懐くようになったんです。人にはあまり心を開かないこの子が珍しいんですよ」

「大筋は理解できました。でもその色々の部分が知りたいんですけど……」

「さっきも言いましたけど、私も理亞もコーチに文字通り手取り足取り教えてもらったんです」

「兄様、凄かった」

「それが気になるんですよそれが!! ていうか理亞さんはどうして頬を赤くしてるんですか!?」

 

 

 理亞は俺に抱きつきながらも、明らかにハグの気持ちよさを堪能している顔の赤さではなく何かよからぬことを妄想して、断定はできないが卑しいことを考えいるような頬の赤さだ。ツリ目で少々強面の理亜だが、こうして少し緩んだ表情をされるとやっぱり年相応の女の子なんだと思う。その幼気さに当てられ頭を撫でてやると、じゃれつくように俺の胸に顔を埋めてきた。クールとデレの比率が絶妙すぎるよこの子は。

 

 そしてここまで話をまとめてくれた聖良にも感謝だ。彼女は理亞のように抱きついて密着してくることはないが、これまでの会話を聞いていたら分かる通り俺への評価は非常に高い。理亞とは反対で落ち着いていて、取り乱すことはほとんどない。最初に会った時は一歩引かれた状態で冷静に俺を分析していたが、神崎零が自分にとって有益な人材だと悟った瞬間にもう心を開いてくれて、敵意がないことを示してくれた過去がある。だから俺が単純に賢いと思った女の子はこの子が初めてだったりする。あとはそうだな、おっぱいが大きい。これ重要な。

 

 明敏デレな姉と冷静デレの妹。これまたキャラの濃い女の子たちに出会ってしまったものだ。

 

 

「話は分かりました。でも先生は今私たちAqoursの顧問なんです!」

「それがどうしたの? 私は姉様と兄様と一緒にスクールアイドルの頂点を目指すって決めてるから」

「先生! 私たちは!?」

「待て待て! 別にAqoursを蔑ろにしようってつもりじゃない。もちろんSaint Snowもな。お前らってライバルであって敵同士ではないだろ? だから共に競い合って頂点を目指せばいいじゃないか。もちろん頂点の席は1つだけど、そこへの道を歩む手伝いくらいはどのスクールアイドルであろうとも俺がやってやるよ」

「ん~上手く丸め込まれたような気がするけど……」

「流石兄様、心が広い。どこぞのロリみかん顔のスクールアイドルとは違って……」

「誰がみかん顔なのかなぁ……。それにロリ成分で言えばそっちの方がよっぽどそうだと思うけど??」

 

 

 ヤバイ、千歌と理亜がお互いに火花を散らし始めた。やめて! 私のために争わないで!! と男が言っても気持ち悪いだけだが、状況的にはまさにそれである。ロリ論争の結論から言わせてもらえば、千歌も理亞もそこまで幼い顔つきなのは変わらないのでどんぐりの背比べだ。更に言えばコイツらに歳が近いルビィの方がよっぽどロリ成分満載なので、もうこの2人すら普通に見える。

 

 

「こら理亞、相手を挑発しちゃダメっていつも言ってるでしょ」

「でも姉様!!」

「理亞」

「うっ……ご、ゴメンなさい」

「よろしい」

 

 

 いくら恐れ知らずの獣であっても、自分の姉さんだけには頭が上がらないみたいだ。ドSっ子がこうしてビクビクしながら身を縮こませている姿って可愛くない? そのまま屈服させてやりたくなるというか、どんな手を使ってでも自分の色に染めたくなってくる。まさに理亞はその典型なのだ。そんな珍獣を手懐けられるのだから、もしかしたら聖良の方がよっぽどSっ気があるのかもしれない。

 

 

「千歌も落ち着け。どっちもロリっぽいんだから争いは不毛だ」

「その結果は不服ですが、ここは先生に免じます」

「お前も頑固だよな……」

 

 

 スクールアイドルに関わらずリーダーというものは頭の柔軟性が大切だが、同時に意思を貫き通すブレない頑固さも大事だと思っている。そういう意味ではおバカキャラの穂乃果や千歌はそのカリスマ性も相まって、リーダーの素質に適合していると考える。まあ実際にはリーダー素質なんかよりも、抜けている要素の方が前面に押し出されているのがこの2人でもあるが……。

 

 

「それでは今日はこれでお暇させてもらいます」

「えっ、早いな」

「明日のライブために東京へ向かわなければなりませんし、身体もゆっくりと休めておく必要があるので」

「そっか。残念ながら見に行けないけど頑張れよ」

「もちろん。兄様成分をたっぷり補充したから無敵」

「はは……それでやる気が出るんなら、どれだけでも抱きついてくれ」

「だったら一生抱きついてる」

「それじゃあライブできないだろ……」

「ほら理亞、そろそろ帰るよ」

 

 

 理亞は聖良に襟を掴まれ俺から引っペがされる。ずっと密着していたせいか暑さで顔も火照っていた理亞だが、無理矢理引き剥がされて不満そうな顔をしているあたりまだハグし足りなさそうだ。俺たちコアラじゃねぇんだからさぁ……。

 

 

「それではコーチ、今度は東京にいる時に会いに来ますね」

「さよなら兄様。身体、気持ちよかった」

「あぁ、またな!! 敢えて触れないから!!」

 

 

 そして聖良と理亞は教室から去っていった。最後の最後でも意味深な発言を残して……。

 それにしても本当に顔見せだけだったんだなアイツら。数ヶ月ぶりに顔を見たけど、スクールアイドルとして成長しただけ見た目も雰囲気も大人っぽくなっていた。これは将来いい女になれるぞ。意味深的なことではなく人間としてな。まあ俺が手塩にかけて育てた子たちだから、そう簡単に他の男にはやらないけどね。それにいつの間にか俺に靡いちゃってるから、そんな心配も野暮かもしれない。

 

 ここでふと視線を感じるのでそちらを振り向いてみると、千歌が寂しそうな顔でこちらを眺めていた。俺のせいではないが、さっきからずっとジェラシーを纏っていたせいでそろそろ我慢の限界なのだろう。そんな彼女が小さく口を開く。

 

 

「私もライブが成功したら、ギュって抱きしめてくれますか……?」

 

 

 弱々しい声だ。いつも元気いっぱいの千歌にこんな声を出させてしまうと、いつもながらに罪悪感を感じてしまう。この手口でおしりに座薬を入れる作業を手伝わされ俺の性欲を焚きつける罠を張られたのだが、今の彼女は本気で寂しさに襲われているみたいだ。

 

 それに、そんな質問なんてされる前に既に答えは出ている。

 

 

「もちろんだよ。お前の身体が潰れちまうくらいの強さで抱きしめてやる! 俺、女の子を抱きしめるの大好きだから」

「アハハ、先生らしいです! でも……楽しみにしてますね♪」

 

 

 こうしてAqoursとSaint Snowのライブが成功すれば、一気にたくさんの女の子をハグできる訳だ。もちろん下心なんてものはほとんどなく、それで彼女たちの士気が上がってくれるのならいくらでも女の子の胸を俺の胸で感じてやろう。…………まあ男だから仕方ないよ、許してくれ。

 

 それにしてもこれからAqoursとSaint Snowが対面するたびに、俺に抱きついてくる理亞に対して千歌たちのジェラシーが凄まじいことになりそう……。

 




 いつかは出演させたみたいと思っていたSaint Snowをようやく私の小説に出せて、また1つ欲求不満が改善されました!

 聖良も理亜もまだアニメではそれほど出番はなかったので小説でのキャラ付けも困難でしたが、自分なりにμ'sやAqoursのキャラと被らないように設定はしたつもりです。聖良は聡明で真っ当な性格でありつつも純度100%の零君マンセー派で、理亜は無表情キャラながらもデレ度だけはMAX、また他の人には容赦なく噛み付くSっぽさにしてみました。またアニメ2期で色々設定が後付けされていくとは思いますが、その時はその時でまたこちらも後付けを繰り返せばいいので(笑)

 零君とSaint Snowの出会い話はまたいずれ執筆しようと思います。もちろんここまで色濃く2人のキャラを設定したので、また出演の機会を設けるつもりです。


 次回以降はAqoursメンバーの個人回を多めに、恋愛方面や少しエッチな方向にも話を伸ばしていくつもりです。

 そんな訳で、次回は曜ちゃん回です!

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