ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

261 / 588
 大変お待たせしました!
 この話から新章である"スクールアイドルフェスティバル編"の開幕です!

 記念すべき第一話目はプロローグなのですが、やっぱりやってることはいつもと変わらないという……(笑)

 とにもかくにも、再びμ'sが主役になる新たなる日常、是非楽しんでいってください!


スクールアイドルフェスティバル編
μ's Music Re:S.T.A.R.T


 

 今年は猛暑になる。

 毎年のように天気予報でそう報道されている気がするのは、俺の勘違いだろうか? もはや俺たちのような一般人にとって猛暑日(35度以上)とかどうかは関係なく、30度を超えた辺りから暑いものは暑い。外に出れば皮膚が焼けるような日光に晒され、拭いても拭いても流れ出す汗に全身が粘ついてしまう。そうやって生きているのが辛くなるような現実に直面するくらいなら、こうして冷房をガンガン効かせた部屋でダラダラとしているのが身体的にも精神的にも大変宜しい。

 

 と言うのも、俺の大学が夏休みに突入したからこそできるニート生活を満喫しているからだ。数週間前に浦の星女学院の教育実習から帰還し、そこから各種手続きや成果発表などをしている間にいつの間にか夏休みが訪れていた。その時は死ぬほど忙しかったのに、今となってはこうして平日の昼間からベッドで横になって冷房を直当たりする日々。もう一生この生活が続けばいいのにと、何故教育実習に行ったのかを問いただしたくなるくらいには社会不適合者となっていた。こんな姿、内浦にいるアイツらが見たら呆れかえるだろうなぁ……。

 

 こんなニート生活をしているからこそ、怒りの沸点が低くなることは自分でも自覚していた。

 ニート生活者が一番嫌う出来事はただ1つ、自分の日常生活が脅かされることだ。そして、俺は今まさにその危機に瀕していた。

 

 さっきから電マのような凄まじい勢いで俺の携帯が震えている。どうやら誰かが俺にメッセージを連続で送りつけているみたいだが、どう考えてもμ'sの誰かが俺を誘い出そうとしているに違いない。特にこの数週間は俺が教育実習から戻ってきた喜びからか、やたらμ'sの子たちに誘われることが多い。あんな美女美少女たちから引切り無しにデートのお誘いとか贅沢なことなのだが、今の俺はニートと同列の存在なんだ。わざわざ猛暑の中を歩きたくもないし、そもそも着替えるのすらも面倒なんだよ。だから諦めてくれ。

 

 …………とは女の子を無下に扱いすぎなので言えず、渋々携帯の画面を確認して連絡通知を覗き見る。メッセージを直接見てしまうと、既読通知が相手に伝わってしまうからな。もし急用じゃなかった場合、このままバックレる気満々だから。

 

 携帯の画面には、案の定メッセージ通知が羅列していた。

 それも、たった1人の連絡よって――――――

 

 

『穂乃果:家の前まできたよー!!』

 

『穂乃果:零くーん、寝てるのー?』

 

『穂乃果:零くんのことだから、どーせゴロゴロしてるだけでしょ? 早く家に入れてよーー!!』

 

 

 バレてる……。いや、もう5年もの付き合いになるんだから、俺の性格くらいはおバカな穂乃果でもお見通しか。分かっていたとしても、自分以外の人間からニート扱いされるのは無性に腹が立つ。この理不尽さこそがニートが最底辺と言われる所以だ。

 

 

『穂乃果:ポスト覗いたら、なんか手紙来てたよーー!!』

 

『穂乃果:大きい封筒だけど、何も書かれてないみたい。なんだろうねこれ??』

 

 

 オイ、なに人の家のポストを勝手に覗いてんだコイツは?! やることがないからって、堂々と人ん家のプライバシーを侵害するかね全く……。もうこのまま永遠に家の前で待たせてやろうかと思ってしまう。まあ、楓が買い物から帰ってくれば鉢合わせになるから、その選択は未遂になるんだけどさ。

 

 このまま穂乃果を放置して、また人の家を荒らされるのは勘弁願いたい。仕方ないので適当に着替えて、玄関先まで迎えに行くことにする。

 5年経っても笑顔で図々しいことをするのは高校時代と変わっておらず、その変化のなさを安心すべきなのか、それとも全然成長していないと危惧するべきなのか。ともかく、俺の今日は穂乃果の騒がしさで粉々に崩れ去ることが確定してしまった。また余計なことに巻き込まれなきゃいいんだけどなぁ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「さむっ!! 外が暑すぎるのは分かるけど、それにしても寒くないこの部屋!?」

「ニートの適正温度だ」

 

 

 俺の部屋に上がり込んだ穂乃果の第一声がそれだった。どうせ玄関先で灼熱地獄を味わっているだろうから冷房を更に強くしてやったのに、蓋を開けば寒いと言い出すなんてとんだワガママちゃんだ。それに俺からしてみればこの温度で部屋にいることが日常となっているため、身体が贅沢に順応してしまっている。順応と言うよりも、温度感覚が麻痺していると言った方が正しいのかもしれないが……。

 

 

「21度って、零君完全に環境汚染物質になっちゃってるよ!? ストップ温暖化!!」

「大衆の世論に同調しているようでは、いつまで経ってもモブキャラの一員だぞ。もっとビッグになれよ」

「それはただの変人って言うんだよ……」

「お前にだけは言われたくないけどな。それに、俺が世界なんだ。俺がこの世界そのものであり、真理であり、理でもあり――――」

「あーはいはい、零君すごいねー。ニート生活してるくせに、よく言えたもんだねー」

「…………」

 

 

 それを言われるとぐぅの音も出ない悔しさが込み上げる。他の誰に馬鹿にされてもいいが、穂乃果に馬鹿にされると人生をやり直したくなるレベルでダメージが半端ない。今でもちょくちょく穂むらのレジ番をサボってる話、高坂家に居候をしていた楓から聞いて知ってんだぞこっちは。そんな奴にニートを咎めて欲しくはねぇな全く。

 

 

「教育実習から帰ってきた零君は大人っぽくなってカッコ良かったのに、どうしてこうなっちゃったかなぁ~」

「人間は誰しも変わるもんなんだよ。高校時代と何も変わってないお前は別だけど」

「変わってるもん! 零君と同じ大学に入れるくらいは頭も良くなったし、おっぱいも大きくなったし!」

「それはまぁ……俺のおかげだろ、どっちもな」

 

 

 高校時代の穂乃果が今の大学に入るには圧倒的に学力が足りなかった。だが、この俺の英才教育のおかげで、あの頃とは比べ物にならない学力を手にしたのが今の彼女である。正直、おバカな穂乃果は穂乃果じゃないって言う人もいるかもしれないが安心して欲しい。こんなクソ暑い日に律儀に家の前で待ち、何の悪びもなく人の家のポストを漁るような奴だ。これをおバカと言わずに何と言う。良くも悪くも5年前と変わってないんだよ、コイツは。

 

 

「もうただでさえ汗ダラダラなのに、大声出したら余計に汗かいちゃうよ……」

「だったらシャワーでも浴びてこい。服は楓のモノを適当に借りればいいから」

「しゃ、シャワーって……!? さ、誘ってる??」

「ない」

 

 

 こんな真昼間からおっぱじめるなんてどこの盛った獣だよ。女の子とやるのは、夜中のムードが漂っているベッドの上と決めてるんだ。その場の思いつきでズッコンバッコンしてたら、女の子の数的に俺の身体が持たなくなるぞ。仮に1日1人でローテーションを回していったとしても、一回りするのに20日以上経過するほどには俺の周りに女の子が多い。それだけ期間が開けば女の子たちから不満が出るし、そもそも俺がグロッキーになる可能性が高い。エロ同人の主人公みたいに、白濁液をシャワーのように振りまくほどの精量は持ち合わせていないもんでね……。

 

 

「あーあ、零君変わっちゃったよねぇ~。教育実習で大人になったのかは知らないけど、以前の零君だったら女の子にもっと見境なかったのに。Aqoursの子たちでそんなに満足できちゃったの、その性欲?」

「アイツらをそんな目では見てない。まあ満足できたかと言われれば…………うん」

「な、なにその間!? もしかして、もう全員食べちゃったとか!?」

「それだけはない!! ていうか、教師が生徒を食った時点で社会的に抹殺されるから!!」

 

 

 とは言いつつも、バスやホテルや自室などでご奉仕された記憶はまだ新しい。勘違いしないで欲しいのは、俺からやれと命令したのではなく、彼女たちが自主的に俺の性欲を処理してくれたのだ。つまり、俺は一切手を出していない。一部バスの中では色魔沙汰があったが、あの出来事は俺のシマではノーカンだから。

 

 

「いいから、とっととシャワー浴びてこい。これ以上俺の部屋に汗を撒き散らすなよ」

「普段は女の子の汗をしゃぶってみたいとか思ってるくせにぃ~」

「うるせぇな。男なんだから、多少の奇行は仕方ねぇだろ」

「前言撤回するよ。穂乃果もそうだけど、やっぱ零君も変わってないねぇ~」

 

 

 なんだろう、Aqoursと一緒にいる時は教師という立場上からか、人生の先輩として品行方正に振舞うことが多かった。でもこうして穂乃果と話してみるとどうだ? まるで高校時代に戻ったかのようなノリの会話で、この懐かしくも日常的なやり取りこそ東京に帰ってきたんだと実感できる。自分自身、教育実習を終えて精神的に一回り成長したと思っていたのだが、どうもμ'sの連中と話す時は子供の頃のノリに戻っちまう。それだけ穂乃果たちと心の奥で通じ合っているということで、納得しておいてやろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それで? その封筒の中身って何だったの?」

 

 

 シャワーから上がった穂乃果は、ベッドに腰を掛ける俺の隣に堂々と腰を降ろした。

 そんなに近づかれるとシャンプーの香りと女の子の香りのミックスフレーバーが漂ってきて、いらぬ欲求が湧き上がりそうになる。しかもさっきまで適当なTシャツとホットパンツだった穂乃果だが、シャワー上がりの着替えでオシャレ好きの楓の服を借りているため、見た目的にも女子力が増している。つまり、彼女の存在そのものが男を萌え殺す殺戮兵器と化しているのだ。そんな姿を眼前に晒されたら、封筒のことなんてどうでもよくなっちまうよ……。

 

 だが、多少なりとも気になる点はある。

 まず差出人が書かれていない。それどころか俺の家の住所も記載されておらず、切手も貼られていない。つまり封筒の両面は"無"であり、下手な勧誘のチラシよりも怪しく見えた。大きさはそこそこで、中に何が入っているのかは知らないが、普通の郵便物に比べると少し重量感がある。

 

 

「宛先も宛名も書かれてなくて、切手も貼られていないってことは、誰かがわざわざ俺の家に出向いてポストに投函したってことだ」

「えっ、何のために??」

「さぁな。とりあえず開けてみるか」

 

 

 このまま外見を見て怪しんでいても話は進まない。

 俺は自分の机からハサミを取り出し、中に入っている書類のようなモノを切らないよう慎重に封筒の上部を切り取る。そして中身を取り出すために少し切り口を傾けると、カードのようなモノが雪崩のように飛び出してきた。

 

 

「や、やべっ!」

「あ~もう零君ったら……って、あれ?」

 

 

 穂乃果は雪崩落ちたカードを1枚拾い上げる。そのカードはラミネート加工が施してあり、明るい電気が照らす部屋の中でも一際輝いていた。彼女はそのカードに記されているらしい文字を目で追いながら口ずさむ。

 

 

「スクールアイドルフェスティバルの……招待状?」

 

 

 聞きなれない単語だった。名前から察するに、スクールアイドルに関連する祭りのようなものだろうか。もちろん封筒に入っていたのはカードだけではないので、真相を確かめるためにも同梱されていた複数の書類から概要が記されている資料を取り出して、声を出しながら読み込んでみる。

 

 

「スクールアイドルフェスティバル。通称"スクフェス"。その名の通り、スクールアイドルのためのスクールアイドルが織り成す過去最大級のお祭りです――――だってさ」

「へぇ~面白そう! 歌ったり踊ったりできるの?」

「書類に書かれている情報だと、『ラブライブ!』みたいに競い合ったり、逆に他のスクールアイドルたちとコラボする企画もあるみたいだぞ」

「すごいっ! それじゃあA-RISEやAqoursのみんなと一緒のステージに立てるかもってことだよね!?」

「まあソイツらにも同じ招待状が届いているんなら、その可能性はあるかもな」

 

 

 ここ数週間は教育実習後の活動で忙しかったから、スクールアイドル界隈の情報には疎かった。携帯で改めてスクフェスについて調べてみると、まだそこまで大々的には宣伝していないものの、計画としては候補に挙がっていたみたいだ。どうやら実力関係なく全国からスクールアイドルを集めて、一世一代の祭りを開きたいらしい。要約してしまえば、スクールアイドルのどんちゃん騒ぎって訳だ。

 

 そして、もう既にやる気に満ち溢れているスクールアイドルがここに1人。

 

 

「久しぶりにμ'sとしてステージに上がれる日が来るなんて……。う~~~っ、テンション上がってきたァあああああああああああああ!!」

「ちょっ、嬉しいのは分かるけど耳元で騒ぐな。それにμ'sはもう解散してるんだぞ? メンバーはどうやって集めんだよ?」

「あっ……。それはぁ……み、みんないい子だから、アハハ」

「いい子って、子供をあやすんじゃねぇんだぞ……」

「心配しなくても大丈夫! みんなμ'sとして、もう一度ステージに上がりたいと思ってるから! それほどまでにμ'sの絆は堅いんだよ!!」

 

 

 相変わらず勢いとやる気だけは一丁前だなコイツ。しかし今やμ'sのメンバーはほとんどが大学生であり、中には社会人の子もいる現状だ。更にμ'sは12人体勢であり、それだけの人数を集めようと思ったら骨が折れるどころの話ではない。全員今も連絡を取り合う仲なので会って話をするだけなら簡単だろうが、そこから先の道が俺には全く見通せなかった。確かにμ'sの絆が強固なのは分かるが、それとこれとは話が別のような気もする。まあ穂乃果のカリスマ性があれば、なんだかんだしてる間にメンバーが揃ってそうではあるけどな。

 

 

「さて、どうやってみんなを勧誘しようかなぁ~? この感覚、高校2年生の春を思い出しちゃうよ。みんなをどうやって言いくるめて、メンバーに加えるかを画策しているあの頃をね……フフッ」

「お前そんなこと考えてたのかよ……」

「冗談だよ冗談♪ あの時は廃校が間近に迫ってたせいで必死だったんだから」

 

 

 今思えば、半年という短い期間でスクールアイドルを結成して、しかも廃校を防ぐほどの知名度に上り詰めたμ'sの勢いは凄まじいものだった。穂乃果のスクールアイドルをやりたいという真剣な気持ちと、純粋な想いが招いた結果だろう。そんな彼女がまたμ'sを結成して、そしてステージに上がりたいと決心しているんだ。もしかしたらまたデカい花火を盛大に打ち上げてくれるかもしれない。

 

 

「そうだ! 零君からみんなに頼んでくれれば、絶対に12人揃うと思うんだよね。特にことりちゃんは二つ返事どころか、話題を切り出すだけでOK貰えそうだし!」

「人任せいいのかよお前……。μ'sの絆とやらはどうした?」

「今更確かめなくても、穂乃果たちは繋がっているんだよ! 変な意味じゃなくてね♪」

「最後のがなければいい話だったのに……」

 

 

 意外に思うかもしれないが、穂乃果はそこまで深い性知識を持っている訳ではない。ただ周りに影響されているだけの素人変態であり、本人自身も自分がμ'sの中では危ないグループに属しているとは思っていないだろう。だからこそ会話の端々に漏れ出す罪のない淫猥発言を、強く咎めることができないのだが。

 

 話を戻すが、穂乃果より俺が誘った方がみんなを誘いやすいという考えは確かに利口ではある。でも俺がμ's再結成の情熱を伝えるよりも、今まさにヒートアップして燃え滾っている穂乃果が伝えた方が100倍気持ちが伝わるだろう。ていうか、そうでなければ意味がない。

 

 

「それで? どうやってアイツらを引き入れるつもりだ?」

「う~ん……電話とかでもいいんだけど、やっぱここは穂乃果の情熱を真っ向から伝えたいんだよね。だからみんなに直接会ってみるよ!」

「そうか、頑張れよ」

「えっ? 零君も来るんだよ??」

「はぁ!? どうして俺がこんなクソ暑い中、お前がアイツらに媚びる姿を見なきゃいけねぇんだ」

「それ、穂乃果が悪いことしてるみたいじゃん……。そうじゃなくて、せっかくの2人きりなんだし……ね?」

 

 

 急に女の子らしい態度になりやがったな穂乃果の奴。まあ元から女子っぽいと言えば女子っぽいけど、頬を紅くしてしおらしい様子を見せると一気に清楚さが増す。千歌の時も言ったけど、普段子供のように無邪気な子が色気付くと、そのギャップのせいで萌え度が数割増になる。俺もまさかこのタイミングでデートに誘われるとは思ってなかったから、一瞬呆気に取られてしまった。

 

 そして何故か、お互いに見つめ合う。スクフェスの話題からどうしてこんな展開になったのか、その過程が全く掴めない。穂乃果の純粋で綺麗な瞳に捕らわれ、思わず吸い込まれそうになる。

 俺が教育実習から戻ってきた時、穂乃果は満面の笑顔で大喜びしていた。それだけ俺が帰ってきたのが嬉しくて、そして離れ離れになっていたことが寂しかったのだろう。だからこそ、いつもは強引に遊びに誘ってくる彼女がここまでしおらしくなっているのかもしれない。ただ出かけるだけなのに、こうしてムードが漂ってるって相当なことだから……。

 

 

 そして、気付いた時には穂乃果の両肩を掴んで、彼女をベッドに押し倒していた。穂乃果は驚いた様子で俺を見つめていたが、まもなく何かを悟った笑みを浮かべる。

 

 

「やっぱり、何も変わってないね」

「俺は今の俺が大好きなんだ。だから変えるつもりなんてねぇよ。一生女の子に囲まれた、贅沢な生活するためにもな」

「その欲望全開の言葉を聞くと、本当に零君が戻ってきたんだって実感できるよ♪」

 

 

 教育実習の間はこうして自分から女の子に手を出すなんて暴挙、できるはずもなかった。教師としての立場もあったし、そもそも出会って数週間の女の子を襲おうとは思わない。だからこそ、その時に溜まった鬱憤が今ここになって発散されようとしているのかもしれない。無意識の内に女の子を押して倒してしまうなんて、まともな精神を持っていたらまず起こすことのない行為だ。

 相手が穂乃果だから気兼ねなくという考えが俺の中で密かにあるのかもしれないが、それはそれでまともな精神ではない。もうここ数年で大人の階段を駆け上り過ぎて、女の子(しかもスクールアイドル)と交わることに何ら抵抗も珍しさも感じなくなっている。これには幾多の女性を股に掛けてきた光源氏もビックリだろう。

 

 そのような感覚麻痺に陥っているせいか、このままいつも通り穂乃果を攻めても味気ないと、贅沢な悩みを抱くまでになってしまった。風呂上がりで自慢のサイドポニーすらも解かれた穂乃果は、ベッドに髪を広げながら仰向けとなっている。そんな色気付いた彼女の魅惑を更に際立たせているのが、捲れ上がったシャツから覗かせる腹部。厳密に言えばヘソの辺りだった。

 

 既に女の子の裸体なんて目が枯れ果てるほど拝んでいるのだが、こうして肌が少し垣間見える方がどちらかと言えば色気が増す。服というベールに包まれているからこそ、チラッと見える白い肌に興奮できるのだ。パンツだってスカートを覗いて見るから至高なのであって、女の子自ら見せびらかすような真似をされたら興奮度は半減以下に落ち込んでしまう。それと同じ原理だ。

 

 穂乃果は頬をほんのりと紅く染めて、俺からの動きを待つ受身の体勢となっている。いい雰囲気になったし、今からしっぽりとされることを望んでいるのだろう。俺の意識が自分のヘソに向いていることなど考えもしていないはずだ。

 

 そんな油断している彼女のヘソに、俺は瞬時に顔を近付ける。

 そして、間髪入れずに舌でヘソの奥を弄り回した。

 

 

「ひゃっ、ああああんっ!!」

 

 

 穂乃果は未だかつて感じたことのない衝撃に腹部を震わせるが、俺が覆い被さっている以上逃げ出すことも舌による攻撃を避けることもできない。彼女の様子を見てみると、一体何をされたのか分からない困惑の表情で瞬きを繰り返していた。

 

 

「れ、零君、今何したの……?」

「ヘソ掃除」

「な゛……さっきシャワー浴びたから必要ないよ!!」

「どうかな? 風呂でも意識して洗わない部分だから、案外汚れてるかもよ」

「女の子のおへそを舐めておいて、汚いとか言うかなぁ普通……」

「俺が普通じゃないってことくらい分かってんだろ。それに、スクールアイドルフェスティバルに出場するんだから身体くらい綺麗にしておかないとな」

「だとしても舐める必要が――――あっ、んっ!!」

 

 

 ヘソを舌で犯され、逃げることもできない穂乃果は未知の快感(?)に身を任せるしかなかった。実際にヘソを舐められるプレイをされたことがないから、今のコイツにどのような衝撃が走っているのかは知らない。ただ今の俺は、明らかな変態プレイに何をやっているんだという疑問と、久々で楽しいという悦びが混じり合っていた。

 

 胸を弄ったり臀部を触ったり、肉壷を埋めたりする行為は俺も快楽を味わうことができるが、このヘソを舐めまわす変態行為はどの行為よりも女の子の可愛い反応を見るのにうってつけだ。普段とは違うプレイであり、自分でも他人からも弄られない場所を攻めるからこそ新鮮は反応。それこそが変態プレイの魅力だろう。

 

 

「しばらくアイドル活動もしてなかったから、今から大人の魅力を上げておくのも悪くない。もうお前も21歳なんだし、可愛さだけじゃなくて大人の魅力も振りまいていかないとな」

「もうっ! 本人の目の前で年齢をバラす普通!? 本当のことだけど、相変わらず女の子に対するデリカシーがなさすぎるよ零君は!!」

「だからこうして女としての魅力を上げる手伝いをしてやってるだろ」

「んっ、ああぁ……!! も、もうっ、喋りながら舐めないでよぉ……」

 

 

 穂乃果の顔が地味に蕩けているため、もしかしたら刺激の中の僅かな気持ちよさを感じているのかもしれない。潤った瞳で自分のヘソが犯されている様を見つめ、いざ刺激が走ると目を瞑って喘ぎ声を出す。もはや通常のプレイをしている時と反応に大差はないが、変態プレイだからこそ可愛く振舞ってくれるのがミソなんだ。こんな奇抜なプレイでも女の子を気持ちよくさせられるんだという、俺の無駄な自信に繋がるからな。

 

 ここまで敏感な反応をされると他の子たちにも試したくなる欲求が湧いて出るのだが、全員にヘソ舐めを仕掛けたら最後、変態プレイ趣向者と世にも不名誉な汚名を着せられるので今回ばかりにしておく。実際に女の子にヘソ舐めして回る男がいたら……いや、想像するだけでドン引きするからこの話題はやめよう。そして、そろそろ穂乃果の堪忍袋の緒も切れそうなので舐めるのもやめてやろう。

 

 やっぱりAqoursのみんなと違って反応が段違いなのには、長年仕込み続けてきたおかげか。μ'sにやってみたい変態プレイがあったら、俺にメールを寄越せば実行してやらなくもないぞ?

 

 

「全く、教育実習で余計に変態さんになっちゃってるよ零君。あっちの生徒さんたちが変態に染まってないか心配だよ……」

「お前だって押し倒されて、少しは期待してたんだろ?」

「そ、そんなことはどうでもいいの!! 今からみんなをμ'sに誘いに行く話だったでしょ!?」

「あぁ、そういえば……」

 

 

 完全にヘソに意識も話題も持って行かれて、肝心なことがすっかりと抜け落ちてしまった。届いた封筒も床に乱雑に落ちていることから、俺が穂乃果のヘソを舐めることに対して如何に魂を掛けていたのかが分かる。ロクでもないことでも、エロのためなら普段とは比類なき努力を発揮するのが男なんだよ。ほら、パソコンでエロ動画を探す時の行動力って凄まじいだろ? それと一緒だ。

 

 それはそれとして、いつの間にか俺も同行することになっているのは意義を申し立てていいのだろうか……? こんなクソ暑い日に外に出ることすら億劫なのだが、一度決めたら意思を曲げないのが穂乃果だ。それに、俺も気になるんだ。またμ'sが舞台の上で輝きを見せてくれるのか、その未来がな。

 

 それに、今後のμ'sの動向と共に、さっきふと疑問に思ったことも解決したかった。

 

 

「ほら、そうと決まれば着替えた着替えた!」

「分かったから、勝手に脱がすな!! 暇だったらそこの書類、全部コピーしておいてくれ」

「えっ、どうして?」

「重要な書類はコピーを取って、なくした時に備えるのが普通だろ。それに証拠としても残るしな」

「証拠?」

「それ、誰が送ってきたと思う? ご丁寧にわざわざ俺の家のポストに投函するくらいだ、何かあるんじゃないかと思ってさ」

 

 

 スクフェスの話題やヘソ舐めプレイで放置されていた疑問をここで広げてみる。

 スクフェスは大規模なお祭りだから、参加要請をするスクールアイドルたちには運営が公式に通達をするはずだ。だがμ'sはもう解散しており、参加不参加で悩む以前に再びグループを結成できるかも怪しい。

 それにだ、どうして封筒が俺の家に届いた? 届けるならμ'sのリーダーを努めていた穂乃果の家に送るのが一般的のはずだ。つまり、この封筒を投函した人物は神崎家の人間がμ'sの関係者だと知っていたことになる。まあ家には楓もいるから、運営に彼女のファンがいたらもしかしてって線はあるけど……。

 

 今のところはいくら考えても分からないので、穂乃果について行く過程で軽く探っていくとしよう。『ラブライブ!』を主催する企業が開く公式のイベントだから、心配はあまりしてないけど一応ね。

 

 

「それで? 最初は誰を誘うんだ?」

「一番チョロ……いや、スクールアイドルに思い入れが強い子を!!」

「さっき、心の闇が見えたような気がしたんだけど……」

「気のせいだよ気のせい♪ 強く誘えば断れないことりちゃんや花陽ちゃんから篭絡させようなんて、これっぽっちも思ってないから♪」

「その笑顔がこえぇよ……」

 

 

 しかし、確かに強く誘えば断れなさそうな子はチラホラと頭に浮かび上がる。逆にきっぱりと断って英断してくる子には、数で対抗するしか穂乃果に勝ち目はない。だから誘いやすい子から順番にってことなのか。ことりや花陽はいいとしても、無駄に頑固な真姫や雪穂はどう思うかねぇ……。

 

 

「でももうすぐで楓が帰ってくるだろうから、ことりたちよりも先に誘えばいいんじゃないか?」

「えぇ~……」

「あからさまに嫌そうな顔してんな……」

「だって楓ちゃんのことだから、素直に頷いてくれるはずがないって分かってるもん」

「あぁ、確かに」

「味方にすれば心強いけど、敵だったら穂乃果多分勝てないから……」

 

 

 2人の仲がいいのか悪いのか。雪穂の話では、楓が高坂家に居候していた時はそれはもう賑やかだったらしい。主に2人のやり取りが原因なのだが、お互いにボケとツッコミの役割を入れ替えながらの漫才っぷりで、息もピッタリだったと聞く。そんな親密な関係だからこそ、今更真面目な話題は振りにくいってのもあるのだろう。思えば、一番ウンと頷かなさそうなのは我が妹のような気がしてきたぞ……。

 

 

「よ~しっ!!μ'sの再結成に向けて、新しい日常の始まりだぁ!!」

「タイトルコールお疲れ」

「ん? 何のこと?」

「いや、何でもない……」

 

 

 メタい発言はさて置き、まさかμ'sが再結成しそうになる流れになるとは思っていなかった。そもそもμ'sという言葉自体が俺たちの中で風化されかけていた、まさにその時の出来事だ。みんなが今でもμ'sをどう思っているのか、また一時的だけでもいいから輝きたいと思っているのか、それは分からない。だが、穂乃果はやる気に満ち溢れている。5年前と同様に穂乃果がみんなをμ'sに誘う展開となり、少々懐かしさを覚えた。

 

 

 さて、また新たな伝説が生まれるのか、楽しみになってきたぞこれは!

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 まさかプロローグから主軸となる話の展開、謎の提示、ギャグ要素、ちょっぴりエロ要素を全てブチ込むとは私も思っていませんでした……。とにかく、いつもの日常であることには変わりないかと(笑)

 そんな訳で、この話からμ's編、Aqours編に続くスクフェス編として物語を展開していきます。メインにμ'sが復帰しますが、この小説のスクフェスが全国のスクールアイドルを集結させる触れ込みなので、他のスクールアイドルたちも登場させる予定です。公式では絶対に描けないキャラ達の絡みを描けたらいいなぁと思っています!


 次回以降はしばらく零君と穂乃果の仲間集めの旅となります。12人全員が集まらなかった場合この小説が打ち切りの恐怖に陥るので、穂乃果には頑張ってもらわないといけません(笑)


 それでは、新章もよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。