もはや勧誘活動すらしなくなったのは内緒()
園田邸を後にした俺と穂乃果は、次なるターゲットに会うためにソイツとの集合場所へ向かっていた。
ことりも海未もそうだけど、休日とはいえ電話したらすぐに会ってくれるって、案外みんな暇してるのか……? 夢のために勉強やら何やら頑張っているのが嘘のようだ。まあ俺たちのためにわざわざ予定を空けてくれたと言った方が多分正しいだろう。メンバー集めと偽り、ほぼ遊んでいるだけの俺たちとは違うんだよみんな。
「それで? 次は誰のとこへ行くんだ?」
「もうすぐ着くよ!」
「もうすぐって、ここ商店街だぞ? 誰かこの近くに住んでたっけ?」
「待ち合わせしてるんだよ。ほら、あそこ!」
穂乃果の指の先を追ってみると、その軌道上に一軒の古風なラーメン屋があった。外でも食べることができるらしく、店の周りにはいくつかテーブルと椅子が配置されている。
なるほど、もうこの時点で穂乃果が次に会おうとしている子が誰なのか分かった気がする。そういやそろそろお昼時だし、ことりと海未の勧誘で無駄に体力を浪費したので都合良く腹も減ってきた。ここ数日は夏の暑さにビビってずっと家にいたせいか腹が減った記憶すらないので、ここまで食欲が沸くのは久しぶりだ。それに俺の予想が正しければ、これから穂乃果が会おうとする相手はことりや海未のように手が掛からなさそうだから、飯を食いながらゆっくりと落ち着けそうだな。
目的地であるラーメン屋に辿り着いた俺たちは、外から店内を覗き込んで待ち合わせの相手を探してみる。しかし、店内には客がおらず閑散としていた。穂乃果によれば待ち合わせの相手から既に待ち合わせ場所に到着したと連絡が入っているらしいので、誰もいないというのは些か気になるところではあるが……。
とりあえず店員から、誰か来なかったか目撃情報を聞き出すために店へ入ろう。
そう思ったその時だった。外に配置されているテーブルの方を見つめている穂乃果が、口をあんぐりと開けたまま立ち止まっていることに気が付く。ただのラーメン屋に一体があったって言うんだ……。
「うっぷ……うぅ……」
「…………」
「…………」
確かに、これは口を開けて様子を見守ることしかできねぇわ……。
何が起こっているのかと言うと、凛が顔を青ざめたまま仰向けで転がっている。しかもお腹を山のように膨らませ、近くのテーブルには大量のラーメンが投与されたデカいお椀が置いてありただならぬ存在感を放っていた。どこからどう見て食い過ぎで倒れやがったな、コイツ。
「ちょっと凛ちゃん大丈夫!? 女の子がしちゃいけないお腹になってるよ!?」
「うっ、ぐっ……」
「苦しくてもここで絶対に吐いちゃダメだからね!! 綺麗な滝の映像とか、天の川の映像とか全く準備してないから!! カモフラージュできないから!!」
「そもそもこの世界は文字だけ……いや何でもない」
この事実を明かすことは世界の理に反するので、触れてはいけない真実だろう。
そんなことよりも今は凛だ。穂乃果が待ち合わせをしていたのはやはり凛だったので俺の予想は当たっていたのだが、まさか食い過ぎでブッ倒れているとは……。しかも巨大お椀を覗き込んでみると、あまりにも麺と具の量が多すぎて一切手を付けていないように見える。あのラーメン好きの凛がここまで撃沈されるなんて、最初はどれだけの量が入っていたのだろうか?
「うぐ……ほ、穂乃果ちゃん……?」
「あっ、凛ちゃん!? 気が付いた?」
「ラーメンには……勝てなかったよ……」
「セリフがエロ同人みたいになってるよ!? このままだと触手のようにうねうねと卑しく動くラーメンの麺に犯されて、気絶しちゃったって思われちゃうよ!?」
「ラーメンのエロ同人とか想像したくねぇから言葉に出すのはやめろ!!」
この世には偏屈思考を持った人間なんてごまんと存在する。だから調べてみればその手の同人も存在する……かもしれない。増してネットが発達してエロ界隈も同時に発達してきたこのご時世、陵辱や催眠などの特殊プレイすらも世間一般に浸透してきている。一昔前はそれらも特殊性癖の1つだったはずなのに、今では通常プレイとなんら変わらぬカテゴリに分類されることも多い。つまり、一般化されているということはそれだけ同人の作品数も多く、それらのカテゴリで薄い本を売り出しても多量の同人作品に埋もれやすい訳だ。そう考えれば、ラーメン同人のような新たな特殊性癖を売りにしていくのも悪くはないかもしれない。
――――と、現在の同人事情についてはさて置き、特大サイズを頼んで食い切れずノックアウトしたこのおバカさんをどう処理しようか? 給食をお代わりしたのに残すのと同じ罪だぞこれは……。
「あぁ……零くんもいたんだ……」
「いたよ。てかお前、今にも死にそうだな」
「ラーメンをお腹いっぱい食べて死ねるなんて、凛としては本望だよ……ガクッ」
「凛ちゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああん!!」
いつまでこのコントを続ける気なんだ穂乃果の奴……。そもそもことりや海未を勧誘する時だって、本題に入るまでがやたらめったら長かった気がする。分かった、だから俺も途中からメンバー集めに来ていることを忘れてしまうんだ。
「で? どうしてブッ倒れてんだ?」
「想像していた量よりも100倍は多くて……」
「そもそも、どうしてこの店は誰も食い切れないようなラーメンをメニューに出してんだ?」
「あれだよあれ……」
「ん?」
凛は穂乃果に介抱されながら、虚ろな目でラーメン屋の壁に掲示してあるポスターに俺たちの目を誘導する。
そのポスターにはでかでかとこってり豚骨ラーメンの画像が描かれており、その下の文章にはこう記載されていた。
『この巨大ラーメンに挑戦する戦士(単騎のみ)求む!! 達成者には飯代チャラ&1年間この店のラーメン半額券プレゼント!! ただし、失敗した愚か者からは10万円頂きます』
「じゅ、10万!?」
ポスターを見れば分かることなのだが、あまりの衝撃で口にも出してしまった。確かに成功した時にメリットは非常に大きく、1年間の3食はこのラーメン屋で飯を食ってもいいくらいだ。でもそれだけ大きな見返りがあるとなると、デメリットも相当大きいのが世の常。例えどれだけ巨大であっても、たかがラーメンごときに10万も払わせるとは店も相当な覚悟を持っているようだ。こんな巨額な金を請求して法に触れないのかと真面目なツッコミを入れつつも、無謀にもこんな企画に挑戦した凛に呆れるしかない。
凛はラーメン好きとしてメンバー間でもファンの中でも有名だが、彼女は紛うことなき女性なのだ。しかも身体は華奢であり、元々そこまで食いしん坊ではない。そんな彼女が1人で巨大ラーメンに挑もうなんて、これを無謀と言わずに何という。ただラーメンが好きなだけでこの強敵に挑もうなんて、覚悟が足りなさすぎるにも程があるだろ……。むしろこの敗北を通じて、ラーメンが嫌いになるとかありそう。
だが、もう挑んでしまったものはどれだけ騒いでも仕方ない。あとはブッ倒れた凛をどうするかだが、それ以前に根本的な問題を思い出してしまった。この企画に失敗したらどうなるのか、敗北した戦士の末路を……。
「おい凛、とりあえず10万払っとけ。でなきゃ無銭飲食になって、ここから立ち去ることもできねぇぞ」
「……ない」
「あまり聞きたくない語尾が聞こえたような気がするんだが、今なんて言った……?」
「お金、持ってない……」
「ええっ!? 凛ちゃん、失敗したらお金払えないのにこのラーメンに挑戦しちゃったの!?」
「うっ、ぐっ……吐きそう……」
「ちょっ、ちょっと真面目に答えてよ!?」
「そんなことだろうと思ったよ……」
最初転がっている凛を見た時はただの食い過ぎで倒れたのかと思っていたが、さっきのポスターの内容を見てコイツが何故ここまで青ざめているのか、その真の理由がはっきりと分かった。凛の財布が軽すぎたんだ、以上。吐きそうになると言って誤魔化している時点で大体理由はお察しだろう。まあ本当に吐き出しそうだから強く文句を言えないのは確かだけど。
「ちなみに聞くけど、お前いくら持ってんだ?」
「せ、1000円……」
「小学生の小遣いかよ……」
「穂乃果よりも500円多い!? ま、負けた……!?」
「お前ら本当に大学生!?」
凛はアルバイトをしていないので散財するのは仕方のないことだが、穂乃果は実家が和菓子屋であり、しかも本人がレジ番をしているので貰ってる小遣いはそこそこのはずである。なのにバイトをしていない凛より散財してるって、一体何に浪費してんだよ……。
穂乃果の貧乏生活は他所でやってもらうとして、今をもって現状の全てが把握できた。
巨大ラーメン企画に挑戦した凛だが、触手のような麺に犯され……ではなく、普通に食い切れずノックアウト。しかも財布の中にはたった1000円しかなく、腹がいっぱいなのも相まって精神的にも身体的にも死にかけになってしまったと。相変わらず高校時代と同じで、頭のネジが数本外れているのは今でも変わってないみたいだ。挑戦するのは勝手だけど、もう20歳で大人なんだから失敗した時のリスクくらい考えてくれ……。
「言っておくけど、俺もそんな大金は持ち合わせてないからな。だから代わりに払ってやることはできねぇよ」
「えぇっ!? それじゃあ凛ちゃんは無銭飲食で逮捕されちゃうの!? μ'sの再結成の夢はどうなるの!?」
「それは店主に相談して、何とかラーメン代をチャラにしてもらうしかないだろうな」
「分かった! 凛ちゃんのためにも、そしてμ'sの未来のためにも、穂乃果が話を付けてくる!!」
「お、おい穂乃果!!」
「しばらく凛ちゃんの介抱お願いね!!」
穂乃果は俺に有無を言わさず店内に入って行った。相変わらず一度決めたことはとことん真っ直ぐ突き進む性格なのだが、お腹が膨らんでいる女の子を男が介抱する図になってしまうのは少々気が引けるというか、周りの目が痛い。生憎外にいるものだから、傍から見たら孕んでいる女の子と俺が一緒にいるみたいで……。
とにかく、早く戻って来い!!
~※~
「わぁ~チャイナ服なんて久しぶりに来たかも!」
「さっすがことりちゃん! どんな衣装を着ても可愛いね♪」
「ありがとぉ~♪ でも穂乃果ちゃんの方が可愛いよ! 海未ちゃんも!」
「うぅ、どうして私がこんなことを……」
本当にどうしてこんな展開になったのか、俺も未だに情報の整理ができていない。とりあえず分かっているのは、俺の目の前にチャイナ服を着た穂乃果、ことり、海未の3人がいることだけだ。俺が凛の様子を見ている間に、一体何があったんだ……?
「穂乃果!? どうして私がこんな格好をしなければならないのですか!?」
「お店の人に聞いたらね、凛ちゃんが払えなかったお金を工面したかったらお客さんの呼び込みしてくれって頼まれちゃって。でも穂乃果1人だけだと寂しいから、さっきまで家で暇をしていた2人を呼んだんだよ」
「ことりはどうなのか知りませんが、少なくとも私はやることが……」
「海未ちゃん、それは仲間のピンチよりも大切なことなの?」
「あぁもういいです。抵抗する方が疲れます……」
そうだな、穂乃果と会話しているよりも接客をしている方が精神的に楽な場合もある。特に今日の穂乃果は強引さが際立っており、下手に抵抗したらしただけこちらが無駄に疲弊するだけだ。
ちなみに各々が着ているチャイナ服はそれぞれのイメージカラーとなっていて、穂乃果がオレンジ、ことりが白、海未が青だ。そこそこ大きな切れ目が入ったスリットから、3人の大人になった色気満載の生脚を拝めるのが何とも欲を唆られる。隣で青ざめながら満腹に苦しんでいる凛の存在を忘れてしまいそうなくらいだ。
「凛ちゃん妊婦さんみたいだね♪ あの小柄で無邪気な凛ちゃんのお腹がぷっくりと……ゴクリ」
「ことりちゃん……目が怖いよ……」
「そんなことないよ! ことりはただ零君が凛ちゃんを襲って孕ませる展開を妄想してるだけだから!!」
「口に出して言うんじゃねぇ!! 俺だって想像してたけど黙ってたのに……」
「零くんのえっち……」
「俺だけかよ!?」
ここで俺だけが責められるあたり、ことりの淫乱度が極限突破していることはμ's内でも周知の事実なのだろう。認められていると言うより、もう諦められていると言った方が正しいのかもしれないが。
まあ今はとにかく、凛の尻拭いをすることが先決だ。
「メイド喫茶でのバイト経験があることりはいいとしても、穂乃果と海未は接客できるのか?」
「零君、1つ忘れてない? 穂乃果は和菓子屋の娘で、バイトを辞めちゃったことりちゃんとは違って今でもレジ番を任されてるんだよ?」
「でもお前ん家に居候していた楓の話では、自分の方が働いてる時間が圧倒的に多いって聞いたけど……?」
「まあそういう次元の話もあるよね」
「この世界のことだよ……」
そうツッコミを入れるものの、子供の頃から遊びとはいえ店の客引きをしてきた穂乃果がいるんだ、ぽっと出の客引きバイトなんかよりもよっぽど戦力になるだろう。ことりの実力はもちろん言わずもがななので、残るはこういうことが苦手そうな海未だけだ。もう既に顔が怖ばってガチガチになっており、緊張の色を隠せていない。
「おい海未、客引きする側がそんなに引きつってたら誰も寄って来ねぇだろ……」
「そう言われましても、こんな格好でビラ配りだなんて恥ずかしすぎますよ!!」
「大丈夫だよ海未ちゃん……。可愛くアピールすればお客さんなんて全員イチコロだって、この凛が保証するから……」
「食べ過ぎでお腹を山のようにして転がっている人に保証されも、全然自信にならないのですが……」
さっきからちょくちょく会話に混じってくる凛だけど、コイツ寝てなくて大丈夫なのか……? ラーメンの代金を肩代わりしようとしている俺たちに恩義を感じているのか、それともただ単に会話に参加したいだけなのか。どちらにせよ、さっきから食べ過ぎで嘔吐くこともあるからあまり喋らないで欲しい。下手に喋って興奮して吐かれでもしたら、こちとら隠すものなんて何もねぇから。例え女の子の体液であろうとも、嘔吐物だけは勘弁な。
「それじゃあ一旦客引きする前に練習しておくか。まずは穂乃果から、俺を客に見立てて客引きしてみろ」
「穂乃果から? ちゃんとできるかなぁ……?」
「レジ番してる時の感覚でいいからさ」
「わかった! それじゃあ―――――
いらっしゃいいらっしゃい! 美味しいラーメンがいかがですか? お昼時にピッタリのラーメン&餃子セットがお勧めです! 更に、ちょっと欲張りさんには半チャーハン付きもご提供! どれもランチだけの特別価格となっていますので、どうかお立ち寄りください!!
こんな感じ?」
「おぉ、やるじゃん」
さっきは穂乃果に客引きができるのか軽く疑っていたけど、やはり子供の頃からのレジ番経験は伊達じゃないようだ。特に捻ったところもない正統派の売り文句で客を引き、持ち前の明るさと笑顔で惹きつける。自分の武器を駆使して通りすがりの人の昼食を促す、彼女らしい客引きの仕方だ。
「次はことりな。まあお前は練習しなくてもいいと思うけど」
「海未ちゃんにも参考にして欲しいし、せっかくだからやるよ!」
「そうか、真似する人のハードルが高くならないようにな」
「うんっ! もしことりが客引きをするなら――――
お兄さん♪ お腹、空いてませんか? もしそこのお店でラーメンを食べてくれたら、お腹をいっぱいにしたついでに、あなたの枯れ果てた性欲もことりが満たしちゃいますよ♪
よし、完璧!」
「完璧じゃねぇよ!! それは怪しい店への客引きだろ!?」
しかし相手がことりだったら、並大抵の男はホイホイ釣られてしまうに違いない。ただでさえバイト先のメイド喫茶を1人で繁盛させてたんだ、その道の怪しい店への勧誘ならそれ以上の人数は余裕で連れ込めると思う。ラーメン屋に来る人は男性が多いはずなので効果的な勧誘じゃないと言えば嘘になるが、そもそもラーメン屋への風評被害が半端ではないので全く参考にならない。ていうかしちゃダメだ。
「次は海未の番だぞ。2人の客引きを参考にしてもいいから、練習がてらやってみろ」
「ことりのは参考になるか分かりませんが……仕方ありません」
「μ'sとしてステージに上がるのは平気なのに、どうして客引きごときでそんなに緊張してんだよ……」
「こんな格好で見知らぬ人と面と向かうのは緊張しますから! と、とりあえずやってみます――――
あ、あの、その……美味しい出汁を用意しているので、是非ご来店ください。店主である女将さん自慢の甘味が聞いた出汁は、一風変わった味らしいです……よ?
こんな感じでいいのでしょうか……?」
「いや、お前は意識してないだろうけど……なんかエロい」
「はぁ!?」
本人は至って真面目で、羞恥心に何とか耐えながら頑張っていたのは俺にも伝わってきたよ? でもな、エロく聞こえてしまうものはエロく聞こえちゃうんだ。確かにこの店の店主は女性で、どうやらラーメンの出汁に僅かな甘味を付けているのがウリらしい。だけど海未の勧誘の仕方だと、どうもラーメンのことではなくて女将さんの出汁という一種の淫語に聞こえなくもない。むしろことりの勧誘よりもエロく聞こえるのは気のせいだろうか……?
「3分の2が怪しい店の勧誘をしてるけど、このままだと勘違いした人ばかりが集まりそうだな……。このラーメン屋の将来が心配になってきた」
「全く、ことりちゃんも海未ちゃんも相変わらずだね」
「えへへ、それほどでもあるよ♪」
「どうして私がことりと同列なんですか!? 誠に遺憾です!!」
その後はなんやかんや言いながらも、穂乃果たちは無事に客引きバイトを終えた。やはり元μ'sのメンバーが客引きをしている効果は大きく、女将さんの話によれば普段の数十倍は客がやって来たとか。その頑張りに免じてくれたのか、1時間程度で穂乃果たちをバイトから開放してくれた。まあ本当に10万円分働こうと思ったら、1日中どころか月単位でバイトしなければならないので本当に助かったよ。
~※~
「最初は10万円分働くってなって必死だったけど、やってみると案外楽しかったね!」
「ことりは久々にチャイナ服を着られただけでも満足かなぁ~♪」
「ラーメンは美味しかったのですが、しばらく客引きのバイトは遠慮しようと思いました……」
各々バイトの感想を語り、美味しいラーメンもご馳走になって意気揚々としていた。海未だけは自分の勧誘の仕方が怪しい店の勧誘にしか聞こえない事態に陥っていたので少々落ち込み気味だが、やはり見た目が可愛くて綺麗だから、自身のスペックで客も引き寄せられたのでマイナス点も相殺されていたと思う。結果的には穂乃果たち3人のおかげで店も繁盛したみたいだし、良かったんじゃないか?
「ラーメンも餃子もたらふく食べたし、午後からもメンバー集め頑張ろう!」
「穂乃果ちゃん、やる気満々だね!」
「それだけμ'sに賭ける思いが強いのでしょう。私たちが出る幕すらもないみたいですね」
メンバー勧誘やバイトで動き回って空腹になっていたのか、穂乃果は昼食(タダ)に出されたラーメンと餃子をペロリと平らげていた。また海未に太るの何だのお叱りを受けそうになっていたのだが、メンバーの勧誘やバイトを頑張っている功績でお決まりのその流れはチャラとなった。店側としては代金の立て替えのために穂乃果たちを一時雇ったのに、あそこまで昼食を貪られると余計に出費になるのでは……と思ったが、せっかく10万円を帳消しにしてもらったんだから余計なことは言わないでおこう。
それにしても、何かを忘れているような……? 美味いラーメンで満腹になったのはいいけど――――
あっ、満腹で思い出した! 俺たちアイツのこと忘れてないか……?
「なぁ、凛はどこへ行ったんだ?」
「「「あっ……」」」
「みんな忘れてたのかよ……」
「アハハ、バイトをしたりラーメンを食べてたらすっかり忘れちゃってた」
「元々凛ちゃんのためにアルバイトをしてたのにね……」
「私も客引きに必死で忘れていました……。まだラーメン屋にいると思うので、連れ戻しに行きましょう」
俺も途中まで凛の介抱をしていたのだが、穂乃果たちのチャイナ服姿に見蕩れていたり、客引きの指導をしている間にいつの間にか彼女の存在を忘れてしまっていた。妊婦のようなお腹になった凛だが、介抱してくれる俺たちがいなくなって平静でいられるのだろうか? もしどこかで吐いていたりでもしたら全力で他人のフリをするしかない。
だが、そんな俺の予想は大きく外れることになる。いや、凛の取っていた行動が斜め上どころかベクトルが違いすぎて、連れ戻しに来た俺たちがまたしてもあんぐりと口を開けるはめとなった。
俺たちがラーメン屋に引き返すと、凛はケロッとした顔でテーブルに着いていた。誰がどう見ても孕んでいるだろと思われた腹は完全に引っ込み、いつもの小柄な凛の身体に戻っている。一番疑問なのは本人が何故かやる気に満ち溢れた表情をしているのだが、腹痛が治ったことがそんなに嬉しかったのだろうか……?
そう思った矢先、俺と穂乃果たちは凛の目の前のテーブルに置かれてるデカいお椀を見て、身も凍るような戦慄が走った。
ま、まさかコイツ、無謀にもまたあの企画に挑戦する気か……!?!?
「あっ、零くんたちだ!」
「お、お前、その馬鹿デカいラーメンは……!?」
「あぁこれ? いやぁ、あの時は凛も自分の好きなラーメンが相手だから油断してたんだよね。だけど、戦いというものは敗北から学ぶものなんだよ! なんかさっきまで寝てたみたいだからちょうどよくお腹も空いてきたし、女将さんに聞いたら何故か企画の代金はチャラになったみたいだし、これは流れが凛に向いているってことだよね!」
「り、凛ちゃん! それはね、穂乃果たちが――――」
「コイツ、気絶してたから記憶が飛んでやがるのか……」
「分かってるよ穂乃果ちゃん、零くん。何事も当たって砕けろで諦めるなってことだよね? 心配しなくても大丈夫! そこで凛がこの巨大ラーメンを駆逐する勇姿を、しかと目に焼き付けといて! それじゃあ、いただきまーーすっ!!」
「凛ちゃんダメェエエええええええええええええええええええええええええええええ!!」
悲劇は繰り返される。救いのないおバカさんというのはその名の通り、どれだけ手を差し伸べてやってもおバカさんだから救いようがないのだ。あぁ無慈悲、あぁ無情……。
ちなみにメンバー勧誘の件だが、穂乃果が頼んだら凛はあっさりとμ'sに入ってくれた。
ことりを勧誘してる時から既に怪しいけど、もうこれ勧誘活動をする意味ないよな? ていうか、話の内容が勧誘全く関係なくなってるし!!
To Be Continued……
メンバー集め回なのに、勧誘要素が最後の数行しかないのは仕様です()
書きたいネタは多いものの、勧誘活動を主軸に話を進めると使えるネタが絞られてくるのが困りものです。なのでμ'sのみんなにはちゃっちゃっと再加入してもらわなければ!
あと、凛の出番が少なかったのでまた花陽回あたりで出番が……あったらいいなぁ(笑)
次回は楓ちゃんの勧誘回です!