ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 梨子&楓回の後編なのですが、どちらかと言えば詩織さんの回と言った方がいいかもしれません(笑)

 前回の雰囲気とは打って変わって、今回はちょっぴりシリアス風味です。


ハーレム王の侍女たち

 神崎先生のことが好き。先生としてではなく、1人の男性として。

 自分自身その気持ちに気付いていない訳ではなく、むしろ気付いているからこそ先生の家に行くだけでも緊張した。先生が浦の星にいた一か月前はこの気持ちも不確かなモノだったけど、今では自信を持って言える。先生のことが好きなんだと。

 

 でもやっぱり、こうして誰かに自分の心を見透かされるのは恥ずかしい。先生のことが好きなのはそうなんだけど、それを的確に指摘されるとさっきの自信も大きく揺らいでしまう。特に先生の家族である詩織さんや楓さんに本心を知られるのは最高潮に戸惑っちゃう。自分でも顔が熱くなっているのが分かり、スカートを握る手に汗が滲む。そうやって焦っている間にも詩織さんは私の回答を嬉しそうに待ってるし、一体どうしたらいいんだろう……。私の心を見透かしているのなら、私の本心にも気付いてるよね絶対。気付いているのにも関わらず私から喋らせようだなんて、相変わらず神崎家の人たちは意地悪だよ……。

 

 いくら粘ろうが詩織さんが引く気配も楓さんが助け舟を出す気配もないので、ここは心を強く持って答えるしかないのか。

 

 

 ……………………よしっ!

 

 

「はい。好きです……」

 

 

 い、言っちゃったぁああああああああああああああああああああああああ!!

 どれだけ自信を持ったとしても、いくら心を強く持ったとしても、自分の口から他人に告白を語るのって恥ずかしすぎる!! 自分の気持ちに正直になったから大丈夫だと思ってたけど、もう全身が焼けるように熱くて焼死しちゃいそう。こんなことになるなら適当にはぐらかしておけば良かったよ……。あっ、でも詩織さんに対して嘘は通用しないか。背水の陣ってまさにこういうことを言うのね……。

 

 

「そっかそっか! あなたも零くんの手籠めにされたのかぁ~」

「て、手籠めって、そんな乱暴にはされていません!! 先生はもっと優しくて……あっ」

「そっかそっかぁ~零くんは優しかったのかぁ~♪」

「ち、違います!! さっきのは言葉の綾で……楓さん! 何とかしてください!!」

「全くお兄ちゃんってば、すーぐ女の子に手を出して身も心も支配しちゃうんだから……フフッ、本当に困った人……♪」

「く、黒い……」

 

 

 片や巧みな言葉攻めで私の羞恥心を煽ってくるわ、片やブラコンとヤンデレを発動させて黒くなってるわで収集が付かないんだけど!? というか私って今日作曲をしにこの家に来たんだよね……? どうしてお母様と妹さんにここまで振り回されなきゃいけないの!?

 

 

「それで? 梨子ちゃん以外の子たちは零くんのことをどう思ってるのかな?」

「千歌ちゃんたちですか……? その……す、好き……だと思います。みんな1人の男性として先生のことが……」

「なるほどなるほど。これまた大変なモノを残していきましたなぁ零くんも」

「ま、それがお兄ちゃんだから仕方ないよね。逐一出会った女の子を惚れさせないと生きていけないもん」

「先生ってそんなに女性と遊んでいると言いますか、女癖が悪いんですか……?」

「女癖が悪いからあなたたち全員が惚れちゃってるんでしょ?」

「仰る通りで……」

 

 

 でもよく考えてみるとAqoursのみんなが先生に惚れちゃったのって、別に先生の女癖が悪いからとは一概に言えない気がする。多分先に先生に好意を寄せていたのは私たちの方だし、何人もの女の子を相手にしている以外は優しくて頼りがいのある人だと思うんだよね。まあそのたくさんの女の子を相手にしているから女癖が悪いのかもしれないけど……。

 

 

「ねぇ梨子ちゃん」

「は、はい!」

「浦の星で零くんと別れた後、そこから進展はあった? 告白されたんでしょ?」

「ふぇっ!? ど、どうしてそれを知ってるんですか?!」

「分かるよ。零くんのことならな~んでもね♪」

 

 

 こ、怖い……。兄絡みですぐヤンデレ化する楓さんも相当だけど、やたら息子を溺愛してもはやその愛を飛び越えそうになってる詩織さんはそれ以上かも。どうしてそんなに先生に入れ込んでいるのかは分からないけど、多分聞いてはいけない話題のような気がする。この世には検索してはいけない言葉というモノもあるらしいから、詩織さんが先生に抱く愛を訊ねるのもその類に違いない。

 

 話を元に戻すけど、先生から告白されたという事実は合っているようで間違っている。先生自身もこれは告白ではなくて未来の私たちへ向けた期待だと言い張ってた。だけど、あの場にいた私たち全員が先生の言葉に胸を打たれたのはそれまた事実。みんな顔を真っ赤にして先生からの言葉に返事をしていたし、実際に先生が屋上から去った直後に私たちは自分の気持ちが抑えきれず練習もままならなかったため、その場で流れ解散になったのは記憶に新しい。つまり先生にその気はなかったとしても、私たちはその時から意識しちゃってるんだよね。

 

 

「でもどうする気? みんながみんな零くんのことを好きになったら、誰が告白して誰が結ばれるのか決めないといけないよ?」

「そ、それは……。まだみんなそこまでの段階に辿り着いていないと思います。なので誰もそんなことを考えてすらいないかと……」

「だけどいずれは立ちはだかる問題だよね? さっきも言ったけど零くんは女の子からの人気も高いし、うかうかしていると誰かに取られちゃうよ?」

「それはそうですけど……。やっぱりまだそこまで考えられないと言いますか……」

「つまり、まだあなたたちの仲はそこまで進展していないって認識でOK?」

「まあそういうことになりますね……」

「やっぱり秋葉ちゃんの言う通りだったか……」

「えっ? 今なんて?」

「うぅん! 何でもないこっちの話♪」

 

 

 この家に来てから何度も詩織さんの笑顔を見てきたけど、先程以上に作られた笑顔はなかった。今までが自然で綺麗な笑顔だったからこそ分かる歪な造形の笑顔は、見た目は優しそうだけどどこかゾクッとした悪寒を感じる。怒っている、呆れている、軽蔑している。どの感情とも取れる謎の笑顔だった。

 

 そしてそっと楓さんに目を配らせてみると、彼女も詩織さんの変化に訝しげな表情を浮かべていた。私とは比べ物にならないくらい詩織さんとの付き合い年月が膨大な分、自分のお母さんの怪しい言動には特に敏感だと思う。でも特に詩織さんに対してそのことを言及しないところを見ると、楓さんも下手に突っ込んでいい話題ではないことを察しているのだろう。

 

 

「まあそんなに気にしなさんな! 零くんならあなたたちの欲求なんて全員分叶えてくれるから!」

「全員分……ですか?」

「うんっ! だよね、楓ちゃん?」

「お兄ちゃんならやりかねないね。ていうか、Aqoursのみんなまでこっちに引きずり込もうとしてるの……?」

「それは零くん次第かなぁ~? 最も、今の零くんにそんな芸当が出来るとは到底思えないけどね」

「今のお兄ちゃんかぁ~。でもお母さんの言っていることはなんとなく分かる気がするよ」

「……??」

 

 

 詩織さんも楓さんも何の話をしているんだろう……? さっきまでは先生の株を爆上げさせるようなことばかり言ってたのに、今はまるで蔑んでいるみたい……。流石にそこまではいかないにしても、詩織さんの様子がおかしくなってからというものまだ張り詰めた空気は戻っていない。もしかしたら私に先生のことが好きかを聞いてきたのって、何か重要な意味が込められていたのかな? 最初はからかわれただけかと思ってたけど、ひょっとしたら迂闊に好きだと答えてはいけなかったのかもしれない。

 

 2人の会話から置き去りにされ疑念しか思い浮かばないが、敢えてその話題に触れる勇気は私にはない。むしろ触れたら先生の知ってはいけない秘密を知ってしまいそうで、口を挟もうとも思えなかった。でもタブーに触れたいと思うのが人間の性でもあるので、私の心には謎の知的好奇心も存在している。そ、そりゃあ好きな人のことをもっともっと知りたいのは当然だしね、うん……。

 

 

「梨子ちゃんはさ、Aqoursのメンバーが零くんに恋をしてることをどう思ってる?」

「と、特に何も……」

「そうなんだ。でも女の子9人が一斉に1人の男を好きになるのって、普通ならあり得ない話だと思わない?」

「まあ普通は……ですね。だけど先生は普通じゃないから、私たちが全員好きになっちゃったのも仕方ないかと」

「なるほど、そこまでの調教は済んでいるっと」

「ちょ、調教ってなんですか!? そんなヒドイことなんてされてませんよ!!」

「一度に9人から恋をされることに関して、何も思わない時点で桜内さんはお兄ちゃんに染められているんだよ」

 

 

 確かに言われてみればそうかも……。これって俗に言うハーレムってやつだよね? 2人に指摘されるまではそんなこと全く考えてもいなかったけど、先生が置かれている状況はまさにアニメやラノベの世界で言うハーレム主人公だ。思い出してみればμ'sの皆さんとも仲がいいし、私が把握している人数だけでも20人以上の女性と交流があることになる。何百、何千年前の時代なら普通のことだったかもしれないけど、この時代においてそこまでの女性と関係を持つって、やっぱり先生って凄い人……? それとも数多の女性を誑かす変態だって罵るべき? そもそも、詩織さんたちの話の意図が全然分からなくなってきたんだけど……。

 

 

「あのぉ……そろそろ私に本当に聞きたいことはなんなのか教えてください」

「いいけど、聞いたら零くんと今の関係に戻れなくなるかもよ?」

「え……それってどういう意味ですか……?」

「そのまんまだよ。今の時点で言えるのはこれだけ。この先を知りたいのなら決心を持つことだね」

 

 

 元の関係には戻れなくなるって、もはや言っている意味が分からなかった。現在私たちに振舞っている姿は先生の仮の姿で、本当の姿は女性を騙す悪徳教師……とか? いや先生に限ってそんなことはないはず。だってまだ高校生の子供である私たちの恋心を真摯に受け止めてくれたし、ちょっぴり変態さんなところはあるけど決して乱暴はしない。そんな優しい先生に裏の顔があるだなんて……イマイチ信用できないかも。

 

 でも、肉親であり私たちより断然先生のことを知っている詩織さんがこう言うのだから、多分そうなのだろう。

 正直怖い、先生との関係が崩れてしまうことが。怖い思いをするのであれば、何も知らずこのままの関係でいた方が私にとってもAqoursにとっても幸せなのかもしれない。いや、もう何か裏があると知ってしまったこの時点でその願望は潰えたのかも……。

 

 分からない、どうしたらいいのか。今のまま良好な関係を保ちたいという気持ちもあれば、好きな相手のことは知っておきたいという好奇心もある。でも多分そんな安直な気持ちで決めちゃいけないことだと思うんだよね。はぁ……先生と出会ってから自分も成長したと感じていたけど、こんなことでウジウジと悩むなんてまだまだ弱いなぁ私。

 

 それにそこまで重大で大切な話ならば、話してもらう相手は詩織さんじゃない。

 私が話してもらいたい相手はやっぱり――――――

 

 

「詩織さんが話そうとしてくれた内容が、どれだけ深刻なことかは分かりません。でも、大切なお話だからこそ先生の口から聞きたいんです。先生から直接話してくれるまで、私は待ちます」

「そっか……。本当に女の子を見る目があるよ、零くんは」

 

 

 さっきまでの緊張感が一変、私がこの家に来た時のような和やかな雰囲気に戻った。詩織さんはどこか納得したような笑みを浮かべている。肩に力が入っていたのか、拍子抜けと言った感じで脱力している様子だった。

 

 

「えぇっと、ゴメンなさい。せっかくいい機会を設けてもらったのに、台無しにしちゃうような真似をして……」

「桜内さんが謝る必要はないよ。勝手に暴走したのはお母さんだし」

「あはは、面目ない♪」

「絶対に最初から狙って質問してたでしょ……。でもお母さんの術中にはハマったよね」

「どういうことですか?」

「桜内さん、あなたさっき悩んでたでしょ? お兄ちゃんの話を聞くか聞かないかで」

「はい……」

「悩むってことは、それだけお兄ちゃんのことが好きだってことだよ。だってどうでもいい人の恋事情なんてそれこそどうでもいいじゃん? だから今の関係が崩れるかもと言われて悩むってことは、それだけお兄ちゃんを想ってるってことなんだよ。まあ聞くか聞くまいか悩みすぎて、そこまで考えてなかったと思うけどね。逆に言えば自然とお兄ちゃんとの関係のことだけを考えていたんだから、やっぱりそれだけお兄ちゃんが好きなんだね」

「そ、そんな好き好きって連呼しないでくださいよぉ……!!」

「それそれ。あなたすぐ顔に出るから分かりやす過ぎ♪」

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! また顔も身体も熱くなってきちゃった!! ここまで自分の本心を読み取られると、恥ずかしさを通り越して逆に清々しくなっちゃいそう……。そういや最近千歌ちゃんたちに変顔すること多いねって言われたから、そろそろポーカーフェイスの練習をしないと!!

 

 そんな羞恥心とは別に、自分自身がそこまで先生のことを想っていると気付けたのは素直に喜ぶところだった。先生に恋心を抱いているという気持ちは自覚していたけど、結局それ止まり。先生との仲を進展させようと思わず、程よい今の関係に酔い痴れていたからこそ楓さんの言葉はいい清涼剤になった。詩織さんがどうしてあんな質問攻めをしてきたのか、その意図はまだ判明していない(というか私自身が断った)けど、いずれ先生が自ら話してくれるはず。だから私はその時まで待つ。大切な話ならば、なおさら本人の心がこもってないとね。

 

 それに先生がどんな人であれ、私の答えはきっと――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 今まで忘れていたけど、ここに来た理由は作曲をするためだったんだよね。

 という訳で楓さんとの作曲を終え、私が帰宅した後の家でこんな会話があったそうな。

 

 

「お兄ちゃんと私たちμ'sの関係、話そうとしたでしょ?」

「どうかな?」

「お姉ちゃんと一緒に何をしてるんだか……。でもお兄ちゃんは想像以上だよ、お母さんたちが思っているよりも遥かにね」

「知ってる。だから梨子ちゃんみたいな素敵な女の子が側にいるんじゃない」

「お兄ちゃんは絶対にAqoursのみんなをその手で掴むよ。今はまだ立ち止まってるけど、お兄ちゃんは私たちのご主人様なんだから」

「相変わらず楓ちゃんも壊れてるねぇ~。ま、やることはやったから後はあなたたちに任せますか」

 

 

 先生と私たちの恋の波は、私たちの知らないところでうねりを上げていた。

 

 

 




 このお話を読んでいて気付いた方もいるかと思いますが、今回は今までにない要素をいくつか盛り込んでいます。

 具体的には……

 ・零君がいないところで恋愛絡みの話が進行している
 ・ハーレムが若干咎められている
 ・詩織さんの問いかけの意図が不明なまま

 私が気付いていないだけで、もっと他にもあるかもしれません。
 これまでは零君に主眼を置いた恋愛が多く、ハーレムは作ること前提で話が進んでいました。更にその話で浮き彫りとなった課題はその話内で解決することが多かったのですが、今回は梨子が零君への恋心を想い改めただけで話が終わっています。
 このような展開にしたのは恋愛話の単調化を防ぐためです。流石に300話近くになって恋愛絡みの話が毎回零君と女の子たちだけの決心で進んでいくのは皆さんも飽きると思いますし、私も飽きるので(笑) なので前回の秋葉さんや今回の詩織さんのように、不穏な外的要因も入れてみようかなぁと思った次第です。

 μ's編やAqours編に比べたらストーリー色がかなり強くなるスクフェス編ですが、いつもとは違う雰囲気を味わってもらえればと思います!


 次回は夏祭り回です!
 それと次回以降に向けて、ラブライブの公式で発表されているPDP(PERFECT Dream Project)のキャラを一通り把握しておくと……更に面白くなるかも?












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