ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 お待たせしました。今回から不定期で番外編を投稿します!
 話ごとに時系列はバラバラになる予定なので、毎話の前書きに今回のお話が本編のどの時期にあたるのかを明記するつもりです。


 そんな訳で今回はスクフェス編の最終話後のお話で、意外と要望が多かったあの子が登場!



※後書きにて第2回のアンケートを実施しているので、是非最後までご覧ください!


番外編
矢澤虎太郎の憂鬱


「あっ……」

「よぉ、久しぶりだな――――って、おい、どうして無視する!?」

「いや、ただ単にアンタに巻き込まれたくないなと思って……」

 

 

 素っ気ない態度で露骨に俺を避けようとしているのは、本屋でたまたま出会った矢澤虎太郎だ。

 虎太郎は俺の顔を見るなりあからさまに面倒臭そうな顔をし、本棚から分厚い参考書を素早く取り俺の横を素通りしようとする。だからコイツの進路を遮りながら再び声をかけたのだが、相も変わらず俺への警戒心は常にMAXだ。

 

 相も変わらずと言ったのは、今の虎太郎が如何にドライなのかを既に知っているからだ。

 出会った頃は鼻垂れ小僧だった虎太郎だが、今では立派な小学生。しかも小学生ながらに容姿が整い、もはや小学生モデルと引けを取らないくらいのイケメンだ。流石は矢澤家の姉弟ってところだが、コイツの凄さはそれだけではない。ちょっと頭の弱い姉3人とは真逆で、コイツの頭脳明晰さは本当にあの矢澤家の人間かと疑ってしまうくらいだ。小学生にも関わらず私立中学の参考書を買おうとしているあたり、コイツの頭の良さが窺える。どうやら今は中学受験のために奮闘しているらしく、もはやガキの頃とは見違えるほど逞しくなっていた。

 

 その影響もあってか、俺への態度も段々辛辣になっている。鼻垂れ小僧だった頃は俺に懐いてたのに、今ではここまで露骨に避けられるくらいだから、子供の成長って喜ばしくもあり怖くもあるよな。

 ま、コイツがそんな性格になってしまった理由の一部は俺にあるんだけどさ……。

 

 

「こうして会うのは結構久しぶりだよな、1年ぶりくらいかな? まあお互いにたまたま顔を合わせた時くらいしか話さないし、仕方ねぇか」

「別にアンタと話すことは何もない。文句ならたくさんあるけど」

「あぁ、お前がず~~~っと言い続けてるアレね……」

「そうだよ。何度でも言う――――――早く姉ちゃんたちを引き取ってくれ」

「会うたびにそれを聞いてるけど、ホント同じ家族とは思えないセリフだよな……」

「いやほとんどはアンタのせいだろ……」

 

 

 そのセリフを聞くのももはや耳に穴が空くほどだが、虎太郎の気持ちは痛感と言ってもいいほど俺の心にも響く。

 卓越した頭脳とクールさを持ち合わせる虎太郎と、天真爛漫で頭のネジが数本外れているにこ、こころ、ここあの3人とではテンションの差に違いがあり過ぎる。しかも家は未だにアパートだから、そんな姉たちと常日頃一緒にいる虎太郎の気苦労は絶えないのだ。しかもそれだけではなく、俺のせいで引き起こされた事態がコイツの気苦労に更に拍車をかけている。

 

 

「これも何度も言ってるけど姉ちゃんたち、ずっとアンタの話をしてるんだ。それが日常会話のレベルを遥かに超えてることくらい、アンタなら分かってるよな……?」

「まぁ……な。こころもここあも、家まで俺とするような会話をしてるのか。そりゃ憂鬱にもなるわ」

「他人事だと思って……。1人で勉強してる最中も、姉ちゃんたちの訳分からない猥談がBGMとして聞こえてくるんだ。もうツッコミを入れる気力すらないって」

「そりゃまぁ、災難だな……」

 

 

 虎太郎がここ数年の間で積りに積もっている悩みに、もはや同情しかできない。あの3人をあんな性格にしてしまった俺にも原因はあるのだが、だからと言って今から矯正させようと思っても無理な話だ。せめて自分だけの部屋があれば余計なBGMを聞かずに済むのだが、タコ部屋のような狭さのアパートではどうしようもない。つまり、お手上げってことだ。

 

 

「何も解決策がないみたいな顔してるな。アンタが姉ちゃんたちを貰ってくれれば全てが丸く収まるのに」

「それはアイツらに嫁げと言ってんのか……?」

「そうだよ。そうなれば夜に変な喘ぎ声を聞かなくてもいいから」

「え゛っ、それマジ? 確認するけどお前んち、部屋も狭いし数も少ないから、お互いのやってることが割と筒抜けなんだよな??」

「だから、ずっとそれで文句言ってるだろ……」

 

 

 アイツらが夜に何をしているのか。いちいち口に出さずとも容易に想像できるのは悲しいな……。

 あんな狭い部屋で、しかも隣の部屋の音がダダ洩れするような環境で自らを慰める行為に耽っているとは、相変わらず矢澤の女性陣は貞操観念が低い。でも矢澤ママはまともな人だから、あの3人がこうなってしまったのはやはり俺のせいだろう。そう考えると、虎太郎にすげぇ申し訳なくなってきたぞ……。いや前々から申し訳ないとは思っていたが、その話は初耳なのでなんか罪悪感がさ……。

 

 だからと言ってこちらの家にアイツらを呼んだところで、次に被害を受けるのは俺だってことくらい目に見えている。ただでさえ家族が周りにいるのに自分の性欲を満たそうとする奴らだ、その欲求の矛先である張本人が1つ屋根の下にいるとなれば、アイツらがどんな奇行に走るのか恐ろしくて堪らない。悪いがこっちに淫獣たちを押し付けるのはNGでお願いするよ。

 

 

「いっそのことストレートに言ってみたらどうだ? 猥談を自重しろとか、夜中に自慰するのはやめろって」

「それ、姉ちゃんたちが頷くと思うか……? それに僕に配慮する心があるなら、そもそもそんなことはしないだろ」

「にこはともかく、こころもここあも思春期の真っ只中だから仕方ねぇと言えば仕方ねぇけどな」

「だからと言って弟が隣の部屋にいるのにそんなことするか普通? それもこれもアンタが姉ちゃんたちを貰ってくれれば解決なんだけどな」

「こころとここあはまだ高校生と中学生だろ? 嫁がせるどころか同棲するのも犯罪だろ……。同い年なら最悪いいとしても、ほら、歳の差的な意味でさ」

「今更そんな背徳感を持ってたのか。Aqours……だっけ? その人たちを自分のモノにしたんだろ?」

「ぶっ!? お、お前それどこで!?」

「姉ちゃんたちの会話は全部聞こえてるって言ったろ……」

 

 

 弟に聞こえる声と音を立てて自慰するのも大概だが、気軽に俺の秘密を暴露するのもやめてもらいたい。別に隠している訳じゃないけど、複数の女の子と付き合ってるなんてわざわざ公言するほどでもないし、なるべくなら他人に知られたくないだろ? なのにアイツらは自分の家だからってペラペラと…………って、あれ? 虎太郎も知ってるってことは、矢澤ママも知ってるってことか? こりゃもう隠そうにも隠し切れないほど女の子に手を出しすぎたか……?

 

 

「ま、まぁとにかく、お前もいつか分かる時が来るって。沸き立つ性欲を満たしたくなることや、たくさんの女の子に囲まれる快感とかさ」

「アンタみたいな変態と一緒にしないでくれ。僕が望むのはただ1つ、静かな日常だけだ」

「お前も言うようになったなぁ……」

「あの姉ちゃんたちとずっと一緒にいるんだ、そりゃ謙虚に育って当たり前だろ。それに姉弟で1人でもまともな人がいないと母さんに苦労もかけるしな。まあ母さんは母さんで姉ちゃんたちの暴走を楽しんでるのが現状だけど……」

「お前らの母さんも気ままな人だもんな……。お前の気苦労にホント同情するよ」

 

 

 矢澤ママも真面目だがノリのいい人だから、にこたちの猥談で一緒に盛り上がっている姿が容易に想像できる。まあ娘たちに将来を託せる男ができたとあれば、母親としても嬉しい限りなのか。それともあの母自体が理事長並みの淫乱属性を持っているのか……。俺の母さんも含めて、知り合いのお母さん方にまともな人が全然いないのはもはや運命、いや悲運なのかもしれない。

 

 ここまで自分の姉や俺に対して苦言を漏らしている虎太郎だが、忘れがちだけどまだ小学生である。小坊にも関わらず俺と対等に会話ができ、しかも度重なる正論の砲撃でむしろ俺が圧倒されているくらいだ。もはや小学生とは思えないほど大人びているが、姉3人が()()()()()なのに対し、コイツだけどうしてまともになったのかは世界の不思議だ。しかしさっき虎太郎が言っていた通り、ウザいほど猥談や自慰を繰り返す姉たちを見ていたら、そりゃ賢者モードのまま成長してもおかしくはないだろう。

 

 でも小学生の頃から女難に遭いながら生活しているので、虎太郎が正当な恋愛ができるのかお兄さんは不安だな。もはや女性に対して嫌悪感とか持ってそうだし……。

 

 

「こころ姉ちゃんもここあ姉ちゃんもアンタにご執心だし、アンタも満更じゃないんだろ? だったら早く引き取って欲しいよ」

「満更じゃないって言われると、そりゃそうだけどさ……。可愛い女の子に好かれるのは悪くない」

「はぁ……人生ハードモードって僕みたいなことを言うんだろうな。自分の周りにまともな人がいないから、せめて自我だけは自分で保たないと」

「達観してんなぁお前。将来絶対に大物になるぞ」

「いや、僕はただ静かに毎日を過ごしたいだけだ。アンタや姉ちゃんたちみたいに波乱万丈な日常を送るのはゴメンだね」

「アイツらと同列に扱われるのは癪だけど、お前からしてみりゃ一緒か……」

 

 

 小学生となり自分のアイデンティティを確立した時には、既に周りが大惨事になっていた。自分の姉たちの思考回路が桃色で、母親もその状況を楽しんでおり、頼みの綱である俺も複数の女性と付き合っているヤリチン野郎と来たもんだ。そりゃ関わり合いたくないと思っても仕方がない。それでもどうにか折り合いを付けてあの姉たちと一緒に生活しているあたり、今の虎太郎がいかに強靭な精神を持っているのか分かるだろう。心身の成長と同時に精神も鍛えられているから、他の小学生と比べて大人びて見えるのは当たり前だ。つうか、"大人びて"じゃなくてもはや"大人"だろコイツ。少なくとも()()()()()よりかはな。

 

 

「今すぐには無理だけど、いつかは静かに暮らせる日が来るさ。悪いけど、それまで我慢してくれねぇか?」

「それは姉ちゃんたちを自分が貰う宣言をしてるって認識でOK?」

「そう捉えてもらっても構わない」

「あっそ……」

「自分のお姉ちゃんたちがみんな取られちゃうのは平気か?」

「どうして寝取られみたいなシチュエーションを想像してるんだ……。アンタと一緒にいることが、姉ちゃんたちにとって一番の幸せだろ」

「へぇ、意外とにこたちのこと心配してるんだな」

「うるさい……」

 

 

 ちょっとツンデレなところはにこに似てるかな。さっきまでは自分の姉たちのことをボロクソ言ってたけど、なんだかんだ心配をする優しさはあるらしい。確かに矢澤姉妹は脳内お花畑の連中ばかりだが、あれでも姉弟の絆は強い。特に虎太郎が幼い頃は、仕事で忙しい母の代わりに姉3人で虎太郎の面倒を見ていたくらいだ。だからこそ虎太郎も多少の恩義は感じているのだろう。アイツらに直接文句を言わないのも、それが起因しているのかもしれない。

 

 そんな健気な様子を見ていると、小学生にしては大人びてるコイツも可愛く見えてくるな。

 

 

「じゃあもう行くから。今日は買った参考書を図書館で読み耽るって予定があるし」

「なるほど、だったら俺が勉強を見てやろうか? 勉強くらいなら頼りなると思うんだけど」

「知ってる。海外の大学から推薦が来るほどの学力だってことくらい。そこだけはアンタを評価してるよ」

「だったらなおさら頼ってくれ。ほら、こころやここあがあんな感じになっちゃった負い目もあるしな……」

「それで償いになるとでも?」

「意外とがめついんだなお前……。ま、できることがあるなら何でも相談しろ」

 

 

 こんな達観した少年でも俺にとっては長年の親友みたいなものだし、虎太郎も虎太郎である程度は俺を信用してくれている……と思う。さっきも言った通り勉学の観点では評価してくれているので、俺もにこたちのように完全に捨てられた存在じゃないみたいだ。だからこそこれからもコイツのストレス発散のために、定期的に相談に乗ったり愚痴を聞いてやるとするかな。ま、コイツのストレスの原因は元を辿れば俺のせいなんだけどさ……。

 

 

「そうか、だったら物凄く相談したいこと、今すぐやって欲しいことが1つある」

「おっ、教えて欲しい教科があるのか? 算数? それとも英語?」

「姉ちゃんたちを嫁にしろ」

「それはまだ無理……」

 

 

 俺が言えた義理じゃないが、虎太郎の憂鬱はもうしばらく続きそうだ……。

 




 てな感じで、不定期にはなりますがまたちょくちょく番外編を投稿していきます。とは言っても既に4話ほど執筆に着手しているので、また近いうちに投稿されると思います。

 今回は超久々に登場した虎太郎くんメイン回でしたが、成長した彼の嘆きは皆さんの心に響いたでしょうか(笑) この小説の矢澤姉妹と1つ屋根の下で、しかもアパートの狭い1室で一緒になったらこんな性格になってしまうのは仕方ないかも……。
 まあ私は歓迎なんですけどね(笑)



 そんな訳で、番外編もよろしくお願いします!

 次回はどの話を投稿するか未定ですが、こころとここあ回、詩織さん回、ことほのうみ回、シスターズ回と、割とハード(桃色的な意味で)な回が目白押しです(笑)



新たに☆10評価をくださった

t.kuranさん、ネインさん、チアトさん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!

Q2. 姉になって欲しいキャラは?

  • 絢瀬絵里
  • 東條希
  • 矢澤にこ
  • 神崎秋葉

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